一週間の時間が過ぎた。
調合成功の結果を受け、八意永琳が作って寄越した中和剤は5本。
薬剤そのものの材料が希少な分、それを中和する為の薬の材料もまた稀少なモノ…故に、この機会を逃せば次に「蟲」に挑める機会は気の遠くなる先の話になる、との事付けだった。
「戦いの場に赴けるのは五人まで。
故に、ありとあらゆる状況を想定し、それに対応できると見込んで選んだメンバーだ。
静姉、諏訪子、レティ…あんた達三人、悪いがこのあたしに命を預けちゃくれないか」
頷く三人。
「仕方ないわね…けれど、私もあなたと組んで戦ってみたいと思っていたところよ。
それが実質的な最終決戦になるとは思いもしなかったけど」
「…あんたにはでかい借りができちまってるからな。
あんたに出会って数年、十分に幸せな夢を見れた。
……だが、まだここで心中するつもりはねえ。やるからには勝ちにいくよ!」
「このまま出番がなきゃどうしようかと思ってたわよ。
あんた達が気分良く暴れられるよう、後方はしっかり固めて見せるわ!」
その言葉を受け、こちらも鷹揚に頷くかごめ。
そして一度眼を伏せ、歩を進める。
「…正直、最後の一人は迷ったよ。
単体大火力と全体攻撃、防御能力を総て兼ね備えている奴は結構いる…だが、時にあたし達の誰かが倒れた場合、誰かが十全な戦況把握ができないでいた場合…全体的な指揮統率ができる奴が他にいるか、そう考えた時にそいつの名前しか出てこなかった」
その少女の肩に手を置き、告げる。
「リリカ、最後の一人はお前を選びたい」
-続・狐尾幻想樹海紀行2-
その15 「神話を作るモノ達」
静葉「……とりあえず遺書は書かずに済みそうだわね」
諏訪子「おーい第一声がそれかよ。
しかし思い返せばすごいパーティだよなって言うか、実は静葉を幽々子かキバガミに、リリカをつぐみにしてもそんなに変わらない気がするなあ」
かごめ「そこまで解ってるんだったら、あたしの代わりにゆうかりんか魔理沙でもいいと気づくと思うが。
確かにぶっちゃけ最後に迷ったのはリリカとつぐみどっちを起用するかだったな。
決め手があるとすれば、インペリアルの属性ブーストとコンバーターのTP回復に期待してという点かな」
静葉「単純に狐野郎の好みで「かごめ分は足りているのでリリカ分を補充します」というくっだらない理由からなんじゃないかと思ったけど、案外マトモな理由だったのね」
かごめ「いやあそんなの多分後付けだろうしメインの理由確定的にそれだろ」
諏訪子「でっすよねー。
ただ編成としては普通にバランスは取れているんだが」
静葉「強力な全体攻撃を持ってるメンバーが私含め3人いるわね。
範囲攻撃が必須なのはまあ、これからの解説で解るでしょうけど」
かごめ「じゃあ、敵さんのデータ見てみようか」
悪食の妖蛆
HP10000 耐性、弱点なし
消火液(頭) 全体に無属性攻撃+物理防御ダウン、必ず1ターン目に使用する
ヘビープレス(脚) 拡散壊属性攻撃
地響き(脚) 全体に近接の壊属性攻撃+スタン
防護の糸(頭) 物理防御アップ
力の暴走(依存部位なし) 全体に自爆による無属性極大ダメージ、必ず8ターン目に使用し7ターン目は予備動作で行動が止まる
かごめ「まずは前座、蟲だな。
こいつは初手の消火液と最後の自爆以外、脅威はない。むしろこんな奴に手古摺るようじゃ本尊と戦うなんて夢のまた夢だな」
諏訪子「面倒な技は多いが属性もはっきりしてるしな。
実質、7ターンで撃破する必要があるわけだが」
かごめ「一応8ターン目にジオ撃つなりして妨害すると、9ターン目で再度待機して10ターン目に暴走するらしい。
因みにこの自爆ダメージ、レベル90くらいのフォートレスがバフデバフ重ねて後列防御すればようやく耐えられる程度のトンデモ威力なので、素直にイージスの盾使うかそれまでに潰しきるのが賢い」
静葉「でも、強化とかの持ち越しができるからギリギリで止めといて、準備を整えてから7ターン目に撃破、とした方が得かもしれないわね。
私達はさっさと始末したけど」
諏訪子「んだなあ。
こんなのにバーストゲージ使ってやるなんて勿体ねえ話もねえ」
…
…
かごめの放つ逆風の太刀に切り裂かれ、バッサリと開いた傷口から形容し難い悪臭の体液を吹きだし、蟲はそのまま動かなくなった。
「やった…のか…?」
あまりにもあっけないその結末に、諏訪子は恐る恐るという風に言う。
しかし、蟲そのものが動かなくなったというのに、その凄まじいプレッシャーは途絶える気配はない。
青白い光を放っていた蟲の複眼も黒く濁ったまま、生気など感じられない。
逡巡する面々はなおも次の事態に備え、獲物を構える、その次の瞬間…。
気持ちの悪い鼓動が響く。
蓄えられた狂気のエネルギーが、蟲だったモノから爆発的に噴出する!
♪BGM 「Misgestalt」/浜渦正志(SaGa FrontierU)♪
宿りし蟲の外皮を突き破り、おぞましき究極の生命が花開く。
それはまさに、歪んだ神樹というべき代物。
「こいつが…喰らう者か!」
「来るわよ!」
レティがそう叫ぶと同時に、鋭い鉤爪をもつ蔦が高速で襲いかかってくる。
紙一重で回避しつつ、視認される巨大な蔦触手の数は四本。
それは次から次へと、独立した意思を持つかのように襲いかかる!
「くっそうマジかよ!?
こいつら全部つぶさないといけねえのか!?」
「本体狙おうにも邪魔なことこの上ない…かごめ、どうする気よ!?」
「こういうときの策もあるって言ったろうが!
静姉、リリカ!このターンでアレ全部つぶすぞ!」
かごめは叫ぶや否や、魔力を解き放つ。
「来たれ炎精光精、灼熱の嵐に輝き纏い薙ぎ払え!“閃光の熱風”!!」
強烈な閃熱の嵐が遅い来る触手蔦を圧で押し返す。
かごめの狙いを悟った二人は即座に追撃の体勢を整える。
「舞い踊れ、暮れゆく秋の緋の嵐…天剣“
「契約により我に従え、永劫の紡ぎ手、星の巫女。
来たれ星辰の輝き、天罰の光陰!天空彩る悠久の光、十重二十重に渦嵐の衣となり、万象悉く主の懐へと還せ!
“星海の殱光”!!」
空間総てのことごとくを薙ぎ払う緋の閃光に続き、光子の渦潮が怯んだ蔦触手を一気に吹き飛ばす。
しかし…本体は殆どダメージを受けた様子はない。
次の瞬間、本体の瞳が破裂音と共に見開かれ、補助や防護の術式が総て吹き飛ばされる…!
「…DQラスボス名物凍てつく波動か、小癪な」
「ここからが本番だよ。
あんた達、気を抜くな!行くぞっ!!」
…
…
かごめ「というわけで第二ラウンド突入ですな」
諏訪子「ですな」
静葉「しかしまあ、今回はラストといいこれといい、向こうも多数とか結構しんどいわねえ」
諏訪子「言われてみりゃそうさな。
前作は実質海都ルートがラスボス2人だったくらいで」
かごめ「とりあえずお約束のスペック紹介だな」
歪みし豊穣の神樹
HP70000(弱体時は35000) 弱点・耐性なし(弱体時は全属性が弱点)、ただし瞳を閉じている間はあらゆるダメージが90%カットされる
瞳を開く(依存部位なし) 異常・弱体・封じを回復、特定ターン経過及び蕾・鉤爪撃破で使用
瞳を閉じる(依存部位なし) 異常・弱体・封じを回復、蕾・鉤爪を復活させる
消散の波動(頭) 全体の強化を解除
消耗の結界(頭) 次の行動時のTP消費を倍にする(この技の直後に消費するスキルのTPが、このスキルの効果で残りTPより大きくなっているとスキル発動が失敗になる)
メギドフレイム(頭) 全体炎属性攻撃
カオスブリザード(頭) 全体氷属性攻撃
サイクロンボルト(頭) 全体雷属性攻撃
深緑の聖櫃(頭) 全体無属性攻撃、蕾・鉤爪の残数ぶん威力が増加する
混沌の抱擁(頭) 全体に即死以外の状態異常をランダムで与える
※以下の技は弱体化時には使用しない
虚無の結界(頭) バーストゲージを1本分減らす
神々の黄昏(依存部位なし) 全体に回避不能の即死攻撃
悪を尊ぶ背徳の蕾・自己愛で花開く蕾・勇気を嘲笑う鉤爪・欲に狂う黒き鉤爪
HPは各3000 弱点・耐性なし
蕾共通技
ライオットランス(腕) 全体に5〜7回ランダム突属性攻撃+全部位封じ、蕾2種の連携技
レイジングバッド(腕) 単体突属性攻撃+スタン
ヘッドクラッシュ(腕) 貫通突属性攻撃+頭封じ
テンタクルロッド(腕) 一列突属性攻撃+麻痺+物理防御ダウン
鉤爪共通技
ギロチン(脚) 全体に斬属性大ダメージ、鉤爪2種の強力技
デスハング(脚) 単体斬属性+即死
グランドシザー(脚) 一列斬属性攻撃+盲目+物理攻撃ダウン
アームクラッシュ(脚) 拡散斬属性+脚封じ
静葉「もうなんか「これはひどい」も言い飽きたわね(呆」
諏訪子「裏ボスだから仕方ねえだろ。
FF8のオメガウェポンだのDQ6のダークドレアムだのよりは可愛い方だと思うよこれでも」
かごめ「実際に、弱体化させると歴代世界樹シリーズでも屈指の狩りやすさだと言われるな。
安定して狩るなら難易度カジュアルと組み合わせると非常に手っ取り早い」
諏訪子「まあ…世界樹武器揃える為の狩りを安定させるなら、カジュアルに切り替えると楽だわな」
静葉「そんな事はいま重要じゃないんじゃないかしら。
なんか恐ろしい事もいくつか書いてあるけど、私達が挑んだということで弱体化状態から中心に話をしましょうか」
かごめ「うむ。
まず弱体化させると、本体HP半分になる挙句に全属性が弱点になり、挙句技の威力も激減した上で技を2つ使用しなくなる。
さらに蕾・鉤爪が居る間本体も基本的に行動せず、蕾・鉤爪も、交互にしか行動しなくなるんだ」
諏訪子「えっあれでも威力弱くなってたの!?
リリカの聖印はそれほど高いレベルじゃないけど、三色竜鯉とセットでそれでも半減くらいにはなるし、それでも三色攻撃全部250近く食らった気がするんだが」
かごめ「ああ、あれ弱体化してもなんのバフなしのままなら500くらいは普通に喰らうらしいから」
諏訪子「ひっでえ…なんだそれ」
かごめ「因みに、本体は瞳を閉じている間は基本的に消耗の結界くらいしか使って来ないらしい。
鉤爪か蕾をひとつでも潰すと瞳を開いて、苛烈な攻撃を仕掛けてくるが…実はこれも弱体化させると行動パターンが固定化される」
諏訪子「そうなのか!?
…そういえばリリカが的確に聖印張れてたのはなんでなのかと思ってたら…」
静葉「通常時も基本は一緒らしいんだけど、弱体化すると三色攻撃+混沌の抱擁を使うタイミングが固定されるみたいね。
表にするとこうなるみたい」
瞳を開く(開く行動までダメージ90%カットの状態は維持される)
消散の波動
メギドフレイム
カオスブリザード
サイクロンボルト
混沌の抱擁
深緑の聖櫃
瞳を閉じる(閉じる行動までダメージは減衰しない)
消耗の結界(蕾・鉤爪復活した状態で使用)
静葉「基本的に開眼からの7ターンの間しか、本体にダメージを与えられないと解釈してもいいわね。
そもそも鉤爪が居ると蕾とセットで本体も後列に行くわ」
かごめ「鉤爪・蕾の連携技は受けると非常に被害がでかい。
特に鉤爪のギロチンは凶悪な威力だし、こいつらは最悪でも2ターン以内に全滅させたいところだな」
諏訪子「その為にお前が先手で起動符を使うのか。
TEC的に使い道ないだろと思ったら、悟りの補正を撒くのが目的だからダメージはどうでもいいわけだしな」
かごめ「これも攻略動画の受け売りなんだけどな。
本当はうまくチャージ衝破と輝き始原で綺麗にふっ飛ばしたかったんだが、なかなかうまくいかなくてなあ」
静葉「ターン管理の甘さが出たってことね。
少なくとも瞳が閉じるターン、私にチャージはさせるべきだったわね」
諏訪子「リリカの行動補正も遅くして、向こうに先手取らせて瞳閉じるターンに輝きを乗せる算段もするべきだったな」
かごめ「仰る通りで。
あと起動符も不測の事態に備えて目一杯買っとけばよかったかな」
諏訪子「あとまずかったの、この行動パターン知っててなおも混沌の抱擁の存在最初忘れてただろ。
見事に石化しやがって…もしあの時レティが行動の可能な呪いじゃなかったらどうなってたことか」
静葉「…私も気づいたらリリカを叩き斬ってたわね…混乱で;ーー)」
かごめ「サーセンwwwwwww
けれども全体的にそれ以降はそこまで危なげはなく行ったとは思うな。
欲を言えばレティにアタックタンゴ持たせとけばよかったかな、と」
静葉「無くても良かったけど、意外に手持無沙汰だったしねあの子」
諏訪子「蕾鉤爪を高速で全滅させる戦略上、挑発の用事もあまりないからなあ」
かごめ「いかにダンスフォートレスのサバイバビリティが高いかを証明するような一戦だった気もするしなあ。
あいつ一体三色と聖櫃何べん回避したよ」
諏訪子「忘んたなあ…5回くらいはしたの覚えてるんだけど」
静葉「下手したら常時オールディバイドさせときゃいいんじゃないかって勢いだったわね」
かごめ「ついでに通常時のパターンも参考までに」
瞳が開く
神々の黄昏
三色攻撃か抱擁のどれかランダム
同上
同上
深緑の聖櫃
瞳が閉じる
消耗の結界(閉じたターンに開眼の条件を満たしていればスキップ)
瞳が開く
消散の波動
三色攻撃か抱擁のどれかランダム
同上
同上
深緑の聖櫃
瞳が閉じる
虚無の結界(閉じたターンに開眼の条件を満たしていればスキップ)
瞳が開く
(以降、最初の開眼時のパターンからループする)
諏訪子「これ蕾と鉤爪の処理に手間取ったら普通に死ねってことだよなww」
かごめ「だよなwww」
…
…
♪BGM 引き続き「Misgestalt」♪
さとりの境界操作による、空中に移るその光景は、かごめ達と「喰らう者」の死闘。
「殿」の見下ろせるその位置、選ばれなかった二十数名のメンバーが、固唾を飲んでその戦いを見守っている。
ただその光景を「見る」だけであれば、わざわざこのような場所に来ずとも済む話だが…選ばれなかった彼女達も、せめてその近くで見守りたいという思いから、その場所まで足を運ばせていた。
初めて遭遇する強大な魔物に対しても、圧倒的かつ迅速にその体制を切り崩し、有効打を与え続けるその姿に、息を飲む面々。
「こんな戦い方があるんだ…!」
穣子が呟く。
「その場の状況に応じ、時に腕となり脚となり胴を成す。
まるで、一柱の闘神の様だ。
あのうちの誰が欠けても…こうはなるまい」
唸るように言葉を吐くキバガミ。
「そうね。
今の私達は、あの場に立つ事を許されなかったんじゃない。
…この戦いを見届ける立会人に選ばれた…そう思うべきなのだわ」
「私…私、は…」
幽々子の隣で…この地へ来てからめっきり口数の少なくなっていた天子が口を開く。
「…私は…ずっとただ一人しか見ていなかった。
「誰かを守る者」というそのきらびやかな外見ばかりに目を囚われてばかりで、何も見ていなかったんだ。
…その意味を理解する事さえもしないで」
その瞳から涙が零れ落ちる。
「解ったんだ…私がついて行っても、きっとああいう風にはなれないんだってこと。
私はただ、「ブロントさん」という偶像ばかりに目を囚われて、あのひとの本質も理解しないでただ、それを真似ることしかしてなかったんだって。
仲間を守る盾…自分を守る事を顧みない者に…勤まるんじゃないって…やっと…!」
幽々子はそっと、その肩を抱き寄せて諭す。
「誰かを守る、という事は簡単なことじゃない…そのカタチも、ひとつだけではないの。
けれど、一番重要なその原点は「視野を広く持つ事」だと、私は思うわ。
ブロントさんとレティ・ホワイトロックの優劣の差を問われれば、その答えを出すのは非常に難しいこと。
…あなたも…「ブロントさん」にならなければならないという制約は何処にもないのだから…!」
「できるのかな…わたしに…?
私だけのあり方を…見つける事が…!?」
「それは、あなた次第よ。
大丈夫…迷った時は、私達でよければいくらでも力になる」
その二人の様子を見ながら、ほむらは思い返す。
彼女もまた、旅に出るまでの自分自身と同じなのだと。
彼女はその傍まで歩み寄ると、その手を取って頷く。
「…この世界で、共に同じギルドにいる限りは…私達もあなたの仲間だから。
だから…解らない事があったら、私達も力になれればって思う」
「そういうことだぜ。
びっくりさせてやろうぜ…今度、あいつと再会した時にさ!」
「うん…!」
悪戯っぽい笑みを浮かべる魔理沙も、そうやって彼女を励ます。
涙に濡れるその顔は、微笑っていた。
「…やはり、外には出てみるものですね。
私が地の底へ追いやられた頃には、このような中に自分が居ることなど、到底想像もできませんでした」
「君の貌は、レミリア君と似て苦労人のそれだからな。
君らを見てると…十年ぶりに再会した陛下の顔を思い出す事もあったが」
「正直に「顔の割に老け過ぎてる」と仰っても構わないですよ?
私に心を読む力がある、という事は幾度も説明したかと思いますが?」
「いやあ、悪い悪い。
けど、それなら俺が今どう考えているかもわかっている筈だよな?」
皮肉めいた笑みで返すローゲルに、さとりはにわかに頬を染め「知りませんっ」とそっぽを向いてしまう。
それを傍目で見つつ苦笑を隠せないこいし。
「お姉ちゃんも、つつかないでいい藪蛇をつつきだすから。
ローゲルさんの方が一枚上手だったね」
「けど、初めて出会った時に比べて、さとりさんの表情も随分柔らかくなった気がします。
お姉様も随分と変わってしまったけど…お姉様もさとりさんも、自然な表情で笑う事が多くなった気がするんです。
…私の…私達の見ている世界はどんどん変わって行く…でも、決してイヤな変化じゃない」
「そだね。
私だっていろいろなものをみつけられて、今の私が居る。
リリカやポエット、静葉さん達と一緒に旅に出て…世界はこんなにあたたかくて、広いんだって思って」
こいしはフランに向き直る。
「勝てるよね…かごめさん達は」
「私達が、それを信じないでどうするんです。
私は…それを見届ける為に、間近で見たいがために、こうしてここまでやってきたんだから…!」
その寂しそうな表情に、フランは頷く。
…
♪BGM 「Todesengel」/浜渦 正志(SaGa FrontierU)♪
戦いは佳境を迎える。
再生成される触手は次第にその強靭さを失いながらも、本体の力の減衰を感じて、自身の生命活動を守るという本能に従って攻撃の苛烈さを増し始める。
本体も強毒に侵されながらも、なおも瘴気を放ち、行動の阻害を狙ってきはじめていた。
一時的な力の減衰が静葉を襲い、その攻撃を放てなくなるほどの消耗感を与え動きを止めさせる…!
「(しまっ…!)」
「ちっ!
やらせないわよッ!!」
迫る触手の連携攻撃から、レティは軽やかなステップと共に割り込み、なおかつ体勢を崩す静葉の身体を抱きよせながら後方へ飛んでかわす。
ただ、守るだけではない。
自身と守るべき者、両方を守る彼女の新たな守りのスタイルが、この死闘の中で見事に開花する。
「…ありがとう、助かったわ」
「その言葉はまだ早いわよ、今は攻撃に専念して!
守りはすべて私が引き受ける!!」
そして、着地の勢いをそのまま利用して静葉を中空へ解き放つレティ。
その勢いを利用した静葉の刃が再び空を切り裂き、触手の群れをズタズタに引き裂いていく。
その一方でリリカもまた、大魔法の行使に必要な詠唱を要しない、新たな技の切欠を掴みだそうとしていた。
「(最初から…そのイメージは見えていたんだ。
…猿真似の技が通用するとは思えない…でも、そんなのは私の見栄に過ぎないんだ。
解ってる筈よ、私。最大限に高めた魔力を、そのまま攻撃に転用する為に一番の形がどうであるかを!)」
彼女は魔力を収束した右手を突き出し、左手を添えて照準を安定させる。
開かれた掌を中心に、展開される楽譜の魔法陣の中心…そこに、凄まじい純粋魔力の波動が光を放つ。
「あれ!
あの技、もしかして幽香と魔理沙の!」
「…そうよ、リリカ。
遠慮することはない、いかなる形であれ、身につけたモノであればそれはあなた自身の技。
思いっきりかましてやりなさいッ!」
驚愕に眼を見開くチルノの傍らで、気合を入れるかのように幽香が拳を空に突く。
「吹っ飛べ…恋歌“レゾナンスドライブ”ッ!!」
その威力を察知し、静葉に続いて接近戦を挑んでいたかごめと諏訪子が最小の動きでその軌道上から退避する。
七色の光華を纏う、純粋魔力の波動が瞬時にして蔦触手達を粉砕する。
「よっし、よくやったリリカ!
ケロ様、静姉、体勢を立て直せ!向こうもこっちももうあとはねえ、これで決める!」
「応よ!!」
「承知ッ!!」
本体の魔眼が再び開眼する。
補助呪法の総てを打ち消すそのオーラが放たれるより前に。
「これが最後のチャンスよ!
“木枯らしの舞”!!」
レティの放つ冬の風が、攻撃の体勢に入った三人の速度を限界以上に高める。
「行くぞッ、藤野新陰流奥義「燕飛六連・五月雨斬り」!!」
新陰流燕飛の型総ての斬撃を繰り出すかごめの剣に続き、諏訪子がスタードロップで追撃をかける。
「決めろ、静葉!」
納刀し、静かに目を閉じて気を統一いていた静葉の目が、見開かれる。
そして、一陣の微風の如く、軽やかに駆け抜けるその手には…何時の間に抜刀したのか白刃が煌めいている。
「…「無月散水」は、私の「動」の秘剣。
今の名もなき剣は、それと対を成す「静」の極み」
納刀の鍔音と共に…おぞましく見開かれたままの魔眼を切り裂き、唐竹割りのように剣閃が走る。
「そうね…「無月愁水」とでも名付けようかしら」
名状し難い絶叫と共に、真っ二つになったその魔樹はぼろぼろと崩壊する!
少女達の不屈の闘志が今、人知の及ばぬ深緑の権化を討伐した。
その瞬間、見守る少女達からも歓声が上がる。
かごめはそのとき、消えゆく緑の瘴気の中で、その声を聞いた。
ありがとう、と。
…
「…これで、この地で成せる事はすべて終わったのね」
「そうだな。
本ッ当にいろんな事があったが、まさか私達の手で最後のダメ押しをやっちまう事になるとはな」
「あら、何か思うところがあるのかしら?」
安堵の息を吐くレティの問いに、諏訪子は首を振り「…いや、そのな」と前置きする。
「あたし達はどっちかと言えば、もう本来ならこういうのを託す側のモンだと思ってたからな。
かごめの野郎はたかだか六、七百年そこらしか生きてねえ若造吸血鬼の分際で、そんな年寄りの腐ったようなこと考えてたみたいだが…私や静葉なんてもう、千年単位で存在していた神格だ。
早苗に後事を託して隠居生活してても本当はいいくらいだと思ってたしな」
「何言ってやがる。
二千年も三千年も存在するくせに、ちょっとしたことでネガって落ち込むような祟神なんてまだまだじゃねえか。
第一あたしにだって可愛い娘が居るってのに、こうやってまだ第一線でドンパチやってるんだからあんたばっかそんな楽ができると思ったら大間違いだこの化けガエル」
「じゃっかあしいカエルっつーなマジで祟るぞ。
…ん、まあ今回は私も色々と勉強になった。本当にありがとな…かごめ」
軽口を叩きあいながらも、笑顔で言葉を交わし合う二人。
その光景を、力を使い果たしたリリカに肩を貸す静葉が見守っている。
「気楽なものね、後継者がいる連中は」
「…静葉さん、羨ましい?」
「そうね。
…ルナサがまた目を剥いて怒りそうだけど…私にもあなたのような可愛らしい後継者がいたら、諏訪子のようになってたのかしら」
「あはは…あんな静葉さんはちょっと想像できないなあ。
でもさ」
「ルナサお姉ちゃんやメルランお姉ちゃんばっかりじゃない。
私にとっては…かごめさんも静葉さんも、レティさんも、幽香さんも…みんな「大好きな私のお姉ちゃん」だから」
衒いのないその言葉に、静葉は驚いたように一瞬目を見開き…そして、微笑む。
その言葉に、何故
「…さて、あの連中を連れて戻りましょう。
みんなの待つ…タルシスの街へ」
…
…
かごめ「長かったですな」
諏訪子「ですな。
何ターンくらいかかったっけ、40ターン目くらいで触手を3回目潰してえーと」
静葉「実は地味に、妖蛆からのターン経過も加算されてるのよね。
それでも30ターンくらいかかったことは確かだけど」
かごめ「まあ長丁場だった事は確かだしな。
今まで溜めこんでたブレイバンドもアムリタVもネクタルUも全部吐き出す羽目になったが、弱体化しても流石に裏ボスは裏ボスだった」
諏訪子「実は小話の演出ではああなってるけど、消散のことすっかり忘れて電光石火一回分損してるしな。
しかもスタードロップなんて差し挟む余地がない、挙句オーバーヒートは解除されてないからダブルストライクから静葉のチャージ閃刃入れて終了というのは確かだけど」
静葉「リリカが劫火撃ったのは消散のターンだっけ?」
諏訪子「だね。あれで決まったと一瞬思ったくらいだった」
かごめ「あの直前になるまでドライブマスタリの事をすっかり忘れちまってたしなww
思えば蟲の時に一発入れてても良かったと」
諏訪子「静葉に一度叩き斬られてるからその時点でダメじゃねえかwww」
静葉「返す言葉もないわ('A`)
そして最後の最後まであの黒幕は余力残してたわね」
かごめ「もっとクイックステップ使わせても良かったかも知れんね」
かごめ「というわけで宣言通り、次回で最終回になりますな。
最後のタイムアタックをネタにするつもりだったけど、もうめんどいからパスで」
諏訪子「それも酷いなオイ。
つか、それ抜きにしたら何について触れんのさ」
かごめ「まあゲーム全体通しての感想とか、あとは最終戦に関わった連中のスキル紹介を」
静葉「エピローグというか、まるであかほり作品の巻末座談会のノリじゃないそれ。
つかそれ何時もの事のような気がするんだけど」
かごめ「いいじゃないか、何時も通りで」
諏訪子「そうさな、それがなんだかんだで一番良い気もするしな。
というわけで」
かごめ「次回はエピローグ、今回はここまで!」