「貴様らッ…!
俺は忘れていないぞ!貴様らが我らの悲願を阻んだ事を!!」



フルフェイスの兜からその表情はうかがえないが、砲剣の刃を振りかざすその帝国兵の声からも、憎悪と憤怒の色は明らかに見てとれる。
その思ってもみない事態に、救護物資を差しだそうと手がふさがってしまっているミスティアや早苗はもとより、乗り合わせていたローゲルすらも色を失った。

「お前たちの所為で…お前たちの所為で殿下は!!」
「待て!
お前は一体なにをやろうとしているのか、わかって…」
「あんたも黙っていろ!
俺は…俺達はあんたの事も信じていたんだ…それなのに…!
あんたが殿下を裏切りさえしなければ!!

制止しようとするローゲルだったが、逆にその帝国兵が放った慟哭に近い怒声に、顔色を変えて手を止めてしまう。


ローゲル自身、覚悟していないわけではなかった。
バルドゥールの取ろうとした手段は、そもそもの計画立案者であったアルフォズルの考えとは相容れぬモノ…ローゲル自身の思い描いていたモノともかけ離れていた故、主たるバルドゥールを命懸けで諌止する覚悟から刃を返したのだ。

しかし…文庫に残されていた、呪いが重度に進行した者たちの中にも、バルドゥールの「覚悟」に中てられ、盲信的に彼を信奉していた将校たちも決して少なくはなかった。
中には、先帝アルフォズルの取った行動を「一国の主が取る行動としてはあまりにも夢想的過ぎる」「先帝の所為で、有能な臣下を失った皇子は一人で戦わざるを得なかった」などと、憚りなく吐き捨てる者も決して少なくはなかったのだ。

恐らく、この兵士もまたそんな一人なのだろう。
バルドゥールがそうであったように、頼るべき者を失った彼らの怒りと悲しみは…たとえそれが誤りだと解っていても…ローゲルには返す言葉がなかったのだ。

「殿下の…我らが理想の仇ッ!
死ねえええええええええええええええええええッ!!」


怒号とともに、赤熱した砲剣が動けぬままのミスティア達をめがけて走る…!
一拍置いて、苦渋の表情のままのローゲルもまた、レミリアから返され預かっていたアルフォズルの剣…“烈風”を構えるが…そのときだった。

別の兵士が、同じように砲剣を稼働させてそれを受け止め、呆気に取られたその兵士を弾き飛ばした!!




やめんか馬鹿者ッ!!
もう戦いは終わったのだ!それに、忘れたのかッ!!
誰が傷ついた殿下に手を差し伸べたのかを!!!」

弾き飛ばされた兵士は同僚に介抱され、窘められているようだが、納得した様子ではないようだ。
渋々と言った風にその場を立ち去っていく。
そして、弾き飛ばされた砲剣を、部隊長と思しき彼は手慣れた様子で停止させ排熱させると…ミスティア達の方へ向き直り、膝を折って深々と頭を下げた。

「…君たちの厚意に泥を塗ってしまった…部下の非礼を詫びさせてくれ。
そして…ローゲル卿、あなたが苦渋の決断を下し、先帝の志を示すべく立ち上がられたこと…我らとて知らぬわけではありません。
その為に、主に刃を向けなくてはならないその辛さは、我らの想像の及ぶところではないッ…!」


そのとき、ミスティア達は気づいた。
この部隊長は、恐らく文庫の最下層で出会い、彼らにバルドゥールのことを託したその兵士である事を。


やがて彼の先導の元…先の斬りかかってきた兵士と同じ考えを持つだろう者達だろうが…その冷ややかな視線を受けながら、それを気にしつつも、感謝の言葉を述べる民たちに物資を引き渡すと、ミスティア達はまるで逃げ去るようにその場を後にする。

その台地に続く瀑布を越え、彼らの姿が見えなくなったところで、緊張の糸が切れたらしいミスティアが甲板にへたり込んだ。
それを介抱する早苗は、彼女が声を押し殺すようにして泣いているのに気付き、そっとその体を抱き寄せた。


「済まない…いくら俺がこう言っても、どうにもならぬ事は解っているのだがッ…!!」

ローゲルが、血が出るほどに固く握りしめた拳を振るわせ、絞り出すようにその言葉を吐きだす。
早苗は目に涙を湛えたまま、ただ、頭を振ることしかできなかった。



穣子達が、蛾の森へ例の鍵を持って向かっていたその頃。

彼女らは、辺境伯の提唱で、タルシス周辺に移民を始めた帝国の民たちが、その旅路で平原を支配する「偉大なる赤竜」の襲撃を受けているという話を聞き、その彼らに救援物資を届けて移民の手助けをする任務についていた。
これには多くの、名のあるギルドも参加していたが…中でもこれまでの実績を認められた彼女ら“狐尾”は、特にこの暴君の住処に近い危険地帯を担当することになっていた。

帝国兵に顔の利くローゲルにも同行を依頼し、彼女らの旗艦である「キツネノボタン」に搭乗した諏訪子とレティ、比較的近い場所を馬車で目指すほむらと幽香、元々ローゲルが使っていた名無しの気球艇に乗った彼ら三人で手分けをして事に当たったわけだが…。



「ふざけやがって…というのは簡単だが、あの連中にはあの連中の信じるモノがあった、ってことなんだろうな。
その連中にしてみれば、私達はただの敵だ。
…すまねえ…私がそっちへ行くべきだったな」

事の顛末を聞き、目を腫らした二人と苦渋に満ちた表情のローゲルを迎えた諏訪子は目を伏せる。

「否…諏訪子君達の方も一筋縄ではいかなかったろう。
俺達が飛び立ってすぐ、あの赤い影がそちらへ向かうのが見えたが…よく無事だったな」
「危なかったけどね。
いっぺんブレスをかけられたが、念の為船首に護符つけて、尚且つ耐熱ミストばら撒いてやったんで無傷で済んだんだ…あとは目くらまししてな」
「まさか盾役の必需品三色ガードが使えないなんてねえ。
先見術めいたものもなかったけど、あんなのどうやって防げって言うのかしら」

その重苦しい雰囲気を少しでも紛らわせようと、大げさな仕草で肩を竦めるレティ。
しかし、彼女自身そんなのが気休めにモノらない事は解っていただろう…それ以上の慰めの言葉も浮かばず、統治院へ報告へ向かおうとするそのときだった。

無言で手綱を取るほむらが駆る馬車が、勢い良く突っ込んでくる…!

「( ̄□ ̄;)おいこらああああああああああああ!!?」

そして絶叫する諏訪子の寸前で馬車が止まる。

「っつー…まさかこの私がクッション代わりに使われる羽目になるなんて…!」

その荷車の中からむくりと起き上がった幽香の腕の中には、クッション性の高そうな多肉植物にくるまれた少女が、苦しそうに荒い呼吸をしている!

「おい幽香、何事だ!?
それにその子は」
「あの調子に乗ってる空飛ぶ赤トカゲにやられたらしいのよ。
現地での治療は難しいと思って、連れて来たわ…すぐに診療所に!」
「女将さん呼んでくるわ…!」

言うや否や、風を撒いて宿へと駆けていくほむら。
それを見送りながら、早苗は気丈にも涙を拭い、その場で諏訪子と共に応急処置を始める…。





いまだ戻らぬ穣子達を余所に、諏訪子は統治院での報告を済ませ、今回の任務に関わった面々で軽い打ち上げを済ます。
その席に現れたのは、想いもがけぬ人物であった。

「諸君らも、余の依頼を果たしてくれたと聞いた。
丁度、診療所とは続いているから、礼を一言述べておきたくてな」

ローゲルに肩を借りながら、バルドゥールはゆっくりと歩いて来る。

「バルドゥール!
あんた、もう起きて大丈夫なのか!?」
「ああ…この街の宿の女将というのはすごい人物だな。
ほぼ一人でこれだけの宿を切り盛りし、しかもこれほど高度な医術をこなすとは…彼女のお陰で、ようやく歩けるまでになったよ」

席に腰かけ、彼はそう言ってほほ笑む。
次の瞬間、その表情が僅かに曇る。

「…ローゲルから話を聞いた。
我が部下に、君らの心遣いを無碍にした者がいたと…彼らに代わって重ねて詫びたい」
「や、やめてよ…。
あの人たちにとっては、あなたがやろうとした事の方が正しかったんだ。
私達は、それを邪魔しちゃったんだから」

深々と頭を下げるバルドゥールを、ミスティアは少し泣きそうな表情で止めようとする。
が、彼は俯いたまま言葉を続ける。

「…僕にも…解ってたんだ。
きっと、こんなのはお父様が喜ばないと。
でも………僕には他にできる事はなかった。
彼らをそうやって導くことしか。

斬られるべきは君達やローゲルじゃない…この僕なんだ」
「殿下…それは違います。
このような事態を招いたは、我々にも責任があること。
そして今、俺が言える事は…あの時シウアンが言ったのと同じ事」
「ああ。
あんたはまだいくらでもやり直せる…辺境伯の野郎やキバガミもいるこったしな。
ああいうおっさん共はマジで頼りになるぞ、若いうちに色々向こう脛齧っておけばあとあと役に立つんだ」

そうやって、皮肉めいた笑いの諏訪子は傍らのローゲルに目をやり、彼が頷くのを見てからバルドゥールに食事を勧める。


それから間もなくして、先に診療所へ運ばれた少女の容体が無事峠を越えたという知らせと…その父親である帝国兵が涙ながらに彼女らへ感謝の言葉を述べに来た姿に、ミスティア達の心も少し軽くなったようであった。



-続・狐尾幻想樹海紀行2-
その2 「決戦、偉大なる赤竜」




かごめ「という茶番だったとさ(´・ω・`)」
静葉「本当にひっどい茶番…といいたいのは山々だけど、展開的にこういうのだってあったかもしれないしね。
  文庫の兵士の話も少し触れたけど、確かにアルフォズルの事をすごく悪し様に言ってる奴が一人いたわね」
かごめ「今回登場してもらった部隊長のモデルは、B3Fにいた帝国兵だな。
   実はローゲルをPTメンにしていない場合、こいつから「バルドゥールが皇帝には即位していない」という話が聞けるらしいのぜ」
静葉「バルドゥールは、父親が死んだかも、とは思いたくなかったのでしょうね。
  あと文庫と言えば、ローゲルを止めた時の三つの選択肢によって、彼の心情の様々な部分が垣間見れるわね。
  実は「皇子を一人にするな」と告げた時も、彼らしい忠誠心がにじみ出てるやり取りだと思うわ」
かごめ「黙って手を差し伸べた時は、共に旅立った騎士たちも気骨に溢れた連中だったという事が解るそうな。
   これ本当にいっぺんに聞きたかったよな。全部聞いて初めて「ローゲルという騎士」がどういう男なのかが見えてくる。
   …ぶん殴って止めた時に見えるのは、どっちかと言えば「冒険者ワールウインド」としての顔だよな」


かごめ「それはさておいて。
   前回も軽く触れたんだけど、今回は黒幕が述べた通り三色ガードという甘えた代物は一切存在しない。
   それでいてチョーシこいてるトカゲどものやってくる事は大差ないどころか」
静葉「金トカゲがとてつもなく面倒くさい相手になったという事は散々触れたわね。
  遠吠えは強化枠が七つ埋まった瞬間ここぞとばかりに使って来るから、迂闊にミストも使えないとか本当に何事」
かごめ「一方で救いな事がひとつある…今回、前作までみたいに各竜のブレスはそんな出鱈目なダメージは出ない。
   レベル60くらいの、HPブーストをある程度振ったフォートレスが生き残る程度のダメージにはなってる」
静葉「それでも500は軽く越えてくるってことじゃないの。
  …まあ、今回はそれに加えて食材効果もあるから、抑えようと思えばもっと抑えられるわね」
かごめ「その為か各竜の住処の近くには、まるでそれぞれの攻略に対応するかのような食事効果をもった特殊レア食材が取れるときたもんだ。
   食材効果+聖印Lv3+防御陣形ULv3でも受けるダメージは2ケタになる。その事に念頭をおいて装備品を吟味したいところだな」
静葉「まあ、ブレスだけが怖いわけじゃないからねあいつら」
かごめ「そして今回の三竜だが、SQ2時代と同じで前提クエストをこなして対決クエストを引きずり出してやる必要がある。
   それが発令されない限り、いくらレベルを上げたところで空飛ぶ馬鹿トカゲどもに衝突すれば瀕死にさせられた上食材も全部おじゃんにされてしまうから、その辺りは注意してほしいと」
静葉「と言っても、クエスト中もしくは撃破後は大人しく住処にいるようになるけどね。
  実は前提クエストで絡むNPCが、クエストでの助っ人になるのよね」
かごめ「うむ。
   氷竜のイベントではキルヨネン、金竜はウィラフだな。
   どちらも友好度が最大に上がってなければ、対決クエストで共闘する事ができないんだが…まあ、倍速巡航推進器を受け取れれば、自ずと二人の友好度は最高値になっている。
   推進器は第四迷宮攻略のミッション発令以後に貰えるが、それまでに条件を満たしていればミッション受領と同時に貰えるそうな」
静葉「これがあると格段に文庫突入が楽になるんだけどね。
  狐はレア食材がなかなか手に入れられなくて、結構魔物に襲われてる二人を助けて稼いだわね
かごめ「実際それが一番手っ取り早い。
   そもそもレア入手率を上げたり収穫回数を増やしたりのアイテムは、奴らからもらわなきゃならないし…ねえと捗らん」


かごめ「というわけで赤・氷のスペック紹介だ。引用は攻略本からになるぞ」

竜共通スキル
HPはいずれも30000
各種ブレス(頭):全体に遠隔大ダメージ。赤竜は炎属性、氷竜は氷属性、金竜は雷属性。
各種境界(頭):全体の、それぞれに対応した属性耐性ダウン。それぞれの属性はブレスと同じ。


偉大なる赤竜
氷弱点/炎耐性(ほぼ完全耐性)
インフェルノ(頭):全体に遠隔炎属性ダメージ
火竜の猛攻(頭):攻撃力を上昇させる
とどろく咆哮(頭):全体に混乱+物理攻撃力ダウン
ドラゴンクロー(腕):近接一列斬属性攻撃+腕封じ付与
ドラゴンビート(脚):ランダム対象の3〜7回壊属性攻撃、スタン付与

氷嵐の支配者
雷弱点/氷耐性(ほぼ完全耐性)
絶対零度(頭):全体に遠隔氷属性ダメージ+時々即死
劈く叫び(頭):全体に睡眠
アイスシールド(頭):雷属性耐性アップ(ほぼ完全耐性に近い状態になる)
氷河の再生(頭):5ターンの間リジェネ効果(1700ほど回復)
アイスクラッシュ(腕):拡散壊属性攻撃+頭封じ付与
竜乱錐(脚):ランダム対象の3〜6回突属性攻撃、スタン付与


かごめ「HPは前作よりも5000多くなってはいるが、奴らのパターンもほぼ変わらん。
   初手と4ターン目、以降は4倍数ターンでブレスというお決まりのパターンだ。
   初手はイージスの護りUでやり過ごし、3ターン目に次のブレスを受ける準備を整えるとやりやすいだろう」
静葉「それも一回挑んでhageたから言えることよね
かごめ「否定はしない(´・ω・`)
   赤竜に挑んだときで全員のレベルは実は63あったが、それぞれ物理攻撃ブーストだとかHPブーストだとかヒールマスタリとかに振った程度だしな。装備品・スキルともに大きな変化はないので割愛する。氷竜もだけど」
静葉「氷竜に挑んだ時は全員67くらいなかったっけ?」
かごめ「赤竜もごっそり経験値くれるしなあ…あと氷竜狩り終えたらリスタートかけるつもりで一気に殿の最下層へ行って毒樹探ししてきたりしたし…
静葉「標本調べなさいよ標本。
  そりゃあ奇襲毒hageの危険性あるけどねえ」
かごめ「それマジで存在を忘れてたでのう(´・ω・`)
   というわけであとは何時もの如く小話、詳しい赤・氷竜戦の流れは次回に回すのぜ!!」








「諸君を呼んだのは他でもない。
赤竜が何故、帝国からの移民を執拗に攻撃するのかは解らぬ…しかし、現状ではその存在が移民の大きな妨げになっているのは事実。
故に私は諸君らに、かの暴君の討伐を依頼したい」



あれから一週間の時間が過ぎた。

殿の狂気にも屈しない精神力を身につけ始めた彼女らは、少しずつその狂気をやり過ごすようにして殿の探索を始めている。
その中で、身の毛も弥立つ様なおぞましい秘密を知るとともに、いかにして生み出され蔓延るようになったか解らない強力無比な魔物たちとの戦いに明け暮れていた。
この地で仲間に加わったキバガミ達を含めれば、今や押しも押されぬ最強ギルドとして認められる“狐尾”のメンバーは、総勢十三名の大所帯になってはいたものの…いずれも単独で中堅ギルドのパーティに匹敵する能力を持つと言われるまでになった。

そんな彼女らにある日、辺境伯からの招集が掛けられた。
現在探索に赴いている一部を除いても、リーダーの穣子やミスティアら巨人の討伐に関わった者たち、ギルドマスターにして海都の名誉将軍でもあるリリカを加えた中核メンバーがそこに集まっている。



「つまりあの、チョーシこいてる空飛ぶ赤トカゲをやっつけて来い、ってことよね」
「簡単に言えばそうなるな。
私とて、諸君らにこのような危険な任務を押しつけたくはない。
それに、空を駆ける三竜は、本来「世界樹」同様神にも等しき存在だ。
彼らの理解を得られればそうしたかったが」

窓に、鏡移しで見える辺境伯の表情も苦渋の色が濃い。


彼にも解っているのかもしれない…今回赤竜が暴虐の限りをつくしたのも、恐らくはこれまで帝国…もっと言えば、バルドゥールがやろうとしてしまったことに対する憤怒の意味合いもあったのではないか、ということに。

一方で、それに巻き込まれてしまった無辜の民たちに罪はない。あろうはずがないのだ。
赤竜が、関わった総てを根絶やしにせんと怒りに任せて暴れ続けるのであれば…最早力を持って制する以外にはないという事を。


「大丈夫だよ、おっちゃん。
あいつもきっと、バルドゥールと一緒なんだ…自分の感情が抑えきれなくなって、自分だけじゃ止まれなくなってるんだと思う。
だったら」
「それを止めてあげるのが私達の役目。
そのミッション、謹んでお受けいたします!」


穣子とリリカ、二人の言葉を受け、辺境伯は初めて少女達を振りかえる。

この地の危機を救い、その為に尽力した十数名の戦乙女たち。
その表情には覇気が満ち…それを受けて辺境伯も、普段通り鷹揚に頷く。


「この先の事は、諸君に総て一任する!
健闘を祈る、“狐尾”の冒険者たちよ!!」






善後策を練るべく、宿に戻ろうとした彼女たちの元へ、慌てた様子で帝国兵の一団が駆け寄ってくるのが見える。
彼女らはそこで、想いもがけぬ事態に目を丸くした。

「何ですって!?
バルドゥールがひとりで!!?

「あ、ああ…殿下は、まだ御自分で歩けるようになってから二、三日しか経ってないのに…」
いかなる理由があろうと、罪なき帝国の民を蹂躙した者は余自ら討ち取る…そう申されて

その報告に色を失う少女達の中で、ローゲルだけが険しい表情のままで彼らを睨みつけている。

ローゲルだけではない。
先日の早苗達の身に起こった件を聞き及んでいた穣子も、ほむらも、凄まじい怒りを抑えつけているのような、そんな気を放っていることにキバガミが気付いた、そのときだった。

「それでお前たちは…何故止めなかったんだ馬鹿野郎ッ!!!

鎧も砕けよという勢いで諏訪子の拳が飛ぶ。
その見た目の何処にそんな威力があったのか、屈強な身体を鎧で包んだ彼の身体をいとも容易く吹っ飛ばした!

成り行きを見守っていた中でも…「幻想郷最恐」とさえいわれる幽香すらもが、呆気に取られて二の句を告げずにいた。
当然というか、想定以上の負荷がかかったと思しき諏訪子の拳からも血が滴り落ちている。
しかし、それでもなお鬼気迫るような表情で睥睨するその少女の姿に、帝国兵達もたじろいでいた。

ローゲルの表情も変わらない。
だが今日の彼らの姿を作ったのが、自分達のせいであるのも、彼は重い事実として受け止めていた。

彼はぶっ飛ばされた兵士を助け起こす。

「ローゲル…卿」
「お前たちには荷が勝ち過ぎた。
殿下は…否、バルドゥール「陛下」は必ず俺達が連れ戻す。
この街の護りを頼むぞ」

茫然と見守る兵士たちを残し、彼は「行こう」と少女達を促した。



決戦場となる、竜が住む大瀑布の方から、巨大な怪鳥達が押し寄せてくる。
諏訪子たちは停泊している帝国製の気球も数機借り受け、それぞれに乗り移っている。

「諏訪子様、これはどういう…?」
「決まってんだろ!
このメンバーのどれか、そこへたどり着いた奴らで竜を倒す!
だが…あの鳥の一羽くらいは引きつけてやんよ!!


勢いよく発射される気球に乗るメンバーは諏訪子の他にキバガミ、リリカ、そして幽香。

「そういうことだ。
殿下はあの通りの方だから…きっと素直に戻ってはくるまい。
…レティ君、だったね。
その“烈風(けん)”、必ず殿下の手に!

同じように別の怪鳥へと進路を取る気球に乗るのはローゲルを筆頭にこいし、ウーファン、ルーミアの4人。

巨大怪鳥へ向かってゆく二艘の気球艇。
穣子は総てを悟った。

「あんた達…最初からそのつもりで!」

最初から、自分達を決戦場に送りだすつもりであった事を。

「諏訪子は初めから、あなた達に総て任せるつもりだった。
この世界の禍神を止めたあなた達の力なら、必ず竜を鎮めることができるって」

レティの言葉に穣子は歯がみする。


穣子はこの、冬の妖怪が大嫌いだった。

彼女の到来は秋の終わりを意味する。
だが、それだけの理由ではなかった。

彼女の言葉は、厳しさと優しさを兼ね備え、何処か姉の静葉を思わせる、そんな自分にはないモノを持っていた。
妹の自分にすら見せないような柔らかい表情を、姉は彼女の前で見せることもあった。
それがただ羨ましく、妬ましかった。

自分でも解っているのだ。
本当は、この存在を誰よりも意識している自分がいるということも。



「…あんたに…あんたなんかに言われるまでもないわよ!
信頼してもいいのよね…その「メイン盾」としての実力!!
「任せておきなさい。
奴の攻撃は、私の総てを持ってあなた達へ通さないわ!」

二人はそのとき初めて、お互いの顔を見合わせ、頷きあう。


「全速前進!
偉大なる赤竜を倒しに行くよ!!」








赤き暴竜との死闘を繰り広げているバルドゥールの剣は、既に刀身の半分が融解している。
それは、この竜が吐く灼熱の炎のせいばかりではない…その身を包む赤熱した外皮と、マグマの如き超高熱の体液のせいでもある。

それでもなおも剣を構える若き皇子に対し、竜は再び超高熱のブレスを吐きつけようと口を開く…!


♪BGM 「神々への挑戦」/伊藤賢治(ロマンシング サ・ガ ミンストレルソング)♪

「早苗、援護頼むわよ!」
「了解っ!!」


そこへ飛来する気球艇。
早苗が力を放つと、防護の結界がバルドゥールを含めた全員を包み込む。
満身創痍の皇子の前に、颯爽と飛びおりたレティ。

「幻想郷のSGGKと呼ばれた私が、三色ガードがなけりゃ竜の前に立てないなんてそんな馬鹿な話があってたまるもんですか。
これが…私の身につけた新たなる力!
“マジン・ザ・ハンド”!!


爆発するように噴き出す気が、その背に巨大な魔神のオーラを生み出す!
そして、その巨大な張り手が恐るべき灼熱のブレスを打ち消しかき消した!!


「よしいまだみすちー私に続けええええ!!」
「らじゃーりょーかーい!!><ノシ」

降下する穣子の刃が猛烈な吹雪を纏い、必殺の一撃を軽くいなされたじろぐ暴竜の外皮を十重二十重に切り裂く。
さらに、先刻の「食材探しのお礼に」と、女将が渡してきた肉切り包丁…否、最早ひと振りの「名剣」ともいえるその刃をミスティアが振るう度、さらなる冷気の刃が竜を襲い、その表情が苦悶に歪む。

「うへえ…これ本当に包丁なの…!?
女将さんマジで竜倒せるんじゃないのかなあ…^^;」

着地しながら、その余りの切れ味にミスティアもやや苦笑いする。
その脇にちゃっかりと着地したほむらが、その隙を突いた竜の腕ごと光の矢で弾き飛ばした。

「君たちは…!」
「まったく、そんな体となまくら剣じゃ無茶もいいところよ!
あなたは…今までの事はどうあっても、これからの帝国のシンボルとしてみんなを引っ張っていかなきゃならないんだ!
こんなところでおっ死んだら、ローゲルや帝国のみんなをどんだけ悲しませると思ってるのよ!!


穣子はそう言って、バルドゥールの額を小突く。
皇子もその事を悟り、ばつが悪そうにうつむく。

「…まあそう言っても、流石に帝国兵の連中が「最強の騎士」というまではある。
一人でこれほどの力の持ち主と互角にやりあうなんてね」

レティの視線の先、一瞬のうちに許容量を超えるダメージを受けた赤竜が、よろめきながらもなお立ち上がろうとする。

「もうよしなさい。
あなたが何故、今回このような暴挙に出たかは解らないけど」

彼女は諭すように、その竜へ向けて言葉を放つ。

-貴様ら、何故邪魔をする。
その者は、己の力を過信し、この大地に住まう者を根絶やしにしようとしたのだぞ。
我自らが、その想い上がりの鉄槌をくださねばならぬ…エルダーよりこの地を預かった一柱として、傲慢なる者に裁きを!!-


恐ろしい声が辺りに響き渡る。
それは、この竜の声であった。

「確かに…それは僕の過ちだ。
だったら、何故僕ではなく、なんの罪もない民を狙った!!

赤竜はじっと、凛と言い放つ青年と向き合っている。


「故に僕は…「余」は、断じて貴様を許さん!
これから、偉大なる先帝アルフォズルに代わり、新たな皇帝として守り導かねばならぬ民の為!
ここで余が貴様を討つ!!」



半壊した剣を構え、駆け出そうとするバルドゥール。

「バルドゥール、これを!」

レティが投げたそれを、彼は走りながら受け取り持ち替える。

「それはあなたのお父様の剣!
今のあなたにこそ、それを振るう意味があるッ!!」


一瞬目を丸くする皇子だったが、何かを決意したようにその剣を最大稼働させる。
大上段に振りかぶられた砲剣が凄まじい冷気の魔力を巻き込み…彼の目にもはっきりを見えていた。


赤竜が「それでいい」と言わんばかりに、眼を閉じるその姿を。



断末魔の咆哮を上げることすらせず、その偉大なる赤き竜は、皇子の放った一刀のもとに沈んだ。






♪「YELL」/いきものがかり♪


「ありがとう…僕一人で赤竜を討ち取ることを望むなら、この命を代償にしていただろう。
そうすれば、また帝国の皆を不幸にするところだった。それに」

その若き皇帝は、倒れ動かぬ竜の亡骸を見やる。

「竜の怒りはもっともだった。
この偉大なる空の王が我が民を傷つけたのもまた、「余」のせいだったのだ。
そして…彼は「僕」の覚悟を見定めてくれた…そんな気がする」


そのときだった。
竜の身体はにわかに燃え上がり、渦巻く炎となって…導かれるかのように、ミスティアの手の中で一個の宝珠となっておさまった。

そして、限界を超えた力が身体をかける事を穣子達は感じ取る。

「これは…!」
「ルーミア達が言っていた…竜の力」

-そうだ。
汝らはその力を受けるに相応しい。
汝らであれば、もしかすれば…我らが「封じることしかできなかった」あの者を倒せるやも知れぬ-

その言葉とともに、何処かで鎖のようなモノが砕けた音がした。
少女達は周囲を見回すが、自分達が乗ってきた気球艇にも、何か壊れたような形跡は見えない…。

-この大地を任された残りの二竜に、汝らの力を測るがよい。
我を倒した以上、もはや後戻りはできぬ…そう心得よ!!-

俄に宝珠が輝き、次の瞬間消え失せていた。

「…なぁんか、とんでもねえ厄介事を押し付けられた気がするんだけど」
「あらあら、これは困ったわね。
どうする?尻尾まいて逃げる?」

くすくすと冗談めかして笑うレティに、穣子は「けっ!」と吐き捨てる。


「上等だ!
だったらこの私達が!そいつまで含めて全員ぶちのめしてやんよ!!!」