~小迷宮 南の聖堂~


その言葉に顔色を変えたのは、穣子達ばかりではなかった。

諏訪子ははっきりと見ていたのだ…ローゲルもまた、はっきりと狼狽の色を見せた。
正確にはそう言っていいのかは解らないが、バルドゥールの言葉は明らかに彼の思惑外の事である事を、諏訪子は確信した。

その表情を一瞥すらすることなく、バルドゥールは辺境伯を睥睨する。
その瞳には何の慈悲も感情もない。



「貴公にはより詳しい説明が必要と見える。
このまま帰すわけにはゆかぬな…ローゲル、辺境伯をお引き留めせよ。
その護衛は…お前の判断に任せる


主命が下り、困惑の色を表情に浮かべるローゲルは…不安と困惑の混ざった瞳で見つめる穣子、ミスティアの姿に一瞬、躊躇いを見せる。
が、彼は背にしていた巨大な剣の如き武器を構える!

「ワールウインド…!」
俺は…否、私は帝国騎士ローゲル。
辺境伯殿、殿下の命により、このままお帰りいただくわけにはいかなくなった…君らも邪魔立てするなら、容赦はせん!」

ゆっくりと間合いを詰めるローゲル。
カチリ、と言うスイッチ音がして、その刀身から機械の駆動音と振動が生じ始める…!

ほむらは戦慄する。
彼女はそれが、複雑な機構を有する…例えるならば、剣の形状を取った戦車砲とも言うべき武器であることを理解した。
先のイクサビトが、肋骨を粉砕寸前にされるほどの大怪我を負った状況から、その恐るべき威力も。

「なんでなんだよ、ローゲル!
あんたは…あんたはそこのボンボンと違って、そんなこと思っちゃいないんだろう!
盲信的に命令に従うだけなら人形でもできるッ!!


その声は、意外な所から発せられていた。
悲痛な表情の諏訪子に、ローゲルは一瞬だけ目を閉じ…剋目するとともにその巨大剣を構えて突っ込んでくる!

その切っ先は真っ直ぐ早苗を狙うが、諏訪子の構えた盾に受け止められている!!
彼女も予想していただろう、その恐るべき破壊衝撃に歯を食いしばりつつ…彼女は絞り出すように。

「諏訪子様…!」
そうかよ……それがあんたの答えか、ローゲル…!

穣子とミスティア、キバガミすらも微動だにしないその異様な膠着状態に、ほむらがローゲルの方へ向けて一矢射る…が、それを察知したローゲルは横薙ぎの反動で間合いを取り、バルドゥールの傍に立つ。

「ローゲル、何の心算だ」
殿下、恐れながらここで我々が争うことに利はありません。
万が一ということもあります故」
「解った。
貴公の言葉に従おう、計画に支障が生じても困る

隣室に侍していた帝国兵たちが部屋になだれ込み、穣子達は戸惑いながらも辺境伯を護るように円陣を組む…が、兵達に守られバルドゥールが退出していく。
その最後尾についていたローゲルは、僅かに悲しそうな表情を見せながら、冷酷な表情で告げた。


悪いが状況が変わった…今、君たちに語るべき言葉を私は持ち合わせていない。
だが…巫女の身を案じるなら来るがいい、木偶ノ文庫へ。
君たちが正しいと思うなら我々を止めてみろ…次に会うときは、「俺」も全力で相手になる




-狐尾幻想樹海紀行2-
その12 「絆と愛は金よりも強く」




かごめ「どうもかごめさんです。
   やっとというか、久々にというか…ちょっとゲーム進行に関わるネタができそうです」
静葉「本当にこれどのくらいログの成分残ってるのかしらね
かごめ「もう許してやってくれ…(´・ω・`)」

かごめ「世界樹に関わる多くの謎が明かされ、いよいよ物語は最終局面を迎えつつありますが」
静葉「いきなりここでイベント戦が起きて、うわあセーブしてねえどうしよう、みたいな感じでむしろ狐はそっちで狼狽を隠せなかった様子で」
かごめ「前もってwikiでローゲルの技パターンとか知ってると猶の事だしな。
   だがここは本当に完全なイベント戦で、余程の事がなければhageることはあるまいが
静葉「2ターンで終わるわね。
  一応、のちに彼と戦う際に全力で使ってくる技も一応使うのよね」
かごめ「こっちはソニックレイドとラウンドソードを使われた時点で終わったけどな。
   特に気にする事もないが…ちゃっかりついてきてた港長が目敏く色々調べてやがって、気球をさらに高く飛ばす為に「黒き者の炎」が必要になるとか言ってきやがんのさ
静葉「黒き者の炎ってスルトのことよね。
  バルドゥールはオーディンの長子バルドルだろうし、今回の軸は北欧神話かしら」
かごめ「皇帝の名前も出てただろ。
   実はアルフォズルはオーディンの別名で、ローゲルもロキの異称だ
静葉「えっそうなの?」
かごめ「世界樹の巨人とかその辺りもどうやら北欧神話の関連なんだろうな。
   しかしロキはバルドルを殺害して神々の黄昏(ラグナロク)の原因を作った下手人なんだがなあ」
静葉「そこはまあいいんじゃないかしら。
  とりあえず、聖堂のすぐ近くに磁軸と、炎が手に入る「風止まぬ書庫」があるわけでして、そこに行くことになるんだけど」
かごめ「文大喜びだろうな。
   大真面目に書庫内は嫌がらせかっつーほど強制移動させられる勢いの風がだね」

文「おお、パンチラパンチラ(きめぇ顔
かごめ(天狗に向けて無表情でマシンガン乱射

静葉「そういう馬鹿な事はやってないでいいから。
  聖堂は聖堂で全くやる事がなくなったわけじゃないけど…まあクエストだしあとでちょっと触れればいいかしら」
かごめ「あ、それはちょっと語ろう。
   今回の会談の件といい、そのクエストといい、もうどんだけあの辺境伯のおっさんいい人なのかと」
静葉「見た目如何にもな感じの黒幕系悪人なのにねえ。
  あの辺境伯は格好いいわね、本当に」








「つーことだ。
巫女が幽閉されている「木偶ノ文庫」へ入る大前提条件として、結界への侵入を阻む役目を兼ねた大水道、アレを越える為の浮力が必要になる。
それを可能にするには、「風止まぬ書庫」の暴風に育まれた魔法の炎「黒き者の炎」が必要になる…藍夜の破片のガスにある種のガスを混入した気体でこの炎を維持すれば、可能だ


港長の報告を受け、辺境伯から正式に「巫女奪還作戦」というミッションが下され、その第一段階として「風止まぬ書庫」へ向かうことになった一行だが、その準備を整え宿で休息をとる穣子は、その夜辺境伯の召喚を受けて統治院にいた。
穣子は誰にも話していないつもりでいたが、統治院の門前に見慣れた祟神の少女と、牛面の壮士が立っている事に気がついて、俄に顔をしかめる。

「ったく、このドアホめ。
夕食ン時からこそこそこそこそとしてたと思ったら」
「うぐっ…なんでわかったのよ」
「ミスティアが、あんたに事付けたって言う兵士に帰り道で会ったんだとよ。
まあ大した用事じゃないとは言ってたが、お前が話をこじらせても面白くはねえからな。
キバガミは知らんが」

そう言って、腕組みをして立つキバガミに目をやる。

「恐らくは、拙者の用事とは異なるだろう。
拙者は、一度里に戻り…このタルシスを護る同志を募って護衛に回ろうと思う。
それを辺境伯殿に提言しようと思ってな


そう言って、キバガミは溜息を吐く。

「お主らと共に闘うと言った手前、臆病風に吹かれたかと見損なわれるかもしれぬ。
しかし、この先の戦いで、今の拙者の力では力不足になる。
ただ防衛に回るのではなく、折を見て鍛錬し、己を見つめ倒したいと思う」
「そか、だったら全く別れ別れになるんじゃないんだね。
いいよ、あんたはあんたの好きなようにやって…その代わり、もしこの件が片付いたら…私達の世界に来てさ、一緒にバトルしようよ!
私のお姉ちゃんや友達と、自分たちの力を競い合わせるんだ。
殆ど、お祭りみたいなものだけど」

キバガミは一瞬目を丸くする…が、微笑んで頷く。

「有難い…こちらこそ、よろしく頼みますぞ!」

にぱっと満足そうにほほ笑むと、苦笑する諏訪子とキバガミを伴い穣子は統治院へと入っていく…。



キバガミの申し出を快諾し、退出していく彼を見送って…辺境伯はばつの悪そうな顔でふたりに語り始めた。

「折り入って…諸君に野暮用を頼みたいのだ。
時間がないのに私事を任せるのは心苦しくはある…シウアン殿の件を考えればこのような悠長なことをしては居れぬのだが」
「いいよ、そのくらい。
どの道目的のモノを手に入れたら、準備にはまたいくらか時間はかかるんだし」

諏訪子が小突くのを一瞥もせず穣子は払いのけて応える。

「済まぬ…穣子君。
用と言うのは他でもない、先日訪れた会見の場に…私の宝と言うべきカフスボタンを落としてきてしまったのだ。
それを、帰りのついででいい…探してきて欲しい

「カフスボタン?」

穣子はちらと、袖口の辺りを見る。
成程、その片側は止まってはおらず、完全に口が広がっているようだった。
反対側には年季物の、ペアと思しき大き目のボタンが止まっており…そのくらいの大きさのモノなら、転がっていればすぐにわかるだろう。

しかし、使いこまれただろうそのボタンは、洗練されたデザインである事ももちろんだが、念入りに手入れされているものの、そんなに値打ちがあるようには思えなかった。
そのようなモノを失くしたからと言って、辺境伯の表情がどこか悲しそうな理由が解らなかったが…恐らく、彼にとってそれだけではない、何か特別な理由があるのかもしれない…穣子は、そう直感した。


「解った!
そのボタン、探してくればいいんだよね!」
「お、おお…有難い!
とても金に換えられる品物ではないが、持ち帰ってもらえたのであれば礼は惜しまぬ、頼むぞ!」

何度も穣子の手を押し抱いて喜色を露わにする辺境伯。
その後ろでは渋い顔の諏訪子が額を抑えていたが、穣子は全く意に介することはなかった。



「黒き者の炎」は、それこそ拍子抜けするくらい簡単に手に入った。

書庫内の暴風は、そのすぐ近くに渦を巻く乱気流によるもので、その風のない場所には帝国の軍船が陣取っていたが…霊峰探索の際に取り付けられた魔法の像のお陰で、突風の中から侵入することが可能だった事もあり、なんの妨害もなく侵入し、風に煩わされながらもなんとか最深部に燃えていた魔法の炎を入手できた。
そこには帝国兵…恐らくはローゲル子飼いの者であろうが…それが立ちはだかっていたものの、その意図は解らずともローゲルが彼女らに託すよう告げたのだと、なんの抵抗もなくその炎を手にすることができた。

「貴様等は本当に、我々の計画を阻止するつもりか?
十年前のあの日…ローゲル卿と共に越えられた騎士と共に、臣民ばかりに苦労はかけさせぬと、皇帝陛下も行かれたのだ。
今や行方も知れぬ陛下になり変わり、殿下はこの困難な事業を成し遂げようとしておられる。
我ら帝国の、その末端の民に至るまでの期待を背負われ、望んで荊棘の道を歩まれる殿下だからこそ、我らも喜んで命を擲てるのだ」
「それは、本当にローゲルの望んだ事なのかよッ…?」

諏訪子のその言葉に、帝国兵は僅かに沈黙し、逡巡しているようだ。
やがて、再び言葉を紡ぐ。

「ローゲル卿が、あの結界を越えての十年、何を見てこられたのかは私にはわからぬ。
だが…かの方はあの後、凄まじい剣幕で近侍の者に迫っておられたよ。
いったい殿下に何をした…とな


その言葉に、穣子とミスティアは顔を見合わせる。

「あの方にとって何が正しいのかは、伺い知れぬ事。
とはいえ、ローゲル卿は私達にとっても誇るべき大騎士。
私に言えるのは、それだけだ

故に、貴君らに敢えてこの炎を託す…貴君らが己の正義を信ずるのであれば、それもまたローゲル卿が望まれたことなのだろう」

それだけ言い残し、その兵士は去っていく。
それと共に、書庫の傍に止まっていた軍艦も、何時の間にか消え去っていた。



釈然としない気持ちのまま、書庫へ戻ってきた穣子達を待ち受けていたのは…思ってもみない事態だった。

「ぐぬぬ…!」

先刻の兵士とのやり取りで受けたもやもやもどこへやら、バルドゥールと辺境伯が会談をしていたその小部屋にふわふわと所在なく浮かぶカフスボタンを睨めつけ、いらだちを隠せない穣子…と諏訪子。

「おいほむら、あれ間違いなく樹海にいたカメレオン系のなんかだろ。
足元ぶち抜いてそこの床に縫いつけろ、ズタズタにするから

こめかみに青筋すら浮かべる諏訪子の、もうまるっきり怒り心頭と言った表情には流石のほむらも苦笑いを隠せずにいた。
関係のない事ではあるかも知れないが、岩窟での経験を通じて、ほむらは随分とその表情も柔らかく、かつ多様な表情を見せるようになっていた。
相変わらず言葉はたどたどしくはあったが、この旅を通じてもっとも顕著な変化が出たのは間違いなく彼女であろう。

「ごめん、無理よ。
あいつらはまだ影を隠しきれないぐらい、隠れ方が甘かった。
でも、流石にこいつらは…あのカメレオンほど甘くはないみたいだわ」

申し訳なさそうにつぶやくほむらに、諏訪子はいら立ちを隠せないように勢いよく頭を振る。

「あー、くっそー!
何時の間にかこの書庫内にも魔物が蔓延っていやがるし、そいつらにかまけてたら何度やっても見失っちまう!
その都度ここに来ればまた居やがるしな!

ぜってーこいつらチョーシに乗ってやがるだろマジで!」
「残念ながら私達の怒りはとっくに有頂天よ。
シウアンには悪いけど、こいつらを私自らの手で八つ裂きにしてやらないと気が済まねえ…!」

怒りがオーラとして見えそうな勢いの二柱を嘲笑うかのように、カフスボタンは少女達の周囲をゆっくりと一周、二周して、同じように部屋の外へとゆっくり飛んでゆく。

「「待ちやがれー!!!」」

そしてそれを同じように真っ赤な顔で追いかけていく諏訪子と穣子。
早苗達も呆れる他なかった。

「ああもうあの方々は…」
「でもさー早苗ぇー、私思ったんだけど…あいつらを見失うたび、あいつらどうやってこの部屋に戻って来てるのかなあ?
私達が魔物を相手にしているスキを突いたにしても、結構狭い通路で魔物とはち合わせたりしたし
「…そういえば」

ミスティアの指摘に、早苗も小首をかしげる。
この聖堂は丁度すり鉢状に、会見が行われた小部屋と入り口をぐるりと囲む構造だ。
何度か回ってみたが、行き止まりになっている区画の先には、会見部屋がある事はほぼ間違いないだろう。
そして、ボタンを持ち去っている謎の存在は、必ずこの小部屋に戻っている。

もしかしたら、抜け道か何かがあるのかしら?
ミスティア、ほむらちゃん、ちょっと手分けして探してみようよ。
もしかしたら、諏訪子様に穣子さんと挟み撃ちにできるかも」

その提言に頷く二人。

果たして…探す事数分、その一角に明らかに不自然な本棚のスキマを見出し…穣子と諏訪子のヒステリックな怒号に追われるようにしてカフスボタンが逃げてくるのを見出した。
ボタンがスキマを通り、びくっと身を震わせるように停止する。

「残念賞。
さあ、それを返してもらいましょうか。
事情は知らないけど…辺境伯さんの大切なモノですからね!」

勝ち誇ったような早苗と、同じような表情で魔装を解放して構えるミスティア、そして威嚇するかのように矢を番えるほむら。
そこへ穣子の怒号も響く。

うぎいいいいいいい行き止まりだとおおおおおおおおお!!?
うぉのれひきょうものおおおおお姿を見せろおおおおおおおおお!!!><

「穣子さん!諏訪子様!
その辺りに抜け道がある筈です!
お二人なら通れますよ!!」
「∑( ̄□ ̄;)うええっ早苗ぇ!?
あんたなんでそんなところに」
「穣子、ここだっ!
多分ここを通れってことだよ!!」

本棚のスキマからもぞもぞと這い出してきた諏訪子と穣子も、同じように肩で荒く息を吐きつつ、カフスボタンを取り囲んで各々の獲物を構える。

「よーくもコケにしてくれやがったなああ!
あんたは幻想郷で最も敵に回しちゃいけない神々の怒りに触れたッ!
もう謝っても赦しちゃおけねえ八つ裂きだああ!!m9( ゚д゚ )

ひと思いに死んだ方がマシだったと思う様な目に合わせてやる!
覚悟しな!!m9( ゚д゚ )


逡巡するように所在なく浮いていたカフスボタンだったが、やがて観念したかのようにそのまま、カツーンと音を立ててミスティアの足元に転がってきた。
彼女がそれを拾おうとしたその瞬間。

「あぶねえッ!!」

諏訪子が素早く回り込み、ミスティアを突き飛ばした刹那、その盾に凄まじい衝撃が走る。
追い込まれたことでこっちらも気分を害したのだろう、怒りに染まる目の真っ蒼な巨大カメレオンが、ウサ晴らしに攻撃を仕掛けてきたのだ。
その怒りの咆哮に応じて、部屋の周囲に隠れていた気味の悪い色のカメレオン達が、少女達を威嚇する。

怒りを露わにするかの如く明滅するカメレオン達に、諏訪子はこちらも怒り心頭の表情で忌々しげに吐き捨てた。

「ケッ、爬虫類の分際でこの私達に喧嘩を売るか。
上等だ!てめえらこそ絶滅させてやる!!」





「おお…これはまさしく…!
よく、よく見つけ出してくれた…君たちにはいくら感謝しても言葉が足りん…!」

穣子から件の品を受け取り、辺境伯は感謝の言葉と共にその品を大切そうに胸に押し抱く。

カメレオン達はお得意の吹雪攻撃で抵抗してきたが、諏訪子の張った「結界」によりその攻撃を遮られた挙句、さらにはあべこべに吹雪に対して弱くなったがために穣子のリンクフリーズと、ミスティアの超連続攻撃と言う凄まじいコンビネーションの為に、瞬く間に物言わぬ骸となった。
彼らの常套手段である透明化も、怒りで我を忘れていた彼らには完璧に行えず、早苗の「陣」とほむらの影縫い(レッグスナイプ)で次々と無力化され、その端から穣子とミスティアの放つ刃の雨でナマス斬りにされていった。
その為、事が済んだ時には爬虫類の粘液と血で、会見場所が凄まじい悪臭に包まれたほどで、溜飲を下げた穣子達も流石に苦笑せざるを得なかった。

そして爬虫類の猛攻をかいくぐりながらもミスティアはしっかりとカフスボタンを奪還し、護り抜いていた。
帰りの気球の中で、彼女は興味深げにそれを吟味し…辺境伯がこの品を取り戻したがった理由を、皆が知ることとなった。

カフスボタンの裏側には、こう彫られていたのだ。
『わが夫へ…永遠の愛を』と。

「失礼ですが辺境伯、もしかしてその品は」

早苗は僅かにばつが悪そうに、その予想を確信とすべく問いかける。
俯いたまま、辺境伯は頷いた。

「これは…今は亡き我が妻が、結婚記念日に贈ってくれたものなのだ。
確かに、金銭的な価値があるモノではない…だが、妻が私に贈ってくれた、最後の品なのだ
「そか。
やっぱり、お金には換えられないくらい、大切なモノだったんだね

穣子の言葉に、うむ、と頷く辺境伯。

「私は確かに金持ちではある。
だが…失った最愛の存在は取り戻せぬ。
幾ら大金を積もうとも、買い戻せぬ物がこの世にはあるのだよ



「良かったね、辺境伯のおじさん」

辺境伯が秘蔵の品としていた、稀少な法典ふたつを手にしての帰り道、しみじみとミスティアがつぶやく。
君たちの功績には足りぬくらいだが、と、追加で何かの報酬を探す辺境伯に辞退の旨を告げたが、その法典のみ辺境伯の勢いに押されて宛がわれたのだ。
穣子も満面の笑顔で頷く。

「うん。
あの表情を見たら、取り返せて本当によかったって思えるね」
「オメェ半分くらい目的忘れて暴れてただけだろが。
私も言えた義理じゃねえが」

柄の長い棍の先に、もうひとつの戦利品でもある、哀れなカメレオン達からはぎ取られた魔力を持つ皮を何枚もぶら下げた諏訪子が、呆れたように呟く。

「うっさいわねー。
つかそんな皮が一体何の役に立つってのよ、さっきから生臭くてしょうがないんですけどー?」
「解ってねえなあ、この皮結構丈夫だぞ。
もうあんた達の鎧もボロが出てきてるだろ、工房の親父さんに頼めばいい皮鎧を仕立ててくれるかもしれねえし」
「えーこんなの着るのかよー? なんかちょっとやだなー」
「何ぬかす、テメーが今使ってるのも霊峰の蝙蝠どもからはぎ取った皮で出来てるってこと忘れてるだろ」

軽口をたたき合う二柱を追いながら、三人の少女達が顔を見合せて笑う。
それはきっと、これからの過酷な戦いの連続を前にした、ささやかな平和の光景だったのかもしれない。


そして、誰もがそれを想っていた。
辺境伯の言った「いくら大金を積もうとも、取り戻せぬモノがある」という言葉を。
れが…この先に起こりうる、なにか悲しい別れを予感させる言葉ではないのかと。


気球が新たな装備を積んでより高空を飛翔できるようになり、これまで彼女らと交易を繰り返してきた知己である聖騎士キルヨネン、冒険者ウィラフの陽動による「木偶ノ文庫」急襲作戦のミッションが下ったのは、それから三日後の事。
その間にも、タルシス近郊の廃鉱で凶暴化した狒狒の討伐にも彼女らは関わっていたが…それはまた別の物語。








かごめ「今回はメインをクエスト「辺境伯の落とし物」にしてみました」
静葉「重ね重ね、辺境伯マジでいい人過ぎるわよね。
  ちょっとあとの話になるけど、最終ミッション発動の時の台詞も地味に格好いいわ。
  今の日本の政治家や経営者で、この人みたいに有言実行できる人なんてどれだけいるのかしら」
かごめ「それはまあいいや、胸糞歩悪くなるだけだ。
   カフスボタンは会見部屋から何かによって持ち去られるんだけど、こいつを追い掛けて建物内を反時計回りに一周することになる。
   その間に敵と闘ったり、寄り道したりで時間を食い過ぎるとまた最初からやり直しと」
静葉「SAN値と言うかストレスで胃壁の寿命がマッハになるいやらしいイベントよね。
  会見が終わると、南の聖堂には魔物はもとより、2歩に1回しか姿を見せないFOE・忍び寄る影も出現するからかなりシビアだし」
かごめ「そいつも基本がカメレオンなんだが、まあ放っておくと全体アイシクルのブリザードで一瞬のうちにhageる。
   ここのクエストを受けるなら、予め4匹いるこいつを全部狩っちまうのもひとつの手だな。
   七香銀アユか煮頃銀ブナ、あるいは雲上竜鯉なんかを予め食べておいて、その上で氷の護りを装備、さらに聖印かミストでブリザードをシャットアウトして、あとは透明カウンター+混乱の凶罠に注意して叩き殺してやればいい」
静葉「こいつのドロップ品から作れる軽鎧は、蝙蝠のそれの単純なアッパーバージョンだから、やっぱり狐野郎はそれで第四迷宮をもまかり通したわね
かごめ「このゲームで素早さアップは神だよ(キリッ
   このクエストで戦えるっつーか、戦うことになる極彩を統べる者も基本はカメレオン、攻略は忍び寄る影の延長線上にあると思っていい。
   全体に毒をばら撒く毒の唾液、カウンターの氷柱の牢獄、全体物理ダメージ低下の舐め回しも非常にウザイが…まあ、大体ミスティアがどうにかしてくれるし」
静葉「えっそんなんでいいのクエボスなのに」
かごめ「あと極彩の従者とか言うカメレオンも呼んで自分は後列に下がるというナメタ真似もしやがるけど、聖印で氷弱点にしてリンクプラスからチェイス・トリックでガリガリリンクさせまくるればおおよそ1ターンで始末し切れる。
   そうなったら脚を封じてやって袋叩きにする。以上」

かごめ「あともうひとつ…一応第三迷宮の迷宮ボス攻略前に受注できるクエスト「狒狒を統べる者」。
   はっきり言うがこのクエボス・剛腕の狒狒王は下手すれば弱体前ホムラミズチよりも強いから、まあ文庫の最下階に行く前に腕試しとして受けるくらいでいいと思う」
静葉「単純に攻撃力も高いけど、何より厄いのはヒーラーボールを呼びつけての二連続砲丸投げよね。
  無印SQのケルヌンノスを知ってればタダのサポーターだとしか思わないでしょあんなの。
  全体壊ダメージでHP吸収とか…なにそのイソギンチャク」
かごめ「あたしはそのケルヌンノスとか言うヤツ知らんからなんともいえんが、それ込みの罠なんだろ知らんけど。
   壊属性技ばっかりだから、文庫のプロトボーグから謎の破片を掻き集めまくって、壊撃の護りを用意した方が無難かもな。
   羅刹フランクショットとかでヒーラーボールを呼ばれるたびに始末できるなら、残りで本体に攻撃集中させまくってさっさと片付けるのも一つの手だが」
静葉「範囲攻撃なのがきついけど、対策できるんだったらそこまで怖くもないのよね」




かごめ「最後に文庫絡みのクエストから。
   文庫のB2F、西側にある通路の奥に生えている釣鐘草を取ってくるのが目的なんだけど」
静葉「孔雀亭のママさんが言ってたわね、釣鐘草には妖精が住むって伝承がある、とか。
  チルノだの三月精だの見てると、とてもそんな可愛らしいモノには思えないけど
かごめ「もう放っておいてやれよ。
   これでまたベルンド工房の娘株が上がる露骨な罠だよな。
   実は地味に、最終専用武器でも突飛な値段がするのは隠しボスドロップからできる武器くらいなもので、あとは10万エンくらいで揃えられるらしい」
静葉「歴代最安値かも知れないわね。
  前作の天羽々斬とかいくらすると思ってるのよ」
かごめ「今回の羽々斬はそれでも17万エンくらいするけどな…まあでも、大地採集アイテムの存在を考えるとかなり良心的な値段だとは思う。
   今回素材さえあれば鍛冶にかかる金額もロハだし、その辺りのリーズナブルさでも狙ってるのかもなもしかして」
静葉「ひまわり娘涙目乙ね。
  かわいいは正義、をまかり通すにも限度があるというか…むしろ細かいところまで徹底しろってことなのかしら」




かごめ「あともうひとつ、文庫の魔物調査依頼。
   この兵士もしかすると、依頼とか無関係で対象の魔物の数を水増ししてやがった気がしてならん…」
静葉「そのくらいは大目に見てやりなさいよ。
  とはいえ、討伐対象が急に出現率鈍るってのは仕様なのかしら。
  シロショウジョウとか地味に出てこないのに3匹も探す方が実際大変だったわよ」
かごめ「メタルニードルもな…2匹とか嫌がらせかよ、B2Fだと一度に1匹しか出て来ねえ挙句同席したネズミとヤマネコが汚え花火上げてきやがるし」
静葉「アレ地味に面倒くさいわよね、っていうか、普通にネズミもヤマネコも速いから、阻止できなくないアレ?」
かごめ「ダブルバーストをうまく連発で決められればなんとか…。
   あと兵士がらみと言うと、B1Fで数式の本を探して教えてやると、超貴重品アムリタⅡが3個も貰えるという非常においしいイベントが」
静葉「兵士がそんなもん見て何をしようって言うのかしら…」


かごめ「というわけで今回はここまで。
   ここからはいよいよラストまで一直線になるのかな?
   イベントに次ぐイベント、そしてSTOP!ネタバレとかいう阿呆は回れ右してイワォさんにでも喰われてろ的な展開が」
静葉「∑( ̄□ ̄;)その時点でひっどいネタバレしてますよねあなた!!
  イワォロペネレプは確かに無印知ってる人には説明不要だろうけど
かごめ「まあそんな感じで続くのぜ!!(イイ笑顔」