かごめ「前回与太話でページ食ったけど、ここでまず軽く赤竜・氷竜戦に触れるのぜ。
面白い事に今回もだが、やはりというか攻略wikiでは「最初に挑むべきは赤竜」と書いてある。
前作は少なくとも混乱とその他諸々があるからむしろ氷竜の方が「支配者(笑)」だったんだが」
静葉「今回はガチで赤竜が「偉大なる(笑)」だからね。
もっともクエストの初回だけなんだけど…助っ人の殿下が凶性能なのよね」
かごめ「病み上がりのクセにどう考えてもウィラフより頼りになるとか本当になんなの」
静葉「いやまあ…一応ラスボス前座でしたし。
けど、もののついでみたいに挑んだ氷竜だって、そこまで強くは感じなかったわね。赤竜殺ったあとに殺ったけど」
かごめ「キルヨネンも十分狂性能だけどな。
PTにフォートレスか聖印張るだけのルンマス・サブルンマスがいたら、そのどっちかを抜いてもいいレベル」
静葉「勿論彼含めて2枚盾でもいいけど、そうすると落伍者は出ないわねマジで」
かごめ「だからここでセットで語るが、氷竜戦はマジで面白みがねえ。
もっともゲストいたからこそ楽勝だった面もあるから、いなければどっちから挑んでもさほど変わらんかもしれんなあ」
静葉「それも酷いわねマジで」
かごめ「とはいえ竜どもはHPが半分切ると、各属性に対応した「境界」で実質的にブレスの破壊力をアップさせてくる。
この境界の直後はブレスターンでなくても、今回搭載されている全体属性攻撃を容赦なくぶっ放してくるから非常に危険だぞ。
特に追加効果のないインフェルノでも、ほぼ通常ブレスと変わらない凄まじい火力になるから一瞬でPTが壊滅する」
静葉「二度目の挑戦が失敗した要因よね。
前作でもそう言えば、赤竜に三度hageさせられてなかったっけ」
かごめ「今回は三度目の正直だったけどな!!」
かごめ「赤竜戦は最大のネックがやはりというか、とどろく咆哮。
奴の体力が赤ゲージを切る頃になると、それこそ狂ったように連発してきやがる。
混乱も痛いが、これが本当に厄介なのが攻撃力低下の方でな」
静葉「弱点突いた筈のバルドゥールのフリーズドライブで750程度まで落ちるからね。
普通ならアタックタンゴとかの支援抜きで3000前後叩きだせるんだけど」
かごめ「その750程度のダメージを、イグニッションから強引にねじ込んで押し切ったんだけどな。
属性の方はそこまででもねえから、ルンマス連れてくとある程度の攻撃力は確保できるんだ。
つってもこの時点で頼りになるレベルのルンマスがリリカ、しかしこいつはメインが炎印術と来たもんだ」
静葉「えっ今回属性特化したの!?
ただでさえ印術は段階と属性ごとに攻撃範囲とか全然違うのに…」
かごめ「まあ奴の凍牙でも輝き乗れば十分いい火力になるんだけどな。
むしろ縛りは抑制ブースト抜きだと入りづらいし、ほむら抜いてリリカを入れてもマジで良かった気はする」
かごめ「そして今回触れないでいた氷竜だけど、まあ特にこっちは事故もなくというか。
なにしろこっちのメイン盾が竜乱錐で事故落ちしても後列にはキルヨネンがいるし、余裕で立て直してそのままリンクサンダーを押し込んで勝った。
ここは流石にサブモノノフのほむらがいないとgdgdになった気がしなくもないが」
静葉「氷河の再生ですね解ります。
対応食材効果もなんというか非常に馬鹿げてるし、正直苦戦する要素あったのかしら」
かごめ「んーでもなー、どんなにこっちが優位でも即死がついて回るとどうしても事故ってのは何処かで起きる。
金竜ほどでないとしても絶対零度の存在は重くのしかかってくるんじゃねえのかな」
かごめ「そしてキルヨネンを加えて勝利すると、キルヨネンが何故タルシスにやってきたのかその理由がわかる。
前提イベントでは、氷竜の落とす結晶を妙薬の材料にするという医者から、竜が嫌う成分を持つ薬をもらっていたという話を聞けるんだが」
静葉「彼と共闘条件を満たした時と、共闘して倒した後に聞けるセリフは、実に格好いいわ。
自分の騎士としての名誉より、竜により苦しめられる人々がいなくなる方が満足だと…その事を知っている彼も、また立派な騎士だと思うわ」
かごめ「そんな事はさておいて、今回もここからはゲーム攻略とは無関係な小話になるぜ。
まあ、これからの伏線だな」
静葉「考えてみればそんなのばっかりじゃない。
まあ、私達も参戦しながら、こっちで解説をやることになるわけだけど…」
かごめ「あたし達の本格参戦はもうちょっと先だけどな」
-続・狐尾幻想樹海紀行2-
その3 「おてんば恋娘の冒険」
〜銀嵐ノ霊峰 氷竜の住処〜
穣子達の猛攻を受け、その恐るべき力をもった三つ首の蒼竜は、その体を朱に染め横たわっている。
-ぐ…ぐう、見事っ…!
赤竜に認められし汝らが力…確かに見せてもらったぞ-
息も絶え絶えになりながらも、威厳あるその声が吹雪を割って響く。
それまで黙って、その様子を見続けていた聖印騎士・キルヨネンは、意を決したようにその存在へ問いかける。
「ひとつだけ聞かせて欲しい。
貴方は何故、この地のイクサビト達を苦しめる様な事を…否。
それだけではない、僕の故郷にある水晶宮を襲い、幼き王子を殺し…!?」
そこまで言った時点で、キルヨネンは驚愕に目を見開く。
どうしたの、と誰何するようにミスティアが彼の袖を引くと、キルヨネンは一瞬残念そうな表情を作り、向き合ってその事情を話し始めた。
彼の生まれ故郷は、此処よりも遠く離れた雪と氷の国であった。
彼が聖印騎士として使える国の王・双臂王ビョルンスタッドの治めるその国は、その治世により平和が保たれていたが…ある時、その王宮である「水晶宮」は一頭の氷竜の襲撃を受け、幼かった皇子がそれに殺害される事件が起きた。
王は悲嘆にくれながらも、それでも国を守るべく果敢に反撃し、その竜の目をひとつ潰して撃退することに成功した。
そして…国の威信を傷つけられ、その竜の恐怖に国民達が怯えるようになった事を受け…王は聖印騎士たちに命を下したのだ。
「我が国の威信を傷つけ、王子を殺めた竜を討つべし」と。
-…そうであったか。
我の如く、「彼の者」の邪悪に中てられた者が他にいたとは-
氷竜の声も悲しそうに聞こえる。
「ねえ…赤竜も言ってたけど、その「彼の者」っていったい何なの!?
あんたたちみたいなすごい力を持っていて、それでも封じ込めることしかできなかったって一体…!!」
穣子はその存在へ問いかける。
-その名は…「冥闇に堕した者」。
竜の王となるべき資質を秘めながら、心を邪悪に染め災厄をばら撒く者だ。
封印を施した我らとて、その影響から完全に逃れること叶わなかった…汝らの手により、我も赤竜も救われたのだ…-
横たわった巨大な亡骸が、徐々に吹雪へと変わり…らせんを描いて早苗の手におさまってゆく。
その宝珠がまばゆい光を放つと、限界を超えるほどの力が彼女達を包み込む…!
-このような願いが厚かましい事は解っている。
だが…金竜にその力を示し…彼の者を討ってくれ…!
かの力に侵され、望まぬ暴虐へと走った同胞たちの苦しみを…どうか…!-
その慟哭に等しい叫びが、吹雪の中へと消えてゆく。
穣子たちにもキルヨネンにも、やるせない気持ちが残ったが。
「…どうやら僕の旅は、まだまだ終わらせられそうにない。
だが…この地で苦しむ人を救い、そしてかの偉大なる魂を苦しみと恐怖から解放出来ただけでも満足だ」
「キルヨネン…あんた、これからどうするの?」
その若き聖印騎士は、ふっと笑って頷く。
「もうしばらく、この地に留まって…件の竜の手掛かりを探そうと思う。
だが君たちがもし、この地とは別の地に冒険に行くのであれば…いつか僕の故郷へも案内しよう。
昔の面影はないかも知れないが、美しい場所なんだ」
「あなたの生まれ故郷は雪国なのよね。
私や…そうね、チルノあたりなら喜びそうだわ」
レティがその名前を言った時点で、ミスティアは何かを思い出したように顔色を変える。
「ね、ねえレティ…そう言えば、こっちにあなたやルーミアが来てるのに、どうしてチルノはいないの?
あいつの性格を考えれば、あたいばっかりおいてけぼりでずるい!とか言ってどんな手段使ってでも来そうな奴なのに」
「えっ…あ、そういえば…。
私もすっかりあの子の事、忘れてたのよね…最近霧の湖で大人しくしてたみたいだし、会ってもいなかった」
「ちょ、ちょっとそれ拙いんじゃないかなあ?
だってこっち来てる人であいつの関わりあるのって…あなたと私とルーミアと幽香さんと」
「…みすちー忘れてるかもしれないけど、チルノはアーモロードでリリカやこいしちゃんとも仲良くなっているわ。
そうね、これだけ仲良い子たちがみんなこっちに来てること考えると、あの子がじっとしてるなんて考えにくいかも」
早苗の一言に「うわあ…(;´Д`)」という表情になる一同。
キルヨネンは怪訝な顔をしていたが、何かを悟ったかのようにふっと笑う。
「…どうやら、大変な事が起きそうな予感だね。
君たちにせよ僕にせよ、まだまだこの地にやり残したことはそれだけ多いということかな」
…
〜一方その頃 幻想界・陽溜丘〜
「うわあ…」
その彼女らと同じ表情をしているかごめ。
視線の先は彼女の屋敷倉庫、そこは何かに荒らされまくった形跡があった。
その下手人は…ところどころに残る、まるで水でもぶちまけた様なシミが物語っている。
「…おい誰だ、あのHにあたしん家の場所教えた奴ぁ。
それ以前にどうやってきたんだあいつ」
「ご…ごめん私一度連れてきた…^^;
まさか、来かたを覚えてこういう事を仕出かすなんて思いもしなかったし」
ばつの悪そうに笑う葉菜に、あからさまに嫌そうな顔で振り返るかごめ。
「くっそ、ミスティアの件だってあいつをいいくるめるのにどんだけ苦労したと思ってるんだよ。
ルーミアを向こうに送ったのだって…いったい誰がしゃべりやがったんだ」
「そう言えば…魔理沙さんが居なくなった事をアリスさんも知ってたよね。
お母さん、あの人に話すと非常に面倒なことになるって言ってたけど」
金髪の少女…かごめの娘であるつぐみも、困ったように首をかしげる。
「それだよそれ。
わざわざ神綺さんトコ行って、酒持ってって拝み倒してきたってのに…まさかあの紅白が口を滑らせたんじゃ」
「人聞きの悪いこと言わないでよ」
何時の間にそこに現れたのか、黒髪をリボンで無造作に結った少女がすたすたと歩いて来る。
普段の巫女衣装ではなく…以前かごめのところから気に入って持って帰ったうちの一つと思しき黒いブラウスとジーンズを着る博麗霊夢だった。
魔理沙から受けた呪いの後遺症もすっかり無くなり、五体満足そのもののようだ。
「アリスのヤツは何度か神社に来たけど、魔理沙は帰ってないし、何処行ったか知らないっていつも言って追い返してるわ。
あいつに下手な事を言ったら、どんな大騒動になるか解ったもんじゃないし…後始末だって面倒なことになるし」
口を尖らせる霊夢に、かごめも「まあそうだよな」と苦笑を禁じ得なかった。
なお、霊夢が藤野家に出入りするようになった理由は単純…酒盛りの際に萃香やにとりが速攻で開けてしまう酒を求めて、である。
そうやって通ううちに陽溜丘周辺の景色が気に入ったと見えて、最近はアポも取らず上がり込んでは、我が物顔で居間に寝転がってる光景も珍しくはなくなった。
無論、かごめも他の住人も咎めるようなこともせず…霊夢は帰り際に礼のつもりか家事を必ず手伝って帰るという日常もそろそろありふれたモノになりつつあった。
この日も、そうやって上がり込んだところで何やら騒ぎになっていたので、興味を得て寄ってきたと言ったところだろう。
「…ふむ、まあ下手人探しをしても詮ない事は解っちゃいるんだがな。
重要なのは、あの馬鹿があたしのコレクションをあさって、恐らくは」
かごめが視線をやるのは、家の外。
簡単な屋根を取り付けたその下に淡い光を放つ
「チルノと…恐らくはコーディもだろうな、あいつ巻き込まれタイプだし…あのふたりくらいの力を持っていれば、この門から思った通りの場所へ行く事は出来るだろう。
この門から行けるのは守矢神社と、魔界のロキちゃんとこと、アーモロード…そして、タルシス近郊の知られざる樹海磁軸。
あいつは魔界を知らないが、カンはいいからな」
「そこへ行ったって言うの?」
「十中八九、間違いあるまい。
向こうに言ったメンバーのうち少なくとも半分は、チルノと仲がいい」
やれやれ、と言った風にかごめは肩を回す。
「済まないが葉菜先輩、大至急静葉さん呼んで来てくれるか。
…あと霊夢、あんたもヒマならついて来るかい?」
…
〜タルシス〜
「うわー!なんかすげえカッコの奴がいっぱいいるー!!」
その青い髪を揺らしながら、少女は目を丸くしている。
往来を行きかうは屈強な冒険者たちと、鍛え抜かれた異形の身体を持つイクサビト達…そして、厳かな雰囲気を漂わせるウロビト達。
あるいは、タルシスの兵士と共に談笑する、黒塗りの全身鎧に身を包む帝国兵。
彼女の住む幻想郷も、そもそも様々な姿をした人妖跋扈する世界であるが…そこにはない初めての風景に、純粋に好奇心をくすぐられている様子だ。
「ち、チルノちゃーん!!
も、もう帰ろうよ…こんなことがみんなにばれたら、大変なことになっちゃうよ…」
慌てたように走ってくる緑髪の少女は…チルノの親友でもある大妖精・コーデリア。
「何言ってるんだよ大ちゃん!
みすちーやルーミアばっかりじゃなくて、レティやリリカや幽香や早苗もみんなみんな、この世界で楽しいことしてるってオランピアが言ってたじゃないか!
みんなしてあたいをのけ者にして…かごめだってあたい達にその事黙っててさ!!」
「で、でも、それはここがそれだけ大変な場所だったからだと…」
「じょうだんじゃなーい!!><
あたいたちは、アーモロードでもちゃんとみんなで最下層までいってきたんだぞー!!」
その叫びを聞き咎めたのか、一部の冒険者たちがぎょっとして彼女を見やる。
「…アーモロードだと…!?
確か、アーモロードで迷宮の最下層まで足を踏み入れた唯一の冒険者ギルドが…」
「あのチビッ子達が“狐尾”の一員だってのか?
…冗談も休み休み言え、確かに、あのギルドはほとんどが小娘ばかりだが」
「大方、あのギルドにあこがれてやってきた新米だろう。
だが、この辺りはあの連中にほとんど踏破されつくしたしな…じきに諦めて、帰ることになるんじゃないかな」
そのひそひそ声から逃れるかのように、コーデリアはチルノの服の袖を引っ張って広間を離れようとする…そのときだった。
「ほう、お前冒険者志望か。
ではお前たちも、“狐尾”のウワサを聞きつけてこの街へ来たか…フフ、最近はそういう奴も多くてな」
屈強な肉体を持つ、頭頂部だけを剃った銀の髪を持つ壮士が、少女達の前に立ちはだかる。
それは…この街のギルド長。
「なんだおっちゃん、リリカ達のこと知ってんのか!?」
「知ってるもなにも、あの娘たちは現在、この地における最大の英雄だ。
海都名誉将軍であるリリカ=プリズムリバーがギルドマスターと知ったのは、つい最近の事だがな。
それはいい、お前たちもこの地で、冒険者を目指すのであれば…この地の掟に従ってもらわねばならないぞ?
“狐尾”の連中もそこから始めたのだからな」
「解ったよ!望むところだ!!」
おろおろするコーデリアに構う事もなく、チルノは自信満々に宣言する。
ギルド長は満足そうに頷くと、少女達を伴って辺境伯の元へと向かう。
…
“狐尾”の面々がそれを知ったのは、チルノがこの地に足を踏み入れてから四日後のことだった。
「暗国ノ殿」も第二階層の探索が始まり、メンバーのほとんどはバルドゥールの計らいで旧帝国領に居を構え、最近はタルシスにも滅多に顔を見せなくなっていた。
それでも時折数人が、根城にしているセフリムの宿に戻っては来ていたが、チルノが活動を始めた最初の三日間は、魔理沙以外の“狐尾”メンバー誰ひとりとしてこの街にいなかったのが災いしたと言っていい。
「勘弁してくれよ…かごめの奴、あいつをなんとかして黙らせたんじゃなかったのかよ…」
頭を抱える諏訪子。
この日、そこに居合わせたメンバーはいまだ診療所にいる魔理沙を除けば、諏訪子、幽香、そしてキバガミの三人。
帰り道、久々にギルドに顔を出した諏訪子たちは、ギルド長からチルノの話を聞き…なおかつ、それが先日樹海へ旅立ってから戻って来ていないという話を聞いた。
「諏訪子殿、その、チルノという娘は、そんなに何か問題があるのか?」
「あるさ、大ありだよ。
元々幻想郷の妖精って奴ぁ、ごく一部の例外を除いて無思慮無鉄砲の馬鹿ぞろいだ。
チルノはその典型例、挙句妖精どもの中で唯一、幻想郷屈指の大妖怪連中と同格に置かれる規格外ときたもんだ。
放置しておくと一体何をやらかす事か」
「多分あの子がいるという事は、コーディ…あの子と仲がいい妖精なんだけど、その子も一緒のはずよ。
コーディは頭もいいし、しっかりした子だけど、チルノには振り回されっぱなしだしねえ」
幽香は旅装を解くこともせず、すっかり手に馴染んだ砲剣・フォーマルハウトを担ぎ直す。
「チルノ達は樹海へ行ったのよね。
あの子らの実力なら、低層の熊どもに後れは取らないと思うけど…また新たな獣王が現れて駆け出し冒険者が被害を受けてると聞いたわ。
連れ戻してくる」
「お、おい…お前だって昨日今日「殿」から帰って来たばかりじゃねえか。
決して万全じゃ」
「心配は無用よ。
もし、かごめ達が追加で捜索隊を送ってくれるなら、私も樹海へ向かったと伝えてちょうだい」
そのまま、止めるのも聞かず幽香も宿を後にしていった。
「…あたしゃ奴が何を仕出かすのか解らんのも心配なんだがな」
「うむむ…まあ、幽香殿が往かれたのなら問題ないのではないか?
今、彼女に喧嘩を吹っかける様な酔狂な冒険者もおるまい。
…熊にやられる前に、彼女にやられてもやるせないだろうしなあ」
キバガミも渋い顔をしている。
幽香は実際、この地へ来て間もなくのころ…酒場で絡んできたガラの悪い冒険者崩れを、半死半生の目に遭わせている。
その冒険者崩れも素行や何やらで問題が多く、幽香も散々に馬鹿にされて大分我慢した末だった事と、キバガミ達の尽力で辛くも死者が出なかったこともあったのでおとがめなく済んだのであるが…その事が知れ渡ると、どんな荒くれ冒険者でも、幽香を避けて通るようになる有様だった。
「大丈夫かなあ」
難しい顔をする諏訪子。
そんな心配をよそに、眺める窓の外には幽香の乗る気球艇…ローゲルの残して行った「キツネノボタンZZ」が樹海へ向かうのが見えた。
…
〜碧照ノ樹海〜
チルノ達がこの森にたどり着いてから、早二日が過ぎようとしていた。
しかし、それは彼女たちが単純に迷ったりとかそういうわけではない。
チルノが考えなしに、街を出る際に様々な
「うわーこの葉っぱくっさあー!!><
宿のねーちゃんが言ってたのってこれかなー大ちゃーん!?」
「う、うん…そうかもね…。
っていうか一旦帰ろうよチルノちゃん…いくら私でもあとどのくらい何をしなきゃならないかなんて、覚えてられないよお…」
げんなりした表情で訴えるコーデリア。
いくら自然の精気から生まれた妖精だからと言っても、紆余曲折あってちゃんとした「肉体」を得た彼女にとっては、流石に二昼夜不眠不休で動き回るにも体力の限界というモノがあった。
しかし、同じように肉体を持っている筈のチルノは、まるで走りまわれば走りまわるほどにむしろパワーを有り余らせている有様で、親友のふがいなさにあきれ顔のようだった。
「なんだよーだらしないなあ。
…まあいいか、流石のあたいもなんとなく一休みしたい気分だから、そこの泉まで行こう」
「う、うん…」
そうは言っても流石に友達思いのチルノである。
自分の我がままでコーデリアを振りまわしている事は承知の上だったが、それをすっかり忘れてしまっていた彼女は、へとへとになった親友に肩を貸して、泉近くの樹にもたれさせる。
そして、チルノは泉の水をうまく凍らせて器を作ると、そこに水を汲みとってコーデリアに渡す。
大雑把で無鉄砲な性格で知られるチルノではあるが、意外にセンスがいいのか氷と水を器用に操って、何かしらの品物を作り出す才能にも長けていた。かつて光の三妖精と結託して、博麗神社から鯉を盗みだそうとした時も、中に鯉が泳げる程度の氷の玉を作った事もあったくらいである。
ただでさえ冷たい湧水を氷で冷やされたから、口が凍りそうなくらい冷たかったが…それでも、チルノを追い掛けて限界まで熱を溜めこんだその体には丁度良かった。
「……ごめん、大ちゃん。
あたいも、本当は久しぶりに、思いっきり外の世界でこうやって冒険したかっただけなんだ。
でも…ひとりで出るのは、やっぱりどっか怖かった」
「チルノちゃん…」
少し寂しそうな顔で笑うチルノ。
この素直な氷の少女は、やはり多くの遊び仲間を失って退屈していたのだろう。
…しかし、思う存分走りまわって、落ち着きを取り戻したところで少し後悔してるのかもしれない。
「…謝るのは、私の方だよ。
私も最近、紅魔館のお手伝いに行くことが多かったからね。
かごめさんたちなら、話せばきっとわかってくれたかもしれなかったし…私から頼んであげてれば良かった」
キョトンとした表情で顔を見つめてくるチルノに、コーデリアはなおも笑って返す。
「あとの頼まれ事は…この森の湖の何処かに落ちている、冒険者さんの大切な指輪を探す事だよ。
確か頼まれ事は五つあって、四つ終わったから…見つけたら一度帰ろ?」
「うん!」
氷の妖精の顔が、そのときパッと明るく開く。
同じようにコーデリアも笑って返し、立ち上がろうとしたその瞬間だった。
♪BGM 「戦場 双眸爛々と」♪
まるで雷か何かが落ちたような音が響き、横殴りに目の前の大木が砕き散らされる。
そこから顔を見せたのは…まるで血に染まったかのような、あるいは灼熱の炎を思わせる毛皮に身を包み、その爪も牙も身体も、来るまでに見た熊たちの倍はあろうかと思われる巨熊だった。
それは…かつて穣子達が力を合わせて討った熊の王…獣王ベルゼルケルに匹敵する巨躯の赤熊。
チルノは本能的にその力の強大さを理解する。
「…大ちゃん、逃げてッ!!」
呆気に取られる間もなく、チルノは反射的にコーデリアの身体を突き飛ばし、自分は巨熊の前に躍り出る!
「そらこっちだ熊野郎!
この最強のあたいが相手になってやんよ!!」
「チルノちゃん!?
無茶だよ!そんなおっきな相手に!!」
しかしチルノはその言葉が聞こえていないかのように、かごめのところから持ち出してきたひと振りの名刀…かつて軍神と呼ばれた猛将が佩いていたといわれのある「姫鶴一文字」の刃をきらめかせ、そこに自身の冷気を伝わらせると、挑発するかのように熊の爪を小突いて意識を向けさせ始める。
チルノは、その事に気づくのが遅かった事を後悔した。
泉の周囲には、森の外周部で見た熊どものそれとは比べもにないならない、巨大な足跡があった事を。
この泉が、今目の前にいる恐るべき巨熊のテリトリーである事を。
コーデリアもまた、あまりに樹海行から時間が空き過ぎていたがため、樹海探索の必需品である「アリアドネの糸」の入手を失念していたまま樹海探索を始めた愚行を思い知らされていた。
糸があれば、強引にチルノのところまで行って使い、この危地を脱することができただろう。
恐慌と混乱で逡巡するコーデリアに、チルノは叫ぶ。
「みんなのところへ…みんなのところへ戻るんだ!
あたいはこんなところでやられやしない!必ず戻るから!!」
その声に押されるかのように、意を決したコーデリアが駆けだそうとしたその瞬間。
「あっ…!」
息を飲む彼女の目の前に、先のまでとは言わなくとも、十二分に巨大な身体を持つ赤毛の熊が二頭、荒い息を吐きながら立ちはだかっていた。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように身を固めるコーデリアに、赤熊の爪が勢い良く振り下ろされる!
そのときだった。
辺りに飛び散る鮮血。
それは…コーデリアのものではなかった。
彼女に振りおろされた筈の腕は、切り離され大きく宙を舞っている…!
♪BGM 「幽夢 〜 Inanimate Dream」(東方幻想郷)♪
「間一髪、だったようね」
そこに立ちはだかるのは…熊の毛よりも鮮やかな深紅のベストとスカートを翻し、砲剣を振りかざす緑髪の大妖怪。
「ゆうか…さん?」
その場にへたり込んで、茫然とつぶやく少女に、幽香は安堵と呆れが混ざったような溜息を吐く。
思わぬ事態に狂乱の咆哮を上げる熊だったが、次の瞬間何かに中てられたように身体を震わせ、その場に棒立ちになる。
その正面には…コーデリアからその表情は伺えなかったが…まるで悪鬼の如き形相で殺気を全開に放つ幽香。
「あなた達。
成り行きとはいえ、私の友達を取って食おうとした罪は重いわよッ!!」
その渾身の威嚇に恐怖した三頭の熊は、踵を返すと矢のようにその場を逃げ去っていった。
…
熊たちが去った後、少し距離を置いた状態でチルノとコーデリアは、幽香と向かい合って立っていた。
幽香からは、既に先刻のようなすさまじい殺気は放たれていなかったが…その表情は、何処か不機嫌で、怒っているようにも見えた。
気まずい沈黙が暫し場を支配して…チルノは恐る恐る、口を開く。
「…ごめん、なさい。
でも…大ちゃんは怒らないであげて。
大ちゃんは…あたいの我がままに付き合ってくれただけだから…」
少し泣きそうな表情で、彼女は目の前の妖怪に告げる。
幽香は無言のまま、チルノ達との距離を詰める。
きっと、ひっぱたかれるかもしれない…その痛みを覚悟し、チルノはギュッと目をつむって身体をこわばらせる。
「幽香さん、悪いのはチルノちゃんじゃない…私だって!
私だって、チルノちゃんと一緒に抜け出してきたんです…止めようと思えば止められたのに…私も一緒に冒険してみたかったからっ…?」
その言葉が終わりきらないうちに、幽香は二人の身体を愛おしそうに抱きしめていた。
「良かったわ、二人とも無事で。
私たちこそ、あなた達をのけ者にするべきではなかったわ。
…ごめんね、ふたりとも」
その言葉が切欠となったのか。
何度も「ごめんなさい」を繰り返しながら泣きじゃくる二人の少女をあやす幽香の瞳からも、ひと雫落ちた。
…
チルノ達が受けたという最後の依頼を…三人は時に足を滑らせ沼地にはまりながら、時に魔物の奇襲をあしらいながらなんとか達成し、孔雀亭での報告を済ませて帰りついた宿から、居ても立ってもいられなくなったと思しき諏訪子が飛び出してきた。
「あんた達無事だったか!
…くそっ、勝手なことばかりしやがって本当に…!」
駆け寄り様に平手を振り上げる諏訪子。
しかし、振り下ろされた手を幽香がしっかと掴む。
「おいこら何の心算だ幽香!
この馬鹿にはちぃとキツイ灸をすえてやらねえと」
「…灸を据えるべきはあんたとかごめよ、むしろ。
どうせ黙ってればこの子達は、遅かれ早かれ私達を追ってくるはず。
だったら最初から、私達と一緒に行動させていればこんな危なっかしいことはしなかったでしょうよ…!」
その言葉に諏訪子は絶句して目を丸くする。
「ああまあ成程、そういう見方もあったわな」
そんな彼女たちの元に、困ったような顔をしながら近づいてくるのは…かごめだった。
「かごめ…お前までなにを」
「そもそも隠れてこそこそやるのは、あたしだってそんな得意じゃないしな。
どうもやっぱり方々に余計なコトを言いふらした下手人もとっちめてきたが…まあ、そんな事やっても起きちまった以上は今更だし」
「…誰だよそれ」
「秋葉神社にいる元機械人形の厄介者だ」
ああ、と諏訪子も得心いったようにげんなりした表情を作る。
「まあそういうこった。
アワ食って飛んできたはいいが、帰って特別やることもねえ。
暫くはこっちでゆっくりと迷宮めぐりにしゃれこむのも一興かもしれねえな」
「え…えっ!?
じゃあまさかお前まで」
驚愕する諏訪子に構うことなく、かごめはチルノ達の手を引いて歩きはじめる。
「折角だ、あんた達たまにはあたしと組んでいこうか!
まあこっちじゃあたしはまだ新米だからな…よろしく頼むよ先輩共!」
「…うん!!」
そうやって笑いあう二人の姿に、最早諏訪子も何か言うのがばかばかしくなったと見えて「勝手にしろ」と、宿へと戻っていく。
しかし、キバガミと幽香にはそんな彼女が、どことなく嬉しそうに見えた。