〜討伐大会の少し後 セフリムの宿〜


多くのギルドが競技を終え、見切りをつけて引き上げてしばらく後も、かごめ以下「狐尾」の面々は戦い続けた。
矜持を取り戻した諏訪子、そしてかごめの連携で討伐合計数は20体にも達し、その頃には残っているのも彼女と、その動向を伺う一部の兵士のみであった。

競技開始は早朝からだったが、彼女らが「殿」を出た頃には既に日付が変わろうかという時間。
ギルド長も彼女らの行動に呆れ、「結果発表は明日」と、殿軍で帰還した彼女らを待つ他のギルドに解散を出したという話を聞き、「狐尾」の面々は根城となるこの場所へ戻って来ていた。
つぐみやこいしが疲れ果ててすぐに寝てしまってはいたが、かごめは女将経由で夜の担当に食事を用意してもらい、キバガミと二人でささやかな打ち上げを楽しんでいるその場所に、諏訪子が現れ…神妙な顔つきで深々と頭を下げた。



「…本当に済まなかった。
色々…特にかごめには、これだけは言っておきたくて」


そうして、彼女は自分の心情をぽつぽつと話し始める。


「私…ずっとあんたに嫉妬していたんだ。
きっと、私達が覆い隠すことしかできなかった早苗の心を開いてくれた、あの日からずっと」



「あんたが金竜に挑みに行った時…自発的に早苗がついていったと聞いて…勿論、早苗がそんな危ない事を仕出かしたことも心配だったのもあるけど、それ以上に、まるであんたに早苗が取られちまったみたいで悔しかったんだ。
そして、あんたは誰ひとり欠けさせることなく、金竜を倒して帰って来ちまった。
…本当は、あんたが失敗しておめおめと逃げ帰ってくるか…ドジってくたばっちまう事を心のどこかで期待しちまってたのかもしれない」


でも…それでも、私は早苗とは別の意味で…あんたの事が好きだって、ずっと思ってた。
別にヘンな意味じゃない、穣子や静葉、神奈子なんかと一緒で…気心の知れた友達として。

あんたが苦しみながら生きながらえてきた事も知ってるし、説明はうまくできないけど、あんたいい奴だからさ。
あんたに対する真逆の想いの板挟み、ってのかな。何時か見返してやりたいって思って…私とうとう抑えきれなくなったんだ。
結果は…まあ見ての通り。誰ひとり欠けさせないどころか、私は無様に負けて終わった」


「昔から、そうだったんだ。
私を信じてくれた連中は、最後大体それが裏目に出て…天目山へ送り出した四郎や大熊備前も、大坂へ送り出した源次郎もみんな。
怖かったんだ…私の事を頼みにしてくれた連中に、取り返しのつかない祟りを与えちまうだけしかしてないみたいで。
…だから…意図的に早苗を連れていかないで…さとりたちを巻き込んで。
わたし…いったいなにやってんだろう…って…!



その双眸から涙が零れ落ちる。
かごめはそっと、その傍らに立って肩を抱き、席につかせて諭すように話し始める。

「歴史書は多くは語らない。まして、その時代を生きた人の想いなんて、想像するしかないけどさ。
でも…武田勝頼は最後まで己の誇りを貫き、大熊朝秀は武田への忠義に殉じて天目山で最期を遂げ、真田信繁は絶望的な戦いの中で大坂方最後の勇士として華々しく戦って武名を残したんだと聞いている。
そいつらはあんたが見守ってくれたから、最後まで意地を通して逝く事が出来たと思うよ
「うむ。
さとり殿とて、お主の気持ちを汲んで、それでも最後まで望みをつなぎたかったと話しておった。
口惜しいというなら、拙者とて同じ…もし、拙者の力がその戦略に沿わずとも、単独で十分に生かせるに足るほどであればと…
「かごめ…キバガミ…」

かごめは彼女に杯を渡し、そこに酒を注ぐ。


「あたしからは何も言える事がねえ。
…ただ…あんたがいなくなったら哀しい。それだけだよ」




-続・狐尾幻想樹海紀行2-
その12 「妖蛆の秘密」




さとり「いつかはこんなタイミングもあるかと思いましたが…とうとう解説役がみんないなくなってしまったので仕方なく私がやることになったようですね。
   え? 何時もの秋神と黒幕は何処行ったのかって?
   …ああ、今回はあの連中が主役です。主役と言っても馬鹿話はありません、ほぼ私の解説で淡々と進みます。
   酷いモノですね本当に。私が一人でしゃべっても面白いことなんかひとつもないと思うんですが」

さとり「冒頭の茶番で出てきましたが、大体諏訪に関係するところでは真っ先に思いつくのが武田の諸将。
   大熊備前守朝秀は元々越後箕輪城(現在の上越市板倉区)主で上杉家というか長尾家の重臣でしたが、謙信に代替わりした頃に部下の論功行賞のもつれで仲違して、信玄の誘いに応じて武田に身を寄せた人ですね。
   陰流創始者である上泉信綱と御前試合で引き分けた剛勇の持ち主で、諏訪に居城を与えられ武田家でも譜代同然に重用されたそうで、最期は武田勝頼に殉じて天目山で戦死しています。今でも彼の居城の跡は諏訪に残っています。
   あと真田信繁って誰ぞ?という方は「真田幸村」でググると幸せな気分になれますよ

さとり「本編に関係のない話はこの辺で。
   今回はQRクエスト…暗国ノ殿タイムアタックの第一弾…なのですが、思ったより話せる事が少なくてですね。
   その話に軽く触れつつ、第六迷宮第三層の謎とき話をメインにしましょう。
   …タイトル見りゃ解りますかね、このタイトルもクトゥルー神話作品群に登場した魔道書のタイトルが元ネタですけどね」

さとり「タイムアタックの概要ですが、まあ、説明の必要はそれほどないんじゃないですかね。
   今回はゲーム内時間で20時間以内に、特定の魔物を規定数狩るのが目的です。
   途中退出NGなのは前回の討伐大会と一緒ですが、今回は時間制限があります。短い時間でどれだけ、目当ての魔物に遭遇できるかどうか、それが最も重要になりますよ。
   今回は痺れエリンギと破滅の花びら、合計10体…ってまた花びらですか、スタッフも好きですねえ…」

さとり「フロアによって多発地帯もあるようですが、こういうイベントの時は不思議と目当ての魔物に出会いにくくなるような気がしますよね。第四迷宮の魔物調査もそうですけど。
   この後静葉さん達が触れていますが、あくまで狐野郎の経験則なので穴があることは間違いないというか…まあ、思いっきり穴がありましたけどね。
   そしてここからの茶番で触れるネタはマジでありました。実際はビートルロードのシェルキャッスルを警戒して電光石火使って、それでもなおやらかしてるのだから、本当に何をやっているのかと


さとり「というわけで、今回は「殿」の秘密もいよいよ明らかになるっぽい気配です。
   タイムアタックの第二弾は「殿」地下三階が舞台になるので、エンディングの余興になるかと思います。
   …いよいよ舞台は大詰め、この不可思議な世界樹探索もいよいよラストの足音が聞こえ始めていますが…おヒマならいましばらくお付き合い願います。
   では、今回は早いですが、この辺りで」








〜暗国ノ殿 地下二階〜


幽香「腕試しとはいえ…思った以上に運と知識が要求されるわねこれ。
  …静葉、本当にエリンギと花びらの多発地帯ってこの辺りなの?
  さっきからライデンジュウだけはやたらと見かけるんだけど、植物の気配が全くないわ」
静葉「おっかしいわねえ…かごめの話では、この辺りで用もないのにやたらエリンギばかり見た、とか言ってたんだけど」
幽香「そろそろ5時間は経つじゃない?
  受付の兵士が言ってやがったけど、上位のギルドは10時間切ってるらしいわ。
  …久しぶりの本格的な戦闘だからもっと愉しみたいけど…せっかくなら優勝を狙いたいし悠長なことはできないわ」
静葉「……………ホムラミズチをドライブ4順で仕留めてまだ暴れたりないのかあんたは。
  仕方ない、少しポイントを変えて…」

破滅の花びら3体とビートルロードが現れた!

静葉「おいでなすったわね…!
  幽香、解ってると思うけど確実に一体ずつ潰すわよ、面倒だからね!」
幽香「言われるまでもないわ…って、そう言えばチルノ達はどこh」


二人が背後を振りかえると何故かチルノとコーディとレティが石化している…。
さらに何故か開いている花びら…そこから導き出される答えh



二人「( ̄□ ̄;)ああんこのHまた勝手に仕掛けやがt」


花びらは破滅の花粉の構え!
静葉はアワレにも石になった!
幽香もアワレにも石にn







幽香「………というわけでこんなことを繰り返していたら見事に優勝を取り逃したわ(#^ω^)ビキビキ」
チルノ「(幽香のウメボシ攻撃を受けている)いたいいたいいたいうわーんごめんなさーい><」

かごめ「それでもエリンギ・花びら合計10体討伐までに11時間か、コレ結構頑張った方じゃないかと思うけどなあ」
幽香「そんな事よりあんたもよかごめ!
  話違うじゃない! 大部屋のトラップフロアにエリンギ大量に出てくるとか言ってたけど、全くそんなことなかったわよ!
  2時間戦ってエリンギ3体組が1回出てきたきりだったわ!!
かごめ「待て話せばわかる落ちついてくれゆうかりん^^;;
   …あんたひょっとして、上り階段側じゃなくて、地図の下側の方で戦ってなかったか?」
幽香「…それが何の関係があるのよ」
かごめ「済まねえそれはあたしの説明不足だった。
   エリンギが大量発生したのは地図の上側。真ん中挟んで下側だと多分ビートルロードとライデンジュウの組み合わせか、花は花でも邪花の方がいっぱい出てきたんじゃねえかなあ…と^^;
幽香「(ぶちーん!)だったら最初からそこまで詳しく言ええええええええええええええええええええ!!!ヽ( °Д °)ノ
大妖精「幽香さんおさえておさえてー!殿中でござるー!!!><」


静葉「とまあ散々ではあったわね。
  …ただ、目的の魔物をひたすら討伐するのより難しい競技である事は解ったわね」
ローゲル「とはいえ、当初は探索すら困難だった「殿」の狂気の中でも、十全に戦闘ができるまでになったのは大きな進歩だ。
    俺達がこの「殿」に踏み込んでからもう2カ月近く経つが…まるで俺達がその「殿」にまつわる歴史を紐解くたびに、その狂気がフロアから押し出されているような感覚に襲われる時もあった」
静葉「……どういう事?」
ローゲル「あくまで俺の印象ではあるが…まるで、誰かがこの「殿」に眠る無念を晴らしてくれる者を待っているような…そんな感じがした。
    …これは、俺とさとり君で「殿」の各所から集めて来たものだが」

ローゲルはそう言って、愛用している皮袋から数冊の本を取り出す。
色あせて煤けてはいたものの、装丁はなかなか豪華といえた。

ローゲル「これは何かの記録…恐らくは「議事録」に類するものだろう。
    この中の所々に、これを残した何者かの心情を語るメッセージが書きなぐられていた

かごめや幽香達がその舞台を外に移して暴れているのを余所に、何時の間にかそこへ諏訪子やキバガミ、ほむらなども興味深そうに集まって来ていた。


♪BGM 「街景 時を失くした王」♪


…あの未曾有の天変地異とは何だったのか?
そして二度目はあるのか?
それは今後の極めて重要な研究課題である。

何であれ我々は生き残った。
だが、生き残ったのは我々だけなのだろうか…?

あの日以来、外部と連絡する術も失われてしまった。
この国の民で生き残ったのはわずか数百名。
数ある避難所の内、私がいた一つだけが偶然あの災害を乗り越える事ができた…



ほむら「天変地異…?」
リリカ「どういうこと…この世界は、まさか一度滅びたってことなの…?」
諏訪子「…かも知れないな。
   漫画でよくある、世紀末ネタって奴だが」


…避難所を出て数日後、問題が発生した。
食料の生成機関が深刻なダメージを受けていたのが発覚したのだ。

しかも研究グループの調べで、荒野に実る果実、野菜は毒を含んでいるとわかった。
それらを食す野生動物も同様に毒を持つ。
生成機関から満足な量の食料を得られず、原始的な農業、牧畜、そして狩猟もままならない。
我々が避難所に隠れている間に世界は変わり果ててしまった。


今日、議会が結論を出した。
遂に計画が着手される。
私も重要な役割を任される運びとなった。誇らしい気持ちだ。


毒を含まぬごくわずかな植物を糧に、我々は命を長らえてきた。
しかし食糧不足の問題は日々、肥大化している。

生き残る為のプランは主に二つあった。
我らの体を環境に合わせて適応させるか、環境そのものを変えるか、だ。


長い議論の末、議会は後者を選んだ。
その計画を、我々は世界樹計画と名づけた



諏訪子「世界樹計画…!
キバガミ「環境を…変えるだと…?
    それは、まるでバルドゥール殿がやろうとしていたことと…」
ローゲル「そうだ。
    先帝…そして今の陛下も、手段は違えど目指していた場所は同じだった。
    おそらくは…」


…人数で劣る我らには、プランを実行する為の協力者が必要だった。
我らは我らを助ける「使徒」を作りだす行動を開始した。

しかし「使徒」が「生物」である以上、維持には当然食料が必要となる。
大量の食料を消費しては本末転倒だ。

そこで使徒の体を我らは調整し、荒野の植物、生物が持つ毒に耐性を持たせた。
これには別プランの研究準備が功を奏した。
こうして我らは、我らの計画を進めるための準備を整えていった。


最初の使徒は『武に優れた者』。
彼らの仕事は、荒野で活動する我々の護衛と、肉体労働だ。
変異した野生動物の肉体を参考に作られた彼らは強靭で、配合した動物の血により様々な外見の者が生まれた。

第二の使徒は『知に優れた者』。
彼らの仕事は、我々の研究の補助だ。
彼らは人間に匹敵する知恵を得るに至った。
しかし体は極めて弱く、過酷な実験には耐えられそうにない。
私は彼らの非使用を提唱したが、議会はそれを否決した。


第三の使徒は『眠らぬ者』。
第二の使徒を参考に作られた究極の存在だ。
優秀な、人間とはかけ離れた存在だ。
彼女らは『女王』が単身で仲間を増やし、成長が早く、眠りを必要としない。
単体の能力が低いがそれは些細な問題だ。

そして特筆すべきこととして、「彼女」らは意思疎通に言葉を要しない。
「彼女」らは種で意識を共有しているのだ!


その不安定さを理由に使用を反対する輩もいたが、彼女らには最も重要な、研究成果の管理と護衛が任されることとなった…



キバガミ「これは…イクサビトとウロビトのことか…!
    我らの伝承で「人の手から生み出され、育まれた」というのは…この事を言っているのだな」

僅かに悲しそうな顔をするキバガミ。

キバガミ「…しかし、この「第三の使徒」とはいったい…?」
穣子「そういや、前にイワォ…イワなんとかって言う怪鳥のところへ行った時に、ウーファンが言ってたじゃない。
  実は人間とイクサビトとウロビトの他に「知られていないもうひとつの種族」がいたって」
ほむら「…多分…違うと思う。
   穣子さん、種族で行動が気味悪いくらいに統一されてて、しかも「女王」が存在する種族…私達は戦った事があった筈」
穣子「えっ…!?
  ちょ、ちょっと待ってほむら、あんたまさか、これがホロウのことを指しているって言いたいの!?
諏訪子「概ね、間違っちゃいないと思うよ。
   穣子、ほむら、ウーファンはホロウの言葉を聞いた事がある、そんな事を言っていなかったか?」
穣子「え?
  うーん…そういえば言っていたかいなかったような」
ほむら「シウアンを連れ去ったホロウはウーファンに「お前には巫女を任せられない」と言ったそうよ。
   ウロビト達は、ウーファンだけがホロウの言葉が聞ける、とも言っていた。
   ホロウがウロビトを元にしてつくられた種族なら、ひょっとするとそういう者も稀にウロビトにいてもおかしくない気はするわ
ローゲル「成程、そうすればクイーンを何度撃退してもじきに力を蓄えて復活する理由も解るな。
    ホロウの特性を考えれば、番人としては最適だろう…意思共有が可能なら、女王に一定以上の知性を与えてさえあれば」
諏訪子「そういうこった。
   それにそれなら、クイーンがシウアンの近くにいた理由も納得がいく。
   …シウアンは「世界樹」を制御する「心」なんだからな


…計画は順調だったが、一点懸念があった。
それは世界樹の力が我らの手に負えないような事態が発生した時の対処だ。

計画の反対派は世界樹に集められた膨大な力が暴走したら、止める術はないと主張する…非常に程度の低い議論だ。
暴走そのものがありえないと私は説明したが、議会の無知な連中は奴らの言い分を認め、世界樹を止める手段の作成を命じた。

この指示により、世界樹の力を糧に成長し世界樹そのものを喰らう異形の生物の研究が始まった…



かごめ「つまり、それが「殿」の所々で見つかっている「蟲」のことか」
諏訪子「お?
   早かったなかごめ、幽香はどうした?」
かごめ「これで22ラウンド闘って3勝4敗15無勝負だな、本気出されたら街ふっとぶしこっそり持ってた柳葉飛刀投げてきた」

幽香「(アワレにも額に飛刀を突き刺された状態で石になっている)
魔理沙「(丁度帰ってきた)( ̄□ ̄;)うおなんぞこれ!?」
大妖精「あーえっとその…しばらくそのままにしとけって、かごめさんが^^;」

諏訪子「お前もだいぶえげつないなww」
かごめ「あんたにいわれたかねえわい。
   そういえば、此間リリカ連れて地下三階に行った時に、あたしも一冊拝借して来ててな」
諏訪子「えっ何時の間に」
かごめ「あんたがネガっている間の話だ。
   きっつかったぜえ…つかホロウメイガスと赤獅子とライデンジュウとか大真面目に死を覚悟したわ…なんであいつら組んで出てきやがるのかと…」
リリカ「(思い出して真っ蒼な顔でガタガタ震えている)」
諏訪子「( ̄□ ̄;)それしょっぱいな!
   一体どうやって切り抜けたんだよそれ!?」
かごめ「電光石火でライデンジュウ、メイガスの順で先に潰した。
   最悪、ライデンジュウ巨大化させてでもメイガスを優先的に潰した方が得かも知らんな。聖印とパーティヒールガンガンに回せばどうにかならん事もないが。
   ただ大王ヤンマ2匹とライデンジュウは最適解が得られん。ヤンマをギリまで削ってまとめて始原でふっ飛ばすしかないんかな。
   …まあそれはいいだろ、とにかく今は、こいつだ」


♪BGM 「Inevitabilis」/梶原由紀(ほむらのテーマ)♪


…ここに告白する。私は間違っていた。
私は世界を救うという甘美な熱病に冒され、まるで、何も見えていなかった。

議会は世界樹の力の発現を強行するだろう。まだ早い!

また何故、世界樹停止の手段の研究が進められているのもわかった。
彼らは自分たちの手に負えなくなったとき『蟲』を使うつもりなのだ。
馬鹿げている! 『蟲』自体、手に負えない化け物なのに!


先程、妻と娘に別れを告げてきた。
私は命を賭け、今日の実験を止めるつもりだ。
同じ過ちが、繰り返されてはならない…!!



文章はここで途切れている…。
集まった面々に言葉はない。

かごめは、言葉を選ぶようにそれを口にする。


「丁度…つぐみとこいしも居たなあの時。
覚えてるだろう…?
地下二階の奥で、血に塗れた家族の人形を
「うん…離れ離れになっていたお父さんとお母さん…そして、女の子の人形。
…どうして…みんなそういう事を繰り返しちゃうのかな…」

俯くつぐみの瞳から、涙が零れ落ちている。
リリカも悲痛な表情で目を背ける。

「あの時、一番鋭敏に反応したのはこいしだった。
多分…この書き主は拷問の末、家族諸共殺されたんだろう…見せしめとしてな。
あいつを宥めるのが大変だったが…あいつが泣き喚いてくれなければ、あたしがそうしていたかも知れん。
……彼は最後に己の過ちに気付いたが、総ては遅すぎたんだ。
言っていたよ…君たちの力で、あの怪物を止めてくれ…と」
「…そうですか…あなたも聞いたのですね、あの声を。
私達に訴えるかのようなその慟哭を」

そこに、さとりが現れる。
頷くかごめ。

「何故だ…何故人間は、このような愚かな過ちを繰り返す…!?
脅威を取り除くために、それ以上の脅威を生み出し…!
そして何もかも事を急ごうとする…!!」


怒りと悲しみの綯交ぜになった表情のキバガミが、拳を振るわせる。


♪BGM 「たったひとつの願い」/伊藤賢治(ロマンシング サ・ガ ミンストレルソング)♪


「人間は…それ総てが愚かな存在じゃないよ。
人間はみんな、生きるのにちょっと必死なだけなんだ…ただ、それだけなんだよ」



その言葉は、穣子の口から発せられたものだった。

「穣子殿…」
「私さ、何十年も何百年も、あの中で一緒に笑ったり泣いたりして来たから、わかるんだよ。
きっと、こうやって世界を救おうとして連中だって、最初から間違いを犯したくてそうしたわけじゃなかったんだと思う

そうして、彼女は懐から一枚の紙を取り出す。

「これ、実はバルドゥールを助けた時に偶然見つけたんだけどさ。
出す機会がなくてずっと持ってたんだ」

そう言って、寂しそうに笑う彼女が差し出した紙にはこう書かれている。


私たちは何も理解していなかった。
先人たちが過ちに至った理由を。自分たちが目指していた物の正体を。

絶望は悪意からは生まれない。

良かれと行われる行為の積み重ねを温床に、それは育つ。

だが、私たちの試みを誰が否定できよう。
糾弾する者がいるなら教えてほしい。


明日の為…足掻くことすら諦めるならその生に何の意味があるのか



「…きっと、誰もが最初からそうしたかったんじゃないんだよ。
みんな、必死過ぎたんだ。
ローゲルだってバルドゥールのこと、言ってたじゃない…「殿下はもう御自分の力で止まれなくなっているんだ」って。
…この人間達も…きっとそうだったんだと思う」
だったら、止めてあげられる私達がいるのなら…そうしてあげたい、だよね?

ほむらの言葉に頷く穣子。
お互い泣き笑いの表情だが、その光景に他の面々も溜息を吐く。

「…ふっ、その言葉を出されてしまうと…俺としても何も言えなくなるな。
殿下…否、今は陛下か…俺が陛下にそう願った事を、先人達に対して想いを馳せられるのも、やはり神であるが故か…」
「拙者は僅かに違うと思うがな。
例え神であろうが無かろうが…「穣子殿」ならそう言われよう。
…その心意気、拙者の武を預けるに十分有り余る理由だ!」

キバガミの言葉に、そうだな、と頷くローゲル。

「俺達の力が何処まで役立てるかは解らん。
ここまで、共に乗りかかってきた船だ…最後まで、つき合わせてもらうよ」
「可能であれば、我らもその「蟲」とやらを止めるのに同道させてもらいたいところだが…力が足りぬなら、せめて支援のために全力を尽くそう。
「殿」の探索は、それ自体が苦難の修行に相違ない」

その言葉を受けて、かごめはにやりと笑う。

「そうだな。
こいつは同じタイミングで失敬してきたもんだが」

かごめは皮袋から円筒形の何かを取り出し…それを見てさとりが声を上げる。

「あーっ!!
それ探してたんですよ!まさかあなたが持ち出してたなんてっ…!!」
「なんてって…さとりさん心読めるじゃない」
「…そこの黒髪は最近、境界操作を利用して複数の思考をいっぺんにしやがるから、心を読むと逆に疲れるし意図的に読心対象外にしてるのよ。
だからこいしもだけど、かごめさんの心も基本的に読めないというか読まないだけ。
その癖忘れた頃にコノヤロウは、私からコピーした第三の眼使いやがりますからね…」

呆れ顔のリリカに、苦虫を思いっきり噛み潰したような顔で弁明するさとり。

「ふっふ、そういうことだ。
あんた達はどうせ同じタイミングで、こいつに何を入れるかの資料を持ち出しているんだろう?」
「まあ隠すほどのものじゃないからね」

得意げなかごめに苦笑しつつも、ローゲルは紙片を挟んでいるバインダー…恐らくかごめ達が持ち込んだものだろう…を差しだす。


「恐らく、これは…何かの作成のヒントだな。
これをうまく使えば、中にいる「蟲」を大幅に弱らせる事ができるかもしれない」