PM1:45 倉野川総合病院併設施設「うみの湯」ロビー・氷海班
「いや〜、海辺でこんな温泉湧いてるとはな。
能登の和倉みたいな例外はあっても、温泉っつったら山だとばっかり思ってたがこいつはびっくりだ。
この街作った奴、またいい土地抑えてくれたもんだな」
心なしかつやつやしている目玉つきの市女傘を当たり前のように頭に乗せたまま、まだ乾き切っていないタオルを鉢巻よろしく頭に巻いている諏訪子は、ロビーで外の景色を眺めていたらしい氷海のところへとやって来ていた。
「お気に召して頂けたら何よりです。
一応、こことは泉質違いですが、天神地区のほうにもうひとつ三朝温泉という温泉もありますよ」
「結構な温泉街なんだなここ、いやびっくりした。
というかなんだいあの真っ黒な湯は?
私ぁてっきり誰かの悪戯かと思ったが、アレはああいうものなのか?」
「父から聞いた事があるのですが、あれは「黒湯」というそうです。
珍しくはありますが…古代の植物の化石から染み出した養分であのような色になるのだとか。
元は冷泉ですが、温浴効果が非常に高いそうです。
人界の土地由来の三朝と違って、こちらは妖精国の土地本来のものと聞いていますわ」
ほむ、と腕組みをしながら、諏訪子は彼女に招かれるままその隣に腰をかける。
「それより、お前さんはこんなところに一人で何してんだ?
あいつらまだしばらく戻ってきそうな気配ねえぞ。
千夏に至っちゃマッサージチェアが余程ハマったのか3ループくらいしてやがるし」
「楽しんでもらえてるようなら何よりです。
それに…実は今日泊まる宿というのも、この近所なんです。
「常盤屋」っていって、それほど大規模な建屋ではないですが、そちらにも全く同じ温泉が引かれているんです」
「成程、お前さんそれを知ってるからここでは避けたっていうのか」
「それもあるんですけど」
少しばつの悪そうに苦笑する氷海に、何か違和感を感じ取ったのか諏訪子は、周囲に対して気配を探り始める。
人影はさほど多くはない。
氷海の説明にもあった通り、通院する年配者と、それでも僅かながらに存在する長期入院者の他は、恐らくはヒマを持て余しているだろう医師や看護師などの病院関係者だろう。
精々違う気配があるなら、今温泉施設を堪能している千夏や愛子たちくらいのものだろうが…その中で、また別の「病院関係者とは無関係そうな」気配を探り当てる。
諏訪子はその存在に気取られぬよう、そっとその視線を向ける…が、恐ろしくカンがよい相手なのだろう、すぐにその視線から物陰へと隠れてしまう。
「氷海、お前誰かに狙われてないか?」
「ええまあ…なんとなく察しはついていたのですが、確信が持てなくて。
敵意はないようなので、こうして一人でいれば向こうから出てくると思っていたのですけれど」
苦笑する氷海。
どうやらこの様子からすると、その気配の主は彼女もよく知っている存在なのだろうと、諏訪子は直観する。
「そうかい、じゃあこちらに合流してもらっても問題ねえって奴だな」
諏訪子は慣れた手つきで指を鳴らす。
次の瞬間、諏訪子が先ほど振りむいた先で小さな女の子の悲鳴がして、緑色の何かに巻き付かれた状態で転びだしてきた。
♪BGM 「麗しのエトワールアンジュ」(ポップンミュージックラピストリア)♪
「やっぱり…あなただったのね、
「ふぇぇ…会長ぉ…」
溜息を吐く氷海に、涙目ですがるように見上げるその少女は、ふわふわのピンクの髪をセミロングに切ってカチューシャ状にリボンを巻いた、声の通りに小柄でお嬢様然としている少女だった。
「もう、会長は止めてって言ったでしょ?
私はもう卒業生なんだし、昔みたいに海お姉ちゃん、って呼んでくれればいいのに」
「なんだお前、やっぱり知り合いか?」
ええ、と氷海は頷く。
諏訪子が少女の戒めを解くと、氷海は泣きべそをかくその少女の裾を丁寧に払いながら紹介を始める。
「私の一個下の幼馴染で、その「常盤屋」の一人娘…香坂美結さんです。
大人しい子なんだけど、文書関係がとにかくすごいんですよこの子。
去年、簿記の二級をとったって地方紙に乗った位で」
「えっ、お前の一個下ってと、この子まだ中学生か!?
中学生で簿記二級とはまた」
「他にも日商文書とか、珠算とか…中学で生徒会長を務めた時、この子が半ば強引に売り込んできて書記を任せることになったんですけど、正直「庶務要らず」って言ってもいい位の働きぶりで、とても助かりましたよ」
「えへへ…会長それほどでもないですよぅ」
泣き笑いのような表情だったが、どうやら美結というこの少女、氷海に対して幼馴染とかそういうレベルでは収まらない位の感情を持っているだろう事が容易に伺えるくらい、嬉しそうに顔をほころばせている。
それも、非常にだらしなく見える程度に。
諏訪子はその顔に何故か、お空を目にしたときのさとりの表情が脳裏をかすめるのを感じて苦笑を隠せずにいる。
けれども、と氷海は少し厳しい表情で、諭すように彼女へ告げる。
「でも美結さん、あまりこそこそと物陰から他人を伺うというのは感心しないわ。
相手が私だからいいけど、傍から見たら後ろ指を指されても仕方がない事よ?」
「はうぅ…で、でもでも、お父様が、会長が里帰りしてこられて、しかもうちに泊ってくださるって言ってたから私、居ても立ってもいられなくて…そのぉ…」
「それに、しつこいようだけど私はもう凛花女子の生徒会長じゃないのよ。
ったく…あの学校は確かにお嬢様学校だけど、三年も居るもんだからすっかりお嬢様言葉まで伝染しちゃって」
「まあまあいいじゃねえかそのくらい。
…そうだよな、「あこがれのお姉ちゃん」が帰ってきたのに、私らみたいな余所者までぞろぞろついて来ちゃ警戒もすんだろ。
なんか悪いことしちまったなー」
ばつの悪そうな諏訪子の言葉に、美結はぶんぶんと首を振る。
「そそそ、そんなことないです!
私が…私が余計な気を使わせまいと、遠目で伺うだけにしようと思っていた事が却って会長の御気に障ってしまっただけなんです…だからみなさんはちっとも悪くなくて、私が悪いんですごめんなさいっ」
大袈裟なくらいにがばっ、と頭を下げる少女の姿に、お互い苦笑しながら顔を見合わせる氷海と諏訪子。
「なあ氷海、どうせまだ時間はあんだろ?
これからこの子も一緒に連れて行ってやって、商店街の連中と合流するってのはどうだ?
バスもあるみたいだし、15分もあれば商店街まで行けんだろ?」
「えっ!?
ご一緒してもいいんですか!?」
「そうね…高校はどうなるか分からないけど、少なくとも同じ地区に住むことになれば、顔を合わせることも多くなるかもしれないわ。
今のうちに、顔見知りになっておくのもいいかもね」
氷海の言葉に、ぱっと美結の表情が明るくなる。
兎に角現金な子だ、と諏訪子は心の中で笑いがこらえきれずにいた。
ポケモン対戦ログ幕間 「日向美狂詩曲」 其の二・紅い瞳の少女
PM2:00 捩目山、東條茜の草庵・風雅班
「そうだったのかい。
日向美商店街を中心とした学園都市構想の一環として、この地に「魔性狩り」育成を主目的とする総合学園を作るプロジェクト…ついに動きだすんじゃな」
その、居間ともいえぬその一角に通されたかごめ達は、茜の用意してくれた茶を飲みながら円座を組んで座っている。
烈の報告を受け、茜は感慨深そうに頷いていたが…不意に、少し寂しそうな顔をする。
「今年の春先じゃったかな…
もう、遅かれ早かれ、藤野の家はダメになる。
そうすれば、折角わしの孫を預かったというのに、その子にとっては悪い事になってしまったと…そして、何があっても、烈を含めた倉野川の子たちだけは、どんな手を使ってでも無事に返す、とな。
思えば…あの子はその時から、自分が人柱になる覚悟を決めておったのじゃろう」
「あたしは…それをただ見てることしかできなかった。
…幻想界最強の真祖に、幻想郷の賢者と呼ばれた魔性真祖、そして藤野五傑最強の女と呼ばれた奴が雁首揃えてこの結果だ…笑っちまうじゃねえかよ」
自嘲気味に笑うかごめ。
風雅以外の誰も、この中では詳しい事情を知っている者はいなかっただろうが…烈はその事実を突きつけられながら、ただ神妙に俯いたままだった。
戸惑う表情を見せる鈴花の視線に、彼女にその事を明かしていない事を後ろめたく思ってか、風雅は顔をそむけている。
その重苦しい雰囲気を払拭するかのように、茜は笑いにまぎれて言葉を接げる。
「かご姉、昔から言ってたじゃろ、勝敗は兵家の常、って。
昔よりもずっと澄んでるあんたの眼は、まだまだこの程度では終わらない…そういってるようにわしには思えるよ。
かご姉、あんたは、この地で次代を担う魔性狩りを…自分すらも越えていくだろう奴を育てたい、そう思ってるんじゃろ?」
「えっ!?」
烈や風雅の視線を受けて、かごめもふっと、表情を緩める。
「やれやれ、カンの鋭い子だとは思ってたけど、うん十年ぶりに会ったってのに何もかも御見通しってか。
その通りさ。
可能ならあたし自身が、これから設置する対魔性専門学級の教鞭をとりたい…そこまで考えた上でな。
だが…烈からあんたの事を聞いた時、やはり
でも」
「そうじゃな、もうこの森も大分、蛭どもの浸食を受けておる。
なにしろ元が小さい蟲じゃ、完全にはシャットアウトしきれんのも現状…「墨眼」が活動期間に入ったことで、普通のヤマビルすら見境なく入山者に襲いかかるようになっておる。
そもそも昔はこの地区にヤマビルなんておらんかったんじゃが、それどころか森の悪魔どもと交雑も進んでおるのやも知れん…今ではすっかり、山で獣を見かけることもなくなったの。
まあ、かご姉に烈まで居ったのでは、連中は熱気を嫌って飛びかかってはくるまいが」
「みんな…森のヒルにやられちまった…ってことか?」
孫の問いにうむ、と頷く茜。
「今、この近辺は、ごく一部の事情通に知られる以上に危険な状態じゃ。
此の間、さな姉が来てくれたので妖精国は報告も行っておるとは思いたいのじゃが…わし一人の手でも、最近は持て余し気味でな…わしがこの地におらなんだとなれば、「墨目」はここぞとばかりに結界の綻びを食い破りにかかるやもしれん」
「ははあ…読めたぞ、最近のさな姉がなんかおかしな動きしてる理由がな。
さな姉のメイン属性は流水、蛭どもと相性が非常に悪いからな。
それに相談した相手が悪い、アレ多分上にまでは話通してねえぞ。
…そっか、元気してるんだったら、いっしょに飲みにでも誘おうかと思って宿貸し切ったんだけどな」
「なに、二、三日くらいなら、わしの方で色々仕掛けもしてある故大丈夫じゃろ。
そろそろ、あ奴も仕掛けを終えて帰ってくるやもしれんしな…いずれ、かご姉が訪ねてくるかも知れんとさな姉も言っておったでな、ぜひ会って欲しい奴がおるんじゃ。
っと、ウワサをすれば、じゃな」
ひとつの気配が草庵へと近づいてくるのを感じ取り、かごめはその入口へと振り返る。
少女達が一拍遅れて、同じように視線を向けた先で、力強く戸口を叩く音がして。
「師匠! ただ今戻りました!」
その声に目を丸くしたのは…鈴花。
豪快に扉を開け放つ、色素の薄い髪の、長身で鋭い目つきをした傷顔の青年と、鈴花の互いに驚いた表情が映し出された一瞬後。
「お、お兄ちゃん!? なんでここにっ!?」
「そそ、それは俺のセリフだ鈴花! なんでお前がこんなところに!」
顔を見合わせるかごめ達。
「おや、なんじゃお前さんそいつの妹さんじゃったのか。
なら紹介もいらんかの」
「いやあーちゃん、あたし達は知らんぞ」
からからと笑う茜にかごめが呆れ顔で窘める。
青年の名は黒沢大牙。
鈴花の実の兄であり、倉野川でもそれと知られた格闘少年である。
PM14:30 日向美商店街ゲームセンター「ラピッドバニー」・凍子班+氷海班+美結
「一体どういうことだってばよ…」
携帯で連絡を取ってみれば、その状況は諏訪子の想像を超える事態になっていた。
「ぐぬぬ…どちらもめうの見立てどーりかなりの手練めう!
このめうと互角以上にやり合える強敵は久しく巡り合えなかっためう…ッ!
うおおお日向美最強
「あなたこそ…私がこの地を去ってから十年の年月は、どうやらとんでもない怪物をこの地に降誕させていたようね…!
燃えて来たわね…この血の滾りは、暗国ノ殿で「喰らいし者」とやり合って以来ッ…!」
「( ̄□ ̄;)えちょそれと同格なんですか!?
い、いや確かにこの子、ものっそい強いんだけど…っていうか静葉様にめうちゃんまだやるのっ!?」
「当然めう!
めう達の決着はまだついてないめうよ!!><」
諏訪子にも見覚えのある、三つ並んだその筺体では、先程から鬼神の如き頂上決戦を繰り広げる三名の神業とも言えるプレイに、何時しか常連であるらしい少年少女達がギャラリーを作ってる有様であった。
「おいつぐみ、こりゃ一体何が起きてんだ?
今来て間もない私達にも解るよう三行で説明してくれ」
「( ̄□ ̄;)え!?
そそ、そんな事言われても三行でなんて」
「あれ…あの子まさか」
呆れ顔の諏訪子の軽口に、つぐみも戸惑いを隠せないでいるのに、心当たりがあるのか美結が口をはさむ。
「知り合い?」
「い、いえ隣のクラスの子です。
商店街に「兎月堂」っていう判子屋がありますよね? そこの娘さんで
最近、日向美高校の生徒たちが結成したご当地バンドとしてにわかに知られ始めてる「日向美ビタースイーツ♪」のドラム担当で…ウワサでは、倉野川最強の音ゲーマーだって聞いたような」
「つまるところはウワサでしかない、ってことだったんだな今までは」
「うちは基本的にお嬢様学校だから、あまりこういうところに立ち入らないですし…彼女がその意味では例外、なのかなあ。
去年の初めころまではどっちかっていうと目立たない、むしろちょっと暗い子かなって印象だったんだけど、夏過ぎから急に、今みたいなテンションになって「凛花女子七不思議」のひとつに数えられてますよ」
「そんな七不思議ってあるかよ…って、あいつら初っ端から
早苗や静葉ならフルコンくらい軽いだろうがなーコレ」
諏訪子はギャラリーを割って、その三人の…というより、早苗の後ろに来て肩を叩く。
「おい早苗、私に代われ。
そこのちんまいのの実力も気になるが、ここらで静葉の鼻っ柱も叩き折りたくなってきた」
「うええっ諏訪子様どうしてこちらに!?
っていうか私オプションもう決めちゃった」
「いい、その設定で問題ねえ」
諏訪子は強引に早苗を退かすと、宣戦布告するかのように二人に視線を送る。
「あら、結局早苗が心配で湧いて出てきたみたいね」
「やかましいわ。
何時から占拠してたか知らんが、丁度こいつは私の得意譜面の一つだ。
ここできっちり終わらせてお開きにさせてやる、かかってこいや不良秋神」
「むむっこれはただならぬタツジンのアトモスフィアを感じるめう!
オヌシ、タダモノではないなりね!?」
「はっ、何処の小童か知らんが、ついでにカラテの差を思い知らせてやるから覚悟しろッ!」
火花を散らすその三人にギャラリーが注目する中、早苗は逃げるようにその場を離脱して氷海達の元へと戻ってくる。
「ふええ…正直助かった…><
あの子に誘われてここに来る途中で、静葉様に会って…お互いポップンの話をし出したから「じゃあこの中でトップを決めましょう」なんてうっかり言ってしまったばかりに」
お疲れ様です、と苦笑する氷海の隣で、透子も呆れたような表情で吐き捨てる。
「っていうか、諏訪子さんも完全にゲーマーの目だったよアレ」
「っていうか、とーこさん達レティさんと一緒じゃなかったっけ?」
「ああ、あの人今そこでポップンに興じてる紅いひとにしょっ引かれた…っていうか早苗ェ、完全にこれあんたの自業自得だよ、どう収拾つける?」
「そそ、そんな意地悪言わないでよ透子さーん!><」
悲鳴を上げる早苗に、ご愁傷様、とばかりに氷海も笑う。
そんなギャラリーの喧騒を余所に、最早我関せずといった感じでクレーンゲーム筺体にくらいついているフレドリカと、それを興味津々に眺める小鈴。
やがて、やはり一回では決着がつかないと悟った他の面々もめいめい店内に散らばり始め、ゲーマー3りの頂上決戦(笑)は、つぐみの連絡を受けたかごめが連中を回収しに現れる四時半近くまで続いていたという…。
PM3:30 新興住宅地さくら野地区総合商業施設「ほしゆめ」・風雅班+茜+大牙
「着いたぜ、ここが「ほしゆめ」だ」
律儀にも、下ろしてくれた場所に待っていてくれたドライバーたちに行き先を告げ、かごめ達がやって来ていたのは倉野川に建設が進むベッドタウン・さくら野地区。
閑静な住宅街の郊外にあたる場所に、その巨大な施設があった。
「また、規模がでっかくなっておるの。
一体何処まででかくすれば気が済むんじゃ」
「茜さん滅多に山から出ないからな。
でも、こんなに施設の拡充が進んだのなんて、ここ半年くらいの事だぜ…大企業とはいえ、ここまでできる力があるってのはねえ」
壮年のドライバーが僅かに顔をしかめる。
タクシーの中で、ドライバーたちは明日以降もこの地域の案内を買って出ようという旨をかごめに提案していた。
彼らの会社…地元の小さなタクシー会社である「日向美交通」も、この「ほしゆめ」を運営する大企業の傘下にある交通会社の進出を受けている。たとえ一時でも、需要があるのならというところなのだろう。
かごめは「考えさせろ」と、まだ料金プランなどの案内が書かれているパンフレットを持ったままであるが…。
「この会社のバックにいるのも確か、藤野の筈だよな。
元老集も頭首もみんないなくなって、それでもこれだけ強気に出てこられるっていうのは一体どんなカラクリかね」
かごめは呆れたように溜息を吐く。
「タマの話を聞く限りでは、こ奴らが倉野川へ進出してきた頃には、元老衆内でも相当のごたごたがあったようじゃ。
こ奴らの一派も、恐らく本家で目の上のこぶになってた連中もいなくなって、「用心棒」も容易に動員できるようになった、ということじゃろ。
だが」
茜は背後の山林を、険しい表情で目を細め、睨みつける。
「奴らは、この土地を舐めておる。
そしてそれ以上に、結界のなんたるかを知らぬから、適当な事をやりおる。
来るのは構わん、だが、それが何のためにあるのかを解らぬままに考えなく事を進めてしまう…困ったもんじゃよ」
烈達はそのやり取りの意味も解らず、ただかごめと茜を交互に見やる。
だが…その中でふたりが何を見ていたのか…一番最初に気付いたのは魔理沙だった。
森の向こうの空間が、歪んでいる。
魔理沙は特に最近、かごめの家に出入りすることが多くなったため、それを見慣れていたからこそ気付いた「異変」。
彼女が声を上げようとするより前に、それまで「我関せず」と一歩引いた位置にいた筈の大牙が、その肩を押さえて制する。
「…君にはアレがどういうものだか解ってるみたいだな。
だが、今ここで大声を上げても周りを混乱させるだけだ」
「あんた…アレが見えてんのか?
だったら、アレがどんなにヤバいものかだって…!」
「師匠も気づいているだろうが、このくらいならまだ問題ないと踏んでの事だろう。
ここの会社の連中は、そういうものを知らない…俺達に何かできる事があるなら、奴らのいない夜の間だけなんだ」
険しいながらも静かに制する大牙の言葉に、魔理沙は渋々と、出しかけていた八卦炉を懐へしまいこむ。
そして、その時別に見おぼえがある姿を、魔理沙は目の端に捉えた。
「あれ…あいつ?」
その視線の先には、一人の少女がベンチに座ってうずくまっている。
隣で付き添いと思しき女性が介抱しているようだが…少女は顔面蒼白のまま、遠目から見ても解るくらいに震えている。
尋常な様子でない事は明らかだった。
魔理沙の声で気付いたのか、烈達もその少女に気づいたようだ。
「あいつ…ニアだったっけか。
なんでこんなところに、っていうか、あいつ様子おかしいぜ?」
「ちょっと行ってみよう、私達だって知らない関係じゃないんだし」
かごめが制するのも早いか、烈と鈴花はすでに走り出していた。
一拍遅れて、かごめが頷くのを確認してから風雅も二人を追う。
…
「急に気分が悪くなったって?」
「…ええ。
元々この子、今回の「ほしゆめ」のライブ企画に気乗りじゃなかったんだけど…」
その女性…舟木
最初、烈達の素性を訝っていた彼女であるが、ニアがそれでも烈と顔見知りである事を告げ…何より、少年たちの後ろから現れたかごめを見て、警戒を解いたようだった。
「さな姉から聞いたんだが、その子は現状における「総合芸能」の切り札だろ。
もうちょっとその辺気ィつかってやんなよ、あたしらみたいなのに比べればその子そんな身体丈夫そうじゃないよ?」
「返す言葉もありません。
ですが、もううちも、あなた達の様なスター性を持った人もいないんです…どんなに小さな仕事でも、取りにいかないと…そんなこと間違ってるって解ってるのに…!」
「…ごめん、そういうつもりじゃなかったんだけどさ」
女性が涙声でうなだれるその姿に、かごめもばつが悪そうに頬をかく。
茜はそんな回りの面々を気にかけることなく、ニアの隣に腰かけると、その肩に手をかけて気を放ちはじめた。
「…やはりな。
このお嬢ちゃん、あの結界の歪みから流れ込んできた「黒森」の瘴気に中ったようじゃ。
あの気は、魔力の強く、かつそれを御する術を持たぬ者ほど強く中るからの」
「そうなんですか?」
「うむ。
わしの気は炎熱と樹花、両方を備えておる。こうしておれば、じきに体内の瘴気も浄化されてすぐに元気になれるぞ。
…ライブがあるのじゃろ? それまでには」
「……いいえ……ライブ、
私、このままだと危ないからって…」
まだ顔の蒼いまま、ニアは申し訳なさそうにそう告げた。
…
ニアの「治療」を茜に任せ、かごめは大牙を含めた5人を連れて施設内を散策する。
その一角、本来ニアが立つだろうその舞台には、近未来的な衣装を纏うふたりの少女のライブが行われていた。
「あ、あれ確か「ここなつ」だよ。
私達と同い年くらいなんだけど、ブロで活動してる倉野川公認のご当地ユニット」
「へ? そんなん居たっけ?」
「…俺もあまり詳しくないが…まあ、烈には無縁の世界だろうな。
ということは、本来前座を務める筈だった彼女らのワンマンライブになった…ということなんだろうか」
「それは不正解になるわね。
「前座」がいなくなって、メインである彼女らがフルに出てこれるようになった…それだけの話よ」
思わぬ声が背後からして、四人は振り返る。
それこそ本当に珍しいというより、何故その顔がそこにあるのかわかりかねる存在がそこにいた。
「…なんでゆうかりんさんがこんなところにいるんだよ」
「何よ、私がいたら悪いみたいないい方して。
少し野暮用があったのよ。
あの黒幕隙あらば逃げようとしやがるし、なかなか出てこれなかったんだけど」
「あー…静姉から連絡貰ってたからうすうす気づいてはいたが」
何処かげんなりした表情のかごめに、溜息を吐く幽香。
「あのふたりは、生粋の倉野川生まれではないわ。
ここのニュータウンが出来てからの移民組ね。
地方紙では結構特集組まれたりもしてるけど、私は好きじゃないわ。
あっちの紅い頭、大して歌巧くもないクセにバンドミュージックを頭からバカにしてるのよ…ふざけた小娘だわ」
眦を釣り上げて吐き捨てる幽香を、まあまあ、とかごめは宥める。
「しかしまあ、あんたまで出張っていたとは想定外だったな。
正直これから第三次大戦でもはじまんのかって感じしかしねえんだけど」
「あんたも相変わらず口が減らないわね…丘は葉菜も夢月もいるから、そんな心配はいらないからね。
…倉野川も変わったわ。
私達が居た頃は、こんなふざけた場所もなくて、もっと静かでゆっくりと時間が流れていく街だった。
ここだって見渡す限りの里山だったのよ」
何処か暗く沈んでしまう面々に、幽香は不意に表情を変える。
「とりあえず、私も実はもう商店街に帰ろうかと思っていたのよね。
どうせこんなところにほっつき歩いてるなら、ヒマでしょ?」
「あのなあ…あたしら確かに物見湯山でこっち来てるのは確かだが」
「いいじゃない、さっき見知った顔がベンチで真っ青な顔してたのを見たわ。
休ませるならこんなところより、とっととシャノワール辺りにでも行って一服ついた方がいいかもしれないわよ…紫の話では、最近さくら野地区では、妙な「奇病」が流行してるとも聞くしね」
「………「森中り」か。
確かにあーちゃんのやってるのも、こんなところに長居して続けてても焼け石に水だわな。
しゃあねえ、あんたの言葉に従った方がよさそうだな」
少女達も悟るところはあったのだろう。
かごめが目をやると、皆それに賛同したということなのだろう、頷いて返す。
そして一行は、幽香とニア、そしてマネージャーの千世も加えて一路日向美商店街へと向かった。
PM4:20 捩目山
「ここのようだな」
かごめ達がつい先刻まで居た場所に、二つの影が唐突に現れる。
「…成程、既にこの辺りは結界がほぼ機能していませんね。
ですが…森の中に瘴気が閉じ込められた状態になっている。
この結界術式を組んだ方は、倉野川全体を覆う結界に手を加えるより、応急処置的に森そのものを結界の一部に組み入れたのでしょうね。
言うなれば…出城」
「そうだな。
この結界の一部だけを手直しするなんて、その結界のなんたるかを把握していなければできないことだ。
紫様や霊夢ならともかく、それほどの芸当ができる結界術師もこちらの世界にはおるまいと思っていたが…その者に感謝しなければならないな」
パーカーのフードを目深にかぶった桃色髪の少女…さとりはその言葉に頷く。
同じように袖なしのパーカーのフードを目深にしている藍は、状況を分析するに表情を険しくしていく。
「もはや、この森はほとんど死んでいる。
何をしても手遅れかもしれん」
「ですが、これをそのまま放置していたらどんな惨劇を引き起こす事か。
とりあえず応急処置だけは済ませましょう、紫さんへの報告は、それからでも遅くはない」
「言われるまでもない」
ふたりは瘴気渦巻く森の奥へと歩を進める…。
PM6:25 旅館「常盤屋」
「ったく貴様等は一体何してんじゃ一体(#^ω^)」
「わ、悪ぃ…久々にゲーマーの血が騒いじまって。
ううっ幻想郷暮らしで腕鈍ったか…いや素直にアイツ結構ヤバイ級のワザマエだったな、スキルアップのためにフレンド登録しとけば良かったなあ」
「あーうん調子に乗った私が言うのもなんだけどそこは懲りておくべきよ。
今度会えたら私がフレンド登録しておくわ」
かごめのげんこつで我に返ったらしいのか、いまだ頭を押さえながら諏訪子が弁明ともつかないことを呟くのを、同じようにたんこぶをこさえた静葉が窘める。
かごめ達はあのあと、いまだ「森中り」から回復しないニアのため、車で30分程度かかるこの宿へとやって来ていた。
チェックインの時間から少し過ぎてはいたものの、快く迎え入れてくれた女将の計らいでニアに一室をあてがうと、かごめはすぐに何処かへ連絡を取っていたようだった。
時折、かごめの怒号が部屋のある3階にまで飛んできたものの…10分程度で話の決着はついたようで、やがて千世の携帯にも「数日程度、倉野川で宿でも取って休ませてやれ」との指示が来たらしかった。
そして…なかなか指定の時間にも戻ってこない諏訪子達の様子が気になったかごめは、つぐみに連絡を取って現状を知るや否や、宿に居座りを決めていた幽香を引き連れ飛び出していき…いまだ戦争状態を続ける諏訪子・めう・静葉の三人を実力行使で沈黙させた、というわけであった。
なおめうは連絡を受けた咲子に回収されていった。
「というか、今更だけど海沿いにこんないい感じの宿があったのね。
私達がこの街にいたときってほとんど、商店街に張り付いていたからね…レティだけは割とどこにでもほっつき歩いてたと思うけど」
「そうですね、たまに「県外」からうちの病院に入院してる人の家族とか、海水浴客が泊る事が多いでしょうか。
最近は、宿泊施設も兼ねた商業施設…「ほしゆめ」が出来てから、みんなそっちに移ってしまったみたいだけど」
感心したように呟く静葉に、やや困ったような表情で氷海が説明を加える。
「むー! でも病院からは歩いて10分位で行けるからまだまだ
……今日から一週間は皆様で貸し切りですけど」
顔を真っ赤にして頬を膨らませる美結の言葉も尻すぼみになってしまう…が、それも無理のない事だった。
数年前から、閑静な田舎町でありながらも周辺アクセスも悪くない(「魔法門」のせいでもあるが)倉野川は、第三セクターの商業開発も少しずつ進んできており、郊外の比較的安全な地域には新興のベッドタウンと、商業施設を含めた総合レジャー施設の建設もあって、元々あったこの街の商業地も大なり小なり影響を受け始めている。
特に顕著なのが、倉野川病院周辺の民宿街と、日向美商店街。
いずれも、採算が取れず閉店に追い込まれたり、あるいは商業施設「ほしゆめ」に本拠を移して生き残りを狙っている塩梅で、周辺の旅館も「常盤屋」しか残っていないのが現状であった。
「うちは…それでもお父さんが、なんとか日向美商店街の人と力を合わせて、なんとかうちを守ってるんです。
まだ、腕のいい板さんも残ってくれてるし、星川の先生とか、セリ場の人たちもなんとか優先してこっちに回してくれてて…でも、本当はもう限界なんです。
だから…かごめさんから連絡をもらった時、お父さんすごく喜んでました。
うちの事を覚えててくれて、また泊ってくれるって…だから、全力でおもてなししなきゃ、って」
寂しそうに眼を伏せる美結。
「でも「ほしゆめ」の母体の会社、すっごく大きな会社で…セリ場にもとても圧力をかけてきてるそうなんです。
だから…今日は仕入れとかうまくいくかどうかわからないって…その」
「心配すんなよ。
あんたは父ちゃん達の事を信じてやりゃいい。
それより、あたしの目算よりだいぶ人数増えちまったから、それだけは申し訳ねえって伝えてきてもらえるかい?
あらかじめ、人数は増えるかもって話はしてたから、大丈夫だとは思うけど」
「はい!」
かごめに背を押され、一瞬呆けた顔をしていた美結だったが、すぐに満面の笑顔を作って家の中へ駆け戻っていく。
その後ろ姿を見送り、かごめも少し寂しそうな顔をする。
「どの時代を生きてきても、どの街を見てもこんなもんなんだって、思い知らされることも多くなったよ。
あたし、この街でつぐみを産んだんだ。
産後しばらく、この宿で世話になってさ…さっき、タクシーの運ちゃんに聞いたけど…つぐみを上げてくれた産婆さんももう亡くなってて、小さな産婦人科だったけど、そこも無くなってたって聞いたよ」
「時間が過ぎるってそういうこった。
全く変わらねえモノなんて、この世の何処にもあっちゃいけねえんだよ…でも、私にもなんとなくわかる」
それを慰めようとしたのかもしれないが、諏訪子の表情も何処か寂しそうだ。
「しんみりとしちまったね…なんか済まん」
「気にすんなって。
そういえば、あの子もしかしたら、同じころにいた女将さんの赤ん坊かなあ。
つぐみ2月生まれなんだけど、確か半年ほどお姉さんだって言われて…流石に十五年も会ってねえと記憶もあいまいだなあ」
「オメエ相変わらず記憶力いいんだか悪ィんだか…」
苦笑を隠せない諏訪子。
そこへ、美結が駆けもどってくる。
「すいません皆さん、お待たせしました!
今からお部屋にご案内しますね!」
成長した「看板娘」の笑顔に目を細め、かごめは一行を促して宿の門をくぐる。
やがてそこに、これから再開するだろうオフィスの大掃除を終えたらしいレティと紫も合流し、盛大な宴とともに夜は更けていった。
…
PM10:30 客室「朝顔」…かごめ達の部屋
「いやーいい風呂だった…って静葉、紫とかごめは?」
「あの連中ならコンビニまで行ってくるって言って出かけていったわよ。
スキマ使えば一発だろうに、律儀に自転車借りていったわ…あいつらまだ飲む気かしら」
呆れ顔で、海側の戸を開け払って涼んでいるだろう静葉が笑う。
しゃあねえ奴らだな、と諏訪子はどっかりと腰を下ろす。
視線の先では、旅館の敷地内でもある浜辺で、花火に興じる少女達と、それを見守るレティと幽香の姿が見て取れる。
その光景に目を細めながら、諏訪子は静葉から受け取った麦茶を口にした。
「あいつら、そんなんだったら遠慮しねえで宿のもんに買い出しさせりゃいいものをさ…余った黒バイまで部屋持って帰りやがって。
帰ってくる前に喰っちまおうか」
「やめときなさいよ、あとで煩いわよ。
それより」
静葉が不意に険しい表情を作る。
「数日前から入って色々調べていたんだけど…この街、結構ヤバい状況だわ。
北東側…スノームーン方面の山稜部からさくら野地区にかけての広大な範囲、結界が消えかけてる。
挙句に中心地点の捩目山付近、これまでいなかった生き物も出現するようになったわ」
「生き物?」
「
そもそもこの地方、私達がいた頃にはヤマビルなんていなかった」
「ヤマビルって…んなもんだったらわりとどこにでもいるだろ。
そもそもあいつら、カモシカのいるような山には大概いるぞ」
怪訝な表情で返す諏訪子。
静葉は険しい表情のまま続ける。
「そのカモシカを集団で襲って変死させる程度のヤマビルが、果たして普通のヤマビルと言えるかしら?」
「どういうことだ?」
「電話でかごめが気になる事を言ってたのよ。
結界の外で「森」の浸食が進んでる、って。
この世界の森と言えば「黒森」。そして、スノームーン地方に最も近いのが、多種多様かつ危険極まりない寄生性の蛭が多数生息する「蛭の森」。
私がこの街を去って間もない十年前、この地を浸食しようと攻め寄せてきた翡翠蛭竜の根城でもある危険な森よ」
「…そういえば
最近、最も広がってはいけない森が広がりつつあるって」
「多分、紫が突然、私達を集めてこの街に寄越そうと考えたのも、その為なのかもしれないわ。
蛭はいかに魔力を蓄えようと、気温の急変と乾燥には非常に弱い。
私は樹花属性の神だけど、相性的にはレティと非常にいい。氷雪属性のあの子やルナサ、炎熱属性の藍なら、効率的にあの連中を除去できる筈。
そうなると…紫の真の目的は」
「やっぱり、バレてしまったみたいね。
あなたのいう通りよ、静葉」
何時の間にかそこに、コンビニ袋いっぱいのアルコール類を携えた紫が戻ってきている。
かごめと一緒になって飲んでいた筈だった彼女は、既に素面に戻っていたが…恐らく、かごめも彼女の真の目的を知っているのだろう。
恐らくそのアルコール類も、外で花火に興じている少女達にことを悟られまいとするカモフラージュなのかもしれない。
静葉がふと、海岸に目をやる。
視線の先、少女達の悲鳴と嬌声の中で、一升瓶を片手に、本来地面に固定させて点火するタイプの花火をもう一方の手に持った、子供のようにはしゃぎまわるかごめの姿が見える。
「かごめは、それを知ってるの?」
「隠しても無駄だし、第一彼女と、彼女が連れてきた茜って子は炎熱属性。
どちらも戦力としてこれほど心強い子はいないわ。
昼のうちに、藍とさとりも呼んでおいた…でも、もう幾人か呼ぶ段取りも必要になるかも知れない」
「ったく…早苗の付き添いをダシにちょっとしたバカンスを楽しみに来たってのに…どーこ行っても私達には厄介事が付きまとうってか。
かなわんな本当に」
渋い顔のまま諏訪子は、ごく当たり前のようにビニール袋からワンカップを一つ取りだすと、一息に飲み干した。
「ガキどもにとっちゃ折角の小旅行だ。
なるべくなら、あいつらの楽しみを邪魔しないでいいように済ませたいもんだな」
「それが理想よ。
ただ…藍とさとりから連絡が途絶えているのが少し気にかかる。
万一の事を鑑みて、今のうちに頼りになりそうな辺りに連絡はしておくわ。
可能なら、明日から対応に入る…でも、もし」
「解ってるって。
連中だけは最悪、私らでなんとかするさ」
諏訪子の言葉に、ええ、と頷く紫。
少女達の夜は、一抹の不安と共に過ぎ去っていく。