あらすじ
谷を抜けたらそこは一面の銀世界でした
諏訪子「( ̄□ ̄;)さーむっ!なんじゃこりゃあああああああああああ!!??」
穣子「おおお黒幕貴様か貴様の仕業だなあああああああああ!!
隠れているとはヒキョウなりぃっつーかフレイムウォールで薙ぎ払ってやる出てきやがれこのやろおおおおおおおお!!!><」
早苗「おお、落ちついてくださいお二方!
ちょっと吹雪いて雪が積もってるだけですどうという事はきゃー!!><(突風にあおられている」
みすちー「(毛布にくるまって青い顔で震えている)なんなのこれいやがらせなのばかなのしぬの」
ほむら「途中からどんどん気温が下がっていたから嫌な予感はしたけど…いくらなんでもこんな唐突に気候って代わるものなの…?」
早苗「ううなんとかおさまった…('A`)
そう言えばアーモロードでも、灼熱洞の直下にある筈の海洋祭祀殿に入った瞬間、それまでがウソのように寒々としたフロアになったような…世界樹だからでしょうか」
ほむら「えっ理由そんなのでいいの」
諏訪子「いいんだよ別に世界樹なんだから何時ものこった!
しかしこの寒さは流石に聞いてねえぞ…磁軸とっとと探して一旦戻ろう、ロクに動けんのにFOEなんぞに捕まったらsYレならん」
みすちー「(ガクガクブルブル)…あれとか…そうかな…?」
真っ蒼な顔のままぶるぶる震えながらミスティアの指した先には、カマが氷になっているカマキリさんが飛んでいる…。
諏訪子「うーわ今回アイスシザーズまでいるのかよ…エトリアの遺都かここは?('A`)
おいあんなの無対策で突っ込んでもhageるだけだぞ。
どうせ周回だろうしルート避けて進めルート避けて」
早苗「(真っ青な顔で)す、諏訪子様…あれ…」
諏訪子「今度はなんだ…ゑ?( ゚д゚ )」
粉砕する大牙が粘着してきた!
粉砕するなんとかのヒキョウなバックアタック!
なんかよくわからんワニ野郎はマルカジリのかm
…
…
かごめ「のっけからいいオチですな」
静葉「『カマキリばっかりかと思ってたらワニもいた、しかもPTがマルカジリされるたびにダメージが倍加していきやがった』
な、なにをいっているのか(ry」
かごめ「あれ本気で意味解んないよな。
最初50ダメージくらいで「ああ、このくらいなら」と思ってたら3回食らう頃にはダメージ3ケタであっという間にhageさせられたんだが」
静葉「現状、丸かじりのダメージ増加のメカニズムははっきりしてないみたいね。
ほぼこれしかしてこないんだけど、一回発動するごとにダメージそのものか、あるいはワニの攻撃力がアップしているという説があるようで…一応、腕縛りで大幅ダメージ減殺、パワーブレイクでも一回分の攻撃力アップを無効化できるけど」
かごめ「何故か防御陣形のダメージ減殺が適用されてないっぽいんだよな。
あと斬撃の護りでもダメージ軽減できなかったし、何属性なんだかさっぱりわからん」
静葉「クロースアーマーでも減ってる様子なかったところ見ると突属性なのかしらひょっとして」
かごめ「まーとにかく、現状こいつはどうにもならん事だけは確かだわな。
高空域飛んでる鳥っぽいのは衝突の危険性ないからいいとして、あとはまさかの強化カマキリさん」
静葉「氷カマキリの討伐はクエストもあるけどねえ。
まさかこんなの、乗り込んですぐに倒したなんて馬鹿なことは」
かごめ「しましたごめんなさい(´・ω・`)」
静葉「( ̄□ ̄;)えちょ何してんのよ!!
馬鹿にも限度ってものがあるでしょうが!!!」
かごめ「アイスシザーズは基本的にカマキリなわけだが、属性がほとんど斬属性から氷属性に変わってるわけでさ。
でもって、氷の護りと耐冷ミストは第二大地で揃えられる。
あとは本家カマキリにないブラインシザーズと相変わらずの即死さえどうにか出来ればこのレベルでも行けるってことだ、基本はカマキリなんだし」
静葉「呆れて言葉もないわ。
そもそもカマキリの飛んでる辺りにある小迷宮、本来もっと後にならないと入れないところよね?」
かごめ「流石にこのレベルで突っ込むのは度胸が居るので後回しにしたんだがな」
静葉「アイスシザーズにレベル30で挑んだ分際で何ぬかす(呆」
-狐尾幻想樹海紀行2-
そのH 「銀嶺に潜む者」
-金剛獣ノ岩窟-
諏訪子「紆余曲折あったがなんとか次の迷宮を見つけ出せたな。
にしてもなんだ本当に、この熱さは…?」
穣子「湯気が上がってるくらいだから温泉でもあるかと思ったんだけどねー」
諏訪子「何のん気なこと言ってやがる…この洞窟、なんかおかしいな。
これだけの熱が生まれてるなら、近辺に活火山があるもんだと思うが…温泉どころかマグマすらねえ」
穣子「言われてみれば…?」
穣子たちは周囲を注意深く探る。
しかし、熱の発生源と思しきマグマの類はまるで見当たらない…。
早苗「きっとこの辺り、入口付近だからじゃないでしょうか?
もっと奥の方に行けば何かあるかも知れません」
諏訪子「だな。
こんなモノが生えている以上、本来はこの洞窟も氷点下がデフォなんだろう」
【システムウインドウ:「氷銀の棒杭」を入手しました】
諏訪子「しかし、何だこりゃ?
氷なのは間違いないが、この灼熱地獄でちゃんと氷の形を取ってるとは」
穣子「何よそんなの、入り口付近の冷気でその辺の水が冷やされてできたんじゃないの?
そんな関係ないの捨ててきなさいよ、袋に入れたら水浸しになるわよ」
諏訪子「…んや、こいつなんか必要になりそうな気がする。
袋に入れておけば数時間は持つだろ、ちょっと集めていこう」
…
洞窟探索を続ける穣子達は、巨大なカメの魔物に追われながらも熱源と思しき広間にたどり着く。
そこには、一面大岩のような奇妙な物体が突き刺さっており、その周囲には火の粉が舞っている…!
諏訪子「…ッ…こいつは…!」
ほむら「これが…まさか熱源…!?」
みすちー「す、すっごい熱さだよ…近づくだけでも火傷しちゃうよこんなの…!」
しかし諏訪子は何かを確信したかのようにその物体に近づく…。
次の瞬間、物体は周囲の空気を炎へ変えて諏訪子に吹き付けた!
早苗「すわこさまッ!?」
諏訪子「…っつう…このッ!!」
諏訪子は袋から氷柱を取り出し、その物体に叩きつける!
爆発的な水蒸気が上がり、破砕音と共に物体はあとかたもなく砕け散った…!
諏訪子の焼けただれた二の腕を早苗がすぐに治療する。
早苗「なんて無茶を…今のあなたは神様の姿を持っていないのに!」
諏訪子「つつ…ごめんよ早苗。
でも、お陰でこいつの正体がつかめた」
穣子「えっ!?
あんたこれ知ってたの!?」
諏訪子「ああ…こいつは
まだ諏訪の信仰が厚かった頃にはよく見かけた…だが、このウロコからすれば大きさは十数メートル級、流石にそんなでかいの見た事ねえ。
七ツ窯辺りにいた主だって精々一丈(約3m)足らずだったしな」
早苗「うーん…私、聞いた事もないんですけど」
諏訪子「そりゃそうだ。
大東亜戦争が終わって、諏訪で人間が精密機械の工業団地をバンバン作り始めた時代には、私達『神』は元より、こういう『荒魂』もどんどん消えていったからな。
最後まで『生きてた』七ツ窯の主も、人間共が水俣病やら四日市喘息やらで大地のしっぺ返しを食らい始めた頃に『死んじまった』。
だからあそこの間欠泉は出なくなっちまったんだ」
ほむら「でも、それはあなた達が元居た世界の話でしょう?
同じような存在が、この世界にいるなんて事があるの?」
諏訪子「何故かはわからん…たまたま世界が異なっても、似たような荒魂が収斂進化的に同じ性質を持ったのか…まあそれはいい。
こいつらは寒気を極めて苦手にしてて、離れても火を吹き続けるウロコで周辺を住みやすい環境に変えちまう。
だから、こいつらが暴れて畑を荒らしまわると、夏でも臨時で御神渡りを引き起こして追っ払いに行ったもんさ」
早苗「すると、その氷柱ももしかすると」
諏訪子「誰か、焔蛟が悪さした時の為に用意してたものかも知れんな。
七ツ窯の主も、奴の土俵で戦ったら私と神奈子ふたりがかりでも文字通り手を焼く強さだ。
戦うことになるかは解らんが、まずこいつ…鱗による『焔蛟の領域』をどうにかしないことには始まらんかもな」
みすちー「でも、かなりいっぱいあるよ…全部はとてもじゃないけど無理じゃないかな」
諏訪子「本体の分身とも言えるウロコの群体を探して壊すんだ。
そいつを壊せば、散らばった周辺のウロコも全部力を失う。
焔蛟のウロコはマーキングも兼ねているから、一度壊せば暫くは再設置されない。
探索はそれからだな」
…
…
かごめ「つーわけで色々すっ飛ばして第三迷宮ですね」
静葉「もう作り過ぎてて何が何やら。
いないと思うけど、全国の温泉地の地下にホムラミズチが居ると真に受けてしまう人がいたらどうするつもりよ」
かごめ「さすがにんな奴いないだろ。
この洞窟のキーになるのは、それぞれの階層にある大きなウロコを見つけてぶっ壊す事だ。
B1Fは割と簡単に見つかるんだが、棒杭が3本は最低必要かな。
たどり着くまでに邪魔なウロコも壊す必要がある」
静葉「地味に面倒くさいのは、ウロコそれぞれのダメージ範囲が重なると2枚分のダメージ受けた挙句先に進めないという酷いオチが」
かごめ「大きなウロコは周囲2マスがダメージゾーンになるからな。
先のネタバレになるが、B2Fは大きなウロコと小さなウロコが隣り合って配置されてるし、小さなウロコから先に壊すにも位置を考えて動かないとえらい目に遭うってことだ」
静葉「一旦壊してさえしまえば、ゲーム内時間で一週間は洞窟が冷え切って、水場の上を滑って移動できるのよね」
かごめ「残った小さなウロコもダメージゾーンが消える。
アイテム所持数を気にしきゃいけないのは当然、棒杭はひとつの採集地点で取れる数が基本2個と貴重だから、考えて使わないとならん」
静葉「樹木学でボーナス取得できるから、それに期待するのも手ね」
かごめ「そしてこの洞窟で登場するFOEは、実は全フロアで鎧の追跡者一種類だけ。
カメっぽい見た目通り防御力がアホみたいに高い上弱点もねえ。しかも貫通大ダメージのグラインダー、回避率大幅アップのオイルスピンをひっきりなしに使ってくるから長期戦必至だ。
数も多い上に乱入もされやすいから、狩れるレベルならいっそ狩りつくした方が後腐れはない」
静葉「グラインダーは足縛りでも防げるし、後列から挑発すれば貫通効果は生まれないみたいね。
デコイサインとランパートで固めたフォートレスを後列に置いておくだけでも違うわ」
かごめ「そして奥のウロコを首尾よく破壊しても、そこからB2Fに行っても実は先に進めないという罠がありまして」
静葉「必死にカメを回避しても行き止まりとか、マジで頭おかしくなりそうなレベルの嫌がらせよね」
かごめ「これは入ってすぐに出会えるワールウインドの言葉に従って、B1Fを冷やした上で棒杭を一本持って、別の入り口のB2FからB1Fの別エリアに入る必要がある。
近辺にはワニがうろついてやがるから、索敵範囲に入らないかつ竜巻を避ける必要がある。シビアだぞこの辺り」
静葉「首尾よく辿りついても今度は嫌がらせみたいな配置のカメさんを回避する必要もあるけどね。
ここでも何度カメェとヨウガンジュウ・変幻フクロウに壊滅させられたことか」
かごめ「あのフクロウもムカつくよな。
洞窟が熱いと炎属性、冷たいと氷属性のブレスで攻撃してきやがる。頭さえ縛っちまえば後腐れはねえけど。
あと洞窟が熱いとヒョウガジュウ、冷たいとヨウガンジュウが無力化してハズレアイテムしか落とさなくなる」
静葉「でもそいつらが前列にいて後列のフクロウがブレスしてきたりすると地味にうざいわね」
かごめ「ヨウガンジュウとヒョウガジュウ一緒に出てきたりするしな。
こいつらを弱点属性以外で倒せた時のアイテムは多くの優秀な武器・防具の素材になったり、クエストの納品素材になったりするから、面倒でも弱点属性で止め刺さないようにしないとな」
静葉「まあそんな面倒な連中をさばきながら、B1F別ルートの最奥にあるウロコを壊して中に入ったところで、いよいよ最重要イベントに突入するわね」
かごめ「まあここからはもう完全に無駄話でお茶を濁していただこうかなと」
静葉「ここんところずっとそればっかりじゃない…しかも引っ張るわね、この調子だと」
かごめ「フヒヒwwwwサーセンwwwwwwww」
…
…
穣子たちは池のほとりまで来て、対岸に奇妙な出で立ちの人影が立っていることに気づく。
黒光りする鎧をまとったその人物は大柄で金棒を背負い、腰には刀を下げている。
「ほう…久々に刀を見たな。
こっち来る時に静葉の持ってたの見たのが最後だな。
こっち来てから、曲刀や片刃剣の類は見かけたが、ストレートに刀って言うのは見てなかったし」
諏訪子は努めて軽い調子で言う…が、その表情は硬い。
対岸にいるその人物の放つ物々しい気に、僅かながら警戒の構えを取っている事が伺える。
しかし、タルシスでも殆ど見かけない刀より、何より奇怪な兜は彼女たちの目を引いた。
牛の頭部を模したそれは非常に精巧にできていることが、遠目にも伺える…その人物は腕を組み、黙して穣子たちを見つめている。
その姿は堂々とし、兜と思しきそこから伺える鋭い眼光から、只者ではない事が伺える。
諏訪子と、それを追うように穣子が先陣に立ち、ゆっくりその人物の傍へと近づいていく。
「…ッ!
こいつ…まさかっ!!」
「牛っ…人間ッ!?」
確信したかのように二人は目を丸くして声を上げる。
牛を模した兜だと思っていたそれは牛の頭部そのもの…目の前に立つのは、獣頭の戦士だったのだ!
「驚いたぞ。
見たことのない魔物がいるかと思っていたが…よもや、外からの客人であったとはな。
人間でない者も僅かに混ざっているようだが」
牛頭の士は、重いトーンの声でそうつぶやく。
そして、豪快な声で告げた。
「この岩窟の奥深くまで、よくぞ参った!
最後に人間がこの里に足を踏み入れて十年は経つが…このキバガミ、お主らを歓迎するぞ!」
キバガミ、と名乗ったその牛頭の士は、穣子達に着いて来るよう促し、洞窟の奥へと消えてゆく。
その所作には全く隙がなく、いかにもと言った歴戦の戦士という雰囲気を伺わせる。
顔を見合わせる五人。
「いやあ…まさかこの世で牛頭鬼に出会うことになろうとは。
ひょっとして此処は地獄か?」
「まま、まさかぁ…まだ足もちゃんとあるし、どっかの喰いしん亡霊みたいに人魂だってくっついてないよ。
でで、でもどうしよう…あいつ、ついて来いって言ってたけど」
「お前自分がリーダーって言ってやがったろうが、こういうときにはリーダーが決めろよ。
もしあいつが凶悪な魔物で、喰われて死んじまったら魂になってもオメエを祟ってやんよ」
「ま、まあまあ…冗談はそのくらいで。
悪い人?…ではないように思いますけど…なんとなく、勇儀さんに似た感じの印象ですし」
「早苗ェ…お前もうちょっと物事警戒する事は覚えろよ…?
まあ、今のところ敵意は感じないがなあ」
「何をしておる!?
客を取って食うような真似はせん、イクサビトの我らに二言はないぞ!」
奥の方から、痺れを切らしたのか豪快な声が飛んでくる。
五人は再度顔を見合わせると、神妙な顔で頷いて覚悟を決め、キバガミの去っていった奥へと足を踏み入れる…。
…
そのフロア…キバガミの言う「イクサビト」の集落とも言えるその場に足を踏み入れた一行は、さらに信じられないモノを見ることとなる。
あちこちに火が灯され寒くならないように配慮されており、空洞内には石でできた建物や記念碑のような物も見受けられる。
どこからか煮炊きの音が聞こえ、その一方で空洞のそこかしこでは、見事な体躯の戦士たちが汗を流し武芸の稽古に勤しんでいる。
しかし、見かける者たちはどれもこれも異形…その頭部もキバガミの様な猛牛の他、馬頭の者、狐や狼、兎のように見える者もいた。
何人かは(彼らにとっての)異形の闖入者に少し驚いた顔をするが…それだけだった。
それどころか、軽く挨拶してくる者もいる。
キバガミから何らかの通達があったのか…あるいはあまり細かいことは気にかけない性格の種族なのかもしれない。
歩を進めると、牛頭の戦士は空洞の中ほどで巨大な鍋をかきまわしている。
何を作っているかは確認できない…しかし、覚えのある風味をはらんだ、程よく脂の乗った魚の匂いが、洞窟の探索で疲れ果てた少女達の食欲を誘う。
「おお、参られたか。
なに、先日よい鮭が撮れてな。ちょうどメシにしようと思っていたのだ。
さあ座られよ、人間の娘には少々武骨に見えるかもわからんが、味は保証するぞ?」
彼の前には巨大な鍋がしつらえてある。
魚や野菜を煮た、食欲をそそる香りに、穣子とミスティアが思わず生唾を飲んだ。
成り行きを見守っていた少女達だったが、おもむろに諏訪子は己の武装を解くと、普段穣子達の見慣れた私服姿となってキバガミの正面にどっかりと座りこみ、一礼する。
「胸襟を開いた武士を疑うは、落ちぶれどもかつて武神として祭られた者にあるまじき行為だった。
私は異界で祟神を統べる土着神が一柱、洩矢諏訪子。
故あって人間が姿を取り、この地を探索している最中貴公の招きにあずかることとなった。
キバガミよ、貴公の心遣い、有難く頂戴する」
「そう堅苦しくなさるな、諏訪子殿。
成程、お主らはこの地に昔居た人間ともまた違う者であるようだ。
だが…それもまた伝承の通りということかもしれぬな」
キバガミは感慨深げに目を細める。
あくまで隙はなかったが、初対面の時の威圧感は既になく…宛がわれた椀に穣子達が反射的に飛びついていた。
…
♪BGM 「ミンストレルソング」/伊藤賢治♪
自己紹介と、自分たちの出自を説明してささやかな宴を楽しむ一行。
その縁も酣の頃、キバガミは不意に表情を改め、語り始めた。
「我らイクサビトは、創造主たる人間の言葉に従いこの数百年を生きてきた。
そして、人間はこうも言い残している。
外の世界から来た者にイクサビトの歴史を語れ…とな」
「どういうことなん?」
当初の緊迫感は何処へやら、鮭の骨を口の端から覗かせた割とみっともない風体で穣子が聞き返す。
「そう、語り継がれてきたことだ。
故に、お主らには否応なく、拙者の話に付き合ってもらわねばならぬ。
まあ、飯でも食いながら聞いてもらえればよい」
そう言いながら、ミスティアの差し出した椀に鍋の中身をよそいつつ、キバガミは語り始めた。
それは、ウロビトの里でウーファンから聞いた、ウロビトの伝承とよく似た内容であった。
しかし…一点、決定的な違いがあった。
それは、世界樹に関わるくだり。
「我らはあの大樹を「悪魔の樹」と呼んでおる。
何故なら、あれこそ世界を滅ぼす巨人の住居だからだ」
「なん…だと…?」
突然のことで実感がわかないのか、穣子が苦し紛れに外の世界から早苗が持ってきた漫画の一節っぽく返す。
キバガミはさして気にた風もなく続ける。
「巨人は邪悪にして不死身。
歩くだけで地には亀裂が走り、近づく者は強い呪いでその身体を樹や草に変えられてしまった。
だが、我らの祖は戦いを諦めなかった…呪いに耐えつつ、巨人から『心臓』を切り出したのだ。
同様に、知恵に長けた同胞は巨人の『心』を切り出し…人間は巨人から『冠』を取り上げた。
巨人は自らを不死たらしめる三つの象徴を失い、眠りについたのだ。
我らは巨人が再び目を覚まさぬようそれらを自らの里に持ち帰った。
こうして戦いは終わり、大地は守られたのだ。
人間は我らの創造主というだけにあらず…肩を並べ戦った戦友なのだ」
そう語るキバガミは、何処か嬉しそうに見えた。
そのとき、イクサビトの若者が近寄り、キバガミに何か耳打ちする。
キバガミは僅かに表情を曇らせる。
「む、そんな時間か。
許されよ、少々用事ができた故、拙者は暫し座を辞させて頂きたい。
お主らを咎める者はおらぬ、此処を我が家と思い楽にしていってくれ」
そうしてキバガミは立ち去り、西の方にある洞の中へ消えてゆく。
暫しその場で茫然と座りつくしていた五人。
「世界樹が、世界を滅ぼす巨人の住居だって…?
ウロビトは世界樹をカミサマのように崇めてたけど」
「いや、基本的にはイクサビトも変わんねえ気はする。
でも多分…イクサビトの伝承とウロビトの伝承を統合して考えれば、あの世界樹はそのものか、そこをねぐらとする何かが「祟神」に類するものかも知れんな」
怪訝な表情の穣子に、渋い顔の諏訪子が応える。
「うーん…そうすると、 一度辺境伯さんの所へ行って、この話をしておいた方がいいかも。
世界樹に関する情報があまりにも乏しい現状で、何処まで整理がつけられるかは解りませんけど」
「シウアンが辺境伯に告げた言葉も気になる。
空から来る何かと、世界樹に関わる二つの伝承…何か、もっと重大な秘密があるかも」
「そうだな、今起きている異変は恐らく、その辺りの事情が滅茶苦茶に絡み合ってる結果かも分かんねえ」
「じゃあ、キバガミさんに一言いってこなきゃ。
お腹一杯ごちそうになって、黙って帰るのも心苦しいし」
ミスティアの言葉に頷くと、五人はキバガミの去っていった西の洞へと歩を進める。
そこはいくつかの平らな石が並べられ…そこにはイクサビトの子と思しき者達が横たえられて…その姿に、五人は声を失う。
苦しそうなうめき声を上げた異形の子らの、獣毛の生えた腕の上には幾つもの蔦が絡まり、樹脂のようなものがかさぶたのようになって張り付いている!
「珍しいのもわかるが、そう驚かんでくれ」
背後からキバガミが歩み寄る。
僅かに悲しそうな表情のその手には、野草や薬のようなもので満たされた椀が見える。
「キバガミ…これは一体なんだ!?
こいつはまるで」
「拙者は多少、医術の心得があってな…こうして時折坊主どもの面倒を見ておるのだ。
この病が里に流行るようになって、かれこれ十年になるだろうか」
「病だと!?
こいつはどう見ても「呪い」…いや、「祟り」の類だ!
こんなモノに薬なんて何の…ッ…!」
苦しむ子供の手に触れようとする諏訪子の腕を掴み、キバガミは頭を振る。
そして、思い出すように遠い目をする。
「我らは「巨人の呪い」と呼んでおる。
かつて、巨人に近づいた者はその身を樹と草に変えられたと言う…伝承の通りだ。
大地を汚す邪悪な存在でこそあれ、我々は神にも等しき巨人に手を下した。
諏訪子殿、お主の言われる通り…このようなモノは気休めに過ぎぬ…」
彼は子供に薬を飲ませながら淡々と語る。
「巨人を討った我らイクサビトが、とらわれるべくしてとらわれた呪い…弱い者から蝕むと見え、身体が出来上がる前の坊主どもは、特にかかりやすい。
病にかかったものは数年の内に樹と草にその姿を変える。
発病し、助かった者は一人としていない…如何なる祈祷や妙薬をもってしても…まったく、厄介なことよ…!」
「馬鹿野郎ッ!
いくら神の姿を失っちゃいても、力くらいちったあ残ってる…この私の力でッ!」
早苗とキバガミの制止を振り切り、諏訪子は身に刻まれた自身の祟りを発動させる。
しかし…効果を成すどころか、あべこべに諏訪子の腕から全身まで見る間に呪いに浸食されていく…!
「諏訪子様ッ!」
「よ、止せ!
お主まで巻き込まれるぞ!!」
「ちっ…だったら私も」
反射的に跳び込もうとした穣子をミスティアとほむらが羽交い絞めにして止め、騒ぎになったその洞へ人だかりができ、緊迫した状況になったそのときだった。
「ったく、来てみりゃこの有様かい。
まあ、悲観するこたないさ。
こいつは、絶対に治せない病気ってわけじゃないんだぜ」
そこに立っていたのは、いつになく真剣な表情のワールウインドだった。
横には何故かシウアンがいる。
彼女は目が合うと小さくお辞儀する…が、さすがに再会を喜べる雰囲気ではない。
見慣れぬ闖入者の出現にキバガミは眉を寄せるが、そんな彼にワールウインドは軽く自己紹介し、尚もキバガミに話を続ける。
「巨人の呪いに立ち向かう術はある、君たちの力を貸してくれよ。
この子と君たちの力があれば全員助けられる…保証するよ」
「聞かせてもらおう」
「必要な物は二つ。
一つは、君たちの先祖が里に持ち帰ったっていう巨人の『心臓』…もう一つが、世界樹の声が聞けるこの娘…ウロビトの『巫女』ってわけだ。
呪いってのは巨人の血とか、そんな感じのものでね。
この娘が心臓に働きかければ、呪いは払いのけられる。
たぶん上手くいくと思うよ」
何処か人を食ったような、飄々としたその言動に、キバガミを始めとするイクサビトのみならず、息まく穣子を留めるほむらでさえも、彼に疑念の眼差しを投げている。
ウロビトとの一件から向こう…レミリアの言葉の所為もあったが…ほむらはこの謎の冒険者に対し強い警戒心を抱いている。
それは、彼女に覚えのある匂い…この地で、使用する者を見た事がない銃の類に憑き物と言える、強い硝煙の匂いを漂わせていたことが、そこに拍車をかけている。
「ああ、そんな目で見られるのは辛いなあ…俺が胡散臭いのは否定しないけどね」
芝居がかった仕草で嘆くワールウインドだが、気を取り直し「ほら」とシウアンに何かを促す。
彼女は呪いに浸食され身動きできなくなっている諏訪子へと歩みよるが、その前にキバガミが立ち塞がる。
「止さぬか、お主まで巻き込まれてしまう。
諏訪子殿は自身も「祟神」といった…その諏訪子殿すら、ああなってしまった…」
「大丈夫、私を信じて」
成り行きを見守っていた穣子と、今にも泣き出しそうな、イクサビト達に制されている早苗の視線を受けて、シウアンは頷く。
そして呪いに包まれた諏訪子に手をかざす…!
彼女の周りに小さな明かりが灯り始める。
明かりは諏訪子と、イクサビトの子の周りに集まり、明滅する。
すると、諏訪子から呪いが徐々に剥がれ落ち…うなされていたイクサビトの子まではそこまではいかなかったが、それでも表情は和らぎ、静かな寝息を立てはじめていた…。
「たす…かっ、た…?」
呆けたように呟く諏訪子。
そこに早苗が飛び込んでしっかりとその姿を抱き寄せた。
身近にいたイクサビトの間に小さく歓声が上がる。
「今…世界樹にお願いしたの。
諏訪子さんは直接「血」を受けたわけじゃないから…でも、その子はそれ以上無理だって、世界樹は言ってる。
ワールウインドの言うこと、たぶんできると思うよ…世界樹にもっと近い物が、手元にあれば…!」
しかし、事態の急転に驚いてはいるもののキバガミは相変わらず難しい顔をしている。
そのことを察しているのか、ワールウインドもあまり浮かれたようには見えない。
「巨人の心臓に触れるは禁忌…おいそれと決めるわけにはゆかぬ。
だが、これも定めか…!」
キバガミは難しい顔で腕組みをし、目を閉じる。
「巨人の心臓を手に入れる!
その為、この最下階に住まう焔蛟の護りを突破せねばならぬ!
焔蛟はここ何十年と討伐されておらぬ…だが、我らには研ぎ澄まされた牙がある!
モノノフどもよ!日頃の修行の成果、今こそ見せる時ぞ!」
その強い決断に、イクサビトの戦士たちが興奮に沸き立った。