♪BGM 「幽霊楽団 ~Phantom Ensemble~」♪
凍りついたかのようなその時間。
葉菜もまた、叫ぶことを忘れたかのように、見開いた視線の中でその光景を捉えていた。
鮮血を帯の如くたなびかせ、落下するかごめの姿を。
それを捉えようと必死に手を伸ばするりが、無防備な体勢のままバジリスクの視線を浴び、石化しながら落ちていくのを。
そして…その視界を遮り、兇刃を振りかざす少女の姿を。
その瞳から留まることなく流れ落ちる血の涙を。
彼女がこいしのその心中を悟るのと、割って入る深紅の穂先のいずれを認識するのが早かっただろうか?
いずれにせよ、彼女はその、深紅の槍を振るう少女に命を救われることになる。
「大丈夫。
あなたは…絶対に、私が助けるから!」
槍の少女…リリカの言葉は、果たして誰に向けて放たれたものだったか。
~新・狐尾幻想樹海紀行X~
その27 死闘・石化の森
輝夜「はーいブロートの目的が解ったところでボス戦の解説するわよー」
天子「おいィィィィィィ『ウマ娘』でバクシンしてたのを無理矢理引きずられてきたらのっけからだいぶ危険がヤバイ級の事態展開されてるけどなんでそんなドライなのあんたーッ!?∑( ̄□ ̄;)
駆付け一杯どころのレベルじゃないわよちょっと状況説明しなさいよ説明ーッ!!」
輝夜「まー確かに前回から参加してないとこの状況意味不明よね。
てかやっぱりあんたもバクシンから入ったか、どう考えてもウララ金策とかいうクソムーブするよりバクシン周回したほうが得よね」
神奈子「いやこれ前回からいたとしても理解すんの無理ゲーだと思うけどねあたしゃ。
ところでバクシンって何バクシンって。
まさかサクラ軍団の名スプリンターサクラバクシンオーのこと言ってる?
そんなのまでいるの、その『ウマ娘』って?」
輝夜「吉田照哉総帥も認める二十世紀最速と名高い名駿にして最強の学級委員長をご存知とはさすがは一級軍神と感心しますが」
神奈子「…振ったのあたしだけど、その話続けさせたら収拾付かない系の事態になるのは確定的に明らかそうね。
とりあえずなんかヘビっぽい繋がりであたしから解説するか、バジリスクは」
輝夜「この状況でもまるで動揺しないとかさすが古代から居る一級軍神は格が違ったわすごいわー憧れちゃうわー」
枯レ森・中ボス バジリスク
レベル68 HP34710 雷弱点/即死・麻痺無効、石化・盲目・眠り・頭封じ・スタン耐性
くらいつき(腕) 拡散近接壊攻撃、腕封じを付与
蹂躙する剛爪(腕) ランダム対象に4回近接斬攻撃
打ち鳴らし(脚) 全体近接壊攻撃、麻痺を付与
破滅の吐息(頭) 一列に3ターンの間、最大HP25%減少するデバフを付与
怒号(頭) 3ターンの間、全体の物理・属性攻撃力をダウンさせるデバフと、スタンを付与
目が輝く(依存部位無し) ターン終了時バジリスクアイ(HP4071、全ての状態異常と封じ無効、雷弱点)が出現する。
バジリスクアイは出現して3ターン後と、最初の使用から2ターン後以降の毎ターン、本体とは別行動で石化の輝き(一列に石化付与)を使用する。
神奈子「RPGでも石化を得意とする奴として、必ずと言っていいほど、コカトリスとともに挙がってくるくらいにはメジャーな魔物だね。
世界樹は諏訪子の方が詳しいけど、世界樹の石化って大体致命的な異常なわりに存外今までバジリスクって居なかった気がするけど」
輝夜「別に倒したところでアイアンオトメをドロップしたりはしないわ」
神奈子「まあそのフタツアタマヘビの片割れも元ネタそれだけど…アレってドロップアイテムの扱いなのかしら?
それはさておいて、ハイ・ラガードではフラン達やつぐみも戦ったバジリスク、今回は後半迷宮の登場だけあってそれなりの火力と超耐久で立ちはだかってくるね。
そもそも列石化って時点で序盤ではありえないボスではあったけど」
輝夜「ダメージ関係の耐性がない代わり、状態異常には軒並み強めという正統派のボスと言っていいかしら。
それがなんで雷弱点なのか解りかねるところだけど」
神奈子「恐らくだけど、この神話生物から名前を取ったイグアナ科バシリスク属、それと近縁種のアガマ科のトカゲが、危機を察知すると水中へ飛び込んで逃げたり、あるいは水かきのある脚と凄まじい脚力を生かして水上を走って逃げるところからじゃないかしらね。
水に関係する生物が雷弱点なのもわりとメジャーだし」
輝夜「ああ、そういえばニンジャめいて水の上を猛スピードで走って逃げるトカゲが居たわね。
あれもバシリスクって言うんだ…初めて知ったわ」
神奈子「それは置いといて、ギンヌンガのボスは新世界樹の追加ダンジョン「グラズヘイム」のボスと一緒で、条件ドロップがない代わり同じ周回で再戦が出来ない特徴があったわね。
何気にボウケンシャーの間ではギンヌンガボスの曲「戦乱 其処にある死の影」がなかなか好評で、周回で聞く機会が限られることを惜しまれたそうよ」
輝夜「当然、今回のバジリスクのBGMもそれだからマーケティング的には大成功よね(キリッ」
神奈子「そしてこいつの特徴はなんと言ってもバジリスクアイ。
本体のHPが80%、撃破するとHP30%以下になったときにもう一度出現する。
バジリスクアイは登場から3ターン経過、そこからさらに2ターン経過してそれ以降の毎ターン「石化の輝き」を使うわ。
それしかしてこないし、バジリスク本体が実は物理攻撃しか持ってない、挙句新世界樹と違って石化はターン経過で回復する状態異常になったこともあって、ある意味ではギンヌンガに居た頃から大幅にパワーダウンしていると言えなくもない」
天子「あとは最初くらいつきしかしてこないけど、最初のバジリスクアイ出現後から蹂躙する剛爪、HP50%を切って確定使用してから破滅の吐息、吐息使用後からは怒号、バジリスクアイの2回目出現後から打ち鳴らしを使い始める。
行動はほとんどランダムだけど、2回目のバジリスクアイ出現後は「くらいつき→打ち鳴らし→通常攻撃→蹂躙する剛爪」の4ターン1セットに怒号と破滅の吐息がランダムで混ざるパターンになるみたいね。
挙句にバジリスクは最初のバジリスクアイを倒さずに放置しておくと、打ちならしを使ってこなくなるおまけ付きだわ」
輝夜「あらてんこちゃん復帰早かったわね」
天子「一級天人の私にかかればこのくらいの状況判断はベイビー・サブミッションだわ。
面倒なのは破滅の吐息、そして行動停止と火力ダウンが絡む怒号ね。
プリのクリアランスがあればこの辺りは楽勝、ついでに石鶏の守りで石化の輝きをシャッタアウトすればクソザコナメクジね」
神奈子「まーかごめのやるこったしどーせそんなまだるっこしいことしてないと思ってたけど(真顔」
輝夜「それな(真顔」
天子「でっすよねー(真顔
いっそ清々しいぐらいかごめが兜割りしてる姿しか想像できないわねこの構成」
輝夜「上段は恐らく何度も逆袈裟するんだから7止め、そして先駆けと心眼の鉢金で命中補ってあとは上段の残りターンが許す限り兜割りすると。
大体にしてそこのるりさんがロンゴミアントなんてバケモノ槍持ってる時点で、適正装備でマトモに攻略する気ないんでしょうね、こいつら」
神奈子「大体にしてそこのパラディンがなんでサブセスタスなのか理解に苦しむところね。
まあ…挑発で引き寄せてクロスカウンターするんでしょうけど」
輝夜「そこのメディックさん()がエンジェルローブを着ていないの、一応この時点で手に入る装備品って言う体裁は整えてるんでしょうけどね。
大体にしてハイランダーは専用防具と最強槍どっちも揃うんだから空々しいなんてレベルの話じゃないわ」
天子「直前の迷宮ボスの条件ドロップが素材だからねえ…64万は法外な額だけど、採集部隊をフル回転すれば手に入らなくはないという」
神奈子「大体レベル自体が引退ボーナス乗ってる時点で適正とは言い難いけど、そこまで含めてカジュアルなのかどうなのかすら解りかねる所よね、いつものこととはいえ。
これ、葉菜が石化したら誰がリカバリーするのかしら」
輝夜「どーせテリアカでしょ?
そもそもこの中で一番LUC高いの、そのはなちゃん先輩じゃない」
天子「新世界樹2ほどじゃなくてもメディックのLUCだってそこまで高いわけじゃないのに、マジで樹海迷宮ナメてるわこいつら(しろめ」
輝夜「でも火力は正義とは言ったもんで、破滅の眼光は半ば無視して怒号はブラポンかエーテルの輝きで打ち消しながら普通にかごめが…いや、一寸待ってこれもしかしなくても英雄一騎当千するのこいつら?
なんでこれで属性バフ乗せられる子いないのよマジでナメてるわね(しろめ」
神奈子「(こりゃこのログの最初のほうで諏訪子がキレるわけだわ…)
ま、まあこれでも勝てるって事は完全に火力の暴力を押しつけることには成功してるってことでいいんじゃない?
というかこれ条件ドロップは…盲目? なんか地味に条件満たしてるみたいだけどどんな妖術使ったのかしら」
輝夜「どーせ水溶液でしょ。
本気でやるならLUCガッツリ乗せたミスかシカの投刃ぶつけるか深闇を虚弱経由でぶち込めるリパいないと話にならないわ」
天子「あ、ナチュラルにレンジャーハブる?」
輝夜「ブラインドアローってカタログスペック通りの付与率で決まったって記憶が無いのよね」
神奈子「通常ドロップは盾、条件ドロップは剣の素材になるみたいね。
前者はメデューサ、後者はヤマタノオロチのオマージュなのかしら」
輝夜「剣の名前がカラドボルグであることとか、尻尾じゃなくて目玉が素材ってのがでっかい違いだと思うんだけどねえ」
神奈子「フェルグスの魔剣じゃないのそれ…意味解らないわね」
天子「物理攻撃力ではクロスの最強剣よ一応。
武器スキルのくらいつきが範囲壊攻撃と優秀だから、クリア後はかごめも持って振り回して居るみたいね」
神奈子「も、ということはどうせ量産してるんでしょうね…解っては居たけど」
…
…
呆気にとられる葉菜、サユリ、アンナの眼前で、さらに思いもがけぬ光景が展開する。
かごめの落下するその地面、そこに群がる石化魔樹が純粋魔力の光で薙ぎ払われ、さらに立て続け二発の銃弾がかごめとるりの体を撃ち抜くと…かごめの胸元から尾を引く鮮血が止まり、さらにるりの石化が解除されていく。
さらに、枯れた森の大地に展開された光の羽達が巨大なクッションを形成し、二人の体を受け止めた。
「間一髪って奴だぜ…!」
「それより、やっこさんまだやる気十分だわ。
さっさと沈めるわよ!」
応える代わりに、金の髪を翻す銃士の少女が構える魔銃に、再び純粋魔力の光が収束…そして、凄まじい紫電を放ち始める!
「吹っ飛びな、デカブツ!
アースライトバスター!!」
海嶺迷宮の戦いから姿を消していたハズの魔理沙、彼女の魔銃「アグネヤストラ」が視界を埋め尽くすかのような雷火を解き放つ。
光の洪水が収まると、葉菜の眼前で鍔競り合いをしていたハズの二人の少女が、石化魔樹を巻添えに剣戟を交える。
魔理沙の放った雷火の一部を穂先に巻き取り、紫電を放つ切っ先を縦横無尽に繰り出すリリカの槍捌きを、虚ろな目のままこいしは表情を歪め、それでも歪な大小の刃でいなし互角に渡り合っている…!
「これは…いったい」
「…かごめちゃん…!」
ようやく我に返ったサユリ、そして葉菜は光のクッションに包まれたままの二人を見やる。
すると、異形の青年が、葉菜の手にそっと自分の手を重ねる。
「…貴様の…否、君の友の所に行ってやるといい。
君達の仲間には、我が一族の子を救われ…そして、今私も君達に救われた。
ヒトとはわずかに違うようだが…それでも、ヒトにも君達のような者も居るのだな。
君らの仲間にしてしまった非礼を、詫びさせてくれ」
「でも…」
「腐っても私は、モリビトの戦士を束ねている。
それに、君の治癒術により十二分に動けるまでに回復できた…さあ」
そう言って、青年はゆっくり体を起こし、体勢を立て直して頷く。
その視線を受けたサユリも頷き、葉菜は青年とサユリに一礼してかごめ達の元へ駆けていく。
「詳しい話は、こいつらを掃討したあとだ。
君らになら、かのヒトがやろうとすることを止められるかも知れぬ…!」
「解りました…ええと」
「私の名はマキリ。
モリビトの戦士の長だ。行くぞ!」
両手に、不可思議な文様を描く双剣を構え、モリビト随一の戦士が吠える。
後方からアンナが放つ火線が石化魔樹の一団を貫き、その中をマキリ、さらに白刃を携えるメルラン、魔理沙が飛び込んでいった。
…
「かごめ…さんっ…!」
「…つっ…畜生。
だが…あいつのおかげで命拾いしたか…」
輝く羽のクッションの中央、るりは必死で取りすがろうとして…気がついた。
かごめの半身はその血で塗れているが、傷口は見た目よりももっと上にあった。
こいしが貫いたその刃は、かごめの胸元ではなく…右肩を貫通していたことを、駆付けてきた葉菜も知った。
「あの子のこと…恨まないでやって。
あの子も…こいしも…必死だったんだ。
急所を、外してくれたんだよ…あの子は…!」
葉菜はかごめの上半身を抱えると、るりの補助をうけて傷の手当てを始める。
彼女も、深手を負った吸血鬼が治癒魔法を受け付けにくいことを知っている。魔理沙の放った治癒弾(ドラッグバレット)が止血の役にしか立っていないことも…それでも十分すぎたことも。
「どういう…ことよ」
「さとりが…倉野川で、蛭野郎に取憑かれたときと、一緒だよ。
精神支配で…覚を完全支配、できやしない…まして、あの古明地姉妹ほどの…ッ!」
葉菜が傷口に押し込んだ、てゐの調合した特別製の薬がもたらす痛みに顔をしかめ、息を荒げつつもかごめは続ける。
「そもそも、ブロートの呪言は、本物じゃない。
適正のない奴が、羅喉の発動にその命を代価とし…奪い取ったリリカの力を上乗せして、強引に行使してる。
それでも、アーテリンデぐらいのレベルの奴までなら、精神支配が可能なレベルではあるが…!」
「でも、あの子はあなたを…普通に殺しに来ていたはずだわ。
完全に縛られてないなら、どうして」
「不完全な呪言で縛れないなら…行動だけを封じ、直接、操るしかない。
こういう風に、ね」
かごめは左の人差し指で、光る羽毛のひとつを指し示す。
そして、彼女が指先をくるくる回すと、その羽毛は立ち上がってお辞儀をし、その場でくるくる回り出した。
「式神…ううん、多分これ」
「アリス・マーガトロイドの「人形遣い」!」
かごめは頷く。
「そういう、ことだよ。
精神支配との合わせ技で…こいしの意識を封じた上で。
だけど…あの子は駆付けてくるリリカと…あたしの顔を見て、少しだけ意識を取り戻したんだよ。
ブロートの戦力は、確実に殺げてる…いや、もうほぼ残ってないはずだ。
こいしみたいに、支配の不完全な「駒」を使わなきゃならないほどに…!」
「…ッ!
ダメ、まだ戦える状態じゃ…」
起き上がろうとするかごめを、葉菜は制する。
言葉はなくとも、表情の窺えぬるりが、もう片方の肩からきっちり抱きついて離れようとしない…普段は他の者をおちょくるような言動を繰り返す彼女にとって、その行動がその本心を如実に示していた。
「そうね。
あなたの言葉に疑う余地など無いわ…だから、あなたはそのまま大人しくしてなさい」
視線の先に、何時の間にか紫が立っていた。
背を向けたままの彼女の表情も、彼女達には窺えぬところであったが…握る拳はわずかに震え、そして、その声には怒りの感情を隠さない。
「そういうこった。
ここでお前にこれ以上なんかあったら、ブチ切れた紫がレムリア沈めちまうぞ。
んまあ、現時点でもブロートの野郎を八つ裂きにするまで止まらねえと思うけどな」
背後から、皮肉めいたヤマメの声もする。
かごめは嘆息し、再び光の羽毛に身を預けた。
「せめて、勢い余ってこいし達とか、殺さないでやってくれよ」
「当然よ。
そこまで見境をなくすつもりはないわ!」
赫怒の表情の大賢者と、それに従う古き大妖が、魔理沙の雷火を受けて半身を吹き飛ばされながらもなお怒りの咆哮を上げるバジリスクへと挑みかかる。
…
再び姿を見せてから、常にリリカの肩を居場所にしていたミスティアは、縺れるようにして激しい剣戟を交わしながら、森の奥深くへと突き進む二人を必死に追いかける。
小鳥と言うにはいささか大きいとは言え、今の姿の彼女にとって、複雑に入り組んだ枯れた木々の間を行くことは容易なことではない…が、彼女はリリカの後を追うように飛んでいた。
その激しいぶつかり合いは、並みの鋼を通さないほどの強度を誇る「枯レ森」の木々を容易く砕き、斬り散らしていた。
その二人を伺うような視線…否、禍々しさすら感じる「気配」を感じ取ったミスティアが、リリカの名を叫ぶ。
邪悪な黒いオーラを纏う、巨大な黄金の嘴が、こいしの振るう兇刃と共にリリカへ迫る。
黒い雷を纏う翼が、二人の姿を捉えようとしたその瞬間、リリカはこいしを迎え撃つのを止め、その巨大な鳥の影へ向き直る。
そして、次にミスティアが見た光景は、彼女の想像の遥か斜め上を行く。
旋回する深紅の槍が、巨鳥の嘴を止め。
次の瞬間、舞い踊る黒薔薇の花弁が、枯れた木々の森を埋め尽くし…黒い閃光となって、奔る。