♪BGM 「剣・魂・一・擲」(SRWOGs)♪


風は完全に変わった。

みとりの禁止能力で動きを封じられた魔物たちは、こいしの放つ龍の如き波動と、みとりの弾幕嵐の余波を受けてなすすべもなく吹き飛ばされてゆく。
エクスデスの操り人形となったその魔人も、度重なる戦闘により目に見えてその力が減衰を初めているのが、諏訪子にも解った。


「…彼は…苦しんでいるわ」

諏訪子が振り向くと、足取りも覚束ないままの、満身創痍の静葉が立っている。
膝を突くその体を介抱し、諏訪子は鸚鵡返しに返す。

「苦しんでる?」

静葉は頷く。

「エクスデスによって抑圧されたその心の奥…彼は…ギルガメッシュは必至で抗っているのよ。
私達の「知っていること」が確かなら、彼は…もうエクスデスの走狗なんかじゃない。
…「光の戦士」…バッツ=クラウザーと心を通わせ、彼らを救って己を犠牲にした気高き一人の戦士よ…!

悲痛な表情を見せる静葉。

諏訪子にも解っていた。
士と認めた好敵手と直に剣を交え、言葉よりも多くのモノを交わしあった彼女とギルガメッシュの間に、確かな友情のようなモノが結ばれていることを。


「…私にだって解ってるよ、そのくらい…!
でも…どうすればいい…私達に何かできる事があるのか…!!」


静葉の体を強く抱きしめる諏訪子の表情も、また…。


-大丈夫だよ、諏訪子さん!静葉さん!-


ふたりの心に直接響くその声。
それは…こいしの声だった。


-倒すべきはエクスデス…!
私だってもう、昔の私じゃない…彼の心は、私が助ける!!-


「…こいし…お前」
「………あの子も…旅に出る前に比べて随分強くなった。
狂気のままに狂気を飛ばし…この世界を壊そうとしてしまった…泣いてばかりの子じゃないの。
早苗と同じ…大切な友達と、仲間を得たあのこなら…きっと…!

「……ああ!」



-Mirrors Report of “Double Fantasia”- 
その5 「キセキノヒカリ」



こいしが振るう黒い刃が、再び龍の閃光へ変わる。
こいしの魔装…「姫薔薇」の最大解放形態である「黒薔薇龍姫」の、周辺の龍脈の気を吸収して刃となる能力によるものである。

こいし自身も、この魔装の力の真なるところがこの程度でないことは理解している。
なぜなら…勇儀を苦戦に追い込んでいた4つのウェポンを一瞬にして稼働不可能に追い込んだのもその力によるものだったから。
その力があれば、ギルガメッシュを縛るエクスデスの分身体「だけを消す」ことも可能だということを、彼女は知っている。



(この作戦はタイミングが総て…みとりちゃん、頼むよ!)

こいしの視線に、みとりも小さく頷いて返す。
放たれた龍の閃光が、かろうじてそれをいなす暗黒の刃を包み込んで喰らい、その力の減衰をさらに早める…!


(…なんだ…この閃光は一体!?
 まさか…我が力が食われているのか!?)

エクスデスもここまできてようやく気がついた。
こいしの放つその刃が、ただの刃ではないということに。

「そらっ、これでどうだっ!」

こいしの左手に握られた妖刀ニヒルが、力の減衰著しい左腕を斬り飛ばす。
激高する魔人。


「こいつ…勝てると思うな!小娘ッ!」


漆黒の衝撃波をまとった刃が振り下ろされ、こいしは無意識の力を全開にして回避する。
地面を割ったその剣から放たれる筈の衝撃波は…何故か魔人の体へと跳ねかえり、その巨体を吹き飛ばした。


「ぐはあッ!!
な…なんだ、コレはっ!!?」


…妖刀ニヒルの呪いか!
でも…ああいうボスクラスの連中に呪いが入るわけ…なんで!?」
「…そう…アレがきっと、こいしの「魔装」の本当の力なんだわ…。
龍脈を操り…龍脈に相手の力を「食わせる」魔剣
「なんだって!?
じゃあ、あいつの力が目に見えて小さくなっていったのも…!」
「おそらくは…そしてきっと、こいしの狙いもそこに…今なら…!」


う…ぐむむ…我が力が…抜けているというのか…!
馬鹿な…このような事がっ…!」

よろめくその魔人の前に、こいしが妖刀の切っ先を突きつける。

「馬鹿な、動け!
何故動かん!肉体が…言う事を聞かぬ!?」


逃れようとするエクスデスだったが、何故かその肉体は指一本に至るまでピクリとも動かない。
何時の間にか、この肉体を操る為の魔力すら失われていたことに、ようやくにしてこの滑稽なる操り人は気づいたようだった。

「直接対峙していたなら、もっと早く気づいた筈だよねこんなの。
……お姉ちゃんほどの力がない私でも、今なら彼の…ギルガメッシュさんの心を感じ取れる。
終いだ…これ以上このひとをあんたの自由になんてさせてやらないッ!」

こいしの黒い刃は、龍の牙をかたどったペンダントへと戻る。
その両手に魔力が集中する。


「目覚めて、ギルガメッシュさん…!
“イドの解放”ッ!!


こいしの手から放たれた魔力の波紋が、ギルガメッシュの巨体を揺さぶる。
それと共に、エクスデスの暗黒魔力がその体から引きはがされていく…!


-俺の身体を…この俺の体をいつまでも自由にできると思うその浅はかさは愚かしいぜ!-

「お…おのれっ!!」

エクスデスはなおも、こいしのスペルで自我を膨らませるギルガメッシュに抵抗しようとする。
しかし。

こいしの隣で同じように力を放つみとり。


「…お前が…これ以上彼の体に居座ることを“禁止”するッ!
禁域“ノー・エントリー”!!


みとりの結界が、エクスデスの意思を完全にその体から引きはがした。
思念体となったエクスデスの端末に、再び妖刀を振りかぶるこいしが飛翔する。


「消えろ…私の大好きな幻想郷(このせかい)を…大切なみんなを酷い目にあわせたあんたは!
魍魎“二色蓮花蝶”、“サブタレイニアンローズ”、術式装填!


龍脈のエネルギーが空いた左手に刃となり収束する。
そこへさらに、展開された二つのスペルが絡みつき、それとともに彼女の髪も鮮やかな金へと変わっていく。

「これは…八雲紫の力!?
しかも想起じゃなくてあいつのスペルそのものを呼び起こしているのか!?」
「こいしは、紫さんが監視のためにつけた式を取りこんで…自分の力にしたって言ってた。
あの魔刀も、境界操作の力も、あいつが最大限に魔力を高めた時にしか発動できないって言ってたけど…!」

-おのれッ…おのれえええええええ!!
何故貴様がそんな力を…貴様ごときがこの私と同等の力を!?有り得ぬ!有って堪るかアアアアアアアアアア!!-

なおも最後のあがきに実体化した黒い爪がこいしへと迫る。


「恋の埋火が世界の全てを包み込む…漆黒の華よ、咲き誇れ!
必っ殺!ブラック・ローズ・カーネイジ!!



こいしの放つ無数の剣閃が、その爪ごと十重二十重に思念体を切り裂き、咲き狂う漆黒の薔薇のオーラの中で断末魔が上がる。


-ウ…ウボアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
おお、おのれ…許さん、許さんぞ貴様ら!
貴様らも共に消滅するがいい!!-


「!?
ぬおおおおおおおおおおおおおおッ!?」


そのとき、自我を取り戻したギルガメッシュの体に異変が起こる。
その左胸に凄まじい魔力が集束し、暴走を始めてその体を崩壊させ、火花のような魔力を噴出させた!

「ギルガメッシュさん!」
「く、来るんじゃねぇお前ら!
…の野郎ッ…やっぱり細工を仕掛けていやがったか…!!」

駆け寄ろうとするこいしとみとりを制し、ギルガメッシュは覚束ない足取りのまま、少女達から距離を取り始める。

「ち…ちくしょう…だが、仕方ねえな…。
操られていたとはいえ…俺はあの悪魔の言いなりになって、この世界を奪い取りに来たんだ…当然の末路かも知れねえ

自嘲するようにひとりごちるギルガメッシュ。
その言葉の合間にも、彼の巨躯の至るところから裂け始め、火のような魔力を放ちはじめる。


暴走する魔力の中心…左胸の皮膚が裂け、そこに黒い球体のようなものが露わになって、諏訪子は驚愕する。


「なっ……黒の核晶!?
ハドラーや神綺が言っていた…古の魔界で禁忌中の禁忌とされていた…!!
「あれが!?
って、そんなのもう兵器のレベル超えてんじゃん!どうすんだよあんなの!!」

その異様な波動に、いたたまれずついに工場から飛び出してきたにとりも顔色を変える。
みとりは覚悟を決めたように前に進み出る。


♪BGM 「情景 冷たい正義」/古代祐三(SQ3)♪


「みとり!お前何を!」
…私のすべての力で…あの爆弾が「爆発することを禁止」する。
多分…方法はそれしかない」
「ちょっと…無理だよそんなの!
そんな力を出したらみとりちゃんは!」

こいしがその体にとりすがろうとするよりも早く、みとりは能力を放ってこいしの足を止めてしまう。


「…私も…忌まわしき力によって生まれ…この美しい世界を壊そうとしてしまった存在だ。
この私の命を引き換えにお前やにとり…リリカやさとりさんたち…大好きになったみんなを守れるなら本望だよ」



寂しそうに笑うみとり。


「そ…そんなのダメだみとり!
私とあんたは折角仲良くなれたじゃないか!本当の姉妹になれたんじゃないか!!
そんな…そんなことをしたら私はあんたのことをこれまで以上に憎んでやる!それでもいいのかよッ!!



絶叫するにとりの言葉にも臆することなく、「ごめんよ、にとり」と一言つぶやいて…みとりは崩壊を続けるギルガメッシュの傍へと歩いてゆく。

みとりが動きを「禁止」したのはこいしばかりではない…この場に居合わせた全員だった。
誰一人として彼女の行動を阻むことはできなかった。


みとりがその力を放とうとしたその瞬間。


「…止めな。
俺の為に、あんたが犠牲になる必要なんてどこにもねえ。
…それに…俺も命は惜しくない」


ギルガメッシュの周辺の空間が歪む。
それは…この空間の裂け目に飲まれたモノを、法則の不安定な次元の狭間へ送る強制排除魔法だった。


「…ギルガメッシュさん…!」


魔法の発動と共に強くなる時空間の歪みの影響で、全身から魔法の火花を散らすギルガメッシュの姿はおぼろげとなっていく。
しかし…その表情に悔いはない。


「そんな泣きそうな顔をするな…。
まだ名前と顔もロクに一致しねえが…それでも、あんたたちみたいな奴らに最後に会えて、俺は良かったと思ってる。
大切なモノの為に怒り、悲しみ、喜び…命をかけることだって厭わない…あいつらに…バッツ達にそっくりだ…!」



そう言いながら…彼は戦いの中で抜かなかった背中の刀を一本外し…


「…静葉ッ!」


投げ渡されたそれを、静葉はしっかりとつかみ取る。


「…これは」
「俺がエクスデスに出会うより昔から…まだ一介の武芸者だった頃から使っていた愛刀・鳴神正宗。
あんたの剣は砕かれちまっただろう…あんたが嫌じゃなかったら…この剣…俺の魂を受け取ってくれ。
あんたとの戦い、悔いはなかった。
だが…もし生まれ変われたら…今度こそはあんたに勝ちてぇな…!

「ギルガメッシュ!」


反射的に駆けだそうとする静葉。
だが無情にも、ギルガメッシュの最後の言葉と共に時空の歪みが完全に開ききり…崩壊を続けるその身体を飲み込みつつ消滅していった。


「…ギルガメッシュ…!」

その最後の形見となってしまった一振りの刀を押し抱き、うなだれたままがっくりと膝をつく静葉。

そして…茫然とその光景を見守っていたみとりの元へ、にとりが矢のように飛び出してゆく。
何時の間にか、みとりの能力は解除され、自由に動けるようになっていたのだ。

にとりはみとりを思いっきりひっぱたき、そして、その体にしっかり抱きついて泣き出した。

「…にとり」
「ばかやろう…なんでそんなことするんだよっ…!
今度こんなことしたら…絶対許さないんだから…許してやらないんだからなっ!!

みとりは苦笑し、同じようにその体を抱きしめてやっていた。


「……ああ、ごめん。
もうこんなことはしない。
…絶対にしないから…」



その瞳からも、一筋の涙が零れ落ちていた。


……





-ごめん…神奈子さん…!
こちらの準備はすべて整った…何時でも行ける…だから…この戦いの幕を…!!-


復活した通信の先、神奈子はにとりの声が少し涙ぐんでいたことに気づいていた。
だが、彼女はあえてそれに触れることはしなかった。

ギルガメッシュの放った心の波動は…正確にはこいしの放った記憶の波動として、神奈子達の元にも確かに届いていた。


(…こんな時にしかめぐり会えなかったのは…運がなかったとしか言えないね。
 そんな素晴らしい漢が居たのであれば…勇儀じゃないが、あたしも一度手合わせしてみたかったよ)


神奈子は震える足を叱咤して立ち上がり、空中の早苗と頷きあった。


「ゴルディオンハンマー…発動、承認ッッ!!」


神奈子は懐から、大袈裟なポーズで掲げた小さな鍵を、同じく懐から取りだしたボックスの鍵穴に差し込む。
鍵を捻るとともに、そこから凄まじいパワーが発せられる。


♪BGM 「信仰は儚き人間の為に」(東方風神録)♪


「了解っ!
射出ハッチ全開、ミラーコーティング開始!
ゴルディオンハンマー、セーフティディヴァイス…リリーヴッ!!」


にとりもPCのリーダーに、大袈裟なポーズでカードキーを差し込み、解除音が鳴る。
そしてみとりの操作により、据え付けられたGツールがコーティングを施され、解放された天井から轟音と共に射出された。


「…ひょー…まさかこのシーンを現実、しかも至近距離で見ることになろうとは…」
「きゃー!!これもお空の核パゥアーの産物なの!?すごいすごーい!!><」

苦笑する諏訪子とおおはしゃぎのこいし。
最早進行についてゆけない静葉はただただ呆れ笑いするしかなかった。


「あとは…」
「…私達が信じなくてどうする…!
早苗なら…早苗なら必ずやってくれる…奇跡を見せてくれるはずだよ!」
「うん!」


いまだ暗雲垂れ込めるその空を見守りながら、みとりはにとりの手を取って励ます。
それは…同じようにその行く先を見守る諏訪子達も同じだった。



飛来するハンマーに、早苗も合わせて飛翔する。

「おのれ…させるものか!!」

ジュラエイビスはその危険性を察知し、その軌道上へ割りこもうとするのが地上の文たちにも見える。

「ちっ…無粋なことを…!」
……勇儀さん、私を思いっきり奴めがけて放り投げて!
今の私の足だけじゃ飛び立てない…でも!


ふらふらになりながらも、文は嘆願する。
一瞬驚いた表情を見せた勇儀だったが…その真剣な眼差しに表情を緩め、頷く。

そして徐にその腰を抱え、飛び立つ体制を作るその体を大きく振りかぶる…!


「おらあああああああああッ!!」


勇儀の剛力から加速力を得た文は、そのまま己の肉体を弾丸にジュラエイビスめがけて突貫する。

「なんと…!?」
「邪魔させてなるもんですか…あんたは私と共倒れになれッ!“幻想風靡”ッ!!

スペードを全く緩めず飛翔する文に、ジュラエイビスの巨大な体が横殴りに吹き飛ばされる。

「ぐうお…おの…れ…!」

捨て身の攻撃を敢行した彼女は、そのままの体制のまま地上へと落下してゆく。

「文さん!!」
「私のことは心配しなくていい!
あんたは…あんたは必ずあの球体野郎をぶちのめして、小傘(ともだち)を助けてやれッ!!
「…はい!」


飛来するツールのコネクターへ合わせ、早苗は大きく拳を振りかぶる…。


「ハンマーコネクトォッ!!」


装着したグリップの隅まで、彼女の放つ神気が行きわたり、ゆっくりと開くその手がハンマーの柄を掴みとる。


「集いし願い…萃まりし心…その総てを一つに束ね、新たなる奇跡を我が手に!!
ゴルディオン・ハンマあああああああああッ!!!



際限なく吹き上がるその気に呼応するかのように、握りしめたGツールがまばゆい光を放ちはじめる…!


-オオオッ…!
なんだ…この光ッ…こ、このようなモノがあるなど聞いておらんぞ…!-

表情を持たぬ球の魔物が、取り込んだ小傘の声で狼狽する。

放たれた神の気で光の矢となった現人神…もとい、風の巫女が球の魔物に迫る。
グリップに何故か備え付けられているタイヤ状の部分から光の釘が現れ、逆手に構えたそれを早苗は球の魔物につき立てた。

「ハンマーヘルッ!!」

そして…そこめがけて輝くハンマーを力の限り叩きつける。
声にならない絶叫に大気が震えるが、早苗は意に介すことなく、グリップから展開した釘抜き状のツールを、突き立てた光の釘に引っ掛け…

「ハンマーヘヴン!!」

勢い良く引きずり出される釘と共に、輝く球体のようなものが、魔物の内部から引きずり出されてくる。

-ば…馬鹿な…馬鹿なああああ………!-

魔物から響く声は、その球体が引きずり出されていくにつれて掠れてゆき…それが完全に摘出されると、光の釘を完全に飲み込んだ球が徐々に人の如き姿に変化し…小傘の姿に戻っていく。


「いよっしゃああああ!!」

その光景に、地上で見守っていたパルスィやヤマメ達ばかりでなく、空中で見守る天狗達からも歓声が上がる。


「さなえ…さん」

早苗は応える代わりに、その体を左手でしっかりと自分に抱きよせる。
そして小傘もまた、早苗の手をしっかりと握り返した。


「私の愛する世界を…大切な友を傷つけた者よ…」


そして…決めの一撃を放つ為そのハンマーを掲げる、彼女の首から下げられた神鏡が光を解き放つ。



「光になれえええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」



振り下ろされた一撃で辺りは閃光に包まれ…その中で球の魔物の姿は光の粒子となって霧散してゆく。
その様子は、同じ妖怪の山にいる諏訪子たちは当然のこと。


「アレは…いったい」
「…解んない。
でも…なんだか暖かい光だ

太陽の丘に残ったメディやリグルも。


「…悪くない光だわ。
あたたかく、やさしい心の光

人間の里を目指す幽香にも。


「あったかい…あたいは氷の妖精の筈なのに…なのに、力が湧いてくるみたいだよ…!
「ああ…そうだな」

その人間の里で戦う慧音やチルノ、ルーミア、妹紅達にも。


「……そう。
あの子が外の世界に逃れたことも…決して無駄なことではなかった、ということね

レミリア達のいる紅魔館にも、それは届いている。
いや、今幻想郷にいるすべての存在が、それを目にしていることは間違いないだろう。



総ての光が収まった時、その中心点には小傘を抱えたまま、誇らしげに胸を張る早苗の姿があった。
彼女の姿がゆっくりと地上に降り立つと、戦う力を失った神格も妖怪たちも皆、歓声と共に駆け寄り、奇跡を起こしたその少女を出迎える。


勇儀の肩を借りている文は、その光景に溜息を吐いた。
彼女は頭から地面に落ちるその瞬間、地上でそれを見ていた勇儀によって間一髪のところで受け止められ事なきを得ていた。

「どうしたい?
お前さんも頑張ったのはこのあたしだって見てるんだし、第一ここの主役はどう見たって早苗だろう?」
「…いや…そうじゃないですよ勇儀さん…そこまで私は空気読めなくないですって。
どう考えてもものっそいいいシーンなのに…今気がついたんですが指一本動かせないどころか…そもそもカメラも家に置いてきてしまったみたいで…。
…気にくわぬことこの上ないですが、あとではたてに頼んで連中の写真を念写してもらうしかないですかねー…うう、この射命丸文、一生の不覚です…」
「くっ…あははははは!!
やっぱ相変わらずだなお前さんは!それでこそ我らが文だ!

空から降りて来た同胞の幾人かがシャッターを切るのを眺めながら、心底悔しそうに項垂れる文を見て、勇儀はさも愉快そうに笑い飛ばした。



その離れた場所では…。


「…な…なんということッ…!
よもや…よもやオズマが敗れるとはッ…!」

文の捨て身のラストスペルを受け、地上に叩きつけられ老人の姿に戻ったアルテ=ロイテは茫然と呟く。

「アポカリョープス共の気も感じぬ…否、それどころかネクロフォビア…あの役立たずの体に入り込んだエクスデス様の分身も…!
信じられぬ…そのような事がありうるのか…馬鹿な…馬鹿なッ…!」
「悪いけど、現実だね」

はっと振り向くと、そこにいたのは諏訪子と静葉。

「き、貴様らッ!!」
「諏訪子、これも斬って問題ない奴よね?」
「とーぜんだろ。
原作じゃ固定ボスクラスじゃないけど、エクスデスの下っ端にゃ変わらんよ。
つーかあんたFF5貸してやったことあるじゃん」
「…そうだったわね」

アルテ=ロイテが逃げ出すよりも速く、静葉の剣…消滅した「強敵(とも)」から託された鳴神正宗の刃が空を走る。
悲鳴を上げる間もなくその五体は千々に斬り裂かれ、瞬きする間もなくその肉体は地上から消滅した。


-あんたが嫌じゃなかったら…この剣…俺の魂を受け取ってくれ。
あんたとの戦い、悔いはなかった。
だが…もし生まれ変われたら…今度こそはあんたに勝ちてえな…!-



剣を収める静葉の脳裏に、ギルガメッシュの最後の言葉が過る。


「………下種め。
あの誇り高き戦士を、貴様ら如きが愚弄したその罪は重い…!!」



その瞳から零れる一筋の輝きを見ていたのは、諏訪子だけだった。



………


……





アリス達の駆るその巨大機動人形…「AD-78“シャホラン”」が山へと到着したのは、それから間もなくのことだった。
その頃にはにとり達も皆、守矢神社へと集まっており、その技術提供に関わったにとりのレーダーで予め正体とその接近が感知できたため、何事もなかったようにその巨大な来訪者は迎えられていた。


「あの光…そういうことだったんだな」
「…暖かい光だったわ。
こんな陳腐なことは言いたくないけど、「希望の光」ってああいうモノを言うんでしょうね

渋い顔で呟く魔理沙と咲夜。

「大変な相手だったさ。
…もっとも、最後にはうちの可愛い娘がきっちり決めてくれたよ。
にとりから聞いて大体のことは察している…でも、あの子は今、小傘の傍を離れようとはしないだろう」

神奈子の説明に、そうですか、と答え、アリス達が立ち去ろうとしたそのときだった。

「…待って、アリスさん。
私の力が役に立つのなら…ううん、私の力を役立ててください。
私は…その為に帰って来たのだから」

(さとり以外)その声に驚いて振り向くと、そこには真剣な表情の早苗の姿がある。
その表情は強い意志を秘め、この短期間の彼女の変わりようにアリスや魔理沙、咲夜すらも自分たちの記憶の中にある彼女との違和感に大いに戸惑うこととなった。

「早苗…お前」
私は幻想郷での新参者…だけど…心の不完全だった今までの私の事も、霊夢さんは「対等のライバル」として見てくれてたんです。
これから、この世界で生きていく上で…あんなライバルでもいないと張り合いがないじゃないですか…!」

呆気にとられるアリスの手を、早苗は一方的に強く握りしめる。

「だから…もし断られても無理矢理ついていきます!

アリスはその表情に、異世界から来た一人の少女の面影を見ていた気がした。
アリスも同じようにその手を握り返す。

「…当然!
こっちも遊びでやってるんじゃない、嫌だとほざいても無理矢理に引っ張っていく気だったわ…!
あなたの力、頼りにさせてもらうわ、早苗!


頷いて返す早苗。
彼女が振り返ると、溜息を吐く神奈子と諏訪子。

「もう、あんたはあたし達から離れた。
神としてでも、人間としてでもどちらでもいい…あんたの思うままに力を振るってきな、早苗。
そして…」
「あんたの帰って来れる場所はここにある。
あの身の程知らずの支配者気取りを倒したら…必ず帰ってきなよ!」
「神奈子様…諏訪子様…!」

そして、本殿からはパルスィに支えられた小傘も姿を見せる。

「早苗さん…私…信じてるから…!
早苗さん達の力で…みんなの暮らすこの世界を救って帰って来てくれるって…信じてるから…!!
「うん!
それではみなさん、行ってきます!!

早苗が親指を立て、神社に集まった神妖達から、山をも震えよとばかりに大歓声が上がった。



その一方で…。

「くくく…ざまあないですね鴉…!
しかし残念ながら小生も、マヌケなことにアリス殿の家にカメラを忘れてきてしまいましたよ…!
貴様のその無様な姿をシャッターに収められぬとは無念でなりませんなあ…!!」
「ほう…その程度で勝った気になっているとは愚かしいわね木っ端…!
こっちには念写能力を扱う同志姫海棠と千里眼をもつ我が信頼し溺愛する部下犬走がいる…この二人の能力を掛け合わせれば、この場に居ながらにして貴様の痴態を激☆写することも可能だということを忘れるな…!!(#^ω^)」
「おお、こわいこわい…これ以上鴉の神経を刺激していたら後が怖いですなあ…!
…くそっ、そいつらの存在はヒキョウすぐる…勝ったと思うなこの変態崖下鴉め…!!

いがみ合う二人の天狗。

「…ねー椛、私らってひょっとすると文に良いように扱われてるってことなんかな?」
「さ…さあ…^^;」

それを傍目で呆れ顔のはたてと、困ったように笑う椛が眺めていた。