♪BGM 「ミンストレルソング」/伊藤賢治♪


執政院の会議室。
事情を聞いたつぐみ達も呼ばれ、「狐尾」の面々を前にオレルスは語りだした。


「もう、一年も前になるだろうか。
このエトリアから馬車で一昼夜離れた所に、超古代の遺跡が見つかった。
…その遺跡は、その入り口に記されていた古代文字から「グラズヘイム」と名付けられた」


「グラズヘイムの調査が始まってひと月余りから、エトリアは度重なる地震と、それに伴って怪音が鳴り響くという異変に見舞われるようになった。
我々、執政院ラーダの調査隊のみでは原因の特定に至らず…また、グラズヘイムには凶悪な魔物が潜んで居る事も解り、我々は優れた戦士の一族であるハイランダーにその調査を依頼した。
ハイランダーの青年は、やがてこの遺跡の中で眠っていた一人の少女を連れ帰り…別の調査目的でこの地を訪れていた、ミズガルズという街から来た図書館の調査団と共にチームを組み、これまで謎に包まれていた世界樹迷宮内部の調査と併せ、異変の調査に乗り出したのだ」


「彼らは、出会ってほんのあって数日ではあったが優れたチームワークと戦闘能力、そしてその知識を発揮して樹海の奥までたどり着き、また同時に、グラズヘイムがどのような目的で作られたものなのかも明らかにしてみせた。
そして…この世界に過去、何が起こっていたのかを」


「この世界は千年以上前、迷宮の奥深くに眠る「遺都」のように、極めて発達した文明社会だった。
グラズヘイムの中枢を成す、自らの意思で考え、稼働するという機械を生み出したその世界は、些細なことから戦争を引き起こし、自ら生み出した悪魔のような兵器で、互いの国を滅ぼし合ったのだ。
そもそもにして、文明発達の対価であった様々な穢れが大地も水も大気も汚し、戦果が収まって後世界は、草木も育たぬ死の世界になり果ててしまった。
この世界は…一度死んだのだ


「…生き残った僅かな先人達は、自分たちの愚かさを思い知るとともに、この世界をなんとか蘇らせようとした。
その末に生まれたのが「世界樹計画」…生体浄化装置である巨大な「世界樹」により、この世界にはびこった穢れを浄化しようと試みた。
……先人たちの懸命な努力が実り、完成した「世界樹」によって世界は少しずつ浄化されていった……だが」


「穢れをため込んだ「世界樹」の核は、やがてそれにより「災厄」と化す運命にあった。
かつて世界を滅ぼした数多の兵器よりも恐ろしい、それ自身が穢れを振り撒く恐怖の魔物「フォレスト・セル」として、やがて千年の時を経て目覚める…それを討つべく作られたのが「グングニル」という最終兵器。
「グラズヘイム」はこの「グングニル」を起動するための施設…否、起動装置だった



「しかし…この「グングニル」もまた、起動すればエトリアだけでなく…その周辺の広大な範囲を巻き込んで破壊をもたらす事も解った。
かつて、遠方に同じく世界樹を戴く「発掘都市ゴダム」が突然の消滅を遂げたのも、その地にあった「グングニル」の起動によるものだということも。
彼らは、エトリアも世界も滅ぼさないという彼ら自身の「正義」を貫くべく、「グングニル」の起動を止め…そして、セルの一部となりながらそれを滅ぼす手立てを研究していた我らの長・ヴィズルの意思を継ぎ、セルを滅ぼしたのだ


そこまで語ったオレルスは、息をついて腰を下ろす。

「……似ているな、タルシスと」
「そうだね。
「暗国ノ殿」に眠っていた「喰らうもの」…それもひょっとしたら、セルの亜種だったってことになるんだね
「君たちはタルシスにもいたんだったな。
かの地では、いったいどうやって?」

リリカは一瞬口ごもるが、意を決して言葉を返す。

「…あの地では、その「食らうもの」の力を極めて弱める毒薬の研究が残されていたんです。
私達はそれを完成させ…討ち果たしました」


オレルスは目を見開く。
しかし、彼女の様子からそれが如何に筆舌に尽くしがたい死闘であったかを悟ったようだ。

「…そうか。
さて…私に話ができるのはここまでだ。
とはいえ、迷宮にまつわる謎はまだ完全に、解き明かされたわけではない。災厄の中心であったフォレスト・セルが討ち果たされたとはいえ、迷宮の真なる奥…長の残した手記にある「真朱ノ窟」という階層、そこまでたどり着けた者はいるが、戻って来た者はセルを討った「彼ら」しかいない。
この地に何が眠り、どのような脅威が潜んでいるのか…まったく明らかにされてはいないのが現状だ。そこで」

オレルスは再び立ち上がる。


「これは、私の勝手な願いでもある。
だが…その地がどのような世界であり、そこにあるはずの「世界樹」がどうなったのか…この大地を守っていくために、私は知らねばならないことだと思うのだ



-新・狐尾幻想樹海紀行-
その6 「詩姫の影」




諏訪子「…………」

諏訪子「( ̄□ ̄;)あれっ!?
   私一人しかいねえってどういうことだ? かごめのアホは一体何処へ」
藍「えーっとここでいいのかな…御邪魔するよ」
諏訪子「( ̄□ ̄;)しかもなんでお前がここに来るんだ!?」
藍「いやなんか…暫くポケモンの解説はあと回しでいいから、ケロ様の手伝いでもしてやっててくれって。
 紫様もここ最近姿見ないし…」
諏訪子「うーわメタい話来たなあ…前作(SQ4)でも確かに私が失踪したのもこのくらいの進行の頃だよそりゃあ確かに。
   大体にして解説役が一人いなくなるってのはいい予感しねえな。
   つぐみの旅の目的が明らかになったという事は、絶対あいつが裏で悪さするんだろ」
藍「だけだといいんだけどな。
 私としてはむしろ、あのスキマも何を仕出かそうとしてるのかその方が気になるんだが」
諏訪子「…お前も言うなあ…。
   けど確かに、最初からその意味では胡散臭い匂いしかしてねえんだ。
   あのボンクラども何を仕出かそうとしてるんだか…あいつら単品でも十分過ぎるほど面倒くさいデウス・エクス・マキナだってのに…」
藍「お陰でここ最近酒と胃薬が手放せなくってなあ(´Д`)」
諏訪子「おい…アル中で薬漬けの九尾の狐とかマジで笑えねえぞ…」


諏訪子「さてまあ、第二階層もいよいよ大詰め、階層ボス・ケルヌンノス戦に入っていくぞ。
   だがここで大問題が発生していてな」
藍「大問題って?」
諏訪子「狐野郎は実は、最初とりあえずエキスパートモードのケルヌンノスがどのくらいの強さであるかを確認しようとして、一通り地図を埋めたタイミングでおもむろにケルヌンノスに上等張りに行ったんだ。
   ところがなあ…リメイクされてアホみたいに強くなったはずのケルヌンノスを事もあろうに一発でsageちまった。いくら例の裏技を駆使してるとはいえ、普通はレベル23で勝てるような相手じゃねえんだが
藍「うーん…紫様がどハマリしてたのは知ってるけど、私は世界樹やったことないからなあ。
 因みに攻略推奨レベルっていくつくらいなの?」
諏訪子「プレイヤーによって解釈は異なるが、ボスの居る階層の数字×2.5もしくは3。
   第二階層ボスだから25〜30、まあ目安としては27くらい。
   余談だが前作の第二迷宮ボス・ホロウクィーンの攻略推奨レベルは23前後、前々作の海王ケトスが24だったかな」
藍「つまり前作以前に比べれば、新にリメイクされた時点で難しくなってるって事だね」
諏訪子「まああくまでこれ、エキスパート…前作だとノーマルモードでの話だからね。
   スタンダートやピクニックなら被ダメージがどんどん落ちてくから難易度もそれだけ落ちる。私の体感では、ピクニックならたぶん18くらいあればケルヌンノスは十分sageられると思う」
藍「………10レベルくらい違うくない?」
諏訪子「そのくらいピクニックがふざけたレベルのヌルゲーだって事だよ。
   因みにストーリーモードは攻略スピードを求めてピクニックだったけど、道中全く逃げないもんだからケルヌンノスに挑んだレベルは31、マスターした定量分析と道中入手していた力溜めからのインボルブでヒーラーボール呼ばれた次のターンに余裕でsageた。
   5ターンかかかってないな、何しろ力溜めインボの一発でケルヌンのHPを3分の1くらい持ってくんだから」
藍「ボスのHPを一撃で3割強っておま…」
諏訪子「世界樹の恐ろしさを前作以前で知ってると信じられない世界だよ。
   つくづく世界樹は難易度下げちゃいけないゲームだって事がよく解った
藍「でも今回はちゃんとエキスパートなんでしょ?
 それなのに推奨レベルよりも低く攻略ってどういうことなの…」
諏訪子「それに関しては前ログとか読んでもらえば分かるけど…まず装備がふざけている。
   何しろクリア間際の頃に手に入る武器防具で固めてるわけだから基礎的な火力が違うし、HPとかはそんなに変わるもんじゃないが、中にはHPに補正かかる武器もある。キバガミが装備している天羽々斬なんかそうだな。
   挙句に探索準備ではこの時点でジンジャーライフ解禁してあるから、ますます一撃死しにくくなってる」
藍「探索準備?」
諏訪子「ギルドハウスのキーパーキャラにお金を払って、その時点で迷宮にいる間だけ色々な補助効果を発揮する要素だな。
   初期からいるローザの探索準備は、そういう薬効のあるコーディアルだ。
   と言ってもローザの場合、ボス戦用にHP最大値を増やすジンジャーライフか、探索時間底上げのためTPリジェネ効果があるアムラアウェイク、もしくはHPリジェネのリジェネトルくらいしか普通使われないな」
藍「ふーん。
 で、とりあえずジンジャーライフ積んで試しに突っ込んでみたら勝っちゃった、と
諏訪子「そしてその挙句、アイテム増殖の裏技でソーマプライムフル回転させれば勝てない方がおかしい。
   前階層ボスは何気に説明してなかったけど、完全攻略ガイドも発売されたことだしそこからの引用でケルヌンノスの能力も紹介しておこうか」


第二階層ボス ケルヌンノス
HP6880 炎耐性・雷弱点
沈黙の瞳(頭) 全体に頭封じ、開幕に高確率で使用
ホーンラッシュ(頭) 単体近接突属性攻撃
スマッシュコンボ(腕) 近接拡散壊属性攻撃
ハリケーンパンチ(腕) 全体壊属性攻撃、麻痺を付与
クロスカウンター(腕) 物理攻撃に対して近接壊属性攻撃で反撃、5の倍数ターンに使用
※仲間を呼ぶ(依存部位なし?) 後列にヒーラーボール2体を呼ぶ、HPが減ってなおかつヒーラーボールがいないときに使用


諏訪子「面倒くさいのはほぼ開幕に使って来る沈黙の瞳だ。
   雷弱点という事は定量分析を絡めて雷術式をぶち込んでやればいい気がするが、これで頭封じ入れられると確実にテンポが狂う。
   そして範囲が広い挙句に単純に破壊力がでかいハリケーンパンチ、これは適正レベルでバフデバフを駆使しても100前後もらっちまうから、何もしてないなら一発でおしまいだ。縦しんば生き残ってもかなり高い確率で麻痺をつけられる」
藍「打たれ弱い後衛職とか一発で蒸発するってことでしょ、この場合だと」
諏訪子「当然そうなるわな。
   飛んでくるターンは特に決まってないし、ストーリーだとラクーナに防御陣形を習得させて、まめにバックガードする位の対処法しかない。防御陣形は頭技、なおかつどうしてもラクーナの方が遅いから頭縛られる可能性を考慮して2ターン目に張るといい。
   あとはサンダーショットと雷の術式を定量分析やアクトブーストを併用してひたすら叩きこむ。高レベルのインボルブがあればなおいいな。ただし5倍数ターンはサンダーショットとインボルブは禁物だから、そこはバフのかけ直しや回復に割くといい」
藍「ヒーラーボールは?」
諏訪子「そいつ自体はそんな強くない。
   ただ、登場してすぐに張る神秘の守りが非常に面倒くさい。
   相手のバフを消す手段はほぼないから、いち早くブレインレンドやヘッドスナイプで頭を縛って放置出来ればそうしたいところだな。
   放っておくとキュアでケルヌンノスを回復させ続けてくるし、かと言って一掃するとおかわりが来る。1匹だけ残して、回復量以上のダメージを与えるか頭縛って放置が吉だな」
藍「本来はそうやって対処するんだね。
 …で、いったいどこをどうしたら一気呵成に低レベル撃破できるんだい本当に」
諏訪子「一応、sageちまった後SP振る前に写真撮ったから、スキル振りだけは解るよ。
   それもここで紹介しておこう」


つぐみ
回復マスタリ★10 TPブースト3
キュア5 エリアキュア3 ヒーリング1 リジェネレート3 ディレイヒール1
リザレクト1 バインドリカバリ1 リフレッシュ1
博識1 伐採1
(グリモアスキル)
チャージサンダー1 チャージショット3 アクトブースト4 銃マスタリ8 TPブースト7 リチャージ4 ハーベスト3

キバガミ
HPブースト2 刀マスタリ★10
上段の構え5 青眼の構え1 居合の構え1 無双の構え1
踏み袈裟1 斬馬3 卸し焔1 ツバメ返し3 一寸の見切り1
採掘1
(グリモアスキル)
バインドリカバリ3 リフレッシュ3 医術防御4 TPブースト5 一刀両断5 血の暴走5 リチャージ3

パルスィ
剣マスタリ★10 ATKブースト5
ヒュプノバイト1 ショックバイト1 ミラージュバイト1 ドレインバイト3 カタストロフ1
憤怒の力8
(グリモアスキル)
猪突猛進★10 切断咬8 力溜め9 いらつく羽音★10 アクトブースト3 TPブースト9 リチャージ4

ヤマメ
歌マスタリー★10 HPブースト1
猛き戦いの舞曲5 聖なる守護の舞曲5 韋駄天の舞曲1 慧眼の旋律1
火劇の序曲1 氷劇の序曲1 雷劇の序曲1 山彦の輪唱曲1 沈静なる奇想曲1
警戒歩行1 採取1
(グリモアスキル)
甘美な痺れ★10 ドレインバイト3 ミラージュバイト1 カタストロフ1 アクトブースト3 ATKブースト3 リチャージ2

メリー
呪言マスタリ★10
力祓いの呪言1 軟身の呪言1 足違えの呪言1 幻惑の呪言1 狂乱の呪言3
昏睡の呪言3 石化の呪言1 封の呪言:頭首1 封の呪言:上肢1 封の呪言:下肢1
畏れよ、我を1 命ず、言動能わず1 命ず、輩を喰らえ1
(グリモアスキル)
火の術式4 雷の術式4 フレイムハウル4 変性の術式3 定量分析6 デビルクライ9 術式マスタリ★10


諏訪子「ヤマメとメリーは休養入れてスキル振り直し、グリモアもヤマメは別のグリモアを作った他、メリー以外はちょっと直してある」
藍「(前のと見比べている)アクトブーストとかいうスキルを持たせた子が増えたね、これは?」
諏訪子「使った次のターン、選択した行動を複数回行うスキルだよ。
   レベル5以上だと2回ないし3回、マスターだと消費も重くなるけど確実に3回。ただしスキルを使った場合はTPもその回数分消費する。攻防両面で使える非常に強力なスキルだ。
   本来はガンナーでしか習得できないスキルだし、前提は死ぬほど重いんだが…」
藍「(wiki見てる)それを簡単にカスタマイズできる可能性があるのが今回のグリモアシステムってわけだね」
諏訪子「……てゐのセリフじゃねえけど対応早過ぎるだろお前。
   まあいいや、パルスィの場合は競合しない力溜めと併用してるけど、大回復したい場合の力溜めドレインバイト、異常のチャンス増やすアクト異常剣を使い分けする感じだね。
   こいつお陰ですっげえ器用に動けるようになった気がするな、特にアクト切断咬が巧く決まれば広範囲に大ダメージ入れてさらにテラーもぶちこめる」
藍「それをええと…メリーの命ずスキルと併用するわけだね?」
諏訪子「そゆことだな。
   ただTP消費もクッソ重いからうまくリチャージが乗ってくれるといいわけだが」


諏訪子「さて攻略なんだが、まあ戦略もクソもない。
   つぐみはひたすらチャージサンダー、キバガミは上段からツバメ返し、パルスィは力溜めドレイン、ヤマメは聖なる守護を張りつつキバガミ達に雷劇をかける。メリーは力祓い・軟身をばらまく。
   誰かの準備が整ったらアイテムを適宜増やして、メリーから回復役を投げると言った具合だ」
藍「開幕の頭縛りは?」
諏訪子「運良く後衛とヤマメが免れたというか、その時点でほとんど不発に近いな。
   キバガミは頭封じられててもそんな痛くないし、パルスィの封じを解除したらさっき言ったような感じでひたすら殴った。
   ツバメと力溜めドレインで大体1200くらい削れるし、あとはヒーラーボール呼ばれたら一匹だけ潰して回復量以上のダメージを入れて終わり。ハリケーンパンチもまあバフデバフ重なってたから問題なくやり過ごした」
藍「強化されてたんじゃなかったのか…?」
諏訪子「まあ適正の装備なら話は別だったかもしれないがなあ…まあそんなこんなであっさり第二階層も突破したわけだ。
   どうせかごめもいなくなったことだし、なんか悪さしだすとすればこの辺りからの気がするなあ」








「もし君たちが、それでも先へ進もうというのなら…飛竜の巣の奥にある抜け道から先へ進むことができる。
迷路の如くに上下する密林を抜ければ、千年蒼樹海の入口までたどり着けよう。
…以前はそこにケルヌンノスという強大な力を持った魔物がいたが、それも討ち果たされて久しい。
故に蒼樹海へは難なくたどり着けるはずだ。そうしたら、君たちには新たなミッションを受けてもらうことになるだろう」

オレルスの言葉を受け、つぐみ達は上下左右複雑に入り組んだ密林を彷徨い、やがてその地へとたどり着いた。
恐らく、その門の向こうには彼が言う「千年蒼樹海」へ続く道が延びているのだろう。

だが…訪れる者を拒むかのように閉ざされた門。
その向こうからは幽かな血と獣の匂いと…肉の焦げたような嫌な匂いが漂っているが、そればかりではない。

その門の向こう側から、凄まじいプレッシャーが伝わってくる。

この階層に入って間もなく感じたのは、これまでとはうって変わっての静寂。
時折、何かに中てられ迷いだしてきた魔物ともさしたる戦闘はなく、時間はかかったがつぐみ達は比較的容易にそこまでたどり着く事が出来た。


故に、彼女らはそれを予感せざるを得なかった。
その扉の向こうに、想像を絶する力を持った何者かが居る事を。



「なんでえ…あの兄ちゃんも人が悪いな。
この先にいたケルヌンノスとか言う奴は、もう倒されてるんじゃなかったんだっけ?」

ヤマメは勤めて軽い調子でそう言い放つ。
だが…彼女もそれが如何に場違いな発言であるかは解っているだろう…その表情は引きつっている。
その恐ろしい気配と重圧に、ともすれば気を喪いそうなくらい蒼い顔で震えているメリーを支えるつぐみの表情も堅い。

キバガミは意を決し、すぐに刀を抜き放てるような体勢を取りつつ扉に力を込める。

「…何者が待ち受けて居ようが、拙者達にはここで立ち止まっている選択肢などないはず。
往くぞ、皆、油断するなよ」

少女達の答えを待たず、キバガミはゆっくりと扉を開く…。





そこには、巨大なシルエットがそびえ立っているのがまず目に飛び込んでくる。
目を凝らせば、鬱蒼と茂る緑の木々に囲まれたその中心に、見たこともないような角のある巨獣の如き魔物が屹立している…恐らくはこれが、ケルヌンノスというその魔物であろう。

しかし、その様子は明らかにおかしい。
魔物は、今にも咆哮しそうな、天を仰ぐような体勢のままぴくりとも動かない。


そして、次の瞬間…!


魔物の身体は、左肩から右わき腹へ奔る鮮血の飛沫をあげながら真っ二つに両断され、その上半身は自身の血だまりへと沈む。
振りあげたれた右の腕は、必殺の拳を繰り出そうとしたのかそのまま堅く握られ、そのまま殴りかかってきそうな力を込めた状態でけいれんしていた。

茫然とその光景を見やるつぐみ達。


その魔物の陰には、人影。


肩口まで伸ばした黒い髪にも、その黒一色のローブの如き衣装にも、一切の返り血を浴びていない。
その特徴的な、黒の跳ね髪を僅かに揺らし、その人物が告げる。



「…随分遅かったな。
悪いが、一足先に行かせてもらう…この先に少し、野暮用があるんでね」
「そんな…どうして…!」

戦慄く様なつぐみの問いにも答えず、「彼女」はそのまま踵を返して先へと進んでいく。

「知りたいなら追ってきな。
あんたなら…あんたたちなら、この先へ行くこともできる筈だから」


駆けだそうとするつぐみを、キバガミは制する。
驚いたつぐみが声を上げようとするが、キバガミはその後ろ姿を睨めつけたまま、険しい表情で頭を振る。

「…追ってはならん、つぐみ。
今近づけば…例えお主が相手であろうが、あの怪物と同じようになるッ…!」
「そんな…そんなことっ…」
「………やりそうだな、今のアイツ。
なんで突然こんなところにノコノコ出てきたかとか、何考えてこの先行こうとしてるのかは解らねえが…この場は一度出直した方がよさそうだ。リリカ達にも伝えておいた方がいいかもしれねえ」

ヤマメの提案にキバガミも頷く。
つぐみはすっかり混乱し切った表情のまま、ふたりの顔を交互に見やっていたが…その光景にショックを受け、パルスィの腕の中で気を喪っているメリーの姿に我を取り戻し、悄然とした表情で頷くと、背嚢から取り出した糸を起動した。





ギルドハウスに戻ってきた彼女たちを、さらに意外な人物が待ち受けていた。

「ルーミア…お主も来ていたのか」
「うん。
私、かごめを探しに来たんだ
「なんだと…どういうことだ!?」
…かごめが、ほんの二日前に置手紙を残して居なくなっちゃったんだ。
樹海に行く、自分の心残りを探すから…ってだけ書いてあって。

…静葉さん達もアーモロードやタルシスを手分けして探しているんだけど…あと考えられるのは、ここだけしかないと思ったんだ。
今、リリカ達にも事情を話して樹海へ行ってもらってるんだけど、私はみんなにそれを伝えようと思って残ってたの」
「じゃあ、あれはやっぱり」

つぐみの視線にヤマメは頷く。

「間違いねえな。
あのケルヌンノスとかいうデカブツぶっ倒しただろうあいつは、かごめの野郎だ。
…しかし、どう考えても単独でどうにかできるようなレベルのシロモノじゃなかった気がするんだが…」
「多分自分の力に制限はかけていないんでしょうよ。
妬ましいけど、あいつの実力ならあの程度の魔物は相手にもならない筈…あの勇儀が本気で戦える数少ない相手の一人だからね」

そのとき、ソファーに横たえられていたメリーが目を覚ました。
ゆっくりと身体を起こそうとする彼女を、つぐみは支える。

「つぐみさん…?
わたし…いったい」
「…良かった、気がついたんだね。
あの魔物が真っ二つになった時に、気を喪ってたんだ…大丈夫、ここはギルドハウスだから」
「……あの黒髪の子は」

つぐみははっとして、一瞬目を背ける。

「…ものすごく若く見えるけど、ひょっとすると、私のお母さんだったみたい。
メリーにはまだ話してなかったよね。
私、事情があってお父さんはもういなくて…でも私のお母さん、デタラメなくらい強いから」
「なまえ…つぐみさんの、おかあさんの…」
「お母さん?
わたしのお母さんは、かごめ、って言う名前なんだ」

その時…メリーが発した言葉に、ヤマメははっきりと顔色を変えた。


「あの子は…「蓮子」じゃ…ないの…?」


そして…メリーはまぶたを閉じ、力なくソファーに崩れ落ちる。
一瞬動揺するつぐみだったが、その息使いから眠りに落ちた事を知り、溜息を吐いた。

「…無理もないか、丸一日以上迷宮を彷徨っていたのだからな」
「…だと…!?
こいつ、今…!!」
「ヤマメ殿?」

明らかに様子のおかしいヤマメに、キバガミは訝しげに問い返す。
ヤマメの脳裏にある記憶が過る。


-私…「椛」に何もしてやれなかった。
あの子はシオンの塔で、ロケット団に捕まりそうになった私の身代わりになって…!
だから…私もっともっと強くなりたい…これ以上「椛」のような子を作らせないために!
こんなところであんた達ごとき相手に立ち止まっているわけにはいかないのよおッ!!-



あいつの事を…「蓮子」だと…!?
何処をどうなったらそうなる…かごめの野郎にどんなつながりがあるってんだ…!」
「ヤマメ殿…どうしたと言うのだ、顔色が悪いぞ?」

キバガミに肩を揺すられ、ヤマメは我に返った様子だった。
「ごめん…私もちょっと休ませてもらう」と、そのまま彼の手を振りほどき、彼女が自分の部屋へ消えていくのをつぐみ達は眺めていることしかできずにいた。