符の十四



神奈子「来い、ケッキング!」


八坂 神奈子が勝負を仕掛けてきた!


♪BGM 神さびた古戦場 〜 Suwa Foughten Field♪


諏訪子「ケッキング…!
   こいつは戦闘能力の高さは全ポケモン屈指だけど…」
さとり「…その破格の能力ゆえ、怠けの特性により2ターンに一度行動できない…筈ですよね?」
神奈子「…流石、良く解っているな。
   だが、その特性もカバー次第でどうにでもなる。
   …さあ、どうするお前達?」

諏訪子「…早苗」
早苗「…諏訪子様…解っています。
  行きなさい、ヌマクロー!」


神奈子「…形は違えど…こうして戦いの場にあたし達が対峙するのはどのくらいぶりかね、諏訪子?」
諏訪子「できれば…こんなのは嫌だよ、私。
   でも…あんたは頑固だ。もう、止まる気はないんだね…」
神奈子「仰る通りだよ。
   さあ、御手並み拝見と行こうか!ケッキング、影分身!」

さとり(やはり…あの鈍重そうな見た目に反して、ケッキングの敏捷性はポケモンの中でもかなり上位…。
    スピードに難のあるヌマクローではどうしても…えっ!?)

諏訪子「先手必勝!」
早苗「ええ!ヌマクロー、秘密の力!!」

あいての ケッキングは まひして わざがでにくくなった!
あいての ケッキングは からだが しびれて うごけない

神奈子「なっ…!?」
さとり「…そうか、先制のツメ!
諏訪子「そいつに対して今の私が先手取れないのは百も承知さ!
   だったら、先手取れるようにカバーできればいい!」
早苗「そして…建物の中の戦いにおいて、秘密の力は麻痺の追加効果を発動させます!
  ただでさえ行動の回数が限られるなら、その少ない攻撃の機会をさらに減らしてしまうまで!
神奈子「…やるじゃないか…このひと月其処らで、よく此処まで…!
   しかし!このケッキングを舐めてもらっては困るよ!
   ケッキング、空元気!!」

ケッキングのからげんき!

諏訪子「…っ!!」
早苗「ああっ、諏訪子様っ!!」


さとり「空元気…状態異常の時に威力が倍になる技か…!」
雛「…それだけではありません。
 そもそも、空元気はノーマルタイプの技。
 ノーマルタイプポケモンであるケッキングが使えば…さらに威力が高くなる」

諏訪子「…ちく…しょうっ…すっかり、忘れてた…!」
神奈子「あの一撃で落ちないか…ヌマクローのタフネスの高さを、甘く見てたわね。
   だが、こっちもこのままじゃ行けないか…」

ケッキングは回復の薬でHPと状態異常を回復した!

早苗「っ!…こっちも、回復を…!」
神奈子「…流石の私にも、こいつの特性ばかりは如何ともしがたいが…」
早苗「うっ!ま、まさか!」

ケッキングは集中力を高めている!

神奈子「そのタイミングが命取りになるさ!
   ケッキング、気合いパンチ!そのまま叩き潰せ!!」
諏訪子「…こんなところで…!」


諏訪子「こんなところで終わってたまるかああああああ!!」


ヌマクローはラグラージに進化した!
ラグラージは気合いパンチをこらえきった!


神奈子「むっ!?」
諏訪子「…秋の姉妹が…静葉と穣子が、立たせてくれた舞台…!
   そう簡単に退場するワケにはいかないんだよッ!!
   今だ、行くよ早苗っ!」
早苗「…はいっ!ラグラージ、濁流!!」
諏訪子「いっけええええええ!
   祟神“ミシャグジさま”!!


急所に当たった!!
相手のケッキングを倒した!!


諏訪子「…ふーっ…ふーっ…」
神奈子「…見事な技だね…。
   あんたは…あんた達はそれぞれ一人で戦っているわけではない。
   トレーナーとそのポケモンというだけでなく、もっと大きなものを背負っている…そんな気がするよ」
早苗「…私達を此処まで導いてくれた方々…。
  至らぬ私と歩んでくれた諏訪子様や秋神様達…。
  …そして、私を信じてくださる神奈子様…。
  そのすべての想いに応えるために、私が此処で負けることは許されないんです!」
神奈子「…そうか…だが」

諏訪子「…くうっ…!」
早苗「…諏訪子様っ!?」

ラグラージは力尽きた…

神奈子「…大量のエネルギーを使って進化し、その上に気力で自身の神の力を再現しようとした。
   流石の洩矢諏訪子といえど、此処が限界のようだね」
諏訪子「…あうっ…」
神奈子「しかし…私も次のポケモンを使うので恐らく限界だろう…!
   さあ、正真正銘、これが最後の戦いになるかね…!!」
早苗「…神奈子様…!」


神奈子「来い、ヤルキモノ!」
早苗「御願い、アゲハント!」


雛「…如何しましたか…地霊の王よ?」
さとり「…解りませんか、彼女達の心の波動が…!?
   如何に覚悟を積もうと…彼女達の心は、決してそれに耐えきれるほど強くはない…!
   …まるでこの戦いは…互いの心の悲しみをぶつけ合うような…。
   哀しみに号泣するすような心象しか見えない…!」
雛「……確かに」

さとり「どうして…どうしてこんなに意地を張ろうとするの…!?
   どうして…互いのことをこれだけ想っているに…本当は何時までも一緒にいたいと思っているはずなのに…!!

静葉「…不器用なんでしょうよ、あの山の神は」
穣子「いざというときは、神社ごと空間を飛び超える芸当すら厭わないのに…そのくせ、手前の面子に矢鱈と拘る。
  …神としては立派だけど」
雛「…果たして…彼女のためとはいえ、八坂殿が本心から非情になりきれるとは私には思えない。
 それまで同じ場所に祭られながら、八坂殿も洩矢殿も殆ど馴れあった時期はなかったはず。
 あの風祝…早苗さんと共に過ごした十数年以外は」


早苗「興れ、神の風!我が敵を滅する天の嵐を!
  アゲハント、銀色の風!!」

アゲハントの ぎんいろのかぜ!
きゅうしょに あたった!

神奈子「…ぐうっ…!
   …まだだ…まだあたしは終わってはいない…!」
早苗「…神奈子様っ…!」
神奈子「どうした…それで終わりなのか早苗…!
   あたしは、あたしはまだ…」


「もうやめようよっ!」


♪BGM たったひとつの願い(ロマンシング サ・ガ ミンストレルソングより)♪


諏訪子「…お願いだよ…もうやめてよ…。
   神奈子、あんたもう…本当は限界なんだろう?
   私と相討ちでケッキングが倒れた時点で…!
   アイツに、実質自分の持てる力をすべてつぎ込んでいたんだろ!」
神奈子「…何を…言ってるのよ…!
   まだ、私のポケモンは…私の力は尽きてな」
諏訪子「違う!
   私には解るんだ…多分、そのヤルキモノがあと一撃でも貰えばあんたは消える。
   あんた自身にも解ってるんじゃないのか?
   本当に最後まで勝負を捨てないんだったら、何で回復させてやらないんだ!?
神奈子「…それは」

さとり「あなたは…諏訪子さんの起こしたことの責任をとるため、此処で消えるおつもりなのでしょう!?」

神奈子「…!」
さとり「…そして…貴女はその時の余波をもって、早苗さんに総ての力を引き継がせようとした。
   彼女がこの異変を、否、これから彼女が関わるであろう異変を解決していくための力となるため…。
   それに確たる意識を持たせるため、己が消失を彼女の心に楔として残すように。
   すべては…早苗さんのことを家族として深く愛しているがゆえに」
早苗「…そう…なのですか…?」
神奈子「…そいつは…あたしがどれだけ嘘を並べたてようが、確実に本音を言い当てる性根の悪い妖怪だ…。
   その言葉を否定するだけ無駄だろう」
諏訪子「あんた…なんてことを」

さとり「しかし、貴女はそうやって逃げているだけだ。
   本当にふたりを愛する心が有るなら…何故共に歩み、苦難を分かち合う選択肢が取れないのです!」
神奈子「…知れたこと…あたしは守矢の神社を司る神だ。
   神である以上、そんな人間みたいなことができるわけがないだろう…望んでも無理だ」

さとり「でしたら…貴女の言葉で此処で答えて。
   何故、僅かにあった信仰をかなぐり捨ててまで、幻想郷へ神社ごと移住してくる必要があったの!?
   何故、そんな真似をしてまで存在を保とうとしたのか、答えて!!

さとり「…私の言葉でなくては、本心を曝け出す事もできませんか…?
   あなたは、早苗さんを」
神奈子「…そうだよ、あたしは…あたしと諏訪子が消えて、早苗が悲しみに暮れるのが嫌だった。
   今のように、この子があたし達のせいで泣き続けるのか嫌だったからだよ!!


静葉「だったらもう、意地を張り続ける必要はないんじゃないの?」
神奈子「…何?」
静葉「あなたがそのちっぽけなプライドをもっかい捨てれば、あの子達を悲しみから救うことができる。
  いや…あなたもだ。プライドのために、無念を残して消滅しなくてもいい。
  …どうせ幻想郷にいる神格なんてモノは、とうにそういうものを三途の川に流してしまった連中ばかりよ

静葉「私が煙突山で消えようとしていた時、私は何としても穣子だけは助けたかった。
  私など、その代わりに消えてもかまわないと。
  でも…諏訪子が言ったのよ。
  それで残された妹の悲しみがお前には解るのか、って」

静葉「…形はどうであれ、あなたは自分の本音を言ってしまった。
  もう、意固地になって心にもないことを言い散らさないほうがいいわ。
  その都度、其処の御節介な覚があなたの本心を並べ立ててくるから…それに」

諏訪子「…神奈子、お願いだ。
   此処で私と早苗を残して…消えるなんて嫌だよ…!」
早苗「…神奈子様…神奈子様っ…」

静葉「…あなたは…この子たちを残して簡単に消えてしまえるほど、薄情な神様だったのかしら?」

神奈子「……解ったよ。あたしの敗けだ。
   これ以上この子たちを泣かしたくはない。
   …だが、どうしてやればいいんだ?
   もう、大したことはできそうにないぞ。あたしの存在もう大分、消えかけてしまってるしな」
さとり「…手段はあります。
   私の、今使える最後の力で」

さとりのかざした掌の空間が歪み始める…

神奈子「…境界操作?
   それは、確か八雲紫の…何故お前が?」
さとり「あまり気にされたことはないですが、私の能力は二つあります。
   心を読む能力と、読み取った心象を具現化する能力。
   …しかし、後者は私にとっても負担が大きく、制約が大きい。
   境界操作によりポケモンと同化した秋神達がいて、尚且つ使えるのはこの一度きり…!」

諏訪子「…なるんだったら、こっちの奴にしてくれないかな…?
   今まで見てて解ったけど…なくなった早苗の力、アゲハントに持ってかれてるみたいなんだ。
   それに、ギャラドスには暴風雨を操る力もある」
神奈子「…ポケモン界きっての暴れ竜かい…悪くはないね。
   そういうことだ早苗。これからの旅、あたしもあんたの力になってやる。
   そして…頼まれても金輪際あんな泣かせ方はさせてやらないからね…!」
早苗「…はいっ…!!」



♪BGM 神は恵みの雨を降らす 〜 Sylphid Dream♪


神奈子「というわけで…本来勝ったら色々と渡してやらにゃならんもんが有ったと思うが…つーか考えてみたらギャラドスって手足がないんだねえ
諏訪子「…言われてみりゃそうだな。あんまり気にしたことってなかったけど
さとり「もののついでですし、私が探しましょう…えーっと」
神奈子「…こういうときには本当に便利だね、あんた。
   確かにあたしの記憶が読めれば、探し物も一発か」
さとり「よく言われます」

諏訪子「ええーっとこれがバランスバッジで」
静葉「技マシン42の空元気…」
穣子「えーっと…この小判は一体ナニ?」
雛「御守り小判ね…持っているポケモンがトレーナー戦に参加すると、賞金額が二倍になるわ。
 これを相手にして負けるとか、実に厄いわ…」
??「それとさー、こんなん拾ったんだけどいる?
  その花のおねーさんが持ってるのと似てるけど」
さとり「あらありがとうこいし。気が利くわね」
諏訪子「おお、波乗り波乗り。
   こいつが有ると先に進めるだけじゃなくて私やギャラドスの攻撃力アップも…え?」


こいし「あれー?どーしたのかなー?
   私ってば注目されてるよー?」
当人以外全員「何でお前がここにいるー!!!( ̄□ ̄;)」



さとり「…いや、こんなことを貴女に聞くだけ無駄かも知れないけど…本当に何故ここに?
   というか、ここ一カ月の間貴女何処で何をしてたの?
   すごく…探したのよ…?」
こいし「うーん…確かさー、此間会った白黒の人間が、私によく似た子がいるからって紹介された真っ赤な御屋敷に行く途中で、気づいたらこの近くに立ってたんだ。
   そのあと…気ままにそのへん歩いてたら、思ったより面白そうな場所だったし、ふらふらと歩いてたらお姉ちゃん達の声が聞こえたから着てみたの。
   ごめんね、意識してるのはこのくらいだから」
諏訪子「…相変わらずの無意識っぷりだな…。
   まさかあんた、道中で殺戮行脚とかしでかしてないだろうね…?
静葉「いや、いくらなんでもそれだけの事件が起きてりゃ話題に上るでしょうが」
諏訪子「そらまぁそうだけど…」
こいし「そんなことはしてないよー…多分
   でも、方々歩きまわってたから疲れちゃった。しばらく動きたくないなー」

諏訪子「…どうする?」
神奈子「とりあえずは…あたしらも消えちまう心配もなくなったし、これからどうするのか考えるのにミシロへ戻ろうか。
   あたしも、これまでの経緯は知らんことのほうが多い。
   そのことも…少し聞いておきたいしな」
諏訪子「…ってことだ。
   早苗と他の連中はどうだい?」

早苗「…私も…それがいいと思います。
  ちょっと、このまま次の目的地を当てもなくっていうのも…なんだか」
静葉「そうね。私も異論はない」
穣子「同じく」
雛「互いに、知っている情報をまとめたほうが、今後の役にも立つでしょう」
諏訪子「決まりだな。
   よし、じゃあ一度ミシロへ戻ろう」


ミシロタウン 守矢一家の借家

♪BGM 風光明媚♪

さとり「…とりあえず、お茶の準備をしておきました」
諏訪子「おお悪いね…。
   …ってあんたらもいたのか^^;」
早苗「…そして私が使う予定だったというベッドも既に占領されてますが^^;;

こいし「…くー…(就寝中)」

神奈子「…別にいいだろう、結果的に使ってなかったわけだし。
   それに、ポケモントレーナーはポケモンセンターで寝泊まりも洗濯もできるだろう(注:アニメの設定)」
静葉「…まして私達は今ポケモンだから、余計に関係ないわね…」
諏訪子「住人でもなかった奴が何ぬかす。
   まぁいいか。細かいところを気にしててもしゃあない。話に移ろうか」


-少女会話中-


神奈子「…火山を強制的に死火山化…ねぇ。
   ポケモンの転送システムは言うに及ばず、そもそもポケモンを携帯サイズにしてしまうツールが有るという時点で外の世界なんかよりはずっと進歩してるというか…そこまで行くと無茶苦茶だねこの世界は
穣子「それ以上に、其処まで科学が進歩していながら、これだけ広大な自然が残っているとか不思議な世界よね。
  ある意味、幻想郷以上に幻想的な世界だわ
さとり「…かつて…この世界にも戦争や環境破壊はあったようです。
   その名残といえるのは、ドガースにベトベター、マルノームなどといった不定形の毒ポケモンに、恨みの化生であるカゲボウズ。
   彼らは汚染や負の心から生み出され、尚且つ彼ら自身は汚濁や悪意を生まない。
   世界の自浄作用がそれだけ強く表れる世界なのでしょう」
諏訪子「確かにそれを考えるとすごい世界だけど…話、戻していい?^^;」

神奈子「解ってるって。だからこそ、この世界で神格級のポケモンの力というのは、それだけ強く作用するんだろう。
   幻想郷で最も滅茶苦茶できる八雲紫の力を、ほぼ無力化するくらいに」
穣子「でもさー、それほどの力が作用して、山の神まで消えそうになったんでしょ?
  認めたくないけど、私も姉さんも厄神も、山の神達に比べればずっと力は弱いはず。
  雛がどうして神奈子の存在諸共自身の存在を保てたのかも気になるわ」
雛「…それは…この世界にもとても強い厄の集まる霊地が有って、私はこの世界に来た時そこにいたからよ。
 そこの霊気は、私の力を一時的にだけどかなり高めてくれたわ。
 送り火山…とか云ったかしら」
諏訪子「送り火山だって!?
   そうか…確かにあそこはポケモンの霊が多く眠る一種の聖地。
   かつてこの世界の神と呼ばれるポケモンが降り立った地といわれる霊山だ
神奈子「へぇー、そんな所が有ったんだねぇ。
   確かに、あの依代には妖怪の山の霊気とも違う不思議な力を感じたな。
   それが、その…送り火山の霊気だったんだな」

穣子「そして、自身が去った後もそれだけの霊気を残すだけの神の力を、あのアオギリという男も持っている…ということか」
静葉「目的は今一つはっきりとはしてないけど…それだけの力を持てば、それを悪用して世界に覇を唱えたくなる気持ちも解らなくないわね」
さとり「…ですが…私の力をもってしても、あのアオギリという男の真意が今一つ分かりませんでした。
   戦いの最中、幾度か試してみましたが…あの男の意識の奥底を覗き見ることができなかった。
   …私自身の力も、八雲紫同様この世界では随分と強い制約を受けていますが…そればかりではない気がします」
諏訪子「…改めて考えると、あんたの能力もかなり反則技じみてるからな。
   心象具現化能力が有るなんて知らなかったわ」
雛「ええ…ある意味では、それも神に匹敵する能力
さとり「最も私の場合は、私の理解ができる範囲と、私自身の力で再現できる限界がありますから、其処まで万能というわけではないですが。
   心を読む能力も、私より強い力がある者に対しては、完全に相手の心を丸裸にすることなど不可能。
   だから…本来は八坂殿レベルの相手の心を読み切ることはできません」
神奈子「さっきみたいに消えかかってるか…あるいは今みたいに、神の力を失いでもしない限りは…か」
さとり「ええ。
   …故に…アオギリは人間でありながら、既に私…いえ、もしかしたら幻想郷に住まう者全員をずっと上回る力の持ち主となっているかも知れません。
   ひょっとすれば、八坂殿に対して雛さんがそうであったように…従える者にもその影響が出始めている可能性もあります。
   彼の駆るサメハダーは、明らかにその力量以上の力…常軌を逸したモノを感じた…。
   恐らく、並みのトレーナーでは全く相手にすらならないでしょう」

穣子「んで、そのダークパワーっていうか神ポケモンパワーの影響で頭がヒットしてさらになんか仕出かそうとしているわけか」
諏訪子「んや、海を広げるということは、元々持ってた目的だ。
   マグマ団のマツブサもだけど、海と陸の違いはあれどゲームの設定ではそうなっていて、何故そういう思想に至ったのか触れられなかったんだ。
   ホウエンの発展とためというなら、人の活動の場となる大地を増やすというマグマ団の目的のほうが、ずっと理解もできるしフォローの仕様もあるけど…」
早苗「マツブサさんというと…煙突山で一緒に戦った方ですよね?
  その方も…かつてそうした野望をもっていたと?」
諏訪子「ゲーム通りではね」
さとり「しかし…かの方には邪悪な意思は見られなかった。
   むしろ、彼の心と記憶を読んだことで、かつて起こったことについて詳しく知ることができました。
   …恐らくは、それを知っておくことがこれからの行動のヒントになるかも知れません」
諏訪子「…そうだな。その意味では、あんたが此処にいてくれたのは幸いだった。
   話してくれ、さとり。
   ここが、一体なにが起こっていた世界なのかを私も知りたい」
さとり「解りました…少し、永くなるかも知れませんが…」


♪BGM Minstrel Song(ロマンシング サ・ガ ミンストレルソングより)♪

さとり「正確にいえば、この時点から二年程前の出来事になるようです。
   かつて、同じ大学でそれぞれ地質学と海洋研究に没頭していた二人は、やがて一方はホウエンの発展のためにさらなる大地が必要という考えに到り、一方は海の多いなる力に畏怖と感銘を受け…その力をもって世界を恐怖で縛り、支配者になることを望むようになった」

さとり「その想いは違えど、その強さ故に彼らはやがて、己の考えに賛同する者たちを結集しマグマ団とアクア団を結成した。
   そして…マグマ団は成果を急ぐあまりに、アクア団はその野望に邁進するように…暴をもってホウエン地方を荒らしまわることとなった。
   当然、目的が違う両軍団が激突することも日常茶飯事、互いの勢力と戦力が拮抗しバランスは保たれていましたが…やがてアオギリは、報道機関を乗っ取り世論を味方につけた」

さとり「後ろ盾をもたなかったマグマ団は劣勢に立たされましたが…一人の少女の登場が、それを変えたのです。
   彼女は、この異変が起こるまでトウカジムリーダーを務めていた人物の娘。
   しかし…彼女もまた、元々この世界の人間ではなかったようです。
   私達のいた世界とはさらに異なる世界の神が、暇潰しにその少女をジムリーダーの娘ということで運命を捻じ曲げ、送り込んだものらしいと、当人がそう言ったようです」

さとり「少女は、逆転の策として大地の神グラードンを目覚めさせるべく、煙突山を人工的に噴火させる作戦の最中、マツブサと出会った。
   少女は、かつて誰にも成し得なかったこと…ポケモンと意思を通わせ、会話する力をもっていたといいます。
   彼自身も卓越したトレーナーであったものを、少女はいともあっさりと制した」

さとり「その時、彼は少女から、自分の行おうとしていたことが過ちであることを思い知らされたようです。
   やがて、トレーナーとしての才能を完全に発揮したその少女により、マグマ団もアクア団も壊滅させられました。
   しかし…結局グラードンは蘇えってしまい…それに連動してカイオーガまで目覚め、彼は自分の所為でホウエンを滅ぼしかけてしまったことを深く後悔したようです。
   ですが…少女はホウエンを護る為に、命を賭けて空の神レックウザを解放し、ホウエンの…世界の危機を救った」

さとり「少女はその後、ホウエンリーグ史上最年少である一五歳でリーグ制覇すると、行方知れずになったそうです。
   その少し前、特別に赦された彼もまた、己自身を見つめ直すべくホウエンを旅立ちました。
   そんな折…彼は己を見つめ直す旅の最中、この地で再びアクア団が結集したという話を耳にして、その野望を阻止すべく戻ってきたようです。
   少女は、いずれ陸海空の神を従え、その安住の地を与える約束をしていたという…彼はその約束を果たさせるため、眠りに就いていたカイオーガを護るべくこの地に帰ってきた」

さとり「彼には…あのアオギリの底知れぬ力の源に、心当たりがあるようです。
   それは、カイオーガを鎮め意のままに操る藍色の宝珠を…アオギリが取りこんだことが有り…その余波で、カイオーガの力を宿しているのではないか、そう考えているようです」


早苗「不思議な力をもつ異邦人と…三柱の神」
諏訪子「…気味が悪いな。まるで、私達のこと言ってるみたいだ」
さとり「そうですね…そういう解釈ができてしまう部分もある。
   人でありながら奇跡を呼ぶ力を持った現人神・東風谷早苗を含めた守矢三柱の出現。
   まぁ、此処には神の力を失ったとはいえ、六柱…トウカの船着き場にいる死神が連れた閻魔を入れると、七柱もいますがね。
   この世界の危機を救うべき者は、まるでそれ以外の場所から求めて呼ばれているかのよう
穣子「異変の定義ってのは解らんけど…それとは異質なモノであることは確かそうね。
  幻想郷の存亡にかかわるものを異変というなら、もう、幻想郷は殆ど関係ないわけだし」
諏訪子「…そうでもないだろ。
   幻想郷に起こる出来事に関わる神格が少なくともこの世界に四柱いる。
   これだけの神が異世界に消えて、まして全員力を失ってるんだ。今頃えらいことになってると思うよ、幻想郷」
雛「実りを司る者も厄を集める者もおらず、死後の魂を裁く役目の者もいない…。
 今の閻魔はシフト制だと聞きましたが、四季様とそれ以外では全く手際の良さが違うとも聞きましたし」
穣子「…うぐっ…それは、確かに拙い」
諏訪子「私らの信仰に関しても、せっかく定着したものが忽然といなくなってるんだ。
   まだそこまででかくは影響出てないだろうけど…これもとっととどうにかしないとやばいかもね」
さとり「それに永遠亭や紅魔館の連中はともかく、私や白玉楼の主がこちらにいることも気になります。
   一応、それぞれ旧地獄の怨霊と冥界の亡霊を管理している身ですし」
神奈子「どっちみち…そうのんびりとはしていられないということか」


早苗「で…今までのことが解ったのはいいですが…具体的にはどうすればいいのでしょう?」
神奈子「あたしとしては今すぐ、アクア団の連中の居所を突き止めて奴らを叩きたいところだけど。
   何にせよ、基本的なところはゲーム通りなんだし、諏訪子が奴らのアジトを知ってるだろう?」
諏訪子「…そりゃ知ってるけど、恐ろしく遠いよ。
   ゲームの体感時間と違って、実際この世界歩きまわると恐ろしく移動時間がかかる。
   此処からトウカに行くのだって、徒歩で半日くらいかかるじゃないのさ」
穣子「だったら、さとりのポケモンで空を…」
さとり「私もキンセツから海を越えたことはありませんよ。
   流石に、知らない場所まで飛んでいくことは無理です」


早苗「…だったら、歩いて行く以外に道はありませんよ。
  私達にできることは…今はただ、一歩でも前に進むだけ。そうでしょう?」


♪BGM 少女の見た日本の原風景♪


諏訪子「…早苗」
早苗「こうして…皆さんと一緒に行けるなら…私はもう怖くはない。
  だったらあとは今できることを、するだけですから」
神奈子「…そうだな。あんたの言うとおりだよ。
   どっちみちトレーナーが決めたことなら、あたしらに逆らう理由はねえ。そうだろう?」

穣子「癪だけど…その通りだわ。
  この私が力を貸してあげるんだから、感謝しなさいよね!」
静葉「…あなた進化してから目に見えて態度がでかくなったわね…。
  まぁいいけど」
雛「御同道させて頂くといった以上…それを違える理由はありません…」

諏訪子「…ああ。
   どの道先に行かなきゃ、帰れそうにないからね」
神奈子「決まりだな。
   じゃあ、準備を整えて明後日に出発だ。
   とりあえず、この家はあんた達で使うか、さとり?」
さとり「そうですね…こいしもあの調子なら、恐らく一週間は目を覚まさないでしょう。
   折角ですから、ご厚意に甘えさせていただきます。
   その代わり、今日明日は行ける範囲、私のポケモンでお連れしましょう」
諏訪子「お、本当かい?
   いくつか行っときたい場所もあったんだ。
   回復も済んだし、誰か一緒に行きたい奴はいるかい?」

静葉「私、行ってみようかしら。
  なかなか、面白いことになりそうな予感がするわ」
穣子「えー姉さん行く気ー?
  私パスよ。なんかしんどいし」
神奈子「ついていきたいのは山々だが…まだちょっと体に慣れなくてねぇ。
   まぁ少し時間が欲しかったから、明後日って言ったんだけど」
雛「申し訳ないですが…私も同じ理由です」

諏訪子「左様か。んじゃあ、隣の博士に断りだけ入れてくるよ。
   家がポケモンだらけになってたり、知らん奴がいても悪ささえしなけりゃ咎められることもないけど…一応な」


(続く)