~さかのぼること数刻前~


それは突然の出来事だった。


「弱っちい連中だな、妖精ってのは。
身の程を弁えずに上位の存在に挑んだ末路だ、あんた達に返しておきますよ」


黒髪とメイド服の、不機嫌な表情のその人形が、抱えていたその二人を無造作に地面へと投げだす。
対峙した面々に言葉はない。ただ、それ以上に険しい表情でその人形へ差すような殺気と視線が向けられているのみだ。

「先に挑んだのはこいつらです。
僕に限った話ではないですが、例え「第三の眼」でも「波導」でも人形の心を読むことなんてできないそうですね
…僕が嘘をついていると決めつけ、この場で僕を壊しておきますか?
別にかまいませんよ」

その不敵な言葉に、もしこの場にチルノがいたなら問答無用で仕掛けていただろうことは想像に難くないだろう。
その人形が投げだした二人のうち、片方が彼女でなかったのだったら…だが。

「用事が済んだなら、さっさと行きな。
話す言葉なんてないから」
「賢明でしょう。
それでは、精々「実戦」ではこのような無様な姿をさらさないでいただきたいものです」

人形…『(タナトス)』は、そのまま踵を返して場を後にする。

何かを促すかのように、傍らの紫がかごめへ視線を向ける。
かごめのその時の表情を見ていたのは、紫ひとりであり…その真情を知るのもまた。


「戦の準備だ。
それが望みなら、奴らを潰すよ」






「痛ッ…!」
「コーディ!
気が付いたんだね!?」

コーデリアが目を覚ますと、そこはかごめ達の集まる守矢神社の一室。
彼女の傍らにはこいし、そして少し離れた位置にさとりの、古明地姉妹だけがいる。
おそらく彼女達は、自分たちが目を覚ますまで傍らで様子を見てくれていたのだろう。


先の会合の直後、博麗神社だけでなく、何箇所か別の場所からでも「博麗の修行場」へアクセスできるように措置されていた。
故に今回より博麗神社はメリー達、守矢神社もしくは秋神社をかごめ達が、白玉楼をテトラやユルール達が拠点として利用することになっており…その三か所を控え室兼指令拠点という形にして、各対戦者への指示などはその一室から「境界発生装置」と各自自前の式神などを活用して行うことになっている。


ぼろぼろに傷つけられてはいたが、チルノもコーデリアも外傷はごくごく浅いものであり、単純に気を失っていただけではあったが。

「私…そうだ、チルノちゃんは」
「チルノも大丈夫。
…けど、あいつも…アリスも許せないよ。
いくら幽香さんに恨みがあるからって、本人じゃなくてコーディ達を狙うなんて…!」

こいしが怒りに歯をきしませ、拳を震わせる。
コーデリアは混濁する意識のまま、状況と…自分が気を失う前にあった出来事をゆっくり整理しようとする。

その彼女へ、傍らへと席を移して来たさとりが手を取って諭すように告げる。

「まだ、無理をしてはいけません。
てゐさんの話では、全身にかなり強い衝撃を受けたと…人間であれば、ややもすれば致命傷にもなってたかもしれないと言っていましたしね。
彼女らの真意はわかりませんが」
「そんなに決まってるじゃない! 私達の事が邪魔になって来たからだよ!!
あいつら、昔から妖精や力の弱い子たちの事を見下してた…命連寺の奴らだって!力の弱い妖怪の為とか言って!!
リリカが本当の力を使えば、あんな奴らなんて!!

激昂しかかるこいしをさとりは宥めようとするが、さとりもまた、その僅かに険しい表情から、本心は妹と同じなのだろう。

しかし、コーデリアにとってはそれどころではなかった。
リリカの名前が出た瞬間、その全ての記憶がはっきりと脳裏によみがえり、目を見開いた。
さとりも、それを察して一瞬、困惑に眉をひそめる。

「待って、コーディ。
あなた、一体あの時何を見たの!?
あなた達に一体何が」
ちがう…アリスさんは…タナトスちゃんは関係ない!!
あの子は…『アイツではなく僕にやられたと言えって』そう言って…!」
「どういう…こと?」
「私を…私とチルノちゃんに攻撃を仕掛けてきたの…!!
私達を身勝手な理由で傷つければ、きっとリリカさんは私達の為に全力で戦おうとするから…そう言って…!!」

こいしとさとりは、互いの戦慄を確かめ合うように顔を見合わせる。
コーデリアはすがるようにさとりへと訴えた。


「お願いですさとりさん、ムラサさんを止めて!!
あのひとは…ナズーさんの為にリリカさんの真の実力を引き出させて…本気で殺し合いするつもりでいるんです!!」




ポケモン対戦ログ(2015年7月18日) そのさん



♪BGM 「去る金合戦」/あさきのくりむ童話♪

てゐ「大先生、お願いします(キリッ」
つぐみ「いーよー(*'v'*)」



諸事情により第二ラウンドですぞwww

我の手持ちですぞwwww
もみじ(グランブル@先制のツメ)/リリカ(ラティアス@君はこの枠がメガ石だと思ってもいいしry)/アンナ(エンペルト@シュカの実)
控えですぞwww:クロバット、マフォクシー、マニューラ

お相手の手持ちですぞwwwwww
たなとす(ムクホーク@多分スカーフだと思われる)/みなみつ(シザリガー@命の珠)/ほーらい(シャンデラ@少なくともチョッキやタスキには見えない)
お相手控えですぞwwwwww:デンリュウ、パンプジン、エンペルト


藍「あれっ…マトモに解説してる…?」

つぐみ「藍さんおはようございます(キリッ」
てゐ「いや一回休みから復帰しただけだからこいつ」
藍「あたしゃ妖精じゃなくて式神だっつの間違えんなこの腐れ兎詐欺。
 というかまだこれ2戦目の解説してんの?」
てゐ「ちげえよ、あんたを黙らせてる間にもうあとの2Rは済ませてあるし。あとは察せ」
藍「なんか悪霊の気配も感じた気がするけど、細かいこと気にしてたら胃袋が血の池地獄になりそうな予感しかしないしな。
 …ああ、まあなんとなく状況は察したぞこれ」
てゐ「理解が速くて助かるめう(*'v'*)」
つぐみ「てーさんてーさんその顔文字なんか違うから」
魅魔「要は最近色々あり過ぎて、兎に角アリスを多方面からフルボッコにしたいという狐野郎の意向なんだろうねえこれ」
つぐみ「∑( ̄□ ̄;)そんなことありません!
   ってか魅魔さんナチュラルにそこに居座ってるし!!」
魅魔「別に居たっていいじゃないか、それこそ細かいことなんだし」
藍「いやまあそうなんだがなあ。
 ええい結局埒が明かないじゃないかこれじゃ、これだったらまだつぐみのりえしょん劇場の方が前座の役割持ててた気すらするぞ」
てゐ「尺の無駄遣いには変わらないんだけどねそれも。
  見ての通りなんだけど、実は何気にこっちは3体目ほぼ無傷で終わったんだよね。
  論者界隈では二軍上位の実力はあると評されるメガラティアスが、正統的に活躍して終わったとかそんな感じ
だった」
藍「あー…そう言えばメガヤティ妹だったな。
 最初の方でも触れたけど、今のラティアスのスタンダードは臆病HS追い風壁貼りからの癒しの願いでサポートする型だもんな」
魅魔「某デオちゃん動画トコのが瞑想をガン積みするタイプのラティアスだった気がするんだけどねえ。
  なんにせよ、今の環境でラティアスで積極的に殴りに行く選択肢ってのはないってことなのかねえ」
てゐ「昔からそーだよそんなの。
  そもそも、ラティアスもC110あるって言ったって、ラティオスがC130でこっちの方がよりアタッカー向きだもんげ」
つぐみ「というよりも、アタッカーにしたら単純にラティオスの下位互換になるからっていうのが大きいからだって、諏訪子さんが言ってたよ。
   ただ、サイクル戦適正はラティオスよりも上で、メガシンカするとさらにその長所が際立つ感じで
てゐ「概ねその通りだね。
  メガシンカした時の能力上昇率は耐久面攻撃面共にバランスよく上昇する。
  ほとんど上昇する意味のないAが無駄に跳ね上がるメガラティオスなんて、論者のみならず現状完全にゴミ扱いだしな。
  もしくは夢幻の笛で呼び出されるアッシー枠」
魅魔「否定できないところがなー。
  そもそも相変わらずガーチョンプが幅利かせてるところで、ドラゴン枠としての採用理由も弱いしな」
藍「……メガラティオスがまあ産廃みたいなもんだって話は今更だし置いとこう。
 進行は簡単だな、初手椛、相手はさらに火力を上げてきた『死』との対面。
 捨て身スカーフで火力を落とされても美味くない相手としては引く他なく、こっちは交代を読んでいくことになるんだが」
つぐみ「向こうから威嚇来ないなーって思ってたら、捨て身だったんだ」
藍「基本スカーフムクホの主流は捨て身だとは思うが、威嚇を撒いて振り対面はトンボで逃げるスカーフムクホもいないわけじゃないけどね。
 文がその典型だし。
 ところがなんでかこっちが引いて、交代先のエンペルトにトンボを入れられて相手も撤退」
てゐ「ここは本当に意味がわからなかったな。
  ヤバレカバレでブレバが突っ込んできても十分耐えて反撃のワイルドボルトで叩き落とせるはずだが」
魅魔「そんなもん積んでたんかい。
  まー、エンペルト交代は安全にブレバ特攻を受け切れる目的もあったんだろうし、読まれてインファされたらもう完全にお手上げなんだが」
てゐ「そんな怪物みたいな読みされたらかなわんよ。
  向こうも今回渦中の人になったムラサ登場、半減で再登場の威嚇を入れたにもかかわらず叩き落とすで7割持ってかれたわけだけど」
藍「威嚇入れてなお、珠適応力というふざけた超火力で半減相手も殺しかねないとかもうな。
 あいつ確かに耐久性微妙だけど、普通にチョッキ抜きでも超火力ヤケモンとして運用できたんじゃないのか?」
てゐ「あの程度の耐久がアリならゲンガーがヤケモンになってるっつの。
  まあ、ゲンガーには火力がないからな、技の。
  椛は結局適応力アクアジェットの前にロクに何も出来ず退場、そしていよいよ真打ち登場、メガリリカ。
  死に出しから華麗にかみなりの一撃で船長を潰して、ゴキブロスを黙らせるために搭載したなみのりで後続のホラーイも一蹴。
  ラストは後続のアンナを見据えた甘えたインファイトを耐えきって流星群で終了。
  狐野郎にしてみたらそれこそ何年越しレベルと言ってもいい宿願の一つでもある、リリカが三盾するという結末だった
つぐみ「はんげきのシャドボで七割近く持ってかれてたのに、その状態で不一致半減とはいえムクホのインファ耐えるんだねーっていう」
魅魔「後続を考えたら当然の行動だな。捨て身込みでもアンナをブレバ一撃で沈めるのは無理ゲーだろうし」
てゐ「インファは捨て身のらねえし、実は補正あり持ち物で強化がないならムクホのインファくらいまで一撃耐える(さとりメモ:最大乱数で喰らってもHPが3残ります)…まあ、勝ち確だろ。
  むしろ驚くべきはメガリリカの耐久能力だな、実はこいつDが22と少し低い挙句Hも24と微妙な値で個体値を妥協してる」
藍「えっそうなのか」
てゐ「Bは29あるしあとはV、攻撃が本当に無駄Vなんだが、これでもメガシンカ込みならH250D8の振りでH183-B139-D167という実数値になる。
   ダメージ的にもシャンデラは少なくとも霊強化するアイテムじゃない感じなので、シャドボがひかえめ全振りでも最大乱数で140ダメージ、インファが意地っ張り全振りでも最大36ダメージ。
  実はこのセットを確定で耐えるというバケモノじみた耐久力だったのがあとで計算してみて解った

魅魔「これでマックス(HBDがV)でない条件というのが空恐ろしい話だな」
てゐ「恐ろしい話だがメガリリカじゃない通常リリカですら、シャンデラのシャドボで確殺するためには眼鏡もしくは瞑想1積み必要らしい。
  プレートから乱数に入るんだから、ラティ妹がいかにふざけた耐久性能なのかがお分かりいただけるんじゃねえかな。
  あ、珠適応力の叩き落とすだと威嚇込みでも中高乱(およそ70%程度)で一発らしい。
  かみなり当たってよかったよなマジで、一応こっちからは10万でも余裕で確定一発だから、YTに入れるんじゃないならかみなりを10万に差し替えてもいいだろ」
つぐみ「というか…YT以外の理由でかみなりを採用する理由ってなんかあるの?」
藍「確定数的にもそんな差もなくなったしなあ。
 どうしても麻痺狙いたいというなら話も解るが、さてな」


てゐ「というわけで今回七面倒な解説はここで終わり。
  ここからはリリカ覚醒のターン、まあ、茶番なので
藍「はいはい茶番茶番。
 というよりも、露骨にフラグ立てたのに『死』の扱い相当御座なりになる予感しかしないのがな」
てゐ「あいつがメガシンカでもして、なおかつもっと強烈にパワーアップしてとかみたいな話にでもならない限り難しいだろ。
  アリスの人形に絡む話は何処かでアレを引き合いに出さなきゃならねえじゃん。
  実際あのムラサ今回かなり重かったし、のちのちのネタばらしにはなるけどあいつメガシンカしてるし、なおかつこっちにいた時期があったから話を色々作るにはうってつけの人材だった、というところかな。
  これ以上は何も言わんよ、あとは罵詈雑言しか出て来ねえ」
つぐみ「そういう余計なひと言はいいですから!!><
   じゃあ解説は終わり!茶番に興味のない人もここまでだよー!!」














「なんだ、お前。
用事がないならさっさとアリスの所にでも戻っていろよ。
あたしは、もう一仕事あるんだからよ」


その人形は、眼前に広がる光景に初めて【戦慄】を覚えた。


目の前にある人影は、みっつ。
そのうちふたつは、不自然な体勢のまま地面に体を預け…残る一人から、刺すような視線と…あまりに濃密な、『死』の匂い。


状況判断により、真新しい血が滴るそのアンカーを担いだその女性が、倒れ伏した二人の少女を襲ったことは容易に判断できた。
だが、人形は困惑し、戦慄した。

「なぜ…何故あなたはこんなことを!
知っている筈だ、この二人は」
「ああ…そうだな、あたし幽香さんとも相性クッソ悪かったっけ。
本命はリリカのはずだったんだけど、ひょっとするとその前に幽香さんに殺されかねないな…まあ、亡霊のあたしが死んだらシャレにもならないだろうが」

狂気じみた笑みを浮かべるその女性、村紗水密の、抑揚のないその言葉を受け…『死』はただただ困惑していた。
何故人形の自分が『困惑』などという感情を有しているのか、そんなことなどこの状況を前にしては瑣末な事だったと言っていい。


『死』は、アリスの持つ最も強く暗い感情…『憎悪』を宿して生まれた。
その生まれは製作者にとってもイレギュラー中のイレギュラー、深い憎悪はやがて魂を呼び、結果的にこの人形はアリスの『名付き人形(ネームドナンバー)』の中でも最も、アリスが最終目標とする「完全自律の人形」に近い存在の一つとなったと言っていい。
何しろ、活動のためアリスの魔力を定期的に補充してやらなければならないことを除けば…自分の意思を持ち、学習し、感情すら有している…限りなく「一個の生命」に近い存在なのである。

製作されて一年余、『憎悪』しか知らなかったこの人形は、創造主であるアリスのみならず、他の人形と共にあり続けるうちに、少しずつ様々な感情を見せるようになっている。
それと共に、普段の『彼女』はだんだんと、言動がアリスじみてきているように見えるフシもあった。
ただし、この人形が生まれて初めてやろうとしたこともあってか、慧音や輝夜のように警戒視する者も多く、そこまで彼女のことを理解している者がいるかどうかは怪しい。


彼女は、かすかに感じた狂気じみた妖気を感じ取り、その元を辿った。
そして…行き着いた先に遭ったのが、この光景だ。

ムラサが、チルノとコーデリアを傷つけた。
この二人が懇意とする妖怪がいかなる存在であるかも、『死』は知っている。
アリス譲りともいえる明晰な頭脳が想像させるのは、最悪のシナリオだ…このまま、ムラサをかごめ達の元へ行かせたら、何が起こるか知れたものではない。

「待て。
あなたにさせるわけにはいかない。
…この子達は…僕が連れていく…!!」


ムラサの表情が僅かに険しさを増す。
それは…並の妖怪であれば、恐怖で卒倒してもおかしくないほどの強烈な圧力となって、伝わってくる。

「僕は…あの連中への受けはよくはないだろう。
僕の一存でこうしたことが伝わってくれれば、のちに僕一人が制裁を受ければ丸く収まる話だ。
血の気の多いのは知っているが、向こうのリーダーである吸血鬼殿は、それだけクレバーな方だからな」
「おい、それじゃあたしが困るんだよ。
いいからお前は余計な事をするな」
あなたに万一の事があれば悲しむ者がいることぐらい、人形の僕にもわかる。
…僕は、人形だ。
(コア)が無事なら、身体(ボディ)の代わりはどうとでもなるはずだ…ママには、苦労をかけてしまうが」

そうして…『死』は二人の妖精を、アリスが取り付けたのだろう追加のアームで抱えて歩きだす。










『死』が、暗転させた意識を取り戻し…潰されかかったもう一方の瞳の先には、己の襟首をねじあげる白狼天狗の姿がある。


「気がつきましたか。
私個人としてはこのまま、粉々に砕き散らす方が楽でいい。
だが…『上』の命令には逆らえません。
ここであなたがチルノ達への行為を素直に詫びれば、これ以上のことはしない…!!


普段は、調子のいい性格の鴉天狗の背後にいて、溜息ばかりついているその少女からは想像されないほど、鬼気迫る表情だった。

過去にも幾度か、椛がその本気を垣間見せたことはあった。
天狗としては致命的とも言える鈍足であり、基本的には千里眼能力を使った見張り役でしかない下っ端…しかし、大したことはないと高を括った者を容易に捩じ伏せられる剛力の持ち主という事は知っていた。
とはいえ『死』のみならず、恐らくナズーリン達ブレーンもまるで警戒していなかった相手だろう。

『死』は、自分が人形であることを少し後悔した。
先の一撃をもらった時のように、身体(ボディ)のキャパシティを超える衝撃を受けた時であれば意識を飛ばされもされようが、呼吸をする必要がない以上、いくら首元をねじあげられても失神することが許されないのだ。

…否、アリスは自分の人形が必要以上に傷つかぬよう、特に戦闘時のパートナーとなり得る人形には、特に強力な『素材』を使う。
彼女も、言わずもがなだ。
それを思うと、彼女は申し訳なく思い…そして。

(早く終わらせて、「真相」を話すべきだ。
 これで、この茶番は終わりだ)


『死』は、立ちどころにその覚悟を決めた。
自分が何か仕出かしたということになれば、またアリスを悲しませることになろう。
けど、仕方がない。
もし命連寺とかごめ達が本当に戦争を引き起こすことになれば…それよりも、ずっといい。


しかし。


「うるせえよ犬っころ。
何時まで動けない人形を締めあげてんだ…テメエらの勝ちが決まったつもりか」


不意に、戒めから解放される。
そして…その凄まじい不意の一撃で呼吸までも止められた椛が…解放された『死』も、驚愕と恐怖に顔をひきつらせる。

そのまま、無慈悲にも屈んだ土手っ腹へかちあげるアンカーの一撃が突き刺さり、その一撃で椛の意識がもぎ取られる。
不意を突かれたとはいえ…哨戒役の中でも特に頑丈と定評のある椛を、あっさりと。

「ムラサ! なんのつもりだ!?」

一拍おいて、状況を整理しきらぬだろう、焦ったようなナズーリンの声が式神から響く。
が、ナズーリンはさらに、想定しなかったほどの衝撃を受けることになる。


「邪魔者はいなくなったな。
これだけお膳立てをしてやったんだ…なあ!
それでなきゃ何のためにあたしゃ、あんな手を焼くだけの妖精二人ぶちのめしに行ったのか分からねえだろ、リリカ!!





困惑を隠せないのは…何も、メリーたちの側ばかりではない。


「どういう…ことだ!?
それに、リリカだと…」

茫然と呟く諏訪子。

傷ついたチルノとコーデリア、それを連れてきた『死』。
単純に考えれば、二人を襲ったのはあのいけすかない人形のはず。

だが…ムラサの言葉は、その考えを容易に打ち砕く真実。
何故、彼女がそんなことを。
なんのために。

「そうかよ」

諏訪子が見上げると、傍らのかごめも、途轍もなく険しい表情で画面の先を睨めつける。
次の瞬間、叩き伏せた拳がちゃぶ台を真っ二つにする…!!

これでも、恐らく内心の怒りを最大限に抑えているのだろう…いち早く、散乱する机のなれの果てから退避した紫も諏訪子も、それを悟った。

「目的はそれか、ムラサ!
その為…その為だけに貴様は!!」
「なっ…!」

諏訪子はそのとき、ようやくにして悟った。
かごめは最初から知っていたのだ。
『死』が、二人を襲った張本人ではないことを。


それだけではなかった。
波導は、感情のある存在の、その感情を正確に読み取れる…『死』が、ムラサが下手人にならぬよう、意識が途切れる間際のコーデリアに告げた言葉まで全て…かごめは読み取っていたのだ。


紫だけは冷静に、ただその状況を確認するだけの、努めて感情の感じられないようなトーンで告げる。

「…解ってるわね、かごめ。
喧嘩を売られているのは、あなたではないわ
「解っている!!」

そう、と紫は溜息を吐く。
うっ血するほど握りしめた拳を震わせ、嚇怒の表情でありながらも、かごめはその場に立ったままその次の行動に移らない。

おそらく、普通に制止したところで、彼女の怒りの炎に油を注ぐ結果にしかならないことは間違いはないだろう。
かごめは然程口に出さずとも、チルノに対しては妹分の中でも別格と言えるほど可愛がっていることはこの場の誰もが知っていよう。紫を別格としても、幻想郷の者たちの中でもとりわけ付き合いが古く、また己の迷いを取り払う最後のきっかけをくれた特別な存在とみなしているからだ。

一方で、真にそれに応えるべき者がいることも知っている。
かごめをこの場に留めて居たのは、その『彼女』が、すでに動き出しているということ…それが、もっとも大きな理由に他ならなった。


そこへ、意識を取り戻したコーデリアと古明地姉妹も駆け込んできて、その光景に色を失う。


映し出された景色の先には、不敵にアンカーを担ぎ直すムラサの目の前へ、対峙する影。
こいしが、茫然とその少女の名を呟く。

その背に、どうしようもないくらいの深い悲しみを滲ませる、騒霊の娘が。


~幕間 ナイトメア・ウィズイン~


「やっと出てきたか。
だがなんだその時化た面は」

鬼気とも殺気ともつかぬ重圧を放ったまま、ムラサは目の前の少女へ吐き捨てる。

見慣れた紅い楽団衣装を身に纏うその少女は、何処までも哀しげな表情でうつむいたまま。
ムラサが凶行に及んだ理由も解らず困惑するままのナズーリンの眼にも、相手のその表情の不自然さに困惑する一方で、気味の悪さを感じている。

炸裂寸前の爆薬のように、荒れた感情は全く感じられない。
ただ、何処までも哀しげで。


ナズーリンはふと、肩におかれた手の感触に振り返り、そして、バツが悪そうにその視線を避ける。
白蓮はその肩を軽く、しかし僅かに力を込めて掴むと、諭すように告げる。

「…あなたの考えは理解しているつもりです。
ただの興味本意ではなく、純粋にあなたが彼女にそれだけ大きな危惧を抱いているであろうこと。
あの子にそれだけの力があるという事は私も知っているのですから」
「白蓮殿…しかし、私は!」
「ですがナズーリン、貴方も、もう少しムラサのことを理解してあげるべきです。
あの子は決して無知蒙昧の質ではない。
知っていたからこそ、自分の真の力を見せるべき相手に彼女を選んだ。
例え、その為にいかなる犠牲を払おうとも。
……その覚悟を知っての上で、私も許可を出したのですから


ナズーリンは再び、驚愕の表情で白蓮の顔を見上げる。
白蓮は寂しそうに笑うと、目を閉じ、そして続ける。

「ムラサは言ったのです。
己の目的を私に明かしたうえで、即日自分を破門にして欲しいと。
あなたから託された使命を果たすためとはいえ、私達命蓮寺の皆を巻き添えにすることを、あの子は良しとしなかった
「そんな!
私…私はただ、可能な限り彼女の力を見極めてくれればいいと」
「今のリリカは、まさしく眠れる竜。
眠らせておけるのであれば、未来永劫眠らせておいた方が良いのでしょう」

白蓮は踵を返す。

「ですが、心なき力が無力であるように、力なき心もまた無力。
そのような虚ろなモノでは、何一つ護ることなどできません。
己の信念も、大切な者も、あるべき場所でさえ。
だから…私はムラサにも言ったのです。
然程の覚悟があるのであれば、貴方も『私達』の全てを…命蓮寺の全てを背負って臨めと!
貴方は、その為に自分の信じる者全てまで巻き込み、かごめちゃんと戦争をすることも厭わない…そういう心積もりかしら?

それまで黙って成り行きを見守っていた神綺の問いに、白蓮はゆっくりと頷く。
その姿に、表情に、迷いはない。

「馬鹿な…!
何故そんなことをする必要がある!
あなた達はそのような意地の為に、再びこの大地を血で染め上げようとでもいうのか!?」

声を荒げる慧音。
だが、振りむいた白蓮の表情には…哀しみと共に、凄まじい鬼気。

「私も、今いくら綺麗事を並べ立てようと、過去私欲が為に多くの妖怪達を犠牲にしてきた。
今更この程度の汚名如きで怯むようであれば、最初から殴ってでもムラサを留めています。
…貴方がたまで巻き添えにするつもりはない。
ただし異を唱えるとあらば、即刻この場から立ち去って頂く!!


一喝。
それで、慧音も、成り行きを見守っていたアリスや霊夢も、天子も…みな表情を凍らせたまま動かない。

面白い。
その喧嘩、私達も共に買うとしましょう。

久しく、本気で殺し合いをする相手もいなかったものね」
「お母様!?」

獰猛な笑みを受かべる神綺の一言に、顔色を変えるアリス。

「あなた方だけにそんな面白いことを独占させるつもりはないわ。
これまで随分と長く腐れ縁でやってきた仲ですもの、四方や、断るとは言わないわよね?」
「随分と酔狂な…私も言えた義理はないですが」

そして、当惑する周囲の面々を余所に、二人はそのモニターの前へ歩み出る。
哀しげな眼のその少女へ、神綺は告げる。


「さあ、その力の全て、見せて御覧なさい。
さもなくば…貴方の大切にしている者全てを、この私達という理不尽が全て刈り取るまで。
嫌であれば、私にその気を失せさせるほどの力を示す事よ!!