少女が勧めてくれた小洒落た洋食屋の一角、虞翻はその少女に誘われるまま向かい合うように座っている。
見た目から育ちの良さが窺えるその彼女の勧める店だけあり、かなり「お高い」店かと思いきや、店主の拘りが窺えるメニューはどれもリーズナブルな値段で、とりあえず「奢る」と言った自分の言葉を曲げずに済むことに、彼女は胸を撫で下ろしていた。

そして…注文を終えた虞翻が怪訝な面持ちで、対面に座る少女へ問い掛けた。

「…ねぇ、えっと…」
「あ、名前まだ、言ってなかったよね。
私は長文。先刻は助けてくれて、本当に助かったわ」

眼鏡の少女ははっとしたように、少しばつが悪そうに微笑み返した。
おそらくそれは、彼女の字(あざな=通称名)であるのだろう。


学園都市で名の知れた名族など、上流階級の者は公の社交場や学校でもない限り、無闇に本名を他人に明かさない傾向にある。

今では虞翻のような中流階級でも字をつける習慣が浸透しているが、むしろ長湖部内では親しい相手に対して字で呼び合う場合が多く「本名を知らなくても字なら知っている」というような関係の者も多かった。
なので最初は少し戸惑った彼女だが、ヘタに本名を話せばひと悶着起きそうな感じがしたので、彼女もそれに倣う事とした。


「私は仲翔。
見て見ぬ振りできない性格なんでね、ああいうお節介をやりたくなるときがあるんだ。
だから、気にしないでおいて」
「そう…でも、助けてもらっておいてなんだけど…あまりああやって、人の神経逆撫でするのは、あまりいい傾向じゃないと思うわ。
相手に明らかに非があるのは解るけど、あれじゃあ、どちらが喧嘩を売ってるんだかわからないもの」

長文と名乗った少女が、少し眉根を寄せて窘めるようにそう言ってくる。
どうも先程の男たちのやり取りを見る限り、どうやら相当に生真面目で芯の強そうな少女である。


他の長湖の荒くれ連中にはこんなことを言われれば、「折角助けてやったのに何ほざいてんだ!」なんて怒り出しそうな者もいるし…皮肉屋虞翻としても正直気分の良いものではないだろう。
まして虞翻に限らず、五谿や山越高校の不良生徒など、基本的に話し合いなど平和的解決が望めるような相手じゃないという考えがあり、実力行使で連中を黙らせるというのは長湖部における基本となりつつある。

とはいえ、ここは長湖部の支配領域ではない。
ならば他に解決の方法はいくらでもあっただろう。
元々聡明な虞翻がそれを悟り、その少女の言葉に「あ、しまった」と思うのにさほど時間はいらなかった。元々この近辺は公私ともに自分の「テリトリー外」であり…それ以上に何よりも、その少女からなら、そう窘められてしまってもごく自然のような気がしていたのだ。


「そうだね…ごめん」

僅かに表情を曇らせ、俯く虞翻。

「あ…私…ごめんなさい、あなたはあなたで、良かれと思ってしてくれたことなのに…。
確かに、あの人たちが素直にこっちの言い分を聞いてくれれば…うん、自業自得だと思うわ」

長文ははっとして、自分の言葉に非があったことを素直に認めてきた。

「だから…改めて。
助けてくれてありがとう、仲翔さん」

彼女は立ち上がり、虞翻の手を取ってにっこりと微笑みかけた。
不意に手を取られて呆気に取られたが…苦笑しながら、虞翻はそんなことを考えた。


(なんていうか…子布(張昭)先輩と似てるけど、ちょっと違うな。
 威彦(士燮)さんとは全然正反対…景興(王朗)に似たタイプなのかも)

しかし、今は蒼天生徒会役員の座に納まった友達の名を思い出した時、「長文」という少女の名に、虞翻は一瞬引っかかるものを感じていた。

(…ちょっと待って。
 確か、蒼天生徒会にそんな名前の子がいたような…ええと…珍しい感じの字だったしなんとなく気になってたんだけど)

「あの、仲翔さん?」

不思議そうに顔を覗き込んできた少女に、虞翻は思索を中断する。

「あ…ごめん少し考え事してて」

もう、と一息つくと、長文は自分の席に座りなおした。



夏影の狂詩曲 -Summerdays Rhapsody-
そのに「残されたものの想い」



運ばれてきたランチセットは、千円を切る値段の割に品目が多く、しかもどれも絶品の味だった。
虞翻はさしてグルメでも、健啖家というわけでもないが、十分に満足感を覚えていた。

目の前の少女も同じものを注文していたが、その所作は流石に見た目通りというか、きちんと躾けられていることを窺える丁寧なものだった。それでいて、時々料理の味や、こちらの口に合うかどうかを問いかけてきたりと、積極的に話を振ってくれる。退屈さはなく、家族以外でこうやって食事を楽しむことができている…しかも、初対面と言えるその少女相手に…ということに虞翻自身も驚き、そしてその状況を楽しんでいた。


「そういえば、先刻(さっき)はここに詳しくないって言ってたけど、仲翔さんって何処の地区に住んでるの?」
「あ…えっと」

その問いかけに、虞翻は答えにつまった。

虞翻は少し考える。
流石に「歩く人材データベース」と言われた曹操でもない限り、自分の字と出身地だけで正体がばれることはないだろうとは思ったが…もし長文が蒼天会中枢に関る人物であれば、万が一自分を知る王朗、ひいてはそこから何かの拍子で曹丕にこのことが知られると厄介事になりそうな気がしていた。

(うわぁ…どうしよう…)

能弁家で知られる割に、嘘をつくのが極めて苦手な少女である。
適当に蒼天会支配領域の地区を上げて、別れ際に「あれ?」ってなことにもなりかねない。

「ああ…ごめんね。別に困らせるつもりはなかったんだけど」

虞翻が逡巡しているのを見かねた長文が援け舟を出す。
そのばつの悪そうな微笑に、虞翻は僅かに胸が痛む。


これまでの会話から、彼女が自分の素性を詮索してどうこう、という風ではなかったことは、虞翻にも薄々感じ取れていた。
それ以上に…その数日前、自分の姿をある方法で「変身」させてまで常山神社の祭りに潜り込み、二人の後輩を結果的に騙すことになったのではないかということを、彼女は少なからず後悔していた。

結局彼女は、その良心の呵責に耐え切れなかった。
一期一会という言葉もある。この少女に対してまで、嘘や誤魔化しをしたくない。そう思った。


「私…会稽から来たんだ」
「会稽?
また随分遠いじゃない。
遊びに出るのなら、蘇州か合肥のほうが近いでしょうに」

長文はきょとんとした表情で呟く。

「…気にならないの?
私がもし、長湖部の人間だとしたら」
「そんなこと」

虞翻の言葉を遮り、長文は呆れたように言う。

「だって今は夏休みじゃない?
何処の学園施設の機能も基本的にはストップしている以上、私もあなたも何処に所属していようが、関係のないことでしょう?」

あまりにあっけらかんとそう言われて、今度は虞翻のほうが呆気にとられる番であった。


先のやりとりから、この少女は社会的なルールやマナーには厳しいというか、言ってしまえば口やかましいところはあるのではないかという印象を抱いた。
だが、虞翻はすぐにそれが誤りだと…否、短絡的な思い込みであることを悟った。

マナーやルールはきっちりと守るが、裏返せば「公私の線引きをきっちり守ることもできる」ということ。
そういう意志の強さを、長文が持っているだろうことも。


「そりゃあ、蒼天学園都市は広いからね。
市レベルの自治体行政範囲は軽くカバーしてるじゃない。
そこまで広ければ、何処かしら行った事のない場所もあるし、不慣れな場所もあるわ。
私だって、潁川周辺をあまり出たことはないし」

そして、机の上に置かれた虞翻の手を再度とる長文。

「それに、あなたが何者であろうとも…私を助けてくれた恩人であることには、変わりないでしょ?」
「…そうだね…ごめんね、変なこと言って」

屈託のないその少女の笑顔に、虞翻もつられる様に笑顔で返した。





食事を終える頃には、ふたりは随分と打ち解けていた。
会計を済ませて立ち上がろうかと、どちらともなくそう思ったとき…虞翻はふと、先程長文を助けた時のことを思い起こした。

「ところで長文、あなた何処か急ぎの用事とかあったんじゃないの?」
「急ぎ?」
「うん。
何か、あの男たちに囲まれてた時、そんな感じがしたの」
「あぁ…」

そう言うと、長文は僅かにその表情を曇らせた。

「急ぎと言うほどの理由でもなかったんだけど…………実はね、友達の墓参りなの」
「友達の?」
「ええ。
三年前…直接の原因は肺炎だったらしいけど…ALSって病気で」

長文の表情が曇る。


ALS…筋萎縮性側索硬化症。
医学部を目指す虞翻も、趣味で医学辞典を暇つぶしに読むようになり、その病気のことを知っていた。

運動神経細胞が少しずつ失われ、そのために運動障害を起こし、そのうち神経麻痺から呼吸障害を引き起こして死に至る。
治療法も原因もよく解っていない難病…そういうには生ぬるい、緩慢な死をもたらす残酷な病だ。

彼女の「友達」というからには、恐らく自分とほぼ同じくらいの年代の娘なのだろう。
本来はもっと、年齢を経てから発症する例が多いが…その歳で身罷ったというなら、その彼女は幼い頃からその恐怖と隣り合わせで生きていたことをうかがわせる。
それは、想像もつかないような悪夢の日々だっただろう。


「聞いちゃ、拙かったかな」
「ううん。
話したのは私よ、気にしないで」

軽く頭を振る長文だが、その笑顔は非常に寂しげに見えた。

「彼女が逝ったのは、十月らしいんだけどね。
その頃は流石に忙しくて行けないから…せめてお盆だけは、欠かさずに行くことにしたの」
「そう…」

それきり、会話が途切れてしまう。
虞翻も、立ち上がりかけてそのままどう答えていいのか解らず、俯いて動けなかった。
空調の音がやけにうるさく聞こえるほど、静かだった。

その状態がしばらく続いた後、沈黙を最初に破ったのは虞翻のほうだった。

「ねぇ、あなたさえよければ…私もついて行っても、いいかな?」
「え?」
「あなたがそこまして会いにいく友達に、私も会ってみたくなった…って理由じゃ、ダメかな?」

衝動的に、彼女は思ったことを行動に移していた。
なぜかは解らなかったが、そうしなければならない…そうしなければ、とても後悔するのではないかと、そう思ったのだ。
思わぬ発言だったのか、一瞬、きょとんとした表情を浮かべた長文だったが、

「そうね…たまには、ひとりよりもふたりのほうが、いいかもね。
初対面のあなたにこんなことを言うのもなんだけど…私も、なんとなく仲翔さんにも、一緒に来て欲しいなって、そんな気がしてたの。
なんでだか、よくわからないんだけどね」

穏かに笑みを返し、承諾の意を示した。





一方その頃。


「あれ?」

店の外を通り過ぎるふたりの少女の片方が、店内に見知った顔を見つけて指差した。


一方は柔らかな茶のロングヘアをポニーテールにした、白ブラウスに水色のチノパンといういでたちの少女。
背もそこそこだが、厚底サンダルのためかずっと長身に見える。

もう一方は、茶のショートカットで紅いバンダナをヘアバンド代わりにあしらい、白のタンクトップにカットジーンズとスニーカーというボーイッシュな風体の少女だ。
その正反対なルックスは、遠目から見ればまるで美男美女のカップルと見間違えそうである。


「ねぇ伯符、あの娘どっかで見た事…ない?」
「んあ?」

ポニーテールの少女が指した先を、興味なさそうに覗き込んだショートカットの少女。
その正体に気付いた瞬間、伯符と呼ばれたショートカットの少女は目を丸くした。

「あれー!?
何で仲翔がこんなトコに?」
「伯符の目がそう判断したなら間違いなさそーだな。でも…」

思わず植え込みで身を隠しながら、その様子を怪訝そうに眺める二人の少女。

「隣に居るの…誰だろ?
一匹狼のあの娘に親しい友達なんて…ましてここ、長湖部の守備範囲じゃないよね?
あたしらが引退してから以降で合肥とか落とした話聞かないし」
「居るだろ、あいつにだってそのくらい。
だったらあたし達ぁあいつのなんなんだ」
「それもそうか…でも、あんなお嬢様然としたヤツが、うちらの知己で公瑾以外に誰かいる?」

ポニーテールの少女の問いに、伯符と呼ばれた少女が首を傾げる。

「んと…子瑜(諸葛瑾)…は違うな、あの癖毛がない。
景興さんも最近は見てねぇし、第一あの人眼鏡なんてかけないからな。
他に現部員で親しそうなヤツにも当てはまんないな」
「でしょ…………気になりませんか、伯符さん?」
「大いに気になりますねぇ…子敬さん。此処はひとつ」

伯符と子敬…すなわち孫策と魯粛は悪戯小僧そのものの顔を見合わせ、頷いた。

「あとを付けるっきゃないよね〜♪」
「あんたも好きだねぇ…まぁ、暇つぶしあーんど息抜きには最適の材料だな☆」

そして店から虞翻達が出てくると、植え込みに隠れていた二人もこそこそとその後を尾行し始めた。





潁川の中心街よりさらに北西、司隷校区寄りの進路をとり、歩くこと四十分弱。
思った以上に店で話しこんでいたせいか、その場所に着く頃には時計は四時近くなっていた。


「着いたわ。
あとはこの丘を登るだけよ」

長文に案内されてたどり着いたその霊園は、潁川郊外に広がる丘陵地帯の、丁度入り口のあたりにあった。

近くには大きな池があり、照葉樹林が広がっている。
大きな商店街のある潁川にも、郊外の丘陵地まで来ると流石に静かなものである。
散策に訪れるにはよい場所に思えた。

「いい場所じゃない」
「そうね。
でも、彼女は賑やかなのが好きだったみたいだし…きっと、文句いってるかもしれないわ」

そう言って、長文は寂しそうに笑った。


来るまでの道中にも、彼女は虞翻に問われるまま、その「友達」のことを色々話してくれていた。

頭が良く、ちょっと変わり者で素行もそんなに良くはなかったが、彼女は常に友達の中心に居るような少女だった。
真面目で潔癖症なところもある自分とは、いつも喧嘩が絶えることがなかった、と。


「でもね、私はきっと、彼女のことが羨ましかったんだと思う。
世の中のしがらみなんて何処吹く風で、自分の思うように振舞うことのできる彼女が」

言葉を紡ぐその表情は、深い悲しみの色をたたえていた。

「私には、そんなこと考えもつかなかったわ。
父も母も厳しくて、何時しか両親の気を引くために、優等生を演じて…それが当然のことだと、思うようになってから」

登りきった先には、純和風の墓石が整然と並んでいる。

十五日もとうに過ぎてはいるが、それでもちらほらと、人は来ているのだろう。
墓前に埋けてある花はどれもまだ瑞々しく、恐らくはつい先刻まで来訪者があったのか、線香の煙が僅かに立ち上っているところもある。

「でも…気付くのが遅すぎた。
彼女が居なくなった時、初めて…寂しいって」

色とりどりの、それでいて派手過ぎない取り合わせの花束を、長文はその墓に備えた。

墓には、こう記されている…「郭家代々之墓」と。
そしてその横に、彫られて間もないと思われる、真新しい人物の名。


その墓標を見たとき、虞翻はすべての事情を察した。


(この名前…それに、長文…長文だって!?)

彼女の記憶の片隅にあったその名前も、既知の人物と符合する。


虞翻は、対立者としての蒼天会の人物情報くらいは把握している。

かつて曹操が率い、現在の蒼天会の大元となった「蒼天通信」の中核を担い、不運にも夭折し学園を去った稀代の名軍師がいたことを。
そして、その少女と常に反発していたことで知られた、清流会系の才媛がいたことを。


彼女ははっきりと思い出していた…その本名を。


(そうか、この娘が陳羣…現蒼天生徒会三役の陳長文だったのね…!)


実際に会うのは初めてだった。
しかし、それでもなお…虞翻には、目の前の少女と、話に伝え聞く陳羣のイメージとは、どうしても一致させることが出来なかった。





どのくらい時間が経っただろうか。
夏の長い日照時間から鑑みても、僅かに西に傾き始めていた太陽が、一日の終わりを告げようとしているかのように空を黄昏色に染める。

そして、周囲には茅蜩(ひぐらし)の鳴き声が響き始めていた。


「そういえば、さっきから私が聞いてばかりで…私のこと、よく話してなかったね」
「え?」

陳羣の振り向いた先、虞翻は何処からか摘んで来た露草を数本、手に持っていた。


「私には尊敬しているひとがいる。
そのひとには、学園の覇権を手にするために戦い、そして不運にも志半ばでリタイアしてしまったお姉さんがいてね」


傾き始めた日を背に立つ虞翻と、未だに亡き「友達」の墓前に膝を折ったまま、その姿を見上げる陳羣の脇を、温度を下げ始めた夏の風が吹き向けていく。


「そのひとは、お姉さんの志を受け継いで、多種多様な勢力が散在して混沌の状態にあった湖南の学区を瞬く間に平定した…生まれついての覇王ともいっていいひとだった。
私はある棟の補佐役に過ぎなかったけど…そのひとは私を大役に抜擢して、大仕事を任せてくれたんだ」


虞翻の目には、まるで目の前の風景ではなく、彼女の思い出の日々を眺めているように陳羣には思えた。
その過ぎ去った日を想い、いとおしむ様な、寂しそうな瞳だった。


「私はそのひとのために、労苦を厭わなかった。
このひとの描く未来のために、総てを捧げていいと思った」


瞳を閉じた虞翻の脇を、再び風が通り過ぎてゆく。


「でも、彼女もまた…志半ばで、覇道の夢を断たれた」


再び開いたその瞳は、深い悲しみの色を帯びていた。
陳羣もまた、その姿に思い至ることがあるのか…複雑な表情のまま、独白を続ける少女の姿を見つめ続けている。


「後で知ったことだけど…彼女が大望を成し遂げられず、途中で絶対に頓挫するって言ったヤツがいるって聞いたわ。
私、今でも思うんだ。
もしそいつがそんなことを言わなければ…きっと、今も私は彼女と共に夢を追いかけ続けていれたんじゃないか、って」


茜の空が作り出した濃い陰が、その表情を隠しているかのようだった。


「そんなこと、根拠のない逆恨みだって解ってた。
ヒトの運命なんて最初から決まっていて、それがどんな理不尽な結果をもたらそうとも、覆すことも抗うこともできないってことも。
でも、それでも私はずっと…!」

しかし、その姿は…陳羣にはまるで泣いているように思えた。


「郭嘉という名の少女を…恨まずにはいれなかったの…!!」


そのひと言に、そして虞翻の哀しみと怒りが混ざり合った表情に、陳羣は返す言葉を失った。
ひぐらしの鳴き声が、耳が痛むほどの音であたりに木霊した。