揚州校区、建業棟。
「長湖部」改め「長湖湖畔校区連合生徒会」の本拠地として知られるこの棟の大会議室では、普段よりも多くの少女たちが集っていた。
言わずもがなその顔ぶれは、「長湖生徒会」の運営に関わる大物ばかりであるが…その中には、前身たる「長湖部」創成期にも活躍していた現三年生の姿はない。

それもそのはず、この年はそれらの「功臣」の面々が卒業を間際に控えていたからに他ならない。
そういうわけで…そんな彼女たちの卒業式を来月に控えた二月一日、「今年の卒業式後に何かイベントを」という卒業生のリクエストに応えて、そのイベントについての会議を行っていたわけだ。


「去年はまあ、皆の衆知っての通りいろいろごたごたしててそれどころじゃなかったからねえ。
義公(韓当)さんなんて、伯言(陸遜)のヤロウがいい餞をくれたからいい、とは言ってくれたけど、そういうわけにはいかねえじゃん?
つーわけで、今年はどんと派手に行きませんか? 可能なら去年のOBも招待して一緒に楽しんでいただくという意味でも」

口火を切ったのは、壇上に立つ小柄で黒髪の少女…朱然。

現長湖生徒会内においても「動く度に成果を上げる」と称された実働部隊の重鎮であり、また平時の運営スタッフとして欠かせぬ存在である。
そして、こういう会議において音頭を取るのは大抵彼女のアタリ役であり、当人も積極的に買って出る。

「派手に…って具体的には?」

議事録を取っていた陸遜が、その深緑の髪を傾げて不思議そうな面持ちで問い返す。

先だって名前の上がっていた彼女、その実働部隊の最高責任者であり、本来ならこんな大会議の席といえど書記を務めているような立場ではない。
しかしながらこちらもこちらで好きでやっているのもあるが、基本的に長湖生徒会、ひいてはその前身たる長湖部の運営スタッフというのは基本的に一癖も二癖もあるようなクセモノ揃い。仕事は出来る…どころではないほどのハイスペックを備えながら、その能力の高さが災いしてるのかこうした細かい仕事こそ適当に済ませてしまう。
陸遜のような生真面目を絵に描いたような人間というものが希少なのだ。

それはさておき、一瞬考えるような仕草を取る朱然は。

「そうだなぁ…例えば、今年の新年会みたいに全員で」
「却下」

こくり。
陸遜の一言と、何か言いたげな金髪紫眼の少女の隣にいた黒髪の少女が頷いたのがほぼ同時。
朱然は不満そうに眉を顰めて問い返す。

「なんでよぅ」
「あなたねぇ…自分があの時何をやってたか、自分の胸に聞いてみなさいよ!
…そこまで踏まえて強行するのは勝手だけど、今度部屋の鍵なくしても私の部屋からなんて入れてやらないからね?」
「う…」

わずかに怒気を含む陸遜の返答に絶句したのは朱然だけではない。
見れば座にいる半分がばつの悪そうに眼をそらし、残りの半分が何事かを思い出して顔面蒼白になり、可哀想なくらいカタカタと震えている者すらいる。



遡ること十日前の事。
学園には「旭日祭」という由来不明の行事…一説には学園の創設記念日とか、最初に学園を制した覇者が生まれた日を祝ったものだとか言われる…があり、この日に合わせて学園都市全体が戦闘行為等を禁止し、中等部生(一部初等部生)へのオープンキャンパス的なイベントも学園都市の各所で行われる。
でもって長湖生徒会の面々はというと、この日の「長湖生徒会一日体験入会」イベントも盛況のうちに終えることができ、その夜にはイベント成功を祝して主将クラス以上の幹部会全員参加で酒盛りが行われたのだ。

そう「酒盛り」である。
高校生の彼女らが行うには余裕で未成年禁酒法に引っかかるこの無法のサバト、本来なら許される行為ではない。
普段なら陸遜や、黒髪の少女…長湖生徒会副会長の顧雍その他の上級幹部が、確実に却下する案件が何故行われてしまったのか…それを語るには、昨年同時期に起こった出来事と、本年度の冬季に起こった事件が密接にかかわっていた。
すなわち、帰宅部連合との全面戦争「夷陵回廊戦」と、遼東キャンプの公孫淵との間に起きた様々ないざこざだ。

言うまでもなく去年はこんなイベントどころではなく、そして公孫淵の三枚舌外交に、現会長にして生徒会創設者である孫権のフラストレーションは、最早いつ閾値を超えて噴火してもおかしくない状況であった。
そしてそれは、今年卒業を控えていた引退組のアウトロー共…例えばその孫権の姉孫策だの、元副部長の魯粛だの、他にも甘寧だのといったレディース上がりの連中だの…これらも「然るべき息抜き(イベント)」がないことに苛立っていた。

故に黙認してしまったのだ…奴らが、アルコール類を大量に持ち込むことを。

結果、会場となった建業棟周辺の惨状は筆舌に尽くしがたく、挙句に狂気の中心にいたはずの孫権すらもが多大なトラウマを植え付けられて終わった。
そもそも孫権というこの少女、幼少期に何らかの形でアルコールを摂取したことで早くから大トラの酒乱としての性質を有していた。何しろ甘酒程度のアルコールですら暴走することでも有名なのだ。それが日本酒だのワインだのどころか、誰かは知らないけどこともあろうにブランデーすら持ち込んでいたのだから、SANチェックしようものなら確実にファンブルするような有様になったことは言うまでもない。

陸遜、そしてその狂乱の空気を察して途中で逃げた歩隲、顧雍らの裏工作があって、何とか秘密裏にもみ消すことが出来たために学校からはなんのお咎めもなく済んだのだが…被害者である薛綜、厳o、潘濬といった者たちがこの世の終わりを迎えたよう表情で天を仰いだり、下手すれば失禁しそうな勢いで震えているのも仕方のない話であろう。

とはいえ、件の悲劇の原因を巻き起こす遠因を作ったのは陸遜の読みの甘さに他ならない。

「長湖部」という集団は陸遜らのような文科系のブレーン集団を除けば、甘寧や周泰などを筆頭とする、劉氏蒼天会末期の混乱に乗じて都市内で幅を利かせていたレディース、しかも「全校区夜露死苦番付」なんて胡乱な代物のトップに名を連ねるような連中も内包し、体育会系の者でもそうしたアウトローとつるんで悪さばかりしてたような問題児の集まりなのだ。しかもそんなアウトローを制動するようなブレーン集団にしても、同じぐらいに厄介なレベルで一癖も二癖もあるような連中が集まっており、むしろ一見真面目そうな人間ほど暴走が激しい。蒼天会のブレーン集団である「清流会」といわれる連中と違って、陸遜や諸葛瑾、潘濬などといった「良識人」といえる人間が少数派なのである。

陸遜にしてみれば、気心の知れていた朱然や敢沢までが、まさか狂乱を振りまく側になるなんて夢想だにしていなかったのである。
甘寧が凌統をケダモノに変えてしまうことも含めてだ。
彼女ならずとも、可能なら記憶処理でも何でも受けて忘れ去ってしまいたい汚点のひとつである。

閑話休題。



「悪いけど、あれを二度も繰り返すつもりはないわ。
とにかく、一応公式行事であるということを忘れないように」
「なら聞くが伯言…あれのゴーサイン出したのは一体、誰だよ」
「それとこれとは話が別!
そもそも誰が勝手に酒類持ち込んだのよ!!」

朱然の思わぬ反撃に、当然被害者の一人になりかけた陸遜とて引き下がるつもりはない。
前回は偶々うまくいったといえど、流石に二度ももみ消しが利くとは誰も思ってはいない…はずだ。

「そんなん水際で止めればいいだろー!」
「そーだそーだ!!」

だがしかし、全jと朱桓など、当時の加害者一部もブーイングを飛ばす。

「ええい黙ってろあんたたち!!
こんなくっだらないことで長湖生徒会ぶっ潰すとか、末代までの恥でしょうが!!
つかあんたたちはまず反省しろ反省ッ!!」
「まぁ過ぎたことはいいっこナシだぜ皆の衆。
つか伯言、あんたまでキレてどうすんだ。収拾つかねえだろ」

売り言葉に買い言葉、結局陸遜も根っこの方ではなかなかの武闘派である。
ヒートアップした彼女が、自分の座っていたパイプ椅子を、当時の狼藉者共の方へぶん投げようと手をかけ立ち上がったのを、飄々として制する薄茶色の髪の少女…それは、議席の片隅で成り行きを見守っていた歩隲であった。

歩隲は陸遜と、その他のブーイング者を宥めて席に着かせると、大仰に咳払いをした上で己の意見を開陳する。

「ここはひとつ、卒業記念コンサートなんてどうだろう?
よくよく考えてみれば、公瑾先輩がいた頃はうちらにも軽音楽部があったわけじゃん。
まー貧乏人のあたしにゃそんな技術(もん)ないが、今ここにいる中でも楽器の扱いができる人間だって結構いるわけだし…折角の機会なんだから、あたしらがタダの運動バカの集りだけじゃないところを多方面にアピールしてみてもいいんじゃないかって思うんだけど。
学園の話題もかっさらえて一石二鳥だと思わね?」

その提言に、わずかにどよめきが生じるも…。

「悪くないわね」
「うん。
確かに軽音楽部はまとめ役がいなくて、実質的に廃部状態だったからね」
「確かに子山(歩隲)の言うとおりだぜ。
このままあたし達の演奏の腕を腐らせたまま終わるのも勿体無い気がするしな」

陸遜、薛綜、朱桓が賛意を示す。

「あ、でもさ、演奏できない子はどうするの?
それに、時間配分とか何グループつくるとか」
「そりゃ舞台に上がる花形なんて、そんないっぱいいてもしょうがねえわな。
実際の音楽ライブだってどんだけの裏方いると思ってんだよ。
あくまで現時点では一つの案でしかねえけど、やるんだったらそれこそ学園無双の大会戦並みに気合入れて、裏方にも死ぬ気で頑張ってもらわなきゃだ。
あー、まああたしは演奏できねーし、裏方指揮になるだろうけどね」

厳oの疑問にあっさりとした回答を返すは敢沢。
厳oも納得いったという感じで「ふむ」と腕組みした。

「じゃあ、これはひとつの案としておいときましょうか。
で、他に何か案のあるひとは?」

ホワイトボードに案件を書き、陸遜は更に意見を求める。
だが、その後多少の調整案が出たのみで、大方それで結論が出てしまった雰囲気があった。
そもそも幹部たち自身も…陸遜自身も、歩隲の企画にかなり食いついていたようだった。


かくして現幹部クラスと幹部会卒業生、果ては来年度の幹部候補生までを駆り出しての、長湖生徒会の総力を上げての「卒業生歓送音楽祭」が開催されることと相成ったのであった。
後にそれが「学園史上最大のライブイベント」と呼ばれることになろうとは、この時点では誰も知らぬまま。



-長湖式歓送迎会-
そのいち「それを我らが餞とする」


そうと決まれば、長湖生徒会の動きは速い。
まるで奇襲時の速度を持って、歩隲や朱然を中心とする、暫定の調整役達が動き出した。

会議から三日後の昼休み、朱然は企画書片手に、会稽棟に出向いてきていた。
その目の前には、先に会議の中心席にいた金髪の少女…すなわち、現長湖生徒会長の孫権その人と、その後継者候補である大人しそうな緑色の髪の少女、孫登だ。

「…ってことでしてね、一応洋裁部の協力は確約したんですが…どんなもんスかね会長?」
「う〜ん…ボクとしては別に反対する理由がないというか、むしろやってみたいんだけど」

孫権と朱然はちらと、傍らの顧雍を振り返る。

幹部会においては会長に次ぐ最上級幹部である顧雍が首を縦に振れば、ほぼその企画は通ったも同然といえる。
しかし、このわずかな期間の間に試算された予算に余剰というものがあまりないことは、朱然は当然孫権とて知らない話ではない。企画が通ったところで資金が支給されるかどうかは微妙なところである。
乗り気の孫権だが、その懸念が拭い去れない。

二人の視線を浴びながらも、顧雍はぽやんとした表情のまま暫し止まっていた。
やがてぎりぎり聞き取れるかどうかの声で、

(…面白いと思う…でも、会費はそんなに回せないかもしれない…それでもいい?)

と告げた。


はじめのうちは誰か耳のいい者(大体は歩隲)が居なければ会話の成立しなかった顧雍であるが、いい加減孫権らも付き合いは長い。
朱然は潘璋直伝の読唇術で、孫権も何時の間にか何もせずとも彼女の声を聞き取れるようになっていたお陰で、顧雍の言葉をしっかりと理解していた。


「ああ、問題ない。
実はこないだの休み、ノミ市でいろいろさばいてきたからさ。
子山のバイト代とかもろもろの経費を抜いても、まあギリ何とかなると思うんだよね」

手渡された明細を一瞥し、顧雍はいつもの無表情のまま、ゆっくりとした動きで親指を立てた。
そして同時に、か細い声で告げる。

(了承)

その瞬間二人の顔色が明るくなった。

「やったぁ!
あっでも…伯言こんなの納得してくれるかなあ?」
「あ〜、あいつに言ったら九割がた突っぱねられるの目に見えてるし。
一応昨日の時点で、裏方はあたしと子山に一任するっての、居合わせた全員の前で宣言させましたから。
つまりあたし達と元歎(顧雍)が通せば決定事項です」

ニタリと悪そうな顔で笑う朱然。
同じような表情で顧雍も頷く。

「流石は義封だよ〜。
伯言には悪いけど、面白そうだから私も当然承認だよっ♪
存分にやっちゃって!」
「この朱然めの魂魄に賭けまして!!」

芝居がかった大仰なやりとりののちに、一礼して朱然はその場を走り去っていった。
そして顧雍も一礼して、自分のクラスへと帰っていく。
そのやり取りを見ていた孫登がぽつりと一言。

「みなさんすごいです…元歎さん何言ってるのか、わたし全然わからないのに」
「んまー、慣れかな?
多分そのうち解るようになると思うよ?」

感心したようなしないような表情で、孫登はただ首をかしげるだけだった。






同じ頃、そこから少し離れた武昌棟の会議室には、卒業を控えた現在の三年生達が集められていた。

「そういうわけでですね、先輩方にも何かやっていただこうと思いまして」
「コンサート…ねぇ」

歩隲の説明に、黒髪の上に何かの耳のような癖毛を持つ少女…諸葛瑾が小首を傾げる。

「というか、私たちの代で何か楽器できるのは?」
「あ、あたしドラム打てるよ、先代(孫策)によく付き合わされたし」
「ベースなら出来る」
「パーカッション系統なら行けるよ、使われるかどうかは別として」

呂蒙と徐盛、董襲の三人が真っ先に名乗りを上げた。

二年生のときに知性派に転じた呂蒙もそうだが、元々この三人は長湖部でも屈指の武闘派である。
呂蒙と董襲はそれぞれ極真空手、徐盛はタイ捨流を修める長湖部屈指の剣豪。
その一方で「お前ら何時そんなのやってたよ?」と周囲が呆れるほど、それらの楽器の扱いにも長けていた。

歩隲は意外そうな顔をしていたが、ほかの卒業生は至極当然、といった面持ちだった。

「私もピアノなら出来るわ。
まぁ、公瑾(周瑜)や元歎ほどじゃないけど」

諸葛瑾も名乗りを上げ、発言のない少女たちを見回した。
彼女もまた、あの七人ものクセのある妹たちをまとめている苦労人、それがそうした嗜みを持っていることはあまり知られていないようである。

「あたしは承淵(丁奉)のヤツにギターの触り方だけは教わったけどねぇ」
「仲…会長がそう言うの好きだったからな。
私も少しならギター出来るよ」

自信なさげに苦笑する凌統と、控えめに発言する周泰。
このふたりは流石に周囲が意外そうな表情を見せた。

「大丈夫でしょ。
とにかくモノがわかってるなら、練習すればいいだけのことだし」
「それはそうだけどなあ」

諸葛瑾の一言に、ふたりはちょっと困った様子で顔を見合わせる。

「あーそうそう、幼平さんは別イベントで出張って頂く予定ですんでとりあえずいいです」
「え?」

歩隲の追加的な説明に、かえって怪訝な表情を見せる当人。

「まぁそれは後ほど。
それじゃああとのメンバーの立候補を」
「ちょっと待って」

そこで意をはさむ者がひとり。
なるべく目立たない感じで、部屋の隅辺りで沈黙を守っていた銀髪の少女…虞翻である。

「開催は来月の卒業式後よね。
で、その間にどんな曲演奏するか決めなきゃならないし、そもそも楽器の数だってそうたくさんはない上にちゃんと使えるのかしら?
それに練習期間は実質半月あるかないかでしょ? 大丈夫なの?」

これまでのような毒気のある言葉は鳴りを潜めたものの、そもそも能弁家で細かいところによく気のつく彼女の指摘は尤もなことで、それまで乗り気になり始めていた他の面々もにわかに考え込んでしまう。
確かに凌統たちに限らず、この場にいる者達はほとんど受験が終了したか、卒業後の進路が確定し、あとは残った学園生活をのんびり満喫する、いわば"ご隠居様"のような存在である。
ヒマなら腐るほどあるのだが…確かに虞翻の言うとおり、軽音楽部の現状を鑑みれば、楽器の数は勿論のことそれがきちんと使えるのか疑問だ。

「一応、様々なハプニングを見越して、機材は帰宅部連合から借り入れる手はずになってますんでそちらは問題ないです。
でもそういう意味では即戦力がいたほうがベスト、ですかね。
特にボーカルとか」

肩を竦める歩隲。
何気なく聞こえる一言ではあったが、しかし、虞翻は歩隲の意味ありげな視線とにやにや笑いを見てわずかに顔をしかめた。



ここでこの虞仲翔について、触れておかねばなるまい。

まぁ紆余曲折は相当あったのだが…交州校区で名目上は「流罪」ということでこの一年を過ごしてきた虞翻、実際(本人は決して意図していたわけではないのだが)数々の事件や伝説をこの校区で残していた。
その中でも代表的なものが、当年度の秋季学園祭において、本家長湖生徒会主催のカラオケ大会の盛り上がりすら霞ませる「奇跡のライブ」の立役者となったことだ。

本来であれば、(表面上の事ではあるが)孫権の勘気を被って流罪となった者が、そんなことをすること自体あってはならぬことなのだが…どういうわけか一時期から虞翻に対する態度を一変させた校区総代・呂岱が全面バックアップしたのみならず、そもそも孫権自身がそれを企画してゴーサインを出したというこの独奏会、ボーカリスト本人の絶大な歌唱力をもって学園中の話題を総ざらいしてしまう大事件となった。
その歌は聞くもの全ての涙を誘ったと言われ、ウワサによれば、冷酷にして鉄面皮として鳴らした蒼天会前会長の曹丕が、その歌声に感動してボロ泣きした挙句、自分が生徒会の中枢から追い出した妹の曹植の元へすっ飛んでって今までの事を泣きながら詫びたという話すらある程だ。



まあそんなこんながあって、口にこそ出さぬものの歩隲も、当然ながらその場に居合わせた者として、最初から卒業生のボーカルは虞翻と決め付けていたようであった。

そしてそれ以上に…事情があった故に黙認はしていたとはいえ…虞翻が自分の名前を騙っていろいろやっていたことを知っている。
それが結果的に長湖部全体としてプラスになったことは解っているが、それでも、どこかでその「借り」を返すべく意趣返しの機会を虎視眈々と狙っていたわけで…音楽祭の企画が成立したその瞬間から、虞翻を大舞台に祭り上げるよう仕向けさせようと目論んでいた。否、むしろ歩隲が音楽祭という提言を行ったのも、初めからその意図があったからと言っても過言ではないかもしれない。
当然、朱然も歩隲のこの提案は承諾済みだ。

虞翻も虞翻で勘が鋭い。
音楽祭、と聞いた時点で何かしら予感があったのは確かで、歩隲が実質的な発起人と聞いた時点でなんらかの予感があったのも確かだ。
彼女が目立たないように部屋の隅っこに居たのも、そうした予感が働いていたからで…なおかつそれでもこの場に居たということは、何か勝手な結論を出されて自分を祭り上げられてしまうのを防ぐため、眼を光らせていたといったあたりだろう。

本人も吝かではないとはいえ、この見え透いた態度についてはあまり気分のいいものではなかった。

「あんた、はじめっから私に歌わせるつもりでしょう…?」
「さーて?
あくまで名乗りは個人の自由ですよ先輩?」

苦虫を噛み潰したような顔で睨む虞翻の嫌味も、気にした風もなくしれっと返す歩隲。
流石にこの態度に、良いように振り回されるのは癪とみえ…なんとか回避の手段を探ろうとする彼女の思惑は、そう簡単に完遂できる環境にはなかったようである。

「いーじゃんいーじゃん、やはりこういうのは実績がモノを言うんだし」

唐突に肩に手を回され、振り返ればその左肩口に顔を出すツインテール…賀斉。

「此処はあれだ、周公瑾のお株を完全に奪い去ったとまで言われたあんたにしか勤まらんだろー」

そして反対方向を見ると、にやにや笑いを貼り付けた赤髪のショートボブ…呂範。

「公苗(賀斉)…子衡(呂範)〜っ…!!」

恥ずかしいのかそれとも怒っているのか、複雑な表情で困ったように呟く虞翻。

「そーねー…私としてももう一度、今度は部全体の度肝を抜いてみたい気もするわね」

期待に満ちた眼差しを向ける諸葛瑾。

余談だが、実は例のコンサートでピアニストを務めたのは彼女なのである。
先にも触れたが、彼女はそもそも四人いる妹たちに加え、現在蒼天会で執行部員を務める諸葛誕なども含めた親戚中の少女たちを「長姉」として取りまとめた苦労人ではあったが、初等部の頃は洛陽棟のエリートコースに在籍し、上流階級の嗜みとしてピアノを習っていた時期があるのだ。
そのあとは趣味で細々と続けていたのだが、実はそのワザマエ、かの周瑜にも一目置かれるほどのものがあるのだ。

そんなこんなで、諸葛瑾だけはと、願望に近い期待を抱いていた虞翻は…その一言にすべてが潰えたことを悟った。
観念した様子の虞翻は、たっぷり十秒天を仰いで己の不運を呪いながら、やがてがっくりと項垂れて呻くように答える。

「うー…解ったわよぅ…私が歌う」
「よっしゃあ!」

思い通りに言ったことに喜びのハイタッチを交わす賀斉、呂範、潘璋の三名。
どうやら虞翻にボーカルを押し付けることは、彼女らにとっても願ったり叶ったりのようだ。普段なら他人を押しのけてでも目立とうとする派手好きの三人も、歌に関してはさほど得意ではなく、「晒し者」となるのは真っ平御免、といったところだろうか。

「さーて肝心のところは決まりましたが…って、先代たちはどうするのよ?
それに子敬(魯粛)に興覇(甘寧)も」

諸葛瑾の一言に、少女たちも「あ」と思わず声を上げる。

どうやらこの瞬間まで、誰もが此処に居合わせない孫策、魯粛、甘寧の存在をすっかり忘れていたようであった。
しかし、此処にもうひとりの名前がないことに、あえて誰もふれようとはしなかった。

「それなんですけど…伯符先輩達は伯符先輩たちで何かしでかすつもりみたいです…昨日、そのこと話したらそういう返答が還ってきまして。
あ、それと部長から名指しで公苗さん文珪(潘璋)さん子衡さん、演奏に参加しないんだったら卒業なんだしド派手になんかやってくださいって。
これ一応強制っつーか部長命令ですんで」
「ファッ!!??」

賀斉、潘璋、呂範の三人は、当惑した様子で顔を見合わせた。

「そりゃまあ、お前らみたいなお祭り騒ぎ大好き集団が何もやらずにいなくなる、って法はねえわな」
「いや、待って、日数」
「いざとなりゃなんでもできるでしょあんた達。
私は私でやることもあるから、お先に失礼させてもらうわ」

凌統、そして先の意趣返しとばかりに全力の笑顔で皮肉を吐き捨て退出していく虞翻のうしろ姿を見送りながら、なんとも言えない表情で三人は立ち尽くしていた。
それが言葉面とは裏腹に、完全にやる気満々といった様子に、誰一人として苦笑を隠せない。





その日の夕方。
廬江の中等部寮多目的室には、朱然の命令で強制動員された来年度の幹部候補生たちが集っていた。

既に陸遜軍団の突撃隊長として名を馳せる勇将・丁奉。
陸遜が派手なデビュー戦を飾った裏、学区外干渉対策に頭角を現しつつあった、その遠縁の陸凱。
次期部長である孫登の側近候補として名を連ねる顧譚、張休、諸葛恪。陸遜らと同世代に居る陳表を除いた「四友」のうち三名である。
そのほかそれぞれ主将見習いとして課外活動に参加して久しい呂拠、朱異、そして朱然の妹である朱績らの顔もある。


「よ〜し集ったな、愛すべき後輩諸君」

朱然の軽口にも何の反応も返ってはこない。満座、一体何の用で呼ばれたのかと当惑顔である。
その場に一番早く来てしまった為、何故かその手前で正座させられてしまっている丁奉が、そんな同輩たち全員の心中を代表するように口火を切った。

「あの…今日は一体何があるんですか、先輩」
「うむ、いい質問だよ承淵。
あたしもヒマないから手短に話すあーんど一回しか言わないからちゃんと聞け」

朱然はそういって、一息ついた。

「来る三月の二十日、卒業式の後に長湖部卒業生歓送音楽祭を開催することになった」
「え?
それってどういうことお姉ちゃん?」

間髪いれず、丁奉の隣に座らされていた実の妹の怒頭に拳骨一発を見舞う朱然。

「うぐぅ!」
「こら公緒、一応公式の場なんだからお姉ちゃんはやめろ。
それとこれから説明するんだからとにかく黙って聞け、しばくよ?」
「もう殴って…あ、なんでもないですごめんなさい」

茶々を入れようとした朱異は、朱然の一瞥に黙らされた。
因みに彼女は朱績の隣に座らされているが、彼女も丁奉、朱績と共に最初にこの部屋にやってきたためである。

その真後ろには陸凱を筆頭とした陸一家の少女たちが並んでおり、その隣には虞翻の妹虞の姿がある。
他にものちに様々な名を上げる、次代の俊英あるいは問題児というべき面々も一堂に会していた。

後輩たちに対する仕置きを一通り終え、朱然は咳払いした。

「で、楽器のできるヤツでコンサートを、それ以外は余興で何かやってもらうことにした…んだが、流石に時間の関係で来期の幹部候補生全員ってのは無理あるんで、中から5人ほど生け贄を提供してもらうことにした」

(生け贄かよ)

心の中で呟く陸凱。
しかし、そう思っているのは彼女だけではあるまい。
隣に座る虞、後ろのほうにいる顧譚や諸葛恪もそう言いたげな顔だ。

そんな後輩達の顔色など一顧だにすることなく、朱然は説明を続ける。

「まぁ逆を言えば、この五人は他に先んじて一般の長湖部員、ひいては学園全体に認知してもらえることになるな。
ちょっと大変だが、まぁ来期の立身出世のためには大いに役に立つことでしょう」

冗談とも本気ともつかない口調で、彼女はそう締めくくった。
少女たちは顔を見合わせ、小声で何か相談しているのか場は俄かにざわめいた。

「つまり先輩、その栄誉ある五人のホープに何か演奏しろと、そう仰るわけですね?」

そのなかで、わざわざ挙手して立ち上がった陸凱の質問に、朱然は鷹揚に頷いてみせた。

「そういうこと。
あ、因みに承淵、あんたは既に参加決定の方向で進んでるから」
「は?」

指名された最前列の少女は呆気に取られたように返すだけで、朱然はそんな後輩の心情お構いなしに、言葉の主の肩をがっしり掴んでとどめの一言を言い放つ。

「あんたギター弾けるって、伯言の推薦があった。
恨むなら伯言を恨んでくれ」

呆然とする少女の肩を大げさに叩き、解放してさらに告げる。

「というわけで、あと四人。
何も公瑾(周瑜)さんのチェックが入らない程度に完璧にやれなんて誰も言わねえし、楽器演奏できなくたってきっちりと教えてやるから安心しな。
つーわけで恨みっこナシのくじ引きで決めるよ。
はい、わかったらさっさと引きにきな!」

少女たちは当惑の色を隠せないようだったが、やがて意を決したようにひとり、またひとりと朱然の差し出したくじ引きの箱に手を入れ始めた。





部屋の片隅、顧譚、諸葛恪、張休の「次期会長側近三人衆」が突き出したくじを手にひそひそ話をしていた。
口火を切ったのは現副部長顧雍の妹・顧譚だ。

「どう、皆出る気ある?」

ふたりは顔を見合わせた。

「私、目立つのはちょっと」
「姉さんはピアノ弾けるけど、私も遠慮したいトコだわ」

長姉・張昭とも次姉の張承とも違い、大人しくて引っ込み思案のところがある張休はともかく、自信家で目立ちたがり屋の諸葛恪も乗り気ではない様子であった。

「いくら先輩命令とはいえ、こんなおちゃらけた行事の晒し者は御免蒙る」
「よね。
余興で芸をしろとか、そんな晒し者になるくらいなら、幹部候補なんて願い下げだわ」

ひそひそ声でとんでもないことを口走る諸葛恪と顧譚。

「ちょ…それはいくらなんでも」

次代の長湖部を担う逸材として見出されたものとしてありえないその言動に、張休の顔色が変わる。

「冗談よ冗談。
それくらい出たくないって例えよ」

顧譚は悪びれもせず、ひらひらと手を振った。
冗談というには、あまりに不謹慎ではないか…張休がそう言おうとした時、

「まぁこれだけの人数がいて、四人しか枠がないならきっと外れのほうが多いでしょ」

顧譚のひと言に諸葛恪も頷く。もう、先刻の会話など忘却の彼方に追いやっているようだ。
そして意を決したように頷き合うと、くじを開いていく三人。

「私ははずれ」
「私も」
「よかった、私もだ」

たっぷり時間をおいて、最後に開いた諸葛恪が安堵の溜息をついた。





「チッ、あの腰巾着三人は全員ハズレみたいね」
「そのほうがある意味平和かもな。
子黙(顧譚)や叔嗣(張休)はまだしも、あのアホロバは途中で投げやりにしてロクな結果にならないのがオチだ」

少し離れた位置でその様子を見やりながら、毒づく虞と冷静に判断して一言する陸凱。
それもそうね、と虞も相槌を打つ。
おおっぴらには言わないようだが、どうも彼女たちに対して二人は好印象を抱いていない様子であった。

「だがヤツらはひとついいことを言った。
これだけ人数がいるんだ。
承淵にゃ悪いが、あたしらはどうにか抜けとかないと」
「全くだわ。
じゃ、せ〜ので一緒に開こ」
「うん…せ〜の!」

目をつぶり、乱暴な手つきでくじを開くふたり。
そして目をあけると。

「「んな!」」

そのくじには、無情にも「当」の一文字、しかもふたり揃ってである。
呆然と立ち尽くすふたりに、その様子に何かしら感じ取ったらしい顧譚が寄って来てその肩を叩いた。

「あ〜ら、あなたたちアタリなのね〜♪
羨ましいわ〜」

陸凱は恨みがましそうな眼で、まるでさびた歯車の回るような音を出すかのような動きでその少女に振り向いて絞り出すような声で答える。

「譲ろうか、次期副会長候補殿?」
「う〜ん…折角あなたたちに与えられた名誉を横取りしたら悪いから辞退するわ。
頑張ってね〜♪」

その嫌味もさらりと返し、スキップでもせんばかりの軽い足取りで去っていく顧譚の後姿を眺めるふたり。
その視界の片隅では、あたりくじを引き当てて大喜びする陸抗と、はずれくじを引いてがっかりした様子の陸胤の姿が映っていた。





「…まさかあたしと伯言絡みの人間がここまで揃うとはねぇ。
まぁ、これはこれで面白そうだから良し。
むしろあのアホロバとかいたら逆にどうしようか考えるとこだったわ」

うんうんと頷く朱然。

居残りを命じられたアタリ組は、既に指名されていた丁奉に、陸凱、陸抗、虞、朱績という面々。
それにプラスで何故か陸胤もその部屋に残っていたが、約二名を除いて皆死んだ魚のような目をしていたが、当然ながら朱然は意に介した風はない。

「言っときますけど、あたしたち楽器の演奏経験ないですよ?」
「同じく」
「そしてあたしは姉さんみたいなボーカル期待しても何も出ませんから」
「私だって何もないけど…まぁ何とかなるよ、きっと」

負のオーラを放ち続ける陸凱、朱績、虞の三人を他所に、ノーテンキな陸抗。
何を期待していたのか知らないが、陸胤がそれを凄く羨ましそうに眺めているのが、双子の姉であるはずの陸凱にはさっぱり理解できなかった。

「大体、やる気のあるヤツがそこにいるんだし、なんでそういうヤツに代わってやっちゃいけないんで?」
「それも神様の配剤って奴だ、これ以上つべこべぬかすな」

双子の妹を指差し、陸凱が抗議するが朱然の答えはにべもない。

「それに、敬宗の気持ちも無駄にするつもりはないから。
この娘にはこの娘専用に見せ場を作ってやるから安心しな」
「本当ですか!?」

陸凱が心の中で何かツッコミを入れるよりも早く、陸胤が喜色満面で応えた。
その様子に、陸抗も一緒になってはしゃいでいる。

「つー訳で、あんたたち五人は明日までに、担当決めて幹部会に提出。
演目もきちっと決めること、いいわね?」
「はーい」

陸抗と陸胤だけが元気良く応えた。
あとの四人、特に無条件で指名された丁奉は、己の境遇を呪わずに居れなかった。





そんなこんなで、音楽会の準備は着々と進められていった。

来年度新入生軍団は丁奉がギター、陸凱がキーボード、虞がドラム、朱績がベース、そしてボーカルと小物関係は陸抗でガールズロック系の曲を二曲。
更に陸抗と陸凱は陸胤とトリオで小ネタをやることとなった。

卒業生たちは諸葛瑾がキーボード、凌統がギター、徐盛がベース、呂蒙がドラム、パーカッション関係を董襲、そしてボーカルは虞翻が担当することとなり、こちらは四曲をポップス系中心の曲選び。

そして潘璋、賀斉、呂範は三人でヒゲダンスをやるとのことだった。
最初は色々と渋っていた三人ではあったが、最大の懸念材料であった張昭がある理由から不在、と聞いた途端「ならばいっそド派手に」と開き直ったらしい。

また、今年度卒業する周泰ら「湖南海王」と、かつて甘寧が率いていた「銀幡」メンバーの代表者による演舞も幕間イベントとして用意されていた。
周泰がバンドメンバーからあえて外されたのは、ここのためでもあった。

で、幹部会連中はというと、基本は薛綜がボーカル、呂岱がギター、全jがベース、陸遜がドラムで、その演目に応じてトランペット担当の朱桓、ピアノ担当の顧雍を投入するという布陣。
こちらもメインを四曲という構成でボーカル以外にも二曲の予定と、メイン学年だけに最も出番が多い。

それ以外の少女たちは朱然と歩隲を中心に、裏方の一切を担当するほか、二人は本番で孫権・孫登と共に司会進行に携わる。
プログラムは卒業生が揚州校区へ戻る時間を考慮して十六時半開演、もろもろのハプニングと休憩を挟んで上演時間三時間半にわたる大イベントとなってしまった。



「凄いことになったわね」

張承がその紙を手に取り、呆れたとも感心したともつかない口調で言った。

「あぁ、特に卒業生は見物だよぉ〜。
なんてったってボーカルが仲翔先輩、わりと電波っぽい曲もあるぞ。
あの顔からは絶対想像できないようなトンデモラインナップだ」

企画書片手に会議室のソファーに寝転びながら、ニヤニヤ笑いを隠せない朱然。
歩隲はその場に居合わせたものとして追加情報を報告する。

「しかもあの人、最初こんな電波曲なんか歌えるかーってわめいてたけど、そのあと曲を鼻歌で唄ってたよ。
ありゃあ実際相当乗り気だな」
「うわ…流石にそりゃあイメージできねぇな〜」

敢沢の言葉に頷く一同。
彼女は比較的虞翻とは懇意であったが、それでもそんな自体は予想外だったようだ。

もっとも、堅物の皮肉屋で知られた虞仲翔という少女にツンデレ属性が認知されたのはごく最近の話である。
この中にも、虞翻(と諸葛瑾)が交州で何かやらかした現場に居合わせたものも少なくはないが…それでも、そうした茶目っ気を見せる彼女を見たものは流石に居なかったらしい。つつけばいくらでもネタがでてきそうな雰囲気もある。
そのことを考えると、少女たちにはなんだか彼女が間もなく卒業することが残念でならないようにも思えていた。

「もっとも、この中で仲翔先輩が選んだのは最後の曲だけなんだよなあ。
これ交州のトリでやった曲だけど」
「へ?
じゃあ残りって誰のリクエストなのさ?」

厳oがふと、気付いた事を口にする。
朱然は爆笑を最大限に我慢した面持ちだ。

「聴いて驚け…文嚮(徐盛)さんと幼平(周泰)さんが一曲ずつ、あと一曲が子瑜(諸葛瑾)さんだ。
件の電波曲選んだのそのロバミミ」
「えええええええええ〜!?」

言うや否や、少女たちの反応は露骨に「ありえねぇ」といわんばかりの絶叫だ。
次の瞬間、さして広くもない会議室に爆笑の渦が巻き起こる。

「ちょ…それマジな話!?」
「どー考えてもあの人たち、こういうの聴きそうなタイプに見えないって〜」
「なぁ…メタルとロックなら解るけど…これはなぁ。
つかこの曲子瑜さんの仕業か、このあたりは流石にあのアホ孔明の姉貴だけはあるよなあ…」

息をするのも忘れて笑い転げる歩隲を尻目に、ひとしきり笑い終えた少女たちが口々に感想を漏らす。

「奇を容れ異を録すが長湖部、ひいては我々長湖生徒会の基本方針だからな。
長くやってりゃいろんな人間が集ってくる、ってことさね」

最後に、朱然はそう締めくくった。