亜人の子に導かれ、辿り着いた先にあったのは、古代の遺跡らしき廃墟を利用して作られたように見える集落だった。
亜人の子が大はしゃぎで駆け込もうとしたとき、同じモリビトと思しき青年が姿を見せ、子供と同じ言葉で無事を喜ぶが…青年は取り残されたつぐみ達を見やり眉をひそめる。
「このようなところにヒト…だと?
いや、そのうちの幾人かは、ヒトとはわずかに違うようだな…何者だ、貴様等は。
我等の里に一体何用だ!」
青年は、困惑するような子供を庇うようにして、それとつぐみ達の間に立ち、流暢な「ヒトの言葉」で誰何する。
「何用だ…と言われましても」
困ったように首を傾げる咲子に構わず、同じように神妙な表情で一歩前に出たつぐみ。
「私達は…星海を超えてこの地に来た冒険者です。
あなたたちは、モリビトでは?」
青年はわずかに驚きの表情を浮かべるが、すぐに表情を険しくする。
「貴様が何処で、我等のことを知ったのかはさしたる事ではない。
いかにも、我等はモリビト。
かつて遠き地の世界樹より生まれ、同じく世界樹のある地を巡り、そしてこのレムリアの森を守護する一族だ。
ここはヒトの来るべきところではない、我等に害をなさぬのであれば、貴様の連れるヒト共と早急にこの地を立ち去れ」
「何よ、その言い草ッ」
にわかに語気を含んだ声で反論するエンリーカをつぐみは制し、そして青年に護られる格好になった子供も、非難するように青年へ訴える。
子供は岩窟で炎の魔獣に襲われたところを、つぐみ達に救われた旨を青年に告げている。
青年は険しい表情のまま頷くが、子供に対して厳しい口調で何事かを告げ、子供はそれで口を噤んでしまった。
「本来であれば、哀れなる迷いビトであろうとも、我等が掟に従い力尽くで排除せねばならぬ。
しかし…我が一族の子の窮地を救ってくれたことに免じ、今回は貴様等を見逃そう。
再びこの地に踏み入れるのであれば、命は無いと思え。
ここはヒトが来るべき地ではない」
何時の間にか、青年と同じような「モリビト」の大人達が、槍や山刀を持って姿を現し、そこいらの建造物から、威嚇の如く鏃を向ける姿も見える。
「待ちなさいよ!
この先に世界樹への道が…繁栄を約束する秘宝があるのよね!?
いいえ、西の霊堂の壁画を少し読み解いた…それは、きっと」
エンリーカの言葉に、モリビトの青年はその表情を一層険しくする。
「ヒトよ。
貴様等はかつて、欲望のまま愚かな行為に及び、我が同胞は元より己の同族すら傷つけ、このレムリアの大地を、無辜の民の血で染め上げた。
この地にあるのは、繁栄を約束するものでは、断じてない。
あれは…「世界蛇」は、ヒトの欲望が具現した姿。
繁栄の約束どころか、その繁栄を破壊した、災厄そのものだ。
それが目当てというのであれば、容赦はせぬ」
エンリーカもまた…険しい表情のまま青年とにらみ合いを続けていたが…やがて、これ以上の話し合いも、まして互いに相争うべき愚をおかす事もなく、辞去の意を告げてその場をあとにした。
そしてエンリーカと別れてつぐみ達はマギニアの街に帰還し、ペルセフォネ失踪の報に立ち会うこととなった。
彼女はかごめの指示に従い、大人しくその武装を監視担当の衛士達に預け、そして…「モリビトの里」の報告を受けたかごめの旅立ちを見送ることしか出来なかった。
~新・狐尾幻想樹海紀行X~
その25 飛行都市マギニアの長い長い一日
それから間もなくして、探索用のボディースーツから、普段身につけている医術士風の衣装に着替えたつぐみは、一舞を伴い改めて司令部へ出向く。
彼女らはミュラーに従って応接の間へ通されると、ミュラーの謝罪を受けた後に、形式的な聴取の手続きを行い、促されるままモリビトの里における会話のあらましを報告する。
「レムリアに眠る秘宝が…繁栄をもたらすもので在るどころか、その真逆である…か。
俄に信じがたい話だが、そもそも「レムリアの秘宝」がいかなるものか、そのことを我々に告げたのは今は亡き先代の王…則ち、ペルセフォネ様の父君だ。
その「真の伝承」がほかにもあるとすれば、我々の認識と大いに異なる代物であったとしても、不思議なことではないのだろう。
姫が行方知れずとなってしまわれたのも、そこに関わることだなのだろうか」
「私達にも、詳しいことは解りません。
ですが…タルシスの「暗国ノ殿」においても、それを示唆する資料が残されていました。
モリビトの言葉からも、レムリアの秘宝が世界の大破局をもたらす可能性のほうが、高まったように感じます。
おか…いえ、私達のギルドマスターも、そのことを何処かで知り、確信を持っているようなところも」
然り、とミュラーは頷く。
「いずれにせよ、今我々にできることはそう多くはないのかも知れぬ。
今は行方知れずとなっている魔理沙君が言っていたな…かつて秘宝を封印した際に、姫様方マギニア王族の遠い祖先が関わっていると。
仮に、姫様を拉致した輩がいるとすれば、其奴の目的はなんだと思う?」
「あくまで、現状から推測される仮説に過ぎませんが…世界を滅ぼすほどの力を持った「秘宝」による、世界の武力支配。
マスターが目星を付けているだろう存在は、強力な
封印された「なにか」を呪言で制御し、その手段としようしている可能性は、捨て置けないかと」
「呪言…か
私もいかなるものか知らぬわけではないが…此度集った数多の冒険者の中にも、呪言師に属する者は存在しなかったはずだ。
確かに、あの技能を身につけることは困難を極め、卓越した呪言使いは極めて少ないと聞く…最初はそう思っていたが」
ミュラーは言いかけて、つぐみに視線を送る。
つぐみも、その言葉の先を察して頷く。
意図的にそうした技能者を退け、その「黒幕」が暗躍する素地を作っていただろうという憶測。
ミュラーは嘆息し、少女達に告げる。
「なんにしても、君らに掛けられた嫌疑が払拭されるまでは、不自由な思いをさせてしまうかも知れぬ。
私の方で可能な限り、君らの自由を阻害せぬよう尽力しよう。
ただ…見返りといっては語弊があるが、現在我がマギニア軍の手にも余るいくつかの案件があり、君らにもその解決のため協力を願いたい」
「はあ…それは」
「別にいいですけど、どうせヒマになるんだろうし」
済まぬな、とミュラーが差し出してきた司令文書を、つぐみと一舞は一瞥し、それを携えて司令部をあとにする。
…
一舞「というわけで海嶺までやってきたわけだけどー」
夏陽「えー…確かに情報管制でみんなまだ知らないこととはいえ、あたし達こんなにホイホイ自由に外出ていいわけ?」
衛兵「その件に関しましては、我々近衛兵団とその直轄軍がミュラー将軍の直属に当たりますので、我々が名目上監査役として随伴させて頂くことである程度の融通は利くようにしております。
こちらとしましても、皆様方の助力を頂けることもありますし」
めう「見事なWin-Win関係と関心するけどどこもおかしいところはないめう(キリッ」
一舞「んまぁー四六時中街のどっかでカンヅメにされてるよりいいかも知れないけどー。
ところで、あたし達ここでなにすればいいんです?」
~衛兵説明中~
咲子「…つまりここのトドさんよりも、もっと強いトドさんもどきが、とってもとっても悪さをしてると」
夏陽「ハイオンネプとかハイウォルラスよりも強力な、それによく似た海獣ねえ。
んなもん、いたかしら」
衛兵「事実、この海嶺洞窟の探査に入った冒険者や調査隊にも多数の被害が出ておりまして…「海の一族」の巡回部隊にも無視できない損害が生じているとのことです」
夏陽「連中が出張ってるんだったら、静葉さんとか葉菜さんとかわりとなんとか出来そうな人たちいると思うんだけど」
衛兵「それが…思ったより狡猾な奴らで、自分より明らかに格上の者がくると解ると、外洋に逃げて身を潜めてしまうようなのです。
先日ようやく、我々でこの区画に追い詰めましたが、遺憾ながら他に動かすことの出来る戦力もおらず」
一舞「だいたいわかった(キリッ
基本があのトドなんでしょ、だったら拡散物理さえなんとかすればどうにでもなるって事よね。
ダメ押しにそこのエロサイドテールが前歯持ってけば問題ないっしょ」
夏陽「あんたねえそんな単純に」
めう「むっきゅん!めうの黄金の左は今宵も血に飢えてるんだめうー!!>ヮ<ノシ(ぶんぶん」
夏陽「今思いっきり真っ昼間なんだけど…はあ、もういい。
とりあえず居場所わかってるんだったらさっさと片付けるわよ」
…
…
つぐみ「というわけで今回は留守番の私達が解説すればいいわけね」
美結「それはそうとこのクエスト、実際は第八迷宮クリアしてすぐやったやつだから、イブさんのグラフィックがいまと全然違うのだけども」
つぐみ「あー、それね。
実際イブさん3回くらいグラフィック変えてるしね。
クラスだけは地味にインペリアルのまま変わってないよ。
ってもインペリアルは第八迷宮からで、最初は当人がどこかで言ってたように、パラディンだったんだけど」
美結「なるべくサブクラスとメインクラスは同じパーティ内で被らないようにだけはしてるんだけどね。
でもこのメンバーだったら、サブヒーローが二人居てもいいんじゃないかって気がするわ」
つぐみ「具体的にはイブさんと夏陽さんだよね。
今回本ッ当にセスタスがクソザコナメクジレベルなんで、出来ればセスタスを後ろに引っ込めたいんだけど、我等がめうPは一体何を考えているのやら(真顔」
めう(From第四の壁)「かといってヒーラーのなつつを前に置いたままにしとくのもあまりうまくないめう。
本人もあきらめが鬼なったみたいでヒーラー兼ガード役の道を邁進するみたいだめう。
いぶぶもパラの介護抜きで放置すると稀によくひっそりと裏世界で幕を閉じてるからこればかりは仕方ないのだ。ショッギョムッジョめう」
つぐみ「わざわざどーも(真顔
実際裏ダンジョンでは即死スキル持たせて色々してるめうめうだけど、下手にリードブロー取りに行くより追い打ちで止めて、ミリオンラッシュから異常付与武器か即死付与武器持たせて振り回してたほうがよくねみたいな空気になってるみたいね」
美結「ミリオンラッシュだったらサブシノビで首切まで速攻で振る未来しか見えてこないわね(真顔」
つぐみ「特に即死が効くFOE相手ならそっちの運用のほうが強力なんでしょうし。
…脱線も甚だしいしそろそろ本筋に戻しましょうか。
今回のクエスト「海底の暴れん坊」は、第八迷宮でチョーシに乗ってるトドのパチモンの前歯を叩き折ってこいっていう内容だよ」
美結「ハイウォルラスのパチモン「残虐なる海獣」とハイオンネプのパチモン「暴食の海獣」ね。
前者はHP1869、後者は1609と、それぞれのトド共の3倍程度のHPで、行動も少し違うわね。
前者は本来のスキルの代わりに列石化付与スキル、後者は拡散氷攻撃をしてくる」
つぐみ「最初は海嶺ノ水林B1Fの四カ所に「!」が表示されて、まずは暴食、次に残虐と戦うことになる…んだけど、2匹討伐したところで残りの2匹が合流しちゃうみたいなのよね。
これは強制イベントで、手間が省けたと見せかけて列石化から拡散氷という鬼畜コンビネーションを発揮してきやがると」
美結「流石に弱点も一緒だし石化対策か氷対策さえ講じておけば、受領できるレベル帯で苦戦する要素ほぼない気もするんだけども。
ちなみに「ウォルラス」は英語でセイウチ、「オンネプ」はアイヌ語でオットセイのことで、実は「オットセイ」という言葉そのものは元々中国でオットセイのペニs」
つぐみ「ちょっとやめないか(キリッ」
さとり補遺:残念ながら事実です(真顔)
何故それが動物そのものの名前になったかというと、強力な精力剤としての「オットセイ」という言葉が有名になりすぎて、1957年のオットセイ種の保存に関する国際条約が締結された際、出席した日本の代表団がこの言葉を英語だと勘違いしたことで和名として定着する事になったとか。なんともはやですね。
…
…
♪BGM 「血戦 身命を賭して」♪
一舞「んなろーまだ逃げるか待てこのやろー!!!><」
めう「な、なんなりかあのいぶぶの体力…><
このメンバーで一番重装備してるはずなのにまるで意味がわからんめう><」
夏陽「攻撃すれば勝手にHPは回復するわ、スキルじゃなくても弱点突けばオートでTP回収出来るわで、実はあいつが一番こん中で継戦能力高いんじゃないかしら(うんざり
…まあ」
咲子「イブちゃんとってもとっても待ってくださいひとりでは危険がアブナイですよ~!!><」
夏陽「あいつもか(真顔」
めう「リーパーの生命吸収黒き衣黒き波動の三点セットもなかなかインチキくさいめう(真顔
実際なんか誘い込まれてる気配がオーラとなって見えそーなのだ、どーするめうなつつ?」
夏陽「範囲石化と範囲属性、組み合わせれば面倒な事この上ないわね。
しくったなーこういうときはマグスよりメディックのほうが対処楽だわ、まあ今更だけどさー。
…しゃーない、ここな」
心菜「………なにする?」
夏陽「視野に入ったら邪眼。
んでもって(めうにアイコンタクト」
めう「こういうことめうなっ!」
夏陽達の予想通り2匹のカラテ海獣は一糸乱れぬコンビネーションでアンブッシュしてきた!
しかしそれを察知した心菜のジャガン・ジツのサポートを受けためうのフキヤ・ダートの強力睡眠剤により、フドウカナシバリ・ジツを仕掛けようとしたカラテオンネプを眠らせた!ワザマエ!
めう「こっちも眠るのだー!イヤーッ!!><」
さらに追撃のフキヤ!
だがなんたることか、カラテウォルラスはフキヤ・ダートをブリッジ回避!
さらに反撃のコリ・タスク・カラテでヒサツ・ワザ発動準備の無防備な一舞へ猛然と襲いかかっていく!!
めう「うみゅ!?」
しかし致命的なコリ・タスクの一撃は一舞へタタミ半枚の距離まで迫ったところで、いずこかからの精密狙撃により妨害される…!
そのチャンスを逃すことなく、一舞はカウンター気味にアクセルドライブの決断的な一撃をカラテウォルラスへと叩き込んだ! カラテウォルラスは爆発四散!
そしてカラテオンネプは夏陽の巫剣でズタズタにされて裏世界でひっそり幕を閉じた…。
夏陽「ったくもーなんでそこで深入りすんのよあんたはー!
フランス大陸軍の勇者の中の勇者()か!!><」
一舞「へーへー悪うござんしたよー><
それより、さっき誰か…あのトド野郎を撃たなかった?
実際助かったけど」
心菜「……わたしも見た……。
あいつ、誰かに撃たれてた」
不可解なふたりの言葉に、夏陽達は顔を見合わせる。
夏陽「どういうこと?
私達がドンパチやってて、それに気づかれないようなタイミングで銃撃とか…あたし達で銃持ちは居ないし」
めう「めうもなんにもしてないめう。
というかブリッジ回避されためう。まだまだめうのカラテが足りてないのだ><」
咲子「もしかしたら、衛兵さん達でしょうか?」
夏陽「連中がやったんだったら私達だって気づくでしょうよ。
私達に気づかず狙撃でサポートできるような銃士なんて…そうよね、ライシュッツさんくらいの技量があれば可能かも知れないけど」
めう「…『魔弾』のライシュッツ。
待つめう…そういえば、確か」
「そうね。
私達に気配を気取らせず、遠距離から精密射撃でサポートできる銃士。
この地にいないはずの『魔弾』ライシュッツでなければ…いま絶賛行方不明の霧雨魔理沙くらいしか、私にも思い当たるところはない」
一舞「静葉さん」
静葉「この海獣共もそうだけど、あの子やてゐの逃げ足の速さも天下一品ですものね。
マギニアの連中があの海獣共をなんとかこの区画に追い込んだと聞いて駆けつけたはいいけど…あなた達が対応に動いてるようならその必要もなかったかしら。
あなた達も災難だったわね。さっきエンリーカにも今回の一件が届いて、今頃もキャンプでぶーたれてると思うわ」
一舞「やっぱり…そっちにもまりさ、行ってないんですね」
静葉「ええ。
でも恐らく、この近辺でうろうろしてたことは間違いなさそうね。
何をしでかすつもりなのか…まったく」
夏陽「そーいえば、ライシュッツさんはエスバッドのメンバーが持っていた遺品の銃を、あの白黒に渡したって言ってたわ。
魔銃「アグネア」。
卓越した技量を持つ銃士が扱えば、その射撃に硝煙は勿論、射撃音すら伴わないという…ハイ・ラガードの鍛冶師が生み出した最高傑作」
めう「それだけじゃないめう。
まりさんは、それと同じぐらいのレベルの技巧を持って鋳造されたワンオフ品「アグネヤストラ」ももってるめう。
マグナム銃の砲身サイズでありながら、長砲身のスナイパーライフル並みの射程と精度を両立する最高にイカれた銃を」
静葉「そもそもにして、魔法射撃大得意だからね、あの子。
此処になんの目的があって残ったか、あるいは立ち寄ったか…私はあいつを追うつもりよ。
そろそろ、行くべき迷宮もそれほど多く残ってはいないでしょうしね」
…
「あぶねえあぶねえ…静葉なんかに捕捉されたら厄介なことになるしな。
にしても、まあサンシタっぽい魔物だしハズレだよなあれどう考えたって。
ま、物のついでってヤツだ」
海嶺の洞窟から一足先に離れ、魔理沙は何処かうんざりしたように肩を竦める。
「さて…そうなると古跡にいたなんかよくわからんヤツの方がビンゴっぽいなあ。
そっちはまあ、あいつらに押しつけるか。
ゴーレムとスノードリフトは既につぐみが殺ってるみたいだし、あとは」
魔理沙は視線の遥か先…第三のエリアである岩島、その空に渦巻く微かな瘴気の渦を見やる。
「かごめが動くとなれば、戦況は大きく動くはずだ。
そろそろ…リリカ達と合流するか」
その姿は、わずかな砂塵を足下に残し、瞬く間にその場から消え失せていた。
…
~同じ頃、飛行都市マギニア~
「不老不死?」
「そうそう。
それ以上歳も取らない、しかも死なないんだって。
まるで御伽噺みたいな話だろう?
いやそれよりもむしろホラーっぽいかなだーっはっはっ」
その時偶々、酒場に足を運んでいたまり花はきょとんとした表情で、言葉の主…クワシルを見返す。
このクワシルという初老の店主が、お調子者の大法螺吹きであることは誰もが知っている。
これまでの探索先でも、行きつけの酒場では一週間と間を空けず居座るかごめですら、流石にこのちゃらんぽらんな店主を毛嫌いしてか、ほとんど足を踏み入れてはいない。
当然他メンバーもそれとなく忌避しているこの場所であるが、そのようなことを毛ほども気にしないこの少女は別で、現在の「狐尾」において、依頼事を拾ってくるのはほとんどまり花の役目になっている節もある。
基本的には傍につぐみか一舞が居て、クワシルが妙なことをこの少女に吹き込まないかどうか監視しているのが普通であるが…この時はストッパーとなるべき者がいないどころか、つぐみ達も一舞達もそれぞれの役目をもらっているため、ここにいるのはまり花一人だけ。
彼女は怪我の酷いこともあり、また今回の「企て」とも関係が薄いと判断され、外出時に行き先を告げる以外の拘束もない状態であった。
その怪我の原因は言うまでもなく、先日の灼熱洞にて彼女が「起動」した氷の奥義魔法。
見た目は然程普段と変わらないまり花であるが、その両腕はよく見れば、隙間なく包帯の巻かれた痛ましい有様…それは、魔法の反動で骨まで達するほどの、重度の凍傷によるものだ。
今「海の一族」の元にいるてゐの見立てでは、いかなる反則すれすれの治療手段を用いても全治一週間。
無理をして悪化させようものなら、最悪その腕を切り落とさなければならない…キーボーディストの彼女としては殊更、致命的なレベルの重傷だった。
「縦しんば完治したとしても、この世界から帰ったあとにバンド活動を続ける意思があるなら、以後二度と氷の奥義を使うな」
それが、かごめの言葉だった。
クワシルは変わり者であるが、愚鈍ではない。
それとなく彼女に気を遣い、自分の突拍子もない法螺話を楽しみにしているこの少女をからかうような言動を、一切していないところからも窺えよう。
そして…これから彼が話すその突拍子もない「昔話」は…事実無根の作り話ではなかった。
「そうだねえ…今の姫様がまだ、君よりももっーとちっちゃい頃だったと思うんだよねえ。
あの頃の姫様、もっと今よりもオテンバで…ってそれはまた別の機会にしとこうかな、この話とあんまり関係ないしねぇ。
その頃…んー、僕が此処に店を構えるちょっと前ぐらいだけど、向かいに変わった親子が住んでいたんだよ。
お母さんが居なくて、親父さんとちっちゃい女の子が一人でねえ…その女の子の瞳がねえ、まるで宝石のように、真っ赤だったんだよねえ」
「赤い瞳?
てーさんみたいな?」
「おお、そういえば君達のところにも、兎耳のお嬢さんがいたねえ…そうそう、あんな感じの色だよ。
あのお姉さん、人間とも魔物ともちょっと違う…妖怪だっけ?
そうだねえぶっちゃけその子も、そんな風におっかながられてたんだよねえ。
お人形さんみたいな可愛らしい子で…でもねえ、何年も歳は取らないし、昼間は家に籠もってるしで、確かに妖怪変化の類と言われても、しょうがなかったかも知れないねえ」
クワシルはわずかに悲しそうな笑みを浮かべる。
「実は僕ねえ…そのお父さんの方とちょっとした知り合いでね。
若いころは腕利きの冒険者で、司令部からも一目置かれてたんだ…でも、やっぱりだいぶ歳だったからねえ。
若いころの無理があったのか、レムリアに着いて半年ぐらいしてからねえ、病気で亡くなったんだよねえ。
そしたら不思議なことなんだけど、お父さんを追いかけていくみたいにして、間もなく女の子も亡くなったのさ。
自分で命を絶ったんじゃなくて、急に病気が一気に進んだみたいになったらしくて。
関係あるかどうかはわからないんだけど…彼が死ぬ少し前に、これまた不思議なことを言ってたんだよ…『赫き魔眼は蝙蝠の下に』とかね」
「赫き…魔眼?」
鸚鵡返しに問い返すまり花に、そうそう、とクワシルは相槌を打つ。
「彼はこうも言ってたんだ。
『赫き魔眼は不死の力、されど安易に触れれば災いをもたらす。使い道を誤ってはいけない』って…娘さんの赤い眼、まさかとは思うんだけどもねえ」
「不死の…赫い眼」
まり花は神妙な表情で、もう一度それを繰り返す。
彼女は知っていた。
「不死と夜の眷属」…その代表格が、吸血種と呼ばれる存在であることを。
そして彼女の最も善く知る吸血種…同じチームを組む少女も、その血を継ぐ存在であることを。
そして、彼女は思った。
自分の持ちうるこの強大なる「冬の魔力」を、その力をもってすれば…使いこなせるようになるのではないかと。
「まあこんなの、僕だってただの御伽話だとは思うんだけどねえ。
ただねー気にはなってるんだよねえ。
君達の…あのおっかないギルドマスターさんが見つけたっていう霊堂、あるでしょ。
そこに意味深な蝙蝠の紋章があったなんて話も」
「クワさん、ありがとっ!
みんなが来たら、わたしそこに行ってるって伝えて!」
止める間もあらばこそ。
目を丸くしたクワシルが、制止の言葉を掛けるよりも先に、まり花は脱兎の如く店を飛び出し…そして、街の外へ向けて駆けていく。
その後ろ姿を見送りつつ、クワシルは溜息を吐く。
「頑張ってね、お嬢さん。
多分君なら…うまく扱える気がするんだよ、それ」
唯一昼下がりにいた客も居なくなった店内で、そのつぶやきを聞く者はなく。
…
-オイオイオイ、あのうさんくせージジイのいうことを真に受けたってのか!?
俺らがいうのもなんだが、不老不死なんてそんなけったいなモンがホイホイと-
彼女の左肩で、小さな恐竜の姿を持つ青いオーラががなり立てる。
まり花は答えることもなく、町外れの「霊堂」の最深部…そのある地点を目指していた。
激しい戦闘のできない今のまり花でも、この街近くの霊堂の魔物程度なら相手にもならず、その場所には苦も無く到達できた。
そこには、崩れかけた外壁の上辺りに、蝙蝠の紋章がある区画。
注意深く確かめると、床の石版に明らかにこじ開けたような不自然なキズがある。
彼女は凍傷の腕の痛みを堪え、霊堂の蟲獣の腕から特別に誂えられた小太刀の刃を隙間に差し込み、こじ開けにかかろうとするところで…青いオーラが見かねたようにそこへまとわりついた。
-ったく…無理すんな、俺に任せておけ-
青いオーラが染み渡るように、石畳の境目に走ると、あっさりとひっくり返り…はたして、そこから金属製の小箱が現れた。
その鍵穴に、さらに青いオーラが侵入すると、掛けられていた鍵はあっさりと外れ、いくつかの文書と、夜闇でも解る程度に赫く輝く一対のグラスが姿を見せる。
-これは…微かではありますが、強い力を感じますね-
-まるでコンタクトレンズみてえだな。
あのジジイが言ってた、赫い瞳ってぇのは…こいつを眼にはめ込んでたって事か?-
まり花は無言のまま、残された文書を読み解く。
それは恐らく、クワシルが言っていた「少女の父親」が残したものだろうか。
「彼」は、幼くして不治の死病に冒され、余命幾許のない娘のために、各地に伝わる古い伝承から読み解いた、「不死の力」の研究をしていたという。
そして行き着いたのが、ヒトの瞳から作用する、ヒトの肉体を不死の肉体へ変換する秘術。
深紅の瞳を持ち、夜の闇より力を得、代償として日の光を避けねばならぬ肉体を得る術を。
彼は肉体に不可逆の変化をもたらすその秘術を、直接瞳にはめ込む
そうして出来た「赫き魔眼」により、少女は病を克服した。
しかし、不老不死となった彼女と、父の時間の流れの違いの残酷さ故に…年老いて死ぬ父を失って、幼い姿のままの少女に、その先を生きる力などあろうはずがない。
そして、「魔眼」の力で押さえつけた死病も、「魔眼」を外せば、経過した年月からすればとうに娘を死に至らしめるほど進行しているだろう。
娘は、父と共に死ぬことを選んだ。
父は、最期の力を振り絞ってこの「魔眼」を、まるでそれに導かれるかのようにして辿り着いた…当時まだその存在が知られぬこの霊堂へ秘匿した。
クワシルの話が確かなら、ふたりが世を去ったのは、それから数日後のことなのだろう。
手記の最後には、こう締めくくられていた。
「かつて私がそう願ったように、どうしても救いたい、命ある者へ利用するとよい。
この『赫き魔眼』が、ヒトやそのほかの、生きとし生けるものの為になると信じる」と。
「わたしも…わたしにも、護りたいモノがあるんだ。
ヒトでなくなってしまうこと…死にたくても死ねないこと…それがとってもとっても、怖くて辛いのは、知ってるつもりだよ。
でも」
彼女はそっと、その透鏡を眼にはめ込む。
薄い山吹の瞳は、妖しくも強い意思の光を湛える深紅へ変わり、そして、包帯を解かれた両腕の深い凍傷が、見る間に癒えて行くではないか!
それと共に、彼女の纏う魔力は、強い妖気に…まるで、かごめのそれを思わせるような、強大な吸血鬼の力へと変わっていく…!
「それ以上に何も出来ないで居ることは、もっとイヤなんだよ。
わたしなら、大丈夫。
絶対に…大丈夫だよっ!!」
そう宣言する彼女の瞳は、再び元の薄い茶色に戻っていた。
まるで、最初からそうであったかのように…「赫き魔眼」は、その時、彼女の肉体の一部となった。
…
…
つぐみ「出ましたねー、赫き魔眼」
美結「出ましたねー。
これも結局、公式から詳しい情報は出ずじまいだったわね。
パーフェクトガイド()のインタビューでちょっと触れられた程度で」
つぐみ「物自体はアクセサリー、ただし周回増殖不可能でなおかつ売却は勿論廃棄も不可能、データにつき絶対1つしか入手出来ない隠れアイテム。
装備して「闇の眷属」になると、日中は毎ターンダメージ、夜間は毎ターン回復するという効果の他にHP+100、TPを含めた全能力+10されて、元のクラスに関係なくフォースブーストとフォースブレイクが変更される効果があるよ。
ブーストは致死ダメージを受けてもHP1で必ず生き残る、ブレイクは戦闘不能の味方全員復活させてその人数に比例して攻撃回数の増える単体無属性攻撃をするよ。
解禁要素としてQRコードが絡むのもあって、魔眼装備してるキャラをQRに登録すると、左上に蝙蝠のアイコンが追加されたりして表示が少し変わるの。
入手方法は…ここでぶっちゃけて良いのかな?」
美結「そこはもう今更だと思うけど、wiki見てもらった方が良いと思うわその辺り。かなり面倒だし。
うちのメンバーだと実際まりかさん、FBも使わないしブンシン・ジツも切ってるから眷属化するならって感じではあるけどもね」
つぐみ「日中だとダメージを受けるっていうデメリットも、セスタスの闘魂とメチャクチャ相性が良かったりするし、日中でも能力ダウンとかしないから、ケアできたり利用できたりするなら巧く活用して行きたいところだね。
実際のイベントは、フラグが立った状態でゲームを起動することで開始時にアナウンスが入り、クワシルの酒場で情報収集したあと、東土ノ霊堂で指定された三カ所のポイントを順に辿って、3つめのポイントを調べることで入手、という流れだよ」
美結「ちなみに装備初回で街の各施設に行くと、装備した人の印象が違う!ってみんな大騒ぎするのよね。
司令部にいるのがミュラーさんか姫様かでもパターン違うみたいだから、そこはね」
つぐみ「衛兵はいいんですか」
美結「モブだし所詮は(キリッ」
つぐみ「とりあえず思ったより裏話とかで長くなったけど、今回はここまでだね。
次回はもうひとつ裏話…鈴花達というか、菫子さんメイン?にするつもりだったんだけど、普通に先へ話し進めるみたいだよ」
美結「そろそろ田中先生回りの話も少し動かしておきたい…んだけど、うまくまとまらなかったと見えてこの話、クリア後まで引っ張る格好になったね」
つぐみ「あーそこもぶっちゃけますか」
美結「今更じゃない。
あ、とりあえず私なんかそろそろ某所で呼ばれそうな気がしてるし、ここでちょっと抜けさせてね。
代わりに明夜辺りおいとくし」
つぐみ「んなモノみたいに…まあいいけどさー」
美結「と言うわけで今回はここまで、それではー」