さくら野でつぐみ達と墨眼の戦闘が始まったその頃…捩目山の一角。
周囲にはことごとく切り刻まれた蟲の死骸と、その体液が沼のようになっており…幽香がばら蒔いた「蛭喰草」がそれをむさぼりながら周囲を行き交っているという、この世のものとはとても思えない惨状が広がっている。
小さいものはすべて食べつくされているか、あるいは哀れな凍死体となって氷に閉ざされており、それと共に無数の、全身を切り刻まれ死に絶えた翡翠蛭の巨体も横たわっている。
その最後の一体に止めを刺し終え、緋色一色の服を纏う剣神が、鋭く愛刀を振り粘液を落として納刀する。
「あなた達の話を総合すると…ここの穴で最後のようね」
そこにいたのは、言葉の主である静葉、それと行動を共にしていたレティや幽香の他にもレミリア、リリカ達プリズムリバー三姉妹、古明地こいし、河城みとり、黒谷ヤマメといった猛者や、聖白蓮やパチュリーなどの熟練魔導師を含む、幻想郷を代表するような強力な妖怪も幾人かいた。
彼女等は皆、紫からの要請を受けて随時倉野川の地を踏み、自分が担当する穴周辺の蟲の除去と結界の修復に当たっていた。
穴は全部で七つ存在し、最後の一つが今、その目の前に暗く口をあけている。
「ええ。
周辺の「蟲」もあらかた駆除してきましたし、あとは」
「…ここの穴を塞げば終了ね。
さとりたちが応急でやったところも、私達で塞いで来たわ。
森にはまだかなり蟲が潜んでいるようだし、手分けして「草」の種を蒔いて…それで終いよ」
その言葉が終わりきらぬうちに、パチュリーは傍らに控えていた小悪魔から魔法薬…タルシスなどで流通する「アムリタ」に類するそれを受け取ると、一息に飲み干し、魔力を帯びた指で空中に複雑な文様の魔法陣を描き始める。
白蓮も同じようにして、受け取った魔法薬を飲み、同じようにして魔力を帯びた巻物を展開する。
「随分手際のいい事で」
何処か呆れたような口調でレティが溜息を吐く。
「けれど、大丈夫なのかしら。
蛭を駆逐する為とはいえ、「蛭喰草」もこの森には元々いなかった植物じゃない」
レミリアの指摘に、幽香はにべもなく返す。
「この子達は、食べるべき蛭がいなくなれば一週間程度で枯れてしまうわ。
少し、可哀想な気もするけど…枯れてしまったこの子達は、またこの森を蘇らせる礎になってくれるでしょう」
しかし…周囲の「食料」を食べつくした筈の一部は、新たな獲物の気配を感じ取ったのか…結界の術式を準備するパチュリーの傍をするすると通りぬけ、穴の奥へと消えていく。
その様子を見ていたこいしが提案する。
「ねえ…元々森にいたこの子の仲間達は、みんな刈り取られちゃったんでしょ?
あとで、私達の手で森までもっていくっていうの…ダメなのかな?」
「難しいかも知れないわ。
今撒いた株は、半分くらい私の魔力で動いている。それが途絶えてしまっても、維持は難しい。
まあ…この辺にいて、今の子みたいに根性のある奴なら、そのくらいのことはできるかもしれないわね。
行き先には、十分な食料もある」
「暫くの間は、あのくらいのサイズの生物が通れる一方通行の穴をあけておくわ」
無表情ではあったが、パチュリーもそう応える。
こいしは少しだけ嬉しそうな顔をした。
そして…結界の修復作業に移るパチュリーと白蓮を除く面々は、お空の放つ強烈な熱に支配されるさくら野の空を見やる。
「加勢はいると思う?」
わかりきった答えであることは解っていただろうが、レミリアはあえてそれを口にする。
「問題ないんじゃないかしら。
あそこにあの馬鹿鴉が現れたってことは、ほとんどチェックメイトの状態なんでしょう」
溜息を吐きながら静葉が返す。
「魔力の痕跡を辿る限りでは、多分さとりもかごめも戦える状態じゃねえと思うんだが…まあ、つぐみ達にはいい経験になるんじゃねえのかね」
半分呆れ笑いのヤマメも続ける。
「本来なら私達も、蛭の討伐とか二の次にして、明日の「日向美音楽祭」のゲストで来るはずだったんだけどねえ。
宿泊地とかその辺の手配ちゃんとしてもらえるのかしら」
肩をすくめるメルラン。
その様子からも、此処に誰一人として、今なお死闘を繰り広げている若い者達の勝利を疑ってはいなかった。
鷹揚にレミリアは頷く。
「私達も私達の役目を果たしましょう。
四手に分かれて、一斉に「種」を蒔く。「蛭憑き」や翡翠蛭の生き残りがいたら問答無用で殲滅、いいわね!?」
顔を見合わせ、頷く少女達は…次の瞬間方々へと散開する。
死闘は、最終局面を迎えていた。
ポケモン対戦ログ幕間 「日向美狂詩曲」
其の六・護りたい、ただその微笑を
♪BGM 「アンノウンX ~ Unfound Adventure」(東方非想天則)♪
「おらあああああああああああああああああああッ!!」
消耗した筈の力を完全回復させている諏訪子の強烈な蹴りが、貫手が容赦なくその肉体を捉える。
時折苦し紛れに繰り出される蛭も、千切っては投げ、あるいは猛毒の弾幕で叩き落とし、瞬く間に諏訪子はこれまで苦戦していた「袈裟掛」を完全に圧倒していた。
諏訪子本来の力であれば、最初から苦戦する相手ではなかったことは明らかだ。
彼女が後手に回っていたその理由…今戦うこの地が完全に彼女にとってアウェーであり、「自分の肉体」に蓄えてきた分の「神徳」のみでの戦闘が強いられていたこと、そして、網の目のように張り巡らされた蛭のトラップに対する警戒が必要だったこと。
今はもう、そのどちらも存在しない。
めうの力で完全にコントロール下に置かれた例の蛭は、新たな眷族として諏訪子の肉体に宿り、周囲の瘴気をも諏訪子の「神徳」に変換したことで、この地に蔓延る瘴気すらも、諏訪子は自分の力として扱えるようになった。
これは基本が土地神である諏訪子にとって、非常に大きなアドバンテージを得ることと同義。相手の一方的な優位を打破したのみならず、なおかつ常にベストコンディションで戦えるのである。
そして、後ろでは残った力を振り絞る愛子や早苗、そしてめうの援護射撃で、親玉の危機に周囲から集まる蟲どもが殲滅されて行く。
その隠れ蓑である、本来この地にあってはならない魔樹の類も、蕾夢がその固有振動を狂わせ自壊させていく。
-ば、ばかな…こんなことが…!
この豊かな地を我らの…もう少しで我らの手に落ちる寸前で…!!-
「黙れ!
テメェらは調子に乗り過ぎたんだ、森で大人しくしてりゃ良かったんだよ!!
確かに、先に手ェ出したのはさくら野の連中かもしれねえが…「梟」のクソ共とテメエらに一片の同情もわかねえ!!湧いてたまるか!!!」
嚇怒の表情のまま、諏訪子は叩きつけるように一喝する。
諏訪子も知っている。
「梟」が、その身勝手な教義故に行ってきたことで…透子が過去どんな目に遭わされてきたかを。
そして、奴らがつぐみの存在を否定してきたことも。
諏訪子の憤怒の根源は、そんな身勝手な者達のために…かつて両親の命を目の前で奪われ、狂気に陥った早苗のことを救ってやれなかった、その悲しみから来ているのだ。
その怒りは大地の怒りとなり、燐光のごとき姿で祟り神たちが参集する。
「この私の…幻想郷「最凶」の祟神の逆鱗に触れたこと…魂魄の髄まで後悔しながら滅びろ!
祟り尽せ、“御石神さま”!!」
燐光は渦を巻き、その怒りのままに蟲の肉を一片残らず喰い尽していった。
おぞましき断末魔の絶叫を上げながら…蟲は、燐光が消え去るとともにこの地から消滅していた。
…
そこからわずか離れた地では…いつからそうしていたのか、互いに一部の隙もない構えで幽々子と茜がにらみ合いを続けていた。
その沈黙を先に破ったのは、幽々子。
「もう、やめにしとかない?
あなた、とっくに…正気に戻ってるんじゃなくて?」
張り詰めていた空気が、茜の口の端が上がるとともに消え去る。
茜が構えを解くと、幽々子も鉄扇を下ろし、畳んだそれをジーンズのベルトへ押し込んだ。
「何時から、気づいておったかの?」
「あの子達が居なくなって、じきよ。
かごめちゃん達の居る辺りで、知り合いの馬鹿鴉が力を放つ少し前くらいかしら。
…一瞬だけ、凄まじい風の魔力を感じた辺りね。でも」
「ふっふ。
どうやら御見通しじゃったか…わざと奴の支配に乗った振りをして、烈の奴がどれほど腕をあげたか見てやろうかと思ったがの」
「えっ、じゃああなた、わざと?」
うむ、と茜は頷く。
「わしの魔力はかご姉と同じ炎熱、奴ら蛭どもにとっては天敵中の天敵じゃ。
まして…わしら東條一族には、代々受け継がれてきた「紅鴉」の力…そして、それと密接な関係にある「浄化」の力がある。
それを最小限まで抑え、わざと支配を受け入れたのじゃ。
…もっとも、最初に大牙…わしの弟子が、不意を突かれて支配されてしまったからの。
奴を救うタイミングを見極めるためだったんじゃが」
「紅鴉…そういえば、さなちゃんが言っていたかもしれないわね。
藤野の傍流に、八汰鴉の力を宿して不老に近い性質を持った一族がいるって」
「じゃが、純血を保つ故に近親婚が行われ、全体的に短命…その最後の純血統であるわしと、その血を色濃く継いだ烈を除けばな。
紅鴉の力も、使い方を誤れば災いを成す。じゃが…」
ここからほど近い場所で、蟲の断末魔の叫びと共に火柱が上がるのが見える。
「烈は、良き友とよき出会いを果たしたようじゃ。
そして…昨日かご姉と拳を交えて知った。
相変わらず無茶をしよると思ったが…」
「でも、彼はその戦いを通じて、大きく成長したと思うわ。
純粋で真っすぐな心のまま、かごめちゃんの総てを受け止めた。
きっと、この先も彼にとって大きな糧になると思う」
「少し、羨ましいのう。
さて、まだ感傷に浸るのも早いようじゃな。
あえて聞くが…お主は西行寺幽々子殿、で宜しいのだな?」
幽々子が、ええ、と頷くと、茜が不意に表情を険しくする。
「どうやら、厄介な蟲の片割れが、既に市街まで侵入してしまっておるようじゃ。
済まぬが、力を貸してもらえぬか?」
「紫の奴もなんかそれっぽいこと言ってたわね。
勿論よ…これが終わったら、かごめちゃんがさぞかし豪華な宴会料理を用意してくれてるでしょうしね…!」
言葉が終わるか終らないかのその刹那。
茜が地を蹴ると、一拍置いて幽々子が同じようにして疾風と化し、商店街を目指す…。
…
♪BGM 「霊知の太陽信仰 ~ Nuclear Fusion」(東方地霊殿)♪
灼熱の熱波を受けて、悉くそのおぞましき植物が枯れゆく戦場で、ついにつぐみの放った炎の弾丸が邪龍の額を捉え、貫通する。
棹立ちになって絶叫する墨眼に、止めの一撃を放つべくつぐみは銃をホルダーへ納め、天地上下に構えた手を旋回させるようにして気を練り上げる。
「私の右手が光って唸る…お前を倒せと轟き叫ぶ!」
裏手に構えて顔の前に構える右拳に、気の発露がデフォルメされた翼のような紋章となって現れている。
かごめはその姿を見て「ほう」と感心したように唸る。
「あいつ、何時の間に」
「これまでルーミアがばかすか目の前で撃ってきましたからね。
やろうと思えば多分私でも出来るかも知れませんよ?」
「けっ、地底産紫もやしの分際でなにほざいてやがる。
流派東方不敗のなんたるかを知らねえ奴が軽々しく奥義使えるなんて嘯くんじゃねえわ」
不敵に笑うさとりの軽口を、同じようなニュアンスで返すかごめ。
「それはさておいて…かごめさん、あなたそろそろ動けるでしょう?
本当に、これで奴を完全に追い詰めた…そんな甘いことは考えてなどいませんよね?」
さとりの声のトーンが変わったのを受けて、かごめは視線を合わさずともその眼は鋭くなる。
「あたしもそこまでアホじゃねえよ。
藍は紫が止めただろうが」
「そうですね。あくまで「藍さんを止めた」だけでしょう。
知っているのでしょう…今あそこに残されてる子達の中に…過去「奴」に遭遇した子がいるということ…!」
「知ってるもなにもねえ…森で遭難した千夏を助けに行ったのはあたしなんだからな…!」
かごめは静かに、その背後にスキマを開き始める。
「つぐみがあいつを粉々にすると同時だ。
準備はいいな、さとり?」
「問題はありません…十分、戦闘に耐え得る程度まで!」
かごめは眼前の光景から眼を離すことなく、頷く。
お燐はその時になって、初めて二人の異様な気配に気づき声を上げようとするが…さとりが険しい表情で頭を振るのを見て口を噤む。
「お燐、つぐみ達に伝えてください。
半刻ほどしたら…私達と一緒に、みんなでスイカでも食べて一休みしましょう、ってね」
「さとり様っ…!」
お燐はそれで総てを察して頷くのに対して、さとりも僅かに表情を緩めて頷き返す。
「決まるぞ!」
お空の放つ熱波で上から焼かれ、透子の放つ氷柱で足元を地面に縫い付けられて完全に身動きが取れなくなり、最早言葉すら判別できない呪詛の咆哮をあげる墨眼の前で…つぐみの掌の間に集束した純粋闘気の塊が眩い光を放つ。
「これで、お終いだよッ!
流派東方不敗が最終奥義、石!破!天驚けええええええええええええええええええええええええええええんッ!!!」
裂帛の気合と共に放たれた闘気弾が、そのおぞましく焼け爛れた表皮に着弾する。
劈くような轟音がその断末魔の咆哮をかき消し、爆風と閃光の中でその巨体はあとかたもなく消し飛んでいた。
その成り行きを見守って居たかごめとさとりが、その場から境界移動でいなくなっていたのはそれと同時の出来事だった。
…
♪BGM 「邪聖の旋律」/伊藤賢治♪
商店街の一角。
紫もその可能性がないことなど考えてはいなかった。
紫がこの場所に姿を見せたのは…墨眼の支配下にあった藍を自然公園内で止めた時、すんでのところで藍から離脱した「墨眼の分身体」の気配を追って来たからなのだ。
商店街にそいつが潜んでいることまではアタリはついていた。
故に、商店街を外界から隔絶する結界を張った。後は、目の前の少女達に気取られぬように式神を飛ばし、取りつくべき対象を見失って狼狽しているだろう邪龍のカケラを、見つけ出して消滅させる…それだけのはずだった。
紫はこの時になって初めて、同じく組んで戦うべき者達のことを話半分でしか聞いていないことを後悔した。
「どう…して…!」
銃口を向けながらも、戦慄くように呟くフレドリカの手も震え、狙いが定まらない。
なぜなら…その先にいたのは、虚ろな目をして、邪悪な笑みを浮かべる千夏がいたからだ…!
小鈴はともかくとして、病院の様子を見に行ったアンナや、結界維持のために動けないと嘯いている紫を除いても、決して戦闘のできないものばかりここに残っていたわけではない。
特にリップなどは、かつてつぐみと一緒に魔界の騒乱に関わり、共に死線を潜り抜けてきた実績を持っているのだ。魔法砲台専門の割にやたら打たれ強く、下手すれば本職の
「クカ…クカカカカ!!
我もまだまだ運に見放されておらなんだ…よもや十数年前、あの忌々しい詩姫に奪い返されていた我が「苗床」が、このような形で取り戻せるなど…!
しかも、さらに強い魔力を持っておる…この小娘、まだ己に眠る力をよく知らんと見える…これだけの力を喰らえれば、今滅ぼされただろう我の本体を復活させることも、討たれた僕共も蘇らせることもできよう…!」
「苗床…ですって…!?」
その、神経を逆なでするトーンの哄笑に、蒼褪めた表情で震えながら、ニアが疑問を投げる。
「そうだ。
この小娘は、今から十年程前、我が領域に迷い込んできた。
頼みの綱の樹精の真祖は、情けない事に我が姿を見ただけで戦意を失いおった…我はこの娘に分身体を植えつけ、いずれ熟れた頃にそれを喰らい、それと共に我が棲み家たる森を広げようと思っていたのだ…あの忌々しい、炎の剣を振るう吸血鬼さえいなければな!!」
どす黒く染まった眦を裂き、千夏を乗っ取った蛭の王が吐き捨てる。
事態の発端は、数分前に遡る。
智子は、自分が蛭の末裔だと言った。
その事に対して、最も過敏な反応を示したのは…大方の想定通り、幼い頃に蛭の森へ迷い込み、かごめに救い出されたものの、その寄生を受け生死の境を彷徨った千夏。
千夏も葉菜同様、元々極度の虫嫌いであったが、この時の恐ろしい体験が現在も消えないトラウマとなって残っていた。
特に、ナメクジやミミズのように、足がないように見える蟲に対する拒絶反応は相当なもので、最悪見ただけでも失神してしまう事もある程度。
見た目人間と変わらない姿を持っていても、その瞬間…智子は千夏にとって恐怖の対象と変わった。
恐怖の表情で、後ずさるように輪を離れようとする千夏の姿にも、智子は何処か諦めに近い表情で見つめることしかできなかった。
彼女自身、そういう反応には慣れ切っていた。
彼女の一家は生まれ育った地すら離れ、妖精国中を転々とした挙句、ついに妖精国からも追われてしまった。
彼女は素性も知るものないこの倉野川の地で、自分の血筋を秘して生きてきた。
それは想像を絶する苦しみだったろう。
恐怖と困惑で自分を見失った千夏は、智子の語る自身の過去の事などまるで耳に入ることもなく、まるで逃げるかのように商店街の外へと駆けていった。
そこに…新たな「宿主」を虎視眈々と狙う墨眼のい分身体が迫り…潜んでいたそれの虜となったのだ。
「思ったより抗ってくれたが、もうこの小娘は己の殻の中に閉じこもってくれたわ。
程なくしてその自我も後片もなく消え去り、完全に支配できるだろうが」
千夏の身体から瘴気が立ち上って行く。
紫はそれに気づき、即座に結界を解除しようとするが…スキマが勝手に開き、そこから彼女の手首を掴む腕に気を取られてしまう。
「まさか!」
「そのまさかだ。
どうやらもう一方の分身は完全に除去されてしまったようだが…その狐からは貴様が無理矢理「引きはがした」であろう?
ほんのわずかな一部でも体内に残れば、この通り我の意のままだ」
虚ろな瞳のままの藍が、全身を術式として紫へと覆いかぶさって行く。
その術式は恐らく、紫の魔力を抑える物であろう…かつて、鬼人正邪が自分の力をそうして分断したように。
一拍遅れて、フレドリカの放つ氷の銃弾の爆風が横殴りに藍の身体を捉え、その一瞬の隙を突いて紫は大きく距離をとった。
「やるしか…なさそうね」
紫はそれに礼を返すことなく、険しい表情で符を構える。
無言でフレドリカも頷き、樹海で幾度となく放ってきたであろう、使いこまれた迅雷銃を構える。
少女達は顔色を変える。
「ま、まって紫さん!?
千夏さんは、あいつに操られて」
「違うわ。
藍さんがそうだったみたいに、千夏は分身体を宿しているわけじゃないみたい。
恐らくは」
「表面上は完治していたけど、どうしても取りきれないあいつの一部が、半ば封印された状態で今まであの子の中に残っていたのよ。
もう、ほとんどあの子は「墨眼」そのものになりつつある。
かごめは機会を見て、永琳に手術で除去してもらおうと考えていたみたいだけど…時期が遅すぎたんだわ…!」
普段の、何処か飄々とした雰囲気から一転、険しく冷めた表情で紫は氷の術式を展開する。
リップの制止よりも早く、険しい表情のフレドリカは込められた炎の魔力弾…「チャージフレイム」を千夏へ向けて放つ…が。
「遅いな。
止まって見えるぞ」
驚愕の表情で振り向いた先から、まるで振り卸される鉈の如き一撃がフレドリカを捉え、その身体を地面に叩き伏せて一瞬で意識を飛ばさせてしまう。
そのはるか先で炸裂音と爆風を起こす炎の魔法弾の余波も意に介さず、墨眼はさらに追撃の一撃を加えようと跳んだ。
紫はなんとかそれに対応すべく、次々に式神を生みだすが、それが攻撃を放つより前に、中空で放たれた拳と蹴りで一瞬のうちにすべて引き裂かれ…同じように蹴られた先に封印術式と化している藍が待ち構えている。
「貴様は最も厄介だ。そこで黙って見ているがいい!」
疾風のような追撃の蹴りが紫に迫る。
恐るべきその武術の冴え…それは、墨眼という暴魔を宿している以上に、千夏に流れる葉菜の血が…「影の御殿手」を継承し続けた比嘉一族最高最後の武のセンスが、普段かけられているべき箍を外された状態で発揮させられているのだ。
現に、慣れない力の発動により、拳打を繰り出したその拳も、脛からも、破けた皮膚から血を吹いている…紫は、その光景に顔をしかめながらも、それでもなお次の一手を模索し逡巡していたが…。
(なんたる恐ろしい資質。
まだ不完全な今ですら…やむを得ない、かしらね…!!)
このままカウンターで、藍や千夏ごと、己の弾幕奥義で吹き飛ばす…紫がその非情の覚悟を決めた瞬間、そこに一つの影が割り込んでいた。
「いい加減になさい、墨眼。
あなたは、この私が止める…!」
空色の瞳に、悲しく強い意思の光を宿すその少女が。
そして、見る間にその姿は…白い蛭竜の姿へと変貌する…!
…
「素晴らしい…実に、素晴らしい力だ」
コートの男は、氷海の襟元を掴んで…正確にはその手から展開した黒い魔法陣で身動きを封じ、愉悦の表情で呟く。
氷海にはなにが起こったのか理解できずにいた。
彼女の放った氷の大竜巻は、確かにこの男を直撃したはずだった。
明らかに上級魔性クラスでも一撃で粉砕するだろう威力を持っていたそれを受け、男は一瞬砕け散ったかと思われた…が、何時の間にか回り込んでいた男は紗苗の動きを同じようにして魔法陣で封じ、力を放った反動で動けぬままの氷海を虜にしたのだ。
彼女がそれに気付いた時には、魔力はどんどん男の持っていた宝石…恐らくは、男が「
「君はこのまま、私と共に来てもらおう。
君を虜にしておけば、私が目星をつけた残りの三人も、勝手に向こうから来てくれることだろう。
目立つことは本意ではないが、致し方あるまい」
勝利を確信するでもなく、ただ、得られたデータを記録する研究員のような無機質な感情で、男はそう告げる。
紗苗は身動きもとれないまま、この状況を打開するチャンスを狙うが…その魔法陣はいかな力にも反応せず、それでいて完全に自由を許さないという厄介な代物であった。
攻撃術は不得手であったものの、
彼女はただ、殺気を込めた視線を男に向けるだけだった。
男も、まるで鎖につながれたまま遮二無二吠えるだけの犬を見るかのような視線で、告げる。
「私の目的は「浄化の力」、君に用事はない。
そこで大人しくしているがいい」
男は空いた方の右腕で空間に手をかざすと、そこに黒いゲートが開く。
恐らく、その先にある世界が元々男がいた世界なのだろう。
「待ちなさい…一体何故、あなたは「浄化の力」を求めるの?
あなたは、確かに正気には見えない…けど」
「説明の必要はない。
君は蛮勇を振るうように見えて、その実非常にクレバーな女性であることは、「梟」どもの資料で知っている。
無駄な問答で時間を割くつもりはない」
男の体はゆっくりとゲートの中へと消えていく。
「さらばだ。
精々他の三人に、彼女が連れ去られた事でも伝言するがいい」
「そうはいきません」
男は、一瞬だけ驚愕の表情を見せて振り返る。
喉元にひと振りの刃…恐らく、形状からすれば小太刀であろうそれを突きつけ、少女はそこにいた。
ふわふわの桃色髪の下にある、あどけない顔立ちからは想像もできないほど、険しい表情の美結は、次のひと振りでその魔法門を粉々に粉砕してのけた。
「…何者だ、君は。
私の話を聞いていたなら、私もそれほど暇ではない。邪魔をしないで貰おう」
「これだから、私はあなたの様な殿方はあまり信用できないんですよ。
聞いてないようですから、もう一度言います。そうはいきません」
紗苗は身動きの取れないまま、その少女の取る構えに息を飲む。
瓜二つなのだ。
獲物こそ違えど、それは…遠い昔見た、四つ年上の従兄…かつて藤野の家で「剣神」と称された漢の構えに。
「海お姉ちゃんは、返してもらいます。
あなたの目的は知らないけど…そんな身勝手を許してはおけません!!」
男は応えることなく、美結に向けて黒い魔法陣を放つ。
しかし、それは何の効果も発揮せず、美結の持つ刀の刃に触れた瞬間後片もなく霧散する。
男は初めて、その光景に驚愕の表情を見せた。
「君は…「浄化の力」を持っているわけではない…だが、その力はなんだ!?」
「私は…物心つく前に、海お姉ちゃんと出会うよりずっと前に、仲良くなった女の子がいる。
その子が、同じ魂の力を持って生まれた私に、いずれ大切な人をその手で守れるように、って、分けてくれた力があるんです。
それが…!」
男はとっさの判断で、氷海の身体を盾にして構えようとする。
僅かなやり取りから、男は美結が氷海と非常に近しい間柄だろうと推察し、最も効果的と思われる対応を取ったのだ。
そしてその想定は間違ってはいなかった…が。
「何ッ!?」
それよりもさらに早く、美結は男の側面に回り込むと、即座に氷海を戒める魔法の鎖を断ち切る。
正確には男の手首を狙ったのだが、男は一瞬でそれをかわし、美結もそれに対応して氷海の戒めを解いたのだ。
そして男が次の対応を取るより前に、美結はその懐深くへ飛び込む。
その体勢は、紗苗もよく知る技…かごめが中距離戦の決め技として好んで使う、新陰流の剣・逆風の太刀。
(この動き、まさか…兼続兄さん…そんなことって!)
その立ち回りは、紗苗の脳裏に浮かぶその光景と、きれいに重なって見えた。
凛とした咆哮と共に裂帛の気合を纏った一閃が、回避しきれなかった男の腕を…とらわれになった氷海を戒める最後の枷を吹き飛ばす。
吹き出るのは、赤い血ではなく、そのコートと同じ漆黒のオーラ。
気を失っていたが、解放された氷海の身体を受け止め…美結は彼女を愛おしそうに一瞬抱きよせると、横たわらせた彼女を庇うようにして今一度、男に向き直って構える。
男は、険しい表情でその光景を見ていたが。
「なんという事だ。
この私が、世界を超えるために用意した仮の姿でなければ…いや。
君のようなイレギュラーが現れることを想定していなかった、私のミスだ」
男は切られた腕を庇うように、背後に先程と同じゲートを開く。
「今回は、私の負けを認めよう。
この街の…この世界の住人を傷つけることは私の本意ではない…病院内で蛭に侵された者は、私がこの世界から去ると同時に治癒するように仕掛けはしておいた。安心するがいい。
だが…いずれ必ず、「浄化の力」は手に入れさせてもらう…!」
その言葉だけを残して、男の姿はゲートの向こうへと消えていった。
男が去った院長室。
病院内からありとあらゆる悪意が消え去って行くのを感じ、紗苗も術者がいなくなったことで効力を失った魔法陣から解放され…緊張の糸が切れたかのように力なくへたり込む美結の身体を支える。
「聞きたい事が色々あり過ぎて良く解らないけど…あなたも、凄い力を持っているのね。
あなたの方に支障がなければ、日を改めて、ゆっくり聞かせてもらうわ。
でも、いったいどうしてここに?」
「私…つぐみちゃんと…かごめさんともう一度出会えて、それで、気がついたんです。
昔、生まれて間もない頃、一緒に過ごした大切な友達のこと。
その子から…大切な人を護るためのチカラを、ほんのちょっとだけ分けてもらったこと」
彼女にとっても慣れない力だったのだろう、憔悴し切った弱々しい笑顔で、美結は応える。
「つぐみちゃんの所へ行けばいいのか、海お姉ちゃんのところへ行けばいいのか、私、ちょっと悩みました。
でも…つぐみちゃんの声が、聞こえたんです。
私は大丈夫だから、氷海さんを助けてあげて、って。
…気が付いたら、私、病院の前にいました。そこから先は、無我夢中でした」
「そっか…」
紗苗は彼女をねぎらうかのようにそっと抱き締める。
その時…さくら野の空を、瘴気を貫いて天を突くような光の柱上がるのが紗苗の眼に映る。
「どうやら…終わったみたいね。
私達も、少しここで休ませてもらおう、かな」
紗苗も…ここまでの戦闘で力を使いきったのだろう。
一抹の不安は残っていたが、彼女はそれでも他の者を信じて、その場で眠りについた。
…
…
その精神の中、永劫にも思える感覚で心を閉ざしかけていた千夏は、ふと、自分をあたたかい何かが包み込んでいる事に気づき、眼をあける。
視覚がはっきりするにつれ、彼女は白く光り輝く、鱗の無い美しい龍が、まるで大切な何かを護るようにして彼女を中心にとぐろを巻き、守っている事に気づく。
そして…その悲しい光を湛える水色の眼の龍が、先に見た少女のイメージと重なる。
「トコさん…なの…?」
恐る恐る、千夏は白い竜へ問いかける。
千夏は、それが蛭竜である事をすぐに理解した。
しかし、あれほど恐怖の対象としていたそれを、何故か彼女は受け入れていた。
ひょっとすると、あまりの恐怖に何処かおかしくなってしまい、一周回って何も感じられなくなったのか、そんな考えすら浮かんでくる。
白い蛭竜は…智子は、千夏の問いに応え、ゆっくりと頷いた。
そして、再び目を背けると、彼女は語り始める。
-私達は、元々誰かを傷つけたかったわけじゃなかった。
森に生きるひとつの生命として、ただあるがままに生きていただけだった。
だのに、それが総てを変えてしまった-
智子の声が何処からともなく響く。
-私達は、元々妖精国の森に生きていた。
私達は、病に冒された妖精たちの病を、その血を吸う事で取り除き、救ってきました。
私達と妖精は、ずっと共存してきたのです。
けれど…魔界で戦争がはじまると、一部の者はその邪気に中てられて狂い、妖精たちを襲うようになった。
魔獣と化した同胞と共に、私達は妖精の手で黒き森へ追放された…それが、蛭の森の始まり-
「トコさん…水眼さんも、そうだったの?」
-ええ。
私達にはもう、妖精国に居場所が亡くなってしまった。
私達も、いつ…彼等のように暴走するか解らなかった。
妖精の中にはそれでも、私達を引き留めようとしてくれた者も居た…でも私達は、彼等を傷つけたくはなかったから-
その声は、どこまでも悲しそうで。
-私達は黒き森に小さなテリトリーを作り、そこでこれまでと変わらぬ暮らしをしてきました。
妖精国に伝わる、呪われた森の中でなおも、「癒しの竜が住む森」と呼ばれた場所…「私」はそこで、私の仲間である癒やしの蛭竜「
でも…黒き森はやがて墨眼と言う怪物を生みだし、やがて彼はさらなる血を求め、積極的に外界へ進出しようとし始めました。
私はその暴虐を止めようとしましたが…数多の魔獣・魔性の血を啜り、真祖と呼ばれるまでになった彼を止める事が出来ず…敗れたすべての「雪華蛭」は滅び…私自身も力を失い、蛭竜の力を失って人間となり…そして、数代に一度生まれ変わることで、墨眼を止めるための力を取り戻そうと考えたのです。
ですが…あまりにも、墨眼が力を蓄えていくスピードが速すぎた。
今の私でも、墨眼には到底敵わないでしょう-
白い竜は苦悶に表情を歪ませる。
そして…美しく白い皮膚には黒い浸食ができ始めていた。
-私も…所詮は彼と同類です。
彼と同じように、力に溢れた者の血を貪らねば、無力な蟲と変わりません。
けれど…私にはそれができなかった。
ごめんなさい千夏さん…あなたが体験した恐怖は、私の想像もつかぬほどのものだったでしょう…だからせめて、あなたの事だけは助けたい-
今一度彼女が鎌首をもたげると、その白い身体が途轍もない魔力を帯びて輝きだす。
「待って水眼さん、何をする気なの!?」
-私が取り戻せた全魔力を故意に暴走させ、私自身を「
本体が滅び、力を失った今の彼ならば、私の全存在と引き換えに打ち滅ぼせるでしょう。
このままでは、あなたの命も危ない。
迷っている暇はないようです…!-
「だめ…だめだよ…!
あなたがここで消えちゃったら、透子さんが悲しむよ!
透子さんは、
友達を傷つけた人たちの事が許せないって、そう言ってたんだよ!?」
魔力を放ちはじめたその白い身体に取りすがって訴える千夏に、水眼は一瞬悲しそうな表情を見せる。
千夏にはもう、目の前の存在…白い翡翠蛭竜・水眼に対する恐怖はなかった。
彼女が、身を挺して自分を救おうとしている事が心で理解できたからだ。
「お願い…だからそんなに簡単に命を捨てようとしないで…!
力が必要なら…私の力をあげるから!だから!!」
-千夏さん…ありがとう。
その言葉だけで、私は十分。
今ここで…私があなたの悪夢を終わらせる!!-
咆哮する白い竜が、輝く槍となって黒く巨大なオーラの塊に向かって飛翔する。
それが、恐らく自分に取りついている墨眼なのだろうと、千夏は直観する。
水眼を殺したくはい…その一心で白い竜にしがみつく千夏は力の限り叫ぶ。
「嫌だっ…こんなの嫌だよ!
私に…私に葉菜さんみたいな力があるなら!
お願いだからトコさんを助けて!!」
その声に応えるかのように、解き放たれた翠の光が、白い竜の身体に螺旋となって纏われていく。
-これは…!-
その緑の光が、魔力の暴走で傷ついていく水眼の身体を癒していく。
千夏が発した樹花の魔力が、水眼の…智子の力の反動を受け止め、なおかつ上乗せしてさらなる力を与えているのだ。
彼女は、眼を細める。
気の遠くなるような大昔、自分たちが追われたあの森は…居場所はもう戻ってはこない。
だが、千夏の放つ翠の光は、その頃の優しく穏やかな日々を、彼女に思い起こさせていた。
もう一度、あのぬくもりを手に入れられるのなら。取り戻せるのなら。
白と緑の螺旋の矢が、黒いオーラに突き刺さり、霧散させたその時。
「帰ろう、一緒に」
そんな声が、智子には聞こえた気がしていた。
…
…
「どうやら、終わったみたいだな」
智子がゆっくりと、元の少女に戻る光景に、かごめは何処か安心したようにそうつぶやく。
彼女が商店街に現れた時、白い蛭竜と化した智子が千夏を包み込み、まるでそれを庇うかのように横たわるのを見て…駆けつけた茜たちも、藍を制する紫もその成り行きを見守っていた。
智子が頷き、差し出した他の中で黒い何かが、灰となって風に散っていく。
「墨眼は…滅びたわ。
自分が得ようとした、千夏ちゃんの力で」
その瞳は何処までも哀しそうだった。
それは…己の欲望のためとはいえ、その生命の衝動であるがままに生きようとしたが故に、魔道へ堕ちた同胞への同情からなのであろうか。
だが一方で、彼女もまた、同じ力によって救われもしたのだ。
「私達「森の蛭」は、本来この世に存在してはいけないのかもしれない。
けれど…この子はそんな私達も受け入れてくれた」
「それが何よりの証なんじゃないかね。
墨眼はその分限を犯し、いずれ、討伐は免れなかった。
それだけの話だよ」
かごめはその傍らにしゃがみ込むと、その肩を抱き寄せて告げる。
「ありがとな。
あんたは、この子の命の恩人だ。
あんたが何者であろうと…その事だけは変わりはしないよ」
その時になって、ようやく智子も少しだけ、微笑んだ。
そして…うめき声を上げて藍もゆっくり瞼を開ける。
「うっ…私、は…」
「気がついたのね、藍。
安心なさい、全て終わったわ。
あなたも助かったのよ」
紫は少し困ったような、それで安心したように笑いかける。
藍は神妙な表情で目を伏せる。
「申し訳…ありません。
私が未熟故、このような蟲どもに後れをとるとは」
「そうね。
でも、あなたも無事でよかった。
それにあなたとさとりのおかげで、被害の拡大は防げたわ。
さとりも、ありがとうね」
「そう言っていただければ有難いです。
「梟」の工作員は把握できる限り全滅させたはず。ひと先ず、解決でしょう」
「一件落着、じゃの。
これでしばらくは、静かになるじゃろう」
頷く一同。
「さあ、とりあえず後始末はまたおいおい考えようか。
別の意味で懸念材料はあるが…とりあえず休める場所へ移ろう。
なんか、温泉でも浸かりながら酒でも飲みてぇ気分だよ」
かごめの言葉に、あなたらしい、と苦笑する紫が、スキマを開く。
その先には、出かけた時と変わらぬ常盤屋の建屋と、一足先に帰って来ていたらしい諏訪子達の姿も見える。
死闘は、ゆっくりとその幕を閉じた。