ポケモン対戦ログ(2010.3.26)のおまけのようなある意味本編のような(←
対戦のちょっと前…
「…風見…幽香ッ…!」
人払いをしたその部屋の中で、モニターに映り込んだその姿を見つめるアリス
そこへ、不意に神綺が姿を現す…
「アリス…解っているわね。
…あの日から何度も言ってきた通り…幽香を殺そうなんて、まかり間違っても思ってはいけないわ」
アリスは振り向く事も…応える事もない
「彼女は…自ら人柱として丘の憎悪と悪意を一身に受け、妖怪となって己が身を媒介とし、自然浄化させる道を選んだ。
丘は、その事によって昔の美しい姿を取り戻したの。
もし…彼女を殺してしまえば…再び、その憎悪が恐るべき『復讐者』を…?」
神綺は違和感を感じる
アリスの態度もそうだが…それ以上に、自分自身に起きた変化を
(何…?
目が…久々の戦闘で体の変調を…?
……いえ、まさかこれは!」
神綺は眩暈を起こし、その場に片膝をついた
「やっと、効いてくれたようね。
メディの作った強力な毒とはいえ…『神』を名乗る程の力を持つ母様にその効果を表すのには時間がかかってしまったわ」
「アリ…ス…!
…あなた…なに、を……!?」
「口煩いお母様の『忠言』とやらを聞くのは、もううんざりなんだってさ!
大切なモノを奪われた悲しみは、アリス自身にしか解らないんだよ!」
カーテンの裏から姿を現した小柄な少女…鈴蘭畑から生まれ、身に猛毒を宿す妖怪人形メディスン=メランコリー。
その表情は、何処か嬉々としたようにすら見える。
「あ…あなた達ッ…!
自分が…何をしようとしているのか…わかって…ッ!」
次の瞬間
アリスの解放した魔力が複雑な魔方陣を幾つも創り出し、毒で自由を奪われた神綺の五体を空中に縛る
それだけではなく…魔方陣は神綺の体から容赦なく魔力を漏出させてゆく…!
(…対神格用の結界魔法陣…!?
何時の間に、こんな代物を……!)
「人間ですら災害を克服する努力を許される。
幽香が天災というなら…姿かたちを取ったモノに復讐するのは止せだなんて…私には耐えられない!」
「…アリスっ…!」
アリスはそのままメディスンを伴い、踵を返す
「モニターはつけたままにしてあげるわ。
そこで…私が総てを終わらせる瞬間を…見守っていて頂戴、母様」
リリカは心配そうな表情で幽香の方を振り向く…
幽香「…私を呼んでいるようね」
リリカ「幽香さん…」
幽香「……私の事情にあなたまで巻き込んでしまった事は謝るわ。
だから、そんな表情をしないで頂戴。
私は…大丈夫だから」
幽香は振り向くことなくリリカの頭を撫で、次の瞬間ふわりとステージに降り立つ…
幽香「…いい面構えね。
私は逃げも隠れもしない…存分に、かかってらっしゃい…!」
♪BGM 「幽夢 〜 Inanimate Dream」(神主セルフアレンジ版)♪
ピエール「…貴様が風見幽香か…。
私個人に恨みはないが…我が主の痛みは、我が痛み!
我が剣でその痛みを思い知れ!」
ピエールは鋭い斬撃を放ってくる…!
しかし、幽香は傘でそれを受け流した!
幽香「…甘い剣ね…!
私の知り合いには、あなたの数倍も鋭い剣を扱う秋神がいるわよ…!」
ピエール「な…!?」
幽香「眠りに堕ちなさい…傘符『ナイトメアレゲンシュルム』!」
幽香はキノコの胞子の構え!
ピエールは眠りに落ちた!
ターン終了と共に幽香の体を瘴気が包み込むッ…!
慧音「…始まったな…!」
妹紅「だ…だが、これで終わると言うことはないだろう!
先手さえ取れるのであればまだッ…!」
幽々子「取れれば、でしょうね」
慧音「幽々子」
幽々子「あらあら…随分にぎやかだと思ったら、かごめちゃんも結局来てたのね。
天狗の気配も感じたと思ったんだけど」
かごめ「宇宙開発公団の名前だけの会長って言ってもな、ヒマなようでヒマでもなくってな。
文の奴はちょっと天狗の会合っていうかインタビュー会?があるってんで、取材対象の大将連れて帰っちまったよ。
それより…取れれば、とは随分消極的な発言だな」
幽々子「そりゃあね、私は偶然にオーダーを見てしまったもの。
種族値80で無補正とはいえ素早さVに極振り、あの剣士君が目を覚ましてくれなければ…残りのメンバーで幽香の先手を取って潰せるメンバーはいないわ」
慧音「くっ…これは勝負あったか…時間的に最後ならこれ以上の対戦も無理…。
さっきのリリカへの態度を見る限り、アリスも解ってくれているだろう。
今の幽香はもう昔の幽香ではない…越えられない壁は、何時かまた乗り越えるべく努力することだって…」
「あんたそれを正気で言っているのか…!」
慧音「!?」
妹紅「おい、お前どういう意味だ!」
幽々子「言葉どおりの意味だわ。
アリスの目をよく見て…どこぞの姫様の真似して視力が落ちていないなら…ここからでも良く解る…!」
慧音と妹紅は言われるままにアリスのほうを見やり…絶句した
慧音「……アリス……お前!」
何処かの廊下
チルノ「ふーすっきりしたーおまたせー!!^^」
大妖精「…もう…やる事がないからってジュースばっかり飲んでるからだよチルノちゃん…」
苦笑しながら大妖精はチルノを伴いステージへ戻ろうとする…しかし、何かを感じ取ったらしいチルノはその場に立ち止まってきょろきょろする。
大妖精「どうしたの?」
チルノ「ごめん大ちゃん、なんかあたい呼ばれた気がするんだ!」
大妖精「チルノちゃん!?
ちょ、ちょっと何処行くの!?
そっちは」
急に走り出したチルノを、訳も解らず慌てて追いかけるコーデリア
るり「いやーすっかり遅くなっちゃったわー^^;
ったく、来るなら酒買ってこいとか私らをパシリにするなんて汚いなさすが少女詩人きたない」
ポエット「ま、まぁまぁいいじゃないですか…もののついでって言葉もあるし…^^;」
るり「っていうかチルノ?
あなた何処へ」
チルノはるり達には目もくれずそのまま駆けていく…。
大妖精「待ってよチルノちゃーん!!><」
るり「あなた…ちょっと待って、一体どうしたのそんなに慌てて?」
大妖精「わわっ…ごご、ごめんなさい、チルノちゃんがトイレから戻ろうとしたら、なんか急に誰かの声が聞こえたって…」
ポエット「…!…この声は…!?
確かに、誰かが呼びかけてるみたい…チルノちゃんはきっとこれに…?」
るり「…私には聞こえないわね。
もしかしたら、呼びかける魔力が小さ過ぎて、敏感な子たちにしか感じ取れないのかも。
コーデリア…だっけ?一緒に行きましょう、何か嫌な予感がするわ…!」
大妖精「は、はいっ!」
幽香「行くわよ…萌風極式『百花万葉繚乱』!!」
幽香は空元気の構え!
致命的な致命傷!
ピエール「ぐはあっ!!
(な…何という威力だ…体が、動かんッ…!)」
アリス「ピエール!
も…もういい、もういいわ!あなたは戻ってッ!!」
ピエール「アリス様…!
お心遣い、感謝する…だが…貴方の為、私が背を向けるという選択肢など…ないのです…!
さあ…かかってくるがよい…私はまだ倒れてはおらん…!」
幽香は無言のまま距離を詰める
彼女は瓦割りでピエールの首筋に軽い当て身を加え、意識だけを飛ばしていた…
幽香「…命とは投げ捨てるものではないわ。
アリスの為に戦うと言うのなら、もっとその剣を磨いてきなさい…!」
幽々子「らしい言葉だわ…でも」
慧音「くそっ…!
何故だ…何故なんだアリス…!
お前は」
一時間ほど前…
サニー「どど、どう言うことなんだよアリスさん!?」
アリス「言葉どおりの意味よ…だから、あいつを受け入れたからと言って、リリカ達の事まで悪く言わないで…みんな」
メディ「で、でも…大切な友達のカタキなんでしょ!?
そのためにあんな危ない目に遭って…蓬莱の力も使えるよううになったんじゃない!」
ミスティア「そうだよ!
そんな奴を自分の味方に引き入れて、私達をやっつけようとしてるんじゃない!
だったらあいつらみんな私達の敵だ!」
「違うわ!」
アリスの剣幕に押し黙る少女たち
アリス「……あの子は……リリカは、自分の過ちを認め、目を背けることなくその辛さを乗り越えて来た強い子だわ。
私は…無暗に自分の感情をあなた達に押し付け…逃げようとした…!
……もしあの子が『幽香』を受け入れたと言うなら……私は、憎悪以外の理由であいつと向き合わなければならないと思ってる…!」
アリス「振り回してばかりで…勝手ばっかりでごめんね。
でも…あなた達まで憎悪にとらわれて…それを理由にしないで…お願い…!」
慧音(お前は…その言葉で私を…私達を欺いたのか…!?
そこまでして…お前は一体何をしようというのだッ…!)
ルナ(この妖怪…やっぱりすごく悲しい目をしてる。
どうしてなんだろう…アリスさんの大切な友達を当たり前のように殺してしまえるような、そんな風には思えない…!)
ルナが振り向くと、蓬莱人形を抱きしめたままのアリスの姿
ルナ「(確かめなきゃ。
最初思ってたように、今のあの妖怪が『倒すべき絶対の悪』なのか)
…アリスさん、私…行くよ」
ルナチャイルドはアリスの返事を待つことなく、ステージへ向かおうとする
そこには何時の間にか、ピエールを抱えた幽香の姿がある
幽香「何をしてるのよ、あんた。
あんたの為に全力を尽くして倒された者を放りだして、目を背けているなんて…彼が哀れでならないわ」
幽香はその場に気を失ったピエールの体をそっと横たえる…
幽香「続けるわよ。
あんた、私を倒したいのでしょう?
だったら…最後までそうしてるわけにはいかないんじゃないかしら」
ルナ「幽香…さん!
あなたは、どうして…どうして」
幽香「知りたければ、まずは私に勝つことよ」
るり「ここは…アリスさんの控室ね」
チルノ「るり!
この扉、開かないんだよ…この中から、誰か呼んでるみたいなのに」
るり「この気配……結界だわ。
ただ留守の用心としてはあまりに物々しいわね…それに」
「良かった…このまま誰も来なければどうしようかと思っていたわ」
大妖精「この声…まさか神綺さん!?
一体何があったんですか!?」
「その声は…コーディね…!
御免なさい…説明している時間はあまりなさそうなの。
私は…アリスの中に潜む憎悪の強さを甘く見ていたわ…このままでは、あの子は試合に見せかけて幽香を殺してしまうかも知れない。
そうなれば……また、太陽の丘は強力な『復讐者』を生みだしてしまう…!」
大妖精「そんな!」
チルノ「幽香を…殺す!?
どうして!?
幽香はすごくいいやつなんだよ!?」
「あの子は…まだ幼かった頃、丘の意思で魔界に災厄をもたらす『復讐者』だった頃の幽香に、友達を殺されているの。
幽香自身も、丘の意思に縛られ他者を傷つけて歩く事に疲れ、その憎悪を吸収して自身の身で浄化するために妖怪となった。
それは、彼女自身にも凄まじい苦痛をもたらす選択だったのにもかかわらず」
「でも、心を通わせたベヒーモスたちの死は、あの子の心に澱みとして残り続けていたんだわ…。
私は不憫に思い、ベヒーモスたちの魂を魔力のコアへ変え、ひとつは蓬莱人形に、もうひとつは、アリスに内緒で完成した上海人形のコアとすり替えたの…今度は…ずっとあの子達がアリスと共に在り続けられるように…でも」
るり「誰かを失った悲しみは、そんな単純なことで埋め合わせできるものじゃないわ。
今は違うけど…私やかごめだってそうだったもの」
「…そうね。
マーサの魂を受け入れたといえども、私にはそれが今ひとつ理解できずにいた…魔界の神としては兎も角、母親としては失格だわ…!」
「私は何としてでも、アリスが魔界の愚かな先達の過ちを繰り返そうとするのを止めてあげたかった…でも…予想以上にコーディ達との戦いは私の力を大きく失わせていたみたいだわ。
最初に飲まされた紅茶の中に、鈴蘭人形の毒が入っていた…それで動きを封じられ、このザマ…魔界の神が聞いて呆れるわ」
ポエット「…るりさん…!
多分この結界、囚われた人の魔力を吸い上げて維持するタイプのものです…このままじゃ、神綺さんも…!」
チルノ「どうしよう…早く助けてあげないと…!」
るり「仕方ないわね。
アンナちゃん連れてくれば良かったわ…あの子の強制解呪だったら手っ取り早かったんだけど」
るりはクローバーをかたどった胸元のブローチを外す…
それはひと振りの杖へと変化する
るり「離れてなさい、三人とも。
今からアンナちゃんを呼びに行ったんじゃ手遅れになるから…此処は力づくで結界をぶち破る!」
ルナ(なんなのよ…このとんでもない妖気ッ…!?
スターなら確かに能力でこの強さが解る…見た瞬間に逃げ出す気持ちが解る!!)
幽香「来ないのかしら?
でなければ…こちらから行くわよ!」
ルナ「…ッ!」
ルナチャイルドは目覚めるパワーの構え!
大地の力が幽香の足を捉える…が、幽香にはぜんえzん効いていない…
幽香はそのまま空元気でルナの体をふっ飛ばした!
ルナ「(う…うそっ…?)」
幽香「いい一撃だわ。
でも残念だけど、その系統の力は私には効かないのよ」
幽香は落ちて来たルナチャイルドの体をそっと受け止めた…
ルナ「…あっ…!?」
幽香「あなたも、うちの妖精達と同じで素晴らしい素質を秘めている。
その力に磨きをかけて、また遊びにいらっしゃい」
幽香はそのまま彼女をアリスの元へ返そうと歩き始める
アリス(…何でなのよ…)
アリス(私の友達を…あんなに簡単に殺してしまったくせに…!
どうして…どうしてこいつはこうして…!!)
アリスの妖気が憎悪に染まる…
その気に反応して、蓬莱人形の目が妖しく光を放つ…!
♪BGM 「死への招待状」/伊藤賢治(「ロマンシング サ・ガ ミンストレルソング」)♪
幽々子「あれは!」
「…許せない…あんたなんか絶対に…!
あの子達の恨み、ここで晴らしてやるッ!」
アリスの怒号に応えるかのように、蓬莱人形は巨大な鎌を構えて幽香へと飛びかかる!
同時に、妖気で幽香の足は絡め取られていた…
ルナ「アリスさん!?」
幽香(…ちっ!
この子で手は塞がっている…仮に投げ捨てても間に合わないか!)
幽香は反射的にルナを庇うようにうずくまった!
慧音「や、止めろアリスッ!
そいつはもう昔の幽香じゃない…それに…それにお前はルナも一緒に殺す気かああああああッ!!」
かごめ「ちっ…そこのもこたん、手を貸してくれ!
あたしたちふたりがかりなら多分止められる!」
妹紅「…ッ!
だがここからじゃ間に合わな…」
永遠にも思えた長い一瞬の中。
蓬莱の鎌と幽香達の間に割って入る黒い影…蓬莱の鎌が切り裂いたのは…!
さとり「あれ…は…!」
レティ「……うそ…でしょう…!?」
さとりとレティが呆然と呟くその視線の先
「…良かった…間に合った…ぜ…!」
一瞬遅れて、その胸元から鮮血が飛んだ
「…まり…さ?
どうして…そんな…嘘よッ…!」
呆然自失したアリスの視線の先…魔理沙の体はゆっくりと倒れていく
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
アリスの絶叫を余所に、標的を捕らえそこなった蓬莱人形は再度鎌を構え直し、幽香への第二撃を敢行しようとする
幽香は魔力の呪縛から解放されぬまま、ルナチャイルドの体を解放する…
♪BGM 「今昔幻想郷 〜 Flower Land」(「東方花映塚」)♪
幽香「…今のうちよ、あなたは安全なところへ行きなさい…!」
ルナ「で、でも幽香さんは!?」
幽香「いいから!」
その剣幕に押される形で、解放されたルナチャイルドはリリカ達の側へと駆けて行く
幽香はその場から動く事が出来ぬまま立ち上がり、蓬莱人形へ対峙した
リリカ「幽香さんッ!」
幽香「見損なったわ、アリス。
憎悪に身を任せるが余り、あなたは様々な理由を付けて何処までも弱くなっていったというのね…!」
蓬莱人形はゆっくりと幽香との距離を詰める…しかし
「あなたも可哀想。
あなたの感情は残っていても…今のあなたはアリスの感情に逆らうことができない。
本当は…あなたもあの妖精の子を殺したくはなかったのでしょう…?」
ルナ「…あれは…!」
リリカ「あの子…泣いてる…?」
アリス達の側からは窺うことはできなかっただろう
同じサイドにいたリリカ達ははっきりとそれを見ていた…蓬莱人形が涙を流しているのを
「解っているわ。
今のあなたは、自分の意思で止まることはできない。
そして…あなたはちゃんと覚えてる。
かつて私が…貴女を殺してしまった…その事実を」
その、悲しそうな表情を
「それでも…貴女は私を…信じてくれるというのね。
解ったわ。
少し痛いかも知れないけど…こんな方法でしかあなたの悲しみを止められない私を…怨むなら怨んで頂戴!!」
幽香の拳に膨大な魔力が集束する…!
「花嵐『幻想郷の開花』」
蓬莱人形はそのまま大上段に鎌を振りかぶり、幽香へと一撃を放った!
「極式 『ブルームカタストロフィー』!!」
次の瞬間、幽香の手から放たれた種爆弾が魔力を開放して無数の光線を放ち、視界を埋め尽くす純粋エネルギーの奔流が解き放たれた。
それは一瞬のうちに蓬莱人形の体を飲み込み…アリスから繋がる魔力の糸を吹き飛ばす。
だが…それだけの一撃を放ったにもかかわらず、光の洪水が引いた後は傷つき倒れ伏した魔理沙の体はおろか、蓬莱人形そのものにすらそれ以上の損傷はなかった。
魔力の制御を失った蓬莱人形は力なく…ステージの上にへたり込んだ。
かごめ「あれが…本来の『マスタースパーク』か…!」
慧音「ああ…そうだ。
風見幽香の、真の必殺技…自然界の気を集束して放つ、純粋な破壊エネルギーによる攻撃だ…だが」
慧音「(制御不能に近いあの技で、至近距離にいた筈の魔理沙を…彼女は守った。
それどころか、蓬莱人形そのものにすら一切の影響を及ぼさずに)」
♪BGM 「傷心のアイシャ」/伊藤賢治(「ロマンシング サ・ガ ミンストレルソング」)♪
こいし「魔理沙…しっかりしてよ、魔理沙…!」
その体を掴もうとするこいしを、さとりが制する
さとり「思った以上に深いわ…ゆすっては駄目よ、こいし。
それに…この色」
レティ「毒、だわ…しかも、かなり強力な」
リリカ「毒…!?」
さとり「恐らく、これは妖怪すらも殺す力を持った強力な毒。
これほどのモノを作り出せる存在はそう多くはない…このようなモノを浴びれば、幽香さんは勿論」
さとりは呆然と立ち尽くすルナチャイルドへ視線を送る
ルナ「そんな」
諏訪子「くそっ…一体なんだってこんなシロモノを…!
あの八意永琳がこんなバカを仕出かすとは考えたくねえが」
ルナ「…!
ちがう…メディ…あの子は、鈴蘭の毒を受けて妖怪になったって言ってた…多分…!」
レティ「ちっ…忘れるところだった…厄介なヤツが絡んでたわねそういえば!
あいつの毒を受けたら、私達だってひとたまりもないってのに…!」
諏訪子「逆にこれだけの出血なら、毒は完全に回りきらずに出尽くすかも知れねえ。
とはいえ、この出血量はヤバい…呼んだところで永琳来るまで間に合いそうにねえな。
さとり、境界操作でどうにかならねえか!?」
諏訪子は回復の神力を放ちながら、傍らのさとりへ振り返る。
さとり「承知しました。
消耗が激しい能力ですが、四の五の言っては言ってられませんね…!」
魔力を込めたさとりの手が振り払われると、そこにひとつの『境界』が形成され…切り裂かれた空間の先に、永遠亭が見える。
諏訪子がスキマへ飛び込もうとすると、すでにそこには道具一式を鈴仙に持たせた永琳の姿がある。
永琳「こんな予想は外れて欲しかったけど…安心して、最悪の事態には備えていた。
けど…肝心のメディスンが見当たらない。
あの子の毒は、あの子の毒からでないと血清が作れない…処置を続けながら、あの娘を探さねば」
みとり「毒が回るのを防ぐくらいなら、私の能力でどうにか…!
早く、あの毒人形を!」
そのときステージのタイルがひとつ開いて、そこからかごめと妹紅と慧音がインしてきた!
妹紅「もこたんインしたお!…ってんなことやってる場合じゃねえ!!><」
かごめ「話は聞かせてもらった!
あの猛毒人形をとっ捕まえてくればいいんだな?
先生、刻限は!」
永琳「みとりの能力を込みで、一刻。
それ以上の保証は出来かねるわ」
慧音「委細承知!
行くぞ妹紅、かごめ!」
そのまま場再びタイルが閉じる…と共に、魔力を使い切ってスキマも閉じた。
さとり「…あと我々に出来ることは…信じて待つくらいですか…!」
リリカ「でも…それしかないよ…!
私達も手伝える限りのことはする…だから!」
さとり「…そうですね…これ以上余計な悲しみを増やすわけにはいきません…!
魔力が戻るのを待っていては遅い、私も捜索に…先生、諏訪子さん…みとりさん。
こちらはお任せしますよ…!」
永琳「解ったわ、気をつけて」
みとり「…承知!」
諏訪子「任せろ。
…拍動が弱い…くそっ、どうするよ先生!?」
永琳「滅多な薬は使えないわ。
止血と一時的な解毒…なかなかそういう都合の良い物が見つかるわけでもないけど…」
幽香「…気休め程度でよければ…用意はできるわよ」
幽香はよろめく足のまま、かざした掌の上に…いくつかの植物を芽吹かせた。
諏訪子「これは…!」
永琳「流石…フラワーマスターの名は伊達では無いわね…!
…恃みにさせてもらうわ…鈴仙、彼女に魔法薬を。
魔力の源がなければ…死人を二人に増やすことになるわよ!
永琳の指示の元、絶望的な応急処置が行われ始めた。
そして…心神喪失状態になりながらも覚束ない足取りアリスはゆっくり、倒れ伏したままの魔理沙の元へ歩み始め…その前に静葉が立ちふさがる
静葉はその剣の切っ先をアリスののど元に突きつけていた…
「ここから先…一歩たりともあなたを近づけさせるわけにはいかない…!」
アリスは力なく、その場へへたり込んでしまった
「…どうして…どうしてこんなことに…。
なんで…なんであんなヤツを庇ったのよ…魔理沙っ…!」
静葉は剣をおさめると…その襟首を掴んで無理矢理立ちあがらせる
「あなた…あなたには見えていなかったの!?
あなたは、あなたの仲間も一緒に斬り殺そうとしたのよ!
それとも何!?
あなたは、自分の復讐が遂げられるのなら、仲間の命も切り捨てられるというの!?
「大好きな魔理沙」以外ならどうなってもいいと、そういう考えなの!?」
アリスは目を伏せたまま答えない
「今のあなたが魔理沙の傍に近づく事は…私が赦さない…!
そして、これ以上幽香を殺そうと言うなら…」
静葉はその体を開放し、踵を返す…
「例え魔界の総てを敵に回す事になっても…この私があなたを斬るッ!!」
その拒絶の言葉にすら何の反応も示さず…彼女はそのままの姿で、呆然とその光景を眺めていた
「…遅かったのね…」
憔悴しきった神綺はるりに支えられながら、一言そう呟いた
「ううん…幽香さんの魔力は小さいけど、戦闘で疲労した程度でしょう…でも」
「魔理沙っ!!」
「魔理沙さああんっ!!」
コーデリアとチルノはその姿を目指して駆けていく…
「……不可抗力とはいえ、あの子は自分の一番大切な存在を傷つけてしまった……!
魔理沙は…ううん、「魔梨沙」なら…きっとそうする筈だと解っていたでしょうに……!」
その言葉に誘われるように…少女たちに近づく一つの影。
その金髪の少女も、泣いていた。
「…ごめんなさい…!
私が…私が余計な事をしたせいで…魔理沙が…アリスの好きな人が…!」
メディスンは幸か不幸か、あっさりと見つかった。
余りの事態に動転した彼女も、一度はこの場から逃げ出したが…しかし、冷静さを取り戻し始めると、彼女はその場から動けなくなっていた。
そして、かごめに促されるまま…おとなしくその場へと戻ってきたのだ。
るりは神綺の体をポエットに預けると、その頭に優しく触れて諭す。
メディスンはすでに毒を放っていない。
彼女は既に、ダダ漏れになっている自身の猛毒を、制御できるようになっていたのだ。
「これも…避けられ得ぬ運命だったのかも知れないわ。
きっと、私やかごめでも…同じ立場だったら同じことをしてしまうと思う」
「でも…私…あの毒を作ったの…神綺さんを縛った結界を持ってきたのも、みんな私だから…!」
「あなたは、アリスの心に応えただけよ。
…もし、自分に責任を感じているのであれば…今度同じような事があったら『友達』として彼女を止めてあげなさい…!」
彼女はるりに体を預けたまま、無言で頷いた。
「…さ、いってやってくれ。
早くしないと、あいつが死んじまう」
「うん」
かごめに連れ添われ、メディスンは治療の続けられる魔理沙の元へと歩いて行く。
文々。のメモより
それからさらに半日近い懸命の処置により…霧雨魔理沙は辛くも一命を取り留めました。
名医・八意永琳をして、初動迅速な処置があったからこそ彼女の命は助かったのだといいます。
メディスンが即時に戻ってきてくれたこともさることながら…私はそれを認めざるを得なかった。
『風見幽香という妖怪』の真実を。
月の光の妖精が言うには、彼女は何か強く、悲しい決意を抱いてその場に立っていたように見えた、と。
彼女は直接対峙し、何も出来ずに退けられたと言え…その心になにひとつ、狂気も憎悪も感じられなかったと。
それどころか…彼女ら三妖精の力を嘉し、賞賛してくれたのだと。
神綺様からも『復讐者』の存在を聞いてはいましたが…私はアリスの心に共鳴するあまり、今ひとつ受け入れられずにいました。
ですが…こうした話を聞くにつれ…私自身がその人物を目の当たりにして…その『悲しみ』を理解せざるを得なくなっていました。
なぜなら…
蓬莱人形の「心」を汲み取った彼女の瞳は…あの時「私を助ける」と宣言してみせた我が友・射命丸文と瓜二つだったから。
魔理沙の容体が安定したところを見計らい、面々は永遠亭へと移って来ていた
その後の場の収集に奔走し、あるいは容態の変化に対応すべく各々出来ることをやった結果、全員が様々な形で疲弊を隠せずにいた。
輝夜「まるで野戦病院ね」
るり「御免なさいね、大人数で押し掛けてしまって」
輝夜「まぁ、そのあたりは仕方ないわ。
容体は安定したけど、まさか魔法の森のゴミ屋敷に放りこんでおくわけにもいかないじゃない。
永琳はじきに目を覚ます、とは言ってたけど…使った血清自体も毒の強さが半端じゃないって言ってたから、暫くは此処で療養させるしかないわね」
輝夜が「毒」と言ったあたりで…その原因となったメディスンが暗い表情で目を伏せる…。
輝夜「そこの龍族も言ってたと思うけど、やってしまった事は仕方がないわ。
むしろあなたが素直に名乗り出てくれたお陰で、あの厄介な毒の解毒剤を作る事が出来た…これに懲りたら、もう少し後先考えて行動することね。
あのHでも出来ることよ」
輝夜が目をやった先には、難しい顔をしたままのチルノの姿があった…。
別の部屋。
そこにはこれまでの経緯を、三月精や慧音らに語る神綺の姿がある。
♪BGM 「夢消失 〜 Lost Dream」/ZUN♪
神綺「…私が許せなかったのは、それを早くアリスに教えてやらなかった自分自身だわ。
確かに、それを知っていて幽香に喧嘩を吹っかけたサラ達も赦しがたい…けれども、アリスが知っていれば、連中の愚行を止める事も出来たし…あの悲劇は避けられたかも知れないのに」
慧音「そうなのか。
だが、アリスは霊夢や魔理沙に救われたと言っていたが…八百年前だというなら辻褄が合わんぞ?」
幽々子「転生よ」
慧音「転生?」
幽々子「あのふたりは、当時の記憶を持ったまま生まれ変わっているの。
その頃の魔理沙は…ううん、「魔梨沙」というべきかしらね。
今の姿とは似ても似つかない、紅い髪の少女だった…でも同じ韻の名前、同じ魂の持ち主だから、記憶の中で混同されてしまったのでしょうね」
神綺「そう。
でも魔族と人間の残酷な違いで…時が流れて親友であった彼女をも失い、心の傷も癒せなくなったアリスは、部屋に閉じこもることが多くなったわ。
だから…私は白玉楼へ出向き、彼女が転生の時を迎えたら知らせて欲しいと頼み…そして、私は二人の出会いを仕組み、アリスを王城から幻想郷へ移り住まわせたわ。
新たな環境での生活に支障がないよう、人間や妖怪と同じようにファミリーネームを与えて」
「私は、幽香の生まれた太陽の丘が、幻想郷に流れた事も知っていたわ。
丘は幻想郷へ落ち着き、魔界で会盟により平穏が訪れたことでこれ以上丘を汚す要因もなくなり…尚且つ幽香は時を同じくして妖怪となり、自らの苦痛を代償に誰も傷つけることなく、丘の怒りを浄化する道を選んだ事も。
丘は小さくなってしまったけど、アリスが幻想郷へ移り住む頃には古の美しい姿を取り戻し始めていた」
「知ってほしかったのよ、私達が壊そうとしてしまったモノがなんだったのかを…その本来の、美しい丘の姿を。
それを取り戻そうと、苦痛を抱え込んで変わった…風見幽香の姿を」
「でも、あの子の憎悪は収まるところを知らず、埋火のようにくすぶり続けていたのね。
結果として…あの子は自らの手で、大切な存在を傷つけることになってしまった…もう、あの子は駄目になってしまったかも知れない」
慧音も幽々子も…誰も一言も返す事も出来ずにいた。
当のアリスは、宛がわれた一室の隅にしゃがみこんだままだった。
締めきった奥の間、一切の明かりを避けるかのように、彼女はそうしていた。
誰もが、彼女にかける言葉を持たず…結果、彼女はひとりきりだった。
常に傍らにいた上海、蓬莱二体の人形もそこにはいなかった…。
仲間を巻き添えにされかけたスター、サニーを筆頭に…まず彼女を襲ったのは敵味方問わずの非難。
既に心身を喪失していたこことは果たして彼女にとって幸せだったのだろうか…否、彼女の心の冷静な部分は、その怒りの言葉を全て記憶していた。
「自分はもう駄目なのだろう」と…この状況を冷静に見ている彼女自身は自嘲する。
覚悟の上だったはずだ。
自分自身の憎悪は…長く封じていたはずの感情を蘇らせてしまった事で、決壊寸前であったこと。
三月精やミスティア達に告げた言葉も、それは自分の中で暴走寸前だったその感情を抑える言葉だった筈なのに。
自分の心に負けてしまったその代償は…途轍もなく大きかった。
(もう…どうでもいいや…)
心の中でそう、呟き…その手には、人形に持たせておく鋭利な銀のナイフ。
(ごめんね、みんな。
もう…私は…駄目なんだ。
私は……リリカ達のように強くはなれないから…!)
それをゆっくりと、己の喉元へあてがおうとする…!
それは、何時までもその肌を傷つけることはなかった。
確かなぬくもりと、抵抗する力を感じ、彼女は顔を上げる。
「…駄目です…!」
何時の間に入って来ていたのだろうか。
「あなたは、此処で逃げちゃ駄目…!
絶対に…それだけは駄目なんです…!」
暗い部屋の中、そこに光を灯したのは一人の天使の少女だった。
(続くっぽい)