二日目朝、未明 さくら野ニュータウン郊外
その日は、濛々と霧が立ち込めていた。
さして高い山でもないが、ベッドタウン開発のために森が伐採され、切り崩された丘にその霧が侵入すると、俄におぞましい形の芽が吹き、禍々しい幹を持つ木へと成長を始める。
その魔樹は同じようにして霧を放ち、徐々に市街地へとその影を近づけていくが…夜の帳を割って陽光が差し込むと、霧は姿を消して木々の成長が止まる。
だが…既にそこは「彼ら」の…忌むべきモノたちの領域と化していた。
…
それより6時間ほど遡り、捩目山。
時折襲いかかる魔蟲を焼き払い、茜によって張られた結界の奥まったところまでたどり着いていたさとりと藍は、そこにとんでもないものを目にすることとなった。
「これは…!」
さとりが驚愕と、その惨状に対する嫌悪で顔をしかめる。
目の前には、一面気色の悪い色をした、おぞましくぬらぬらと粘液を纏う大小様々な蛭が、まるで池の如く地面を埋め尽くしていた。
しかし、問題はそこではない。
背後に続く山には、既に巨大な
その壁面に、月明かりできらきらと反射するのも、恐らくはその壁を埋め尽くしているだろう蛭の粘液なのだろう。
その光景に、ふたりは既に最悪の事態を迎えている事を直観する。
「なんてこった。
まさかこんな方法で結界を突破してくるなんて」
「少しずつ、結界の魔力に抵抗性のある個体を作りだし、それを盾にして結界に空いた穴を固定…この程度の穴なら、破れた内には入らないから感づきようがない…やられましたね。
通常の蛭の生活環からすれば世代交代まで一年あまりのサイクルですが」
「明確な目的の上で行えば、十年もあればその準備も整えられるんだろう。
…どうする?
ここは一度引き返すか?」
藍は勤めて冷静さを保とうとするが、戸惑いを隠せずにいる。
彼女とて、決して臨機応変に物事に対処できないわけではない。
名目上、いまだ「八雲紫の式」という立場をとっているが、既に彼女に与えられた「権限」は紫の持つ全権限に等しい。
故に、この場での対応を決める権限も藍にはあった。
ところが…あまりに長く「紫の式」に徹してきた彼女には、いざ重大な問題に直面した時の思い切りの良さには、どうしても欠けるところがある。
紫を深く慕うあまり、何処かで彼女に強く依存しているということも藍自身理解しており…それではいけないのだということも、わかっている。
しかし、藍はどうしても、その覚悟と自信を持てずにいる。
「北極眼」を脱した鬼人正邪を追っていった「別時間軸の幻想郷」で、紫から絶大な権力を奪ってしまった自分自身の姿を知ってしまった彼女は…その事に恐怖すら覚えていたのだ。
その事を察したのか、さとりは藍の手を強く握りしめる。
「しっかりしてください、藍さん。
「あの世界の八雲藍」と、今此処に居る
それに、あなたは八雲紫という人物を、誰よりもそばで見続けてきた。
紫さんなら、こんなときどうするか…あなたには、それが解るはずでしょう?」
「さとり…」
「その上で私の意見を求めるというなら…私の考えとしては、ここで退くのはベストではないと思います。
今見えているぶんだけでも駆除し、応急的に穴を結界でふさぐ…私達二人であれば駆除に一刻、結界の応急補修に加えて半日もあれば十分な時間です。
万が一しくじったら…私も連座して責任を負いますよ」
藍の目の前で、努めて笑顔で振る舞おうとするその気丈な少女も…「あの世界」の彼女とは違う。
その言葉に勇気づけられるように、藍は頷く。
「解った。
だが、恐らく穴はこれひとつだけじゃないだろう…お前の提示した半分、出来れば四分の一の時間でこの一帯の対処を終える!
力を…借してくれるな、さとり!?」
「無論!!」
その言葉と同時に、さとりの髪の色が桃色から深紅へ変わる。
それに同期する形で、魔力を全開に放つ藍の手にした符も紅蓮の炎に包まれた。
敵の来襲を察知した魔蟲たちが一斉に飛びかかってくるのと同時に。
「行け、管狐!!」
「想起“ニュークリアエクスカーション”!!」
藍の放った炎の狐の式神と、さとりの放つ地底太陽の焔が、捩目山の一角を焦がす…!
ポケモン対戦ログ幕間 「日向美狂詩曲」 其の三・忍び寄る悪夢の影
AM8:15 客室「蒲公英」 烈・風雅の部屋
「いやー食った食った、やっぱり朝は和食に限るぜ!」
「お前って奴は…なんで朝からいきなり5杯も食えるんだ。
普段はほとんど喰わないで学校に行くクセに」
満足そうに笑う烈に何処かげんなりした表情の風雅。
「いやさあ…確かにアッシュさんの作ってくれる飯は美味いんだけどよ…なんかちょっと、あの雰囲気がなあ。
夜はいいんだけど朝は緊張しちまってよ」
「お前にもそういうのはあるのか」
「わーるかったなあ。
世話になってる分際でユーリさんには悪いんだけど、やっぱり城暮らしって俺には性に合わねえ。
こっち戻ってこれれば、家からも通える距離みてーだし、普通にそうしようかな」
「ったく…これからの進路にも関わる重要な話だというのに、お前の考え方はシンプルでいいな。
俺も少しは見習うべきなのかも知れん」
「お、そうか?」
風雅の、少しからかうようなニュアンスの言葉にも気にした風が無い烈に、風雅も呆れるやらで苦笑しかなかった。
その時、不意にドアがノックされる。
「いいかしら二人とも?」
ドアから顔をのぞかせる氷海の手には、プリントの様なものがある。
「お、なんかあったのか?」
「何かって…今日の予定の確認よ。
今日は班対抗のオリエンテーリングだって言ったじゃない。あなた達の班のチェックポイントとルール表、渡しに来たわよ」
「へっ? そうだったっけ?」
「お前完全に飯食うのに夢中で聞いていなかったな。
班ごとに、それぞれ行く先々のヒントを頼りに、所定の場所でチェックポイントを探し出してチェックをつけ、どの班が最初に日向美総合学園の中心地にたどり着くかを競うんだ。
班ごとに指定される順番は違うが、どの班も同じ目的地を必ず回ることになる。
ルート的に、最短で言ってもほぼ昼過ぎまでかかるようにしたということなんだが」
「まあ、烈や鈴花が話をちゃんと聞いてるなんて事は、最初から期待なんてしてないわ。
もっともあなた達の班で真面目に話聞いてそうなの、風雅しかいないとは思ってたけど」
呆れたような口調の氷海からプリントを受け取り、風雅はその内容に小首をかしげる。
「氷海。
この表を見る限り、班が四つに増えてる気がするんだが?」
「ええ。
詳しいことは知らないけど…かごめさんの方で色々話をしたようで、今日からニアさん…右寺さん、って呼んだ方がいいかしらね、彼女と美結さんも混ざることになったわ。
元から四人班のあなた達を崩さずに、人数の多かった私と蒼井先輩の班から一人ずつ調整すればいいってことになって…例外はあるんだけど」
「ふーん」
新たな班編成を受け取り、ふたりはその内容を吟味する。
風雅班
田口風雅、渡辺烈、黒沢鈴花、霧雨魔理沙 班員・班長共に変更なし。
凍子班
蒼井透子(班長)、藤野つぐみ、フレドリカ=アーヴィング、リップル=レオンハート
氷海班
星川氷海(班長)、香坂美結、右寺遥(ニア)、片岡千夏
早苗班(新設)
東風谷早苗(班長)、本居小鈴、藤野愛子、小鳥遊蕾夢
「ところで委員長、これってなんかトップ賞みてーなのあんのか?」
「あなたねえ…そこまですらまったく聞いてなかったの?
トップ賞は、なんかちょっとしたものと、あと明日の海水浴で班別に配給されるスイカひとつボーナスで追加よ。
…スイカ好きな子多いのかしらね、半分以上は目の色変えてたから大変なことになりそうね」
「おもしれえじゃねえか!
風雅、そうと決まれば善は急げだぜすぐに俺達も」
「スタートはこの宿を八時半、だったよな氷海」
立ちあがろうとする烈の襟首をつかみながらの風雅に、ええ、と頷く氷海。
「とりあえずあなた達のところへ念押しに来ておいて正解だったわね。
あと、他班に対する妨害は、命と公共の迷惑に関わらず、かつ倫理的に許させる範疇で可とする…直接殴り合いとまでしなくても、各自能力を使っての足止め、目的地でチェックポイントを見つけられないように隠したりは可能よ。
チェックポイントを持ちだすとか壊すとかはルール違反ね」
「おっけー、解ったぜ。
もっとも俺そういうのあまり得意じゃねえんだけどなー…スイカのためだ、一丁やってやろうじゃねえか!」
「ふふん、スイカは私の好物でもあるのよ烈。
手加減はしないわよ、全力で1位は狙いに行くからね…!」
去り際に振り向いた氷海の笑顔は、目が全然笑っていなかったが…烈は全く気にした風もなく風雅もまた見ないことにしておいた。
そして、少年少女4グループ総勢16人による、(おもにスイカボーナスをかけた)仁義なき戦いの火蓋は切って落とされた。
AM8:40 日向美商店街・早苗班
「それにしても何というか…この班編成だと有利不利が本当にはっきりしてるわね。
なんで地元の子が五人いて、それが二班にかたまってるのかしら」
眉根にしわを寄せながら、目的地のヒントが書かれた紙とルール表を交互に睨みつけながら愛子。
「まあまあ姉さん、その代わり私達、地元の子か引率連れて回っていい事になってるんだし」
「それにしたってアテなんてあるの?
透子さんの事だし、いち早く目星つけて動いてくるとしたらここなんじゃないかと思うんだけど」
宥める蕾夢の言葉も意に介することなく、見上げた先には「ボーダー商事」の文字。
紫達が再開しようとしている「なんでも屋」のオフィスである。
しかし…電燈の落とされているそこにはまったく人の気配がない。
「そういえば…朝から紫さん達の姿、見かけませんでしたね」
「いるならここじゃないかと思ったけど、アテが外れたみたい。
早苗さんどうする?
地元に強そうなアテがないとなると、あとは地図を頼りに自力で探し当てるしかないわ」
「うーん…どうしたらいいのかな」
早苗も困ったように笑いながら腕組みする。
「お〜、そこにいるのはさななめうか?
まさかめうへのリベンジにまた舞い戻ってきためう!?
でもまだ残念ながらゲームセンターはあいてないめう!! まりりなみのせっかちさんめう!!」
その時、ついぞ昨日聞いた声が耳に飛び込んで来て、早苗たちは振り向いた。
セーラー服とも普通のワンピースとも判別し難いピンクの色の服と、これまた見てると目の痛くなりそうなピンク髪をサイドテールにしている小柄な少女。
「あなたは…めうちゃん、だったよね?」
「でも折角決着をつけにきたというなら受けて立つめう!
それまでシャノワールのモーニングで腹ごしらえめう!!」
「いや、ちょっと私達そう言うのじゃなくて…」
「問答無用めう!
いざシャノワールへレッツゴーめう!!><」
「あ、ちょっとめうちゃんスカート引っ張らないでー!!><」
勝手に話をどんどん進めていこうとするめうに小鈴の制止などなんの役に立ったろうか。
早苗のスカートを掴んでぐいぐいと歩を進めるめうにただただついていくしなかい一行であった。
その数分後 純喫茶「シャノワール」
「そ、そうだったんですか…すいません皆さん、めうちゃんがご迷惑を><」
結局引きずられてきた一行は、めうがモーニングに夢中になっている隙に咲子を呼び止め、事情を話す事にした。
咲子は少し困った顔で小首をかしげる。
「ちょっと面白そうですし、私がご案内できればよかったんですけど…すいません、今日も生憎お店を手伝わないといけませんし」
「ううん、気にしないで咲子さん。
私達もダメ元で聞いてみただけだから。
しょうがないか、ちょっと地図確認してから動きたいし…それじゃ私コーヒーを」
「さなな水臭いめう!
そういうことだったらなんで早く言ってくれないめうか!
どの道このまま日長一日イベントのすべて終わったリフレクやってても仕方ないからめうがナビゲーターをするめう!!」
何時の間にかそこには得意顔のめうが仁王立ちしている。
彼女が注文していたモーニングは結構な量のあった正体不明のパフェっぽいものだったが、めうがいったいいつの間にそれを完食したのか…それにそもそも話を聞かずに無理矢理ひっぱってきたのは誰だったか…無駄だと思った早苗たちは言及しないことにした。
しかしながら、倉野川の高校に通っているという咲子は勿論のこと、美結の話を聞く限りは目の前の少女…卯花めうも紛れもなく、倉野川の地元っ子であることは間違いない。
早苗は何かを感じ取ったのか、それでも何処か遠慮がちに、自信満々のめうへ問いかける。
「いいの?
四か所といっても、結構移動範囲広い気がするんだけど」
「えっとえっと…見る限り最初のポイント、もしかしたらここのすぐ近くの倉野川自然公園を差しているみたいですね。
あそこにはイベントで使うバンドステージもあるし、何か目印にするなら格好の場所だと思います」
「あとのヒントも結構簡単めう!
たぶんうまく回ればお昼までにぜーんぶ回りきれるめう!
このめうに任せておけば聖輦船にでも乗った気分でおーるおっけーめうよ!!」
顔を見合わせる早苗、愛子、蕾夢の三人。
「これは…もしかしたらすっごく強力な助っ人かもしれないよ」
「そうね。
どうする早苗さん、賭けてみる?」
「賭けるも何も…私達には他にアテもないからね。
じゃあ、折角だからお願いしてもいいかな、めうちゃん?」
「ヨロコンデーめうっ!!>ヮ<ノシ」
まるで、何かのRPGで新しい仲間を加えた時のような、盛大なファンファーレでも聞こえてきそうな得意顔のめうをメンバーに加え、早苗たちは一杯のコーヒーを飲み干すとシャノワールを後にする…。
AM8:45 「ほしゆめ」行き路線バス内・透子班
「ねえ透子さん、アテもなくバスに乗っちゃったけどいいの?
私達と早苗さん達の班、地元民いないでしょ」
眉根を寄せて隣に座る透子を見やるフレドリカに、特に気にした風もない透子は、ぼんやりと車窓の外を眺めながら応える。
「んー、ああ、そうだねえ。
一応あたい達と早苗達は地元に詳しい助っ人連れてきてもいい事になってるねえ」
「いや今現在私たちにそんな人いないよね?
それをアテもなく言われるままにバスのっちゃったけど大丈夫なの?」
「んー、まあその辺は特にないよねえ。
とりあえずどうしようかねえ。
多分最初の目的地にはこれに乗るのが一番早いと思ったんだけど」
「えっ?」
透子の言葉の意図が解らず、顔を見合わせる金髪二人とピンク髪。
透子は飄々とした態度のまま続ける。
「出がけに連絡がついてね。
っと、次で降りるよ。
次が最初の目的地、んでもってあたいが呼んだ助っ人と合流だ」
「透子さん、この街に知り合いいたの!?」
目を丸くするフレドリカに、ああ、と応える透子。
「妖精国にいた頃の、数少ない友達だよ。
去年久しぶりに連絡貰って…倉野川に住んでるって話聞いてたんだ。
あの子だよ」
バスが停車する。
その窓の外には、にこやかに笑う一人の少女が立っていた。
…
バスを降りた透子たちに、青みがかった黒髪をショートカットにした少女が目を細めて出迎える。
青のジャージに、同じ色のスパッツを身につけたスポーティな衣装に、恐らくは飾り眼鏡であろう書生眼鏡を身につけた、大人びた印象を与えるその少女は、はっきりとした明るいトーンの声で呼びかける。
「久しぶり透子、元気そうで何よりだわ」
「お互いさまだよトコ。
それより悪かったね、受験勉強で忙しいところ呼び出しちまって」
「いいのいいの、気分転換にいいと思ったし。
それにしても意外ね。
一匹狼を気取ってたあなたが、こんな可愛い後輩たち連れて歩くようになったなんて」
「所変われば品変わる、ってな。
あたいだってそうそう昔の事引きずっちゃられないよ…っと」
透子は、茫然とその様子を見守る三人に向き直る。
「紹介が遅れちまったか。
この子は水森智子、見た目は今ん所人間と一緒だけど…まあ、蛟の一族だよ。
あたいが妖精国で馬鹿やってた頃の親友、かな」
「んもう、都合の良いときばかり親友呼ばわりとか、変わらないわね」
透子へ悪態を吐き返し、よろしく、と、頭を下げた細い目の少女に、つぐみたちも同じようにして会釈する。
「透子から概要は聞いてるわ。
このくらいなら簡単な暗号だし、どこもかしこもよく行く場所だから、最短ルートで案内できるわ。
先ずとりあえず…東雲神社ね」
智子は一行に、なだらかな斜面に広がる住宅地の一角、小さな森に囲まれた区画を指さす。
「あの森の辺りがそうよ。
ここから少し歩くけど、近くって言えばこの近くになるわね。
次が多分月見池だから、神社前を通る路線のバスに乗れば一発で行けるわ」
「流石だねえ、持つべきものは土地に詳しい友だよ」
「本ッ当にそういうところ何一つ変わってないわね、透子。
まあいいわ。
そんなことより明日のスイカ、私にも分け前くれるって約束は破らないで頂戴よ?」
「わ、解ってるよしつこいなあ…」
有無を言わさぬ迫力ですごむ親友に、透子も苦笑したまま後ずさる。
つぐみ達も、目の前のふたりのほほえましい関係に、表情をほころばせた。
こっちよ、と笑顔を向ける智子の後について、少女達も歩きだす。
…
道中、簡単な自己紹介を済ませ…彼女からの質問に答える形で、簡単な経緯を説明するつぐみ。
彼女らの素性を知って僅かに驚いたような表情を見せる智子は…少し寂しそうに笑う。
「あまり知られてはないけど、この街に住んでいるのは人間だけじゃないの。
人間に近い姿を持つ私の家族もだけど…様々な理由で妖精国やその周辺にいた魔性も、僅かながらに「人間」として暮らしているの。
言い方は悪いのかもだけど…つぐみちゃんがこの街で生まれたことも、そうした事情があったのかもしれないわ」
つぐみが…かつて、魔界を力で支配しようと戦争を起こした魔界西方公の血を引くことは、公然の秘密である。
かごめが何を思って、その一族の青年と契ったのかは、当人も触れたがらないので伺い知ることはできなかったが…それでも、彼女はそれを何かの運命と受け取ったのか、ある意味では治外法権の場所である倉野川でつぐみを産むことを選んだのだ。
言葉を継げず、俯いてしまうつぐみに代わり、透子が続ける。
「でも、たった一つだけはっきりしてる事があるよ。
つぐみのお母さんは…色々あったけど、それでもつぐみの事がとてもとても大好きだって」
「そうね。
真祖のかごめ、って聞くとなんだかとっても恐ろしい存在に聞こえるけど…つぐみちゃんのお母さん、と聞くと、ちょっと変わってるかもだけど何処にでもいる普通のお母さん、って感じになるわ。
私も遊びに行っていいってことは、明日には会えるのよね?
どんな人なのか、早く会ってみたいな」
その言葉に、つぐみもはにかんだように笑い、頷いた。
…
そんな取り留めもない会話のうちに、やがて、うっそうと茂る木々に囲まれた鳥居の前までたどり着く。
「ここが東雲神社よ。
見ての通り、なんの変哲もない小さな神社だわ」
「感じる。
お母さんの魔力、少し残ってるみたい」
つぐみはそのままふらりと、鳥居をくぐっていく。
あまりにも何の予兆もなく、自然と歩を進めた彼女に一瞬呆気にとられる透子たちだったが。
「と、止めなくていいの?」
「トコ、こんなかで特別ヤバそうなところってある?」
「ないわ、小さな社と手水舎があるだけよ。
ただ、昔からここには、特に害はないけどサルの神様が住んでるっていう言い伝えもあるの。
街の人以外の人が不用意に入ると、警戒した神様に松ぼっくり投げられるって…私も来たばかりの頃やられたし」
「じゃああたいに今見えてるアレがそうなんだろな」
その言葉にぎょっとして振り向いた、透子と同じ視線の先に三人は確かに見た。
境内の途中で立ち止まっているつぐみの向かいに、青白いオーラを纏った、小柄なサルの様な影がいる。
つぐみと何やら話しあっていたようだが、やがてつぐみは踵を返して成り行きを見守る四人の元へ戻ってきた。
「あの神様が教えてくれたよ。
やっぱり今日の明け方、お母さん此処に来てたみたい…チェックポイントを置かせてほしいって頼まれたって。
それ以降で今日来たのは、私達が最初みたい」
「そ、そうか。
普段神様なんて諏訪子さんとか静葉さんで見慣れてたつもりになってたけど…こういうときにいざ遭遇するとやっぱりびっくりするな」
そうしてもう一度見やると、猿の神様が手招きをする。
でも、と少し暗い顔をするつぐみ。
「お母さんなんか、この街に大変なことが起きそうだって言ってたって。
ある程度は大丈夫かもだけど…神様は、危ないかも知れないから、早く安全な場所に帰った方がいいって」
「どういうこと?」
つぐみは頭をふる。
「わからない…でも、私聞いちゃったんだ、昨日お母さんが帰ってくる前に、紫さん達が話してたの。
街をおおう結界が、街の外に広がる“森”の浸食の影響で破られつつあるって…その様子を見に行ってる筈の、藍さんとさとりさんと連絡がつかないって…。
私…黙ってたけど不安でよく眠れなかったの…なにか、恐ろしいこと起きそうな気がするって…でも…!」
その言葉に一瞬、智子ははっきりと顔色を変えた。
しかし透子はそれに気づいてか気付かないでか、つぐみの肩に手を置き宥める。
「大丈夫だよ、かごめさん達がどんだけバケモノじみた強さを持ってるかくらい、娘のあんたが一番わかってんだろ?
でも、神様がそうアドバイスくれたんだ。
とっととこのゲーム終わらせて、宿で朗報を待とうよ。な?」
同じように心配そうな表情で見やるリップやフレドリカへも視線を走らせ、つぐみは弱々しいながらも笑顔で頷く。
神社の神様の案内で、本殿の裏に不可視の結界で守られたチェックポイントを見つけ、そこにあった判子を渡されていたメモ帳にスタンプする一行。
ゲームであれば他班への妨害のため、これを別の方法で隠す事を考えるところだったが…つぐみの言葉を受け、透子たちは結界を解除し、すぐに見つけられるようにした。
「他の連中はこのこと知らねえよな。
でも、ストレートに伝えると色々拙いかもしれない。ちょっとした伝言程度に留めておくか」
透子はスタンプを押したページと別のページを破ると、印鑑を重しにしてメモを残す。
-倉野川に厄介事あり、朝からかごめさん達不在はそれに関係ある模様。
オリエンテーリングを可及的速やかに終えて宿に戻った方がいいと思いますので、ここでのチェックを終えたらすぐに次の場所へ向かってください-
「こんなもんだろ。
トコ、月見池ってとこはここからどのくらいかかる?」
「えっと…もうじき駅前行きの路線バスが来るわ。
ここから駅方面に3つ先のバス停が「月見池公園前」、その目の前よ。
バスで10分かからないけど、だいぶ広い公園だから、こういう隠され方されてると時間かかるかも」
「とりあえずまずは氷海達に連絡取ってみるか、あいつなら事情を解ってくれるかも知れないし。
協定を結んでスイカ山分けってことにしとこうか」
凍子の号令一下、電話をかけながら走りだす彼女を追って、見守る神様に軽く会釈してつぐみたちもその場を後にする…。
それから少し時間をさかのぼり…「ほしゆめ」周辺
「ほんの小一時間程度でこれか、いい加減頭痛くなるな」
あえて軽口で気を紛らわせようとするかごめだったが、眼前は既にとんでもない事になっていた。
一時、晴れたかに思えた霧だったが…破られた結界の向こう側から流れ込んでくる森の瘴気が光をさえぎると、再び森は濃い霧を周辺域にばらまき始めていた。
僅かに吸っただけでも、ニアのような拒絶反応を起こすくらい強い病毒性をもつ瘴気なのだ。ここまで濃いものになれば、普通の人間でも中毒を起こすだろう。
ニュースで報道されるまでにはなっていないが…既にさくら野ニュータウン周辺は軽くパニック状態になっていた。
異変のあった分譲地付近では、既に野良犬の変死体に蛭が群がっているという有様で、それに襲われた者まで出始めている。
かごめが助けたその人間も、もし彼女がその場を通りすがらなければ野良犬と同じ末路を辿っていたことだろう。
「とりあえずこっから駆虫開始と行こうかね!」
彼女は素早く文言と印を組み、これまで幾度唱えたか解らないその炎の術を放つ。
しかし…それは霧に到達する前に霧消してしまう。
「邪魔はさせん。
この地に無断で侵入してきた人間に味方するなら、真祖のあなたとて容赦はしない!」
その木立の上に、それをやってのけたと思しき術師と、同じように黒装束を纏う集団が居た。
そのリーダー格の術師に、かごめは吐き捨てるかのように誰何する。
「てめえ、何モンだ」
「我らは「森の梟」。
この地は古来より、我ら妖精の地。
この街を作った者が…自然と人との融和を旨とし、守るという誓いの元に貸し与えられたものだ。
しかし、人間達はそれを破った。故に、森の魔を以て人間達を駆逐する!!」
「馬鹿か!
あんた達妖精だって、森の蛭がどんだけヤバい代物だか知ってるだろ!?
人間も妖精も誰も住めねえ森を無駄に広げてどうするってんだ!!」
「我らの命など瑣末なもの。
人間にその愚かさを思い知らせるため、あえてあのおぞましき蛭竜に魂を売ったのだ。
邪魔をするなら貴様も森の一部となり果てるいい…“炎剣の詩姫”!!」
怒号と共に、木陰から飛び出してくる子牛程度の大きさを持つ魔蟲と共に、一斉に飛びかかってくる黒装束。
かごめの瞳が力の発動と連動して真紅に染まる。
「そうかい、馬鹿は死ななきゃ治らんか。
だったら化けてこないように一匹残らず灰にしてやる!!」
AM9:25 「月見池公園前」バス停・氷海班
「解りました。
私達は次のチェックポイントへ向かうけど、そういう事情なら場所だけ教えておきます。
ええ…仰るとおり、うちが月見池のスタートです。
先輩達もお気をつけて」
氷海は電話を切る。
「どうかしたんですか?」
「どうやら、私達の知らないところで大分面倒なことになってるみたいね。
じきにバスが来る…というか、私達の乗る予定のバスに蒼井先輩達が乗ってくる。
本人たちに事情を聞いた方が早い気もするけど、バスの中で説明するわ」
僅かに真剣な表情を見せる氷海の視線の先、「月見池経由倉野川駅行き」の表示があるバスがやってくる。
バス停のところへバスが停車すると、そこから雪崩落ちるようにリップ、フレドリカ、一拍置いてつぐみが降りてくる。
「あなた達! チェックポイントは池東側の休憩所の裏よ!
簡単な炎の魔法であぶり出せるはずだから、小火出さないようにだけ気をつけなさい!」
「わかりました!」
そのまま駆け去っていく三人を見送り、料金を支払って降りてくる透子と川瀬を迎えながら氷海は頷く。
「ごめんな氷海、恩に着るよ。
一応、次に来るだろう早苗達にはもう連絡したんだ。
順番的には東雲をあんた達が巡るの三番目になると思うが…特に隠して来なかったから、後続が何かイタズラしない限り大丈夫だと思うんだけど」
「烈と鈴花が懸念材料ではありますね…事情を知ったらあの子達が何を仕出かすことか。
あの子達には私から伝えます、先輩たちも急いでください…でも、スイカ山分けの約束、忘れたら容赦なく粛清しますよ…!」
「おお、こわいこわい。肝に銘じとくよ。
あんた達も気をつけてな」
ええ、と頷き、氷海はまだ事情が呑み込めていないメンバーを促してバスへと乗せる。
…
「まだ詳しいことは解らない。
東雲神社の神様だったら、私も小さいとき、会ったことがある…月見池で迷子になった私を、うちまで案内してもらったもの。
余所者には最初警戒はするけど、嘘を吐いたりして人を困らせる神様じゃないのは、私も知ってる。
それ以上に重要なのは…既にかごめさん達が何らかの行動に出ているということ、その一点に尽きるわ」
氷海は目の前の三人に事情を説明する意味も兼ねて、彼女たちにも会話が聞こえるようにして風雅と連絡を取っていた。
-解った。
だが、下手にあいつ等に話すと何を仕出かすか解らない…俺の方でうまく先導するよ。
…とはいえ、少し気になることはあるんだ-
「気になること?」
-捩目山からさくら野にかけての空が、おかしいんだ。
まだ、烈達が感じ取れるほどじゃないが…薄いけどかなり強力な瘴気が立ち上り始めてる。
俺達が昨日さくら野で見たのとは比べ物にならない位-
氷海はバスの窓からはるか後方…その場所から北東に位置するさくら野方面の空を見る。
一見、雲一つない快晴の倉野川の空、その一角だけが、暗く禍々しい気が満ちているのを彼女は感じ取った。
-朝はそんな雰囲気すらなかったんだが…まだ夜が明ける前に、部屋の外で大牙さんと烈のおばあさんが話しているのを聞いたんだ。
予想外の事になったかもしれない、って。
烈や鈴花は気づいていなかったかもしれないが、今思えば朝の大牙さん達の挙動も何処かおかしかった…憶測にすぎないけど、アレは大牙さんたちじゃなかったんじゃないかと思う-
「どういうこと?」
-霧雨さんから聞いたんだが、かごめさん達がタルシスにいた時に、探索補助としてかごめさんの力を記憶をコピーした式神を使っていた、って話を思い出してな。
ひょっとすると、アレは式神だったのかもしれない。
あの時広間にいたかごめさんを含めたあの人たち全員が-
「あなたの想像通りなら…もしかしたら現時点で既にかなり拙い事態に発展している可能性もある、ということね」
-そういうことだ。
杞憂であればいいがな…あと氷海、お前達次は何処だ?-
「暗号の解読が正しければ、あなた達が最初に行った天神大社ね。
バスで駅に出た挙句ひと駅、地元の子が多いグループは兎に角面倒なルートになるように設定してあるわ…まったく、こんなややこしいルート設定考えてくれるなんて本当に」
-愚痴を言っても仕方ないさ。
それより、ひとつだけ済まない、氷海。
烈もだがむしろ鈴花のほうがノリノリでな…チェックポイントそのものはすぐに見つかると思うんだが…-
「大体あの子のやらかしそうなことには想像つくわ。
それよりも…あの連中が無茶を仕出かさないように、気をつけて」
-ああ。またあとで-
通話を切り、氷海は心配そうに眺める三人に、僅かに神妙な表情を作って向き直る。
「正直、まだ情報としては不明瞭なところが多いわ。
けれども…こんなことを言うのもなんだけど、出発してから妙な胸騒ぎが収まらないのよ」
「出発するとき…病院にやけに車が出入りしてたこと…ですか?」
千夏の言葉に頷く氷海。
「うちは大病院と言っても、普段は開店休業状態だもの。
…それが、朝からあれだけの人の出入りがある…それだけでも十分異常事態だし、さっきお父様からもらったメールも気にかかるの。
それとなく右寺さんの事も話したんだけど…昨日さくら野へ行った子達がいるなら、他の子は大丈夫なのか、って」
「かいちょ…じゃなかった、海姉さん、これっ…!」
それまで氷海の言葉を聞きながら、タブレット端末を操作していた美結が狼狽した様子でそれを示す。
話を聞いていたのか、と窘めようとする言葉が喉まで出かかっていた氷海も、その画面に表示されるニュース速報に色を失う。
「『さくら野ニュータウン、原因不明の中毒者発生でパニック』…これは!?」
「わかりません…ニュースサイトではただ、あの一体封鎖されて住人が出入りできなくなってるって…警察はただ、むやみに建物から出るなってばかりしか。
でも…ツイッターだと、野良犬の死体に芋虫みたいな気持ちの悪い虫がいっぱい群がってたのを見た人がいるって大騒ぎになってるって…!」
その画像を見た瞬間、千夏は小さな悲鳴を上げて後ずさりする。
「や、やだっ…それっ、森の蛭!」
「なんですって!?
まさか、これがかごめさん達の言っていた…もしかしたら、これは途中棄権まで視野に入れたほうがいい事態なのかもしれないわ」
険しい表情で車窓から空を見上げる氷海。
バスは倉野川駅のロータリーへと進み…彼女達はそこで一つの決断を迫られることになる。
AM11:45 「東雲神社前」バス停・早苗班&卯花めう
「着いためう!
ここが最後のチェックポイント東雲神社めう!!」
バス停の前で得意げに胸を張るめうに、続々とバスを降りる早苗達。
「すごい…まさかあの距離を2時間かからないで回りきれるなんて」
「これもう私達一番乗り確定じゃないかな?
早苗さん、透子さんの話では、なるべく早く回った方がいいってことらしかったけど…これだけ早ければ」
「ええ、私も正直予想外だったよ。
ありがとうめうちゃん、あなたのおかげよ」
「それほどでもないめう!
そのかわり〜…あとでさななのおごりで一緒に
「わかってるわかってる。
それじゃ、チャックポイントを探さなきゃ…って、あなたは?」
早苗は不意に、そこへしゃがみ込む。
最初その行動を不思議に思った愛子だが、彼女もよくよく目を凝らすと、そこにはオーラを纏った小さな猿のような存在が居たのに気付いた。
「おー!?
今日はとーってもラッキー★めう! このおサルさんは東雲の神様なんだめう!
このおサルさんに出会えると一日幸運が約束がされるって評判めう…けど、ヨソ者にはチョーきびしいから最初は松ぼっくり攻撃のせんれーを受けるはず…なんだけど、ありり?」
「えっそんなの居るんですか!?
幻想郷の外だと、神様って結構珍しい存在だっていうんだけど」
小鈴は不思議そうな表情で小首をかしげる。
その時、不思議な声が辺りに響いた。
-そなた様は…諏訪神様の仰られていた、建御名方姫様ではございますまいか-
「えっ?
わ、私の…ことですか?」
猿の神様は恭しく首を垂れる。
-左様。現人神としての名は…東風谷早苗様。
斯様な方がこの地に訪れたもうたのも、また一つの導き合わせなのやも知れませぬ…その風神の加護が、今この倉野川に迫る危機を退けんという-
「どういうことなんですか!?
いったい、ここで何が起ころうとしているんです!?」
わけもわからぬまま、目の前の神に事の次第を問いただそうとした早苗の携帯電話がけたたましく着信音を鳴らす。
その通知の名前を見た彼女は、すぐさま諏訪子からの着信に応じた。
-早苗っ! お前今、何処まで来ている!?-
「えっと、東雲神社…よっつめの場所です。
それより諏訪子様、何か」
切羽詰まった様子なのが、通話の先の荒い息を吐く様子からも伝わって来て、彼女は勤めて冷静さを保ちながら事の次第を誰何する。
-手短に言うぞ。
まだ、夜も明けきらん頃合いに、結界外から森が一気に浸食を始めやがったんだ。
どうも…森の蛭どもが、山にトンネルを作ってそこから結界に穴開けてやがったらしい…そのうちの一つは、今まだどこにいるんだかわからねえさとりと藍が潰してくれやがったらしいが…くそっ、ジャマするんじゃ…!-
「諏訪子様! 諏訪子様今どちらに!?」
-はあはあ…本題は、そこだ…!
早苗、いいかよく聞いてくれ-
心臓が早鐘のように鳴る。
危ないからお前達だけでも逃げろ、諏訪子なら恐らくそう言うだろう。
だが、それは早苗にとっては承服できないことの一つだ。確かに他の少女達を危険に巻き込むわけにはいかない…そう言われたら、それを可及的速やかに実行していち早く諏訪子の助けになりたい、早苗はそう告げようとしたが。
-小鈴とか、もし地元の子で手ェ貸してくれてる奴がいたら、そいつらを安全なところまで送ってからで構わない。
さくら野の分譲地まで来て…手を貸してくれ早苗。
それと…無謀かもしれないが、魔理沙たちもつかまえて来てくれれば、なおありがてえ…!-
「諏訪子様…!」
「早苗さん!
諏訪子さん、何処にいるって!?」
「さくら野分譲地…でも、ここからだと相当距離がある筈…!」
早苗はめうの方を見やる…が、どうやら誰かと連絡を取っている様子だった。
「ふむふむそうめうか…ありがとうめう!
やっぱり持つべきものはフレンズめう!
それじゃ、すぐ商店街に戻るめう!」
困惑の隠せない早苗に、電話を切っためうが満面の笑顔で告げる。
「…なんか大変なことになってるみたいで、バスが次に駅に向かうやつで運休するみたいだって聞いためう。
でも心配無用だお、商店街の自転車屋の子と話がついためう!
普段はレンタルしてないけど、MTB貸してくれるって話がついためう!!」
顔を見合わせ、頷く早苗、愛子、蕾夢の三人。
「私達はそれを借りることにするわ。
早苗さんは…」
「私も借りる。
私だけ飛んでいくより、私の風でみんなの速度を稼ぐわ」
そこへ丁度よく、スタンプを押したらしい小鈴が戻ってくると共に、商店街へ向かうだろう最後のバスが近づいてくるのが見える。
-ご武運を、風神の娘様-
「ありがとう、東雲の神様!」
その見送りを背に、早苗達は商店街へと向かう。
苦闘を続ける諏訪子が待っているだろう、その狂気の戦場へ。