「やっと来たわね。
この私を待たせるなんて、いい度胸してるわねあんた達」
件の洞窟の入り口に、憤然と仁王立ちする一人の少女。
つぐみは苦笑を隠せぬまま、「航海王女」エンリーカを宥めるように頭を下げる。
「ごめんなさい、エンリーカさん。
少なくともうちのスットコドッコイに話だけでもしておかないと、あとがうるさいし」
「どっこもいっしょなのね、そういうの。
あとつぐみ、私のことは呼び捨てでいいって言ったはずよ。
少なくとも、一個の冒険者として私とあなたは同格なんだからね」
わかった、と、差し出しあった手を両者は握りしめる。
海の一族とマギニアの「会合」ののち、短い時間ではあったがつぐみ達はエンリーカと個人的に話す機会が設けられていた。
これはエンリーカ側の提案であり、自分と近しい年代の少女たちと交流を深めたいという意図あってのものだが、両方が旧来の友であるかのごとく打ち解け合うのに然程時間はかからなかった。
そして、海嶺の戦いの際に菫子がそう提案したことを知ったエンリーカが「だったら自分たちは独自で共同して、先の霊堂を目指そう」と言いだし、それに一舞やめうなどがのっかり…つぐみもストッパーの役割を果たすどころか、一舞達の暴走(?)もあって決着が有耶無耶になった前回の件を踏まえ「中途半端で済ますのもよくないよね」と、結局満場一致で決定された。
ただし、まだ「会合」そのものの決着がつくまで数日を要することや、レティとの死闘を経たまり花の回復を待つという事情もあって、少女達が実際に行動を開始したときにはそれから四日が経過していた。
余談だが、その翌日には動くに支障のなくなったまり花がマギニアの街へ飛び出し、本当に町中のスイーツというスイーツを片っ端から食い荒らす有様であったが、それはまた別の話。
「で、どうすんの?
っていっても、人数考えるとエンリーカ、つぐみ達についてってもらった方が良いと思うけど…戦闘は?」
「できないっ」
「エラソーに言うことかいっ!!」
無駄に豊満な胸を張り、そして無駄に尊大な態度でふんぞり返るエンリーカに、思わずツッコミを入れる夏陽。
こちらに関しては折り込み済みのことだろう、つぐみは溜息を吐きながら。
「そこはまあ…今更騒ぐほどのことじゃないと思うし。
人数のバランスという意味では、私達と一緒でいいと思う。
連絡は」
「あ、それなんだけども、今回はこれが使えるわ。
紫さんに境界をいじってもらって、同じ迷宮内ぐらいの距離なら赤外線通信可能になったの。
画像のやり取りも出来るし」
美結と心菜の二人が、懐からタブレット端末を取りだして見せる。
それぞれが自分で愛用しているもので、今回の件よりも遙か前…ある切欠で意気投合した二人はSNSでやり取りをする程度に交流があった。
通信は当然ながら不可能ではあったものの、電力に関してはいろいろ工面する手段があり、タブレット内にインストールされていたオフライン下でも遊べるアプリの存在が、少女たちにとっては過酷な隠遁生活における数少ない娯楽として、大きな役割を果たしていた。
戦闘では後衛のサポートを担当する心菜は戦闘中は手空きのことも多く、こちらでは比較的遊撃手として忙しい美結の代わり、サポートメインで手空きになりやすいつぐみが使い方を心得ている。
つぐみは承諾の意を示した。
「話はついたみたいね。
それじゃ、行きましょう!」
そんな少女達の先陣を切って、当たり前のようにエンリーカが号令を発する。
その灼熱洞の先に、何が待ち受けるのか、知る由もなく。
~新・狐尾幻想樹海紀行X~
その23 レムリアの亜人
静葉「此処に出てくるのも随分久しぶりね」
ヤマメ「ほんとそれな。
しかし私ぁ一体何度世界樹の環境でスマキにされなきゃなんないん?(しろめ」
静葉「あなたの場合はただのインガオホーでしょう。
そんなことよりも、随分懐かしいところが出てきたものね」
ヤマメ「いや確かに調子乗りすぎたとは思うんだけどもそこまでされる謂われは…あーうん聞く気ないよねその辺(しろめ」
静葉「(無視)そういうわけで、次の迷宮は4の第三迷宮「金剛獣ノ岩窟」。
実際はここに入る前に、これからの展開のキーパーソンがちょっと登場するイベントが発生するんだけど、そこは後回しにしてまずはB2Fまでの話をするわ。
ちなみに先に言うと、残る迷宮は最後の霊堂と最後の迷宮を加えて4つ、ここと次の迷宮は4フロアから構成されていて、更に後述の理由で前半と後半で様相も違ってくるわ」
ヤマメ「ただでさえここまで長かったのに、ここからフロアまで増えると。
どうせ霊堂は5フロアあるって事は、最後の迷宮とか何フロアあんのかねえ」
静葉「そこはもうさして隠す必要ないからここでぶっちゃけるけど、最後の迷宮も5フロアよ。
霊堂は二段構造だから体感的にはその倍ぐらいだけど」
ヤマメ「ヤンナルネ(真顔
で、私はここ行ったことないんだけど、この迷宮はどういう場所で?」
静葉「既につぐみがネタばらししてるように、最深部に居るボスはホムラミズチ。
こいつの巨大ウロコが各フロア1つずつ存在して、洞窟内の採掘ポイントにあるキーアイテム「氷銀の棒杭」でそれをぶっ壊すことで、フィールド内の水場を氷床に変えて踏破していくのが基本よ。
登場するモンスターは通常の状態と、巨大ウロコ破壊後の冷却状態でも微妙に変化するわ」
ヤマメ「ふーん、状態が変わる迷宮なのな」
静葉「大きな相違点は、道をふさぐ小型ウロコが無くなったこと、氷銀の棒杭がキーアイテムのカテゴリに入って何度でも使えるようになったこと、そして何よりウロコに隣接してもフィールド上でダメージを受けなくなったこと。
SQ4では棒杭も通常アイテム扱い、持てる分量が有限だったこととウロコ破壊で消費するから集め直しも必要と地味に面倒だったんだけど」
ヤマメ「どうせその口ぶりだと小型ウロコもびっしりだったんだろ?
えっれえめんどくさい迷宮だな」
静葉「レムリアのはマイルドになりすぎて物足りなくはあるわ。
ましてここでは何故かエンリーカが同行するというか勝手についてくるというか」
ヤマメ「今作のNPCらしくいるだけで戦闘には参加しないんだよな勿論」
静葉「一応ボイスで賑やかしにはなってくれるわよ?」
ヤマメ「ソレ別に重要なことじゃなくね?」
静葉「まあそうなんだけども。
ただしエンリーカが同行している間の効果は非常に強力、というかぶっちゃけるとファーマーのもっけの幸い、労作歌同時発動という」
ヤマメ「なんだったっけそれ。
今回何気にファーマー枠少ねえからな、現攻略メンバーにはいねえし」
静葉「もっけの幸いは探索中、一定歩数の一定確率で消費アイテムを拾ってくるスキル。
迷宮によってテーブルが決まっているって説もあって、後半の迷宮に行くほど強力なアイテムを拾ってくると言われるわ。
wiki情報だと解剖用水溶液まで拾ってきたりするそうだわ」
ヤマメ「へー。
でもHPは探索スキルでも回復手段多いし、メディカとか持ってこられても地味に困るところだが」
静葉「労作歌はスキルレベルに対応した歩数ごとにTPが回復する、かなり強力な探索スキルよ。
サブは言うまでもなく、本職でもかなりSPを必要とするけど、これがタダで使えるってだけでもかなり価値は大きいと思うわ」
ヤマメ「ビルギッタの上位互換だよな、そう考えると」
静葉「否定できないわねそこは。
魔物も基本的にはⅣの第三迷宮と同様、通常状態ではヨウガンジュウと変幻フクロウ、冷却状態ではそのどちらも登場しない代わりにヒョウガジュウとコールドネイルが登場する。
実は前者、両方の素材がクエストで要求されるから、ウロコを破壊する前にある程度確保はしておきたいところね」
ヤマメ「うぇーそれはまた面倒な。
ホムラミズチをぶっ倒した状態でウロコ破壊したらどうなんだよそれ、復活までの日数待ちか?」
静葉「残念ながらその通り、可能な限りホムラミズチ存命中に片付けておいた方がいいわね。
ホムラミズチを撃破していなければ、迷宮から出るたびに冷却状態から通常状態に戻るわ。
ついでに変幻フクロウ、4の時は通常状態と冷却状態で使うスキルが違っただけで両方に登場してたわ」
ヤマメ「そいつでバランスを取らないと、冷却状態で魔物の種類が単純に増えるからなんかな。
他には?」
静葉「B2Fまでに登場する魔物では他にデモンホッパー、毒マツタケ、アナトビガエル、そしてB2Fから登場するはさみカブトがいるわね。
全体的にいえば、実は冷却状態でも通常状態でも地味に氷耐性の高い魔物が多い。
氷弱点なんてそれこそヨウガンジュウぐらいの物だけど」
ヤマメ「けど?」
静葉「ヨウガンジュウはハイ・ラガードでもFOEとして登場したでしょう?
あいつら、氷属性で倒すと通常素材を落とさなくなって、1エンでしか売れない「凝固した溶岩」しかドロップしなくなるわ。
今回はそこそこの性能を持つ小手の素材にはなるけど、基本的にこいつを弱点属性で倒すうま味はない。
物理耐性が高いからショックスパークの餌食ではあるけど」
ヤマメ「またショックスパークかよ…解ってたけど」
静葉「ただヒョウガジュウは別で、こいつを炎属性で倒した時の素材「溶けた氷核」も1エンでしか売れないけど…今回これ、ソーマの素材になるのよ。
通常素材はそこそこの性能がある軽鎧の素材になるけど、すぐに上位の性能がある軽鎧が作れるとか、第九迷宮で作れるパッティングメイルのほうが高性能すぎて、結果的に図鑑埋め以外でヒョウガジュウを炎属性「以外で」撃破する意味はほぼ無いわ」
ヤマメ「乱獲案件ですねわかります(真顔
けど確かあのヨウガンジュウ、多段ヒットの炎技使ってきてかなり面倒だったような」
静葉「今回のヨウガンジュウ・ヒョウガジュウは4と一緒で、それぞれ全体炎、全体氷攻撃を使ってくる。
ほぼ毎ターン使ってくるから、属性ガードや先見術で対処するといいわね。
タフで物理耐性もあるから、ヨウガンジュウはギリギリまで弱点属性まで削ってそれ以外で止めを刺すか、ショックスパークでゴリ押すといいわ」
ヤマメ「FOEは?」
静葉「実はB2Fには一切登場しないけど、1Fからカメ野郎「鎧の追跡者」が登場する。
行動パターンは4の時と全く同じ、固定から追尾に変わり、冷却状態になると氷の上も滑ってくる。
初手と5nターンに回避率をアップさせる「オイルスピン」を使ってきて、これが非常に厄介。ケトスの潮吹きと違って、必中スキルでないなら高頻度で外すようになるわよ。
さらにこのバフが乗ってるときだけ使用するランダム斬攻撃「シェルカッター」がかなりの高威力よ。これ地味に新技だわね」
ヤマメ「カメェねえ。
大体見た目からして物理耐性の属性弱点って感じだけど」
静葉「面倒な事にこいつ氷耐性まであんのよ。
ただし炎と雷が弱点だから…」
ヤマメ「またショックスパークか壊れるなあ(呆」
静葉「富嶽を解禁して、なおかつ明夜君がこの迷宮からサブをインペリアルにしたもんだから、ショックスパークが刺さる刺さる。
こっちがいっそドン引きするぐらいのダメージが出たもんで」
ヤマメ「オイルスピンは」
静葉「回避系のバフだから鈍弱で相殺できるわよ。
鈍弱は虚弱の前提だけ取ってても十分効果のある、地味に優秀なスキルよ。
と言っても今度からはドライブ補助としての使いでもあるし、伸ばしてもいいといえばいいわね。異常はともかく封じはそんな撒く構成じゃないし。
ちなみにこいつの素材、優秀な短刀と重鎧の素材になるんだけど…そうね、セプテンメラムもシュヴァリエも布都御霊もあるし要らないわね(目を逸らす」
ヤマメ「メチャクチャやり過ぎだろお前らほんと。
っても、つぐみが重鎧着れるんだから重鎧は無駄にならんだろ」
静葉「号令にプラス行動速度補正あるとは言え、兵装状態の美結は勿論下手するとまり花にも先行されるのよね、重鎧装備だと。
ただHP+14はかなり優秀だし、パラディンが居るなら多少無理しても取りたいところね。シェルカッターを封じても、4の時から持ってた高威力の貫通攻撃「グラインダー」の威力が結構シャレにならないから、後列挑発とかを駆使して被害を抑えていきたいわ」
…
…
先に、氷銀の棒杭に類する氷柱を発見したのは一舞達だった。
話には聞いていたものの、数歩進むだけで汗が滝のように流れる程の高熱を帯びる洞窟内で、触れれば刺すほどの冷気を放つ氷柱が存在することに驚きを隠せないまま、一行は氷の魔力で満たした袋へそれを収め、つぐみ達と一時合流すべく歩き出した…その時だった。
その気配を最初に察知したのは、心菜。
不要な戦闘を可能な限り避けるべく、索敵用の陣を展開して進む彼女が、陣に触れた違和感を訴えた。
魔物とは異なる気配、という彼女の言葉を信じ、一行は慎重にソレとの距離を詰めていく。
果たして。
その先に姿を現した、子供ほどの大きさの影。
道中で遭遇した、巨大なカエルの魔物などとは断じて違う…影は明らかに二足歩行し、人のシルエットを取っている。
マギニアの冒険者の中では、自分たち以外でこの迷宮の探査を始めた者はまだ居ないはず。
そして、通路の角からその姿をはっきりと捉え、一行は息を呑む。
「えっ…!?」
振り返る影は、ヒトのようであり、明らかにヒトとは異なる「生物」であった。
頭に頭髪のようなものを備え、容貌も、幼い子供のようではあったが、ヒトのソレと大差のないものだった。
明らかに異なるのは、淡い緑色の肌と、深紅の瞳。耳の代わりに葉脈のようなものを走らせる器官を備えている。
「これは…この子、いったい」
「わかんない…ハイ・ラガードの翼人とかと全然ちが」
夏陽がそこまで言いかけた瞬間、驚いたのかその「生物」は甲高い悲鳴のような叫び声を上げる。
性別は解らないが、幼い子供のような声だ。
突然の出来事に呆気にとられる一行の前で、「生物」は踵を返し脱兎の如く洞窟の奥へと駆けていく。
…
夏陽からの通信を受けたつぐみ達も、彼女達の正面側にぶつかるルートを模索し、道を急ぐ。
一拍遅れ、美結が通信で受け取った画像…心菜が、走り去るその「生物」の後ろ姿を捉えた写真を示し、つぐみは目を丸くした。
「…これ…そんなことって」
立ち止まり、つぐみは困惑を隠せない。
「人間にも見えるし、そうじゃないとも言える。
そもそも妖怪とか、ハイ・ラガードの翼人とか見慣れてるからそこまで不思議にも思わないけど、こんな生物、見たことも」
「ううん、ある。
エトリア世界樹の…モリビト」
「えっ!?」
今度は美結が目を丸くする番だった。
「モリビトですって?
確か数年前に、当時のエトリア執政院の討伐命令があって殲滅されたとか聞いたことがあるんだけど?」
その言葉を聞きとがめるように、眉をひそめるエンリーカが口を挟む。
「…ああでも、エトリア世界樹の一族と袂を分かったごく一部が、タルシス近郊に移り住んでたとか言う
そのタルシスのモリビトも、最終的に何処へ行ったんだかよくわかんない感じだけど」
「その一族が、レムリアに辿り着いてた可能性も?」
「なくは無いわね。
その文書の記述を信じれば、時代的にはレムリア文明の発展があとのはずよ。
タルシスにいたモリビトから更に分派したのか、あるいはそのまま移り住んだかは解らないけど…そうか、ソレで納得いったわ。
あの時ハプニングがあって全部は見れなかったけど、霊堂の壁画に使われた文字。
モリビトがよく使う古代文字のひとつだったわ」
そのとき。
甲高い悲鳴のようなものが、道の先から響く。
五人は顔を見合わせる。
「これは」
「まさか、例の…?」
逡巡する少女らを余所に、道の先へ向かいエンリーカは大声で何事かを…否、意外にもそれはつぐみや美結は勿論、まり花が得意とする「言語」で、その悲鳴の主へ叫ぶ。
「どう?
あたしも多少の古代言語ぐらいなら…」
「それ…英語!?
今英語で「すぐに行くから待ってて」って、エンリーカ」
困惑した顔のまま二人が固まっているのを、つぐみは強引に促して悲鳴の先へ駆けだしていく。
…
…
ヤマメ「∑( ̄□ ̄;)アイエエエエエエエエエエエエエエ!!?
モリビト!?モリビトナンデ!?」
静葉「あなたエトリアに行ってたじゃない
ヤマメ「そういう問題じゃねーよ!!><
なんでモリビトなんだよつーかモリビトが英語しゃべるとか意味分かんねえよ!!><」
静葉「実際古代言語がどういうものかは作中では触れられてないんだけどねえ。
モリビトにまつわるものの名前でまず思いつくのはエトリアの三層ボスコロトラングルと四層ボスイワォロペネレプだけど、どっちも由来はアイヌの口伝なのよね。
それから考えればモリビトの用いる特異な言語があるとすれば、むしろアイヌ語のような気もするけど」
ヤマメ「クッソどうでもいい話だなソレ」
静葉「まあこの辺に関しては世界樹世界の公用語もよくわかんないし、ありがちななろう系ファンタジーのお約束に則って基本日本語だとすれば、まあ順当に英語話者が少ないかいないと考えてみてもいいんじゃないかなって適当な理由よ。
ちなみにこれも余談中の余談だけど、マリカチャンの数少ない得意項目として実は英語があるわ(公式設定)」
ヤマメ「ひなビタまり花ボーカル曲であんまり英語詩をバンバン飛び出させてくるやつってなかった気がするけどもなあ」
静葉「実際、このモリビト(仮)の子供と最初に遭遇するの、第九迷宮の磁軸を抜けた直後よ。
その後金剛獣ノ岩窟が解禁されて、B1Fの右側、最初にカメェが屯している区画の直前ぐらいで再度遭遇する。
ついでに、古代言語らしき言葉を使っていることはB2Fで解るわよ。
仮にアイヌ語だとしたら、エンリーカはどこでそんなものを習熟したのかしらね。基本的にアイヌは口伝で文字のようなものは持っていないはずですもの(美結注:一応現在は多くの言語学者さん達の手によりカタカナ表記などで言語辞典も作られてますよ)」
ヤマメ「至極どうでもいい話だなそれも」
…
…
雪崩れ込んだ大広間。
少女達の目の前に、怯えへたり込む、人間の子供のような生物…そして、ソレに対峙する巨大なトカゲの如き魔物。
つぐみや美結には見覚えのある魔物だった。
しかし、つぐみの記憶からすれば、決してこの迷宮を根城にするような魔物ではない。
「サラマンドラ!?
なんで、こいつが」
「危ないッ!!」
サラマンドラが大きく息を吸い込んだのを見て取った美結が、反射的に瘴気を纏って急加速する。
瞬きする間に亜人の子のもとへ到達し、そして、抱きかかえた瞬間にサラマンドラは猛烈な勢いの炎を吐き出す。
「おおおおおおおおおおりゃあああああああああああ!!」
一拍遅れて飛び込んできた明夜と、もう一方の道から飛び込んできた影が、同時に魔力を込めた盾で爆炎を受け止める…が、その勢いを完全に止めることは出来ず、四人は大きく後方へと弾き出される。
「…っつー…なんてパワーだあの炎っ。
ごめんみゆ、大丈夫?」
「イブさん…明夜…大丈夫、なんとか」
美結は亜人の子に目をやる。
脚に酷い火傷を負っているように見える…洞窟の先を目指そうとして、サラマンドラの妨害に遭ったのだろうか。
三人もまた軽い火傷を負う羽目になったが、それは何時の間にか姿を現していた夏陽の巫術と、展開された心菜の陣の癒やしの魔力で回復される。
「もうっ、世話焼かせないでよね。
この子はあたし達に任せて、あのデカブツ…サラマンドラをなんとかしないと」
「えっ、あんたアレ知ってんの!?」
「知ってるも何も、ハイ・ラガードの常緋ノ森にいた強力な火トカゲよ。
今回のレムリア行きに際して、最終試験とかいって師匠にやっつけてこいって言われたの、アレだもの」
「…結構、あいつ手強い…!」
テリトリーに侵入した少女達に、怒りの視線を向けてくるサラマンドラ。
先程の炎を合図としてであろうか、小型の火トカゲ…サラマンドラの幼体と思しき魔物達がそこいらの岩陰から続々と集まってくる…。
「戦うしか…ないみたいだね」
つぐみの視線を受け、傍らにいたまり花は神妙な面持ちで頷く。
サラマンドラの炎の射線を挟み、視線の先の通路で成り行きを見守る咲子とめうも、その視線を受けて頷くと…一斉に飛びかかってくるベビーサラマンドラの群れを、氷の魔法と大鎌の一閃が薙ぎ払う。
再び吐き出されようとしたサラマンドラの炎を、まり花の放つ先見術が遮ると、果敢にも飛び込んでいった一舞と明夜の氷の刃が、その懐を大きくえぐり取った。
…
…
ヤマメ「…あのー、なんでこいつ居るんですか静葉さん…?」
静葉「私だってびっくりよ(真顔
と言うことで、B2Fを半ばほど進むと絶賛逃亡中(?)のモリビト(仮)の子供が、洞窟中腹を何故か根城にしているサラマンドラに襲われているのを救出するイベントが発生するわ。
サラマンドラのいるフロアはこれ見よがしに四方三マスずつ空いた通路が水路に阻まれているという作り、つまり」
ヤマメ「射線上に入ると火を噴いてくると」
静葉「そゆこと。
エキスパ(ヒロイック)だと全員が50ダメージ受けて画面端、炎の射程外まで吹っ飛ばされることと、残っている火に触れても10ダメージ受けること、4回ほど炎を吐くとヘバって数ターン動かなくなるという特徴まで全部SSQ2と一緒よ。
ただ、ここも一応ウロコがあって破壊することが出来るんだけど」
ヤマメ「まっさか弱体化して動かなくなるとか言うんじゃねえだろうな?」
静葉「実は半分正解よ。
戦闘で弱体化してるわけじゃないし、先制が出来たりとかもしないけど、マップ上で炎を吐かなくなってエンカウントが非常に楽になるわ」
ヤマメ「それでも十分やりやすくはなんのか」
静葉「勿論へばらせてその隙に距離を詰めるのも可能よ。
斥候の長靴とかでブレスダメージを1に出来るから、強引に正面へ突き進んでしまうのも手かしらね。
というわけで、サラマンドラの解説に移るわね」
金剛獣ノ岩窟・中ボス サラマンドラ
レベル63 HP29659 氷弱点・炎無効/即死・石化無効、スタン耐性、呪いに弱い
獄炎の吐息(頭) 全体遠隔炎攻撃
貪欲な爪(腕) 近接貫通斬攻撃、毒を付与
クラッシュテイル(脚) ランダム3~6回近接壊攻撃
無償の愛(腕) 次ターン終了時まで、後述するベビーサラマンドラを対象とする攻撃(全体攻撃を含む)によるダメージを肩代わりする
ヒールハウル(頭) 味方(サラマンドラ側)全員のHP1500回復し、状態異常と封じを解除する
※約2900ダメージを負うごとに、ターン終了時「ベビーサラマンドラが駆けつけてきた!」のアナウンスと共に後述するベビーサラマンドラが戦闘に乱入する。
サラマンドラ本体のHP残量に応じ、一度に乱入してくるベビーサラマンドラの数は増える(最大4体乱入、4体以上いる場合召喚は行われない)。
ベビーサラマンドラ
レベル63 HP343 氷弱点・炎耐性/石化無効、即死耐性、呪い・混乱・スタン・頭封じに弱い
火炎の吐息(頭) 一列に遠隔炎攻撃
耳障りな鳴き声(頭) 全体に頭封じと、3ターンの間属性防御力低下を付与
ダストテイル(脚) ランダム2~4回近接壊攻撃
静葉「スキルは然程変わってないように見えるけど、やってくることを考えるとSSQ2とは完全に別物ね。
まずSSQ2との大きな違いとして、開幕の獄炎の吐息以外に確定行動がほぼ無いわ」
ヤマメ「そだっけ?」
静葉「SSQ2でも基本ランダム行動だけど、貪欲な爪の次は極炎の吐息確定よ。
Wikiの行動パターン()を見る限り、ほぼ全行動がランダム行動だと思って差し支えない。HPが半分を切るとベビーサラマンドラ召喚直後ターンにクラッシュテイルを使い、そこからランダム行動にクラッシュテイルが混じり始める。
HP80%以下になると、HP50%になったとき以外はベビーサラマンドラ召還直後にほぼ確定で無償の愛を使う。そして、ベビーサラマンドラが残っているとヒールハウルを使ってくるわね」
ヤマメ「怒りの獄炎弾は?」
静葉「どうもレムリアのサラマンドラは血の気が薄いと見えて使わないのよね。
ついでに獄炎の吐息、痛いことは痛いけどSSQ2みたいにぶっ飛んだダメージでは無いわ。適正だったら余程MDFが薄くないのでなければ結構余裕を持って耐えられる程度よ」
ヤマメ「HPそのもんはそんなに変わらない気がすんだけどな。
そういえば無償の愛ってただ肩代わりするだけ? 軽減とかしないの?」
静葉「そこは黄金の鉄の塊で出来たパラディンじゃないからね。
なので、今回のサラマンドラは怒りの獄炎弾を気にせず、なおかつ無償の愛でベビーを庇ってくれればそれだけサラマンドラへのダメージがkskするからメチャクチャやりやすいわよ。
ベビーも耳障りな鳴き声で獄炎の吐息をサポートしてくるけど、クリアランスするなり防御バフで相殺するなりして、サラマンドラが庇いきれないくらいの勢いで全体攻撃してやればあっさり一掃できるわよ」
ヤマメ「じゃあこいつめっちゃ弱いのか…」
静葉「所詮中ボスですもの。
ちなみに展開上は⑨人がかりでタコりに行ってるけど、実際はつぐみ達4りで襲撃してるわよ」
ヤマメ「もうここから富嶽も布都御霊もクレイドルも容赦なく解禁してくんだな」
静葉「普通やり過ぎだとは思うけど、何しろ今回は本ッ当に長いからダレてきてるのよ。
ちなみにこの装備でカメェに明夜君がショックスパークをぶっ放した時のカットがあるんだけど」
静葉「予想通りほぼ一撃で蒸発したわね」
ヤマメ「アホかwwwwwwww」
静葉「このクソ火力の上攻撃の号令とフリーズアームズセットで盛って凍砕斬ぶっ放してるだけで勝負はついていたわね。
楽勝過ぎて何を語れば良いのかというレベルで」
ヤマメ「この無法振りにはもう言葉もねえわ」
静葉「一応それ以外の装備はこの迷宮までで解禁できる物なんだけどもね。
あ、ちなみにサラマンドラの条件ドロップは脚封じ撃破、ナイトシーカー専用防具のミラージュベストの素材になるわよ。
別に耐性があるわけじゃないけど、それでも弱点ではないからなかなか決まってはくれないわ。HP削りきったところで方陣張って気長に待つといいわね」
静葉「というわけで次回は後半戦、このまま一気に第十迷宮からストーリーを進めていくわよ。
やっとこストーリーも終盤戦に突入、これまでいろいろぼかされていていた例の人がついに表舞台に踊り出てくるわ」
ヤマメ「中盤からもう怪しすぎて疑う以外何したらいいのか解らないあいつだな。
やってることは結局の所かなり小物臭いんだけどねえ」
静葉「そんな彼の、このログにおける登場シーンを挟んで次回に続くわよ(キリッ」
…
…
サラマンドラの懐近くに飛び込んで、その肉薄した位置で猛然と剣を振るう一舞と明夜。
援護に入ろうと次から次へ駆けつけるベビー達を、咲子達が蹴散らす乱戦の中で、つぐみは確かにその気配を察知していた。
「どど、どうするのこれじゃキリがないよっ!?」
途切れることなく湧き出すベビー達を退けながら、傍らでなんの動きも見せないつぐみへ、まり花は喚くようにして窮状を訴える…が、まり花もその時になってようやく気づいた。
つぐみの見やる視線の先。
戦闘の熱気…サラマンドラ一家の吐き散らす高熱の渦に紛れ、不自然に昏く澱んだ空気のあるその一角を。
二人は示し合わせたかのように、同時に灼熱洞窟の岩場を蹴る。
渋々といった感じに、大幅のブロードナイフでベビーの攻撃を受け止めるエンリーカも、二人が取った不可解な行動を見とがめて叫んだ。
「ちょっと、あんた達何やって…!?」
「美結ちゃん、捕まえて!!」
そして、その存在に気づいていたのはつぐみ達ばかりではない。
何時の間にか「澱み」は人の姿を取り、それが放った「呪言」の波動を夏陽の「結界」が弾き、カウンターで放たれた方陣の領域とまり花の放つ冷凍光線の射線から飛び退くその男を美結の大鎌が捉える…!
「…少々お前達を見くびりすぎていたか。
狐尾…ただの小娘共かと思えば、本当に厄介な」
軽装の鎧に身を包み、長剣一本で身じろぎせず深紅の刃を払いのけ、さらに後方へ跳んだ…紅い髪の青年。
「ブロート…あんた、生きてたのね…!!」
エンリーカがその名を告げ…かつて真南ノ霊堂の近くでつぐみ達の目の前にも現れたその冒険者は、不敵な笑みを浮かべ少女達と対峙した。