現在から二百年ほど前…太陽の丘


「御機嫌よう」


何の前触れもなく、その妖怪は姿を現した。
クセのない金の長い髪をストレートに流し、シンプルな紫一色のワンピースを纏ったその姿は…現在まで知られる彼女その姿そのままで。


「何か用」


その視線の先には、チェックの入った紅い衣装を身にまとった、緑色の髪の少女。
胡散臭そうに、その紫の少女を見やり、にべもなく言い放つ。

その瞳は、明らかに紫の女性に対して敵愾心を…否、警戒心を抱いている。


「別に戦いに来たわけでも…まして、この丘を焼き払いに来たわけではないわ。
魔族の連中と、私は違う」
「どうだか…お前のような奴は信用できない。
向日葵達も言ってる…お前は、胡散臭いって」
「そうね、よく言われるわ。
でも、丘に関わる話を持ちこんできたことは確かよ」

歯に衣着せぬその、余りにストレートなモノ言いに、紫の女性は苦笑を隠せない。
そのとき、緑髪の少女が何かに気がついたように顔をしかめる。

「何者だお前、すごく強い力を持ってる」

あら、と感心したように呟く紫の女性。

「ウワサ以上の力の持ち主ね。
嘗て魔族の愚かな王たちが、この強い土地から力を得る為、蹂躙したことへの恨みから土地そのものが生み出した妖精…『復讐者』。
その力は夢幻の力に通じ、我々妖怪すらはるかに凌駕し、神にも匹敵すると言われる」

真剣な表情のまま、厳かに続ける女性。


「それゆえ、この丘は狙われているのよ。
世界を飲みこもうとする『虚無の永遠』によって。
ヤツが此処を飲みこめば、より強い力を得、今まで以上にどん欲に世界を食らうでしょう…私はそれを防ぎたい。
だから、この丘ごと私の作った隔離世界…『幻想郷』へと移って欲しいの」


少女は無言で、紫の女性を睨み…暫しの沈黙の後。


「条件がある。
それと、確認したい事もだ」
「なんでしょう?」

少女は目を伏せることなく、相手の瞳をじっと見据える

「その世界には…この丘を蝕もうとする輩はいないのか?
そして…魔族はどうなった?
あいつらがこの丘へやってこなくなって…百年から先は覚えていない」
「魔族は…今から四百年前、当時生き残っていた強大な力の持ち主たちが代表者として盟を結び…互いに相争うことをやめました。
今の会盟が破られぬ限り、この丘が…いえ、地上の何処も彼らの好きに蹂躙される事もなくなるでしょう。
そして…私が作ろうとしている『幻想郷』は、貴女たちのような存在があるがままに存在する事を…残酷なまでに受け入れる世界となる筈。
あなたがこの丘を美しいものとして保とうとする限り、穢されることはないでしょう」

少女は一度眼を伏せ、溜息を吐く。

「私に…丘の悪意すべてを集めてとどめることはできないか?
丘の貯め込んだ悪意を、私自身に集束することで…丘は元の美しい姿を取り戻せるはずなんだ。
向日葵達に…もう悲しい想いをさせたくない…誰かを恨んだり、憎んだりと言う事をさせたくない…!」

女性は一瞬、怪訝な表情をするが…すぐにその真意を悟った。

「あなたは…そのために存在し続ける限り、地獄の苦しみを得ることになりますよ?
そして…あなたの貯め込んだ悪意が完全に浄化されるまで…そこから解放される事も、消滅する事も許されない
「構わない。
私は、十分過ぎるほど他人を傷つけた。
魔族といえど…皆が皆、不当に傷を負っていい筈なんてなかったんだ…!

紫の女性は、気丈に言い放つその少女をそっと抱き締める。

「強く…そして、優しい子なのね、あなたは…。
その願いを叶えることそのものは、容易い事……覚悟はいいのね?」

少女は頷く。


次の瞬間、強大な妖気が少女の体を包み込み…丘に絶叫が木霊した

「太陽の丘」と呼ばれたその地が、その場所から完全に消滅したのはそれから間もなくのことだった。


……





「幽香さん?」

目を覚ました彼女が目にしたのは、心配そうに自分の顔を覗き込む、プラチナブロンドの少女…リリカ。
この新たな「遊戯」が始まってから、自分のパートナーを務めてくれているその少女に、幽香は溜息を吐く。

「随分、うなされてるようだったよ…」
「何でもないわ」

彼女…風見幽香はゆっくりと、リリカに支えられながら体を起こす。


戦闘で限界まで魔力を使って、その体で傷を負った霧雨魔理沙を治療するための薬草を生みだしたことで、限界に達した彼女もまた永遠亭の一室で休息を取っていたのだ。
本来、睡眠を必要としない妖怪…なかでも、幻想郷でもトップクラスと言われる彼女ですら、強制的な睡眠を強いられるほどの疲労だった事は想像に難くない。


「幽香さん!」

その気配を感じたのか、急にその部屋の扉が開いて幾人かの妖精・妖怪たちがなだれ込んできた。
いずれも、もう随分見慣れた面々だった。

そのうちの半分は…

「魔理沙があんな目に会った遠因は…私にあるわ。
アリスの事情がどうあれ…私を倒すなら今がチャンスなんじゃないかしら

彼女は静かに、そう告げた。
顔色を変えるリリカを、そっと手で制しながら…しかし。


「ごめんなさい…私達、神綺さんから本当の話を聞いたんだ」
「幽香さん自身もきっと…すごくつらかったのに…それなのに…!」


手前にいた二人の少女…サニーミルクとルナチャイルドの瞳からは大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちていた。
幽香は苦笑し…ふたりを抱き寄せて小さな声で「馬鹿ね」と呟いた。


「アリスの感情は、きっと正しいわ。
嘗て…丘の意思とはいえ、私がやったことには変わりがないのよ。
あの子が大切な友達を奪われた心の痛みは…私が受けている苦痛に比べればとても小さい事



「でも、幽香はそれを悪いことだって解ってるんだよね!?
本当は…いっぱい謝って…アリスとも仲良くしたいって…本当は…!
「そうかも知れないわね」

同じように泣き顔のチルノの言葉に、幽香は溜息を吐く。


「だから…あなた達も、あの子の事をもう少し解ってあげて。
今…きっと一番つらいのはアリスだって言う事を」




ポケモン対戦ログ(2010.3.26)のおまけのようなある意味本編のようなエピローグ
-比翼の鳥、帰るべき場所
-



♪BGM 「violet」/パーキッツ♪


「離して」

彼女はその表情を見る事も…何故部屋に入ってきたのかの誰何もせず、ただそれだけを伝える。
だが…その少女が激しく頭を振っているのが、手元からもアリスに伝わっていた。

「駄目です…だって、あなたは」

その少女はしっかりと、アリスの手を握って離さない。


「もう嫌なの…私が心を見せると、みんなみんないなくなってしまう…!
魔理沙…「魔梨沙」もそうだった。
あの子達が居なくなってから…私を励まそうとして…無茶をして…!


アリスは手の握られた方向から顔を背ける。


「私は…もう私のせいで…「まりさ」が死んでしまうのは見たくないのッ…!」


声は泣いているのに、涙は流れようとしなかった。


昔からそうだったのだ…心の底から、彼女は「泣いた」記憶がない。
この悲しみを形にする術を、彼女は知らない。

涙は負け犬の証なのだと…「魔界の神」とまで呼ばれた母親の言葉故に。


「大丈夫。
魔理沙さんは、そんな弱い人じゃない。
…だって…魔理沙さんはあなたともう一度会うために生まれ変わってきたんだから…それに」


顔に布の感触を感じて、アリスは驚いて顔を上げる。
そこには上海人形と…蓬莱人形。

表情がない筈の人形なのに…アリスは「彼女達」が悲しそうな表情をしているように見えた。


「それに…この子達も。
あの時、あなたを悲しませてしまった事を…ずっと思い悩んでいたんです。
この子達にも…きっと魔理沙さんにも…あなたが必要なんです、アリスさん…!


その時、アリスは初めてその少女の顔を見た。


今にも泣きそうな表情の、その少女の顔を。


その天使の少女…ポエットの言葉は、確かにアリスの心へと届いていた。


……





「目を覚ましたよ、魔理沙のヤツ」

宛がわれた広間で結果を待つ少女たちの元に、てゐが姿を現したのは…彼女が運び込まれて丸一日近く経過していた。
そこには報せを受けた霊夢、あるいは打ち上げの用意のため先に白玉楼へ戻っていた妖夢、文々。などの姿もある。

「思った以上に早かったわね…元々、殺しても死ななさそうなヤツだったけどさ」

軽口とは裏腹に、霊夢の表情も硬かった。

その軽口は、聞き様によっては皮肉にも取れただろう。
恐らくはてゐの言葉も何処か信用しきってはいないのかもしれない…が、霊夢はあえてそれ以上を口にしようとはしなかった。

「応急処置が早かったおかげさね。
師匠も、ここまでの処置がなければ解んなかったって言ってたよ…けど、まだ予断の許されない状況だって。
もし話したい奴がいるなら、って言ったら」

てゐは満座の顔を見回す。

「予想は出来てたけど、訪ね人はないようだね」

その言葉に、少女達も察したようだった。
魔理沙が…誰を求めているのかということに。


「多分、それは無理な相談だと思います」

沈黙を破ったのは、さとりだった。

「彼女は、自分自身の殻に閉じこもってしまった…今は、彼女の心に立ち入ることは不可能。
…同情の余地がないとは言いませんが…?」

さとりはその気配を探り、違和感に気付いた。
しかし、それを億尾にも出さずそのまま口を噤む。


「そか、じゃあそう伝えるしかないね。
とりあえず、一命は取り留めたから、あとは暫くこちらで預かる形になるね。
あんたらももう大方回復したと思ったら、今日は此処でお開きにしてくれればいいと思う。
送りが必要なら、兎達に竹林を案内させるから。
魔理沙が十分に回復したら…兎達を使って連絡するよ」


てゐは用件を伝え終えると、ひらひらと手を振ってその場を後にした。


てゐが去った後、帰り支度を始める少女達を横目に、さとりは気取られることなく、その違和感の正体を探り始めた。
不意に、後ろからスカートを引っ張られる感覚を覚え、振りかえると寝転がったままのかごめ。

「…どうやらうちの御節介焼きが、何かしに行ってるみたいだね」
「……ポエット?あの子が?」
「ああ。
…あいつは、見た目よりもずっとしっかりしているし…あいつに任せてみよう。
あたしゃ、あいつが帰ってきたら一緒に帰る事にするよ」





……


「行きましょう、アリスさん。
魔理沙さんは、きっとあなたの声を待ってる筈…あなたじゃなければ、きっといけないんです…!」

ポエットはその手を引いて、アリスを立たせようとしたが…しかし、アリスは手を振りほどこうとする。

「駄目…駄目なの…!」

アリスは再び目を伏せる。


「秋神は…私に、魔理沙へ近づかせないって言った…。
それに…一体今更…どの面下げてあいつに会えばいいの…!?
私は…今の私には、魔理沙に伝える言葉を持っていないわ…!



ポエットは、構わずアリスの顔を抑えて無理矢理無理合わせにする。
見開かれたその瞳の中に、泣き笑いのようなポエットの表情が映り込んだ。


「大丈夫、あなたがちゃんと想いを伝えれば…静葉さんならきっとわかってくれます。
言葉がないなら…想いを伝える手段ならいくらでもありますよ…!


気づけば…アリスはポエットに手を引かれるまま、立ちあがっていた。


「えっと、てゐさん…でしたよね?
出来れば…皆さんに見つからないように、案内をお願いできますか?」

ポエットは閉じたままのふすまの向こうへ呼び掛ける。
そのふすまがすっと、唐突に開き、何処か面喰った様子の兎の少女の顔があった。

「こいつぁ驚いたね…まぁあの吸血詩人に関わってる奴じゃそのくらいは当たり前かね…いいよ、私もそいつを探してたんだ。
嘘を吐くのっても存外楽じゃなくってね…あの馬鹿みたいにカンの良い紅白に地霊殿の覚もいたし」

てゐは不意に真剣な表情を見せる。


「多分、そろそろヤマだ。
師匠も鈴仙も力を尽くしたけど、あとは運を天に任せるしかないって言ってた。
もしあんたが罪の意識を感じているのであれば…あんたは魔理沙の傍で心から祈ってやるべきだ…アリス!


……





「来てくれたわね、やっと。
正直、この程度の幸運も起こしてくれないようなら…事が済んだら鍋にでもしてやろうかと思ってたけど」
「ちょ…それはちょっと洒落んなってないんじゃねセンセ?
けどなあ、正直あのアリスを立ち直らせるのは奇跡に近いと思ったよ…多分」

てゐは後ろの少女二人を一瞥し、苦笑する。

「私よりもあの天使、マジで『幸運をもたらす程度の能力』を持ってるのかも知れんね」


魔理沙は点滴と呼吸器を付けられた状態で、静かに横たわっている。
呼吸は安定しているようだが…それは今にも消えようとする蝋燭の火を思わせる弱さだった。

ポエットに促されるまま、アリスはゆっくりとその傍らに腰をおろし…魔理沙の手を取った。


「…ごめんね…」


呟いた言葉と共に…俯く顔から涙がこぼれおちる。


「私が…私が弱かったせいで…またあなたを傷つけてしまった…!
ごめん…ごめんね…まりさっ…!」


その涙で、ふたりの手が雨に打たれたように濡れる。


「……お願い……もう私を……ひとりにしないでっ……!」



長い沈黙の後。




「………ああ、解ったよ」




その言葉にはっとして、アリスは顔を上げる…。


「なんだ…泣いてるのか、アリス?
お前がそうやって泣いてるの…初めて見た

てゐとポエットは顔を見合わせ…憔悴して休んでいた鈴仙も驚きの表情を見せた。

「良かったわ、目論見通りに行ってくれて」

永琳も呟く。


「まり…さ…!」
「あーあ…折角の可愛い顔が、台無しじゃないか…。
でも……偶には、悪くない…」

その手がゆっくり、アリスの頬に触れ…涙を払う。


「心配ばっかりかけてごめんな…アリス。
でも…私はもう、大丈夫だから…」



アリスはその言葉を待つことなく、その体に抱きついて泣いていた。
その姿に、同じように涙を流す鈴仙をポエットが宥め、永琳もホッと息を吐く…。

てゐは気づかれぬように部屋を出た。


「あとは当人同士の問題。
へそ曲げてないで、そろそろ大目に見てやったらどうでえ…秋の神様よぉ」

てゐは竹林の外角…永遠亭の開けた庭の中、柳の樹の上に陣取る緋色の女性…静葉へ告げる。

「別にへそを曲げているわけではないわ。
さっきは…あの感情のまま、魔理沙に会わせるわけにはいかないと思っただけよ。
何仕出かすか解ったもんじゃないし、下手すれば死人を増やすだけよ」

にべもなく言い返す静葉。
しかしその表情は、何処か安堵したような、感情の置き場に困っているようにも、てゐには思えた。

「やれやれだね…私が言えた義理じゃないけど、長い事妖怪だったり神様だったりやってると、理屈っぽくなっていけないのかね。
ポエットだっけ?
あの子くらい素直にいられれば、こんなことで逐一理屈をこねまわさずに済んで楽かもと思うと、ちょっと羨ましいねぇ」
「あの子は特別だからね」

静葉は身軽な所作で、ふわりと大地へ飛び降りる。

「皆、帰ったようだし、魔理沙も意識を取り戻した。
私もそろそろ山へ帰らせてもらうわ」
「お?
案内は要らないのかい?
知らねえ顔じゃねえんだし安くしとくよ?」
「見くびられたものね…こう見えても、山の紅葉を司る神。
竹達が帰り道を教えてくれるわ。
皆に宜しく伝えておいて頂戴」

さいでしたね、とてゐは息を吐く。
その姿が竹林へ消えていくのを見届け、てゐもその場を後にした。


……





魔理沙が回復したとの知らせが、当事者達の元へ届いたのはそれから三日後のこと。

既に生活には支障のないレベルに回復したとはいえ、療養のため暫しの経過観察が必要と言う事もあって、もう一週間は永遠亭から出られないと言うことだった。
見舞いは許されると言うことだったので、妖夢やリリカなどといった連中が連日押し寄せ、余りにも煩いからと面会時間が設けられたりもしたものの…魔理沙は日を追うごとに普段の調子を取り戻して行ったが…その中に、アリスの姿を見ることはなかった。



そして…かの事件から十日ほど後の事。




博麗神社の境内。
アリスはその主である当代の博麗巫女・博麗霊夢の元を訪れていた。


普段連れ歩いている人形たちの姿もなく、その姿は簡素そのものとはいえ、旅装だった。


「つーかさ、あいさつしに来る相手が違うんじゃない?
私なんかより、むしろ魔理沙のところへ行くべきでしょ?
聞くところ、あんたあれから一度も永遠亭に行ってないそうじゃない」
「会いたくない…って言ったら、確かに嘘になるわ。
でも…あいつの顔を見たら…見てしまったら、決心が鈍りそうなの

呆れたような霊夢に、アリスは寂しそうに笑って答える。


「私の心は…昔と変わらず弱いままだもの。
感情にとらわれ、私を慕ってくれた子まで一緒に殺そうとすらしてしまった…。
上海や蓬莱に心がある事を知っていながら…あの子達の『こころ』を理解してやる事も出来なかった


今…私が越えたいのは…私自身よ。
リリカやかごめ、それにユルール達…勿論、幽香なんてハードルが高過ぎて、今の私の手に負えないもの」


そう応えたアリスの表情は…霊夢の記憶の中に残る、八百年前の彼女の表情に重なったように見えた。
魔理沙の言う「何事にも一生懸命で輝いていた」彼女の、その面影に。


「あっそ。
ま、一度こうと決めたら頑固なところは、本当に変わんないものねあんたは……そこが、あんたのいいところでもあるのかもね

霊夢もまた、くるりと背を返す。


「また、あいつらと私を戦わせなさいよ。
このまま負けっぱなしで終わるなんてシャクだわ。
折角面白くなって来たってのに…あんたが居ないと話にならないとか面倒くさくてしょうがない」
「ええ…それじゃあ、魔理沙や皆によろし」


「そうやって…お前はまた私を置いてきぼりにしようとするんだな」


霊夢の方へ振り向こうとしたアリスはその声に、はっとしてその方向を見る。

博麗神社の鳥居の上。
爽やかな春の陽の逆光は…その部分だけ黒と白に切り取られて。


「ったく…フスベでカイリューの破壊光線にぶっ飛ばされて、途方に暮れてたのに放置プレイとかなぁ。
挙句、折角死の淵から蘇って来てやったってのに、その可愛い顔を見せにすら来やがらねえと来たもんだ…いい加減泣くぞこの野郎」
「まり…さ…!」


その呟きに、おう、と一言答えて魔法使いの少女が鳥居から軽やかに飛び、アリスの丁度目の前に降り立った。
アリスは反射的に顔を背ける。


「馬鹿っ…なんで、何で来たのよ…!
あんた、まだ安静にしてなきゃならないんでしょ…どうしてじっとしていられないのよっ…!」
「だってよう、私が寝てる横で輝夜と妹紅のヤツがこれ見よがしにいちゃついてるんだぜ?
あんな喧しい連中の居るところで大人しく寝てなんてられねえって…てゐの野郎は油断してると茶ん中に山葵山盛りにして持ってきやがるし」

逃げようとするアリスの肩を、魔理沙は掴んで無理矢理引き寄せる。

「かごめとさとりから聞いたんだ。
お前が、私に黙ってひとりで旅に出ようとしてるって。
なんで、そんな水臭い事を」
「…だって…私…!」
「もう逃げるな!」


その声に、アリスは反射的に、魔理沙と至近距離で向かい合った格好になり…驚いたアリスの顔と真剣な魔理沙の顔が、お互いの瞳に映り込んでいる。



「妖夢や文には悪いけど、お前が何と言っても私はついていくぜ。
お前みたいな危なっかしい奴、ひとりになんかしておけないからな…!
拒否権はねえ…これからお前と私、生きている限りずっとだ!!




♪BGM 「HOWEVER」/GLAY♪


何時の間にか神社の境内には、何処にこれほど…と思えるような黒山の人だかり。
今回の事件に関わった人間も妖怪も妖精も、しっかりとその手を取り合って山道を駆けていくふたりの少女の姿を見守っていた。

「ったく、本当に面倒くさい連中だわ」

吐き捨てるようにそう呟き、本殿へ向かって歩き出す霊夢の表情も、何処か嬉しそうに見える。


「リリカ、あんたこれでよかったのかい?」
「うん。
悔しいけど、やっぱりあのふたりはお似合いだよ。
あそこまでやられたらもう、黙って見送ってあげるしかないよ」

困ったように笑うリリカの肩を叩くかごめ。


「出来れば…私達も一緒に行きたかったけど…」
「あのふたりの中に割って入るなんて野暮な真似、とてもではありませんが小生にはできませんな…どこぞの出歯亀鴉ならいざ知らず」
「相変わらずいい度胸してるわねこの木っ端は…(#^ω^)
そろそろ天狗業界でも、あのふたりの色恋沙汰を追っかけるのはナンセンスになってんのよ。
そういうのが解らない引きこもり天狗も居るけどね」

苦笑する文。

「まぁでも、今はもっと面白そうな被写体がいると言うのもあるけどね」

その視線の先には…チルノ達を遠くから眺めるミスティアと、同じように幽香を眺めるリグルの姿。


「お前たちも…行きたい場所があったなら行っても構わないんだぞ?」

不意に肩を叩かれ、リグルとミスティアは驚いたような顔でその主…慧音の顔を見上げる。

「先生」
「アリスには、あいつが帰って来たときに私の口から報告しておくよ…きっと、駄目だとは言わんさ。
自分ばかり幸せになって…お前たちの自由を奪うような事はしないよ」
「でも…先生は」
教え子であるお前たちは…何時か、教師である私の元から巣立って行かなきゃならん。
それからは私からではなく、自分たちの力で色々な事を学んでいくんだ
…チルノやルーミアのようにな」

寂しそうな眼をした二人を、慧音は優しく諭す。

そして…何時かそうして学んだ事を、私に見せてくれればそれほど嬉しい事はない。
幸いにも、この新たな遊戯はこれからも続いていくんだろう。
私とお前たちが相対した時は…その力の総てを私にぶつけて見せろ。
私も全力でそれに応えよう…!」

「先生…!」
「先生っ!」

ふたりの姿を抱き寄せる慧音。
その瞳からも、一筋の涙が零れ落ちた。





……


陽は大きく西に傾き、春の空は鮮やかな茜色に染まる。
人気のすっかりなくなった境内に、ミスティア達三人が取り残されている。

主である霊夢も、人だかりを追い払いもせずそのまま、夕食の買い出しへと里へ向かっていた。


♪BGM 「ココロノママ」/パーキッツ♪


「先生、ひとつ、お願いがあるんだ」
「何だ?」

ミスティアは一枚のカードを、懐から取り出す。

「このカード…アリスと一緒に戦った時、私じゃ巧く使えなかった。
というより…これに類する技は、今の私の姿じゃ使えないって言われたんだ…でも、リグルなら巧く使えるかも知れないって…リグルが幽香さんの所へ行くって言うなら、私達も別々の道を行くことになるから…だから、このカードをリグルに託したい」
「みすちー」
「私、文さんの事も聞いてるんだ。
スペルカードの譲渡には…先生みたいなひと達が赦してくれなければいけないんでしょ?
だったら…先生がいる間に、先生に証人になって欲しいんだ」

慧音は苦笑し、溜息を吐く。

「あのなぁ…肝心なことは聞いているクセに、細かいところを忘れてしまうのはお前の悪い癖だな、ミスティア。
このまま私の元から離れてしまうのはちょっと心配だぞ」

「スペルカードの譲渡には、立会人として基本的には八雲紫、もしくは今里へ買い出しに言ってる博麗の巫女を必要とするんだ。
もっとも、この様子もずっと見ていたのだろう…紫?」

慧音は背後の樹に呼び掛ける。

「とうとうあなたにまでばれてしまいましたわね。
私の居そうな気配と言うのは、そんなに解りやすいモノなのかしら」

不機嫌な表情を作って見せながら、影から件の八雲紫が姿を見せる。
更には、魅魔の姿も。

「しかし、紫よ。
いくら荒療治が必要とはいえ、神綺にまで伏せておいてよかったのかい?
あいつの動きを完全に封じられる程度の結界を作り、それを呪符にしてあの鈴蘭人形に渡しておいて、アリスが使うよう仕向けさせた…悪霊のあたしでも、長年の親友に一杯喰わせる形になってちぃっとばかし心が痛むんだがね」
「彼女には悪い事をしたと思うわ…でも、今のままではアリスはいずれ、もっと大きな事件の引き金になったかもしれない。
古明地こいしが魔晶石に触れて暴走した時、一緒にカタを付けてしまいたかったのが本音だったのだけれども…あの吸血詩人、思った以上に手際が良かったものだから」
「彼女は夢想家にして合理主義者だ。
本来、あなたとはそりが合わんだろうと思っていたがな」
「ですが、正対称過ぎるからこそ逆にウマが合うのでしょうね」

慧音の指摘にも、ころころと笑って返す紫。

「ところで、本題に入りたいのだが?」
「ええ、私には否定する理由はありませんわ。
アリスの成長を見る試金石としても丁度いい」
「酷い言い草だねえ…そうやってふんぞり返ってると、そのうちこの子達に足をすくわれるよ?
あ、どこぞの氷精に既に足をすくわれてたっけか?」

皮肉たっぷりの魅魔の指摘に、あれはノーカンにして欲しいわ、とそっぽを向いて見せる紫。

「だ、そうだ。
これで譲渡が正式に認められた形になる。
この賢者様がお亡くなりになられぬ限り、こういう形式が続くという事はしっかり頭に叩き込んでおけよ」
「はーい」
「解りました…だったら、私もみすちーにこのカードを託しておきたい。
もしかしたら、この技は今のみすちーの方が相応しいような気がするから」

リグルが差し出してきたカードを見て、ミスティアも慧音も絶句する…。

「り、リグル…それはいくらなんでも」
「お前…それはお前の象徴的な技ではないか…流石に、それは」


「でも、ドラゴンタイプの技には『流星群』っていう技があるんでしょ?
ドラゴンを討てるのは同じドラゴン…この技のイメージは、きっと今のみすちーのほうが似合うと思うから」


「成程、そういう見方もできますわね」
「よく勉強してるじゃないかこの子…いいのかね、こういう戦力になりそうな連中をほいほいと手放すなんて」
「アリス…と言うより、神綺さんが些か張り切り過ぎて、かなり強力な助っ人を次から次へと連れてきていますからねぇ。
少しくらいバランスを取りに行ってもいいし、むしろ足りないくらいですわよ。
スペルの交換、と言う事は前例のない事ですが…互いの譲渡と言うことで読み替えれば問題はないですわね」



互いの力を交換し…ふたりの少女は今、慧音の元から巣立っていこうとしていた。
アリスが新たなる一歩を踏み出したそれを見守っていたのは、立ち会った三名と…。



「別れはきちんと済ませて来たようだな…後悔はしていないね、あんた達?」

博麗神社から離れた山道、日も落ちた場所に待っていたのは黒髪の吸血鬼。
そして、その傍らには緋色の、秋の神。


「ええ…私も、チルノ達と一緒に戦ってみたい…!
あいつらを倒すんじゃなくて…同じ目線で戦って…追い抜いてみたい!
私も、幽香さんの傍にいたいんです…!
足手纏いになるだけかもしれないけど…でも、私…頑張りますから…!」


真剣なその表情を受け、吸血鬼と秋神は顔を見合わせ、頷く。


「歓迎するよ、あんた達。
そういう覇気のある連中は、何時だって受け入れる席がある!
「きっと、幽香も喜ぶわ…あなたの事、何だかんだで気に入ってるみたいだからね。
あの子の事、ちゃんと支えてあげて頂戴ね?」


「はい!」


差し出された手の先。
そこからまた新たな『旅立ち』を迎えるふたりの姿があった。



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かごめ「と言うお話だったとさ

るり「というか」
文「ええ…蒼天航路のセリフもこうして使うとすっごい殺し文句ですよね…」
るり「以後の生涯ずっとだ!!!(キリッ)…だっけ?^^;
  一体何処をどうひねったらこんな香ばしい展開が思いつくのやら」
かごめ「此処までアリスの扱いを酷くしていてなんだが…そもそも狐が東方へ入門したきっかけは同人のマリアリ本だったからなぁ。
   どうしてあそこの局面でGLAYなのかと言うと、狐にとってマリアリとはGLAYの羅武尊愚と言うことらしいぞ」
文「意味解りませんね本当に^^;
 というかそこをわざわざ不良界表記変換する必要あるんですか?」
るり「ストレートに書くとかごめ者の中でクサさ基準が規定値振りきっちゃうからじゃないかしらね…私でも多分そうするわ」
文「はぁ、そんなものでしょうか」


かごめ「これでまぁ、大ネタはすべて消化しきったのかなぁ。
   あと大がかりなネタってもう生み出す余地ないだろう。
   個別キャラで因縁があっても、身内で大体消化できる程度かな」
文「…例えばこがさなとか?」
かごめ「小傘の野郎も地味に覚醒してるんだよね…させたっつーか。
   ドキドキ大冒険の6話だったかで、小傘は早苗に足潰されてるんだよね。
   だから今までは軽業が使えなかったとか」
文「( ̄□ ̄;)あやっ!?
 (狐設定では)時系列的にあの異変ってシンオウ殿堂入りの後じゃなかったでしたっけ!?」
かごめ「えーっと…だって小傘戦闘に全く参加してなかったし気付かなかったでいいですしおすし!!><
るり「…今までおおっぴらにはなってなかったけど…早苗ちゃんも随分嫌なポジションの解釈だったのねー^^;」
かごめ「…その呼び方はちょっと…さな姉はさな姉でいい気もするんだけどな…^^;」
文「(あやっ…どうやら何かのトラウマスイッチが…)」


かごめ「というわけで、今回はこれで一応おしまい。
   此処まで付き合ってくれた皆様はありがとう><ノ」
るり「で、かごめ者。
  もうここまでみんな慣れて来たんだったら、アドバイザーとしての私もそろそろお役御免でいいかしら?
  あんたの事だから代わりの人員くらいは用意してるんじゃない?」
かごめ「うぐっ…正直言ってお前も貴重なまとめ役だから居なくなられると正直結構困るが。
   仕方ない、良いぞ
文「( ̄□ ̄;)あっさり許しが出た!!
 本当にそれでいいのですか!?」
かごめ「まー地味な別れ方で悪いとは思ったが、るりにはるりで無理やり引っ張って来て手伝わしてたのもあったしな。
   精々、あの妖怪共を好きに牛耳ってやりゃいいさ」
るり「えー、言われずともそうさせてもらうわ…何だかんだで、結構楽しかったわ。
  今度は、対戦相手の視点で楽しませてもらうとするわね、かごめさん^^」

るりはそのまま立ち去って行った…

文「あやや…折角、仲良くなれたと思ったのに」
かごめ「本音言うと、あたしもあいつとはマジ限界まで闘ってみたい相手の一人だがな。
   狐設定上このままの姿でぶつかると、決着付くより先に地球の寿命がマッハになるそうなのでポケモンとしてなら丁度いいんだろう」
文「( ̄□ ̄;)ちょ!あんたたちどんな戦闘民族の出自なんですか!?」
かごめ「気にするな。
   …一応、あいつが拾われなかったらという前提でポケモンの候補があるんだが…それには、ちょっと時間を弄くってあるひとを召喚することにするさ。
   (狐設定で)あたしの姉がわりだったひとをな」
文「かごめ殿の…姉代わり…?^^;
 それってどんなバケモ…いや、御仁なのですか…?」
かごめ「あー、バケモノでいいと思うよー?
   (狐設定で)人間でありながら、吸血鬼真祖であるあたしよりも下手すりゃ強いという時点で」
文「ちょ…」
かごめ「毎度の事ながらそういうことで今回はお開き!><ノ
   じゃあな野郎ども!!」



(ログ終わっちまえ><)