「…あたし一体…どうしてこんなことしちゃったんだろうな」

つい今しがた知り合った少女を目の前に、彼女の表情は次第に影を濃くしていく。

「まだ仕事が…やらなきゃいけないことがいっぱいあるのに…
ミミやダーリン…スタッフのみんなにも迷惑かけて…あたしっ…!」

溢れ始めた感情は止められなかった。
その瞳から溢れ、流れる涙がそれを物語っていた。

「ニャミ…さん」

おさげの少女が心配そうに覗きこむその表情さえ、彼女には解らない。


ニャミは必死に感情を、その涙を止めようと俯いている。

目の前の少女…佐祐理にその心のうちを見透かされた時点で、彼女の精神は既に限界に来ていたのだろう。


「…そんな時はきっと、泣いちゃえばいいんですよ」

はっとして見上げると、三人分の飲み物を用意して戻ってきたかごめの姿がある。


その穏やかな表情に誘われるかのように。


彼女は、大声で泣き出していた。



「天使の羽詩」
第八話 人気者という名の枷と -後-




「人前でさ…お芝居とかそういうの抜きで泣いたのなんて、どのくらいぶりだったろうね。
しかも、会ったばかりの見ず知らずの女の子の前でさ…いや、かごめちゃんは違うけどさ。


…けど、不思議と嫌な気分じゃなかったよ」


車は高速道から、楽奏最寄のインターへと進路をとる。
ほんの三十分ほどの道のりであったため、特に休憩を挟むことなく、彼女らにとっては当初の予定に比べ一時間ほどの遅れがあったものの、特に予定に支障があるわけではない。

「あの時はそう、ミミが真っ先に迎えに来てくれたんだよね。
というかあんた、何であの場所がわかったの?」
「…うーん」
清算の順番待ちの列、その最後尾に車をつけたようことで、ニャミはようやく相方のほうを振り向く余裕が出来たらしい。
今までずっと聞く側に回っていたことで、唐突に話を振られながら特に動揺は見せなかったミミだったのだが…。
「なんでだろうねぇ。
実はあたしにもちょっと良く解らないんだ」
首をかしげるミミ。

「…けどさ、あの日あたしもあの詩、見てたんだよ。朝イチで事務所来た時にだけどね。

ニャミちゃんがいなくなったとき、何でか思い出したのはあの詩のことだった。
もしあれを見ていたなら…きっとニャミちゃんはあの詩の主に会いに行くんじゃないか、ってそんな気がしたんだ。

…あの頃のニャミちゃん、色々あって限界っぽかったしね」
雰囲気を軽くさせようとしたのか、あえて軽い表情でにっと笑うミミ。
「流石はベストパートナー、良く解っていらっしゃる」
ニャミもそれにつられたかのように笑う。

だが、ニャミの一言に、ミミの表情が少し曇る。


「…あたし…ニャミちゃんが泣いたの、あの日始めて見たんだよ。
それまでは怒ったり、笑ったり、拗ねたり…いろんな表情を一番近くで見てきた、って思ってた。

でも、考えてみれば“泣いているニャミちゃん”ってイメージはなかったんだ。

あたし…それまではニャミちゃんに甘えてる部分も多かったし、あたしがニャミちゃんの前で泣いたこともよくあったけど…逆にそれがずっと負担になってたんじゃないかって、あの時思ったんだよ」


「ミミ…」
ニャミはむしろ、自分が泣けない部分を、ずっと彼女が代弁してくれていたのだと思っていた。
それは彼女にとってありがたいことであったろう。


顔をあわせるまで何の接点もなかった、正反対の性格のように見える二人が長く付き合えているのは、そういう関係であったからだと。


「…そういうの、あたしも少し解る」
これまで沈黙を守っていた紗苗も、ポツリと呟く。

「じいちゃんが亡くなってしばらく…かごめちゃん、ずっと泣き続けてたんだ。
仕事は勿論、学校にも出ないで、自分の部屋に閉じこもって。

喪主は六兄が勤めてくれたんだけど…六兄の意向で、あたしはじいちゃんが務めていたものを受け継がなきゃらなくなって…
泣きたい時に泣けない辛さを、この娘が全部引き受けてくれたような気がしてた。

まぁ…かごめちゃんが泣き止んだ時、あたしも結局…なんだけどね」

気丈なイメージのある紗苗だったが…それは天涯孤独の身であったかごめの姉代わり、ひいては母親代わりであろうとしたため、時に無理してそう振舞おうとするようなところもあった。
孫次郎存命時はそれでも、まだ自分もすがれる対象があったといえたのだろうが…それを失ってしまったことは、ただ「肉親といえる人を失った」以上の喪失感が彼女にはあったのだ。

だが、そもそも聡明な質の彼女は、かごめがどうして必要以上に泣き続けていたのか、その意味を悟るのにそう時間はかからなかった。


自分もまた、かごめの存在によって支えられていたということを。


ミミとニャミにも、そんな紗苗の心のうちが、少し解ったような気がした。


「結局さ、みんながみんな、色々とカンチガイしてた、ってのがあの事件で解ったからね。
スタッフのみんなが色々と動いてくれたお陰で、そのあと結構休ませてもらってさ。
…あとで知ったんだけど、ほとんどの製作会社が番組を続行させる費用がなくて、あたしらをダシに色々スポンサーから番組制作費とか搾り取ろうとしたことが解ってさー。
MZDとか犬千代さんとかものすごかったからねー、もうブチギレ上等!って感じで」
「そーそー。
それに今思えばさー、あの頃の追加的に増えた仕事って、ほっとんど深夜枠だったしねー。
大体何時放映されたんじゃい!ってのも多かったしねー。
どう考えても余分な費用ピンハネしてるじゃん!むしろ気付けやスッタフ!って感じでさー」
これまでの重苦しい雰囲気を払拭するかのように、豪快に笑いあうポッパーズの二人。



結局MZDらT.E.P.の首脳陣が何をしていたのかは不明であったものの…この「ニャミ逃亡事件」が終焉を迎えるのと丁度同じ頃にMZD達は事務所に姿を現した。

事の顛末を語り、ニャミは総てに観念した表情でMZDの目の前に立っていた。

「あ…あの…。
確かにニャミちゃんがやっちゃったことは、タレントとして有るまじきことだと思います…けど!」
「…解った、もういいんだ」
居た堪れなくなったミミの一言を、静かな口調でMZDが遮る。


もうだめだ、と彼女は思った。
生放送でなかったにせよ、自分達の勝手な一存で収録をすっぽかしてしまった以上、これまで積み上げてきた努力も総て水の泡となる。


MZDの「もういい」は、そうした自分達に対するある種の死刑宣告のように、ふたりには思えていた。


ニャミには不思議と、後悔はなかった。
しかし…ほんの数年間とはいえ、ともに笑い、頑張ってきた相方に対して、申し訳ない気持ちはあったのだが…。


「俺が聞きてぇのはそんな話じゃねぇ。
…一体何処のどいつが、こんな頭の悪ぃスケジュールを組んだんだっつーコトだよ」
「え!?」
珍しく、憤然とした感情を露わにするMZD。
それが自分の身勝手な行動に対するものでないことは、すぐにニャミにも解った。


「マネージャーと総務の連中を呼んで来いッ!
一体どういうつもりで、こんな人間を使い潰すようなスケジュールの組み方をしやがったんだ!
言い訳によっては奴らのクビ、片っ端から吹っ飛ばしてやるッ!」
その拳が執務室の机を打ち据える。


「…っと言うわけだな。
すぐに言う通りにしないと、多分君らの立場も危ないよ」
傍らに立つ犬族と思しきスーツの青年…若くしてT.E.P.の専務のポストにある久米犬千代が、ポッパーズの後ろで成り行きを見守っていたスタッフに静かに告げる。

穏やかではあったものの、抑揚のないその口調は、かえって恐怖の感情を煽るものらしい。
震え上がり、異口同音に「は、ハイッ!」と応えた彼らは慌しく部屋を飛び出していった。


部屋にはMZD、犬千代、そしてポッパーズの四人だけが残された。


犬千代はため息を吐く。

「…あの多忙なスケジュールの中、ミミ君、君はしっかりと調べていたのだろう?
…今回の仕事、その九割がた、ギャラやスケジュールに感じては向こうの一方的な通告だけで取り決めがあったということを」
「…はい」
一瞬躊躇したものの、ミミははっきりと、そう応えた。

「何故、黙っていたんだい?」
犬千代の口調は、先ほどとは違い…穏やかで優しかった。

ミミは、一拍おいて呼吸を整えると、淡々とその旨のうちを語りだした。


「…あたし達は…若くしてこのこの世界へ飛び込んで、何年もしないうちに今の立場になりました。
そのことを快く思っていない人が多いのも、良く解っています…

…だから、どんなことでも出来るって、やって見せるって…そのことを、認めて欲しかったんです」


若干二十代そこそこで、芸能界を代表する顔役となってしまったポッパーズ。
絶大な人気を誇る反面、その活躍を快く思わない者も五万といるのも当たり前の話。
番組で重要なポストを任されることも多かったが、それゆえに「勢いだけに過ぎないただのマスコット」と…実際大した実力もないのに意気がってるだけの小娘ふたり、と陰で言われていることを、ミミは知っていたのだ。

それが自分だけに向けられているのであれば、彼女だけが我慢すればよかっただろう。
しかし、「ポッパーズ」に対しての言葉であれば、その的はミミだけに留まらない…。


ミミは、そのことがとても悲しかった。


「でも…今日ニャミちゃんがいなくなったとき…
あたしは彼女のことなんて全く考えないで、振り回していただけだって、思い知らされた…

だから…悪いのはみんなあたしなんです…!」


ぼろぼろと大粒の涙を流す相方の姿に、ニャミは胸が締め付けられそうな気持ちになった。


「違う!あたしは逃げ出したんだ!あんたに何の相談もしないで!
相方を信頼して何でもかんでも話すことが出来なかったあたしが悪いんだ…だからッ!」
「…ニャミちゃん…」

ミミがこの気丈な相方の涙を見たのは、このときが初めてであった。

「ペナルティはあたしが受ける!だから、だからこの子は許してやって欲しい…!」
「そんな…!」
言葉を失うミミ。


ニャミは、自分自身が許せなかった。

相方がどんな思いでいたかを。
それを気づけなかった自分を。


理由はどうあれ、結果的にミミを置き去りに逃げ出してしまった自分自身を。


「…なら…望み通りペナルティをくれてやるよ。ふたりともにだ」
「え、MZD!?」
思っても見なかった言葉なのか、狼狽する犬千代とニャミ。
しかし慌てる彼を他所に、MZDは普段どおりのニヒルな笑みで、判決を待つポッパーズに告げる。


「今からきっちり二週間、ポッパーズの総ての仕事は禁止だ。
ふたりで好きなところでも行って来て、存分に休んできやがれ。

…その代わり、また半月後からは、しっかり働いてもらうからな」


その二週間の間に何が起こったのかをポッパーズが知ったのは、それからさらに半月ほど経った頃だった。


MZD達はポッパーズに休暇命令を出した直後から、総務部のスタッフを総動員してそれぞれの仕事の契約内容、実際の仕事内容、そしてその報酬等の履行がきちんとされていたかなどの情報を総て洗い出していた。

結果、ほとんどが放映の予定がないニセ番組であったり、明らかに契約内容を逸脱したモノであったり、期間が終わっても二度三度と契約は一方的に更新され、その都度の報酬が支払われた形跡がない…あるいは、全く支払われる目処さえないことなどが解った。
総てそれらの番組制作に関ったプロデューサーが、不当にスポンサーから資金を巻き上げてピンハネすると言う目的のため、ポッパーズを利用していたということが。

このことで完全に激怒した犬千代たちは、徹底的にそれらのプロデューサーらを告訴し、手段を選ばず一方的に叩き潰していったのである。


ポッパーズが休暇を終えて出てくる頃には、それらの出来事がきっちりと終わりを告げていたという…。



「あー、あの頃ミョーに深夜番組増えて、その後一気になくなったのって理由それなの?」
「でしょーねー」
「あっきれた。まさか芸能会社の看板タレントをそんなくだらないことに利用するなんてねぇー。そりゃあ神も犬さんも怒るわよー」
紗苗もつられるかのように笑う。


普段の明るい表情を取り戻した三人の笑い声を子守唄に、かごめはいまだ目を覚ます気配もない。

しかし、紗苗は何故だか、彼女も一緒に笑っているような、そんな気がした。



車はインターを通り抜け、一般道へと入ってゆく。
夕方のラッシュに入ろうとしているのか、車通りはやや多かった。

「さーて、明日休みだっけあたしら?」
「そーですねー二週間ぶりにまる一日オフですねー。さなちゃんは?」
「…あたしは朝早くはないけど、次の仕事の打ち合わせと、その後ラジオの収録かしらね」
「あー残念…久しぶりにさなちゃん誘って飲みにいこうと思ってたんだけどなー」
少し残念そうにため息をつくポッパーズ。
「あたしはほら、週末に存分に飲んだからいいのよ」
「いやそーじゃなくってー」

笑いの耐えない車内。
BGMは何時の間にか、三人の心のうちを表すかのような、明るい曲調のソフトロックに切り替わっていた。



時計は午後六時を指し示そうとしている。
流石に葉菜も長居は出来ないと思ったのか、時間に比較的余裕のある佐祐理に写真を預け、帰ろうかと腰を上げようとしたそのときだった。

「…お、どうやら来たようだな」
「え?」
六が指し示す先、一台の車が敷地内に入ってきたのが見える。

その車が完全に停止し、中から悠然と紗苗が姿を現した。

「いよー久しぶりだなー」
「え…あ!忘れてたっ!」
六の顔を見て一瞬怪訝な顔をした紗苗だったが、すぐに何かを思いだしたらしく素っ頓狂な声を上げる。

「お?なになに?どーしたのさなちゃん?」
「おや?あそこにいるのは六さんではありますまいか?」
ミミとニャミも車から飛び出し、大仰な仕草で母屋のほうを見やる。

「そーだったそういえば今朝帰ってくるって連絡もらってたんだっけ…」
「…おいコラ…まさか今の今まで忘れてたってのかよ…」
ばつが悪そうに頭をかく紗苗。六も最早苦笑しか出来ずにいた。

「というかなにあのメンツ?なんか見知った顔がいっぱいいるじゃん?」
「あはは…お久しぶりです」
「というか何時振りですかねー」
「え?」
佐祐理は思っても見ない方向から声が飛んできて、驚いてその方向を向く。
「うんうん、サユリちゃんもそうだけど、葉菜ちゃんほんっとうに久々に見るなぁ。
どう?あのちょっとヤンキー入ったお母さんは元気?」
「うわ酷い言われよう…母さん聞いたら泣きますよそれ。アレ地毛って言ってたし」
「え?え?」
状況が飲み込めないのか顔を見合わせる佐祐理とポエットと歩。
「あー、そりゃあうちの店、総合芸能は重要なお得意様ですから。
結構ミミニャミさんも、お使い買って出てこっそり家に品物取りに来ることも多いの。一時見かけなかったけどね」
「そ、そうなんですか…」
「ああいうのも結構気分転換になるんだよー」
けらけらと笑うミミ。

「そういえば…六兄はいいとして、この状況は一体どういうこと?」
「あ、そうでしたそうでした」
今ひとつ状況が把握できていなかったらしい紗苗の言葉に促されるように、葉菜は自分の鞄から写真の入った袋を差し出す。
「この間の写真できたんで、お持ちしたんですよ」
「えっ」
目を丸くする紗苗。
「じゃあ、これを届けるために?」
「それもあるんですけど…」
葉菜は佐祐理に視線をやる。
「…折角ですから逢える人には逢って手渡したい、って葉菜先輩が」
「なーるほど」
紗苗はそれを確かめてから、そこから一枚抜き出してみた。
「おー、よく映ってるじゃないの」
「ちょ、なになに、その写真。ちょっと見せてよ」
言うが早いか、その一枚をひったくるニャミ。

「うおーなんじゃこりゃー!なんでこんな豪華メンバーがこんなことにー!」
些か大げさな反応をするポッパーズ。

「…あれが一般人の反応」
「…それをなんで僕に言うのさ?」
わざとらしくポッパーズの様子を指差す葉菜の意図を察したのか、歩も少し不満顔だ。

「なんつーかアレだ、ぜひとも事の詳細を聞きたいのでここはひとつ藤野家で酒盛りといきたいところですが…如何ですがミミさん?」
「それはなんともナイスなアイディアですなニャミさん」
「ちょ…あんたたちあたし明日仕事だっつーの!昼からだけど!」
悪戯めいた顔のポッパーズの言葉に狼狽する紗苗。
「まーいいじゃねーか。俺様が付き合ってもかまわねーんだしよ」
「おー六さん、話し解るー♪」
「勝手に決めるなー!」
大げさに喚いてみせる紗苗だったが、本心はその間逆なんじゃないか?ということがその表情から窺えるようだった。

「…イイじゃないのさ別に」
そこでようやく、寝起きでふらふらのかごめも車内から姿を現す。
「あ、かごめちゃん」
「そういえば忘れてた…何気に」
ポッパーズの言葉もきにした風もなく、かごめはわりとしっかりした足取りで輪の中に加わる。
「…あたしも明日学校だけど…たまにはいいと思うよ。今からで良ければあたしがなんか作る」
「おー」
拍手喝さいのポッパーズと六。

「かごめさん…えーっと…」
状況を説明しようとするポエットを手で制するかごめ。
「わーってる。
実は途中で目は覚めてたんだけど、出てくるタイミングがなくってさ。
…ありがとうございます、お手数かけて」
「ううん…なんか…その、大丈夫?」
「いえまぁ…何時ものことですから」
葉菜の問いかけに返すかごめの表情は、土曜に見たのと全く同じ微笑のように、葉菜には思えていた。



一方その頃。

「何時も済まんな、犬千代」
「いえいえ…しかし、これでよろしいのですかMZD?」
T.E.P.事務所の重役室。
その代表取締役たるMZDは、犬千代から手渡された資料を一瞥し、椅子に深く腰掛けたままそれに背を向ける。


さして高いビルではないが…それでも、ある程度はその窓から街の風景を見渡すことが出来た。


「…運命はもう、俺の手ではどうにもならないところまで来てやがる。
思えば…詩姫と天使…その出会いがきっかけだったのかも知れないが」
MZDはゆっくりと立ち上がる。

いや…その姿は、僅かながら宙に浮いている。
ただの魔法ではない…もっと大きな力が、ごく当たり前のように作用しているかのようだ。

「…しかし、それでも予測通りなのでしょう?」
一匹の三毛猫がその足元に現れる。


猫の姿をしているが、この人物もまた…猫又族のP-Cat、本名を南雲直之といい、T.E.P.常務のポストにある。

この三人こそT.E.P.の実質的なトップ集団であり、またMZDの存在に関る大きな役割を受け持っているふたりである。
それが何であるのか、知る者は現状この三人のみであろう。


「まぁな。
だが、それもここまでだ。あとは総てあいつら次第」

MZDの表情は、そのサングラスのせいか…うかがい知ることは出来ない。


「…負けるなよ…自分の負わされた宿命に」


その言葉は一体誰に投げかけられたものなのか…。



「…ユーリ」
暗黒の森に囲まれた城のテラスに佇むその主に、声をかけるスマイル。

「どうやら、動き出したようだ。
僕らが彼女と接触したことが、直接の引き金になってしまったようだねぇ…」
「…そうか」
その表情は動かない。

しかし、それは何か感情を無理やりに押さえつけているようにも見える。

「…アッシュには、話してやらないのかい?」
「…可能なら、知らせずにいたほうが良い気がする。
これはあくまで、我々の私闘だ。なるべくなら巻き込んでやりたくはないと思う」
「なるほどねぇ」
スマイルはきびすを返す。
ユーリは、一度もそちらへ視線をやる気配はない。

「そろそろ、準備が必要か…。
行くのであれば、何時でも行ける様にね…ヒッヒッヒッ」

その気配が場を離れてもなお、ユーリは空のある一点を見据えて動かない。


「…解っているさ…。
今度こそ…ヤツには滅んでもらわねばならない…あの子の為に!」
その瞳には強い意志を秘め。


その想いの先もまた、知る者はない。