〜踊る孔雀亭〜
「あら…本当にお早いお帰りだったわね。
ほんのついさっき例の依頼人がやって来て、「依頼は達成された」とか言って、これを置いていったのよ。
こんな国宝級のシロモノをなんであんな奴が持ってたのか解らないけど…というか、間違いなく本物の秘儀書よこれ。
これほどのモノをおいそれとやり取りできるような依頼だったのこれ?」
ママさんは少し怪訝そうな表情で、その品物をもてあそんでいる。
わけがわからない、と言わんばかりの態度と、いったい何をやってきたのかまず聞かせろ、という態度が同居して、少し不機嫌にすら見える。
かごめも流石に苦笑せざるを得なかった。
「んまあ実は…やったのあたしじゃねえんだけどな。
張本人どもは余程の死闘だったと見えて、飛空艇に戻ってくるなりばたん牛ンときたもんだ。
…というわけで本尊は又聞きの話になっちまうが」
そうして、すっかり定位置になったその席にどっかりと腰かけるかごめ。
「ママさん、多分これからする話は突拍子のない話だ。
素面で聞かない方がいいと思うよ?」
「冗談、酒に紛れてごまかそうったってそうはいかないわよ。
穣子さんなんか飲まそうものなら滅茶苦茶だし、静葉さんは無口だし、諏訪子さんはわりと嘘を言うし…あなたはウソを言わない分、酔いに任せて口を濁そうとするからね」
「ちぇーっ御見通しかよオイ。
しゃあねえなあ…だけど、嘘だとか言って頭ごなしに否定されたらその時点で飲み始めっからね?」
そうして、かごめはママさんに一連の出来事を話し始める…。
何時の間にか周囲には、彼女の話を聞こうと荒くれ達も寄ってきはじめて…やがていつも通りの酒宴となるのであるが。
-続・狐尾幻想樹海紀行2-
その11 「諏訪子は諏訪子でしかない」
「そう…あの竜達に、そんな秘密があったのね。
…にしてもさ、それだけの死闘をやらかしてきたというのに…本当に、あなた達はぶれないわね」
何時の間にか孔雀亭は、その日の探索を終えた屈強な冒険者達や、番を終えた兵士たちが打ち上げに訪れている。
タルシスにはこうした酒場はいくつも存在するが、今やこの「踊る孔雀亭」の右に出るような酒場は存在しないと言っていい…何故なら、この街のみならず、周辺の国々にも多大な影響を与えるようになった「狐尾」御用達の店として、今や予約しても入れないほどだからだ。
その中でも「狐尾」メンバーなど一部の冒険者のみ、VIP待遇としてアポなしでの入店が可能という事もあり、今や「孔雀亭」で飲むというのは一種のステータスにすらなりつつあった。
もっとも、客たちが店に訪れる理由はそれだけではない。
狐尾の連中が話す、その突拍子もない冒険譚を聞く為でもあった。
「全くだ、あんた達は目標にして意識すりゃするほどどんどん上に登ってっちまう。
ギルドのハゲ親父じゃねえが、いったいどんな冒険を繰り返せばあんたらみたいになれるんだ?」
「止せ止せ、かごめ姐さんも言ってるじゃねえか。
まず姐さんみたいに人間辞めるところから始めねえとスタートラインにも立てねえだろお前www」
「お、あんた言ってくれるじゃねえか。
まあ、否定はせんよ…って、グラス空いてるじゃないか、まだ行けるだろあたしのおごりだ遠慮なくいきな」
「お、恐縮だぜ姐さん。
勿論返杯は受けて頂けるんだろうな?」
かごめはガラの悪そうな剣士と、気さくに笑い合いながら酒を注ぎあう。
この剣士はいつぞやのラット絡みの騒動の際、静葉に軽くあしらわれたあの剣士であるが…元々気のいい男だったのか、何度か孔雀亭で飲んで話をするうちに意気投合したらしく、今や彼の仲間の荒くれも「狐尾」の影響を受けて方々の強力な魔物を狩る強豪ギルドに成長していた。
「いいわねえ、こうやって持ちつ持たれつ。
カーゴの港長が、冒険者は助け合い、って言ってたけど、あなた達のような関係が理想像なのかしらね。
…でもまだ、戦い方とか彼女らのパクリなんじゃないの?」
料理を運びつつ、ママさんもそう微笑む。
「うへえ…ママさんには敵わねえなあ。
俺らも死にに行きたいわけじゃねえからな。でもその代わり、俺達の方でも珍しい素材が手に入れば、ちゃんと姐さん達に報告はしてるんだぜ?
極力手法は調べてよう」
「だがアレだよな、あの「殿」の南瓜どもの素材が呪骨以外にありそうなんだが…まったくもってどうゲットしたもんかわかりゃしねえ。
そもそもあいつらとやりあうのが命懸けだけどよ」
「そう言えば、あのギルドのしたり顔のリーダーが「南瓜を倒した時の破損具合で決まる」とかなんとか、エラソーにほざいてたよな。
そいつら此間、調子こいて挑んでメンバーの半分くらい南瓜に絞め殺されたとか言ってたけどよ」
「おお、こわいこわい。
俺らも気をつけねえとな、何処まで気をつけ切れるか解らんがよ」
冒険者にありがちな話を、笑いに紛らせて話す男たち。
ふと、そのうちの一人…例の剣士とは別のギルドの医術師の男が、それに気づいてかごめに問いかける。
「そう言えば…最近諏訪子さんを見掛けないが、いったいどうしたんだい?
彼女の技法は参考になるから、後学の為にもっと話を聞かせてもらいたいところなのだが…セフリムの女将の話ではここ十日ほど、部屋に閉じこもりきりとか」
その瞬間、かごめはは表情を曇らせる。
剣士も何かを察したと見えて、余計な事を言うな、とばかりに医術師の頭を小突くが…。
「…あいつ…相当ショックだったみたいでな。
生きて帰っただけでももうけものだと思うんだが」
「仕方ないわ、彼女は意外と、自分より他の人を大切にするタイプだと思うもの。
でも…あのちょっと得意げな顔が見れないのは…寂しくはあるわ」
急に、宴の席がしんみりしてしまう。
話のきっかけを作ってしまった男はばつが悪そうに「済まない」と、こちらも口をつぐんでしまうが…。
「だけど、あいつはこんな程度でいつまでもうじうじしてるようなタマじゃねえ。
ちょっと景気づけに、どっかで暴れさせてやりゃ元気になるだろうさ…問題は、もう大体のところも行き尽した感が酷くてなあ」
「…ちょっと待って、そう言えばそういううってつけのネタがあったかもしれないわ。
確か、告知が一昨日回って来てたような」
ママさんが立ちあがると、店にいた荒くれ連中がぎょっとして振り向く。
「ちょ、待て、ママさん。
まさか…もうこんな時期なのかアレが」
「そ。そのまさかよ。
しかも今回はマジでレベルがケタ違い…あのハゲ親父、マジで魔物より先に冒険者を根絶やしにするつもりかしらね」
戦慄く剣士と、苦笑いを隠せないママさん。
「今回の舞台は、なんと暗国ノ殿よ」
「( ̄□ ̄;)マジかああああああああああああああああああああああああ!!!」
孔雀亭に絶叫が木霊した。
…
…
静葉「はい今回も解説は私達でお送りするわ。
今回は、QRクエストの討伐大会…その舞台は、事もあろうに暗国ノ殿」
レティ「実は公式ではいくつか、早い段階での討伐大会QR配布されてたのよね…媒体の関係で、もう取得できないけど。
獣谷の泉、はぐれクマーの茂みからいきなり蝙蝠の巣穴まで飛んで、そこから一気に殿とか何考えてるのかと」
静葉「こっちとしてはもうレベル的に最高レベルでもいいかという事で…あ、因みにこのクエスト自体は冥竜よりも先にやってるわよ念の為」
レティ「参加メンバーこん感じだしね」
レティ「まあ、冥竜攻略時のミスティアのレベルと比べてもらえば一目瞭然だろうけどさ」
静葉「討伐する対象の魔物はあとで触れるわ。
今回はこのクエスト元に話を作ってるから、実際に参加したメンバーと登場キャラが1人違うけど、そこはまあ茶番ですので」
レティ「はいはい何時ものこと何時ものこと。
先に言うと、キバガミも前回のほむらも登場する事自体そもそも久々だしね」
静葉「実は私も行きたかったんだけどねえ、面白そうだし」
レティ「あ、実はこの後タイムアタックとか言うんで、私とあなたと幽香に動員かかってるわよ。
実は私もあの後、サブクラス変えたし…このメンツだと多分チルノもいるわね」
静葉「えっマジですか」
レティ「マジです。
まあたまにはメインで働いて来いって言うかごめの粋な計らいってとこかしら」
静葉「その為に命張れとかちょっとおかしいような…」
…
…
♪BGM 「情景 しじまに吹く風」♪
「ねーねー諏訪子ぉー、私最近思ったんだよ。
今までルンマスで通してきたけど、実はモノノフでブーストと背水の陣で火力を上げてもそんなに期待値は変わってこないんじゃないかなーって」
ベッドの上でうつろな表情の諏訪子の前で、穣子は努めて明るい表情で、かつ得意げにそう提言する。
「だってほら、ルーンの導きの補正がサブだと弱点突いて34%補正でしょ?
羅刹で45%アップ、背水で22%の追加の物理ブーストで17%のおよそ4割上乗せでさあ。
羅刹解除があればTPの心配がなくなるから、今までサブに割いてたぶんにあと3SP上乗せで工面できれば、通常の火力だって向上につながるから…」
「うん…そうだね。
みのりこがそうやってきめたなら…それがいいとおもう」
「……諏訪子?」
あまりにも毒気のない、弱々しい言葉に…穣子は言葉を失う。
普段の諏訪子なら…たとえば良いアイディアであっても「お前熱でもあるのか?」とまずイヤミの一発が飛んで来て、そのあと「ここが甘い」「ここはこうだけどこんなシビアな管理できんのか?」と散々いじられるのがいつものことだ。
穣子も穣子で売り言葉に買い言葉で、ひとしきり口喧嘩して、見かねた早苗やミスティアに止められる…それが、この世界で共に過ごすようになってからの光景だ。
いや、ポケモンの関連から、大体二人の関係はそんな感じだ。
穣子も、決してそれが嫌ではなかった。馬鹿にされるのは腹は立っても、それでも最終的に諏訪子も「まあ、そういうのもありだよな」と妥協したり、うまくいかなかったとしても「まったくお前は」といいながら、次回の方策を一緒に考えてくれたりもして…。
穣子は、悲しさと怒りが綯交ぜになった表情で諏訪子を見つめている。
その視線を避けるかのように、俯く諏訪子は…まるで、何かに怯える小さい子供のよう。
その姿に、あの日地割れに飲まれる直前のバルドゥールの姿が重なってすら見える。
「諏訪子…諏訪子しっかりしてよ…!
あんたがそんなんだったら、張り合いないじゃない…何時もみたいに、寝言は寝て言えくらい、言って見せなさいよ…!
私の考えなんてイモ臭い馬鹿の浅知恵だって…ねえ!」
「そんな…だって…みのりこは…」
「お願い…そんなの、あんたらしくないよ…諏訪子っ…!」
穣子は泣いていた。
一段のと小さく見えるその少女の姿は、ただひたすらに小さく見えて。
「そうだな、浅知恵にしては十分及第点レベルだ。
リンクに回した分をちっと削っても、モノノフ側の物理ブースト振れば十二分に元は取れる。
…穣子、ラ・ターシュの姐さんに声かけておくし、あんたはあんたでそっちちょっと試しておいてみて」
声がして振り返ると、そこにはかごめが立っている。
「かごめ…」
「ったく…あたしを不意討ちしてまで冥竜に上等張ってきた奴までなんつう顔してんだ。
…そして諏訪子ちゃんよ。
悪い事は言わねえ…あんたそうしているつもりなら、正直山に帰った方がいい。
さな坊にはあたしが話しておく、今からでも送って行ってやるが」
諏訪子はふるふると首を振る。
「いや…いやだよ…こんなわたしのいばしょなんて…もうないよ…。
もう…ほうっておいて…あっ!!」
かごめは強引にその腕を掴んで立ちあがらせる。
「ねえってなら、相応しい場所に連れて行ってやる。
あんたが常に言ってたセリフだ…無駄飯喰らいはここに置いておくつもりはねえぞ、旅支度だついてきやがれ!!」
「やだ…やだあっ!!」
「ちょ、やめなよかごめ!!
いくらなんでも今の諏訪子は」
嫌がる諏訪子に見かねた穣子が制止する…が、かごめは全く意に介した風はない。
「…あたしも…こういうときの辛さはよく知ってる。
そのせいで、目の前で娘を…妹分たちを殺されかけたんだぞ…!
……同じ後悔をする奴が目の前にいる、荒療治が必要な時はあるんだよッ……!」
悲痛な表情のかごめに、穣子は再び言葉を失う。
「かごめ…あんた」
「穣子、さな坊にはうまく伝えておいてくれ…あ、いや、面倒なら見た通りそのまま伝えてもらって構わん。
もし戻らなかったら…そのときはあとの事、頼むわ」
かごめはそのまま諏訪子の袖を引いて部屋を出て行ってしまう。
そこには…茫然とその光景を眺める穣子を残して。
「…まったく…かごめさんらしいというか」
何時の間にか部屋の片隅に、さとりがいる。
「さとり…あんたもう、動いていいの?」
「もう十日も経つんですよ?
確かに恐ろしい体験でしたが…こいしなんてとうにベッドから起きて、力を持て余しているというに。
今頃金剛獣ノ岩窟で、チルノやコーディと一緒にホムラミズチと一戦交えてるんじゃないですかね」
さとりは、諏訪子のいたベッドに腰掛けて溜息を吐く。
「あのひとがこう、といったら、あと私達は見守るしかないですよ。
私もそろそろローゲルさん辺りに声をかけて、本格的に「殿」最深部の調査に戻ろうと思います。
…「殿」の中に眠る気配は…日に日に存在感を増している。
出来れば全容が明らかになるまでに、諏訪子さんに立ち直ってもらえればこれほど心強い話はない」
…
霊峰・地底湖のすぐ外では…キバガミが、骸となったアイスシザーズの姿を前に首を振る。
「まだだ…まだ足りぬ。
拙者の力は、まだ静葉殿やかごめ殿等には遠く及ばぬ…!
…この体たらくでッ…!」
その言葉を、悔しそうに歯がみして反芻する。
彼はあの日、冥竜に挑む諏訪子に、自分を連れていくよう懇願したが…諏訪子の答えは「残念だが、戦略上お前さんの出番はない」というにべのないモノだった。
確かに諏訪子の思い描いていた戦略上、純粋なアタッカーであったキバガミは戦略上必要な存在ではなかった…が、見かけ以上に聡い彼はその事を理解はできていても、彼の心情まではそうはいかない。
武骨な彼は、ひたすら自分の力が足りぬ事を恨めしく思い、嘆いた。
彼は徹底的に自分を痛めつけ、過度のロードワークで悲鳴を上げる肉体を叱咤して魔物に挑み続けている。
その技量は等に「武神と言われるまでに十分」と、イクサビトの若い者たちは言うが…彼は、行為を止めようとしない。
「次は…台地のカマキリをっ…!」
彼は疲労の蓄積した足を言い聞かせるように殴り、立ちあがろうとする。
しかし…身体は既に言う事を利かなくなっている…。
「ぐ…ぐううっ!
…頼む…立ってくれい我が肉体よ…拙者の力で、諏訪子殿の悔しさを拭うと…そう誓ったろう…!
魔理沙殿を見習え…彼女は、やり遂げたではないかッ…!」
その想いに反して、彼の肉体は降りやまぬ雪を撒きあげ、白銀の大地に倒れる…!
それでもなお、彼の腕は前に進もうと足掻く…。
その腕が、人の足へ触れ…彼はそれを見上げた。
「…ここにもひとり無茶な馬鹿が居たか。
ただ自分を痛めつける事だけが、強くなる事じゃないんだぜキバガミさんよ。
……どうだい、あたしの馬鹿にちょっと付き合ってみないか…まあその前に、その体を休めてやらにゃならんが」
苦笑するかごめ。
気球艇から慌てて薬箱を持ってくるつぐみが、すぐに彼を介抱する。
かごめの差し出した手を…イクサビトの壮士はまるでクモの糸にすがるように取り返す。
…
酒場の一件から一週間後、暗国ノ殿。
その地下2階では、屈強な冒険者たちの一団がそこかしこで剣戟を響かせている。
「おお、孔雀亭のママさんから聞いてはいたが、貴様等も来たか」
その一角、「受付」と大書されたテント…結界を張って魔物が侵入できない一角に、腕利きと思える幾人かの兵士と、ギルド長がいる。
まだおどおどとした表情の諏訪子と、かごめの命でここ三日静養に努めたキバガミ、そしてつぐみとこいしを伴って、かごめはその場所にやって来ていた。
「…一部不安そうな者がいるが…まあ、貴様のやることだ、何か考えあってのことだろう。
だが、解ってると思うがこの試練はHARDだぞ?」
「ってか試練ときおったかい…まあ、こっちも解った上で馬鹿やりに来てるんだ。
で、大将よ。一体何をしてくればいいんだここで?」
不敵に笑うかごめに、ギルド長も思わず口の端を吊り上げる。
「ふっ、相変わらず血の気の多い奴だ…だが、結構。
既にママさんから聞いていると思うが…この大会では指定された魔物を、合計で定められた以上を狩るのが目的だ。
途中でフロアを変えたり、無論糸などを使って迷宮を出ても、その時点で終了だ。
そのとき討伐規定数以下なら、失格になるぞ」
「あっ、そう言えばアーモロードでも似たような事をした事があるよー。
確かアレは魚狩りだったっけなあ」
こいしの言葉に「ほう」とギルド長は感心したように息を吐く。
「あの地は相変わらずイビルフィッシュに煩わされておるのか。
…まあ、確かに似たようなものだ。だが、こちらは単純に冒険者の質向上を目的としておる。
ハントの対象は…破滅の花びらとホロウメイガス」
「ちょ、マジかw」
「おお、こいつらくらい軽く対処できぬようでは、この恐ろしき「殿」の攻略など任せられまい。
…このすぐ下に位置しながら、いまだそのベールを脱がぬ最下層…そこにはまだまだ恐ろしい魔物が潜んでいるかもしれぬと、ローゲルが話しておったぞ。
確かにどちらも対処の難しい魔物だ…だが、その動きを熟知し対応することで、さらなる技量の向上につながる筈だ」
その言葉にうなるキバガミ。
「ギルド長のおっしゃる通りだ。
花びらであれば、鉄火の技が通る…丁度いい、その技にもっと磨きをかけたいと思っていたところよ!」
「えーでもホロウもいるんでしょー、あいつら技当たりにくいからきらいー」
口を尖らせるこいしをかごめが小突く。
「やかましい、それより余計な花びらにまで苦無弾全弾当てるとか言うふざけた真似をしてみろ…石化しようが貴様のそっ首ぶち落とすぞ」
「お、おういえぼす。
…かごめさんマジでやれそうだし怖い^^;」
おどおどしながら、キバガミの巨躯に隠れてその様子をうかがう諏訪子。
つぐみはそれを、大丈夫、と勇気づける。
「ふっ、では行ってくるがいい、「狐尾」よ!
巨人を制し、竜を鎮めたその力、存分に揮えぃ!!」
…
その暗黒の空間…不正解のルートへ踏み込むと強制的に、入った扉へ戻される仕掛けのある空間で、かごめ達は30分、一時間と順調に討伐を続ける。
しかし思ったほど目的の魔物に出会えず、ホロウメイガスに至ってはまだ2体も見ていない。
「…っくしょー…あの毒トラップのある部屋に移った方がいいのかこの場合?
さっきから植物は植物でも、見かけるのはあの角つきばっかりじゃねえか」
「キノコは植物じゃないって魔理沙言ってたー…いたっ><」
「やっかましいまぜっかえすな。
だが…」
こいしの頭に一発見舞うと、かごめは傍目で諏訪子の様子をうかがう。
相変わらずつぐみがおどおどする彼女をサポートし、それでもなんとか要所要所で回復くらいはしてくれている。
実際、彼女の過剰とも思える回復行為により、うっかり凶暴化させてしまったライデンジュウ相手にも、辛くも生き残る足しにはなっていたが…。
「今から前衛に出しても逆効果か」
「うむ…しかし、本当によかったのですかかごめ殿?
今の諏訪子殿は、とても戦える状態ではない。
…いや」
見るに耐えない、そう言いかけて彼は言葉を飲みこむ。
かごめも解ってるかのように頷く。
「解ってるよ。
あたしも本来、こんなことさせたらダメなんじゃねえかって思う」
「なら何故…!」
「それでも…あいつは本来軍神だ。
軍神がその矜持を取り戻すには、やはり戦いの中でしかあるまい…!」
その言葉とともに、かごめは剣を構える。
こいしも何かに反応したのか…柳葉の刃をもつ短刀と、神剣・布都御霊を二刀流に構えて闇の中に対峙し…反射的に猛毒を放つ苦無弾を闇に向けて放ってしまった!
「ば、馬鹿野郎ッ!
安易にそれを撃つなと…」
思わぬ事態に声を上げるかごめの身体が、瞬時に石と化す。
闇の中にいた魔物…それは確かに目当ての破滅の花びら、反撃に放たれたのはその得意技である石化花粉だった!
開花し、範囲を広げた花粉は既にキバガミの足を石に変えている…!
「ぬおっ!?
し、しまった…これでは…!」
「お母さん!?キバガミさんッ!?」
見る間にキバガミも石と化し、つぐみが絶叫する。
先陣切っていた筈のこいしなど、呆けた顔のまま石化して倒れている有様…運良く花粉の範囲外に逃れた二人だったが、一瞬の出来事に動揺を隠せない。
それでも、つぐみは気丈にも、戦慄くようにその光景を見る諏訪子を庇うように前へ躍り出る。
視認できる花びらは2体、さらに背後にはホロウメイガスまでいる。
恐らくは、時間が経ってかごめ達の気に僅かでも緩みができる瞬間を虎視眈々と狙っていたのだろう…。
つぐみはすぐに術式を組み文言を唱える。
「来たれ炎精、風の精!
荒れ狂う緋の嵐、燎原の火となり灼き尽せ…紅蓮の疾風ッ!!」
広範囲を焼き尽くす上位の炎熱魔法。
その発動と共に花びらは瞬時に灰と化すが、ホロウはひらりとその強烈な熱波をすりぬけてくる。
その動きの先にいたのは…キバガミの巨躯を物影として隠れていた3体目の花びら。
「しまっ…!」
ホロウが刻印する忌まわしき契りを受け、花びらが開花する。
そこから吹きつける花粉で、つぐみの身体も石へと変わって行く…!
「すわこ、さん…にげ…」
「つぐみ…いや…いやあああああっ!!」
動かなくなるその姿に取りすがる諏訪子。
花びらはその鋭利な花弁を振りかざし、動かぬ諏訪子へと狙いを定めて迫る!
-あんたはそのままでいいのかよ-
諏訪子の脳裏に、声が響く。
それは、彼女の記憶に焼きついた、八坂神奈子の声。
まだ、早苗が生まれるより何百年も前…ある一人の男を、死地にるのを茫然と見送ったあとのその光景が、蘇る。
-四郎も…備前も、恐らくもう天目山から戻ってはこれまい。
確かにお前が言うように…神である我々は人の生き死にに干渉するのは間違ってるし…織田の勢いはもう、留まる事はない。
だが…それでも、あいつらはお前を信じてくれているんだ。
何も残してやらないで、あいつらが死んでいくのをただ眺めている事が、お前の本心かい…!?-
あの時と、自分は全く変わっていない。
早苗が狂気のままに暴走したあのときでさえ…一緒だった。
一方で、神奈子や静葉、穣子たちはどうだったのか。
神奈子は早苗の為に、己の全存在をかけて異界の神を向こうに回して果敢に戦った。
静葉は、心を通わせたリリカやこいしの為にその存在をかけ…リリカがアリスという一つの大きな障壁を超える為に力をつくした。
そして、穣子は。
この世界で人間として、仲間たちと力を合わせ、旅路を共にした仲間達だけではなく、知り合った多くの人々と絆を紡ぎ…結果的にこの世界を救って見せたのだ。
同じ神でありながら、皆最後まで誰かのために力を尽くして、己の存在まで天秤にかけていたではないか。
自分だけが違うのか。
自分にそんな事は出来ないのか。
「ちがう…違うッ!
まだ、まだ活路はあるッ!
ここで終わってたまるかってんだあああああああああッ!!」
♪BGM 「剣・魂・一・擲」(SRWOGs)♪
その少女の目に、強い意思の光がともる。
花びらの攻撃を紙一重で回避すると、諏訪子は火焔を走らせる鎚の一撃で花びらをすり抜けざまに打ちすえ焼き尽くす。
呆気に取られるホロウメイガスだったが、影から仲間を呼び出し、荒れ狂う吹雪を撒いて優位に立とうとするその瞬間。
「…かごめらしからぬ保険だな。
だが、お陰で思ったより立て直しは早く行きそうだ」
力の満ちた、銀に光る双蛇の杯を掲げる諏訪子。
ありとあらゆるダメージを癒す「ヒギエイアの杯」の発動により、石化していた四人の姿は一瞬のうちにもと通りとなった!
「かごめ、こいし!
先手取ってそいつらの動きを止めてくれ!
迷惑かけた分は、行動で返すッ!」
「…おうよ!」
その姿に一瞬、呆気に取られるかごめだったが…すぐに何時もの不敵な笑いを浮かべて、剣を構え神速の一撃を影の魔物へと叩きこむ。
もう一体のホロウは戸惑う間もなく、こいしの放つ麻痺の投刃で動きを止められると…。
「おおうりゃああああああッ!!」
冷気を纏った姫鶴一文字の刃で、キバガミの怒号と共に真っ二つに切り裂かれていた。
間髪入れずに、諏訪子の振るった鉄火の一撃がもう一体のホロウを強く吹き飛ばし、つぐみが雷撃術で追い打ちをかけようとしたところで諏訪子がかごめに目くばせする。
その意図を読み取り、かごめが檄を飛ばす。
「つぐみ、それは撃つな!
こいしあんた、勝手の罰受けたくなかったらアイスブラッシュでそいつを確実に斬り倒しな!」
「お、おーけーぼすっ!!><」
半ば自棄になったこいしの振るったその刃は…運がいいのか悪いのか影の魔物を石化させてしまった。
ある目的のために石化の呪法をかけていた故だったが、なんにせよ指示を完遂できなかったこいしがかごめの仕置きを受けた事は言うまでもない。
…
それからさらに半日ほど。
終了の合図とともに残っていた冒険者たちも迷宮から引き上げ、結果発表を聞く為にギルドへと集まって来ていた。
「それでは上位3ギルドを紹介する!
第三位…カーゴ第三整備隊、花びら7体、ホロウ6体の計13体討伐!
本職の方もぬかるなよ!!」
報償を受け取る職人の一団に、惜しみない拍手が送られる。
「第二位!花びら8体、ホロウ8体の計16体を撃破したヤラカーナ!
しゃきっとせんか、しゃきっと!!」
その宣言に、他の参加者も意外だったと見えてどよめきが上がる。
呼ばれたギルドの面々は、その異様な雰囲気の中でギルド長の檄を受けながら、恐る恐ると言った具合に景品を受け取っている。
「今回はハイレベルだという事は承知の上である。
それは…最近貴様等も知るように、あるギルドがこの大地を所狭しと暴れ回り、常に先陣を切って突っ走るその姿にあやかり…さらなる冒険者の質の向上を目指したものだ。
事実、上位3ギルドに限らず、目覚ましい働きをしたギルドも多い…中には、目当ての魔物に出会えずライデンジュウを狩りまくり、体力切れでギブアップしたという別の意味での偉業を成した連中もいるが…まあ今回はあえて賞はせぬ!貴様らは貴様らで頑張ったとだけ言っておく!
それでは、今回正当に一位の成績を収めた者を発表する!」
どよめきが収まり、沈黙の場に緊迫した空気が流れる。
「破滅の花びら13体、ホロウメイガス7体、計20体討伐!
第一位、「狐尾」!言う事なしだ!!」
その納得の名に、集まった冒険者達から大きな歓声が上がる。
戸惑う諏訪子だったが、かごめに促され壇上へと向かう。
「貴様か…ワシも女将から何があったかは聞いている。
…貴様が元は何様だったか、それは今問題になることではない。
人間として、その恐怖を乗り越えたのだ。
きっと、この先も貴様の大きな糧になろう!」
「…ああ、その言葉、有難く承る!!」
満足そうに頷くギルド長から賞品を受け取り、誇らしげにそれを抱えて見せる諏訪子。
その姿にひときわ大きな歓声が上がり、ギルド内は何時までも喧騒に包まれていた。
…
…
静葉「まあ過酷な大会よねこれ」
レティ「討伐対象と数が本当に尋常じゃないわね。
花びらってあんた…」
静葉「ホロウメイガスよりは弱点のはっきりしている花びらの方が狩りやすいとは思うけどねえ。
因みに、実際に四人が石化して杯で切り抜けたのは事実だけど、実際に生き残った唯一の一人はつぐみよ。
諏訪子だったらリフレッシュがあるし」
レティ「行動補正もあるだろうしそれでも杯使いそうな気もするけどねえ。
ところで上位ギルドとか、ライデンジュウ云々とかって」
静葉「上位ギルドは原作通りよ。合計数しか言わないから、割合は作り話だけど。
自分達が選外の時はどうなんか知らないけど…あ、ライデンジュウはもちろん作り話よ。
因みにこのクエスト受注の最中もライデンジュウはほんと一杯でたわね。巨大化する前に速攻潰して回ったけど」
レティ「うわあそこだけリアルね…。
因みに穣子ちゃんがなんか言ってるけど、これやるのマジで?」
静葉「実際火力が段違いに上昇するしね、書いてる時には既に実行に移してるわよこれ。
導きは弱点突いた時にしか乗らないけど、弱点を加味したとしてもそこまで大差はない。実際はクリティカル補正に35%増しだから導きの方が結果的に与ダメージ大きくなりそうではあるけどね。
TP切れで何も出来なくなるタイミングもわりとあったし、羅刹解除があることを考えても結局サブモノノフの方がリターンが大きい、という結論なのかしらね」
レティ「というか、姉妹でメインとサブがちょうど逆になるわね」
静葉「あ……言われてみれば確かに」
静葉「というわけで今回はここまでよ。
次回は私達でタイムアタックに挑戦するわね」
レティ「最早QRにしかネタの活路が見えないという現実に絶望したッ!!」
静葉「止めんかい黒幕ーー;」