「くそったれ…いったい何が起りやがった…!!」

体勢を崩して転げ落ちそうになりながらも、なんとかベッドの支柱をつかんで耐えたヤマメ。
その視線の先では、間一髪でリグルの体が地面に叩きつけられることを阻止したてゐが頭を振る。

「…解んね。
だが、壮絶に嫌な予感がすることは確かだな…解っちゃ居るが、かごめのアホも万全じゃねえ…!」

そのダメージの深さゆえか、あるいは与えている薬の為か…目覚めないままのリグルをふたたびベッドの上へ戻しながら、てゐは尋常の様子ではないレムリア島の中央部に目をやる。


夜は既に明けかけている。
しかし、夜空を切り裂き始めている光は、朝焼けの光とは程遠い…あまりにも禍々しい輝きを放っている。

中央部の未踏地帯、幾重にも重なる巨木が、まるで一本の大樹の如く聳えるその塊のような森が紫電を放ち、それがアーク放電のように天へ吸い込まれていく。
その上空では暗雲が渦巻き、紫電が空と森を繋ぐたびに、大樹は悍ましく脈打っているように見えた。

てゐはその光景に、最悪の事態を悟った。





始まってしまったようだ。
あの男は、既に『鍵』を揃えていたのだ


男の声に、てゐは誰何は愚か、振り返ることもない。
モリビトの長にして、最強の戦士である彼の表情も…まるで、全てが遅れであることを悟ったかのようだ。

てゐは内心の様々な思いを押し込めるようにして、嘆息すると…これまでの出来事をまとめるように、淡々と話しだした。

「かごめの野郎が言っていた。
ブロートはマギニアの姫を連れていた。
穣子の神徳と、あいつが持っていた世界樹の呪い、あくまでそんなものはヨルムンガンドを呼び覚ますための呼び水に過ぎない。
…古代レムリア王国の末裔、その血をもってしか、あの封印は解けない
「そこだ、てゐ。
私ぁどうしても腑に落ちなかったことがひとつある。
もそも、本当にヤバいモノならなんだかんだ、いくらでも誤魔化して時間を稼ぐことぐらい出来たはずだよな?

てゐはゆっくりと振り返る。

「…誰か…そうだな、例えばあの海賊女王のような、ああいうチートじみた強運とそれなりの知識を持ってすりゃ、そのうちバレるかも知れねえ。
だが私たちで先にそいつを押さえ、真実を明るみに出せば…女王もだけど、マギニアの姫サンだって私達が思うよりずっと頭がいいし物分かりもいい。
必ず解ってくれるはずだろうに」

ヤマメの表情は、お前ほどの奴が何故こんな愚策を、と言わんばかりだ。
だが、自分を糾弾する意図がないのは、その表情からも明らかだ。

ほんの数年ほど前は、お互いの接点も薄く…そればかりか、幻想郷に住まう多くの妖怪たちにとって、因幡てゐ(じぶん)という存在は、信用ならない大嘘吐きの代名詞だったはずだ。
彼女自身も不思議に思うぐらい、今の自分はこれだけの仲間に囲まれ、何時の間にか「いざとなれば最も頼みになる知恵者」としてその中に溶け込んでいる。

柄にもなく、命を張ったこともあった。
誰かのために涙を流すことも。
そして、受け継いだ想いに殉じようとしたことも。
おめおめと存在してきた数千年の年月の中で、この数年はそれとは比較にならないほどの濃さがあり、そこに自分のような者が居場所を得ることができているなど。


「そうだな…ごめん。
もっと、早く話せばよかった。
最近の私は、そんなのばっかりだ…ヤキが回ったにもほどがある」

自嘲気味に笑う自分の表情が、向かい合う瞳に映る。

ヤマメにとってもいい加減、てゐとの付き合いも長くなりつつある。
以前の様に笑えないような悪戯はしなくなったようだが、相変わらず嘘は吐くし、何よりも知恵者らしいしたり顔の物言いも多い。
だが少なくともその言葉は、あくまで周囲を和ませる戯れの意図も多く含み…これまでの様々な旅路の中で、自分達と通じる心の熱さを秘めていることを知っている。
何よりも頭が切れるだけに、その分いろいろなことを抱えがちになることもあるが、そんな所もこの素兎の良いところなのだと、ヤマメも思った。

故に…これから彼女が明かすその言葉は、絶望的な予感を確固たるものにする、恐るべき真実であろう確信も。

それを裏付けるかのように、てゐの表情が一転、険しさを増した。


「もう話したよな、私が『ブロート』の痕跡を見つけたって話を」

差し出された一冊の冊子。
ヤマメの掌の上で、独りでに開いたその項。

ー愚かなる世界に、破壊と絶望による団結をもたらさんー

その文字は、所々、いくつかの項にわたるほど深く抉れている。
禍々しさまで感じるほどの強い意志を感じ取り、ヤマメは戦慄する。

「なんだ…これは」
「奴ら、これを書き残した時点でもう正気を失ってたのかも知れねえ。
明るみに出すことは簡単だ、だが、そうすれば奴らはあの時点で何をしでかしたことか。
だが…結局、現状の有様は…こんな下らねえ読み違いで、いったいどれほどの犠牲を払い…これからも…!!


窓枠に叩き付けられたてゐの握り拳から、一筋の血が滴り落ちる。
ヤマメは一拍置いて…そして、深く息を吐く。

「なら、多少無理してでも止めるしかねえんじゃねえのか」
「…ダメだ。
ああなった以上打つ手はもう、ほぼ残されちゃいねえ…全員本調子ならともかく、今の私たちじゃエサになりに行くのと一緒だ。
まともに戦えそうな奴がどれだけ残っているか。
もし、つぐみが…いや、四の五の言ってる場合じゃねえ。
早急に全員を撤退させて、マギニアへ」
「待ってください、てゐさん。
まだ、あきらめるには早すぎます」

てゐ…そしてヤマメも、この場にいるはずもない少女の声に驚いて、振り返った。

つぐみちゃんたちも…そして何よりも、私もまだ諦めてなど居ませんから

桜色の髪を揺らし、しっかりと両の足で立つ、その少女が力強く宣言する。



~新・狐尾幻想樹海紀行X~
その36 憎らしくも愛しき家族




♪BGM 「戦乱 剣を掲げ誇りを胸に」♪

異常な魔力の波動と共に繰り出された悍ましき樹人の一撃を、かごめはかろうじて刃で受け止めるも…しかし、力任せに繰り出されたその豪腕で背後の大樹に叩き付けられた。
怒号とともに、諏訪子は「眷属」を放とうとするも、それは何の力も示さない。

「な…くそっ!!」

彼女はその異常事態に悪態を吐き、かろうじて樹人の豪腕を回避し、距離を取るが、立ち上がろうとするも片膝をついてしまうかごめの異変に色を失う。


いや、諏訪子にも…おそらくはかごめ自身も解っているのだ。
てゐの治療はあくまで応急処置に過ぎず、かごめは本来ならこのような戦闘に耐えられるような状態ではないと言うことを

その瞳からはいささかも気の衰えはない。
しかし、その顔面は明らかに蒼白で、何よりも…地に着く膝を伝い、乾いた大地が吸いきれぬほどの夥しい血。
樹人の一撃により、先の傷が開いたのは明白だった。



チルノはかごめをかばおうと、樹人とその間に割って入ろうとする。
だが。


「動くな!」


その一喝に、チルノはびくっと、その場にとどまった。
その眼前で、歴戦の剣姫はゆっくりと刀を納め、構えを変える。

見せられるのは、この一太刀。
必ず、モノにして見せろ


凄まじい剣気が、その限界を超えた肉体から吹き上がる。
まるで、その命の残り火を燃やし尽くそうかというほどの勢いで。


刹那。
樹人の繰り出した拳に合わせ、かごめが飛ぶ。

チルノは見た。
閃光と化した抜刀の一撃が、その片腕を砕き散らし、そのまま半身も吹き飛ばす様を。

だが、明らかに足りぬ。
本来のかごめが放った一撃であれば、瞬く間にその姿が刃を納め、そして樹人は音もなく両断されていたであろう。
諏訪子は歯噛みする。


しかし…それは、確かに「彼女」には届いていた


チルノは即座に、己の刃を同じように鞘に収め、同じように低く構える。
諏訪子が見ただろう、かごめが繰り出した抜刀術が、いかなる結果を生むか…鮮明に、見えていた。
それだけではない、幾度もなく見てきた「幻想界最強」の太刀筋を。

後方へ投げ出そうとした足の意味を、自然と巨大な負荷を掛けられる軸の足の意味を、悟る。


「うあああああああああああああああああああああッ!!!!

腹の底から己の全てをはき出すような、渾身の怒号と共に…足に溜め込まれた全ての力を解放し、閃光と化した抜刀の切っ先。


もう片方の腕は、砕けることなく。
奇麗に切り離され…納刀と共に、宙を舞った。

目を見開きながらも、その瞬間を、諏訪子も逃さない。
先程の魔力の大波に怯んだ「眷属」を叱咤し、己の段幕に乗せて解き放つ。
呪いの頸から解放されて露になった友の姿を抱き留め、無事を確かめるが…視線の先で満足げに、微かに笑う剣姫の姿が…その場に崩れ落ちた。





「もう、解ってるな。
お前は、もう戦えねえ…っ!」

応急手当を終え、諏訪子は喉の奥から絞り出すように告げる。
解っている、といわんばかりに肯くと…流れた血に濡れることも厭わず、ただ涙を流す氷精の少女に、手を伸ばしながらかごめは穏やかに告げる。

「チルノ。
あんたに伝えたいことは、伝えたつもりだ。
だから…頼んだよ」

その手を取り、流れる涙を払うことなく、チルノはまっすぐと見つめる。

「つぐみたちのこと…助けてあげて、な。
そして…みんなで、かえろう…!

応える代わりに、受け取った刃を少女は己の腰に差す。
その姿を見届けたかごめは、鷹揚に頷くと、そのまま目を閉じた。

「コーディ達を里に置いたら、私も直ぐ行く。
…それまで、任せる…!」
「うん。
行ってくる!」

諏訪子の言葉に応え、乱暴に涙を拭うと、若き氷の剣士は迷宮の奥へと駆ける。
示された道標を、今度は間違えないように。








かごめ(スマキ)「あたしも大概しぶといよな、いったい何度瀕死の重傷を負わされりゃ気が済むんだ?」
諏訪子(スマキ)「他人事かオイ。
        それになんだ今回は前置きなしか?」
かごめ「まあストーリーもようやく着地点見えてきてるし、なるべくなら簡潔に済まして話を消化していかんと、5のログみてーにどんどん与太話だけが増えて収集つかなくなるし。
   ていうか文字通り手も足も出ないんじゃあこのぐらいしかできなくね?」
諏訪子「ミもフタもねえなあいろんな意味で」
かごめ「あたしとしては少しでもこちらを早く片付けて次のチャンミの準備を…あれ?来月はLoHだっけ?」
諏訪子「同意したいのは山々だけどしばらくはその話やめとけ。
   最悪、つぐみにデータ消されでもしたら事だぞ」
かごめ「いやいやいやさすがにそこまでは…いや、やりかねないかもしれないなあ(しろめ」
諏訪子「わかったら真面目に解説すべぇこれ以上つぐみの怒りを買ったら何されっか知れたもんじゃねえ(しろめ」
かごめ「…というわけで説明的には前後するが、導入のストーリーは次回に触れるらしいんで今回は一足お先、クリア前最後の迷宮「世界樹ノ迷宮」に登場するモンスターの話だ。
   まー歴代五層の連中にも勝るとも劣らない面倒な連中が多いこと多いこと」
諏訪子「メンツもひどいんだよな。
   無印三層後半隠しエリアからアイスバット、2の空船から死霊の兵士、3の白亜ノ森からラクライウサギと4の煌天破ノ都から呪いバッタ、新の第一層からギラファビートル…ボルトキャットとホムラヤマネコがなんか出てくる時期逆だけど、ヤマネコ一家は基本的にやってくることはいつだってえげつないからどっちが先でも大差はないと」
かごめ「地味に忘れがちだけど呪いバッタも炎属性攻撃してくるから死霊の兵士はチェイスしてくるわけで」
諏訪子「ついでに破滅の花びらも何故か居る、しかも今回はしっかり石化」
かごめ「暗国ノ殿みてーに奇襲から即hageにならなくなった分有情になったんじゃねえかなあ(しろめ」
諏訪子「ワイルドボアが石化状態になってると即死させてくるが」
かごめ「あいつ普通に石化してなくてもPT壊滅させてくるだろってのは禁句かね?(しろめ
   イルベアはそこそこ耐久あってデバフが回復低下に変わってるからその分面倒にはなってるけど、ジャッカローブ君はマジで何しにきたの感がハンパねえな」
諏訪子「地味にスキルが腕封じつき範囲攻撃になってるから多少は面倒かな。
   まあ、HPは低めだから基本速攻で処理出来るけど」




かごめ「あと面倒なのはあれか?久々登場のマミ婆の親戚
諏訪子「その言い方もどうなんだよ…まあ名前自体も『木の葉だぬき』なんてドストレートにも程があるけどもさあ。
   基本的には西霊堂にいたタヌキと一緒で、真っ先に倒してさえしまえば脚封じ付きの貫通雷がウザいだけで大したことはないんだが」




静葉(スマキ)「ああ、
なんか一匹だけ残るとよりにもよって三竜のどれかに化けるアレ?
       なーんかあいつら、所詮なりすましでしょって思ったらブレスが普通に笑えない破壊力で一度hageたわねえ(遠い目」
諏訪子「なんでえお前までここに放り込まれてたのか」
静葉「運が絡むゲームでてゐを真っ向から相手取るのは迂闊にも程があったと今では反省している(しろめ」
かごめ「みんな浮かれておりましたなあ(しろめ」
諏訪子「それはまあいいとして、別に変身されたからと言ってHPとかスペックそのものはタヌキのままだからな。ブレスの基本威力がイカレてるだけで」
かごめ「いやマジで後半の雑魚で条件ありとはいえ即死級の全体火力飛んでくるとか、さすが世界樹って感じですねえ(しろめ」
静葉「地味に弱点もないから、高速処理しようって言ってもなかなか面倒なのよねあいつ。
  ていうか変身したなら三竜の弱点までちゃんとトレースしないさいよまったく(ぷんすこ」
諏訪子「強化したと思ったら弱体化してたとかギャグじゃねえか。
   あとついでにお前らの認識だと三竜“だけ”に化けると思ってるようだが、実はもう一種類変身できる魔物がいるって知ってるか?」
かごめ「ああ?
   三竜以外にそんなめんどくせーバケモン…いや、待てなんか心当たりがあるんだが
静葉「一応クリア後小迷宮のネタばらし少しすると、御馴染スキュレーだのジャガノだのいるみたいだけど…三竜級の魔物っていうと、いるらしいわね…アレ
諏訪子「察しはついてると思うが、フィールドFOE枠にいるあいつだな。
   これはこれでいずれ個別で挑む予定だから今は伏せるが、超低確率でそいつにも化けやがるらしい。
   ついでにタヌキが変身すると本家本元より異常付与率が高いらしくて、特に金竜に化けると何時もの呪われし遠吠えであっさりとhageさせられる」
かごめ「∑( ̄□ ̄;)いくらなんでもクリア前にそんな地雷ブチ込むか普通!?
静葉「赤竜に化けられるとやたら混乱させられると思ったらそういう事…金竜に化けたら妙なタイミングでネクローシスが飛んできましたとかシャレになってないわね」
諏訪子「んまーラス1にさえしなきゃいいし、しかも希少個体なら変身自体しないらしいから倒し方は考えろってやつだな。
   それでもある意味、FOEよりも始末が悪いよなあれ。
   条件ドロップは炎属性撃破だが、通常・条件共に素材から作れる杖と服がかなり優秀でクリア後も使っていけるから、余裕があれば乱獲したいところよな」
静葉「そんな余裕あるモンかしら。
  あとそういえば、FOEのように見えるけど普通にめんどくさいパイナップルの色違いもいたわね。パンドラパインでしたっけ。
  出現率自体低いっぽいんであまり見かけないんだけど」
かごめ「なんか盲目で撃破すると条件ドロップするみたいだけど、アイツの何処に目があるんだろな。
   てか直近でDQ11もやったんだけどそれ知ってるとどうしても名前からパンドラボックスを連想しちまうとこだな」
諏訪子「安心しろそこは世界樹だ、危険度に差はねえよそいつ。
   同一ヒットしないランダム炎攻撃で呪いか石化を実質PT全体にぶち込んでくるぞそのパイナップル野郎」
かごめ「∑( ̄□ ̄;)いつもの世界樹過ぎて安心なんて1mmもできるかドアホ!!」
静葉「こういう植物系っぽい魔物ってやたら斬攻撃弱点多いけど、あまり効いてる感じしないのが何ともね」
諏訪子「お前らみたいな人斬りでなくたって、基本斬攻撃メインになりがちだからそう思うだけだろ。
   そもそもこいつのランダム炎、火力自体結構あるから、異常が付着する前に普通に死ねるわな」
かごめ「つーか『果汁』とかいうスキル名なのに炎属性とか、ポケモンやってるとどっちやねんってなるよな」
静葉「ところで最新作のスカーレット・ヴァイオレットだと最初熱湯覚えられるポケモンいなかったらしいわね」
かごめ「ポケモン(ダイワ)スカーレット・ウオッカとかいう名前いじりもありましたねえ、略称的に」
諏訪子「そういう脱線はせんでよろしい
   というか今のつぐみの前で競走馬名口にしただけでもなにすっかわからんし、どうなっても私ぁ関与しねえからな(真顔」
かごめ「聞くとキレる割にはよく知ってるよねそういうの、我が娘ながらマジでなんなんだ」
静葉「…単にカタカナ固有名称っぽい名前をそう判断してるだけだったりして」
かごめ「あいつがそこまでアホならもっと対処楽なんだけどねえ(しろめ」








-たす…けて-

叩きつけられる刹那、こいしは無意識のうちに最適の行動…紅魔の門番がかつて一度だけ見せた「完全なる脱力」を土壇場で再現することにより、ダメージを最小限にとどめることができていた。
再び「有意識の世界へ帰ってきた」彼女は、突如として豹変した空へ再び怒りの感情を向けようとした矢先に、そのかすかな声を聴いた。


こいしはこの地獄烏に対し、然程好感情を抱いてはいない。

こいし自身が当時心を完全に閉ざしていたため、思ってもみなかったことだが…様々な体験を通じ、艱難や苦痛すらも乗り越えられるようになった今だからこそ、白痴とすら言えるほど純粋なこの地獄烏の娘に、身に余るほどの力を与えた八坂神奈子のことも、こいしは快くは思っていない。
文字通り「空飛ぶ核爆弾」と化したお空は…元々は姉を慕って集まってきた多くの「ペット」の一匹に過ぎなかったものが、いつの間にか自分よりも姉の愛を受けているように見え…己の行動が起こした因果とはいえ、元々自分がいた立場にこの烏が居ついてしまったのではないかと、そうも思っていた。

それが子供じみた嫉妬であることも、こいし自身はわかっている。
だが、同じく幻想郷の垣根を破壊しかねないほどの異変を起こしておきながら、罰らしい罰を負わず、特別扱いすらされているような…そのことを顧みすらしないお空の存在を、憎んでいなかったといえば、大いにウソになる。
そして、今回もこうやって、世界を破滅させかねない異変に加担し…あまつさえ、身勝手な題目を鵜呑みにして、その罪すら問わなかった優しい姉へ牙を剥いたお空を…たとえさとりが許そうとも、この自分の手で五体を引き裂いてくれようと。
そう、思っていた。



-もう、やだ…こんなこと、やだ…!
こいしさまと…たたかいたくない…!
-

こいしは奥歯をかみしめる。
このかすかな訴えに…何を、と吐き捨て、聞き流してしまえるぐらいに…自分がもっと愚かであったのならばいかほど楽だったろうか。


さとりは『ブロート』に魔力を奪われ、それは現在この少女へ与えられている。
本来持ちえない強大な力は、さして高い知性を持つとは言い難いお空へ、その身の丈に合わぬ知能と歪んだ精神性をもたらしてしまっていた。

旧知の友であるお燐が…そのお燐も火車の中では非力故、地獄に追いやられてきたせいもあり、他人に思えなかったからでもあるのだろうが…本来ややもすれば捕食対象でもあった地獄烏の中でも、あまりにお空は物忘れがひどく、それ故に要領が悪く放っておけないからという理由で、長いこと面倒を見続けていた程だった。
それ故か性格は至極素直で、ちょっとした事にもあっさり染まってしまう危うさもあった。

今ならわかるのだ。
この子自身に、自分を制御できないことも。
かつての自分と、同じように。



だからこそ。


♪BGM 「死体旅行 ~ Be of good cheer!」♪


「ああ、もうっ!!」

こいしは渾身の力を込め、強引に蹴り退かす。
怯んだ一瞬の隙を逃さず、再度掴み掛られる刹那、全身全霊で五体を捻り、乾いた大地を砂埃と共に転がると、その反動で立ち上がって再び構えを取る。

何度だって面倒見てやりゃいんだろ!
もう、地霊殿(かぞく)でマトモにあんたの相手できるの、お姉ちゃんとお燐以外は私しかいないんだから!
忘れるんだったらそのたびに言ってやる!


紫電を纏い振り下ろされる爪の一撃を、十字に交えた二刀の峰で受け止め、払い除け突き離し…感情をむき出しにして、叫ぶ。


「あんたが悪さしたら、ぶん殴ってわからせてやるのは私の役目だ!
かかってこいバカお空!!
あんたが自分のクチでみんなにごめんなさいって言うまで、私はあんたを殴るの止めないからなッ!!」



向かい合った少女の、狂気に染まる瞳から涙が零れ落ちたのを…誰もが気付いた。
同時に、こいしが言葉と裏腹に、お空を救い出そうとしていることも。

こいしは間合いを詰める二人の「友」へ、そのイメージを「第三の瞳」を介して投げ渡す。


リリカとミスティアが垣間見たイメージは、かつて「異界の魔樹」が幻想郷へ攻め寄せた時…静葉と心を通わせた魔剣士の心を、魔樹の呪縛から解き放ったその時のものだった。

こいしの技の一つに、触れた対象本来の自我を肥大化させる「イドの解放」というものがある。
意識の表層にあって、お空本来の思考を歪めているだろうさとりの魔力が、魔樹の呪縛と同様の機序で悪影響を及ぼしているのであれば…本来お空が持ち得るものでない以上、容易に引き離せるはず。

リリカは後方へ視線をやると、銃口をこちらに向けるつぐみの姿がある。
この場にはいない赤河童・みとりの「事象禁止」の代わりに、つぐみの能力を使う。
そして。

こいしとお空の間に割って入る、もう一人の姿。
至近距離からフルパワーで放たれる「ニュークリアエクスカーション」を相殺する、凍てつく死の光を解き放とうとしていた、まり花にもそのイメージは、届いていた。


「術式解放っ!
いっけえええええええええええええええええ!!」

超低温と超高熱が両者の至近距離で炸裂、そして衝突。
劈くような轟音と共にまり花へ襲い掛かる絶対零度の反動を、再び展開した迦楼羅の炎でミスティアが相殺する。

そして反動で動きの止まったお空の目の前に、レティ渾身の「冬の気」による障壁を纏う、こいしとリリカの二人。
がら空きになったお空の胸元へ、ふたりの手が重なる、その刹那。


「在るべき処へ還れ!!
“本能『イドの解放』”ッ!!」



空間全てを震わせる『鼓動』が、走る。
間髪明けず、銃声と共に開かれた『境界』から飛び出した一発の弾丸が、お空を貫くと…凄まじい魔力の奔流が、解き放たれた。








静葉「今更かも知れないけど、こういう時のこいしもだんだんかごめじみてきたわね」
諏訪子「全くだ、どんだけ汚染を広げていけば気が済むんだ、ええそこのミーマティックオブジェクト」
かごめ「甚だ遺憾である(キリッ
   実際ここのお空とかの扱いどうしようかって、狐野郎は迷った挙句に完全放置してた感じはするよな。
   そんな間に主にクリスマスオグリのせいで狂熱も冷めてきたというか」
静葉「蒸し返すのあれだけど、マジでサイゲ野郎はいつまでオグリキャップを魔物にしておくつもりかしらね」
諏訪子「んまーなあバンブーメモリーのシナリオでもオグリン完全に災厄扱いだったし。
   実際ポケモンSVとかスプラの新作とかミンサガリマスターも発売されたしでこれもう一気にトレーナー人口減るよな。
   これで世界樹新作なんて出てくればトレセン学園に潜んでるボウケンシャーも一気にいなくなるぞ」
かごめ「時期的には世界樹新作にせよ新3にせよ、そろっと新フォーマットで登場させてもいい感じはするよな。
   尤も狐野郎の場合はLALも中世編で止まってるからさっさと消化しろって話だが」
静葉「あっきれたそんなことまでしてたのね」

かごめ「というわけで今回はここまでなんだけど…どうする?
   このまま次も行っちまうか?」
静葉「別に何も言われなきゃ好きにすればよくない?
  どーせヒマでしょ私もだけど(キリッ」
かごめ「あいつもあたしと同じで段取り勝手に崩されるとめっちゃ怒るからなあ。
   んまーそこは成り行きで」
諏訪子「行き当たりばったりだなあいつもながら」