時間は少し進み、つぐみたちが長い長い樹海探索から戻って一月ほどした頃。
困り果てた様子のアーテリンデが、星海を超える磁軸から姿を見せたのはそんな折りだった。
「というわけなのよ。
あのアンポンタン共血の気の多い脳筋の集まりだし、私に一目置いてはくれてるけど、基本的にこっちの言うことほとんど聞いちゃくれないと来たもんで本ッ当に困り果ててるのよ。
爺(ライシュッツ)まで別の任務があるーだなんていって、ジュニア連れてさっさと逃げ打ちやがるしまったくもー><」
出された麦茶を一息に飲み干して、アーテリンデは心底うんざりしたように吐き捨てた。
「それでその困った脳筋の海賊連中をとっ捕まえてきたいから、手伝ってくれ…ということですか?」
「そうなんですよつぐみさん(キリッ
もう私一人じゃ手に負えなくってさあ。
あなたたちの事情は知ってるけど、即戦力で頼みになりそうなのがあなた達しか思いつかなくって…お願いつぐみ、知り合いのよしみでなんとかっ」
「ええーそんなこといわれてもなー」
「別にいいじゃねえか。
あたしもやっとこ暇になってきたし、居るところ解ってんなら一日ありゃ決着つくだろ」
棒読みで返すつぐみの背後で、唐突に軒先から顔を出したかごめがしれっとそう言い放つ。
その言葉が終わりきらぬうちにつぐみは心底嫌そうな顔で母親を睨付ける。
「ねーおかーさん、私たちまだ帰ってきてから一月と経ってないよね?
正直授業の遅れとか取り返さなきゃいけない事案が山ほどあるんですけどー?」
「だったら明夜とか連れてあたし行ってくるから留守番よろしく」
「樹海ですか!?樹海に行けるんですか!?やったー!!><」
「えーずるい!!
かごめさーんわたしも連れてってよー!!」
大喜びで飛び出してくる明夜に、どこから現れたのか口を尖らせるまり花がブーイングを飛ばす。
つぐみは襲い来る頭痛と腹痛に耐えきれず机に突っ伏してしまった。
「…やめてあんた達だけで行ったら厄介事が大惨事にしかならいからマジでやめて…」
つぐみ達が理事長権限による特別休校の手続きを終えて、磁軸をくぐったのはそれから1時間後のことであった。
~新・狐尾幻想樹海紀行X~
その35 海族狂騒曲
西の霊堂を経由し、「海の一族」のキャンプで探索の準備を整えたつぐみ達は、アーテリンデの案内で枯レ森の南西を目指す。
「海兵」達がその迷宮を発見したのは、全くの偶然だったらしい。
ブロートがヨルムンガンドを覚醒させたその日、「封印の地」にいち早く乗り込もうとしたエンリーカ率いる一団が迷い込んだのが、その巨大な蟻の住処であった。
ヨルムンガンドの放つ暴力的な魔力に中てられた蟻のために数名の犠牲者を出したものの、辛くも引き上げることが出来た…ただそれだけの、平時の樹海探索であれば、ありふれた話だった。
ところが、このときエンリーカに同道していた「海兵」のグループが、犠牲を払いながらおめおめと逃げ帰ることしか出来なかったことを恥じてか、エンリーカ不在の隙を突いて、この恐るべき蟻の巣を攻略すべく乗り込んでしまったという。
エンリーカが「自分のカンでは特に実入りはないし、探索する価値はない」と、この小迷宮には手を出すなと厳命していることを承知の上で、だ。
「樹海迷宮の蟻を知っていれば、こちらからわざわざ手を出しても何の利益もないことなんて常識なんだけどね。
王女はいいわよ、書物知識とはいえそのへんちゃんとわきまえてるし一応。
けれども」
「どこにでも一定数そういう阿呆は居るからな。
自分たちの能力を過信してるのか、王女に対する忠誠かは知らんが、よく今までうまくまとまってたなあの連中」
事も無げに、獣道を塞ぐ蔓や枝葉を払うアーテリンデに、落ちてくる毒虫を握りつぶしては燃やすかごめがうんざりしたように吐き捨てる。
「それこそ良くも悪しくも、あいつら王女の前でだけは借りてきた猫のように大人しくしてやがるもの。
あの王女も相当なオテンバ娘だけど、まあ偉大な指導者である先代の愛娘ってこともあるし完全なアイドル的存在なのよ。
…まあそうね、言ってみれば海の一族にとってはあの王女、ここなつみたいなモノよ」
「言われてみれば…エンリーカさんちょっとイブとかなっちゃんっぽいかも。
とっても人気者さんなんだねっ」
「前回の一件考えりゃ何から何まで同類っぽいのが気に掛かるところじゃあるがな。
…あれか、例の迷宮は」
木々の隙間から、塔のように聳え立った何かが見て取れる。
かごめの指摘に「ええ」と短く返すアーテリンデ。
「うわあ…大きな山?
なんか山にしては随分形がおかしいです?」
「アリさんの住処だと、蟻塚なのかなあ?
でもでも、蟻塚ってシロアリさんのおうちだよね?」
「…その前にサイズに驚くところじゃないかなあ」
小首をかしげる二人に、つぐみもまたうんざりしたように溜息をつく。
その目の前では、既にかごめが、姿を見せた番兵と思われる巨大蟻を真っ二つに切り裂いていた。
その蟻は…よく見るとつぐみの知る樹海の蟻とは少し異なる…白黒斑の蟻。
「え…ちょっと待ってパンダアントじゃないそれ!?」
「だけじゃねえな。
こっからはもう蟻の領域だ。
ったく…ここの女王もどんだけカリスマなんだこれ」
周囲には、既に色とりどりの巨大蟻達が、仄かに赤みの差す複眼をこちらに向けて身構えている。
最前列の数匹は、威嚇のためか、あるいはこちらを獲物と見定めたか…キチキチと歯を打ち鳴らし、じりじりと迫って来ていた。
巫剣の刃先に魔力を込め、並び立つアーテリンデ。
「先に手を出したのは「
「考えるだけムダじゃねえの、もう既に奴らのディナーに並んだ奴が居るんだろ?
あんた達、ムリに全部には構うな…蹴散らしながら突っ切るよ!!」
言うが早いか、切り払った先で数匹の蟻が切り裂かれ、一瞬で火達磨と化した。
それが、開戦の合図となった。
…
…
紫「アリ、と聞くとどうしてもゲーム史というかRPG史上で有名なのはロマサガ2というか、もっというとタームバトラーなのかしらねー」
一舞「あー、めうがなんか時々言ってる\アリだー/ってやつ?
よく聞くんだけど、あたしロマサガってなんかよくわかんねーからやったことないんだよねー。
世界樹の話してると今更感ヤバいんだけど、なんかめっちゃ難しいとか聞くし」
めう(スマキ)「うみゅみゅ…ロマサガのアリはストーリーから実際の雑魚モンススに至ってまでトラウマ博覧会みたいなシロモノだから仕方ないのだ。
最終皇帝継承を終えてからクジンシーをシメて戻った直後、アバロンがバイオハザード状態になるあのイベントでSAN値ぶっ飛ばされるのは基本めう」
つぐみ「今の状況に何の疑問も差し挟まずしれっと解説するその神経どうなってんのよ本当に」
めう「どうせてーこーしても数分後にはまた元通りになるのが解ってるだけめう(しろめ
ちなみにー、自分で使ってもショボいけどモンススに使われるとトラウマそのものの地獄爪殺法、自分が使ってもコスパばつ牛ンの全体攻撃なだけに凶悪モンススから飛んでくると全滅必至の地術ストーンシャワーを駆使するタームバトラーだけど、他の上位昆虫モンスス同様即死耐性がないのを筆頭にありとあらゆる状態異常の耐性がザルだから、範囲即死攻撃ぶっぱするだけで簡単に一掃できるめう。
炎術黒点破、スプラッシャーの固有技分子分解などをいつものラピッドストリームからそっこーぶち込むのがオススメなのだ」
紫「炎術はシリーズでもおなじみのチート術リヴァイヴァもあるし、天術と併せて鍛えれば最強単体攻撃術クリムゾンフレアの開発も可能になるし、早期に術レベルを上げておきたいわね。
まあクイックタイムで七英雄をハメ倒すならいらないけど」
つぐみ「あーはいはい今やってんのは世界樹の解説だからロマサガの話はそこまでにしとくー!><」
めう「狐野郎は金剛盾もリヴァイヴァも使ったことないらしくていつもQTでターンぶっ飛ばしてるらしいめう」
つぐみ「そんなん知るか!!!!><」
紫「というわけでナウでヤングなイマドキギャルの紫おねいさんです^^
前回つぐみが宣言したとおり、今回は番外編みたいな形で小迷宮「真新しい蟻塚」の話をするわ」
つぐみ「あなたどーこのマルゼンスキーですかゆかりん(イラッ
世界樹のアリといえばまあ…これもまあいつもの」
一舞「これも\アリだー/で槍玉に挙げられるけど、さっきのロマサガほど明確なトラウマポイントってなんか聞かないんだけどそのへんどうなん」
つぐみ「うーん…強いていえばギミックの増援が面倒くさいくらい?
実は蟻の親玉が登場するシリーズ、クロス以外は無印と新とⅢだけじゃないかなあ」
紫「新を含めれば新2もよ。
DLCクエスト限定だし単独では登場しないけどね」
つぐみ「まーDLCはノーカンでもいいかなあ。
無印やⅢだと普通に仲間呼びするけど、新だと新ギミックとしてフィールド上にタマゴが出現してたり、親玉の女王蟻がそのタマゴをフィールド上に産み付けてそこから一定数の増援が出現するシステムになっているわ。
新ではシステム上増援には限りがあるけど、新やⅢではとにかく数の暴力で攻めてくるからトラウマっていえばトラウマね」
めう「そしてタマゴのデザインがどう考えてもエイリアンシリーズに出てきそうなグロい奴なのだ…しかも潰せば潰したでそれもキッショいのだ…」
一舞「なんかキショいのは理解したし。
で、クロスのアリは」
めう「そのキッショいやつめう(キリッ」
つぐみ「タマゴのギミックがあるのはボスフロアだけだけどね。
キショいもそうだけど増援をシャットアウトさせようとするとそれはそれでめんどくさい」
一舞「あーうんそうだよね新でそういうギミックあるんだったらクロスのボリュームでないってことはないよね(しろめ」
紫「あと余談だけど、前日のぱかライブTV(※2022年11月)で正式にデアリングタクトの登場が確定したから、現在の一番古いモデル馬と一番新しいモデル馬の年齢差が一気に4年も更新されて40歳差以上になったわね。
ちなみにこれまでは最年少がサトノダイヤモンド(2013年生まれ)だったからギリギリ40歳差は割っていたわ」
めう「狐野郎はデアリングタクトをずっと社台系の馬だと思ってたから絶対にあり得ねーとかほざいてためう。
最近のピックアップ年代かつクラシック牝馬三冠ならスティルインラブで間違いないっていってたけど、ノースヒルズも相当難しいと思うめうっ」
つぐみ「そういう話はどうでもよろしい(キリッ」
美結メモ:クラシック牝馬三冠
あーもう普通に競走馬の話ここで振ってくるんですか…いいんですけど。
三歳牝馬三冠(旧馬齢表記で言えば四歳牝馬三冠)、俗に「トリプルティアラ」と呼ばれる牝馬限定の三歳GⅠタイトル戦、初戦である桜花賞は1939年、優駿牝馬はその前年1938年から前身となるレースが存在していましたが、三冠目となる牝馬限定戦は存在しませんでした。牝馬でクラシックレースの三冠を制するには、戦前から存在していたクラシック三冠(皐月賞、東京優駿、菊花賞)を制するか、桜花賞・優駿牝馬の二冠に加え、東京優駿(日本ダービー)や菊花賞を取る変則三冠という形になるのですが、こんな変則三冠を取れたバケモノ牝馬は戦中の1943年に東京優駿、優駿牝馬(当時は阪神優駿牝馬)、菊花賞(当時は京都農商省賞典四歳呼馬)を制したクリフジだけです。ちなみにクリフジは桜花賞と皐月賞(当時は横浜農林省賞典四歳呼馬)には間に合わなかったために回避しただけだそうなので、もしこれに出走し勝っていれば、史上唯一無二の「クラシック四冠」になっていたかも知れませんね。
1970年、2400m四歳牝馬限定戦であるビクトリアカップが新設されましたが、こちらは諸般の事情により6回開催されただけで廃止。このレースを前身に1977年に新設された四歳牝馬限定戦エリザベス女王杯が新設され、この11回(1986年)を含め同年の桜花賞、優駿牝馬を制した「魔性の青鹿毛」メジロラモーヌが史上初めて四歳牝馬三冠を達成しました。その後10年ほどするとエアグルーヴやヒシアマゾン、ノースフライト、ニシノフラワーといったGⅠ戦線でも牡馬と互角以上に戦えるほどの名牝が多く登場したという背景もあったからでしょうか、牝馬競争体系が大きく見直されることとなり、1996年に秋華賞が新設されると共に、エリザベス女王杯は距離を2200mに短縮、さらに四歳牝馬限定戦ではなく古馬との混合レースと規定されました。めうちゃんが名前を挙げているスティルインラブは、秋華賞が新設されて以降初めて、2003年クラシック牝馬三冠を達成した競走馬ですね。秋華賞かエリザベス女王杯かの違いはありますが、日本競馬史ではメジロラモーヌに次ぐ、史上二頭目のクラシック三冠牝馬となります。ちなみに秋華賞・エリ女ともに実はクラシックレースではありませんので、牝馬「三冠」というのも厳密には違うそうです。
ちなみにデアリングタクトはメジロラモーヌから数えて史上六頭目、かつ日本競馬史上初の無敗トリプルティアラ達成馬で、初の「現役競走馬のウマ娘」となりました。古馬となった2021年はけがの療養でまるっきり棒に振ってしまい、2022年のヴィクトリアマイルで前走から実に384日ぶりというレースで復帰戦を行うも、掲示板から大きく外れる敗北を喫しましたが、次走宝塚記念ではパンサラッサの大逃げによる狂ったラップタイムのレースでタイトルホルダー、ヒシイグアスに次ぐ三着と大健闘。秋での復活に期待を寄せるファンも多かったですが…2023年10月に引退が発表されてしまいました。もし次の「現役競走馬ウマ娘」が誕生するとしたら候補はみんな大好きメイケイエールか、それとも…?
紫「いつもの如くだいぶ脱線したけど、この蟻塚に登場する魔物はすべて蟻の魔物。
その面々にはそれこそ、ゲームは違えどタームバトラーも真っ青の凶悪アリンコファイアアントが居るわ」
つぐみ「あーいたねえ複数出てきたらhage待ったなしのあいつ」
一舞「世界樹って基本そういう奴しか居ない気がしますがそこは」
めう「気にしたら負けめう。
ついでにスタン付与全体壊を乱打してくる上にアホみたいにタフなヒュージアントがはるばるエトリア第六層からエントリーめう」
つぐみ「ヒュージアントとファイアアント同時に出てきたら普通に死ぬしかないよねこれ。
あとパンダアントは5とすこしスキルが変わってて、脚封じ付与の拡散斬攻撃をしてくるよ。まあ他に異常撒いてくる蟻が居ないのに異常付与率上げてきたって空気だしね」
一舞「当たり前のように知ってる体で言われてもちょっと困るんだけどー。
そのファイアアントって何してくんのさ?」
つぐみ「同一対象にヒットする一発がそこそこ火力高いランダム炎攻撃」
一舞「∑( ̄□ ̄;)そいつアリだよね!?」
めう「これがホントのヒアリめう(キリッ」
一舞「∑( ̄□ ̄;)いやいやいやそれ違うなんか違うし!!!」
紫「幸いそこまで出現率は高くはないわね、アホかってぐらい出てきた5の五層に比べたら全然マイルドよ。
そこそこいい性能の弓や兜の素材を落とすけど、積極的に狩りたい理由もないわね」
つぐみ「あとはシリーズではおなじみのキラーアント、FOEのハイガードアントとハニーアントが居るんだけど…何故かハイキラーアントとガードアントが居ないのも不思議なチョイスだけど…ハニーアントは少し特殊で、ハイガードアントが仲間呼びで召還する以外では出現しないよ。
こういう呼び出し限定モンスターのお約束で、素材も持っていない経験値も持ってない呼ばせ損の魔物だね」
一舞「どうせそういう奴に限って別の意味で厄介なんでしょ、あたしでもわかるし」
つぐみ「生かしておくと毎ターン550前後HP回復してくる」
一舞「うっわ思った通りうざっ…」
めう「レベル的にはほぼワンパン余裕だろうけど、倒すたびにおかわりが来るので眠らせるか頭封じて放っておくのが得策めう。
ちなみにハイガードアントは同時期のFOEとくらべてもめちゃくちゃよわよわなのだ。
全体に防御バフ盛るのとハニーアント呼びやがる以外はたいしたことないめう」
つぐみ「瘴気でバフを剥いでドライブで火力を集中させてもよし、抜刀氷雪とかでハニーアントもろともまとめてふっとばすも自由だよ。
素材がかなり高額で売れるのと、その割に手ごろな価格で作れる優秀な服の素材を落とすから乱獲するのもいいかもね」
…
…
パンダアント、ファイアアント、ヒュージアント…地域どころか、星海を跨いだ世界樹の凶悪な種を含む魔蟻の巣を、かごめとアーテリンデ、二人の手練を戦闘に一行は深く深く突き進む。
見た目よりもはるかに頑丈で巨大な巣は、生息する蟻の発する高熱でセラミックに近い強度を有しており、ヒュージアントの繰り出す地均しに対してすらびくともしない。道中、蟻達のかき集めてきた「食料」と思しき悍ましいモノも視界に入ったが…幸いにも、行方をくらませていた海兵達は皆無事であった。
彼らは蟻のかみ傷ややけどでひどい怪我を負ってはいたが、己の知る中でも指折りの猛者が救援に駆けつけてくれたことに気付くと俄に奮い立ち、残った力を振り絞って凶悪な蟻の魔物達をたちまちのうちに追い散らしてしまった。
「やっと見つけたわよ!
あんた達、何勝手なことしてくれてるの!」
屈強な水兵達であったが、そもそも五体満足であったとして束になっても敵うわけがないことはよく知っている。
悄然と頭を垂れ、やがてそのリーダーと思しき男が、仲間の敵討ちをしたかったが、王女の許可が出なかったこと、仇討ちさえ果たせば自分たちの意図を必ず汲んでくれると…そう答えた。
憤然と言葉を続けようとしたアーテリンデを制し、彼らに言葉を告げたのは意外な者だった。
「…ねえ、おじさん達。
おじさん達がもしそうして、仇を討てたとしても…あなたたちまでここで死んでしまったら、エンリーカはとっても悲しむと思うよ」
これまでやや引いた位置に居たはずのつぐみの悲しそうな表情に、男達は悟るところがあったのか…一度お互いの顔を見回し…深く嘆息した。
男達も知っているのだ。
この樹海で、己が尊崇する王女に出来た、異界から来た友のことを。
その一人が、目の前の少女であることも。
それ以上に少女の、どこまでも深く澄む紫の瞳は、王女と同じような、人を引きつけるような強い意志の光がある。
「…そうだな、お嬢。あんたの言う通りだ。
アーテリンデさん、済まなかった。
あいつらのことは無念だが…生きて引き上げたら、王女から然るべき罰を受けることにするよ」
リーダーの男に続き、男達は深々と頭を垂れた。
かごめが嘆息し、その肩に触れると…アーテリンデも「仕方ない」といわんばかりに息をつく。
そのときだった。
地鳴りのような音と共に、何かが奥から近づいてくる。
さらに、住処を蹂躙された怒りから、複眼に殺意の紅い光を灯した蟻達が続々と集まってきた。
「やれやれ…どうやら群れのボスのお出ましか。
ここが蟻の巣なら、居るのは」
切っ先に紅蓮を走らせるかごめの視線の先、他の蟻とは比べものにならないほどの巨躯が姿を見せる。
「参ったわね。
流石に話し合いが望める相手でもなさそうだけど」
同じように巫剣を構えるアーテリンデが、傷ついた海兵達をかばうように蟻達と対峙する。
「つぐみ、クイーンアントと戦ったことはあるな」
「思い出したくないけど、因縁はあるよ」
「あんた達三人に任せる、いいな?
あとのアリンコはあたしが片付ける!」
「うん!!
行くよ、めーやちゃん、まりかさんっ!!」
飛びかかろうとした蟻達の機先を制し、目に見えぬほどの踏み込みから「女王」までの道筋を切り開くと、けん制の雷がさらに走り、その上に飛び出していった少女が巨大な女王の頭上から冷たく輝く光の矢を釣瓶打ちに打ち込んでいく。
数の利も地の利も関係なく先手を許したことにさらなる怒りを燃やす「女王」が、劈くような金切り声を放ち、つぐみめがけて振り下ろしてきた大鎌のような前肢へ…その方向と遜色ない裂帛の怒号と共に放たれた、フル稼働する砲剣の一撃が炸裂する…!
…
…
紫「まあこれだけアリンコだらけのところですもの、ボスがこいつじゃなかったらなんやねんって感じよねえ」
つぐみ「はいはいクイーンアントクイーンアント」
一舞「もう今更だけどあったり前のように挑んだメンバーと話に登場してるメンバー違うんだし」
つぐみ「実際経緯もちょっと違うけど、海兵達もイサオシを求めて抜け駆けしたはいいけど、蟻のせいで隊長がやられちゃったもんだから引っ込みつかなくなっちゃって、アーテリンデさんが「仇は私が取ってきてやるしおまいら一般貧弱海兵はすっこんでろサル!!」って完 全 論 破してなんだかんだ私たちに押しつけられることになるよ」
アテリン「えっこのログなんか勝手にブロントさん口調にされる罰ゲームか何かあんの(´゚д゚`)」
つぐみ「(無視)とりあえずクイーンアントのスペックはこうだね」
真新しい蟻塚ボス クイーンアント
レベル79 HP56355 氷弱点、炎耐性/即死無効、呪い・混乱・麻痺・盲目・頭封じ・腕封じスタン耐性、睡眠と脚封じに弱い
支配の眼光(頭) 全体に混乱と頭封じ付与
噛み砕き(頭) 近接拡散壊攻撃
エンプレスフレア(頭) 全体遠隔炎属性攻撃、睡眠か呪いを付与
土けむり(脚) 全体に盲目と、3ターン命中率ダウンを付与
女王の鉄槌(腕) ランダム4~6回近接壊攻撃。
つぐみ「この時期のやたらと多芸多才なボス共に比べると、意外にやってくることが少ない感じがするよね。
土けむりと女王の鉄槌はHPが80%を切ったとき、エンプレスフレアはHP50%を切ると使い始めるよ」
一舞「なんか乱入事案があった気もするけどそこはもう気にしない方向なのね…今更だけど」
紫「(スキマに何かを強引に詰め入れている)そそ、気にしない気にしない。
クイーンアントの攻撃で怖いのは女王の鉄槌ね。
土けむりがあるから一瞬高威力低命中のいつもの奴かと思いきや、そこそこ痛い挙句普通に当たってくるから、連打されるとかなり拙いことになるわね」
めう「絡め手も結構豊富で、土けむりを連打されると解除する手段があんまりないから地味に困るのだ。
照明弾やクリアランスとかで打ち消せば楽だけど、鈍弱で打ち消すならレベル9くらいにしないと実質相殺にはならないめう。
でもー、盲目が効かないクセに何故か脚封じはホイホイ入るから、それで誤魔化してもいいめう」
つぐみ「ただこいつのめんどくさいの、新と一緒でクイーンの居る広間に侵入するとFOEの「逃走」パターンで行動開始して、特定のタイミングで停止すると1歩分の時間をかけてフィールドにタマゴを産み付けやがるの。
最大4個までタマゴを産んで、一定ターンが経過すると1個につき最大2体までハイガードアントが生まれて、どんどん乱入してくるわ」
一舞「あー、そういうパターンの増援呼ぶタイプなのねこいつ。
じゃあ戦闘前にタマゴを全部潰してしまえば増援は来ないんだね」
つぐみ「理論上はね。
でも正攻法ではほぼムリだね、タマゴは近づいてボタンを2回押すことで破壊するけど、2ターンを消費してしまうからその間に次のタマゴを産む体勢なっちゃうから、タマゴ潰しにばかり躍起になってたらいつまで経っても戦闘が出来ないの。
どんなに数を減らそうとしても1個は許容するしかなくなるんじゃないかな」
一舞「じゃあハイガード2体はどうしても我慢しなきゃならないんだねー。
でもあいつら確か回復できる奴呼んだりするんだっけ?」
めう「そうナリ。
ハイガードアント自体もよわよわだけど、それでサポートに回られるとクイーン自体の妨害戦法も合わさってとんでもなくめんどくせーのだ」
紫「ちなみにタマゴを産ませてそれを潰しつつクイーンをフロア右上に誘導してから一端部屋の外に出ると、クイーンは最短距離で最初の位置へ戻ろうとするわ。
その時に必ず扉の前を通るから、部屋に出るまでにすべてのタマゴを潰して居れば、タマゴを産ませることなく戦闘に入れるわよ。
かなり楽に戦えるから、試してみるのも手よ」
一舞「で、どうやったんですかつぐみさん(キリッ」
つぐみ「どーもこーも普通に力押しだよ(キリッ」
つぐみ「基本的にはアームズで強化、美結ちゃんが瘴気をばらまいてあとは凍砕斬を釣瓶打ちするだけの簡単な作業だね」
めう「いつも通りの脳筋っぷりめう」
紫「これだけひたすらデバフばらまくんだったら死の鎌じゃなくて泡沫で良くないの?」
つぐみ「それは本当に…というよりこのPTでリーパーやるんだったら火力を求める必要あるのかどうなのか」
一舞「なんだかんだ迷走してるじゃん…」
つぐみ「実際乱入されても凍砕斬が範囲火力だから結構ごり押し効くしそんなの困ったことはな…うん、ないね(目をそらす」
一舞「おい、なんだその間は」
つぐみ「気にしない気にしない。
通常ドロップは女王の鉄槌を使えるかなり強力な剣の素材になって、普通に最後の迷宮でも使っていけるくらいの高性能武器だよ。
条件ドロップは頭封じ撃破が条件で、プリ専用鎧の素材だね」
めう「頭を封じる係がいないけどどうやったんだめう?」
つぐみ「めーやちゃんの火力を集中しづらいから縺れ糸投げた(キリッ」
…
…
~海の一族駐屯地~
「んでぇ?
こーの私の留守中に勝手に仇討ちに迷宮カチ込んだ挙句、アテリンどころかつぐみ達まで巻き添えにしてぇ?
しかも結果的に仇を討って貰いましたー、と?」
件の海兵達は最大限にふくれあがったエンリーカの前に引き出されていた。
あんまりといえばあんまりな言いぐさだが、エンリーカにしてみれば自分の命令を破られた挙句、ある意味ではメンツを潰されたような格好になっているのだ。
海兵達は今更ながらのそのことを思い知らされ、平謝りに平伏した。
あまりに気の毒に思えたまり花が何か言おうそつするのを、つぐみは制する。
すると。
「…でも、あの時私がもっとはやくあの蟻の巣のことを思い出して居れば、起きなかったことでもあったわ。
今回の事態を引き起こしたのは、海に生きる一族を率いる者としての、私の配慮不足に他ならない…」
男達が驚愕し、顔を上げると…彼らの横をするりと抜け、エンリーカはつぐみの前に進み出ると、深々と頭を下げる。
「つぐみ、彼らの命を救ってくれたことは本当にありがとう。
そして、ごめんなさい。
私たちの事情を結果的に、あなたたちに押しつけてしまった」
「王女!!
あんたが詫びる必要はねえ、俺たちが弱すぎた…いや!」
「あんたが信頼して俺たちのことを託したアーテリンデさんにも迷惑掛けちまった…悪いのは俺たちだ!!」
「…あなたたち」
平伏して男泣きする男達、感極まって泣き出す者、その光景を見やり…つぐみの視線を受けたかごめも、鷹揚に肯いた。
…
「ねえ、お母さん。
棚上げにしていたけど…あの迷宮…どうする?」
天幕をあとに、月明かりを浴びながら、つぐみは隣に仁王立ちする母親へ問いかける。
つぐみの言うのは、ふたたび封印へと沈んでいくヨルムンガンドと共に崩壊する祭壇の奥に続く、さらなる「世界樹ノ迷宮」。
一度この世界を離れる際に聞いた、謎の少女の声が示唆しているのも、おそらくその場所を指しているのだろう。
すべての事件を解決し、元の平和に戻った生活に戻ってからも…その平穏な日常の中にあって忘れることができないでいる。
もしかしたらそこには、むやみに触れるべきでない恐ろしい真実があるのかも知れない。
これまで以上に、生死の境目があやふやな、そんな危険な世界が待ち構えているのかも知れない。
それでも。
「チームを組むんだったら、そいつらの授業の遅れの分…あんたがちゃんとフォローしてやるんだったらあたしには異論ないからな?
特にそこのまりかちゃん連れてくんだったら念入りにな?」
「えっ私に飛び級でもしろっていうの?
まあ…やれっていうなら、やるけど?」
珍しく、生意気そうに笑う愛娘の頭を、かごめは乱暴に撫で回す。
数日後…特別学級に「レムリア隠し迷宮の探索」という選択実技講習が加わることとなるが…それに参加すべく、多くの成績不良者がつぐみを追いかけ回すようになるのは、また別の話。
…
…
かごめ(スマキ)「そういうおはなしだったんじゃあ(ヽ´ω`)」
てゐ「いやー苦労したよ、身内杯のオグリキャップ限定ルームマッチでまとめて解らせてやったわ(キリッ
これでしばらく大人しくしてるだろこいつら」
つぐみ「うん、まあ、今更だけど諏訪子さんやさなえさんまでやってんだったらてーさんだけやってないって言う証拠にはならなかったね(キリッ」
諏訪子(スマキ)「だってこいつ失敗率99%のトレしっかり通してくるし常時育成上振れして終わらしてくるんだぜえ?
汚いなさすが幸せ兎詐欺きたない(ヽ´ω`)」
てゐ「勝てば官軍だ、古事記にも書いてあんだろ。
さて、そろそろ藍が飯の準備終わらせてるだろうし今回はここまでにしとこ、たまにはいい酒を貰おうかそこの黒髪の手持ちから。
そこまで勝手に賭けたのはお前だからなかごめ、よもや卑怯とは言うまいね今更?」
紫「あらあらそれだったら今日は豪華な宴になりそうねえ^^」
かごめ「ぐぐぐ…これでかったとおもうなよ…(ヽ´ω`)」
つぐみ「はいはいもう勝負ついてるから(キリッ
そしたら次は本編戻ればいいのかな?」
てゐ「せやな、主に最後の迷宮の話をじわじわ触れていくことになるか。
ぶっちゃけクソ長いぶん、いくつかに分けて解説を進めていくことになるな。
かごめ達と馬鹿鴉の件は次のセクションで強引にケッチャコつけるから、まずはそこでモンスター関係の話でもするかねとりあえず」
めう「うみゅみゅ…めうのあずかり知らぬところでそんなおっそろしいことになってたなんてむそーだにできないのだ…。
どんな理論もリアル★ラックには勝てないってはっきり解るめう…なんまんまいだめう…」
一舞「はいはいあんたも解ったらちゃんと反省する。
そいじゃ、こんかいはここまでだね」