メリーは夢を見ていた。
そこに、何時か見た金の髪を揺らす女性がいる。
-…本当に無茶をしてくれる。
意識はあなたの支配に任せているとはいえ、その「肉体」は私の物だというに-
窘めるような、困ったような笑い顔で彼女はいう。
どういうことなのだろう。
メリーがその疑問を投げかける前に、女性は告げる。
-あの天邪鬼がとんでもないことを仕出かしてくれたおかげで、あなたはあなた自身を見失い、私は本来の肉体を失う羽目になった。
けれど…それもようやく解決の目処が見えてきたところだわ。
…あとは、あなたが「あなた自身」を取り戻す事で、私達は元の姿に戻れる。
あなたには悪い事をしてしまった…これまでの旅路、さぞ辛いものだったでしょう-
「なにを…言ってるんですか…?
…それに、あなたは、だれ?
私の事を、知ってるの?」
-ええ。
ですが、あなたが自分を何者かであるかを取り戻せてない今では、そのすべてを受け入れることは難しいでしょう。
けれど…今ならそのきっかけを与えてあげることはできる-
視界がだんだん開けていく。
しかし、それはメリー自身の意識の覚醒とは別の物だとすぐに分かった。
破壊された街。
爆炎に焦げる空。
そして…巨大な力に吹き飛ばされていく、少女達。
その中には、見覚えある少女の姿もある。
-少しだけ、見せてあげるわ。
あなたが過去に体験したその出来事を。
…今のあなたであれば、受け止める事が出来る筈よ-
…
メリーがはっとして眼を開けたそこは、すっかり見慣れたギルドハウスの自室の天井。
だが…その景色は歪んでいた。
「どうして…どうしてこんな大切なことを…忘れていたの…!?」
メリー自身が流す、その涙で。
-新・狐尾幻想樹海紀行-
その14 「少女幻葬」
「メリーが居なくなった!?」
枯レ森で諏訪子と遭遇したその日。
ギルドハウスに戻ったつぐみは、血相を変えるローザからの報告に色を失った。
コロトラングルとの戦いの後、メリーを診察した医者の話では、軽傷ではないが幸いにも命に別条はなく、回復すれば樹海の探索も可能になるということだった。一週間を過ぎる頃には、日常動きまわる分には支障のないところまで回復していたメリーであったが、それでもまだなお無意識に尾撃を受けた辺りを庇う仕草が見られ、まだ安静を命じられていたはずであった。
彼女の性格的には、衝動的にこのような行動に出るタイプではないと思っていただけに、つぐみ達も混乱が隠せない。
「正直…オースティン様は部屋に閉じこもりきりで、アテにはなりませんし…。
今朝、御様子を窺いに行った時には、まだお休みになっていたはずなんです。
…それが、ほんの一刻ほど前にお部屋に入った時には…!」
「そんな…!
…そうだ、まさかあの探偵を狙っているって言う、バラデュールとか言う奴が!」
「その心配はないだろう。
ここ数日の調査で、奴の居場所の目星は付いている。
…どういうわけかは知らないが、最近奴は随分大人しいようだ」
そこへ、件のオースティンが姿を見せる。
どうやら何日もろくに睡眠をとっていないだろう事が、その眼の下の隈からもうかがえた。
余りにも飄々と落ちつき払ったその態度に、パルスィは俄に頭に血が上って来たと見え、オースティンに食ってかかった。
「何よ、居候の分際でその落ち着き払った態度は! 本当に妬ましいわね!
大体にして人間のクセになんで夜も眠らず、四六時中部屋に閉じこもってこそこそとなんかしてやがるのよ!
たまに部屋から出てきたと思えば樹海から素材を取ってこいとか…あんた何様よ!?」
「そんなに大声を出さないでくれたまえ…恐らく彼女は、遠くへはいってないだろうさ。
…だが、少し気になるところはあった。
うまくは言えないが…まるで、何かに呼ばれるかのような、そんな雰囲気ではあったな」
「見てらしたんですか!?
でしたらどうして」
パルスィをなだめようとしていたローザまでもが、呆れたようにそう抗議する。
オースティンは何処か真剣な表情で、溜息を吐く。
「…あまり、こうした非論理的な事はいいたくないが…彼女を止めてはならないと思ったのだよ。
仮に樹海へ行ったのであれば、時間的にも君らが今から追いかければ十分に、間に合う距離だと思う。
…むしろ、今樹海から君たちが戻ってきたのであれば、きっとすれ違ってるだろうと思ったのだが…」
「余計に探しようないじゃない! 探偵の洞察力とやらも当てにならないわねまったく!
…ローザ、リリカ達が戻ったら事情を話して! 私達は手分けして探しましょう!」
言うや否や、パルスィは周囲の返事も待たずギルドハウスを飛び出していく。
「彼女の言う通りだな。
まだ、安静にしておらねばならぬというに…」
「私達も行こう!
早く探さないと」
キバガミとつぐみもその後に続いて出ようとするが、それをオースティンが呼びとめた。
「待ちたまえ。
彼女は大分頭に血がのぼっている故、話をしても難しいと思ったが…君らには話しておいてもいいだろう。
…実は、彼女とすれ違った時、うわ言みたいに呟いていたのだ…あの場所に行かないと、と。
彼女は、記憶を失っていると言ったな?」
つぐみは頷く。
「彼女の頬に、幽かに涙の痕があった気がする…それが、気にかかる。
僕の推測だが、彼女はきっと、何かを思い出したのかもしれない。
彼女が何か強い感情を呼び起こされた事が、この数日間にあったとすれば…それに関わる場所に行っている可能性もある。
僕が言えるのは、ここまでだ」
「強い感情を…あっ!」
つぐみは思い出した。
メリーが、不可解な言葉を発したその場所を。
キバガミもその事を思い出す。
「蒼樹海のアリの巣か!」
「急ごう!」
二人もまたギルドハウスを飛び出していった。
…
~千年ノ蒼樹海~
街を駆けずり回るパルスィを呼びとめ、つぐみ達三人はその場所までやってきた。
「女王」が駆除されて数週間、そのフロアに危険な魔物の気配はない。時折、樹材を斬りだしに来たと思しき作業者の一団を見かける程度のその奥に…果たして、その少女はいた。
「メリー…どうしてこんな所に!
まだ安静にしてなきゃ…」
「思い出せたの…全部」
「えっ?」
振り返ったその瞳から、涙が零れ落ちる。
「やっと…やっと私はすべてを思い出せた。
私は…今の私は、「メリー」であって、「メリー」ではないの」
「何を、言ってるの…?
まるで意味がわからないわ、ちゃんと説明しなさいよ!
…ううん、今はもうだいぶ魔物も追い払われたけど…それでも全く危険じゃない場所ではないわ、すぐにエトリアへ」
「来ないで!」
近寄って手を取ろうとするパルスィに、メリーははっきりと拒絶の意思を示した。
「わたし、わたし…こんなこと思い出さなきゃよかった…!
わたしは…今こうして話している「わたし」は…今ここにいる「私自身」じゃないの…!
「マエリベリー・ハーン」という存在の記憶が…「八雲紫」という存在の肉体に宿っているだけの、仮初の存在なの…!!」
♪BGM 「憂愁 それぞれの想い」♪
「どういう…ことなの」
所在なく伸ばされた手をゆっくりと下ろし…パルスィは戦慄くようにそう問いかける。
メリーはゆっくりと話し始める。
「あなた達がこの世界に旅立ってすぐ後、幻想郷にはひとつの異変が起きた。
空に巨大な城が現れ…それまで、大人しくしていた妖怪…特に付喪神達が急に凶暴化したの。
幻想郷にある、魔力を持った器物まで勝手に動き出して…それは、「打ち出の小槌」という呪器によって引き起こされた異変だった」
「打ち出の小槌だと?」
「それって…確か一寸法師の童話に出てきた、鬼の持つ魔法の鎚だよね?
鬼を追い払った法師はそれで、身体を普通の人間と同じくらいまで大きくして…鬼にさらわれそうになっていた貴族の娘と結婚したっていう」
メリーは頷く。
「けれど、元々は鬼が使っていた魔性の道具。
法師はそれ以上を望まなかったけど、それは、彼がこの小槌を乱用することで、災いが起きる事を知っていたからよ。
…その鬼が、小槌の呪いに侵された同じ小人だと知っていたから。
彼は、取り戻された小槌を再び、一族の元へ戻し…固く封印した。でも」
「その封印を…解かせた者がいる、と?」
「ええ。
そいつは…今幻想郷に起こりつつある「変革」を嫌い、力を持って幻想郷支配を目論見、祖先の伝承を忘れつつあった小人を騙し…小槌の力で、決して手にしてはいけない禁断の力を得てしまった。
そいつの力の影響で、それまで大人しくしていた妖怪たちは凶暴化し…それどころじゃない、そいつの持つ「ありとあらゆる概念を逆転させる」という能力で、幻想郷でも力のある存在が悉く力を喪ってしまった。
八雲紫はその為に肉体を喪ってしまったの。その為に幻想郷のパワーバランスは完全に崩壊してしまった」
「で、では幻想郷はどうなってしまうのだ!?
幻想郷に戻っているヤマメ殿もどうなった!」
眼を伏せるメリー。
「私も…詳しい事は知らない。
私は、精神を喪った「八雲紫の肉体」が、もっとも近しい存在の魂からその記憶を複製して作った…いわば式神。
肉体に秘められた強大な妖力を暴走させないため、仮初のプログラムとして生まれたの。
この肉体を殺さない為…だから…「紫の精神」がこの肉体に繋ぎとめられれば、消えてしまうわ」
「ふざけないでよ!
それだったら…それだったら何故あんたは、その身を投げ出して私を助けてくれたのよ!
「大切な仲間だから守った」って、それだけの理由だけでその身を投げ出したことも…なんでなのよ、答えなさいよ!!」
パルスィの絶叫に、メリーは悲痛な表情で唇をかむ。
「それだけじゃないよ!
メリー…狼と戦った時も、私達を必死に守ろうとして…!
それも…あなたという「式神」にプログラムされていた…決められた行動なの…?」
つぐみの言葉にもメリーは応えない。
「答えられるわきゃねえだろ。
紫の野郎は、生命維持の最低限の部分だけしかプログラムしてねえんだからな」
聞き覚えのある声がそこに響く。
ゆっくりと歩み寄ってくるその影に、三人は言葉を喪った。
あの日、「女王」に噛み切られたその腕は、あるべき場所に戻っていたが…それは紛れもなく、ヤマメだった。
「ったくよ、永遠亭ももぬけの殻だった時は正直どうしようかと思ったけどな。
赤河童(みとり)の野郎が河童の秘薬を持ってたおかげで、まあどうにかなったけどさ」
「ヤマメ…!」
茫然とつぶやくパルスィに「よお」と軽い調子で手を挙げるヤマメ。
そして、その傍らでメリーに向き直る。
「さとりの奴が全部知ってたよ。
この「メリー」は…いまアリスと一緒にいる「メリー」の精神とリンクしてるらしいんだ。
…あの子も…大昔に「紫が作った世界」にいた、「紫の力の一部から生まれた存在」だからな…だから、あの肉体に宿らせる式神(プログラム)のベースとしてはこの上なく相性がいい。
だが、この「メリー」は「八雲紫」とは違う…メリーがパルスィやつぐみを守ったのなら、それは「メリーの心」がそうさせたんだ。
メリー自身が私達を大切な仲間と思っていてくれた何よりの証拠なんだよ」
ヤマメはそっと、メリーの目の前まで歩いていき…その体を抱きしめる。
「…なあ、あんた…本当にこれで消えちまうのかよ…?
あんたが自分自身を理解した時…それは、あんたに遺されたタイムリミットが限界に近付いている証拠だって…」
「そん、な」
その残酷な事実に、パルスィも戦慄くように呟いて、手を伸ばす。
メリーの瞳から再び涙があふれ出す。
「…ごめん、なさい…。
私も少しずつ、解ってきたの…「紫(わたし)」が、あなた達に何をしたのか。
あんなひどいことして…そしてまたこうやってみんなを騙したようになって…許してなんかくれないよね…。
でも、でも、「私」は…!」
「もういい、もういいのよ、メリー。
あなたがどうやって生み出されたかなんて、関係ない。
だから…消えちゃダメ…もっと一緒に、せめて最後まで一緒にこの旅をやり遂げましょうよ…ねえ!」
メリーはふるふると首を振る。
「わたしも…最後まで一緒に行ってみたかった。
でも、私はここまでみたい。
…たのしかった…みんなと、いっしょにいれて…」
「メリー!」
つぐみはその手をしっかりと握りしめる。
「…わたしは…わたしのめざすものは、さきにてにいれちゃった。
わたしはこれでいなくなるけど…でも…わたしはずっと…!」
その姿がまばゆい光に包まれる。
つぐみは、涙でゆがむ視界の中で…最後に彼女が笑ったような…そんな気がしていた。
そして…光が少しづつ収まっていく。
♪BGM 「情景 青と白」♪
「…感謝するわ、メリー。
あなたはただ「私の存在を保つ」以上の事を…この地で成してくれたのね」
姿を現したのは…つぐみも、ヤマメも、パルスィもよく知る、郷の大賢。
その瞳は何処までも哀しげで。
「今更、何をというかもしれない。
私はあなた達に恨まれても仕方のない事を過去にしてきた事は覆せない事実。
そして…今また目の前で、あなた達の大切な仲間を殺してしまったも同然。
…抵抗はしない…それであなた達の気が済むのであれば、この場で私を殺せばいい」
ヤマメもパルスィも答えずにいる。
そこに、悲痛な表情でメリーの「最期」を看取り、黙祷のように眼を伏せていたキバガミが、歩み寄ってくる。
「…それより、お主自身の言葉を聞かせて欲しい。
お主は…いかにしたいのだ?
さとり殿はいっていた。お主は心より幻想郷を…その地に住まうすべての物を愛している、と」
「その想いに、偽りはないわ。
もし私に猶予が赦されるなら…この地にまで波及した、小槌の呪いを消し…幻想郷を守りたい。
私達の生きていくその地を」
「それは…お主の理想とする地としてか?
お主の理想にそぐわぬ者を、全て排除するという意味でか?」
紫は頭をふる。
「いいえ。
私は…私の目指したかの地は…ありとあらゆることを残酷なまでに受け入れる場所でなくてはならない。
それは…私自身にとっても同じこと。
様々な者が、様々な想いを持って自由に生きて行ける場所を…それを阻む者を、私は赦しておけない。それだけよ」
「だからあんたは、胡散臭いって言われるのよ」
それまで沈黙を守っていたパルスィがそうつぶやく。
その表情は…深い悲しみをじっと耐えながら、それでもなお、目の前の存在に対する怒りに満ちていた。
「何故…あんたはそうやって私達を避けようとする!
そんなに私達に本当の気持ちを…「弱み」を見せるのがそんなに怖いの!?
…あんたは、幻想郷に生きる者すべてを愛するとは嘯いているけど、それを誰が信用するって言うの!?」
「解っているわ。
私は、言葉に多くのノイズを含ませることしかできなかったから。
でも」
「そんな事を聞いてるんじゃない!
あんた本当は、何をどうしたいのよ! あんた自身は、一体何処に居場所を求めてるのよ!?
笑止千万とはこのことね…あんたは常に上から、「幻想郷」という箱庭の中を見下ろしているだけ…それで、そのすべてを愛しているとは笑わせてくれるわ!」
憤然と剣を抜き放つパルスィ。
「だったら殺してやる、あんたの望み通りに!!」
「待って!!」
それまで沈黙を守っていたつぐみが、ふたりの間に…紫を庇うように割って入った。
「どきなさいつぐみ!そいつを殺せないわ!」
「だめだよ!
どうして…どうしてそんなに、みんな紫さんの事を嫌うの!?」
「そいつは…私達「地霊」を、手に負えないという理由だけで暗い地の底へ封じ込めたのよ。
あなたは知らないでしょうけど、幻想郷とは、そいつが集めた妖怪たちの力を純化させるための箱庭として定められた地。
集めたはいいが、私達の様に危険過ぎると判断された者達は、まるでその存在をなかったかのようにして一か所に集められ、隔離されたのよ!
「愛する幻想郷」に災いを成さないように…その結果が何を招いたか知ってる!?」
そして、吐き捨てるように続ける。
「無意識狂気異変…月の魔力に狂わされた古明地こいしが、地上も地底もお構いなしに狂気を振り撒き、皆が無差別に殺し合いを始めたわ。
…もし、これを解決したのが博麗の巫女…そのスキマ様の手下であれば、私達地霊はその責任を負わされ、今頃皆物言わぬ怨霊となって、都合よく始末されていたでしょうね!
あなたの母さん…かごめが、異変を食い止めてくれて…私達の存在を認めてくれたおかげで、私達はこうやって生きながらえる事が出来たのよ!」
紫は無言で眼を伏せる。
「そして…こいつの私達に対する見方が全く変わってないのは…さっきの受け答えではっきりしたわ。
私達に対して「死」ということでしか…自分がさっさといなくなるということで全てに手を打てと言ってるのも一緒よ。
こっちはその破格の条件を飲んでやろうってだけ。解ったらどきなさい! 私は…あなたを殺したくはないッ…!」
「そんなの…そんなのおかしいよ…!
どうしてそれで、簡単にそういう結論にしちゃうの…?
もっともっと、簡単に解り合えることだってできる筈だよ…メリーが最後にそうしてくれたように!」
そして、つぐみは紫の方へ向き直る。
今にも溢れだしそうな涙眼のまま、つぐみはキッと、怒ったような表情で言い放つ。
「ごめんなさい、って一言素直に謝ればいいじゃない!
本当は、あなた自身が一番そうしたいんでしょ!?
どうして「それで気が済むなら殺せ」なんてそんな事が言えるの!? そんなの絶対おかしいよ!!」
♪BGM 「たったひとつの願い」/伊藤賢治♪
暫くの間、言葉なく見つめ合う二人。
つぐみは、重ねて諭すように告げる。
「お母さんだって…きっと、そう言うよ。
…何時も言ってたんだ…紫はいい奴だけど、回りくどい、言わなくてもいいようなことしか言わないからダメなんだって。
だから」
「…ううん、多分それだけだと少し違うわ。
かごめなら…その前にきっと、平手の一発でも飛んでくると思う。
でも…確かにあなたの言う通りだわ」
紫はつぐみの手を握り返す。
そして…剣を構えたままのパルスィの前までゆっくり歩み出ると…深々と頭を下げた。
「今までの事…本当にごめんなさい。
…そして…あの子が…メリーがそう願ったように…私もこの旅に連れて行って欲しい…!」
しばしの沈黙を挟んで、やがてパルスィはヤマメに促されるまま、剣を鞘へ収めた。
納刀の鍔鳴りの音に、顔を上げる紫の瞳からも、とめどなく涙が溢れている。
「…つぐみと…メリーに免じて、この場では私も引きさがってあげるわ。
だけど…私はまだあんたを完全に許したわけじゃない…それだけは覚えておいて頂戴」
憤然と踵を返すパルスィに、つぐみが何か言おうとしたのをヤマメが制する。
「いいんだ、あいつだって解ってる。
あいつだって同じくらい素直じゃねえってのにさ、ったく」
「ヤマメ殿、お主は良いのか?
お主とて、地底に追いやられた妖怪の一人なのだろう?」
「はっ、生憎あたしゃ楽天家なもんでね。
そりゃあ確かに最初の頃はムカついてもいたが、何百年も鬼や他の連中と殴り合いでもしながらやってるうちに、まあそこを居場所にしてもいいやって思えて来てさ」
それに、と振り返る。
「さとりの野郎が、真っ先にその賢者様を許しちまってるんだ。
異変の責任ってんで、ただ一人血を分けた妹殺されそうになった奴がだよ?
そしたらさ、なんかどうでもよくなってきちゃってさ。
だけど」
ヤマメは紫の目の前に、指を突きつけて宣言する。
「もしあんたが、つぐみやメリーの気持ちまで踏みにじる様な真似しやがった時は、そんときは赦さねえからな。
楽に殺しはしない…いくら境界をいじくろうが、お構いなしにじわじわと死に至る様なとびきりの病毒を見舞ってやる。
…もっとも、それより前にかごめに叩き斬られてるかもしれねえがな」
「肝に銘じておくわ」
頷く紫に、ならばよし、と何処かで聞いた様な言葉で頷くヤマメ。
「よっし、じゃあこれから酒場にでも行こうや。
何時までも辛気臭い顔してたら、メリーだって浮かばれないよ。つーか私の快気祝いだ」
「まったく…お主という奴は。
余り無茶はするなよ?」
ヤマメはそれに応えるより早く、先に歩くパルスィの方へと駆けだしていく。
ひとつの別れを乗り越え、つぐみたちは新たな仲間を加えて新たな迷宮へと望む。
その先に待つモノは、果たして。
…
…
藍「(フレーメン反応中)」
静葉「あら、永遠亭の蓬莱ニートがうんざりした顔で「ちょっとモンハン発売近いしイャンクック先生ところでおさらいしてくる」とか言って出てったと思ったら…」
藍「(はっ)い、いかんいかんクサさが規定値を超えてたせいで一瞬意識が飛んでしまった…。
しかしなんだこりゃ、いったいどこがどう攻略に絡むんだこれ」
静葉「むしろ何処に攻略要素があるのよ。
これからイワォロペネレプに挑むって言うんで、パーティ入れ替えるってだけのことじゃない?
まあ詳しい内容は前回触れたとおりね」
藍「そして何事もなかったかのように混ざってくるなと」
静葉「気にしたら負けじゃないかしら。
まあ全く攻略に絡んでないわけでもないわ。実は、メリーを何処かで紫に入れ替える案は最初からあったみたいよ」
藍「えっ」
静葉「前回の引きだと普通に紫なんて絡まないと思うでしょうけど、まったくそんな事はなかったわ。
因みに紫はこんな感じね」
藍「∑( ̄□ ̄;)うわあああああああああああ似合わねえええええええええええBBA自重しろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
静葉「…あんた本当にひどいわね。
一見何の変哲もないメディックだけど…まあよくもここまで凶悪なモノを取りに行ったものだわ。
アーチドロワーはコロトラングルの条件ドロップから作れる最強弓で、TECも上昇するから後衛のメディックがたまに殴る武器としてはうってつけかしら。
ルーミアが頑張って高レベルのエイミングフット取ったから手持無沙汰にはなりにくいでしょう」
藍「後列からも普通に殴れるとか汚いな流石スキマきたない。
いざとなったら浮いたSPでATKブーストも振れるから、実はメディックは万能選手なんだなこのゲーム」
静葉「無印ではやたら高いATKブーストの補正率と凶悪な威力があったヘヴィスト、そしてあいまいな説明分ではわかりづらいけど実は物理・属性両方の防御力をアップさせる医術防御と、本気で隙がなかったからね。
正直メディックとレンジャーだけでパーティ組んでも普通にサクサク進めるくらい強かったらしいわ。まあ属性攻撃ないからオイル必須だろうけど」
藍「まさかそんなトンチキな事やりだすんじゃないだろうなこのスキマ様は…?」
静葉「ううん、なんというか腹立つくらい、テンプレートなメディックになってるわね。
写真時点ではまだマスタリー分の1振りだけど、そのうち必要になるし医術防御のためにバインドリカバリとリフレッシュを伸ばす方向で行くようね。
あと、新だと流石に医術防御は属性のみ、ヘヴィストも威力は抑えめ、ATKブーストの補正率も修正加わってるけど…それでもヘヴィストは十分強いし各種状態異常薬の追加、状態異常の付与が従来のLUC依存じゃなくてTEC依存になったこともあって、メディックはだいぶ器用に立ち回れるようになってるわね。
グリモアの自由度が加われば、作品群最強チートの八雲紫には実はうってつけのクラスじゃないかしら」
藍「ぬ…うーん、確かにそう言われればそうかも知れんが」
静葉「一応、次ログでも解説は入るけど、こいつは普通に現在のレベルキャップの70まで上げて引退ボーナス取ってるわよ。
大半は60引退だけど、こいつとか、ここで再登場したヤマメとかのように一部は70まで上げた奴もいるわ」
藍「…確かに、なんだかんだでここに出てきた中では一番トンチキな能力を持ってらっしゃるからな。
というか、土蜘蛛もなのか」
静葉「バードは新規に追加された禁忌の輪舞曲が極悪スキルなんだけど、これの前提条件が鬼のように重いのよ。
その上でホーリーギフトとか全振りしに行ってるし、SPなんてこいついくらあっても正直足りないけどね。
…まあそれとは別に最近メリー関係でYAMAME株が異常高騰している約2名が、躍起になってる関係なのかもしれないけど」
藍「何やってんだか…」
静葉「今回はここでとりあえず区切りね。
と言っても、次回もまだ本編には行かないわ。こいし回だけど…とりあえずこの件に絡んだシリアル()な展開になるみたい。
これまで触れなかったあの連中のスキル解説も絡んでくるわね」
藍「もうこいし回と聞くだけで余りい予感はしないんだが、今回は真面目な話なのか」
静葉「まあそのうち私もあなたも向こうへ行くことになるんじゃないかしらね。
私はともかくとして、あなたは合致するグラフィックがあるかどうか怪しい所だけど…」
藍「∑( ̄□ ̄;)えちょ待て」
静葉「それじゃあまた次回(キリッ」