~八雲家~

彼女は縁側に一人、何をするでもなくぼんやりと月を眺めている。
隣の母屋では、目論見通りというかそのまま宴会にでも突入しているのだろう、時折、夜も更けて気温が下がったお陰なのかすっかり元気を取り戻したらしい諏訪子の怒号が飛んでくるが、概ねいつも通りなのだろう。

そんな場所から一人、かごめは藍への挨拶をそこそこに済ませると、じっとただ真夏の月を眺めていた。


「そんなに待っていても、紫様は起きてはこないぞ。
知っての通り、あの方は、最近ずっと眠っていることが多くなった。
何時目を覚ますのかもわからないのに」
「解ってるよ、そんなこととっくに」

見かねた藍が、隣へと腰かける。
二人の間には小さな盆の上に、徳利と湯通しした茄子が置かれている。

「何か、話しづらいことでもあったんじゃないのか?
あなたはそうして、何か抱え込んでいる時になると、ここへ来るからな。
天狗がぼやいていたよ」

かごめは僅かに表情をしかめるが、藍から差し出された御猪口を引っ手繰ると一息に飲み干して盛大に溜息をつく。

「ああそうだよな。
そんなにあたしの行動っていうのはわかりやすいもんか」
「丸解りだよ。
何考えてるのかよくわからない時のある紫様とは、本当に正反対に、ね。
だからこそ…こちらから見てると、時に腹が立つほど、相性が良いんだろうな」

知ったことを、と悪態をつくかごめだが、表情は穏やかだった。


二人はしばらくその場で酒を酌み交わす。
かごめが境界の先から自分の酒蔵に手を伸ばして、次を注ごうとする際に、藍は言った。

「私も最初の頃は、あなたと相対する側だった。
異なる視点からそのあらましを語ることになれば、どうしても、語り手の色が強く出てしまうのは仕方のないことなんだと思う。
今の私が当時を語る事が難しいようにな

「言わんとしていることは解るよ。
でもな…あたしはこの通りの性格だ。自分の見たものを見たままに語れなければ、気のすまない性分だからね。
あたしが、あたしが思ったままのあいつらを語る事は、そんなに禁忌に触れることなんだろうか…?」

藍はそれが誰の事を言っているのかすぐに分かったが、あえてそれを明言することはいないことにした。

「どうだろうな…今の私はあなた寄りの側だから、どうしてもそっちへ靡いた意見しか出せないし、そうしたら私にも何も言えないよ。
けど、例えばそうだなあ…料理人が同じ産地の、同じ食材の、まったく同じ味付けの料理を付け合わせに出そうとするじゃないか。
作った側が納得のいく組み合わせのオードブルやコースを作り、他の多くの人が認めてくれたとしても…最初にオリジナルのそれを作った者は、果たして納得いくだろうか?
同じ食材の同じ味付けの料理でも、コースの組み合わせ次第では全く別の味に感じられてしまう。それを新境地として納得してくれなどと、私達がそれを強要することはできないんじゃないか?

あなたや…紫様のように、なんでもかんでもあるがまま、全てを残酷なまでに受け入れられる者ばかりではないんだ。残念ながら」
「そか。
どんなに行列のできるラーメン屋だからって、好みが合わなきゃとことんまで嫌っちまう奴っているしな

あなたらしい例えだな、と藍は笑う。

あのことは…あたし達だけの胸に秘めておくことも、また一つの供養になるわけだな
「そうだ。いずれ、お互いに納得行ける形で受け入れられる時が来たら、改めてそれとなく出してみればいい」

二人の場に再び沈黙が支配する。
やがて、もう一杯を飲みほしたかごめがぽつりとつぶやく。

「ありがとな、藍。
少し、気が楽になった」
「ああ」
「迷惑ついでっちゃなんだが…多分この話、あたし達が初めてやりあった時の状況に、多分よく似てる気がするんだ。
……これなら多分、見たままを話しても問題ないと思う」
「私に付き合え、と?
まあ……そうだな。
あの乱痴気騒ぎしてる連中だと、ロクに語らずに終わる気しかしないものな。
いいよ。私も少し、昔を思い返してみたくなった…まあ、そう何年も経ってる話でもないけどな」




ポケモン対戦ログ(2015年6月総集編) そのさん



んんwwww日付変わって22日の戦果ですなwwww
この第一ラウンドwwwんんwwwついにヤーティ同士の対戦ですぞwwwヤーティ神に御照覧いただく以外ありえないwwwww

我の手持ちですぞwwww
メルラン(ヤンフィア@こだわりメガネ)/みこ(ヤルガルド@達人の帯)/オクタヴィア(ヤャラドス@ゴツゴツメット)
控えですぞwww:メガヤンギラス、メガヤティアス、ヤサイドン

お相手の手持ちですぞwwwwww
かぐや(ヤイリュー@こだわりメガネ)/オメガ(ヤードラン@恐らく帯でしょうなwww)/すいか(ヤリルリ@鉢巻ですかな?www)
お相手控えですぞwwwwww:ヒートヤトム、メガヤンリュウでしょうなwww、ヤルビアル



~対戦の数日前~


「色々あったけど、また私達は対戦相手同士になっちゃうんだね」
「そうね」

プリズムリバー邸。
かつて廃洋館と呼ばれたその旧家は、現在はキチンと邸内の整備がされ、古めかしくも小奇麗な佇まいとなっている。
その、よく掃除が行き届いた客間の一室で、何処か寂しそうなメルランと輝夜がティータイムを過ごしている。


新しい対戦の場が設けられ、会場から相手まで全て刷新されることになったその時…輝夜もまた、旧来の約定どおり元の鞘に収まることとなった。
今まで共に、論者として論じ合ってきたメルランと輝夜の間にも、実際奇妙な友情関係のようなものが芽生え始めていただろう。
ノーテンキを絵にかいたようなこの騒霊姉妹の次女が、何時になく寂しそうな様子なのも、また当然のことなのだろうことは、輝夜にも解っていた。

輝夜にとっても、彼女との関係は新鮮なものだったろう。
これまで深いつながりがある者がいるとすれば、教育係の八意永琳、そして、自分の過去の行状をきっかけに、千年以上も腐れ縁の如く殺し合いを続ける藤原妹紅。
文字通り命のやり取りという余りにも深い関係の妹紅も勿論、自分にとっては特別な存在の一人であったろうが…メルランとの関係も、それに比べるべくはなくとも、十分に特別な存在であったことは確かだろう。


だからこそ…それを自分の口から告げてやりたい。
輝夜をこの館へ足を運ばせたのも、そんな思いからだった。


「メルラン。
私達が育て、論じてきたそのヤーティ同士の戦いが実現するわ。
次に私達が対戦相手として相見えるときは、私達にとって多分初めての…ヤーティ同士のバトルになるのよ

「えっ」


メルランはその意味がよく飲み込めず、目を丸くして輝夜の顔を見つめる。
輝夜はよく見慣れた…否、見慣れた柔和な笑みを、一層喜ばしげに綻ばせる。

「アリスには何度言っても無駄だったわ。
けど…あの子がメインのトレーナーを張るわけではない。
一番の難物だったナズーリンを説き伏せた」
「そ、それって、まさか」
「メリーがあれだけ、面白がって「やろう」と言っているのを、無下に断れるネズ美ではないわ。
思いっきり、やり合えるのよ…私達が培ってきた、論理の高みを目指す対戦を!

手を差し出す輝夜の表情は、喜びと闘志に満ちている。

今度から、私達は対等のライバルよ。
共に論じ、培ってきたその知識と力で

全力を尽くして戦う以外…ありえない!!
偉大なるヤーティ神の名の元に!!!


二人の手が固く握られる。
メルランもまた、同じ表情で。


その様子を、部屋の外でルナサとリリカが、方や呆れたような笑顔と、方や嬉しそうな顔で頷きあう。











輝夜とプリズムリバー、か。
確かに、私達が本格的に対戦を始めた頃…一番最初に記憶されているのは、そんな感じがするな。

ある意味、私達にとっての原点の一つと言えるだろう」
「まー正確にはリリカがトレーナーで、姫様はポケモンとしての登場だったがな。
だから全く別物と言えば別物なのは承知の上なんだけどさ」
「でも、オーバーラップはするんだろ?」

藍からの酌を受け、まあな、と笑うかごめ。

「あの時の違いがあるとすれば…まあまず顔触れが変わったことも勿論、色々手探り状態だったあたし達側のポケモンは、御世辞にも実戦向きの仕様でなかったことは確かだ。
努力値だけは一丁前に振り、個体値まで気にしていながら、個体値を粘ったわけでもなく性格もメチャクチャ。
けーね先生の陽気根性ヘラクロスがとんでもねえバケモノに見えたもんだよ」
「確かに、彼女の暴れぶりは凄まじかったからな。
覚えているか? あの時八意永琳が最後まで姿を見せなかったのを
「そうだったな。
アレは、実際にトレーナーとして立ってたリリカもだろうが、あたしにとっても忘れられない屈辱の一つだ。
それに、あん時先陣切ってこっちを散々ひっかきまわしてくれたてーさんが、今じゃあたし達と一緒になって悪さしてるなんて、そのときは想像だにしてなかったしな」
「リリカが口を尖らせてたな。
あんな兎詐欺とっとと滅びてしまえ、とか。
彼女たちの関係も大きく変わった…改めて、あの当時は夢想だにできなかった時間の中を、今の私達は生きているんだなって思うよ」











メリー「行きますぞ輝夜氏wwww我らの論理の力存分に見せつける以外ありえないwwwww」
ナズー「∑( ̄□ ̄;)頼むそれだけはやめろメリー!!なんかそれはなんか違う!!!」
輝夜「んんwwwwロジカル語法は論者らしいとてもインテリジェンスな語法ですぞwwwww
  どんどん使う以外ありえないwwwww」
ナズー「いいからお前もそれ止めろこれ以上メリーにヘンな事覚えさせるなあ!!!><」
輝夜「ったく固いわねえ~。
  さて、なにから来るかしら…っと」

視界の先にはメルランの姿がある…。
その腕に装着されたバーストジュエルの力が解放され…そのピンクの紋様を所々にあしらった純白のレオタードから、連想されるポケモンは。

輝夜「………ヤンフィアか。
  そう言えばごく最近、二軍に昇格したんだっけなあのポケモン」
メリー「かかか輝夜さんっ!!
   お相手もヤーティなんじゃないんですか!?ヤーティじゃなかったんですか!?単タイプでブイズとかありえないじゃないですか!!><」
輝夜「ごく最近昇格議論があったわ。
  メガヤザYのヤーバーヒートに匹敵する破壊力を持ち、忌々しい身代わりを貫通する超火力のスキンハイボ…そしてHDの高さを生かした特殊受けと、単タイプでもフェアリーならあり得るという事で、承認されたばかりよ。
  成程、XY以降でエーフィからニンフィアに乗り換えたものねあなた」
メルラン「そういう事よ。
    この短時間だから、わりと妥協はしてるんだけど…ね!!」

メルランはハイパーボイスの構え!!

輝夜「来るわよメリー!
  いくらマルスケがあっても、あんなもん受けたら役割放棄もいいとこよ!!」
メリー「は、はいっ!えーとえーと」
ナズー「落ちつけ、メリー。
   大仰な事を言っても、役割論理の根幹はサイクル戦。
   不利に居座らず、有利に繰り出す。それを愚直なまでに繰り返すのみだ…初手は出し負けたが、十分勝機はある!」
メリー「…うん、わかったナズー!
   行って…オメガ!!」

メルラン「響き木霊せ、神管“ヒノファンタズム”!!
    何が出てこようがこれでッ…!?」


♪BGM 「巨大化する野望」/田中公平(起動武闘伝Gガンダム)♪


メルラン(待って…!
     向こうの手持ち何がいたッ…!?
     ハイパーボイスを無効化できるようなヤケモンは存在しない…でも…受けることができる奴なら…ッ!!!

かごめ「不味い!!
   それは安易すぎるッ!!」


メルランのハイパーボイスが炸裂する…だが!
その凄絶なる破壊力の一撃を涼風の如くいなし、その目の前で圧倒的存在感を放つそのヤケモンの名は!!


メルラン「……ヤードラン……そんな……!!








「これまで、徘徊固定系のポケモンの厳選は至難を極めた。
否」
「それだけじゃねえ。
論者にとって、理想個体をまず揃えなきゃならない時点で、厳密なる乱数の調整は必須事項であり必要悪。
ヤード…否、あえてこう呼ぶか。ヒードラン。ラティオス。そして霊獣ランドロス。
これらの強力な、役割論理を主軸とするポケモンたちに求められる性能は、並程度で許されるものではない


かごめは、酒の味も忘れてしまったかのような、険しく醒めきった表情のまま盃を睨む。

「戦場がカロスへ移って以降の第六世代環境において、そのハードルが極めて低い位置へ下ろされた。
…用意されていることを、もっとも警戒すべき一体
「これまで用意することが叶わなかった強力な固定系準伝説…その実戦投入するスピードに、単純に後れを取った。
まさか…あの時あなた達の見た悪夢を、私も同じ立場で見ることになる、とはね」

月を見上げ、想いを馳せる藍の表情も、固い。
そうだな、と呟き、かごめはその盃を一息に煽る。

「…尤も、ヒードランもそれがポケモンである限り当然弱点もある。
むしろこちらが対処できない相手ではないがな」
「さやか、だな」
「ああ。
あの子の魔女化形態が、魔法少女(あのこたち)の中で唯一の、純正BURST適合…あの子にとっちゃ、本来は不本意かもしれないんだがな。
当然、ヒードランの火力がいくら高かろうが、特殊に厚くなおかつ半減の相性であるギャラドスをぶち抜けるわけじゃない。
マトモに通るのは、持っている限り竜の波動か、原始の力」
「無論、風船を持たせることがまずあり得ないヤードランに対し、現在のさやか…否、オクタヴィアの持っているモノは鉢巻ではない。
唯一、殴り合いが可能な伊吹萃香、ヤツとの殴り合いに適したゴツゴツメットだったはずだ。
引く理由があったのか?
今のさやかなら、あいつに正面からぶつけることもできた筈なんじゃないのか」

かごめは難しい顔をして、月明かりと共に杯の中に移りこむ自分の顔をしばし眺める。

「…今となっちゃ分からねえ。
結果的に萃香は攻撃をいなされ、神子さんを最良の状態で繰り出す事が出来た。
だが」


かごめは嘆息し、月を見上げる。


「それこそ本当に結果論でしかないんだろうな。
千載一遇のチャンス、なおかつ、交代読みも完璧だった。
神子さんの諸刃が決まらなかったことが…いや、萃香の攻撃を完全に不発に終わらせた事が、全ての綾になったのかもわからねえ








「神子さん!!」

必殺の一撃をいとも容易く切り返され、しばし呆然としていた…その一瞬が全ての命取りになったことを悟った神子は、背後を振り返る。


数少ない、純正BURST適合者。
目の前の輝夜やメルランがそうであり、自分がそうではないという反動なのか、それとも別の意図があったのか…神子はこの時の自分の感情すら、はっきりと覚えていない事をのちに述懐する。

ただ。


「ごめんなさいね、太子さん。
これもまた、勝負の綾というものなんでしょうしね」


龍の鱗めいて金の光沢を持つ単衣を山吹のレオタードの上から羽織り、まるで美しき夜叉の如く黒髪を扇状に広げるその姿は、周囲から後ろ指をさされる普段の蓬莱山輝夜とは一線を画す、威厳と畏怖に満ちたオーラを放っていた。
その腰に巻かれ、背から両端が力強く広がる紫紺の綾が、あたかも畏怖を纏い強靭に天を覆う偉大なる竜王の翼が如く広がりたなびくとともに、天へ突き上げた輝夜の掌の上に、凄まじい熱量と質量を持つ大火球が形成されていく。


「潰れなさい、古き時代の為政者。
神宝“サラマンダーシールド”…極式ッ!!」

神子は覚ってしまったのだ。
この重圧の前に、自分の全身全霊などというものが…いかにも儚く、脆いものでしかなかったことを。


「“葬送の業焔”ッ!!!」


大文字に広がる猛火。
相手の手持ちが割れている以上、一貫する電気技ではなく…交代先があるひとりと決め撃っての、死の劫火が、解き放たれる。


神子が最後に見たのは。


自分の身体を突きとばし、その無慈悲な一撃に飲まれるメルランの姿…!!







「無様ね、メルラン」

天空より睥睨する冷たいその瞳は、一時でも共に戦略を論じ合った盟友に向ける者には思えなかった。


敵。
そう、打ち倒す敵に向けるべき、無慈悲な視線だった。


最早受け出しの効くような体力も残ってはいなかった。
受けどころも悪く、致命傷を負った上で追加の火傷を喰らったメルランが取った手段は、居座っての特攻という破れかぶれだった。

そして…それは、役割論理に則った戦いの上で、もっともあってはいけない悪手。





「これで、ほぼ決まったな」

そう呟くナズーリンにも、その意味することが何よりも深く理解できていた。

不利な状態での居座りは、役割論理の戦いであってはならないこと。
サイクルの崩壊しきってないこの時点で、自らそのサイクルを崩しに行った自殺行為。
残った僅かな勝ち筋も総てドブに捨てる下策中の下策だった筈だ。

だが、その表情は何処までも哀しい…相手のサイクルが半ば自壊という形で崩壊し、圧倒的有利となったこの状況で…それでも、込み揚げる寂寥感を抑えきれずにいる自分が不思議でならなかった。


僅かに袖を引かれるのに気付き、振り返る先の泣きそうな表情のメリーの頭を撫で、努めて笑顔でナズーリンはなだめるように告げる。

「ここまでくれば、最早勝ちは揺らぐまい。
指示者(トレーナー)としての私達の仕事も、このラウンドでは終わったと思っていい。
あとは、姫様に任せておけば」
「うん。
わかってる。
それはわかってるよ…でも」

メリーはただ悲しそうに俯くだけだった。


彼女の哀しみの理由も、ナズーリンは読みとることはできない。
読みとれたところで、きっとそれがどうしてなのだか、理解できないことなのかもしれない。

しかし。


(解ってるさ、輝夜。
 これが…本当にあなたが望んだ結末だったのか)

ナズーリンは目を伏せる。

本来なら、クリティカルヒットの決定打に、追加効果のおまけまでついた…余りにも出来過ぎている、幸運の極みとも言える、勝利の福音の一撃。

役割論理において、必然力の適応範囲は70%を下限とする。
 故にかみなり、気合玉、吹雪の命中は「確実に起きうる」事象となる。

 だが…大文字の火傷追加率一割。アイテムや特性、技の特性による補正のない急所率は6%強。
 …いずれも、必然力の範囲外も甚だしく…その両方を同時に引くなど、何をかいわんや)

ナズーリンも最初は、このような火力偏重かつ露骨な交代戦特化の戦法など、正気の沙汰には思えなかった。

彼女がそれでも輝夜の提案を容れたのは、メリーの要望に応えるのみならず、自分で直にこの「戦略」に対する理解を深めるとともに、強く興味を引かれる面があったことは否めない。
まるでタチの悪いカルト宗教の如き妄信めいた言葉を使いながらも、その戦略は想像以上に理に適っており、何よりも、そこには「サイクル戦」という確かな「ポケモンバトルの基礎」のひとつが存在する。根幹にしっかりとした理念があり、その上でなお独自の神を語る「論者」の思想は…同じく仏を信仰の対象とする自分たち聖白蓮門下の妖怪の目から見ても大きく異なるものであった。

ヤーティ神は、きっと加護を与える存在ではなく…それどころか、救済を行うものではない。
 その理念を持って戦う論者を「見守るだけ」の存在なのだ。

 ふふふ…こんな「神」に惹かれ始めているなど一輪やムラサに話そうものなら、連中に袋叩きにされても文句は言えないか)

理解を深めるがゆえに、何故この天祐の状況を悲しく思うのか、彼女には理解できていたのだろう。
それはきっと、戦いの場にいる輝夜と同じものであろう事も。





輝夜は髪止めの如く指していた、メガネめいた宝器へ手をやる。

「ヤイリューはドラゴンヤケモンの中でも、火力の低い部類。
故に、メガネを持たせるのが鉄則。
私の技が大文字に固定された時点で逃げを素直に打つべきだった」
「どうして…!
なんでだよ、輝夜さん!!
どうして、そこまで…そこまで!!」

死に物狂いで、恐らくは自分より格上だった筈の伊吹萃香をギリギリ制した美樹さやか…その魔女形態であるオクタヴィアは、満身創痍のままそれでも、朱に塗れた両腕でしっかり剣を構えて対峙する。
輝夜の表情は変わらない。

「勝負とは非情の世界。
なおかつ、私達には意地もあったのよ。
互いに持てる全てを…習熟したもの全てを尽くして戦うと。
共に戦うものには絶大なる信頼を。
相対する者には、何処までも冷酷にあらねばならない…それが…戦いの礼儀と悟るがいい、美樹さやか!!



♪BGM 「燃え上がれ闘志 忌まわしき宿命を越えて」/田中公平(起動武闘伝Gガンダム)♪


再び突き上げられる手に、幾重もの閃光が走った瞬間…それが一斉に超高電圧の紫電を走らせる!!
息をのむさやか。

「これで、終焉よ。
あまりにもあっけない幕切れ…四方や、こんな形で総てが崩壊するなど。
けど、それも受け入れねばならないことなのだから
「そう……だよね」

さやかは残る全ての力を振り絞り、氷を纏った車輪と共に大上段に剣を振りかぶる。

「だったら!!
それでも最後まですがるのがあたしのなけなしの意地だ!!
喰らえ、蓬莱人ッ………うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあっ!!!

咆哮。
そして、突貫。

強烈な冷気を孕んで回る車輪と共に…大上段に振りかぶられた氷牙の切っ先を、さやかは寸毫の覚悟の揺らぎなくそれを輝夜めがけて振り卸す。


さやかにも解っていたのだ。
輝夜が…この一戦の為に全てをかけて望んでくれたことを。

(そうだ。
 あんな終わり方をするために。
 このひとたちは論じ合っていたわけじゃないんだ…!!


迫る切っ先を、輝夜は閃光を放つ手で受け止める。
そして。


「そう。
それでいい。
けど…あと一歩、足りなかったわね」



輝夜の笑顔は、何処までも寂しそうに映る。

次の瞬間、雷鳴が轟く。
閃光の中で、幼くも勇ましい水の龍騎士が、ゆっくりと崩れ落ちたその瞬間……その全ての勝敗が決した。


ごめんなさい、と、最後につぶやいたその言葉は、目の前の哀しき龍の姫に届いていたのだろうか。
閃光に飲まれていく中で、その意識すらも白く染められ、無慈悲にもぎ取られていくのを、さやかはただ受け入れることしか出来なかった。








「神子さんは…あのあとそれでも最後まで抗った。
自分があの時、あの一撃を穿つ事が出来ていたなら。
あのひとが、あんな泣き方をするのを見たのは、流石に初めてだったな」
かみなりをそれでも耐え、鬼気迫るその諸刃の一撃を受け止め、それでも…輝夜は倒れることはなかった。
不思議なものだ。
普段の彼女の姿からは到底、想像し得る姿ではない…それなのに」
「姫様も総てを賭けていたんだ。
死ぬことの許されぬ蓬莱人としてではなく…幻想郷に生きる者のひとりとして。
限りある命を持つあたしたちと、全力で交わろうとしたがために。
…あのひとの想いを総て受け止めることができなかったあたし達の完敗だ。それ以上に言える言葉はないよ」

かごめはふらりと縁側を立つ。

「戻るのか?」
「ああ。
ありがとな、藍。なんか、久しぶりにゆっくり話しながら、色々と整理できた。
…あの連中もみんな潰れちまったみたいだしな。あたしも、今日の部は一旦お開きにして寝ることにするよ」
「こういう勝手なところは、流石に紫様の古い友だけはある。
…明日は、私も行くよ。
紫様のご様子も安定しているし、少しぐらいは息抜きもさせてもらわないとな」
「そか、助かるよ」

じゃあ、と手を挙げて、月明かりの下自分の母屋へと戻るかごめの後姿は、少し、軽くなったようにも藍は思えていた。
藍はその後ろ姿を見送り、溜息をつく。


「紫様。
ずっと見てらしたのでしょう?
私などに遠慮することなく、何時でも出てきてくださっても結構でしたのに」
「ふふ。
たまには、話に混ざらないでゆっくりと、聞き手に回るのも悪くはないと思ったのよ。
それに…かごめもきっと、とうに気づいてたでしょうし」

でしょうね、と藍はもう一度溜息をつく。
紫はその背後にゆっくり腰を下ろす。

「あの子の話に、私が聞き手になってしまったら、きっと、あの子の望む答えしか言えなくなる。
あなたほど、それを受け止めたうえで、それでもなお客観的に話ができるほど、私の意思は強くないもの」
「まったく…私だって、そんなに心臓に毛が生えているわけではないんですから。
語られるべき言葉を奪われる苦しみは、私だって知っているつもりです。
でも、それでも、私達のどちらかが陸伯言に倣わなければ、徒に諍いを広げる元になる。
……憎まれ口を利くと言われようとも、私に出来る孝行は、このぐらいしかないのですから」
「解ってる。わかってるわ、藍。
本当に……ありがとうね。いつも」

どういたしまして、と、わざとおどけた様な口調で笑う藍も、紫を伴って母屋の奥へ消えていく。


長い長い夜語りの場に、再び静寂が訪れ…煌々と照らされる月明かりだけが、その場に残っていた。