あたしがこの世界に辿り着いてから、一体何度、こうして朝焼けの空を眺めてきただろう。
思えば、最初は親友の言葉に乗っかるようにして、軽い気持ちで参加したはずの冒険譚。
そこはゲームでよく知るような世界でありながら、いとも容易く他の命を奪い…また、自分自身の命も奪われる事と隣り合わせの世界。
いや、その時点であたし達は本当は知っていたはずだったんだ。
あたし達の知っている「平和な日常」が、何の前触れもなく突然に奪われたあの日のことを。
生々しいリアルな「殺し合い」の中で、呼び起こされた記憶はあまりにも重くて。
それに端を発する、あまりに過酷な運命のしがらみの果てに…離ればなれになった「時間」を遡っていって。
今この時…あたし達が元いた「
知っているのと同じようで、全く記憶にはないその光景を。
昔のすごい、戦国の大名さんはこう言ったんだって。
その日、起きて部屋の外へ出たら…今日のその日こそが、自分が死んでしまう日だと思え、って。
きっとそれはネガティヴな意味ばかりじゃないと、今ならそう思える。
だから。
あたしはただ、目の前にある「今日」を、全力で生きるために…剣を手に取る。
…
飛鳥ノ水島。
「海の一族」のものと思しき軍船が集う入り江、それを遥か後方に望む海岸線に、迷宮が広がっている。
海上からも、珊瑚や岩礁が森の如く連なり、空気が水の流れのようにその内部を行き来しているのが窺える。
何故このような迷宮が形成されたのか、レムリアの古代文明の遺産か、それとも島の中央に聳える世界樹の力によるものか。
それはこの場に集う少女達のうかがい知れるものではなかった。
「イブちゃん、そろそろ時間です」
「うん」
懐中時計から目を離し、咲子は海上に口を開けた迷宮の入り口を睥睨する一舞へ告げる。
彼女は翌日、何事もなかったかのように食卓に顔を見せ、そして、まるでそれが必然であるかのように今居るメンバーを選定し、自らリーダーを買って出た。
そのメンバーが、今居るバンドメンバーからまり花を除き、そしてここなつの二人を加えたこの五名。
かつて、レムリアの探索を彼女たちが始めた頃に、諏訪子が考案したギミックパーティにめうが少々の調整(アレンジ)を加えたものだ。性質上、分散が即壊滅に直結する構成であるが故、彼女たちが必然的に「海流の流れ」を探し出し、それを操作し守り抜く役割を与えられるのも必然であっただろう。戦略を左右する大役と言ってもよい。
先日の動揺ぶりが嘘のように、一舞は落ち着いて居るように見えた。
だが、その静けさは奇妙なほどであり…普段の明るく感情豊かで気風のいい一舞を知る者からすればなおのこと…これから起こることを考え合わせても、一抹の不安すら覚えさせるに足るものだ。
そんな、パーティーの面々の心情を察してかどうなのか、振り返る彼女の表情は…一点の曇りもない、見慣れた勝ち気な笑顔で。
「ここまで来たら、あとはなるようになれ、だしっ!
いくよ、みんな。
「海流」を抑え、あたし達がこの戦いの主導権を握る!!」
その檄に応え、他の少女達も頷いて応える。
「それにしても…メガストーンにこんな使い方があったなんてね。
この「共鳴」を利用すれば、ある程度は通信端末の真似事も出来るなんてね」
夏陽はそう言いながら、掌でひとつの宝玉を弄ぶ。
中心部分に巴を描く二色の光を有するそれは、対応する特定の「ポケットモンスター」へ一時的かつ爆発的に進化の壁を突破させる力を持つ「メガストーン」。
夏陽の持つものはミミロップナイトと呼ばれるものだ。
彼女達を含む「狐尾」や、別世界線のレムリアを探索するギルド「亜留真の月刀」などは、お互いの能力を高める、弾幕戦に代わる新たな「遊戯」であるポケモンバトルに参加した経験者も数多く存在する。
多くは博麗神社の裏手、時空間の歪みに存在する重霊地の力を用いて一時的にポケモンの力を得る者達の中で、時に対応するポケモンの因子に「適合」し、重霊地の霊力を使わずとも融合形態に「変身」し、その力を得る事が出来る者もいる。
上位の魔性・神格ですら「適合者」ではない者が多数いるにも関わらず、一舞や夏陽などはその「適合者」であり…夏陽に至っては、メガシンカ可能なポケモンに適合するという才覚を持っているのだ。
そして同じく、メガシンカポケモンに適合するつぐみが発見した…メガストーン同士の共鳴を利用した遠隔通信。
かごめ達を出し抜く為に、かごめ達の中には絶無に近い「メガストーン所持者」を軸とする事は必然と言えた。
「そういう意味では、あたしたちにとってはあんたが生命線だからね。
頼んだよ、なつひ」
「ふふん、わかってんじゃない。
今はどのチームも接敵はしてない。突入直後に仕掛けられる可能性はあるけど…」
「ここなの方陣、張りながら行くよ。
めう、回復薬は」
「アムリタもハマオも十分持ってきためうっ、迷宮ひとつ突破するにも過剰在庫なぐらいだお!」
よし、とめうの肩をひとつ張り、一舞が宣言する。
「倉野川ちくわ団改、出撃っ!!」
~新・狐尾幻想樹海紀行X~
その18 戦!
輝夜「いやーとうとう始まっちゃったわねー」
天子「∑( ̄□ ̄;)うえええええええっ!?
あれちょっとなんで私達がここに居るのっ!?
いつもの連中は一体どうしたのよ!?」
輝夜「そりゃあ、全員そっちに出払ってるからに決まってるじゃない。
あーちなみに、前のログでも触れたとおりに実際は、ミュラーが衛兵部隊を率いてわざわざ「海の一族」のキャンプ地近くで軍事演習を行って、その隙に第八迷宮「海嶺ノ水林」に突入するという流れね」
輝夜「あと触れ忘れてたけど、第六迷宮突破後、第六迷宮内で「海の一族」先遣隊の遺品を手に入れてるとそれを「一族」のところへ持って行ってくれってアーテリンデに頼まれるんだけど、「海の一族」側からは「遺品を届けてくれたことには礼を言うけど、おめーらの席ねえから!!!m9(
゚д゚ )」って感じで門前払いをくわされるわ。
その直後にアーテリンデが来て「やっぱダメみたいですね」みたいなコメントを残していなくなるんだけど」
天子「あっこっちの意向とか完全無視ですかそうですか…いやまあヒマだから良いけどさあ。
けど、アテリンもプレイヤー達に持って行けとか言っといて、無責任な事ね」
輝夜「彼女は彼女なりに、諍いの元はあまり作りたくはないっていうのが本音なんでしょうね。
ちなみに第八迷宮突入可能になると、海の一族のキャンプには行けるけど何も特には起こらないし「とっとと迷宮行け」みたいなナレーションも入るから特に意味は無いわ」
天子「その第八迷宮で鍵になるのが、先のログからも言及されている「海流」ね」
輝夜「海流のギミックはSQ3にも存在してるわ。
要は一方通行床よ。
B2Fから登場してきて、ここではつぐみが持ってきた「海珠」も、実際にはB2Fの奥まったところにある宝箱を空けた直後、唐突に現れたブロートに渡されるわ」
天子「謙虚なるナイトの名前と混同する紛らわしい名前で風評被害も甚だしいんですがねえそいつ(イラッ」
輝夜「何気に多数ネタなのよねーそれ。
ブロートにはもうひとつ重大なナゾがあって、これはまあ後々紹介するとしても、実はこの時点でもちらほらそれを匂わせる描写があるわ。
狐野郎は一周目は完全に捨て周回のつもりでいたせいで全く気づいてなかったらしいわ」
天子「汚いブロートの話はどうでも良いわ(キリッ
さっさと魔物の話とかしなさいよ、どうせ駆け足で行くんでしょこれまでのパターン見れば」
輝夜「アイ、アイ。
けどまあこっからは茶番が多くなるんで、今回は通常魔物とFOEだけで終わるわね。
ボスは次で」
天子「ほむ。
それじゃあここにはどんなエグい奴らが揃っているのか教えてもらおうじゃない」
輝夜「…なんでそんな目を輝かせているのかしら…まあいいわ。
基本的にはSQ3の時と変わらない面々ね、当然ながら当時は第二階層、今回はやや後半寄りの階層であるから能力はかなり強化されているわね。
全属性弱点でHPが高く「疫水吐き」で全体呪いを振りまいてくるうずまきフグ、腕封じ付きの拡散攻撃をしてくるロックコーラル、自分たちに物理防御バフを撒いたり敵サイドを庇ったりするオオヤドカリ、そして攻撃力のやたら高いトド野郎ハイウォルラス」
天子「最後の奴はいわゆるヤマネコポジションかしら?」
輝夜「そうとも言えるけど…このくらいの階層までくるとそう言い切っていいものかどうなのか解りかねるところね。
B3Fにはこいつの亜種とも言えるハイオンネプもいるけど、どちらも氷耐性突弱点。
ハイオンネプは氷属性撃破で取得できる条件レアが、優秀な攻撃力ダウンデバフ付きスキル「破力の大牙」を使える強力な剣の素材になるから、弓や槍の攻撃にアームズで氷属性付与したりそれをスピアインボルブでねじ込むなりして是非とも取得したいところね」
天子「その「破力の大牙」をそのトド野郎も使ってくるということは」
輝夜「あります(キリッ」
天子「あるんかい(歓喜」
輝夜「…あんた意外とボウケンシャー向きの性格してるのかも知れないわね。
他にもB2Fから出没する人食いサンゴを毒ダメージで撃破した時の素材がアクセラの材料になるわね。
といっても、アクセラは無印SQ2の狂ったような性能は無いから量産するうまあじは無いけど」
天子「オオヤドカリや、B3Fから出てくるアイアンタートルみたいに物理強耐性属性弱点とかいうのもいるみたいだし、ショックスパークがまたしても大暴れするわねここ。
見た目通り海の底みたいな迷宮だから、雷耐性とかいうのはいない感じだけど」
輝夜「唯一通らないのがB2Fから登場する大口野郎クーラスクスね。
もっともこいつ、物理弱点の属性強耐性で属性全般が通らないんだけどね。
全体壊にHP吸収がついてくる「大喰らい」が非常に厄介、頭スキルだから頭を封じてやろうにもこいつには頭封じも通りづらいと来た。
とっとと威力の高い物理攻撃で始末してしまいたいけど、オオヤドカリと一緒に出てきたりすると絶叫ものだわ。
ついでにアイアンタートルはランダム氷攻撃を仕掛けてくるから火力も強烈よ」
天子「氷雪の礫とか、単純に氷の礫のアッパーバージョンにしか聞こえないんだけど」
輝夜「そんなミズ=スリケンみたいなものを想像されても困るんだけどもねえ。
ポケモンでいうなら攻撃回数的にも近いのは氷柱針のような気がするけど、そこはどうでも良いかしら」
輝夜「SQ3だとここには3種類FOEがいたけど、クロスで登場するのはそのうち2種類。
B1Fにだけいる古海の放浪者と、B2F以降にいる襲来する鱗竜よ。
基本性質はどちらもほぼ同じで、放浪者はSQ3だと3体連なって泳いでいたのが4体組になって、一体に見つかるとそれ全部が追尾モードになるのは一緒なんだけど、SQ3のと最大の違いは先頭の1体とだけ戦闘になって、あとは乱入してこない事ね」
天子「昔は乱入されたのね」
輝夜「ついでにHPもSQ3の時のほぼ10倍、ぶっちゃけるとキマイラの倍近くもあるわ」
天子「……FOEって中ボスみたいなモンじゃなかったっけ?」
輝夜「初心者が意外と勘違いしやすい話だけど、FOEはフィールドギミックのひとつで「基本的に太刀打ちできないから避けて進む魔物」よ。
階層ボスよりも戦闘能力が高いFOEだってザラに居るわ。
といっても、5以降はそこまでぶっ飛んだ奴も居なくはなったけど」
天子「ふーん。
で、その放浪者ってなにしてくんの? 見た目は魚って言うか南米肺魚っぽいけど」
輝夜「基本的には全体に1ターン攻撃超絶強化のバフと呪いを同時付与する「太古の呪い」からランダム3~5回の壊攻撃「暴れ泳ぎ」を放ってくるという行動パターンよ。
HPが減ってくると全体に眠りを付与する「安らぎの波音」も使うわ。
ちなみにSQ3の頃から太古の呪いは使ってくるけど、当時は単純に全体呪いを撒き散らすだけの効果だったわ」
天子「敵味方無差別に強化と異常付与ねえ。
自分も呪いかぶってどうするのかしら」
輝夜「放浪者は呪い完全耐性なのよねえ」
天子「∑( ̄□ ̄;)ナニソレ汚い!!」
輝夜「しかも1ターンしか継続しない分、攻撃力上昇倍率は驚異の+100%らしいわ。
高倍率バフで呪いも被る、しかも放浪者はHP30000近い挙句に物理属性すべてに弱いと来た。
呪いと相手のバフさえどうにかすれば、太古の呪いのバフでもって一気に大ダメージを与えるチャンスでもある。1振りのアクセルドライブでも巧く合わせればむしろこっちがドン引くようなエグいダメージが出るわ」
天子「対処が出来るなら楽な相手ではあるのね」
輝夜「そうとも言うわね。
残像が呪いを被っても、本体は気負いで呪いを集めて心頭滅却のタネにするなんて荒業も可能だし、ヒーローメインなら特に戦いやすい相手だと思うわ。
こいつの素材から作れる兜、杖も優秀だし、黄色オーラになったあたりで積極的に挑んでみてもいいわね」
輝夜「鱗竜は固定配置の追尾型。
基本的には力溜めからの一列斬攻撃を仕掛けてくるだけの脳筋で、HPが減ってくると力溜めのあとが一列斬か、全体氷かの二択になる。
全体氷のほうはクロスから加わった新スキルね」
天子「あ、昔から溜め攻撃自体はしてきたのね」
輝夜「HPこそ放浪者の30%程度だけど、雷弱点の氷耐性でかなりタフに感じるわね。
SQ3でも赤FOEで階層ボスよりも強かったかも知れないわ。
脚封じがそこそこ有効で、しかもスキルも脚依存だから積極的に狙っていきたいわね。ちなみに条件ドロップも脚封じ撃破、強力な槍の素材になるわ。
通常素材も氷属性付きの刀と、HPにボーナスがある重鎧の素材になる。特に重鎧のほうは第九迷宮突破まで十分使用に耐えうる優秀な防具よ」
…
…
同じ頃、先に迷宮内を探索するうち、既に中層部へとさしかかってきたキバガミ達。
迷宮内は不気味なほどの静けさを保っており、魔物らしい魔物すら見かけない。
異様とも言える状況に、彼らは微塵も油断することなく歩を進める。
不意に、やや後方を進んでいたジェイドが何かを感じ取り、立ち止まる。
訝るキバガミが声を発しようとした瞬間、彼もまた、その気配を感じ取り…使い込まれた愛用の業物を抜き放つのと、ジェイドが展開した方陣が、もうひとつの方陣…否、なにかの「領域」と重なり爆発的な反駁の紫電が周囲に走る。
「やるじゃねえか。
にしても、お前らまで引っ張り出されてくるとは」
聞き覚えのある声とともに、数メートルはあろうかという巨大な黒い魚が、海嶺の珊瑚の森を割って踊り出る…!
♪BGM 「戦乱 剣を掲げ誇りを胸に」♪
「散開ッ!」
キバガミの檄が飛び、方陣を展開するジェイドを除く4人が、距離を取ろうと飛び退いた、次の瞬間。
背後に迫る強烈な剣気を感じ取ったリグルは、振り向きざまに展開した己の魔剣で、その刃を受け止め…!
「腕を、上げたわね」
艶やかな緋一色の服を纏い、舞うようにスカートを翻す…秋水の剣神。
静葉の放つ二撃、立て続けの三撃を、展開した双刃で受け止めつつリグルは後退を余儀なくされる。
「よそ見してる場合じゃねえよなあ!!」
歯がみするキバガミの前に、巨大な「放浪者」の上に陣取る諏訪子が、その勢いに任せて突っ込んでくると…さらに数体の「放浪者」が踊り出してきた。
…
そこからやや離れた…海流の渦巻く区画。
鈴花たち四人は、海流越しに見える、魚竜にも似た魔物に存在を気取られぬよう慎重に進んでいた…はずだった。
「うわああああああああああああん!!><」
駆け込んだ先、なんとか人間一人が滑り込めるような岩の隙間から小部屋に雪崩れ込む一行。
魚竜の魔物はしばらくその場にとどまっていたが、やがて追うのを諦めたと見えてその場から離れていく…。
それを見送って、ひとまずの安全を確保したことを確認した鈴花、翠里、菫子の三人が盛大に溜息を吐いた。
「ふぃーあぶなかったねえー」
「危なかったじゃ無いわよあんた!!
なんであんな何も無いところで盛大にずっこけるのよ!
しかも狙い澄ましたかのようにアイツのところにさしかかったとこで!芸人か!!><」
「うにゃああああああひたいひたいひたい><」
緊迫感のない鈴花の物言いにキレた菫子が、鈴花の頬を左右に抓り上げて引っ張りまくる。
「とはいえ」
呆れたように一度目を伏せ、周囲を見回す風雅。
「完全な袋小路には変わらないか。
これ以上進む道は見当たらないようだし、連絡を取ることも難しそうだ。
キバガミさん達は既に、接敵している…それに、つぐみ達も」
グローブの甲にはめ込まれたメガストーン…カメックスナイトにもう一方の手を翳しながら、彼は険しい表情で呟く。
区画の外をうかがっていた翠里も、振り返って肩を竦める。
「あの魔物もまだグルグル泳ぎ回ってるっす。
どーしましょう、勝てない相手ではないと思うっすけど」
「何処に誰が待ち受けているか解らない以上、出来れば余計な消耗は避けたいが」
「んまー、やるしかねえんじゃね?
俺も巻き込まれちまってちっと困っててさー、お前らと一緒なら心強いぜ!」
あのなあ、とその声の主をたしなめようとして、風雅は「そこに居るはずがない」声の主に漸く気づくと共に…絶句して振り返る。
「ん?
なんだ風雅、どうかしたか?」
「いや、その、なんでお前がここにいるんだ、烈」
見慣れた学生服姿の、オレンジ色の髪の少年…風雅や、この場にはいない氷海と共に「学園四天王」の一角を成す烈。
彼は風雅の記憶でも、別世界線のレムリアを探索する「亜留真の月刀」の一員であり、この世界線に居るはずがないのだが。
「いやーさあ、テトラ達とはぐれちまって。
かごめさん達が居たの見たし、「狐尾」の居る側?だってのはわかったんだけど、なんか雰囲気的にあのひと達とつぐみ達が戦うみたいな感じだからよ。
どうせ帰り方わかんねーし、だったらつぐみ達に協力してやろうって思って」
「ええ…そんな、ちょっとコンビニ行ってくる、みたいに言われても…」
翠里と菫子も呆れたように顔を見合わせる。
風雅も、つぐみ達が過去へ飛ばされる前にいたアイオリス世界樹において、時折世界線の違う探索行を行うギルドと遭遇することがあったことは聞いており、なおかつ同様の現象がこのレムリア島でも起こっていることは承知していた。
そもそも烈が、乱麻やアルマムーン王国の将軍達と共に、夏休みに入るやいなや探索行に加わったことも知っている。
参加した時期を考え合わせれば、気心が知れた存在であることは勿論、その実力においても十分恃みに出来ることは間違いない。
かごめ達の誰かがなりすまして近づいた可能性がなくもないが、風雅はそれを「ありえない」と判断していた。
そのような小細工をするぐらいなら、恐らく姿を見せぬ奇襲でも力押しでこちらを潰しに来るはず、と。
「烈、氷海は」
「んあ?
そうそう、そういやあいつも何を思ったのか、こっちに来ることにしたらしいぜ。
俺達のほうも大変でよ、多分お前らもこれから出会うんじゃねえかと思うけど、ブロートとか言う奴がいて」
「それだけ聞ければ十分だ。
済まないが烈、少し手を貸してくれ…その魚竜の影に隠れている奴は、俺が引き受ける…!」
「えっ?」
烈と鈴花、翠里が顔を見合わせるのと同時に、瘴気ではなく風の魔力を纏った風雅が区画から飛び出すと同時に、数発の銃声が響く。
飛び出し際のアイコンタクトで、援護射撃を行う菫子の放ったのが二発、そして、残りの一発は風雅の頬を掠める…。
「そこか!!」
彼は立て続けに放たれる威嚇射撃の射線を縫い、その主目がけて猛然と飛翔する。
その進路をふさごうとした、闇を纏う少女へ…風雅の考えを悟った烈が挑みかかる!
「させるかよ!
あんたの相手は…この俺だッ!!」
背に展開する六枚の黒い翼が、紅蓮の爆炎を纏う拳をを受け止め、振り上げた風雅の切っ先が、姿を見せた狙撃手へ迫る。
「あらら。
あなたたち結構なフェミニストだとばかり思ってたんだけどねえ」
からかうような口調だが、普段よく知られるのとは全く異なる、メルランの冷たい笑みが…切っ先を受け止めた白い翼の奥にある。
「だったら、お姉さんも本気を出しちゃおうかしら。
巡り謳え、『
…
「仕掛けてきたみたいよ、つぐみちゃん」
そこから数区画先、同じく気配なき水林を進むつぐみ達。
イヤリングとしてつり下げた宝玉…つぐみが首元にトレードマークのようにして身につけたそれと似て非なる…メガストーンに耳を宛がうようにして、美結が警告を発する。
「わかってる。
私達は…さらに二手に分かれる。
私と」
「待って。
つぐみんたちは、先に行って。
…わたし、ここで待たないと」
立ち止まるまり花。
その言葉の意図するところが解らず、怪訝な表情で三人が振り返る。
「わたし…ずっとずっと昔に、した約束を果たさなきゃ。
あのひとも、きっとそれを覚えてる。
誰にも、邪魔をして欲しくないんだ。お願い」
その言葉に応えるかのように、凄まじい寒気が、殺気を孕みながらその視線の先から吹き付けてくる。
その場の誰もが、その主となる者を知っている。
だからこそなおのこと…その主と彼女が、いかなる縁を有しているのか。
彼女が何故ひとりで戦わなくてはならないのかを。
しかし、つぐみはそれ以上の言及をしなかった。
諌止の言葉を発しようとする明夜を止め…そして。
「わかった。
任せても…いいんだよね?」
「うん。
だから、先に行ってて。
わたしなら、大丈夫…絶対に、大丈夫だから…!」
頷き返す、強い決意を秘めたまり花を残し…その区画を離れた瞬間。
一瞬にして張り巡らされた氷河の壁が、その間を遮った。
♪BGM 「戦場 悲しき氷の守護者」♪
「本当に…大きくなったわね、まりか。
私が倉野川から離れて十年、ううん、かごめから聞いているわ。
あなたからすれば、あの日から十二年も経っているのよね」
氷河越しに響くその声は、つぐみたちのよく知るその大妖怪のそれであり…そのイメージを遙かに超える凄まじいプレッシャーと共に。
それはかつて、アイルランドを支配下においた、冷酷非道なる「厳冬の忘れ形見」と呼ばれた大魔女のものだと、知る者はいないだろう。
「あなたの両親を含む「シャノワール族」の連中は、本当に気の良い奴らだったわ。
旧いものも新しいものもなく、故郷を、ゆっくりと過ぎゆく日常を、そこから紡がれる音楽を愛し。
気の遠くなるほど昔に捨てたはずの…ただの人間として生きて死ぬという平穏を、この街で求めてもいいと思ってた」
対峙する冬の魔女…レティの表情は、どこまでも寂しそうに。
それでいて、遠き過去を懐かしむかのように。
「魔女は…魔法が使えることが解ってしまったら、人の世界から離れなければならない。
喩えそれが、仲良くなった女の子と離ればなれになってしまう結末を迎えたとしても。
女の子は、その魔女が大層悪い魔女だということも知らなくて…だって、そうでしょう?」
「だから、約束したんだよ。
でも、今、同じ学園で過ごすみんなと仲良くなれたあの日に…あの日のわたしに、それに応える力は無かった。
だから」
彼女が見たものは、他の誰もが…つぐみ達は元より、バンドのメンバーも…幼い頃からの親友・一舞すらも知らないような。
「わたしが、戦う力を得たことは、唐突に降ってわいた偶然ではなかったって。
この
だから…私が! もう一度あの、大切な思い出を取り戻すために!!
「厳冬の忘れ形見」を…あなたを、超えてみせるッ!!」
大気を振るわせる闘気と冷気、そして凄まじい殺気が、その瞬間ぶつかり合った。
…
「まさかとは思ったけど、本当におっ始めたみたいだねえ」
海嶺の最深部、今回の大逃亡事件の黒幕でもあるかごめは気怠そうに、ゆっくりと立ち上がる。
「あのふとましい雪女が、やけに倉野川に拘る理由がそんなところにあったことも驚きなんだけどな。
アイツの場合…てっきり本気でシャノワールのコーヒーだけが目当てだとばかり思ってたんだけど」
「半分ぐらいはそうかも知れないけどな。
泣くほど悲しませた女の子に、大人になったら自分を追いかけて殺しに来い、なんてな…言えた義理はないけど、不器用ではあるよな」
同じ場所に座っていたヤマメも、「違いねえ」と伸びをしながら立ち上がる。
「勝敗度外視とはいえ、おめーだって大人しくつぐみにスマキにされるつもりはねーんだろ?」
「たりめーだっつの。
むしろ他全員がブザマ晒しても、あたし一人で連中全員スマキにして元の世界に送り返すぐらいでやってやるさ。
ついでにもう夏休みも終わるだろうし、無断欠席のペナルティも全員に倍くれてやる」
「あなたの場合、やり過ぎて死人を出さなければ良いのだけど」
呆れるように、少し前のところに立っていた紫が溜息を吐くと、まったくだ、とヤマメが相槌を打つ。
やかましい、と毒づき、かごめもまた…悠然と立ち上がる。
「あたし達もそろそろ動くか。
ヤマメ、あんたはイブ達を任すよ。
どーせめうの野郎がロクでもないことしでかしやがるだろうし、葉菜先輩達じゃあいつら止めらんねえだろ」
「あいよ」
「ゆかりんあんたはノーマークで泳がしてる鈴花達を、適当なとこで一網打尽にしといてくれりゃいい。
手に余るようならメルランとルーミア狩りだしても良いわ、多分アイツらの居るところまで誰も踏みこんじゃいねえだろ」
「了解。
あなたはどうするの?」
「レティんトコいって、まり花ちゃんに余力があったら止め刺してくるかねえ。
…ちょーっと気になるとこも、あるし」
水林の最深部からかごめ達が動き出したその時、その様子を伺う影の存在を、果たして彼女達は気がついていたのであろうか?
…
…
天子「いやなんでこいつらガチで戦争してんの!!∑( ̄□ ̄;)」
輝夜「かごめ達のやることだしねー。
そういえば魔理沙の奴、ここには出てきてないみたいだけど…って、あらあらこんなところでこんなことしてる(次回のプロットを見つつ」
天子「しかも冬妖怪とスイーツ野郎ってどういう組み合わせなのよなんでそんなサツバツなことになってるのおかしいでしょ!」
輝夜「実際、ここで一番大きな話はそのまり花と、あとはいぶなつコンビだということだけ頭に置いててくれれば良いわ。
第十迷宮ではもっと別の奴も動き始めるしね。
次回は前半つぐみ達、後半はまり花がメインになるわ。ついでに第八迷宮ボスの解説ね」
天子「ああそうかあんたはプロットを知ってるものねそのしれっとした物言いは妬ましいわ(ギリギリ」
輝夜「何どこぞの橋姫みたいなこと言ってんのよ。
とりあえず今回は地雷の導火線めいた伏線をいろいろ埋めて次回に続くわよ」
天子「言い方ァー!!( ゚д゚ )彡」