〜樹海第五階層 白亜の森〜
不意に視界が開け、空には満天の星空と、満月が近づいていることを示す宵待ちの月。
「ここは…」
「月の光がある…ここは、地上なの…?」
祭祀殿の転送装置を通ってきた先にあったのは、鏡のごとき大地の広がる荘厳な森。
これまでの地下世界とは打って変ったその光景に、リリカ達は思わず息をのんで立ち止まる。
「そうさ、ここは白亜の森。
海都の奥にあるこの森は、王家の人間だけが立ち入ることを許された…海都の聖なる土地さ」
リリカ達が振りかえると、そこには既に見慣れた老婆…ロード元老院の長・フローディアの姿がある。
「フローディアさん…どうしてここに」
「…あんた達は…いや、あんたは、自分が正体も明かさずにいたことを後ろめたく思っていたみたいだけど…それはあたしたちにとっても同じことだったのさ」
フローディアは…その皺よりも深く細く、目を細める。
「あんたらも知っての通り、姫様は、海底へ消えられた兄王…ザイフリート様にお逢いしたい一心で、フカビトの真祖の血を受け、不老長寿の呪いを受けてしまわれた。
姫様は……心まで魔に浸食されぬため、結界に護られたこの森から基本的には外に出られなくなってしまったんだよ」
その表情は何処までも悲しげで。
そして、幸せな頃の記憶を、思い返しているかのようで。
「あんたらやクジュラの話を聞く限りでは…ザイフリート様もまた、世界樹に魅入られ人の姿と、優しく気高かったかつての記憶を失われてしまったようだ。
いや…深都に消え、人としての姿を捨ててしまわれたザイフリート様の姿を見たあの時から、あたしはそれを知っていた。
そのお二人を救ってくれるものが現れることを祈りながら、あたしは百余年の長い時を生き続けてきたんだ。
人間として、やれる限りのことをやり…幸いにもというか、ここまで生き延びることが出来た…ふふ…人間、やろうと思えば結構なんだって出来るもんなんだね」
「え…それでは、貴女はやはり正真正銘の」
アンナの不躾な一言に、フローディアはわずかに気分を害したように、ふん、と鼻を鳴らしてみせる。
「ふん、失礼な子だよまったく。
けれど、なんでか知らないが人としての命を超越しているあんたにしてみれば、意外に見えるかも解らんね。
あたしゃ姫様とひとつ違い…昔は姫様と、ザイフリート様つきの侍女だったあたしの三人で、ずっとこの森で過ごしたもんさ。っと、いけないねぇ。あたしとしたことが最近何故か昔のことばかり思い出す。
歳なんていくつ取ろうが、そればっかりはどんな人間でも変わらんのかもねえ」
隣のポエットの袖を引き、彼女にしては声を潜めたようにして、チルノ。
「ねーねーポエット、それってすごいの?」
「え!?
えーっと…た、確かに並みの人間だったら百年生きるだけでもすごいこと…じゃないかと思う」
「そーなのかー!すげー!」
そんな光景に、フローディアも、かつてあった光景を思い返しているのだろうか、さみしそうに微笑む。
「けれど…あたしゃ思うんだよ。
ただの人間である自分が、のうのうとこの年まで生かされてきた理由…それはなんなのか、って。
…あたしゃ、あの御方と…ザイフリート様とグートルーネ様が相争う光景を見るために、無理して生きてきたわけじゃない。
あんた達と話をしたいがために、姫様は短期間で何回も森を出られてしまい、それが故に森の中での長い休養を強いられてしまった。
それを知ってか知らずか…世界樹は、この機を逃すことなくザイフリート様をそそのかしているようだね。
奴にとっては、今の姫様も滅ぼされなければならない魔の眷族そのものなのだから」
フローディアはゆっくりと、樹海磁軸の方へと歩いてゆく。
「何故かは知らないけど…異界の人ならざるものであるあんた達は、この結界が効かないのか…あるいは、それを打ち消すような何らかのものを既に持っているのか…この森に完全に立ち入れているんだね。
姫様を守る最後のミッションを受けてもらおうと追ってきたが…もう無理強いはしない。
ギルド・フォックステイル。
あたしゃ信じるよ…あんた達のその行動が、姫様の…真の幸せに繋がっているのだということを」
樹海磁軸の中で、振り向いた老婆は寂しそうに笑う。
「白亜の森はまたの名を「鏡の森」という。
その大地が鏡になった区画では、例え結界を突破できたとしても、立ち入った者の感覚を狂わせてしまう…十二分に、気をつけるんだよ」
老婆を見送り、少女たちはその言葉を胸に、神聖なるその森へと歩を進めていった。
狐尾奮戦記その15 「白亜の供物」
つぐみ「いよいよストーリー上最後の階層、白亜の森ですね」
明夜「ですね。
それにつけてもですがねえさん、フローディアさんの言葉を信じるならどう見てもここ海都と同じ場所にあるはずなのに、階層表示はB17Fで祭祀殿の下にあるとかどうなってるんでしょう」
つぐみ「んーまあよくわかりませんねえ。
先のネタばらしになるけど、クリア後の迷宮もまた別のところになるはずなのに、通しでB21Fからになってるから、まあそんな深く気にしないで良いことじゃないかな」
明夜「そーゆーもんですかね。
それと、ここのBGMが非常にジブリというか」
つぐみ「そりゃーメインサウンド担当の古代祐三が久石譲の弟子だからでしょ」
諏訪子「古代の幼少時代にたまたま久石から音楽関連の教えを受けてたってだけだろ。
ピアニストだった古代の母親が久石の妻にピアノを教えてた縁だとかいう話だ」
つぐみ「そでしたっけ?」
諏訪子「んまーこまけー話ではあるがな。
ついでにこれも有名な話かもだが、その古代祐三が音楽を手がけたARPGの名作『イース』シリーズでモンスターデザインを担当したのは古代彩乃、つまり古代祐三の実妹だ。
イースシリーズだけじゃなく『アクトレイザー』などでも兄妹揃って制作に携わってるな。
ついでにいうと自分の作った曲のタイトルはわりと無頓着みたいで、イースの曲も他のスタッフも会議で決めたから、自分の曲なのに曲タイトル言われてもどの曲なのかあまり良く解ってねえらしい」
つぐみ「FFも初期作だとタイトルがバトル1とかゴルベーザ四天王バトルとかだし、そんなイメージなのかしら」
諏訪子「FF]の名曲『ザナルカンドにて』もまあそんな感じのタイトルだし、植松も相変わらずそんな感じなんだろうけどもな。
それはまあいいや、前の階層も酷かったが表の最終回層だけあってここのザコ共もとち狂った奴がわんさかいる。シリーズお馴染みの花びらが出てくるのもここからだな」
つぐみ「狐野郎はVが初体験のシリーズだったけど、歴戦のボウケンシャーにしてみれば『今更ァ!?』なのかしら、五層の花びらって」
諏訪子「まあ出てくる時期がおかしかったからな単純に…つっても、出てくる時期がある意味適正?になっただけで花びらは相変わらず花びらだからな、一切の予断が許されないレベルで周りも狂ってる。
そんな中で眠らされるってどれだけ絶望的な事かは説明の必要は無いと思うが?」
つぐみ「そうだねえ大イノシシとか大イノシシとか大イノシシとかモモイロカラスとか」
諏訪子「本当の意味で『今更ァ!?』な森ネズミと比べりゃ納得のチョイスだなそれは(真顔
あとは夜しか出てこない狐共、こいつらも単体じゃないしたことないが、白狐と銀狐が連携してぶっ放してくる全体ランダム雷とか、あとはこちらも単体ではたいしたことの無いバッドフルーツ、こいつも瘴気の腐花とかいうタイタンアルムの強化版と組んでくるとこちらもろくでもない連携をしてくる」
つぐみ「私達どっちも見た記憶無いけど、むしろろくでもなくない攻撃ってなんかあるんです?」
諏訪子「まあきにすんな(日常顔
ちなみに瘴気の腐花の連携は全体無属性大ダメージに脚封じと腐食追加とかいう」
つぐみ「それ腐食のダメージでてんやわんやするまで生きてられる攻撃なんです?」
諏訪子「むしろあれ喰らってぎりぎり生き残って逃げ切れたのがナゾではあるな」
つぐみ「あ、喰らったんですかリリカさんたち」
諏訪子「あとはあれだ、イノシシのレア素材10個で圧壊、キリサキザルの素材10個で強斬、デスストーカーの素材10個で貫突の護符が作れるようになる。
三色の方は既に作れるようにはなってるが、ここでついに『護符ゲー』と呼ばれる所以の凶悪アクセが総て作れるようになる。」
つぐみ「実際インチキですよねアレ。
サルは出現率がなんか低いっぽいからなかなか集まらないんですけど、強斬がひとたび作れるとカマキリとか普通に完封ですし」
諏訪子「ここまでで制作済の三色まで含めると、ひとつの属性攻撃に特化してるFOEとかは見えてるだけ普通にザコだよ。
アクセは複数枠に装備可能、これらの護符は1個装備で対象属性のダメージを50%軽減、二つ重ねれば完全耐性で1ケタしか喰らわん。
1つ18000エンと高額だが、1個だけでも5ターン限定だがミストで二つ装備と同じになる」
つぐみ「マジでインチキ効果も大概ですよ。
こいつだって」
諏訪子「私の業界でもこんな低レベルで殺れる雑魚じゃねえんだよこの狐!!!!><」
瑞香「ぐ…ぐぬぬこんなに簡単に狩られてしまっては我々狐族の立場が…><」
明夜「やはり狐はダメダメですねこんな簡単に完封されてしまうとは^^^^
伝説ポケモンであるウインディが尻尾装備でイキッてるキュウコン如きに負けるわけがないのです」
瑞香「うぎぎ初代ではコイキングとかキャタピーと同列扱いされてたくせに…」
つぐみ「あんた達はよそでやってなさい(キリッ
まあ正攻法でやったんじゃこんなんレベルいくつあっても足りませんよ、毎ターンショックガードし続けられるなら別ですけど」
諏訪子「Vまでは仕様でランダム攻撃で同一対象に飛んでもそのターンの全ての対応属性攻撃シャットアウトできるからな。
実際雷属性しかダメージ手段持ってないけど、HP半分切ると1回だけ3ターンリジェネバブ張って2000くらいHP回復してきたり、次の行動のTP消費倍にしてきたりで絡め手もしっかり持ってやがる。
ルート次第ではラスボスより余裕で強いだろ、攻略法知らないなら」
リリカ「いや本当にね…今思えばなんでこんな奴に3回もhageさせられたんだか。
ヴィクトリアたちが攻略したっていう話が酒場で聞けるけど、アルバートさんがガード持ってるからそこが大ヒントだったのよね」
諏訪子「その代わり介護陣形があるから羊は狩りたい放題だったけどな」
つぐみ「まあ普通に強いところないし…」
諏訪子「2体いっぺんは無法極まれりの気がするがな。
実際コイツ介護さえ握ってればそれ以上の対策いらんからな。
ああ、ちなみに狐は完全巡回型だが、夜と昼でルートが変わる…変わるけど、普通に狩って歩いても良いんだよな…」
明夜「最後にマトモに強かった赤FOEって何だったんでしょうね…」
つぐみ「異界の巫女は普通に危険だったけどねえ。
五層は雑魚もだけど、ギミックもめんどくさかったよね」
諏訪子「ダークゾーンだな。
五層だと鏡状の水が張られているエリア、みたいな設定だが、現在位置が把握できなくなる面倒なエリアだ。
区画には普通にFOEがいるのも面倒だが」
明夜「そのFOEが弱い…(ボソッ」
諏訪子「否定はせんよ否定は。
あとはワープゾーン、これはどのシリーズにもときどき出てくるな。
鳥居をくぐると指定されたとこまで飛ばされるが、表側…「八百比丘」って書かれてる方から侵入するときだけワープが起こる。この一方から入ったときだけっていうのが結構めんどくさい。
20Fに鳥居が5つ並んでる区画…これが最後のエリアに飛ぶ最後のギミックなんだが、マジでここがクソ面倒でなあ」
つぐみ「アレのせいで実際のフロアの何倍も踏破時間が掛かるのよねえ。
で、最後の区画に入ると海都、深都ではそのままラスボス、真祖ルートだとここでイベントになるのよね」
…
…
リリカ達が扉を開けた先…そこには美しい小さな池が広がり、厳かな雰囲気をかもしだしている。
だが、その視線の先には…場を囲む深都兵たち、そして向かい合う深都の王と海都の姫…!
「お兄様!私です!グートルーネです!!」
「…余を兄と呼ぶ者なぞ存在しない。
余は…海都最後の王。
フカビトの力を借る魔物ごときが、我が妹であるはずはないッ!!」
「………お兄様、どうして!?
お願いです!どうか…どうか昔の…優しかったころのお兄様に戻ってッ!!」
白亜の森の中、海都の姫は必死の形相で深王に呼びかける。
だが…対する深王ザイフリートは怒りに満ちた目で、海都の姫グートルーネを…変わり果てた姿となった妹を睨みつけている…。
腕から長大な異形の刃を伸ばし…機械の王は憎悪に支配された表情のまま、ゆっくりと、人ならざる魔の姿となってしまった姫へとにじり寄る。
「お…のれッ…姫様から…離れろッ……!」
倒れ伏した地面を朱に染め、満身創痍のまま、転がっている自分の愛刀へと手を伸ばそうとするクジュラ。
しかし…その体は無慈悲にも…戦闘形態となった機人の少女・オランピアによって組み敷かれ、制される。
深王が、泣きそうな表情の姫に対して、その無慈悲な一撃を下すべく腕を振り上げた瞬間。
「…ザイフリート様ッ!あたしです!フローディアです!
百年も前に姫さまに…貴方様にお仕えしていた侍女です!」
森の影から、フローディアが駆け出し…その人ならざる機械の体にしがみついて呼びかける。
「姫様は…グートルーネ様は貴方様を待ち続け、慕い続け…その為に「人の姿」を捨ててしまわれたのです!
何卒…何卒…ッ!?」
しかし深王は眉をひそめ…その体を無造作に払いのける。
「…知らぬな。
卿のことも、そしてその姫とやらも」
深王はそう告げると、その腕から大きく鋭い刃を構える。
「消えるがいい…我が愛する故郷を穢した者どもよッ!!」
「待って!!」
その刃が振り下ろされる瞬間、深王の体は横殴りに吹っ飛ばされる。
不意の一撃に深都の兵たちも動揺するが、それをオランピアが制する。
深王の足はルーミアの能力で生み出された影に縛られ、その体をルーミアとチルノがしっかりと地面に押さえつけようとする。
「卿らは…!
あれだけ考える機会を与えてやったというに…まだ海都の危機、フカビトの脅威を理解できぬか!
いずれ奴らがこの世界を飲み込めば、卿らの存在を足がかりに、卿らの世界すら暗黒に飲むかも知れぬのだぞ!
あくまで余の邪魔をするというなら、まずは貴様らから血祭りに上げて…うおおおおおッ!?」
ルーミアとチルノは、お互い言葉に出さなかったにもかかわらず…同じタイミングで自分たちの能力を発動させる。
闇を漆喰とした氷の鎖が、二人の体もろとも渾身の力でザイフリートを地面へと縫い付ける…!
「そんなこと…そんなことあたい達が絶対にさせない!」
「あなたこそ…あなたこそどうして解らないの!?
姫様は何も悪くないって…ただ、あなたに…「優しいお兄様」に逢いたかっただけなのに!!」
「貴様…等ッ…!」
ポエットとアンナが、倒れ伏したフローディアを介抱し…リリカはゆっくりと、グートルーネの方へと歩みよる。
そして…懐から一つの宝器を、グートルーネへと差し出す。
「リリカさん…これ、は…いったい?」
「…私、灼熱洞窟の一角…深王が「断罪の間」と呼んでいたところにとらわれた、ある存在(ひと)のところへ行って来たんです。
そして…彼は言ったんです。
「この白亜の供物を、泣き虫の姫に渡してやれ」って」
その言葉に、姫は驚いて目を見開く。
「そんな…これが、白亜の供物…!?
この世には…ないと思ってた…!!」
呆然と呟く姫に、リリカは頷き…それを手にするよう促す。
「これは…本来は深王…ううん、ザイフリートさんがあなたに渡すべきものだった。
でも」
リリカは悲しそうな目で、二人の少女の、渾身の能力で地面に縫い付けられている機械の王を見やる。
「白亜の供物だと?
それがなんだという!
しかも、あの忌まわしきフカビトの王が寄越したものだと…そのような呪わしいものなど余には必要ないッ!」
深王は渾身の力を込めて、力技でふたりの能力を打ち破る。
「う…うわああああああ!?」
「きゃっ…!?」
転がされたチルノとルーミアを顧みることなく、再度姫を斬るべく歩み出したその王のゆく手を阻んだ…意外な者の姿に、深王は驚愕して動きを止める。
「オランピア…!?
貴様…血迷ったのか!?」
その言葉には答えず、オランピアはリリカに視線を走らせる。
その深い悲しみの表情に、リリカは少女の心を感じ取り…グートルーネを伴って傍まで行くと、白亜の供物をその少女へと手渡した。
悲しそうな笑顔のまま、頷いて受け取ったオランピアは…それを深王へと差し出した。
「深王さま…どうか、コレを」
悲しげにそう呟き、白亜の供物を差し出すオランピアに、ザイフリートは怪訝な表情を見せる。
困惑を隠せない王だったが…やがて意を決したのか、不思議そうな面持ちのままにソレを受け取った。
そうして…王と姫の二人がゆっくりと、白亜の供物を口へ運ぶ…。
二人の体が光に包まれ…姫の体からは、その手から伸びるフカビトの特徴であった触手のごとき器官が崩れ、光の粒子となって消えてゆく。
そして…王の表情も。
「…………なんと、言うことだ。
余は…余は大切なことを忘れ……護るべき者を自らの手で斬ろうとしていたというのか…!
余に逢うためだけに…健気にも生きて待ち続けてくれた者をッ…!」
「お兄様ッ…」
「許せ…我が妹よ…そして、フローディア…我が妹を護らんとしてくれた気高き衛士たちよ…!」
深王…ザイフリートの手から伸びた異形の刃が、その付け根から外れて落ちる。
そして「人の心」を取り戻し、涙する気高き王が、同じように涙にくれるその大切な存在をしっかりと抱きしめた。
百年余りの長い時を、グートルーネが…いや、兄妹が真に望んだ結末がそこにあった。
リリカ達やフローディア…深都兵たちも皆、その光景を涙して見守っている。
倒れ伏していたクジュラもまた、オランピア…直前まで干戈を交わしたその相手に肩を借りて立っていた。
彼を狂気へと誘っていたフカビトの魔剣・妖刀ニヒルも、戦いの中でオランピアに砕かれている。
半ば狂気にとらわれていたはずのその表情は、穏やかだった。
「…っ!?」
しかしその瞬間、リリカは手の甲に鋭い痛みを覚えた。
「総てが済んだら急ぎ祭祀殿へ来い」
そう告げたフカビトの真祖の言葉が、リリカの脳裏をよぎる。
それまでリリカが感じていた、グートルーネの中の真祖の力を感じなくなっている。
リリカは瞬時に理解した。
グートルーネの中にあった「彼」の力が、あるべきところへ戻ったのだと。
「リリカさん…それは…!」
グートルーネが、暗黒の力…フカビトの力を放つ手の甲の文様に気付き、戦慄くように問いかける。
近寄ろうとする彼女を、おごそかな表情でザイフリートが制する。
「卿らは…決着をつけに行くのだな。
外なる世界より、何かの答えを探すため訪れ…卿らが求める答えは、見つかったのか?」
その表情にはこれまでのような険はない。
リリカは頷く。
「私も…この世界で色々な物を見て知るまで…「真実の自分」を認めるのが嫌だった。
私にも大好きなお姉ちゃんがいる…なのに、私だけはお姉ちゃん達とは違う存在…それを認めるのが嫌だった。
でも、どんな姿でも、どんな存在でも…私はプリズムリバー三姉妹の末妹という事実…「大好きなお姉ちゃん達の妹」というその事実は変わらない。
その心があれば、私達は道を誤ることはないんだって…あなたに逢いたい一心で、「人の姿」を捨てても、決して「人の心」を捨てなかったグートルーネさんのように…!」
その言葉と表情に、ザイフリートは鷹揚に頷く。
「卿らは、死ぬなよ。
必ず余の…いや、我らや卿らの世界の、卿らの帰りを待つ者たちのもとへ、戻ってくるのだ。
これは余の……海都アーモロードの王ザイフリートの名において下す、最後のミッションだ!!」
「…はい!」
リリカはその場に、フカビトの力が宿るその手を振り上げる。
そこに開く暗黒のゲート。
「みんな、準備はいい?」
振り返る先に、この樹海を旅した四人の仲間が頷く。
「最強のあたいにそんな気遣いは無用だよ!
それより…リリカ水臭いよ、ずっとそんなことで悩んでたの、あたい達に黙ってるなんてさ!
あたい達はこれまでずっと一緒に…ううん、これからも一緒に頑張って行ける仲間なんだろ!?」
「そうだよ…それに、さとりさんからも聞いたよ、私の封印がとかれた時、リリカも止めに来てくれたって…。
私…とてもうれしかったんだ。
だから、リリカが自分の答えを見つけられたなら、そのことも嬉しい!」
「チルノ…ルーミア…」
「行きましょう、「あの方」も待ってます。
あなたのその答え、「あの方」もきっとそれを見たいと望んでいるはずです。
それが…きっと「あの方」を救うきっかけになるはず…!」
「あなたの言葉で…ううん、ここにいるみんなや、アーモロードで待っている葉菜さんたち…きっかけを与えてくれたかごめさんのおかげで、私は色々なものを取り戻すことが出来た。
いくら感謝しても、感謝しきれないよ…だから最後の大勝負、私も命をかけてあなたたちの為に応える!」
「ポエット…アンナさん…!
うん!行こうみんな…真祖の待つ祭祀殿へ!」
その意思を確かめ終え、暗黒のゲートへ飛び込んでゆく5人。
そして…少女たちを迎え終えると、その暗黒はあとかたもなく霧散する…。
「……あとは、あの娘たちを信じて待とう。
あの娘たちが帰った時こそ、それが…この永き戦いの終わりなのだと信じて」
「はい…!」
…
ゲートの先、海洋祭祀殿の知られざるその一間の奥。
その場に導かれたリリカ達は一歩、また一歩と慎重に足を進める…。
そして、その一番奥に何者かが鎮座している場所で…「それ」と対峙する。
その姿は、最初に出会ったとき…否、供物を受け取った時の幼い姿ではない。
それは今までに見た、どのフカビトとも違い…ザイフリートとは違う王としての威厳に満ちている。
「お前たちは…僕の希望通りあの姫に供物を捧げ、人としての命を取り戻してあげたのだな…。
そして、リリカ…君自身の中にあったその迷い、その答えは見つかったか?」
リリカは頷く。
それを受け…そのフカビトの王は苦笑する。
「『アノ方』のため、哀れな姫を我らが眷族へ引き入れての海都の支配の目論見。
僕を『友』と呼び、受け入れてくれたグートルーネへの思い。
僕は己の二律背反に苦しんだ…正確には矛盾というべきか」
歌うような、大気を震わせる声。
それはまるで、泣いているように…悲しみを絞り出すような想いとともに響いてくる。
「だが、お前たちがそれを止めた。止めてくれた。
過酷な旅路の中で、この世界の…己の真実の姿を受け入れた若き異世界の真祖と、その仲間たちの命がけの行動により、姫君は救われ…僕は全能の父、異海の母へと戻った」
言葉が紡がれるとともに、見る見るうちにその姿が膨張を始め…異形の姿へと変貌を始める。
「僕もまた…己を受け入れ、あるべき心のままに動こう。
「我ら魔の眷族」の野望を砕いたお前たちを、「魔の眷族の王」として屠り、アノ方への贄とする!!
お前たちの苦難に満ちた冒険の旅は、ここで結末を迎えるのだ!」
♪BGM 「業火マントル」(東方地霊殿)♪
赤黒くぬめる巨大な甲殻から、それを支える不気味に黒光りする刃の如き爪。
唾棄すべき動きでくねりながら迫る、長大な形状の触手。
その中心に、忌まわしき姿に進化したその顔が、呪わしき眼光でリリカ達を睥睨する。
「ま、待ってよ!
なんで…なんで戦わなければならないの!?
あなた言ったじゃない…人とフカビトは「ともだち」になれるかって…あなたもそれを望んでいたんじゃないの!?」
「そうさ…「僕」はそれを望んでいた。
だから…「僕」が「僕」として存在するうちに…お前たちが「僕」を殺してくれ。
この全能の姿になった以上…僕はもう、アノ方の呪縛からは逃れられないのだ…グートルーネがそれを恐れ、聖なる結界に護られた白亜の森から出ることが叶わなかったように…!」
「そん…な!」
「イヤだ!あたいあんたと戦いたくなんてないよ!
あたいたち…解り合えたじゃないか!
あたいとあんた達は…「ともだち」になれたじゃないか…あたいは、ううん、あたい達はあんたを殺したくなんてないッ!!」
泣き叫び、取りすがろうとするチルノ。
しかし…その姿めがけて巨大な触手が高速で迫る…!
ルーミアは寸前でその姿を抱きとめ…触手は空を切り、巨大な石畳を容易く砕き散らす。
「このような姿になった僕を…まだ『友』と呼んでくれるか。
ありがとう、でも…僕は…僕の体はもう『僕』の意思を離れ始めている。
間もなく、この『僕』そのモノも消え…総てを食らい尽くすフカビトの真祖に成り果てる。
だから『僕』を『友』と呼んでくれるのなら…『友』の頼みとして僕を殺してくれっ…!!」
その名状しがたき姿の中心…表情の消えたはずのフカビトの瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちるのを、少女たちは見ていた。
なおも何かを言いかけるチルノを、ルーミアは諭す。
「チルノ…あの『ひと』の望みを叶えてあげよう…?」
「…ルーミア?」
驚愕して振りかえるチルノ。
ルーミアもまた、泣いていた…涙を流すその真祖と、同じように。
「解るんだ…あのひとは、もうきっと、元には戻れない。
だから…自分が自分であるうちに、私達の手に倒されることを願っている。
私だって戦いたくない…でも…でもっ!」
チルノはルーミアや他の少女達と、真祖を何度も見返す。
皆…その覚悟を決めていたようだ。
引き返せない最後の試練を、乗り越えたかのように。
そして……チルノは乱暴に涙をぬぐうと…アイエイアで手にした魔性の牙から鍛えられた、冷気を放つその刃を抜きはなって対峙する…!
「ありがとう、みんな」
それが…『彼』の発した、最後の言葉だった。
次の瞬間、その名状しがたき姿の強大なる魔物が、忌むべき咆哮を上げる。
『ひと』を理解しながら、『魔』として討たれることを望んだ全能の真祖。
異界から『己の在り様』の答えを求めてやってきた真祖と、その仲間たち。
世界の命運をもはらんだ両者の、その苛酷な戦いが幕を上げた!
…
…
つぐみ「というわけで次回はいよいよ真祖ルート最終戦です。
真祖のスペックとかも次で触れますよって」
諏訪子「お前らはお前らでどのタイミングで触れるか考えどころではあるけどな」