♪BGM引き続き 「The Extreme」♪
「しかし大丈夫なのかよ…?
いくら霊夢でも、紫とタイマン張るなんて…」
「でも…あの場で紫様の足止めが出来るのは霊夢さんくらいしかいなかった筈。
此処は信じるしかないでしょう…!」
妖夢の言葉に魔理沙も頷く。
「…それよりアリス、お前、どうしてこの事を知ってたんだ?
紫が現れたとき、それを確信したみたいに」
そして飛翔する速度を緩めることなく、先頭を行くアリスに問いかける。
「ゴレムスよ」
「ゴレムス?あの石人形か?」
アリスは頷く。
「確かに、あの日偶然に見たイメージは感じられなかった。
その代わり…そこにかごめの記憶が残ってた。
知らない場所で、紫と話をしてるの…多分アレは、元々彼女が住んでいた世界だったのかもしれない…!」
「ルーミアが…かごめの魂から生まれた堕天使…」
「俄に信じられない話ですけど…」
魔理沙と妖夢は顔を見合わせる。
「…んや、小生には解ります。
この魔力の波動…質は違いますが、ポエットという天使のそれをちょうど反対にしたように思えます。
彼女もかごめ殿に関わるところから生まれた天使と言うのであれば、この気の持ち主が生まれを同じくするものだということくらいは…」
文は…恐らくわざとなのだろうが、三人に足並みをそろえた速さで追随する。
その言葉に感心したように息を吐く魔理沙。
「(…妖夢、こいつこんなに色々と解る奴だったのか?)」
「(ええ…というか才能の塊ですよこの方…。
あのプライドの高い射命丸さんが認めただけのことあります…っていうか、一緒にいるとストレスで胃壁の寿命がマッハに…><;)」
「(あー…その、なんだ…気を落とすな^^;)」
「…ッ!!」
アリスは不意に、足を止める。
魔理沙達もまた…立ちはだかるその人影、その表情に驚愕して立ち止まった…。
♪BGM 「ボーダーオブライフ」(東方妖々夢)♪
「やはり…止めに行くつもりなのねあなた達」
「ゆ…幽々子様っ…!」
そこに立ちはだかったのは…普段ののほほんとした表情のない、凄まじい威圧感を放つ華胥の亡霊。
「紫も人が悪いわね…かごめちゃんの魔力の残滓がゴレムスに残っていることを知って、わざとそのままにしておいたのね。
アリス達がこう動くとも知った上で、私「達」にあなた達の足止めをしろ、とはね」
その言葉に応えるかのように、暗がりから姿を見せる影。
「これ以上の介入は野暮ってものさ。
あんた達が何処でどんな力を身につけて来たかは知らんが、ここから先は通すわけにいかないね」
疎密の支配者、伊吹萃香。
「事が住むまで、此処で大人しくしてもらうよ。
出来れば、抵抗はしてほしくないけど」
土着神の頂点、洩矢諏訪子。
「あくまで抗うというなら…紫様の代わりに私も相手になろう…!」
郷の大賢の式、八雲藍。
いずれも、現在の幻想郷を代表する強力な神妖。
息を飲む四人。
「…ちっ…こうなることも予測済みってか!」
忌々しげに吐き捨てる魔理沙。
「っていうかさ、どうして特別深い関係もないあんた達が、わざわざちょっかい出しに行く必要があるんだよ。
紫があいつらに託したということは、どんな結果になろうともあいつらの力でしかどうにもならないってことさ。
それ以外の余計な意思が介入すれば、それが誤算を生んじまう…そうは思わないかい?」
「余計な意思…って!
萃香さん、あなたもあの気を感じたでしょう!
あんな力に対抗するんだったら、人数は多い方がいい!」
「ですな。
本来、こんな危険に首突っ込むのは真っ平御免、と言いたいが…かごめ殿には恩義もある。
それにあの鴉天狗の鼻を、小生自らの力であかしてやると誓った以上!
こんなところであのふたりにくたばっていただいては困るんですよ!!」
やれやれ、といった表情で溜息を吐く萃香に、妖夢と文は反論する。
「私も…もう、黙って見ているだけなのは嫌なの。
これ以上、私が心を通い合わせることができた存在(ひと)が居なくなるかも知れないなんて…そんなの絶対に嫌よ!!」
「……そういうこった。
アリスが行くとなれば、私もいかにゃなるまい。
邪魔するんだったらここは、力ずくでも罷り通る!!」
はっきりとそう言いきるアリスと、八卦炉に魔力を込めて眼前の四人に照準を向ける魔理沙。
「参ったね…出来るなら手荒な真似したかなかったんだけどねえ…」
「…神綺殿には事前に報告済みだ。
聞きわけがないのであれば、此処で手足を吹き飛ばしてでも止めろという紫様の命でもある」
「抵抗するならこっちが全力出しても問題ない…そういうことかね」
困ったように笑いながらも、藍の言葉に指を鳴らしながら萃香と、面倒くさそうな表情の諏訪子が、それぞれ妖気を放ちながら四人との間合いを詰め始める。
後方に控える幽々子も…二本の鉄扇を広げて既に戦闘の態勢に入っていた。
「…妖夢、文。
私がマスパぶっ放したら、連中の背後を取れ。
アリスはその隙に先へ行くんだ…!」
「魔理沙…!?」
「私達三人で、あの四人を止める…そういうことですか、魔理沙さん」
「くっ…くはははっ!
丁度いい、小生が修練で得た力が付け焼刃でないかどうか、存分に試して見せましょうか!」
「へっ、そういうところはお前の言う「オリジナル」と違って、打算一切抜きだからな…解りやすくていいぜ!
そういうことだアリス、此処は私達に任せておけ…!」
三人が親指を立ててみせると、アリスは頷いた。
「相談は終わったかしら?」
反魂の蝶を展開させた幽々子が言葉を投げかけた、その刹那。
魔理沙の放つ純粋魔力の波動と共に、アリスはその先へと飛び出してゆく…。
ポケモン対戦ログ(2010.4.29・4.30)幕間 「我が親愛なる闇の天使よ(中編)」
「…ちくしょ…あたしが亡霊じゃなきゃとうに死んでたぞ…」
すっかり整備されたフィールドの中央、その雰囲気にはややズレた花柄のマットの上にどっかりと座って、グラスのワインを一息に飲み干す魅魔。
黙って突き出されたグラスに、「まったく、しぶとい悪霊だこと」と苦笑しつつも、神綺は傍らの夢子に合図して代わりを注がせた。
「しかし神綺殿、こんなことをしていてもよろしいのですか?
先程の魔力の振動は、只事ではないと思うのですが」
何時の間にか多くの参加者とギャラリーも居なくなり、神綺に「偶には付き合え」と居残りを命じられた格好の慧音は、神妙な面持ちで問いかける。
「…あら、ワインは口に合わないかしら?」
「そういう問題ではない!」
あくまでのほほんとした雰囲気を崩さない神綺に、慧音も思わず声を荒げてしまう。
口には出さなかったが、先の魔力の振動がルーミアのモノであることに、慧音も気がついていたのだ。
彼女がルーミアと初めて出会ったのは、もう何十年も前の話である。
竹林の蓬莱人である藤原妹紅と親しくなって間もなく、妖(あやかし)と人が共存できないかと考えた末に寺子屋を解放し、さらに数年後。
その最も古い生徒であるリグル=ナイトバグ、ミスティア=ローレライからの情報を元に、里で「人の消える道」と恐れられていた隣村への街道を根城にしていたルーミアと出会い、彼女は寺子屋へと彼女を誘った…それが、最初だった。
当初からその慧音の行動に苦言を呈しながら、それでも静観を決め込んでいた筈の紫は…ルーミアは「幻想郷で初めて妖怪化した妖精であり、善悪の見境がない」と告げ…暗に「ルーミアと関わるな」と言おうとしていたことを感じ取っていた。
しかし慧音は、彼女の「忠告」をやんわりと拒絶し「ならばなおのこと、ルーミアと他の妖怪、あるいは人間達との共存が出来るように自分が面倒をみる」と言い切り…この不可思議な妖怪との付き合いが始まった。
確かに、当初のルーミアは善悪の観念に乏しかったが、やがて慧音もルーミアが素直で無邪気な、見た目よりずっと物解りの良い少女だということに気がついていた。
それと共に…彼女は漠然とだが、紫が言った言葉の意味を漠然と覚り始めていたのだ。
何らかの要因で、彼女のうちに「得体の知れぬなにか」が「封印」されているということを。
そして…ルーミアのうちに眠る「なにか」が目覚めてしまったとき、それは未曽有の異変を引き起こすだろうと。
そして彼女は、その暗黒魔力の胎動がルーミアのモノであることに気付いた時、改めて思い知ることとなった。
今まさに、それが起ころうとしている事を。
「…確かに、あなたの懸念は正しいわ、慧音」
苦笑し、グラスを置く神綺。
「私も詳しい事は知らない。
けれど、知らされなかった私達は、無暗に介入するべきではないと思う。
…ただ、その結果を待つことしかできないのよ」
「しかし…」
「そうでしょう、隠れているみなさん?」
その言葉に応えるかのように、ベンチの影から姿を現すひとりの妖怪と、一体のリザードン。
「あなた達を足止めに残しておくなんてしなくても…私達は娘達ほどの元気はないわ。
如何な結果になろうと、それを受け入れることしかできない。
八雲紫の懸念は杞憂に過ぎないわ…約一名、こうでもしなければ引きとめられない気配だったけど」
「…だってさ、静葉。
そのうえ、かえって気を使われちゃったみたいね?」
「そうみたいね」
溜息を吐くレティ。
その言葉に応えるかのように、表情の少ない仏頂面を崩さず姿を現したのは、静葉。
神綺に指し招かれるまま、静葉、レティ、そしてハドラーの三名は神綺達の座すその場へ歩み寄る。
「…待っているのもヒマだわ。
あなた達のうち、今回何が起きているのか、詳しい経緯を知っている方はいるかしら?
その理由を考えて待つのも面白いけど…この後何が起きるかによっては、やはり知っておいた方がいいと思うしね」
そう言って、神綺は夢子に命じて新たなグラスを三人へと差し出させた…。
シンオウ地方、ソノオの花畑。
そのただならぬ気配を感じ、その中心であるハクタイの森へと急ぐリリカとこいしを待ち受けていたのは、さとりだった。
♪BGM 「少女さとり 〜 3rd eye」(東方地霊殿)♪
「戻りなさい、あなた達。
いかにあなた達といえども、この先の介入は許されていません」
普段、喜怒哀楽を表に出さない分、周囲のあらゆる総てを威圧するような気を放っている今のさとりの姿は、これまでに見た事もないような恐ろしい怪物を二人に連想させるに十分だった。
だからこそ、二人もこの先で起きていることの重大さを覚ったのかも知れない。
「さとりさん…知ってるんでしょう、この先で何が起きているのか!?
あの強烈な妖気は…」
「…ルーミア…なんだね、お姉ちゃん」
「そう言えば、あなたはその力を取り戻していましたね、こいし。
ならば話は早い。
私の記憶を読めば、この先の介入はするべきでないと解る筈です」
さとりの言葉に、こいしは小さく笑う。
「そうだね。
でも…私が心を開いたということは、お姉ちゃんも私の心が読めるってことだよね。
だったら私達が、はいそうですか、と大人しく引き下がると思う?」
リリカが口を開くより前に、その脳裏にさとりの心の中の記憶が過る。
それは、こいしがリリカの無意識に介入し、自分の読みとったさとりの記憶を投影していたものだった。
それを知ったリリカもまた、言うべき言葉はこいしと同じだった。
「…だったら…尚更引き下がるわけにはいかないよ…!
もしここでかごめさんやルーミアが居なくなれば…例え生き残ってもポエット達が悲しむ…!
さとりさんだって!」
「引き下がるつもりはない、ということですね。
ならば…力づくであなた方を止めなくてはならなくなる…!」
なおも何かを言いかけようとしたリリカを制するこいし。
「もう何を言っても無駄だよ、リリカ」
「こいし!」
「お姉ちゃんは昔からこう。
一度決めたら、頑固だからね。
それに、お姉ちゃん一人でも十分にきついのに…いるんでしょ、お燐、お空!」
普段の彼女から想像できない、こいしの真剣な表情と凛とした怒号。
「にゃあ!?
というか速攻でばれてるよどうするんですかさとり様!?」
「う…うー…力づくで、ってさとりさま言ってるけど…」
それに応えるかのように、丈の長い花の影から、恐る恐る姿を現すお燐とお空。
「言葉どおりよ。
既にこの周辺の境界は操って、別空間へと閉鎖されている…存分に力を振るいなさい、お燐、お空。
…手足の一、二本、吹き飛ばしても構わない…!」
「さとりさん、どうしてッ!」
その問いに応えることもなく、さとりの手が振り下ろされるとともに…一瞬躊躇いながらもお空の構えた制御棒が紅蓮の大火球を放った。
ハクタイの森で戦うこと、実に二十五分。
僅かな時間でその差は歴然としはじめていた。
暗黒の魔力に支配されるまま、容赦なく滅びの力を放つルーミア。
その力を逸らそうとすることに終始し、必殺の一撃を放てずにいるかごめ達。
両者の心の動きの差異は、時間が経つにつれて広がる一方だった。
♪BGM 「呼び覚まされた記憶」/伊藤賢治(Romancing SaGa Minstrel Song)♪
届かないと頭の何処かで解っていながらも、レミリアに動きを封じられたままチルノは叫び続けていた。
やがて、この局面になって泣き疲れたか…今はレミリアの腕の中でもたれかかっている。
「やめてよ…もう…やめてよぉ…!」
だが…それでも彼女はうわごとのようにそう訴え続けていた。
チルノの動きを制しながらも…本音を言えば、レミリアも彼女と同じように、かごめ達を止めたいと思っていた。
だが、心を通わせたからこそ彼女には解っている。
かごめが、一度口にした事は決して曲げないということを。
レミリアは、その恐ろしい予感に気づいていながらも、その結末を見ることを拒絶していた。
もし、最悪の結末が見えてしまえば…。
レミリアはその不吉な予感を否定するかのように…いや、拒絶するかのように堅く目を閉じて頭を振る。
(ううん、私がこんなことでどうするのよ!
決めたんだ…何時か本当に、夜の王としてふさわしい自分になるって…!
今迄みたいに虚勢でプライドを塗り固めるんじゃない…かごめのように、どんな姿の自分でも誇りを持てるように…!)
不意に、頬を拭う感触を感じ、顔を上げるレミリア。
彼女は自分でも解らないうちに、泣いていた事に気がついた。
振り向くと、涙をこらえるように、泣き笑いの表情のポエットが居る。
(そうよ…私達は信じて待たなきゃ…!
かごめも…勇儀も、文も…ルーミアも必ず戻って来るって…!)
レミリアは乱暴に涙を拭い、ポエットと顔を見合わせて頷きあう。
次の瞬間、それが起こった。
守矢神社へと戻った早苗達の元にも、その猛烈な波動は届いていた。
♪BGM 「御柱の墓場 〜 Grave of Being」(東方風神録)♪
「これは…いったい…?」
「とんでもない妖気だね…でも、これは」
「あなた方なら、解ると思っていましたが」
不意に聞こえた声の方向、境内を歩いて来る人影がひとつ。
鮮やかなグラデーションの髪を翻し、法衣と袈裟を折衷したような独特の服装を身にまとう女性…聖白蓮。
神奈子はその姿を見咎めて言い放つ。
「…折角用意してやった土地も放っておいて、今までどこへ行ってたんだいあんた」
「そんな怖い顔をなさらないでください。
別に喧嘩をしに来たわけではないですし、これからもそのつもりはないですから」
白蓮は苦笑してそう答える。
神奈子にも彼女に邪心がない事…正確に言えば、それを捨て切れている事を知っている。
しかし、だからこそなのかいまだに彼女の事を信用はしきれていない。
「それに、済ませることも済ませてきましたので、これでご用意していただけた地に落ち着けますわ。
あとは…今起こっている異変が如何なる結末を迎えるのか…それを見届けなくては」
「異変…」
鸚鵡返しに同じ言葉を繰り返す早苗。
「そう。
八雲紫が幻想郷に残した最後の懸念…堕天使ルーミアの復活」
「ルーミア!?」
「ルーミア…やはりあいつだったか。
さしずめこの場に諏訪子が居ないのは、ルーミアを止めに行ったか、それとも別の誰かを止めに行ったのか…」
驚愕する早苗に対し、神奈子は何かを覚ったようだった。
「この異変は…何時だったかエソテリア…私達が一時的に寺を構えた地に訪ねてくださったかごめさんと、彼女の問題。
可能性は極めて低いですが、あらゆる滅びの宿命を負った堕天使であるルーミアの自我を取り戻させる方法があるなら、それは最も関係の深いかごめさんの心ひとつしかない筈。
そこに余計な感情が介在し過ぎると、かえってその想いを受け止めきれなかったルーミアの崩壊を招いてしまう…そうなれば、この世界は終わりです」
「そんな…そんなことって…!」
「成程ね、そんで比較的関わりの薄いあたし達にはお呼びがかからなかった、ってことか。
諏訪子はリリカの旅を陰日向にサポートしていて、かごめたちとも面識が深かった。
…さしずめあんたは、この異変がルーミアによるものと知った早苗が飛び出していくのを、防ぐ役目でも負ってるのかい?」
頭を振る白蓮。
「いいえ。
そもそも私は、かごめさん本人の口から直にこの事実を聞き、八雲殿の思惑とは無関係に私の意思で参りました。
故に、此処にいる筈の彼女と最も関係の深い者…小傘さんの行方を追ってここにたどり着いたに過ぎない」
「小傘…成程、あいつは確かに、あいつらとの関係が長い。
だが、今更連れ出してどうなる?
何となく予感がするんだ…今からあの魔力の中心に向かっても、善かれ悪しかれに関わらず決着はついているかも知れん。
それに…」
「…私には、そうは思えないんです。
ルーミアがかごめさんの心を投影して生まれた堕天使だとすれば、彼女の心はそんなに弱くはない筈です。
彼女を本当の「仲間」と認めあえる心があれば、むしろそれは多い方が良い。
…最も重要な意思一つを限定し、それ以外をノイズとして排除しようとする…八雲殿は、余程人付き合いが苦手と見えます」
真剣な表情で言い切る白蓮に、神奈子は苦笑を隠せない。
「…そうだな。
彼女は吸血鬼というには、余りにも人間としての心が強い。
此処には邪魔は入っていないと思っていたが…紫め、山全体を既に結界で封鎖してやがる」
早苗が上空を見上げると、夜空の色…正確には、煌々と照らす満月の色が紫がかっている…。
「入るに易し、出るに難し。
どうするんだい?
今の私でも、諏訪子が残した魔法陣で誰か一人通すくらいの力はあると思うが」
「僭越ながら…私がさらに二人分の穴を開けましょう。
小傘さんと、案内役と…万が一のことを考え、その二人を護れるくらいの力のある誰かを」
「つまり案内役は私がしろ、ですか、白蓮殿?」
何時の間にそこにいたのか、鳥居の影に立っていたのはナズーリン。
その傍らには、思いつめた表情の小傘も居る。
カンの良い彼女のこと、恐らくは何かを予感して、予め小傘を探しに行っていたのだろう。
その手際の良さに、白蓮はわずかに微笑んで息を吐く。
「…察しが良くて本当に助かりますわ、ナズーリン。
飛倉の一部をあなたに預けます。
それにこの神社の転移魔法陣と、あなたのディレクターを組み合わせれば、一瞬でたどり着けるでしょう」
「仕方ありませんね。
でも…あの方は面白い方だし、此処で失ってしまうには惜しい。
その命、確かに承った」
普段通りのニヒルな笑みを浮かべ、白蓮から手渡された飛倉の破片を受け取るナズーリン。
「私も…何も出来なくても、呼びかけることはできると思うから…だから」
早苗はその小傘の言葉をさえぎり、しっかりと抱きよせる。
「解ってる。
私があなたの立場なら、きっとそう言うと思うから。
…だから…必ず帰って来て。私は…此処で待つよ」
「うん…!」
「あと一人か…けど、それにふさわしい奴は」
「いますわ。
丁度、ここまでたどり着けたようですし…もっとも、私が導いたようなものですが」
息を切ってその境内まで駆けあがってきたその影は…アリス。
「…此処に…シンオウへの転移魔法陣がある筈よね…!
お願いだから邪魔をしないで…時間がもうないの!」
♪BGM 再び「呼び覚まされた記憶」♪
異変に気付いたのは文だった。
空間の裂け目に、紫電が走っている。
初めは、かごめや勇儀の放つ闘気が、ルーミアの滅びの魔力とのせめぎ合いで起きていたのだと思っていた。
かつて、かごめが戯れに、彼女の世界に生き残った強者達を集めてバトルロワイヤルを行ったとき、最後に生き残ったかごめとるりの魔力がせめぎ合い、お互いに届くことなく周囲に蓄積していったことがあったことを聞いたからだ。
必殺の一撃を放てなくても、自分達三人の力はルーミアの力とほぼ拮抗している。
故に、互いの決め手が決め手にならない微妙な均衡状態を作っていた。
だからこそ、気の抜けない状況なのが解っていたが…文は違和感を払拭できずにいる。
(いったい…これは。
そもそも、私達はどのくらいこうしている?
みとりの話では、この空間は…!!)
文はみとりの言葉を思い出す。
-試作品だけど、霧の湖くらいの広さの空間を30分は維持できる-
「…いけない!
かごめ、勇儀さんッ!
維持していた空間が閉じる!!」
叫んだときは既に手遅れだった。
時間と共に紫電は大きくなり…空間の爆縮が始まる…!
「くそっ!間に合わなかったってのかい!」
悲痛な叫びを上げる勇儀。
かごめは一瞬躊躇いながら、二人を伴って空間から脱出する…。
ルーミアの体がその空間に取り残されたまま…空間は閉じてゆく。
レミリアもポエットも…チルノも声を上げず、茫然と眺めている。
しかし。
爆縮した空間を作り出していた魔力が弾け、漆黒の翼を広げた堕天使が、空間に解き放たれる。
凄まじい滅びの力を放ちながら。
「まさか…力技であの空間を破った…!?」
「なんて力だよ…!
流石にかごめの心を分かち合って生まれただけはある…やることが無茶苦茶だ…!」
空間の束縛を打ち破った堕天使が咆哮する。
それと共に、膨大な暗黒の魔力がルーミアを中心として集束する…。
「暗黒の奥義魔法…しかも無詠唱だと…!
こんな無茶苦茶、あたしでもやらんよ……!!」
ひきつった笑みを浮かべるかごめ。
その強大な破壊のエネルギーが放たれる寸前。
「契約に従え、名状し難き者、混沌の王。
来たれ、常えの闇、深淵の奈落。
まやかしの世界に汝ら悉く死を想え…其は、安らぎ也…!」
「えっ!?」
文が振り向いたその先、全く同質の力が集束する。
その力を放つのは、その母親と同じ六枚の漆黒の翼を広げたアリスの姿。
「みんな、離れて…“終焉の世界”ッ!」
放たれた二つの暗黒が、中空ですさまじい大爆発を起こす。
その衝撃で周囲の樹は薙ぎ払われた様子が、程近いソノオの花畑からもうかがえた。
「なに…今の…?」
「ルーミアやかごめさんだけじゃない…あんな強力な魔法を放てるのは、もしかして」
肩で息をしながらも、お燐、お空、そしてさとりの猛攻を耐え凌ぎ、反撃の糸口をつかもうとしていたリリカとこいしがその方角を見やる。
放とうとしていた純粋魔力…わずかに髪に金色を差していたあたり、恐らくは霧雨魔理沙の得意技であるマスタースパークを放とうとしていたのだろうさとりは、不意にその力を霧散させ、仕方ないといった表情で溜息を吐く。
「…何処であのような力を身に付けたか解りませんが…八雲紫が最も介入を避けたかった者が来てしまったようですね。
ならば最早、私がやっている事も意味を成さなくなる…」
さとりがその力を解除すると、お空のスペルで焦土と化した周囲の景色が瞬間的に元通りの花畑と化す。
さとりたちと離れ遠い間合いを取っていたお燐は、主のその行動に何かを感じ取ったのか、さとりの元へと駆け寄ってくる。
「…いいんですか、さとり様?」
「ええ。
もうこうなってしまえば、あるがままに任せるのが正解でしょう。
…そもそも、当人達の「心」でしか解決できないとしていながら、それ以外の「心」を排除するという時点で矛盾を生じているのですから。
だからお空、もうあなたもやめていいんです…辛いことを命じてごめんなさい」
上空から、次のスペルを撃とうとせずに構えたままのお空へ、さとりは優しく告げる。
一拍置いてその姿が、ゆっくりとさとりの傍まで降りてきて…その体にしがみついて泣いた。
さとりは、そのお空の頭を優しく撫でる。
「さとりさん…」
成り行きを見守るリリカとこいしに、さとりは頷く。
「…行きなさい、もう止めはしないわ。
その代わり、何が起きても責任は持てませんよ…!」
呪文を相殺した爆風の中、臆することもなくルーミアが翔ぶ。
その視線の先、爆風で強かに地面に叩きつけられ、動けぬままのレミリアとチルノをめがけて。
気を取り戻したレミリアは、反射的に気を喪ったままのチルノを庇ってうずくまる。
絶叫するポエットと小傘。
魔界で手に入れた業物のサーベルを抜き放ち、猛然とその攻撃を止めるべく急降下するアリス。
次の瞬間。
鮮血が飛ぶ。
しかし、それはレミリア達のものではなかった。
ポエットも、勇儀達も、アリスも…その光景に色を失う。
ルーミアの腕が貫いていたのは…。
「あ…あ…!」
戦慄くルーミアの瞳に光が戻る。
それは、彼女の自我が戻ったことを意味していた。
急速に萎んでゆく滅びの魔力。
それと同時に、紅い瞳から涙が零れ落ちる…。
辿り着いたリリカとこいしも、起ったことが信じられずにいた。
大地を朱に染め、力なく横たわるかごめの傍らで泣き叫ぶルーミアの姿を見てもなお、それが冗談だと信じたかった。
レミリアの脳裏に過った、頑なに見ることを避けたその結末が、そこにあった。