少年が辿った道の先は、決まって最後は赤黒い雨が降る景色で終わっていた。

少年は幾度もそれを繰り返し、始めの頃こそ「剛運の持ち主」と言われていたが…思えばその頃から、その言葉が影にあったような気がしていた。
何時しかその影の部分が当たり前のようになり、自分自身もそう思い込むようになっていった。


『仲間殺し』


少年が背負わされた十字架は、あまりにも重く。
その繊細な心を微細に打ち砕くまでに、然程の時間を必要としなかった。

何時しか少年は「孤独」を選び…そして、行き着く当てもないまま、藻掻き彷徨い続けていた。


彼の見る夢は、常に鮮血と血の臭い、そして、彼自身の流す涙で満ちていた。

何故僕だけが生き残ってしまうんだ。
誰も失いたくはないのに。
あの時死ぬべきだったのは…!


だが、この日少年が見た夢は、まるで違うものだった。


いつか感じ取った手のぬくもりが、傷ついたその心を癒やすかのように。
遠ざけていたはずのそれに、縋るように手を伸ばした瞬間…彼は全身に走る痛みとともに、意識を覚醒させる…。



~新・狐尾幻想樹海紀行X~
その8 死神と呼ばれた少年






「目が覚めたみたいね」

はっとして、彼は周囲を見回すと…そこは、あり合わせの材料で作られた簡易テントの中。
自己流の雑な巻き方ではなく、本職である医術師が丁寧に施しただろう包帯の手当がされている自分自身。
そして、その様子を、テントの片隅で座り見守っていただろう、軽鎧を身に纏う、薄い金髪の女性。

「マギニアの姫様が言っていたわね。
銀髪で、自分の背丈ほどもある長柄の大鎌を背負った冒険者に、行方不明になった「樹海探索協力者」を依頼した。
あなたが、その冒険者…そう、名前は

「…そう、です。
僕は…僕の名前は、レオ。
だけど」

少年は、言葉の先を細めて俯く。
金髪の女性…るりは「そう」とつぶやき、嘆息する。

「んまあかくいう私達も、あなたともうひとり…そう「協力者」のシリカと一緒のクチで、あの空飛ぶクソトカゲに拉致られて、気づいたらこの有様なんだけどね。
おかげさんで私達のパーティもめでたく空中分解ってわけ。
つーか私達のメンバーで糸持ってたの誰だったのかしら、さゆちゃんあたりだと思うんだけどなーんで掠われたの私とはなちゃん先輩なのかしらねー」

一転して、蓮っ葉な砕けた口調で肩を竦め、大袈裟に「困ったわ~」と眉根を寄せてみせるるり。

レオと名乗った少年はただ、俯いたまま沈黙を守っている。
彼が横目で見ると、傍らには栗色の髪を持つ女性が、ぴくりとも動かず横たわっており…彼は戦慄する。

「ああ、先輩は寝てるだけよ。
あなたのその怪我治療するのに徹底的にやってくれちゃってさー。
何しろ加減知らないからねー、私眠ってる間もずっとつきっきりで」
「どうして!
僕の事なんて…僕の事なんて放っておいてくれれば!!」

少年は突如として、激昂し声を荒げる。

「僕と一緒に居た兵士達は…僕を助けようとして飛竜を追って、みんな森の魔物にやられてしまった!
いつだって、何時だってそうだった!
僕と一緒に居た人は、こうやって僕だけを残してみんな死んでしまう…だから…だから僕なんてずっとひとりでいたほうが…!
あのまま、僕なんて見殺しにしてくれれば良かったんだ!!


荒んだ…いや、何かに怯えるようなその目のまま、荒く肩で息をする少年の元に、るりはにじり寄るようにして近づくと…そのまま、少年の頬を強かに張った。
打たれた頬に熱と、一拍置いて奔る痛みに…困惑した表情の少年が、心なしか険しい表情をした、紫色の瞳に映し込まれる。

「先輩が寝てたことに、少しは感謝なさい。
それを聞いたのが私でなかったら…顔面に正拳が飛んでくるわよ」

そのまま…るりはレオの傍らに腰掛けたような格好になる。

「私も…ほんの十数年ぐらい前まで、あなたと同じ事を考えていたわ。
あなたも冒険者の端くれなら、聞いたことはないかしら?
この世界とは異なる世界から来た、人間のような見た目の、人間じゃない冒険者の話を」

レオは一瞬、何を問われたのか解らずにいたが…ふと、かつて彼と旅路をともにした「仲間」から聞いた話を思い出す。

特にタルシス、ハイ・ラガード樹海迷宮の探索において、生きる伝説と称されるそのギルドのことを。
そのメンバーが、異なる世界から訪れた、人ならざるモノの…女傑の集団であることを。
その名前を、彼は記憶の中からたぐり寄せる。

「…フォックス…テイル…!
あなたたちが…あの!」
「っても、先輩はともかく私は今回初めてこっちきたんだけどもさ。
あなたが何歳(いくつ)かわかんないけど、こう見えても私はその十倍以上は軽く生きてるのよね。
…そんだけ生きてるとさ、嫌でも親しい人と死に別れていってしまう。
先輩だって、それが辛くて苦しくて、何度も命を絶とうとして…それが出来なかった。

私だって」

レオはそのとき初めて、自分からるりのほうに視線を移す。
その横顔は、酷く悲しげで…恐らくは幾度も、自分と同じような体験を繰り返し…そして、心を閉ざしてきただろうことを直観させた。

「私は、大切な親友と…娘同然の子を、一度自分の目の前で殺されてしまったわ。
何の因果か知らないけど、その両方が今は生きて私の近くには居るけれど…あの子達を守れなかったその辛い記憶だけは、あの悲しい想いだけは、この先もきっと消えないで残り続けるんでしょうね。
…ううん、私はきっと今も、本当は…もう一度、あの子達を…今、一緒に冒険してるあの「腐れ縁の連中」を、みんな一度に失ってしまったらどうなるのか…怖くて仕方ないんだわ。
だってそうじゃない、あんな辛く悲しい想いを…もしかしたらそれ以上のことを、またするかも知れないっていうのに…!」

彼女は手にした槍を強く握りしめる。

「でもね…あの連中も大なり小なり、そういうことを知ってる。
みんな恐がりだから…それを知ってるからこそ、今度は二度とそんな思いをしたくないから」
「でも…でも、それだったら尚更僕なんかと居れば…!」

強く頭を振るレオ。
そこへ、そっとるりの手が重ねられる。

「大丈夫よ。
どいつもこいつも、そのためにはまず自分自身が第一に生き残ることを考えられる、面の皮の厚い連中だから。
無論、この私も…ね」

告げられた言葉…重ねられた手からも、しっかりと温もりが伝わってくる。

「だから、協力。
ここを脱出して、みんな一緒にマギニアに帰る間だけでもいい。
行きましょう、私達と一緒に」

彼はもう一度だけ、それに賭けてみることにした。

「わかった。
その代わり……絶対に、死なないで」


縋るようなその瞳に、力強く頷く女傑の姿が映る。
そのふたりの姿に背を向け、うっすらと目を開けていた葉菜は…何処か満足そうに頷いていた。











静葉「道中何遍も出会うんだけど、そもそもレオは単独であのサソリともやり合ってるみたいなのよね。
  単独であのサソリ相手に生き残るってなると少なくともマスターレベルだと思うんだけど
諏訪子「そういう問題じゃないと思うんだけどなあ」
静葉「…あれ、あの子達は?」
諏訪子「つぐみがるりと葉菜の過去解説したらみんなわんわん泣き出して使い物にならなくなった(真顔」
静葉「まあ、そうなるな(真顔」




静葉「いつも通り今回のNPCなので戦闘には参加しない仕様よ。
  ただ、こういっちゃうのもなんだけど、
レオはガチで居ても全く役に立たないわ。
  同行しているシリカがキングスマーチ習得してるらしくて、移動中にHPが少しずつ回復していくみたいよ」
諏訪子「こういう状況だと欲しいのは労作歌のような気がするんだがなあ
静葉「流石にそれはやり過ぎでは。
  道中はサソリの潜む部屋と、そこを抜ければモアが徘徊するフロアがある。
  モアのフロアを突破して、ようやく上り階段までたどり着ける…まあ道中にもビッグウーズやヤシの木お化け、あと前回解説し忘れてた拡散雷攻撃をぶっ放してくるニードルタイガーに、列に弱体ばらまいてくるロンギスクアマとか大密林のめんどくさい奴らが大挙して押し寄せてくるんだけど」
諏訪子「ロンギスクアマが斥候の長靴の素材を落とすのもいつも通りというかな。
   何気に今回あいつの条件ドロップが優秀な服の素材になるワケだが」
静葉「今回のクエスト大量発生枠もロンギスクアマなんだけどもね。
  明夜君が凍砕斬で狩りまくってたけど」
諏訪子「初回は氷技使える奴居なくてロクにスクアマブリスの在庫作らないで終わったのに今更か」
静葉「そこは多少ね。
  道中は奇襲イベントとかもあるけど、別にこのタイミングで拾う必要も無いというか…NPCの特殊会話を聞くためだけの目的でビッグウーズ+ウーズ2種2体のウーズ地獄に突っ込むっていうのも」
諏訪子「先手取って属性攻撃で一掃しないと死ぬ組み合わせだなあ(真顔」
静葉「スリーパーウーズやビッグウーズの素材持って来いっていうクエストも在るし、その時用に取っておくのも手かしらね。
  ちなみに連中の素材で睡眠薬を作りたいから持って来い、っていう一連のクエストなんだけど、この時のクワシルのセリフというか行動があまりにもサイコパス過ぎてドン引きした、っていうユーザーもかなりいて、ここを許容できるかどうかでクワシルの評価が左右されるポイントになってるみたいね」
諏訪子「なんだっけ、ウーズの素材で睡眠薬作ろうとした依頼人が、二回目の依頼でビッグウーズの素材から作った薬でラリって牙抜いてきたから全力でぶちのめしたってやつだっけ?
   酒場の親父なんだし、結構無法者もいる環境ならそういうトンチキな親父が居てもそんなおかしくは感じないがなあ」
静葉「それがチャメシ・インシデントに感じられるというならあなたも結構異常だわ。
  まあいいわ、兎に角2Fへの上り階段を上り、ワイバーンのいるフロアに戻ってきたら、ワイバーンの背後に抜ける脇道にある抜け道から1Fへの階段前に抜けると、探しに来た衛兵と合流して糸がもらえるわ。
  そこで糸を使って即脱出するか、迷宮の入り口からマギニアに戻れば、無事シリカ探しのミッションはクリア。
  ミッション報告後、飛竜討伐ミッションを受けることができるという流れよ」
諏訪子「さっきのクワシルもだけど、この一連のミッションへの流れから、ペルセフォネも行き当たりばったりすぎるとかそういう評価もあるみたいだな。
   安易に発見直後の迷宮へ一般人を調査に入れるかー、っていう」
静葉「単純にシリカ出したいだけだったなら、別にベルンド工房の子とかエクレアとか他に候補も居たでしょうにねえ」
諏訪子「一応SSQでもシリカ連れて大密林に突入するクエストあったからじゃないか?
   で、本来ならあくまでこれは脱出クエストでしか無いわけだが…」
静葉「巻き進行と言ったわよね。
  ここで、ワイバーンを狩ることになるわ。
  というわけで、ワイバーンのデータよ」




碧照ノ樹海ボス ワイバーン
レベル20 HP6859 炎・雷耐性、氷弱点/即死無効、眠り・呪いに弱い
ウイングクロー(腕) 高威力の単体近接斬属性攻撃
閃光の烈線(頭) 単体遠隔雷攻撃
輝く吐息(頭) ランダム4~7回遠隔雷攻撃、命中率が低め
テイルストライク(脚) 近接拡散突攻撃
大翼の旋風(腕) 全体に脚封じ付与

ミッション「恐るべき飛竜を討て!」受領中は、バックアタックによる先制攻撃が可能。
 なおかつ、戦闘中にパーティメンバー一人以上が戦闘不能になると、その次のターン高確率で「囮部隊の陽動」が発生し、ワイバーンは行動不能になる。


静葉「基本的にはこれまでに出てきたワイバーンと一緒だけど、テイルストライクの威力が然程でも無い代わりに命中率が高くなったり、低迷中ランダム雷攻撃が追加されたり、地味に面倒だったシャープロアを持ってなかったりしてるわね。
  というか最大の違いは圧倒的に戦闘能力が落ちていることだと思うけど」
諏訪子「私の業界でもこんな早期に戦う魔物じゃないからな、ワイバーン」




静葉「しかもミッション受領中のみ先制攻撃からスタート、なおかつ誰かが落とされると、囮部隊を率いるレオが妨害してワイバーンの動きを止めてくれるわ。
  ただ陽動の成功率、初回はほぼ確定だけどだんだん発生率が下がっていくわ。
  4回目以降はほぼ発生しないといわれているわね」
諏訪子「それでも3回も動き止めてくれれば十分な気がするけどな。
   で、わざわざ高威力って書いてあることは、ウイングクローは相変わらずウイングクローなのか」
静葉「適正レベルだと防御してないパラディンを一撃で落とす程度の威力ね。
  ここでもアンナが何度持ってかれたことか」
諏訪子「またかよ(呆」
静葉「行動パターンは基本ランダムよ。
  最初は通常攻撃とウイングクローと閃光の烈線しか使わない。
  HP90%を切った時点で輝く吐息を使い、その直後に大翼の旋風、そこから5ターン後に輝く吐息、その次に旋風というループ行動になるわ。
  そしてHP50%を切るとランダム行動にテイルストライクが混じりはじめる」
諏訪子「別に50%切った時点でテイルストライクを確定で使うわけでもないのか」
静葉「基本は輝く吐息を軸としたループ行動になる感じだわ。
  赤ゲージを割ると、ランダム行動に旋風が混じり始めて、5ターンおきに輝く吐息を使うループになるわね。
  つまり状況によっては、旋風で脚を封じられたところに吐息を直撃させられる危険性が高くなる」
諏訪子「っても吐息単発のダメージはそこまででもないんだろ?」
静葉「一発50~70程度食らうから7発フルヒットさせられるとパーティ壊滅するわよ。
  みんな大好きスキュレーのクライソウル程じゃないけど、ある程度は当たってくるとはいえ適正域ではあまり数食らいたくはないわね」
諏訪子「とはいえ挑む頃にはベテランスキルも解禁されてくる頃合いじゃねえか。
   こいつを見越してショックガードでも振って挑めって事なんだろ、ある程度はそれでどうにかなるんだろうし」
静葉「勿論防御の号令、繊弱の瘴気を駆使して受けに行くのも有効。
  封じは入りにくいけど、無効ではないから頭を積極的に狙いたいところね。
  ベテランスキルが無いならフリッカーかいらつく羽音の加護に頼るのが基本よ
諏訪子「本当にバタフライバレルが神器に見えてくるレベルだな。
   5の老木の弓もそうだけど、最序盤解禁でも終盤まで使っていける武器っていうのもアレだよなあ」
静葉「特にファーマーとかは基本殴らない、後半になってサブクラスが解禁されれば武器の二刀流も全クラスで解禁されるからなおのことね。
  あ、ちなみにワイバーンのレアドロップは初手撃破よ。
  ハイランダーの専用防具素材になるわね」
諏訪子「ふーん。
   防具だしそこまでバランスブレイカーでもないから、解禁できるなら速攻解禁してしまってもいい気はするが」
静葉「腕封じにかかりにくくなるのもさることながら、物防魔防どっちも100あるような怪物防具なんだけどそれ…」








翌朝。

目を覚ました葉菜とともに、一行は茨の茂る密林奥地を、ときに隠れ潜む大サソリと、凶暴な巨大鳥の目を盗みながら進んでいく。
樹精としての能力をフルに活用し、葉菜が正しいルートを割り出すとともに、レオが過酷な単独探索の中で培った隠形術の甲斐もあり、上層部…すなわち密林の出口に通じるルートは容易く見つかり、半日を待たずしてワイバーンの巣の近くへと、一行は戻ることが出来た。

見慣れた景色まで戻ってきたことで、安堵する一行。
レオは、寂しそうな表情の中に…わずかに喜色を浮かべて呟いた。



「…すごいな…。
僕も…かつての僕も、こうやって何人かのパーティを組んで、探索したことがあったんです。
でも…僕にはあなたたちのような優れた力も、知識や勇気も何も無かった。
僕にそういうものがあれば…あの時だって、きっと」

葉菜はそっと、少年の肩を抱き寄せる。

「私達だって、そんな万能ではないわ。
それに、君の力が無ければ、ここまで何事もなく戻ってくることが出来なかった」
「そんな…」

レオは年頃の少年らしく、頬を染めながら言葉を濁す。

道中、彼は葉菜やシリカに促されるまま、ぽつぽつとその身の上に起きた出来事を語った。
彼の冒険者としてのはじまりが、エトリアであったこと。
身寄りも無く、駆け出しであった彼を家族のように扱ってくれたギルドのことを。
それが…たった一つのミスから、全員を探索行で失ってしまったことを。

「それ以降も、多くのギルドに加えてもらいました。
けど…みんなみんなそうだった。
僕を受け入れてくれた人たちは、みんな僕の代わりに…僕は、もう誰も目の前で死なせたくないんです

普段の葉菜なら、問答無用で強く否定したことだろう…というのは、あまりに穿った見方だろう。
彼女は確かに、かごめその他から「お人好しの権化」と言われるほど、非常にお節介焼きな性格であるが…他人の心の機微に愚鈍ではない。

あなたは、きっと優しすぎるのよ。
だからみんな…あなたの優しいところを知って、何が何でも生きてもらいたいって、そう思ったんだと思う。

…大丈夫よ、私達まで、そんな重荷をあなたに背負わせるつもりはないから」
「葉菜、さん…」
「だから、まずはみんなで、マギニアへ帰ることだけを考えましょう。
ここまで来れば、密林の出口はもうすぐだわ」
「にしても先輩、こっからぶっちゃけどうすんの?
まさかワイバーンとかいうクッソ汚い飛行トカゲの居たあの広間、全力疾走して強行突破する?」

呆れたように溜息を吐き、るりが肩を竦める。

見上げれば、既に陽は大きく傾き、辺りも薄暗くなっていた。
正確にはわからないが、あれから二日以上は確実に経過しているだろう。
かごめ達のこと、四方やなんの対策を打っていないだろうことは考えにくくはあったが…。

「賢いのは、抜け道を探すこと…かしらね。
けど、陽が落ちて木々の声も小さくなってる。
幸いこの近辺、あのワイバーンってやつのおかげで他の魔物の気配も感じないし、ここで一晩明かすのもひとつの手かも」

葉菜が言いかけたその時、周囲を取り巻く空気が一気に変わる。
そして、鬨の声。
マギニアの衛兵団らしき一団が、広間へ雪崩れ込む姿が見える。

「な、なに!?
どうなってんのこれ!?」

あまりの出来事に目を丸くするシリカ。
葉菜とるりは、その可能性を察して頷き合う。

…んまー間違いなく、かごめちゃんの仕業、でしょうね。
まさか現有戦力だけでワイバーンに挑むなんてねえ」
「ったく、何考えてるのかしらあの子本当に!
いくわよるりちゃん、ワイバーン諸共一発どついてやるわあの馬鹿!!」

憤然と立ち上がるや否や、ワイバーンの背後に続くだろう獣道を駆けていく葉菜。
困惑するふたりを余所に、るりも溜息を吐いて告げる。

「あなた達はここで待ってて。
こうなったらもう、さっさとあのクソトカゲを狩るしかないみたいだし」

心配そうに見つめるふたりへ、彼女は頷く。
そして…彼女もまた飛竜との決戦場へと駆けていく。


















静葉「さてまあ、いつもの如く連中のスキル紹介ね。
  相変わらずアタッカー三人の振り方が地味におかしいけど
諏訪子「いやどう考えてももうひとりおかしいやつが居るだろ。
   葉菜の野郎、なんでバインドリカバリ振り切らないでヘッドドロップに振ってんだ…?
   どう考えてもバインドリカバリ振る為にSP確保してたんじゃないのかおかしいだろ」
静葉「これが意外に馬鹿にできたもんでもないらしくて、今回のスキル追加での異常付与に関するステータスの仕様変更とか、メディックそのもののステータスがSSQ2と違って、WISが突出した万能型のステータスになってることもあって、結構頭封じ決まるみたいなのよ。
  道中でも火食い鳥やウーズ共の頭を速攻で封じて随分役に立ってたみたいだわ。
  るりのハーベスト、あと自分でも取ってる戦後手当もあってわりと回復の手が空くみたいだから、後列から頭狙いにいってるタイミングも多いみたいよ」
諏訪子「ふーん。
   SSQ2だとチェイスヒールとか確かに強かったけど、LUC死んでてどうあがいても回復はマグス一択なのにな。
   異常付与の仕様変更ってのはどういうこった?」
静葉「解析情報によると、スキルそのものの異常付与率と、攻撃スキルは威力に関わる数値の2倍にLUCを足した値を加味するそうよ。
  というかぶっちゃけ、STR×2+LUCの値で決まるみたいね。
  だからLUCそこそこあって、全クラスでトップ3のSTRを持つガンナーのスナイプによる付与率がかなりイカレたことになってるらしいわ」
諏訪子「鈍足高火力で属性ショット失った代わりにイカレ威力のチャージ系持ってるだけじゃなくて、そんなとこまで強化されてんのかガンナーは?
   ますますセスタスの立場ねえな」
静葉「三点封じパンチは威力も付与率もスナイプに劣るとはいえ、それでもセスタス自体がデフォルトで抑制攻撃持ってることや、なんだかんだでスキルと装備のために今ひとつ生かし切れてない程度に高いSTRとLUCもあって、付与率は総合的に見ても結構高くはあるけどね。
  まあそんなこともあって、ドロップカメオまで持ってるからヘッドドロップの封じはそこそこ決まるわね。
  佐裕理を後列に下げて葉菜を前列に出してもいいんじゃないかって感じもするわ」
諏訪子「実は黒幕も何時の間にか後列に下がってるんだけど…まあもっと後の階層での話だしな、それも」
静葉「攻撃についてはいつも通りインボルブと空刃…なんだけど、今回手持ちのアイテムがわりとぎりぎりで、終盤でTPを補充するためにあえてるりのブレイク切ったわね。
  といってもゲイボルグのTP回復値も大したことなくて、精々インボルブ2発分程度だったんだけど」
諏訪子「十分だと思うけどなあ。
   ゲイボルグはブースト系のパッシブとか乗らないから威力には存外期待できないけど、英雄の戦いが乗ってるから全体HP回復もついてくるし、そもそもTP回復するっていうのも使うまで全然忘れてたな」
静葉「今回は運が良かったのか、アンナが飛ぶたびにレオ達が仕事してくれたしね。
  最後はそのアンナが氷で落として終了、終わったあとは奥にある樹海の出口まで進んで、司令部に戻ってミッション終了。
  次の迷宮である「垂水ノ樹海」への道が開けるわよ」
諏訪子「SQ4第一迷宮、SQ第二階層と来て次はSQ3の第一階層か…なんつーかまたしてもアンナのトラウマ抉ってくのな」
静葉「主にヤマネコとカバとナマズね。
  一応第三迷宮に入ってすぐ、酒場でフラグを立てることで新しい小迷宮が解禁されるんだけど…とりあえず、第三迷宮に入る前に、茶番を挟んでクエスト集から小迷宮について触れていくわ」
諏訪子「なんかつぐみたちを引退させて放り込むか、今行方不明になってる連中から数人そのままドロップアウトさせて誰か呼んでくるかみたいな話になってるんだけど、その辺は」
静葉「ぶっちゃけると文とおりんくうを抜いて、そこに幾人か放り込むことになるみたいね。
  文がいなくなるということは大体代わりにくる子、想像つくとは思うけど」
諏訪子「…………………………翠里か(しろめ」
静葉「で、あと一人が巻き添えになるというか、それは美結になる予定よ。
  そうなると、少なくとも最低一人は、あの子をしっちゃかめっちゃかにぶん回す子がくる」
諏訪子「翠里がいるということは、回復役にもサポートにもなる菫子がまず巻き添えを食うな。
   だが翠里もそこまで分別がないわけでもないし…あと美結を振り回しそうなの、そもそもこっちにあらかたいるような」
静葉「最初私に面倒見させるとかいう話になりかけてたからちょっと勘弁して欲しいところよね。
  まあ、多分後半になれば私と、いずれどこかから回収されてくるだろうメルランにその三人相手しろって話になるとは思うけどねえ(しろめ」
諏訪子「なんだお前もう知ってるのかよ誰来るのか。
   あまりいい予感しないのは確かだなあ…というか今思い出したけど、ルーミアってどうなったんだ?
   地味にみんな忘れてる気がするんだが」
静葉「いずれどこかで出てはくると思うわよ。
  ぶっちゃけ確かに忘れたけど、それだったらあえて触れなかった理由を後付けでも十分付けられると思ったからであって」
諏訪子「なんだそりゃ…」




静葉「というわけで今回の解説はここまで。
  以降はオマケになるわよ。うん、オマケよ(迫真








囮作戦…か
「ああ、多分あの空飛ぶクソトカゲをどうにかするには、それしかない。
どのみちあいつが陣取る先に行けなきゃ、その奥に連れ去られた連中を探すどころじゃないし」

司令部の一室。


かごめはあのあと、結局森の魔物に阻まれてワイバーンの追跡を断念し…葉菜達が無事であることを信じて撤退を決断した。
その足で彼女は司令部に向かい、事の次第を説明するとともに、ワイバーンの気を引くための囮を使い、あわよくばワイバーンを倒して先の探索を行う旨を提案した。

本来なら、諏訪子達がどこからか連れ戻してきたルーミアや静葉もおり、未だ回復しないリリカを除いても十分、彼女らだけでその要を成せる案件だろう。
しかし…かごめはそこにひとつの懸念を抱いている。
一度は退けたものの、何処に例の「鈴の音の呪言師」が現れるかを考えれば、彼女らはそこに対応させたい。現在の能力では、3人という人数も相まってワイバーン相手はかなり厳しいものがある。

それ故に、彼女は司令部の衛兵か、他に信頼できそうな冒険者が駆り出せないか、その交渉に赴いていた。
無論、拒絶された場合のことも折り込み済みのことであったが…ペルセフォネは、わずかに考え込んでいたものの、囮の衛兵部隊を派遣することを承諾した。



そして、かごめは囮部隊の指揮を自ら執りつつ、さらには別働隊として諏訪子達を動員し、呪言への対策を取り…陽が落ちるタイミングでワイバーンの巣へ雪崩れ込んだ…という経緯だ。
彼女は自ら先陣を切り、密林の上空を我が物顔で飛ぶワイバーンへ空気の刃を飛ばして応戦し、そこへ上空に溜められた氷の魔法が、雹となってワイバーンの頭上から降り注ぐ。

自分の頭上を取られ、激昂する大空の魔竜は、その怒りの方向を雷のブレスとして打ち出そうとした…その時。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああああああああ!!」


傍らの樹から、戦鎚を振り上げながら葉菜が飛び出してくる。
ワイバーンがそれに振り返るか否か、その刹那に葉菜の振り下ろした戦鎚がワイバーンの眉間に叩き付けられ、凄まじい衝撃に意識を飛ばしかけたらしいワイバーンは空中で大きくバランスを崩す…!

「アンナちゃん!」
「わーってるわよ!!」

背後から飛ぶるりの声。
アンナはわずかに口の端をつり上げ、応えると同時に、魔力を解き放とうとする…その時だった。


剣を振りかぶる影が、彼女の目の前に突如出現する。


彼女は発動しかけた魔法を暴発させるも、紙一重でその影響範囲から離脱する。
るりも、他の誰もがそれを見ていた。

何故なら…同じ影が、複数同時にるりとかごめの前にも現れ…アンナが散逸させた魔力を穂先に巻き込もうとするるりにも、フォローに動こうとしたかごめにも、その兇刃を振るい迫る…!


「くそっ!!」

悪態を吐き、かごめは一撃でそれを切り払う。
同じようにして、体勢を立て直そうとした葉菜へ襲いかかる影を、佐裕理が退けるも…追撃のタイミングを躱したことで、再び空へと舞い上がったワイバーンが、吐きかけていた雷のブレスを吐き出して周囲を薙ぎ払おうとする。
衛兵達も悲鳴を上げて吹き飛ばされ…ワイバーンの爪がるりに襲いかかり、飛び退こうとしたるりの背後に、剣を振りかざす別の影が迫る…!

かごめが声を上げようとした、その刹那。




「僕が…僕が、絶対に…死なせないッ!!」


るりが見たのは、どんな影よりも暗く濃い、瘴気を纏った少年の姿。
カウンター気味に放たれたレオの大鎌が一閃し、大太刀にも似た爪を振り下ろすワイバーンの脚を、あべこべに切り裂いてのけたのだ。

さらに、追撃の一撃を加えようとするレオの目の前にも、例の影が追走する。
二体の影が、少年を切り裂こうとしたその瞬間、落ちてきた闇が、その影を飲み込んで消失させる。

「ルーミアか!」
「大元は逃げてったよ!
もう、あいつは出てこない!今だよっ!!」

かごめとるり、アンナの視線が交錯する。

「おかげさんで魔力は無駄遣いしたけど…この程度ならッ!
術式解放、風華旋風衝!!」

超圧縮された冷気の刃が渦を巻き、ワイバーンを直撃する。
そこへ、さらにその冷気の竜巻を巻き込むるりの槍、大上段に振りかぶるかごめとレオの刃が、苦し紛れに見上げるワイバーンの頭目がけて…怒号とともに振り下ろされた。


切り裂かれ、打ち砕かれた頭を失った哀れなる飛竜は、そのまま密林の大地へ沈んだ。