金竜との壮絶な戦いから一夜明けて。
帰還したかごめ達を迎えた諏訪子の眼の下にはこれ見よがしにクマができており、静葉やレティも「まるで言葉がない」という表情だった。
「てめえ…一体どの面下げて帰ってきやがった…!」
「けっ、てめえらの老婆心よりあたしの蛮勇の方が正解だったという動かぬ証拠だ。
確かに、最悪の相手だった事は確かさ。だが、固定概念にとらわれ必要以上に恐れていたら見えてこねえモノだってある。
……これでも、あたしの馬鹿に付き合ってくれた連中を誰ひとり死なせないことに専念したつもりだよ」
かごめはそのまま、険しい表情を作る諏訪子たちの脇を通り抜けて、宿の門をくぐる。
向かい合わせになって、早苗達四人と諏訪子の間に沈黙の時間が流れる。
早苗が何か言おうとしたその機先を制するかのように、先に口を開いたのは諏訪子の方だった。
「………あいつの言う通りだよな。
私もいつしか、常に自分たちの身を守る事ばかり先に考えるようになってたかもしれない。
現に、あんた達は勝って、誰ひとり欠けることなく帰ってきた。
今は…ゆっくり休んでくれ。話はあとで聞かせてくれればいい」
「諏訪子様…」
最後に見せたその表情は、安堵と、一抹の寂しさを漂わせる雰囲気だった。
彼女が如何に心配していたか、その様子を見れば容易に伺えただろう。
ひとり立ちできる力を身につけたとはいえ、諏訪子にとって早苗は愛する娘同然にして、大切な妹同然の存在である事は変わらないのだ。
「…まったく…どちらを止めるべきか迷ったわよ本当に。
それにつけても、よく無事で…しかも、あの竜を倒してくるなんてね。
今回ばかりは脱帽だわ。私ももっと力をつけて、盾としての本分に磨きをかけていかなきゃならないわね」
「言うは易し、行うは難し。けれど、かごめの言葉はそのまま現実になるかのようだわ。
今度は私が彼女と組んで、思いっきり暴れさせてもらおうかしら」
二人の表情と雰囲気が柔らかくなったのを受け、ようやく、自分達が死地から生還した事を実感する四人。
だが…彼女たちの脳裏には、あのどす黒い笑い声がまとわりついて離れない。
最強の竜達がその身をもって封じ、その状態にあってもなお、竜達をそのおぞましき気に中て狂わせた「冥闇に堕した者」。
封印から解き放たれたこの忌むべき竜を討たねば、いずれどんな災いを成すか解らない。
出来るのだろうか、自分達に。
答える者のないその問いを心に抱えたまま、少女達はつかの間の休息をとる。
-続・狐尾幻想樹海紀行2-
その8 「比翼の
諏訪子「もう私からは特に言うこたねえわ('A`)
一体今度はどう戦うつもりか解らんが、今度は私らも付き合ってやんよ。毒食わば皿までだ」
かごめ「悪ぃがあんなの前座だぞ。
いずれ弱体抜きで裏ボスも殺るつもりだから」
諏訪子「( ̄□ ̄;)いやまてまずは弱体化させるよな!?よな!?」
かごめ「つかそれ以前に第六迷宮最下層のマップ埋めてねえしな…赤獅子メイガスタッグとか一体どうするんだっつーんだ…メイガスと破滅の花びらがセットで出てきた時点ですら軽く目眩覚えるってのに…」
諏訪子「まああいつらの対処はまたボス戦とは別ベクトルだからなあ」
かごめ「というわけでここからちょっと第六迷宮の話するけど、ちょっと前に南瓜狩りモスロード狩りもして来ましてなあ」
諏訪子「あ、そう言えば早苗の持ってた杖が南瓜のドロップが素材じゃないか。
あれ緑色のだっけ?」
かごめ「んや、三頭さん。幻惑さんはヤグルシだな。
結局一番楽に狩れたのが外側にいた三頭さんだっという」
諏訪子「全属性強耐性持ってるあいつだろ?
……何気に今作は無属性の強力なスキルが一杯揃ってるからなあ」
かごめ「地味にシルバーアローも通るぞ。
もっとも、一番信頼できる火力がこいしの猛毒投刃だったんだが」
諏訪子「マスターで毒ダメージ一発700オーバーだからなあ。
あんなの第六迷宮の雑魚で耐えられる奴も稀だからな、あれはあれで狂ってるとしか言いようない。
FOE除けば精々巨大化ライデンジュウ、邪花、赤獅子くらいじゃないか、あれ一発以上耐えるの」
かごめ「大王ヤンマとかビートルロードも一発は持つよ。
あと当然っちゃ当然だが毒樹には入らねえ」
諏訪子「そりゃあそうだろうよ…まあ石化する石像だって居やがるからひょっとしたら、と思うが」
かごめ「むしろ三頭さんに笑えるほど毒があっさり入るのがな。
ガイド見ると毒耐性は普通以上くらいの筈なんだが」
諏訪子「こいしのレベルもその時点で65くらいあったろうが、南瓜はレベル74だからな。
抑制とシカのLUCが両方揃ってないとなかなかここまでうまくは入らんだろ」
かごめ「けど他の南瓜には10数発撃っても入らなかったあたり、三頭さんは毒入れやすいってのはガチだと思う。
ただ狂惑ノイズがねえ」
諏訪子「アレ無属性ダメージも一緒に入るから面倒なんてもんじゃないよな。しかも結構いいダメージ喰うし。
ついでに聞くが他の二匹はどうなん」
かごめ「勝つには勝ったけど、呪われさんに乱入される前に幻惑さん倒すとか無理だよ、その逆も。
縛りからの灼熱地獄をどう防げという」
諏訪子「聖印使えよ聖印(きっぱり
まあ、ルーミアかウーファン連れてって頭縛っちまってもいいだろうが。
幻惑の飛南瓜は回復もしてくるからその方が後腐れもあるめえ」
かごめ「炎技使って来るからと言って耐性があるわけでもなく、聖印であっさり弱点になるからな。
あと南瓜と言ったら、落としにくい事に定評のあるレアドロップ」
諏訪子「伝令杖(ケリケイオン)の材料か。
あれもしかしたら、とっとと水溶液使えってことなんじゃねえのかな。
一応ドロップ率は20%ってことになってるらしいけど」
かごめ「そもそも南瓜が数すくねえし、一度倒すと復活まで日数あるし。
20%は低い数字じゃないが、遭遇頻度を考えるとな」
面倒なら水溶液使うのが一番確実」
諏訪子「だが現状、始原一発で全員まとめて消し炭にできる火力なんてねえだろう」
かごめ「一応大鷲の紋章は作ったんだけどねえ…。
まあ南瓜の数分水溶液を用意して、各個撃破でいいんじゃないか? 赤羊だって決して稼ぎの悪い相手じゃねえし」
諏訪子「全部狩れば水溶液8つ分にはなるわな。
素材の売値が前作の倍くらいになってるのに、水溶液の値段変わんねえしな」
かごめ「というわけでだなー、実は今回ここまでがただの前座の与太話」
諏訪子「( ̄□ ̄;)うそん!?
い、いやまあ確かにとりとめのねえ話だったからこんなこったろうとは思ってたけどさ…。
確かにネタになる様な事はこの時点でやってねえしな。しつこいようだけどこの時点で「殿」B6Fのマップだって半分も埋まってねえし」
かごめ「うむ。
なので今回はなんというか、ニュアンスとしては前作で氷竜とイカ野郎の間に挟んだああいう感じで」
諏訪子「ふーん。
しかしうちのギルドも、知らん間にキバガミ達入れて20人近い大所帯になってるよな。
流石に新しいキャラなんて作ってねえだろ、そもそも30人までしか登録できねえんだs」
かごめ「いいえ? 現在23名いますよ?」
諏訪子「……………はい!?」
かごめ「キバガミ達入れて23人いる」
諏訪子「いやまてお前それ計算合わなくねえか?
おぜうとオランピアをカウントしても明らかに数あわねえし」
かごめ「その辺りいろいろ裏事情があったんじゃよ…(´・ω・`)」
諏訪子「裏事情ッつうか全部お前の悪巧みの産物じゃねえか。
とりあえずイチから作ったというなら、どう考えても冥龍に挑む気ないのを誤魔化してやってるとしか思えんのだが」
かごめ「そんなに時間はかからなかったけどなあ、3りほどまっさらな状態から作ってるけど」
諏訪子「( ̄□ ̄;)ちょおま」
かごめ「というわけでここでそのうち一人呼んで来ようか。
おい、入って来ていいぞ」
「はーい♪」
つぐみ「諏訪子さんお久しぶりですっ(ぺこり」
諏訪子「おー、つぐみじゃねえか。
なんだかごめ、なんだかんだでお前、自分の娘が可愛いと見えて今まで全ッ然関わらせなかったくせにどういう風の吹きまわしだ?」
かごめ「別にそんなこたねえよ。
狐の野郎が相変わらずこの子のキャラを掴み損ねてるから、何処でどう使おうか完全に見失ってたのが真相でな。
実はつぐみ主役でエトリア編をやる予定もあったそうな」
諏訪子「おいィ…」
かごめ「だから今回はつぐみのキャラの方向性を模索する意味でのキャラメイク話で行くことにしたらしい。
何ともこういうメタ話もあたしとしちゃ複雑な気分ではあるが」
つぐみ「本当にどうしてこうなったんだろうね('A`)」
諏訪子「そりゃあなあ…見ての通り母親がぶっ飛び過ぎてるからな。
それはそうと、つぐみ後衛型なのかコレ? その割にはなんか装備とかサブクラスとかがおかしいが」
かごめ「コンセプト実は「殴りルンマス」なんだこれ」
諏訪子「…はい!?」
かごめ「攻撃力そのものは腕力低くてもATC補正である程度カバーはできるしな。
後列に置いた状態でヴァンガ使って、属性通らなさそうな相手出てきたら殴りに行くと」
つぐみ「私防御力もHPも低いから、いきなり前列に出てっても狙われにくいだろうっていう」
諏訪子「まあ…伝統的にそういう仕様はあるわな。
それに雷特化なら魔理沙もいるが、功名のせて印術を撃っていくのか」
かごめ「単純にそう使ってもいいわけだ…っつーか、ぶっちゃけその方面でしか使ってねえ気はするがな現状。
リンクサンダー振った意味が全くねえでやんの」
諏訪子「それ本気で酷いな。なんのための殴り後衛職なんだこれ」
かごめ「あと実は今回ようやくこいつも登場させる方向で考えてはいるんだが」
諏訪子「えっさとり正式採用か?
とりあえず何処からツッコんでいいのか解らんが」
かごめ「解ってるよどう考えてもコンセプトはこいしと逆じゃねえのかって言いたいんだろ?
おまいさん、ポケモンログのキャラ設定でさとりがどうなってるかくらいは目を通してるだろ?」
諏訪子「ああ、なんか鬼と土蜘蛛の喧嘩を力づくでぶちのめして止めたとか言って書いてあったな。
こういう一見大人しそうな奴は、そのくらいしでかしそうな雰囲気はある」
かごめ「オランピアの引退補正は実はこいつに受け継がせてある。
相性がいいのはこいしの他に、コーディがいるな。相手を異常漬けにしたら、高威力のドライブで相手を蒸発させるのが主なお仕事だ。
勿論いざとなったらこいつでも異常を撒く。可能なら盲目、麻痺、睡眠くらいは高レベルで取得だけしておきたいところだが」
諏訪子「闇討までは取らんのか」
かごめ「取らん。重要なのは残滓だなむしろ。
自ら睡眠かけて、そこからドライブをぶっこんでいくだけでも十分強力だしな。
むしろ赤獅子を確実に狩っていく方向で」
諏訪子「それは重要だな…シャドウバイトでも限度はあるしな、夜賊乗ったアクセルならいけるか。
だがパラライザーで攻撃力足りんのか? 命中不安は速度ブーストでカバーするとしても」
かごめ「いざとなれば通常打撃でも異常撒けるようにしてえんだが…素直にATC振ったフォーマルハウトにしときゃいいのかなこの場合」
かごめ「というわけでここからはあたしとつぐみがやってきた悪さの紹介だ。
いずれ触れる残り二人も同じ手法でレベル上げしとる」
つぐみ「反則技だったねえ」
諏訪子「反則〜?
別に稀少化羊カマキリ狩りなんて誰でもやってるし」
かごめ「じゃあまずこれを見てもらおうか」
諏訪子「( ̄□ ̄;)!!??」
かごめ「本当はもっと早い段階で撮りゃいいんだろうがなあ。
解ってると思うが、ルンマスの瞬間火力でこんな芸当はこの段階じゃ不可能に近いぞ」
諏訪子「言われんでも解ってるわい。
一体何をやったんだこれ? 前作の分身圧縮からの一人バーストでもあれば話はまだ解らんでもないが」
かごめ「だったら次にこれを」
諏訪子「………………………あ、納得した。
なんのこたねえ、自分のギルドで瞬間火力速攻性共に高い奴をカードに登録して、そのQRコードを読み取ったのか」
かごめ「これだけの火力があれば、高空の鳥以外の大地FOEまでなら一撃で蒸発させられる。
稀少化の手間を考えれば、狙い目は自ずと決まっては来るがな」
諏訪子「石像は面倒だからねえ。
しかし経験値15万総取りか、これに羊まで加われば1時間かからずにレベル50までは行くか」
かごめ「ワニが湧いてれば60までは軽いな。
ただもうひとり、鑑定眼もちを作って登録してても良かった気はするな。金糸衣笠茸が取れなくてなあ(´・ω・`)」
諏訪子「とりあえず悪事に使ったQRもここで置いとけばいいか」
…
…
〜タルシス〜
「うーん…お母さんに引きずられてここまで来たはいいけど…とりあえずどうしよう」
街を一望できる高台のベンチで、少女が一人所在なく辺りを見回している。
ややくせっ毛の金髪と碧眼、あどけない表情のその少女のその姿は、この地方で特有の魔導師…ルーンマスターと思われる。
その彼女に、ガラの悪そうな冒険者達がにやにや笑いながら近づく。
「なんだ嬢ちゃん、待ち合わせか?」
「ヒマなら俺達が案内しながら付き合ってもいいぜ?」
「( ̄□ ̄;)えうっ!?
い、いえ私いいですから…ここで待ち合わせだって」
「いいからいいから遠慮するんじゃねえよ。
その代わり俺達の迷宮探索にも付き合ってもら…あだああっ!?」
困惑する少女の袖を無理矢理引っ張り、立ち上げさせようとした男だったが…突然背後の誰かに思い切り腕をねじあげられ悲鳴を上げる。
「…その子を熊かなんかの餌にするつもりなら黙っちゃいねえぞ。
てめえらの顔は、そういうナメタことを平気でする面だ」
「てめえ何を…って、あんたまさか!!」
仲間へ狼藉を働いた者へ怒鳴りかかろうとするもうひとりの男だったが、その顔を見て色を失う。
このタルシスで最強を謳われるギルド“狐尾”。
その首領格とも言える彼女、かごめは末端の冒険者にまであまねく知られている。
そして…現れて短期間で成した数々の伝説的な暴れぶりも。
「お母さん!」
「( ̄□ ̄;)にゃにい!?
す、すまねえ別に俺たちそんなつもりじゃねえ、ルンマスならネクタルの材料になる花さがし得意じゃねえかと思って…だ、だから見逃してくれよ」
かごめが呆れたように手を解放すると、ふたりの冒険者はそそくさとその場を立ち去っていく。
「ったく…最近本当にああいうの増えたな。
遅れてごめんな。大丈夫か、つぐみ?」
「うん…」
「ちょっとな、これからやることの準備を整えてたら、思ったより時間食っちまってな。
まずリリカ達と合流する前に、お前さんの要りようなモノも集めてやらにゃならん。というわけで、これからギルド長にあんたを紹介したら、少し稼ぎに行くよ」
「えっ?
私達二人で大丈夫なの?」
「問題ねえ。
お前は…あたしと一緒じゃ不安かい?」
「ううん、お母さん、とっても強いから」
かごめは娘の頭を軽く撫でると、その手を引いて冒険者ギルドへと歩いて行く…。
…
〜セフリムの宿〜
「えっ、つぐみが!?」
「らしいなあ。
あの馬鹿、今度一体何仕出かそうっていうのやら…冗談抜きであいつ、娘を殺す気か?」
諏訪子はこの日、一度幻想郷へ戻った時に聞いた話をポエットにしていた。
諏訪子のあまりな一言に、ポエットは困ったように笑う。
「うーん…いくらなんでもそんな事は。
かごめさんがついてるなら、あのひと大地FOEくらいなら先手取って一発で倒すくらいの力もありますし」
「まあ確かにそうなんだけどさ。
冥龍も復活しそうだっていうし、それもとっととどうにかしなきゃならんというこのタイミングでねえ…」
「だからじゃ…ないんでしょうか」
「え?」
「諏訪子さんが早苗さんを大切に思うように…かごめさんもそんなに口にはしないけど、つぐみを本当に大切に思ってるんです。
でも、かごめさんはそれ以上に、つぐみの可能性を信じてる。
つぐみも、かごめさんの見てないところでけっこういろんなことに巻き込まれて、その都度成長して帰って来るから…かごめさんもたまには、自分の見ている範囲でつぐみが成長していく姿を見たくなったんだと思うんです」
諏訪子は溜息を吐く。
「…なんだ、あいつも結構親馬鹿なところあるんだな。
あんまりに娘のこと触れねえから、なんも考えてないのかと思ってたけど」
「ただ…ひとつ気になる事があるんです。
先日ほら、さとりさんも来られたじゃないですか。
かごめさん確か、今頃雲上域にさとりさんと行ってる筈なんですけど」
「それは私から説明した方が早いでしょう」
「うおっ!?
なんだ、戻ったなら戻ったと言えよお前…」
不意に背後から声がして、飛びあがる諏訪子。
それを意に介することもなく、さとりは「ただいま帰りました」と、しれっと告げて席に着く。
「かごめさんでしたら…今頃ウロビトの里にいる筈ですよ。
シウアンさんの様子がおかしいという事で、リリカやこいし達と一緒の筈ですし」
「なんだって!?
じゃああいつ、娘を待ちぼうけさせてやがるのか!?
最近ガラの悪い冒険者も増えて、ネクタルの材料を取る為にルーンマスターの腕のいいのを使い捨てみたいにしてる馬鹿どもが多くなってるっつーのに…」
「いいえ?
かごめさんはすぐにつぐみを迎えには行ってますよ。
その足でギルドには立ち寄ってる筈ですし…」
「どういう事だ…流石の私にも何が何だかわからんぞ?」
その真意を測りかね、難しい顔で首をかしげる諏訪子とポエット。
さとりは、少し得意げにも見える表情で笑う。
「……みなさん、私の能力を忘れておられるのでは?
八雲紫の能力には、こういうモノもあった筈ですけど」
さとりはそう言って、懐から一枚の札を取り出し…宙に投げる。
その姿は見る間にかごめの姿へと変わっていく…!
「…式神か!」
「ええ。
かごめさんの記憶と力の一部を封印した、特別製です。
維持と同期の為、定期的に彼女の魔力を注いでもらわなければなりませんが…今つぐみにくっついていった式神とオリジナルの誤差はおよそ2日程度。ほぼ、当人同然のシロモノです。
こっちはもう、半月近く私と一緒にいましたから、自我はほとんど失われてますが」
「こ…こんなモノを何時の間に…」
「元々は、この世界の特殊な魔力技術で、他のギルドの冒険者の力を借りたい時に使えるギルドカードの一機能にこういうものがある、と聞きました。
基本はそれと一緒なんですよ。
この形態であれば、ゲーム的に言えば経験値分割の頭数に入らない。手っ取り早く強敵を相手にして経験を積むにはもってこいです」
「コレでアイスシザーズを稀少化して狩ったら経験値稼ぎも捗るわな…」
「私も先日コレ(式神)とちょっくら行ってきましたしねえ。
あれから三日は経ちますし、そろそろあのカマキリ復活してるんじゃないでしょうか」
「それはいいが…本物のかごめはウロビトの里か。
そう言えばこの間、魔理沙の野郎がなんか言ってたな…夢で巨人を見た、とか。
私もちっと気にはなってたんだよな、たまに幽谷に行くと、例の緑の瘴気を感じる時がある」
ひとつの疑問は解決したが、もうひとつの疑問が浮かんで難しい顔をする諏訪子。
彼女がこういう表情をするのも最近では日常茶飯事になったようである。
「恐らく何らかの関係はありそうですね。
まあ、そこは彼女の報告を待つことにしましょう。既に彼女が行動している以上、いちいち状況を考察するのも馬鹿馬鹿しくなります」
「そら、まあな」
…
〜一方その頃 ウロビトの里〜
かごめ達は最近体調のすぐれないシウアンを見舞っていたが、彼女のそれが寝不足によるものと知ったかごめ達は、難色を示すシウアンを説得して、彼女が眠りに就くのを見守ってやることになった。
寝不足のために憔悴しきっていた彼女は、すぐにかごめの膝の上で寝息を立てはじめたが…異変はそのとき起こった。
五人を襲う軽い目眩と視界の暗転。
紫電と共に視界が晴れてくると…そこにはなんと、世界樹の巨人「永遠の導き手」がそびえ立っていた!!
かごめ「いやまさかこんなことになろうとはwwwwwwww」
リリカ「いや笑い事じゃないよかごめさん…。
なんで私達、こんなところ(ウロビトの里)でラスボスと出会ってるわけ?
確かシウアンが最近なんか寝不足でその相談に来て…どういう事これ? また無意識悪さした?('A`)」
こいし「えっこういうなんかあるたびに私の所為とかおかしくね?
まあ確かに私がシウアンの深層意識に干渉しましたが(しれっ」
リリカ「やっぱりあんたの仕業じゃないか!!><」
魔理沙「しかしこれどういう事なのぜ?
こいしが悪さした事は解ったけど」
かごめ「シウアンは「巨人の心」だと言ったな、早苗」
早苗「ええ。
あの時、シウアンが巨人を止めていなければ、今頃どうなってたか解りません。
…正直、私達が勝てたのは…あの子がいてくれたからでもあったと思うんです」
かごめ「つーことは、その制動が利かなくなってくると、悪夢という形でシウアンはこいつが現実に出てくるのを留めている可能性があるな。
となれば…巻き込まれちまった以上、戦うしかあるまい」
魔理沙「お、おいマジかよ!?
かごめ達が金竜を倒してきたのは知ってるけど、こんなの私達で本当にどうにかできるのか!?」
かごめ「なんだ? 臆病風にでも吹かれたかお前?
その気がなければまだ境界操作でここから抜け出す事はできるぞ…だが、シウアンはずっと、こいつを抑えるために苦しむ羽目にはなるだろう。
それも恐らくは定期的に、だ。
抑えられているという事は、全滅でもしない限り瘴気によって呪いを受けることもねえだろ」
こいし「そうだね…このまま見過ごしてはいられないよ!
折角、私達が力を貸してあげられるんだもん!」
リリカ「ったくもー…こういう時にそういうセリフをサラっと言えちゃうんだもんねあんたは。
でも、私もこいしと同じ気持ちだよ!」
魔理沙「うー…解った、解ったよ!
見ちまった以上私も敵前逃亡は趣味じゃねえ! こうなったらやってやるぜ!」
…
…
かごめ「実際二周目ラストのPTこんな感じなんだけどな」
諏訪子「これ実は、魔理沙の最終章でネタにしようと思ってた戦闘画面だよな。
回復役が見当たらないが…あ、破陣か」
かごめ「破陣と陣回復だけでも結構事足りる感じではあったが。
因みにこの時点でこいしの猛毒投刃はマスター、スプレッドと合わせた殲滅力は本気で意味不明だな」
諏訪子「当初サブモノノフだったけど、あまりにバステの成功率悪くてミスティックに変更したんだよな。
そうしたら抑制の効果もあってガンガン雑魚を毒殺できたという」
かごめ「この時も腕には復活するたびに毒が入るのでシャドウバイトし放題でしたwww」
諏訪子「オメェラスボス戦の解説ですげえ疑問視しまくってた癖に…。
とはいえこいつ相手だと魔理沙のイグニッションが輝くな、マトモに発動させられればだけど」
かごめ「いや今回はちゃんと綺麗にハマりましたがな…ただ、毒込みでこいしのシャドウバイト2連打の方が単発火力がありまして」
諏訪子「うーわそうくるかwww」
かごめ「で、クリア後にゲーム内で14日経過すると、街にウロビトが現れて「シウアンの具合がよくない」という話が聞ける。
そこで里を訪ねて、その一角にいるシウアンに話しかけると「最近よく眠れない」という話をして…眠るのを見守るかどうかの選択肢が出てくる。
YESを二回選択すると、シウアンが眠りだして、巨人と再戦という事になるわけだ」
諏訪子「これ知らないで下手に選択するとえらい目に遭うトラップイベントだよなww」
かごめ「もっとも経験値はもらえるし、ドロップアイテムも手に入るからねえ。
今回はここまでですな」
…
…
こいしの放った影の刃が巨人の精髄を切り裂き、シウアンを抱きとめたその瞬間…視界が再び暗転する。
何とも惨澹たる様相だった。
周囲には焼け焦げた跡や、こいしが投げまくったと思しき苦無弾の刺さった跡が見受けられ、ウロビト達は怯えた様子で遠巻きに様子を見ている。
かごめ(と魔理沙)は何故か地面に突っ伏しており、代わりにこいしがシウアンを抱きとめて一緒に寝息を立てている…。
「なんだ…これ」
「わっかんねえ…こいしの馬鹿がなんかやたらと暴れまくったのだけは記憶してるんだけど」
「貴様ら一体何をしとるんだ何を」
気づけば、呆れた表情のウーファンが立っている。
彼女の言葉では、里で誰かが暴れていると聞いて駆けつけたら、このようなことになっていたのだと言う。
その手には精神安定効果のある香草やら何やらがかかえられている…どうやら彼女も、最近のシウアンの様子を見かねて色々と奔走していたようだ。
かごめは彼女に事の次第を説明する…。
「巨人と戦った、か。
嘘を吐くな、と一蹴するのは容易いが…貴様は嘘を吐くようなタイプには見えんしな。
…しかし…夢でこの子は自分の中に眠る巨人を抑えていたというのか」
ウーファンは僅かに悲しそうな表情で、こいしの腕の中で安らかな寝息を立てるシウアンの頭を、愛おしそうに撫でる。
「お陰で、一緒になって寝てた筈のあたし達ぁ逆に疲れたよ。
…途中でこいしの馬鹿が混乱してな…多分、この惨状はそのせいもあるんだろうな」
「いやそれお前もだろかごめ…私も多分言えた義理ないけど」
魔理沙とかごめは、周囲の激しい暴れぶりの跡に苦笑せざるを得ない様子で眺めている。
「すいませんウーファンさん…こんなことになるなんて」
「まあいい、お前たちがこの子を救ってくれたことには変わらないんだ。
その事は礼を言う…今度は、私の力でもこの子を助けてやらないとな…」
くすぐったそうに身をよじるシウアン。
「ありがとう」
そんな寝言が聞こえて、ウーファンも、かごめ達も笑った。
「やっぱり、お母さんこんなところにいたんだね」
その様子を遠巻きに眺めるつぐみ。
その傍らには、式神のかごめも立っている。
つぐみが指を鳴らすと、その式神は元の札へと戻り…その手におさまった。
「あまりに違和感無かったから、私もずっと本物のお母さんだとばかり思ってたよ。
…これ、さとりさんが作ったんだよね?」
「……まさかバレるとは思いませんでしたね。
というか、よく私が居たのに気付きましたね…式神の様子がおかしかったから、念の為探しに来たんですが」
「ふふっ、お母さんがすごすぎて、娘の私が目立てないから大変なんだよー。
私にだってそのくらいは解るんだからねー」
冗談めかして笑うつぐみに、さとりも苦笑を隠せずにいる。
「さて、でしたらあの連中を回収して、タルシスへ戻りましょうか。
今日は久しぶりに、ギルドのメンバーが全員宿に集まるそうですし…あなたの歓迎会をするみたいですよ」
「ほんと? 楽しみー♪」
はしゃぎながら、母親や仲間たちのところへ駆け寄るつぐみの姿に、さとりもその後をついて歩きはじめる…。