♪BGM 「戦乱 紅炎は猛り白刃は舞う」♪
灼熱の広間で果てるともなく死闘は続く。
しかし、忌むべき灼熱のウロコから導かれた地熱の気を味方につける焔蛟の戦闘能力は凄まじく、強烈な火焔地獄に阻まれミスティア達も容易にウロコへとたどり着けずにいた。
紅蓮の熱波をもろに浴びた、ミスティアの手にした不思議な氷柱も融解し、その事態に気を取られた彼女は避け切る事が出来ずに毒針を逆立てた尾の一撃をまともに受けてしまう…!
「みすちー!?
ちくしょう、よくもみすちーを!
八つ裂きにしてやるこのトカゲ野郎ッ!!」
激高した穣子が、冷気の魔力を纏った一撃をその巨体へと叩きつける…が、この灼熱のフロアの中で思うように威力を発揮できず、逆に熱波のカウンターを受けて穣子の身体も大きくかちあげられる!
「穣子殿!ミスティア殿!」
「あの馬鹿ッ…!
このままじゃジリ貧だ!」
諏訪子たちが悲痛な叫びを上げる脇で、ほむらはある一点をめがけて駆け出している。
彼女が手を伸ばす先には、まだ形を保っている、穣子の持っていた氷銀の棒杭…何らかの魔力を帯びたこの棒杭は、穣子が放った冷気でまだ十分な大きさを保っている…。
「ほむら!?
あいつ何を…」
そのとき、諏訪子はあること思い返す。
早苗は、自分達がキバガミに昏倒させられた後、ほむらが彼を制したと言った。
キバガミもその件に関しては語る要領を得ず、それを見ていた筈の早苗やミスティアからも詳しくは聞いていない…いったい、彼女がどうやって彼を制したのか、その経緯を。
「早苗…!
ほむらの奴は…一体何をやった!」
「えっ…」
状況に対応しきれず狼狽の色を見せる早苗は、その質問の要領を得ず聞き返す。
「あいつはどうやってキバガミに勝った!
見ていたんだろ!?」
「え、あ…はい!
ほむらちゃんは…魔装を、ミスティアと同じように魔装をその場で生み出して」
「馬鹿な事を!
あの魔法少女連中はとうに持ってるんだ!
新しく魔装を生み出すワケが」
「本当なんです!
あの子は元々持っていた盾と、今使っている弓を融合させて…新しい魔装をその場で生み出したんです!」
「な…んだと…!?」
諏訪子が目をやった先では、目標をほむらに定めて紅蓮の火炎を放つ魔物の姿がある。
「刻を駆けろ、星霜銀蛟!」
その大弓は銀の刃を持つ双刃の刀に変貌する!
番えた氷の矢は、彼女を包む歪空間から放たれる、洞窟本来の冷気を巻き込んでみる間に槍ほどの長さへ成長し…強烈な寒気にホムラミズチはたじろいで後退する!
そして遮るモノのなくなった大ウロコめがけて氷の巨矢は放たれ、冷気の尾を引いて忌むべき大ウロコを粉砕した!
-狐尾幻想樹海紀行2-
その11 「吹き荒れる灼熱と吹雪の果て」
「おおッ…!」
急速に冷却される広間。
それと共に、苦悶の咆哮を上げながらホムラミズチが身悶える。
早苗は動きの鈍ったホムラミズチの背後を駆け抜け、毒で意識を失っていたミスティアを気つけると、間髪いれずに穣子の元へと駆け出す。
「私は問題ねえ!
あんたはそのままそのデカブツの土手っ腹おもいっきりぶん殴れえっ!!」
何時の間に飛び起きたのか、穣子は飛翔し、悶えるホムラミズチの頭めがけて大上段に振りかぶっている…!
「はい!」
二人の少女達の怒号と共に、上下から同時の攻撃を受けて魔物は赤銅色の体液を口から撒き散らして悶絶する。
あとに続くキバガミ、ミスティア、ほむらの追撃が、ホムラミズチに休む暇など与えず、動きの鈍る魔物は苦し紛れにウロコを飛ばして熱を得ようと足掻くが、それも目敏く諏訪子が棒杭をウロコに投げつけて破壊する。
「ホムラミズチ、覚悟おおおおおおおおおおおッ!!」
冷気の魔力を全開に放つ穣子の一撃がその首を切り飛ばし、残った胴も瞬時に氷結して砕けた。
それが、洞窟最強の魔物として君臨していたホムラミズチの最期だった。
その様子を見ていた影があった事を…誰も気づくことなく。
…
焔蛟との死闘を終え、その小部屋には何故か、ワールウインドが居た。
「流石、現在タルシスに並ぶものなしと評された『狐尾』。
まさかあの魔物を討ち取ってしまうとはね」
思ってもない人物に目を丸くする穣子。
「えーちょっとおっちゃんなんでこんなところにいるのさ!?
上でシウアン達といたんじゃないのー!?」
「いやね、君らの力を信じてなかったワケじゃないけど、万が一と思ってね。
それに、とてもじゃないが俺が混ざりに行ける気配じゃなかったからね」
悪びれもせず、肩を竦めるワールウインド。
先に彼を見かけたとき、僅かに見せた驚きの表情も、彼の言葉を考えれば考えられなくもないことだった。
しかし…諏訪子は全く別の意図があるという確信があった。
その瞳に僅かに灯った、明らかな思い違いがあったことに対する意味での驚きの色を、彼女は見逃してはいない。
「キバガミよ、悪い事は言わねえ。
この胡散臭いの、この場でとっとととっ捕まえた方が得策だ。
私達でタルシスの統治院に突き出して、真の目的を吐かせてやる」
「なんッ…!?」
人が変わったかのように険しい貌で吐き捨てる諏訪子に、キバガミならずとも色を失わせるには十分な威力があった。
「ちょ、ちょっと待ってよ諏訪子!?
確かにおっちゃん、私達を尻目にこれちょろまかそうとしてたけどさ…」
「そうだろうな。
こいつにとってはイクサビトの子供たちの事なんてどうでもいいんだろうよ。
目的は間違いなく「心臓」そのものだ。
こいつは私達がドンパチやってる隙を突いて、そのまま持ち去ってトンズラかます気だったんだろう」
おろおろする早苗達を意に介することなく、諏訪子は殺気すら放つ視線をワールウインドに叩きつけている…!
一瞬、その異様に飲まれたかに見えたワールウインドだったが、ふっと、表情を普段のそれに戻して頭を振る。
「参ったね…まあ確かに、俺の行動はそれを疑われても仕方のないこと。
弁明するよりも、一緒にこのまま里へ戻れば何の問題もない事だろう?」
「それは…まあそうですね」
もっともな言葉に顔を見合わせる早苗とキバガミ。
キバガミは頷く。
「確かにお主の行動は不可解だ。
だが…確たるモノがない以上、無暗に疑念ばかりを募らせても始まらん」
「キバガミ!」
「お、落ちついてよ諏訪子さん。
ワールウインドだって、大人しく一緒に戻るって言ってるんだから…それに」
「確かに、証拠はない。
このまま彼を捕えても、うまくはいかないと思う…彼は辺境伯にも信頼があると聞いた」
ミスティアとほむらに宥められながらも、それでも釈然としない様子で、諏訪子は列から外れる。
「だったら、あんた達で先に戻れ。
私はもう少し、此処に用事がある」
「諏訪子様!
す、すいません皆さん…私、すぐに諏訪子様連れて戻りますから」
洞窟のさらに奥へ、憤然と歩き去っていく諏訪子を、困った顔で他の面々に会釈して早苗も追いかけていく。
「仕方ないね…まあ、目的は達したし、里へ戻ろうよ。
いや、俺は君たちに「連行」されるということかな?」
「うー、気にしなくていいよおっちゃん。
あいつちょっと疑り深いんだ、色々あってさ」
「旅人殿が同行して貰える以上、拙者にも異存はない。
諏訪子殿には諏訪子殿の考えもあるだろう…いずれ意見がまとまれば、戻ってこられよう」
そうして、ワールウインドを加えた一行は、迷宮の磁軸へと導く魔法の鈴を鳴らし、掻き消えるようにしてその場を後にする。
その中でほむらだけが静かに、諏訪子と同じ視線をワールウインドに向けながら。
…
「諏訪子様!
お待ちください諏訪子様っ!
確かにあの方は素性も解りませんし、なんとなく雰囲気的に合わない事も解りますけど…!」
諏訪子はその一か所に足をとめたまま、早苗の問いかけにも応えず振り向こうとすらしない。
早苗はなおも何か言おうとして、ようやく気がついた。
そのフロア、諏訪子の立つ正面には、祭壇がある。
それは、早苗にも随分と見慣れたモノ…樹海や幽谷で見たそれと、全く同じつくりの祭壇。
そこには必ず石板が置いてあり、それを、北の谷にある祭壇に置くことでこの地までやってくる事が出来たのだが…。
「石板が…ない…?」
石板がはめ込まれている筈の区画には、何故かそれが置かれていなかった。
それどころか、その周囲の部分が何かの力で無理矢理にはがされたかのようにぼろぼろになっている…!
「硝煙の匂いだ。
でもほむらの奴は、多分もう以前の魔装…盾の魔装を使う事は出来ないんだろ。
つまり、あいつはこっち来てから銃火器の類は使ってねえし、恐らくもう二度と使う事はねえはずだ」
「えっ…で、でも、この石板はそんな力を使わなくても簡単に取れるじゃないですか…!?」
早苗は、既に諏訪子が入手したものであると思ったが…すぐにその考えを否定する。
石板は諏訪子が一抱えもするほどの、そこそこ巨大なサイズだ。
その割にはどんな材質なのか、非常に軽い。
持つことは容易だが、諏訪子が隠しているにしては大きさ的に不自然だからだ。
「そうだろうな。
恐らく、迷宮を支配する魔物の存在が一種のロックになっていて、そいつを倒せないと入手ができないようになっているんだろう。
こいつを持ちだした下手人は、私達が焔蛟とやりあってる隙を突いて、この石板も持ち出そうとしてやがったということだ」
「…まさか!
諏訪子様、まさかこれもワールウインドさんであると仰るんですか!?」
「確証はねえ…それにどうやってやったのかも検討がつかねえ。
だが、ひょっとしたら可能な武器がひとつないわけでもない…ガンブレードだ」
「ガン…ブレード…?」
「お前そういえばFF[やったことはないんだっけか…まあ、かごめから買ったらなアレ。
FF[主人公スコールが使っていた、銃弾の振動と斬撃を同時に繰り出す事で破壊力を跳ね上げる特殊な剣。
作中でも扱いは非常に難しい武器とされているが…使いこなせば、発生する高周波振動に魔力を加えて、魔力的なロックを強引に引きはがすくらいの局所火力は生み出せるようだな…コレみたいに」
諏訪子はそのとき初めて、早苗と向き合いになる。
何時になく真剣で、そして悲しそうな表情に思えた。
「私もあいつの正体は知らない。
けれど…私や、レミリアが言った言葉を覚えているかな?
あいつは、似ているんだ…八雲紫に。
胡散臭いけど、あいつの目の奥の光は何処までも悲しそうなんだよ…!」
早苗は思い返す。
郷の賢者、八雲紫がどのような人物であったか。
彼女がやってきた行動、その真実…その事を思い返し、早苗の脳裏で先に見た素性不明の冒険者とそのイメージがぴったりと符合する…!
「これも仮説だが…キバガミの語った伝承では、巨人から切りだされたのは「心臓」と「心」、そして「冠」って言ってた。
辺境伯のおっさんが、虹色の破片を「再発見」したワールウインドにやっちまったという由来不明の「冠」。
ワールウインドが何故それを所望したのか…そもそも最初にタルシスに気球艇でやってきた奴は誰だったのか…!」
「そんな…そんなことって!」
その真実に行きつき、早苗は狼狽を隠せずにいる。
「戻るぞ、早苗!
私のカンが正しければ、シウアンがやべえ!!
逃げられたら面倒だ!!」
…
それより、少し後。
里にたどり着いた一行は、「心臓」をシウアンへと手渡し、彼女の力によって程なくして総てのイクサビトの病が癒された。
力を使い果たし憔悴しきったシウアンを休ませながら、キバガミはこみ上げる感情を抑えきれず周知する。
「巫女殿ッ…先にお主の力を疑った事…何卒お許しくだされ…!
そして穣子殿、ミスティア殿、ほむら殿…この場にはおらぬ諏訪子殿や早苗殿も…お主らも皆、我らイクサビトの大恩人だ!
イクサビトと人間の永遠の友好をモノノフの長として約束しよう!」
涙ながらにそう宣言するキバガミに、イクサビト達からも賛同の歓声が上がる。
いや、イクサビト達ばかりではない。
そこにはタルシスからやってきた冒険者達や、統治院の衛兵、ウロビトの狩人や方術士たちの姿すらもあった。
彼らは辺境伯の意気に感じいり、あるいは穣子達の活動を聞きつけ、共に力になりたいとこの金剛獣ノ岩窟を訪れていたのだ。
「者ども!宴の用意だ!
この目出度き日を皆で祝おうぞ!!」
一際大きな歓声が上がり、多種多様な種族の者が共に連れ立ち、その材料の調達へと飛び出していった。
程なくして盛大な宴は幕を上げ、人間もウロビトもイクサビトもなく、共に一つの鍋をつつき、あるいはお互いにウサ晴らしとして持ち込んだらしい酒をあおり、談話に花を咲かせている。
相変わらず酔った穣子はほむらを捕まえながら、これまでの武勇談とやらをキバガミやイクサビト達を相手に大仰に語り、何処か和の懐かしさを感じさせる曲に乗せてミスティアが自慢の喉を振るっている。
場所は違えど、少女達にも既に見慣れた光景になりつつあった。
皆がその善き日を祝い、お互いの労をねぎらいつつ、明るい声が響いている。
そのときだった。
何処かで轟音が鳴り響き、俄に洞窟が振動する…!
「何事だッ!?」
そこへ、血相を変えた諏訪子と早苗が戻ってくる。
「お前ら!
ワールウインドの野郎は何処だッ!!」
その真剣な表情に、キバガミも何か覚った様子だ。
そして、すぐに思い返す。
何故かこの宴に参加していない、二人の存在を。
キバガミは表情を改めて立ち上がる。
「誰か!
旅人殿と巫女殿を見た者は居るかッ!?」
どよめきながら、俄に色を失ってお互いを見合わせる面々。
そして、外に続く道から人影が現れる…!
「き、キバガミ殿ッ…一大事ですッ!
旅人殿が巨人の心臓を持ち…この洞窟から…巫女殿も一緒です!」
よろめきながら現れ、残った力を振り絞るかのようにイクサビトの男が叫び、倒れた。
その周辺には、その傷ついた体躯から流れ出る血だまりが広がっていく…!
「おっちゃんが…!?
どういうことだよ…一体なんで!!」
「話はあとだッ!
者ども、旅人殿を追え!
巫女殿と心臓を取り戻すのだ!」
その号令に、それまでの酔いも忘れたかのごとくイクサビト達は立ち上がり、屈強な冒険者たちもそれに続いていく。
…
早苗とキバガミはすぐにそのイクサビトを介抱し、さらに詳しい事情を聞き出す。
その話によれば、何処か思いつめた表情のシウアンを伴い、外へ出ようとするワールウインドを、彼が見咎めて引きとめたのだという。
当初、大人しく従う素振りを見せたワールウインドだったが、シウアンが「心臓」を手にしたのを見出したやいなや、ワールウインドは見たこともない巨大な剣の如き武器を抜き放って彼を切り飛ばしたのだと。
「お…恐ろしい武器だった…!
弩の引き金…鉄でできたそれを引いて斬りつけられた瞬間…わけも解らぬうちに…ううっ!」
「もう喋っては駄目!
傷は浅くないんですから…!」
治療を続ける早苗の傍らで、険しい表情で諏訪子は吐き出すように言い捨てる。
「引き金を引いて、これかよ。
明らかにガンブレードどころの代物じゃねえ…まるでこれは、榴弾の直撃だ。
イクサビトって頑丈なんだな…人間だったらひとたまりもねえぞこんなの…!」
「それに、さっきの音。
仮に、私達が戦っている近くで使ってた奴がいたとすれば、気づかない筈はないと思うけど」
「どうだかな…あのどさくさで、祭壇をぶっ壊さない程度に出力調整できるならわからん…!」
ほむらも同じ疑いを持ち続けていた。
それ故に、二人の間の意思疎通は既にできている状態だった。
わけがわからない穣子とミスティア、キバガミは困惑を隠せない。
「そんな…一体なんだってこんなこと…!」
「理由は分かんねえよ。
その為にも、あの胡散臭いのふん捕まえるしかねえだろ!」
諏訪子は先の冒険者たちと同じように外へ駆けだそうとする。
「待たれい諏訪子殿、拙者も参るぞ!
旅人殿から理由を聞かないことには納得がゆかぬ!
それに、戦になるやもしれんぞ!!」
「彼の治療は私が。
キバガミさん、お願いします!」
「心得た!
その者を頼みましたぞ、早苗殿!」
「あ…えーっと…待てー私も行くー!!><」
先に諏訪子、ついでキバガミと駆け出していくのに、慌てて穣子達も追って里を飛び出していった。
…
それからしばらくのち、穣子達は重い表情と足取りで辺境伯のもとを訪れていた。
そこには、あれから同行を申し出ているキバガミの姿もある。
辺境伯はキバガミの異形と巨躯に僅かに驚きの色を見せるが、すぐに礼を持って彼を迎え、キバガミもそれに応えるかのように、イクサビトの病という危機の解決を、狐尾を始めとした多くの冒険者たちの手によって成し遂げられた旨を伝えた。
辺境伯は我が事のようにそれを喜び、その中心となってホムラミズチを討った狐尾の面々の労をねぎらうが…辺境伯は鷹揚に見えて愚鈍ではない。
すぐに彼女らの表情が重い事に、何か重大な事件が今も進行している事を悟り、誰何する。
そのあらましを告げられた辺境伯は、珍しくも狼狽している様子であった。
「シウアン殿を誘拐? ワールウインドが?
しかも追いかけていった先に帝国を名乗る艦隊が?…ふふ、冗談が過ぎるぞ諸君。
私がそういう冗談が嫌いだという事は、以前諸君らが水源の位置を誤って報告して来たときに言ったではないか」
そうやって、彼女らを気遣ってか軽口で笑いを紛らわせようとする辺境伯。
だが、険しい表情で口を閉ざしたままの諏訪子に、改めて事態が急を要するものであることを悟ったようだ。
「済まない、だが…私には信じられぬ…!
彼が何故、巫女殿を連れ去るような暴挙に出たかはわからぬが…この問題、放っておいていい話ではない。
ウロビト達もさぞや心を痛めるであろう…この話、ウーファン殿には?」
「一応話はしてきたんだ…勿論、あいつあの通りの性格だから、もう周りの連中も引きとめるので精一杯で…!
一緒に洞窟に言った連中が取り成してくれたから、ワールウインドを信用してたからってこっちにまでは乗り込んで来ないとは思うけど」
穣子もすっかり悄然とした様子で、重い口を開く。
「そうか…だが、そうしてくれた方がどれほど私の気が楽なことか。
私の信頼していた者が犯した罪は、私の罪も同然だ。
それで、帝国とやらはなんと?」
「辺境伯を招き、会見を行いたいと。
帝国とこの地に住まう者たちとの平和の為、そう言っていました」
「うむ、平和的に解決を望めるのであれば、それに越したことはない。
ならば…諸君に私の護衛を依頼したい。
あまたの迷宮を踏破してきた諸君らがついていてくれるのであれば、これほど心強い話はない!」
「なれば、僭越ながら拙者もその供に加えて頂きたい!
巫女殿が帝国と申す輩の虜となったのは、拙者にも一因がある…その失態を、償わせて頂きたく…!」
キバガミが進め出て、そう宣言する。
「キバガミ…いいの?
あんた達だってまだ大変な時なのに」
「何を言う穣子殿。
拙者達はお主らよりどれだけの恩を受けたか、筆舌に尽くしがたいものがある。
我らが創造主より頂いた言葉に「報恩報復」と言うモノがある、我らの理念を端的に現すものだ」
「おお…まだ里が大変な状態であるにも関わらずその申し出、感謝いたしますキバガミ殿!
なれば諸君、便宜上『
諸君らにこれほどの豪傑が加われば、この先も心強かろう」
「そうだね…こんなバタバタしてるタイミングでアレだけど」
「これからもよろしくね、キバガミさん!」
「かたじけない…拙者の骨の一片まで、お主らの力になろうぞ!」
キバガミと互いに手を取り合う少女達の姿に、辺境伯は鷹揚に頷く。
程なくして、使いなれたと思われる旅装に身を包んだ辺境伯と、装備を整えて戻ってきた狐尾一行は、何故かこの話に興味を得て同行を願い出た交易場の港長を加えてタルシスを飛び立っていった。
…
…
かごめ「いやあ、イッキですねイッキ」
静葉「ここまで駄文で引っ張っておいて攻略にはカケラも絡んでないなんてひどいわね。
まあ、実際にこの辺りゲーム的にはイベント進行ではあるんだけど」
かごめ「それに、ワールウインドの
静葉「オランピアという前例ですね解ります。
もっともオランピア同様、割と何処かしらでなんかしそうな伏線は一杯あった気はするんだけどね」
かごめ「初登場でも結構意味深なイベントあったしね、なんかこいつはあるだろうっていう気配がありありと。
世界樹はストーリー構成そのものはわりと素直な展開だから、あまり気にされてはいないだろうけど」
静葉「その分攻略部分がぶっ飛んでるからあまり誰も気にしないのかしら。
悪く言えばスノッブ臭い展開多いけど、裏返せば突飛なストーリー展開ないから安心してツッコめる気はするわね」
かごめ「FFなんかY、Z以降は無駄に一点二転三転してワッケ解んなくなるしなあ。
引き合いに出てきた[なんて本当に誰得としか思えないほど複雑怪奇で」
静葉「その意味でも世界樹はマジでぶれないわね。
RPGはかくあるべき、無駄に煩雑な人間トレンディドラマなんていらないのよ(キリッ」
かごめ「攻略後はウロビトの時同様、イクサビトの師範が2回だけレベルを35まで上げてくれる特典が付きますがね。
まあこれ多分二周目をネタ進行しない限りはあまり関係ないかも」
静葉「準備は進めてるのよね?」
かごめ「まあね。
と言うわけで今回はここまで。
もう少しだけネタが絡んで次回からは第四大地やね」
…
…
帝国の指定してきた小迷宮・南聖堂の奥では、帝国側の代表である皇子バルドゥールと辺境伯の会談が続いている。
その部屋の外で対面する互いの衛士…イクサビトの猛将キバガミを加えた“狐尾”の面々と、仰々しい甲冑に身を包んだ帝国兵…そして、それを率いるのはローゲルと言う男だった。
その帝国騎士ローゲル卿は、髪型や容姿を整えているが…紛れもなく彼女たちが「ワールウインド」と呼んでいた、その人物だった。
「おっちゃん…どうしてなんだよ…!」
戦慄くような穣子の言葉にも、ローゲルは応えない。
「あんたはずっと…私達を、辺境伯のおっちゃんも…みんなだましてたってのかよ…!」
早苗の制止も振りきり、顔を徐々に紅潮させながら穣子は目の前に立つ騎士へ近づく。
帝国兵たちがその間に立とうとするが…ローゲルは手でそれを制する。
「なんとか言えよ、ワールウインド!!」
「そうだよ!
それにシウアンはどうしたんだよ!
あの子に一体何をしたんだよッ!!」
同じようにミスティアも声を荒げて続いた。
かつて「ワールウインド」と呼ばれたその男が合図をすると、帝国兵たちはその行動を訝しがりつつも、部隊長と思しき者が一礼して他の兵士と共に退出していく。
場には7人だけが取り残されていた。
暫しの沈黙の後、騎士はようやくその重い口を開く…。
「巫女は…シウアンは無事だ。
現在は貴賓として、ある場所にお招きしている。
君等の怒り、疑問は当然だろうな。
俺は君たち全員を裏切ったのだから」
淡々と告げるローゲル。
無表情のように見えたが、その言葉も、その目の奥の光も…底知れぬ悲しみの色がある。
少女達は、ウロビトと心を通わせたあの日に聞いた、目の前の男の言葉を思い出していた。
その後、淡々とローゲルの口から告げられた事実は、予想だにしていなかったものだった。
ローゲルを始めとした幾人かの騎士たちが、危険を冒してまで結界に遮られた山嶺を越えて来たのは、帝国に迫っていた危機から帝国を救う為であった事。
帝国は、ウロビトやイクサビトの伝承に伝わる、世界中の麓に住んでいた人間達の末裔であること。
彼は十年も前に、命からがらタルシスへたどり着き、一介の冒険者を装ってその地に伝わる巨人の「心臓」「心」「冠」を求め、それを入手して帝国へ持ち帰る機を狙っていた事。
そして。
「シウアンが…巨人の「心」だって…!?」
茫然とつぶやく穣子に、ローゲルは頷く。
「何故、あのような少女の姿をしていたのかは私にもわからん。
それに…初めから人間やウロビト、イクサビトに総てを打ち明け、信頼を得て協力を仰ぐこともできたかもしれない。
だが、帝国の危機は間近に迫っているのを知った私には時間がなく…成り振りなど構ってはいられなかった。
印象が悪くなることは承知の上でな」
「ワールウインド…あんたは」
「はっ、やっぱり私とレミリアの見立ての方が正しかったな。
お前みたいなのが知り合いに一人いる…自分の目的は確かに他人の為になるが、不要な血が流れるのを嫌い、全部自分で責任をぶっかぶろうとする。
誰にも理解を得ずにな」
諏訪子の言葉は棘があったが、何処か優しげでもあった。
ローゲルは一瞬呆気に取られるが、すぐに表情を戻して告げる。
「今、殿下はことを荒立てた理由と、世界樹の力の必要性を辺境伯に御説明されている。
全て終わったら心臓を返そう。
もちろん巫女…シウアンも、里に帰ってもらって構わな」
その時、ワールウインドの話を遮るように扉が大きな音を立てて開け放たれた。
そこからは、嚇怒の表情と共に憤然と退出してくる辺境伯。
辺境伯の腕に抱かれた忠犬・マルゲリータも、背後の何者かに対し唸り声を上げて怒りをあらわにする…。
少し遅れて、一人の立派な甲冑に身を包んだ少年…帝国の皇子バルドゥールが退出し、理解できない、と言わんばかりの表情で声をかける。
「理想郷を作るというこの計画が理解できぬと申すか、辺境伯。
そなたも執政者ならば何がタルシスに最も益があるか考えよ。
我らは同じ祖を持つ人間…その我らが手を取り合えず何とする?」
「ふ…ざけるなああっ!
その為に巫女を犠牲にし、ウロビトやイクサビトを手にかけろと言うのか!
私には考えられない…屍の上に築かれた理想郷にどんな価値がある!
それが人の上に立つ者の言うべきことかあッ!!」
聖堂を振るわせるほどの辺境伯の怒声に、顔色を変えたのは狐尾の面々とキバガミばかりではなかった。
それに気付いたのは、恐らくは諏訪子だけ。