目的を改めて確認し、つぐみ達はさらに迷宮の奥を目指す。
リリカ達もまた、来るべき時のために力を取り戻すべく、別行動で迷宮の別の道を取っていた。
パルスィの態度は相変わらずだったが…それでも大きなトラブルも起きず、枯レ森の探索を続けるうちに、その大空洞の区画で再びモリビトの少女・シララと遭遇した。
「お前達は何ゆえにこの樹海の奥を目指す。
最早、謎が解かれたこの樹海に、お前達冒険者がこれ以上踏み込む理由などないはず。
それに…お前達は、人間ではないな」
初めて遭遇した時のように抑揚のない語調。
まるで、全てを見透かすかのような紅い瞳に、険しい表情のまま頷くつぐみが写し込まれる。
「だったら、私達の質問にも応えてよ。
あなたは…リッキィの事を知ってるんでしょ?
それに、リッキィは…あなたはもう消えてしまったと言っていた」
シララはじっと目を閉じる。
その態度にまたしても沸点に達しようとしていたパルスィをヤマメが制するその先で、やがて何かを悟ったかのように目の前の少女は語りだした。
「我が目覚めたとき、我らの神の言葉を聞いた。
望まぬ復活を遂げる我を眠りへ誘う者を導け、とな」
「どういうこと…?」
「この大地を浄化し、大地に戻る筈であった我らが神を、祟りなす災厄としてこの地へ戻そうとする力が働いている。
それは、幾星霜を隔てた遠き世界より、邪悪な意思と共に伝わってきた。
その地で神は、大いなる大地として生まれ変わる筈であったのを…妨げられたのだ。
…故に、モリビトの巫女たる我もまた再びこの地へ戻ってきた」
見開かれた目は、悲しみに満ちていた。
「貴様等は、それを託すに足る者か否か…見極めねばならない。
守護者コロトラングルを制した貴様等の力、その真なるところを。
…その覚悟があるのであれば…この先の迷路が森を超え、金色鳥の聖域まで来るがいい。
かつて…我らに全ての正義を示して見せたリッキィ達のように」
-新・狐尾幻想樹海紀行-
その16 「決戦! 枯レ森(前)」
かごめ「一足お先に遺都からこんばんわ、いつものかごめさんです。
いよいよ物語も終盤に差し掛かりまして、恐らくは最大の難関かもしれない第四層ボス攻略のお時間がやってまいりました」
諏訪子「しかしよお、イワォってゲーム中でも「イワオロペネレプ」と「イワォロペネレプ」の両方の表記があるんだよな。
一体どっちが正しいんだよ本当に」
かごめ「アイヌ語はなんとなくイントネーション的に小文字の「ォ」とか結構使うんで、こっちは雰囲気出す感じでそれで通しておるがね。
まあ、発音にもよるが同じ言葉でも人によって違いもあるし。
有名なのは昔、沖縄出身の女性デュオも使っていた「キロロ」(射命丸メモ:アイヌ語で「強きもの」の意味です。ある漫画に登場した、神様の一部である子狐「キロル」も実はこれと同じ言葉です。マイナー過ぎて知ってる人いるのかっていう漫画のネタですが)も、あくまで同じ言葉の一つの読み方に過ぎないし」
諏訪子「アイヌ伝承は基本が口伝だからな。
シララも、実在したと言われるアイヌのある酋長の娘として口伝に登場するとか聞いた事あるな」
かごめ「因みにだが「シララ」はアイヌ語で「岩」の意味だ。
アイヌと言えば、手塚治虫が「シュマリ」でも色々書いていたが、アイヌで子供の事が確かえーと」
諏訪子「思い出さんでよろしい、というか気になる奴はggってくれってところだそれは。
さっさとイワォの解説しちまうぞ」
第四階層ボス イワォロペネレプ
HP14400 氷弱点/炎・雷耐性
サンダーウイング(腕) 命中率やがやや低い全体遠隔雷属性攻撃、麻痺を付与
フェザースピア(腕) ランダム突属性攻撃(3〜7HIT?)、ただし命中率がかなり低い
デスブリンガー(頭) 拡散壊属性攻撃、石化を付与
カオスブリンガー(頭) 拡散壊属性攻撃、混乱を付与
鷲づかみ(脚) 単体斬属性攻撃、腕封じを付与
ウインドプレス(腕) 全体無属性小ダメージ、スタン付与、5ターンの間回避率ダウン
かごめ「とまあこれまで散々煽っては来たが、実はイワォはそこまで飛びぬけて強いボスじゃない。
無印に比べて5000ほどHPが高くはなっているが、弱点も変わっていないし、なおかつSQ4だと凶悪な威力と追加効果で初見ボウケンシャーを恐怖のズンドコにたたき落としたサンダーウイングが命中不安技と来てやがる。
もっとも当たれば痛いし、適正レベル以下だったら生き残ってもほぼ確定でマヒる。麻痺ったらどうなるかなんて今更言うこともないが」
諏訪子「フェザースピアもアレだろ、守護者(笑)で御馴染のフレースベルグのそれをさらに弱体化したような技になってるしな。
まあ、貴婦人に乱入された場合はいうに及ばずだが…」
かごめ「ストーリーですら混乱の歌声からのサンダーウイングで初見見事にhageたわ(しろめ」
諏訪子「アホですな(迫真
あと注意すべきはSQ4でも使った二種類のブリンガーだな。これひょっとしてくちばしなのかと思ったけど、壊属性って事はまさか頭突きとか言わねえだろうな…」
かごめ「気にしても仕方ない所だと思うがなあ。
面倒なのは、HPが半分を切ったあたりから使い始めるウインドプレスだな。
一見、スノーウルフのバインドハウルっぽくも見えるが…厄介なのはわりと効果時間が長めの命中ダウンの方だ。
これを使われるとサンダーウイングはほぼ確実に命中、フェザースピアも精度がぐっと上がって一気に危険技に早変わり」
諏訪子「地味にスタン成功率もかなり高いらしいんだよな。
一見、ソニックブームを連想させるんだが…」
かごめ「音速ソニックは本気で止めて欲しい凶悪攻撃だったなあ(しろめ
もっともあのサンダーウイングはもうなんというか滅茶苦茶だから」
諏訪子「実はサンダーウイング、フェザースピア、ウインドプレスはグリモア化できるんだよな。
サンダーブレスまで待つ気になれば命中難のサンダーウイングはいらんとは思うが…」
かごめ「Lv10大雷嵐を素直に使うって話だなその辺り。
ウインドプレスはダメージより命中難技のサポートとしては使えるが…レンジャーやバードがいればぶっちゃけいらないような気がしなくもないな」
諏訪子「何とも微妙なイワォであるが…今回の隠し玉「七王グリモア」のこいつのは、本気でぶっ壊れスキルだからな。
アザステレベル10全員付与とかばかなのしぬの」
かごめ「七王はもう手に入らないものと割り切って半分諦めてるから、これまで言及は避けてたんだけどな。
階層ボスと特定のクエボスを倒したとき、超低確率で普通のグリモアとは異なる特殊なグリモアが入手できるが…それが、七王グリモアと呼ばれるものだな。
名前通り狼王(スノードリフト)、森王(ケルヌンノス)、女王(クイーンアント)、海王(コロトラングル)、鳥王(イワォロペネレプ)、毒王、華王の七種類あって、いずれもこれでしか取得できない特殊スキルだ。
特に狼王の「群狼の襲撃」はエキスパートセル速攻撃破のお供と言える超優良スキルだな」
諏訪子「毒王はともかく、華王はなんとなく予想つく人もいるだろうからぶっちゃけるけど、アルルーナだね。
毒は…」
かごめ「実はこのすぐ後くらいにつぐみ達がそいつと一戦交える予定なのでちょっと伏せてもらおうか。
レベル的には実はそのくらいのレベルで挑めなくもないって程度の相手だが」
諏訪子「えっ挑んだんですかこの段階で」
かごめ「うんまあ…結構おもしろかったしその時まで話は伏せようか。
イワォの実際の攻略がどうだったかの前に、この時点での連中のスキルだな。
一応ヤマメ、紫が70の引退、あとはつぐみが60で転職、残り60で引退でボーナスついてる」
諏訪子「マジでなんでそこまでやった(呆」
キバガミ(Lv47ブシドー)
刀マスタリー★ ATKブースト★ HPブースト4
踏み袈裟7 阿吽の尾撃1 上段の構え1 青眼の構え1 居合の構え★ 無双の構え★
首討ち5 息吹1
採掘1
グリモアスキル
上段の構え★ 力溜め8 卸し焔9 抜刀氷雪9 憤怒の力★ 刀マスタリー★ 血の暴走5
つぐみ(Lv48メディック→ガンナー)
銃マスタリー★ ATKブースト5 HPブースト1
ドラッグバレット1 ヘッドスナイプ1 アームスナイプ1 レッグスナイプ1
フレイムショット1 アイスショット1 サンダーショット5 チャージサンダー5
チャージショット3 跳弾3 バルカンフォーム5 アクトブースト9
ウイークショット3 ペネトレイター3 リチャージ7
採取1
グリモアスキル
炎の渦★ しびれるキック8 定量分析9 銃マスタリー8 術式マスタリー8 TPブースト7 ハーベスト3
ヤマメ(Lv48バード)
歌マスタリー★ HPブースト3
猛き戦いの舞曲5 聖なる守護の舞曲5 韋駄天の舞曲1 慧眼の旋律1
火劇の序曲1 氷劇の序曲5 雷劇の序曲5 氷幕の幻想曲1 雷幕の幻想曲1
山彦の輪唱曲3 安らぎの子守歌3 癒しの子守歌5 沈静なる奇想曲5
警戒歩行1 キャンプ処置1 ホーリーギフト★
採取1
グリモアスキル
沈黙の爪★ 混乱の歌声★ 甘美な痺れ★ ドレインバイト4 カタストロフ★ ATKブースト9 剣マスタリー7
パルスィ(Lv47ダークハンター)
剣マスタリー★ ATKブースト★ HPブースト1
ヒュプノバイト1 ミラージュバイト1 ショックバイト1 ドレインバイト5 カタストロフ★
トラッピング8 憤怒の力★ ブーストアップ3
採取1
グリモアスキル
力溜め9 トルネード5 チェイスファイア7 チェイスフリーズ5 追撃の号令7 剣マスタリー6 安息の祈り4
紫(Lv48メディック)
回復マスタリー★ TPブースト★ HPブースト5
キュア5 エリアキュア3 リジェネレート3 ディレイヒール1 ヒーリング1
リザレクション1 リフレッシュ5 バインドリカバリ1 ポイズンドラッグ★
博識3 精神集中5 伐採1
グリモアスキル
炎の渦★ 森の結界8 エイミングフット7 アクトブースト8 アザーズステップ★ 回復マスタリー6 術式マスタリー★
かごめ「実はイワォに挑む直前どうしても避けられない戦闘がいくつかあって、ヤマメ以外はレベル上がっちゃったんだよね。
あと、グリモアスキルは無駄なのがふたつある」
諏訪子「パルスィの剣マスタリーと紫の回復マスタリーだな。
これ、実はどっちも重複しないんだよな。あとのマスタリーみんな重複するんだけど。
…っていうかパルスィの安息の祈りってなんだ、ネタか」
かごめ「狐野郎の中ではパルちゃんは結構母性の強い方だという説が何故かございましてな。
しっとの心は母心(キリッ」
諏訪子「ちげえだろが。
実際このあと時期に色々と構っちゃうんだけど、とりあえずイワォ戦はこんな装備なんだな。
しかしヤマメのグリモアは一体何なんだこれ」
かごめ「カタストロフで殴っておくと混乱の歌声や甘美な痺れの通りも良くなるでな。
まあ、これもイワォ戦では使わんな」
諏訪子「そういう辺りで面白いのはキバガミだな。
刀の上位スキルをグリモアに入れたんか、これ」
かごめ「でもやってるうちにだんだん血の暴走が邪魔になって来てなあ。
しびれるキック辺りはいったらそっち入れようかなってちょっと考えてはいるんだわ」
諏訪子「ブシドーはその意味ではなんというか気長な感じだしな。
むしろ、無双こそやってるヒマあるのかコレ?」
かごめ「多分ねえ気がするなあ…。
むしろこれだったら、いっそ尾撃メインでもいい気がしなくもないんだわ。
つぐみがバルカンフォームはるとまあ次のターンとんでもねえ事になってるわな」
諏訪子「追撃条件が通常攻撃だから追撃の号令とも相性はいいしな。
そういう意味では、このパーティは全体の連携メインでいいんじゃないのかな。
出来ればパルスィにもうちょい高レベルの追撃が欲しい所であるが…」
かごめ「考えてもいい気はするんだよねえその辺。
属性攻撃はヤマーメがどうにかしてくれるしとりあえず誰かしらがどれかの属性使えるし。紫はまあ回復役で」
諏訪子「致し方なし(迫真
しかしまあ、森の結界はまんまとしても何気に胡散臭い技が集まってるな。アザステはスキマ移動か」
かごめ「術式のマスター取ったのが何気にでかかったなあ本当に。
あとポイZUNドラッグ」
諏訪子「なんだそのアルコール度数の高そうな劇薬。
いざとなったら毒殺すんのかこいつ」
かごめ「重苦の呪言の高レベルが欲しいねえ(チラッチラッ」
諏訪子「こっちみんなコラ」
かごめ「さて、それでは具体的なイワォ攻略の話をしようか。
今回はちょっと面倒なので画像つきで解説だ。
先ず、先のログでも触れたFOE共とイワォの配置はこうなってる」
かごめ「イワォの他、コロちゃんやワイバーンもそうだが、一部ボスは配置が9マス分のでかいサイズになっている。
だから、FOEに発見された状態で戦闘してても、配置によってはイワォの乱入防ぐことは一応できるんよ。
ただし、足は速いから(一回に2マス分移動)戦闘を終えても回避不可能な状況も生まれなくはないが」
諏訪子「ただ、一度発見されると増援はそれ以上生まれないから、イワォの前にFOEを掃除してから戦闘に入ることもできなくはないんだよな。
その場合は実質連戦になるわけだが」
かごめ「まあ、流石にそれは適正レベルでもしんどいなんてレベルじゃないので先ずは極力、FOEを掃除した状態でかつ、バックアタックを狙うのがセオリーになる。
イワォは一定歩数ごとに反時計回りで向きを変えるので、後ろを向く直前にイワォの所に躍り出て、なおかつ後ろを向くタイミングで接触できるように歩数を調整してやる必要がある。
可能なルートは右のフォレストオーガのいる区画の側にある、くぼみに入って調整するルートがひとつ。もうひとつは、左のフォレストデビルの後ろをやり過ごし、禍乱の姫君を4体全部狩って曲がり角で調整するルートだ。
オーガのルートはうまく行けばFOEとの戦闘は避けられるが、戦闘を避ける難易度が半端じゃないから、こっちのルートを通る場合でもオーガを最低でも2体、出来れば全部狩った方が楽になる」
諏訪子「だがそれがまた面倒くさいんだよな、あいつらは位置で大体予想付くと思うけど、時計回りで巡回してるし」
かごめ「だから扉の前で歩数調整しながらオーガが手前まで来るの待って、バックアタックを狙うのが手っ取り早い。
あいつらは2歩進むごとに1歩移動する。バックと取ったら初手でバフをかけまくって、可能なら向こうにも軟身や森の結界などのデバフをつぎ込んで、可及的速やかに狩る。もたついて順回中の連中に見つかったら元も子もないしな、戦闘は4ターンでケリをつけたいところだ」
諏訪子「だったらその危険性の少ない姫君狩りの方が難易度自体は低いだろうな。
呪いにさえ注意すれば、苦戦する要素も少ないだろ」
かごめ「まあ今回はオーガを狩るルートを取ってみましたが、とりあえずオーガ三体くらい倒すと遮るものがほぼなくなるので、その隙に写真の区画に回り込むわけだ。
ここまでこぎつけたら、あとはイワォが余所見した瞬間にバックを狙う、それだけだ。
実はさっき触れなかったが、イワォは初手サンダーウイングが高確率で飛んでくるが、先手を取るとそうじゃないらしい。あと、サンダーウイングもHPが十分ある場合は連打してこないから、オーガ同様の手順でバフデバフで固めて弱点突きながら一気に攻める。
オースティンやローザの依頼で耐雷ミストをかき集めてるなら、どうせイワォは雷耐性だし惜しまず使うといい。パラディンに常にショックガードさせておくのも一つの手だが、鷲づかみとカオスブリンガーとTP切れには注意だな」
諏訪子「ミストの材料もレア採集の冬虫夏草だからな。
この階層のギルドキーパー依頼の報酬は高確率で三色ミストのどれかだし、貰ったらとっておくのも一手だな」
かごめ「今回はガードを使わないでミストと聖なる守護の舞曲でダメージを抑え、無双からの抜刀氷雪、定量分析からのアイスショットに追撃の号令からチェイスフリーズで一気にHPを削る戦法で行った。
ここまでスキルが整ってれば正直苦戦する要素は殆どなかったな。アリ以上に下準備が必要だが、それさえ出来てしまえば一度B18Fで回復してから来てもいいわけであるし」
諏訪子「一瞬そこまで楽勝だと「乱入されてもよくね?」とか錯覚するけど、まあそんな馬鹿をやったらどうなるかなんて今頃説明の要もないよな」
かごめ「そういうことだ。
因みにこの時点で、森の結界経由のキバガミの無双氷雪が一発1500程度、つぐみの定量ショットが650程度、パルちゃんの序曲つきチェイスアイスが700程度のダメージになる。戦いの舞曲も欲しかったが、強化枠の兼ね合いでキバガミの構えが解けかねないので今回は割愛だな」
諏訪子「ん? 元々属性が乗ってるチェイスに序曲意味あんのか?」
かごめ「無印と違ってターン制限がついた歌スキルは大弱体したと言われるが、一方で序曲には属性付与にプラスで攻撃力アップの付加効果がついてくる。単純に攻撃力アップの単体バフとして氷劇使っただけさね」
諏訪子「あ、そういうことか」
かごめ「余談だが、イワォの条件ドロップはメディック最強服の材料になる。
条件は麻痺で撃破、そこまではいりづらいわけではないがキバガミに水溶液使わせてとりあえず取得してみたわけだが」
諏訪子「痛々しい!!!><」
かごめ「いやそんなししょーみたいな扱いせんでも(´・ω・`)
まあ、エンジェルと言うガラじゃあねえなこいつは」
…
…
〜枯レ森 金色鳥の間〜
その最深部と思われる区画にたどり着いたつぐみ達は、そこに漂う何処か神々しい気配を感じ取る。
そして、遠目に映る二つの人影…一人はモリビトの巫女・シララ。
隣に立つもうひとりの、見覚えあるその少女の姿に言葉を喪うつぐみ達。
♪BGM 「真夜中のユーフォロマンス」(東方星蓮船)♪
「やっと、ここまでたどり着いたね」
右だけ長めに伸ばした黒髪。
右の紅い三対の鎌、左の蒼の矢印の、いびつな形の羽を持つその少女は…封獣ぬえ。
かつてこの少女が、これほど悲しみと憂いに満ちた表情で、自分たちの前に立った記憶はない。
その事に違和感を抱くつぐみ達を余所に、彼女は感情を抑えたような、抑揚のない口調で告げる。
「…もう、あまり時間がないんだ。
折角…私が心の底から好きになった場所が…このままだと消えてなくなっちゃうんだ。
だから…あなた達にはここから先へ行かせるわけにはいかないんだ」
「待ちなさいよ、まるで意味がわからないわ。
それにどうしてあんたがこんなところに居るのよ。
この面倒な時に、単なる悪戯目的で姿を見せたというなら容赦なくぶちのめしてやるわ」
パルスィの威圧するような言葉にも、ぬえは悲しそうな表情のまま、じっと黙って見つめている。
「私の力はもうほとんど残っていないんだ。
でも、この子の力を借りれば…私はかごめの力になってあげることができるかもしれない」
それがとりだしたひと振りの小太刀に、キバガミは目を見張る。
イクサビトが鍛えた、ある魔物を封印する為の小太刀「人喰い(エペタム)」。
タルシスを旅したつぐみも、それに封じられた魔物の名を…その恐ろしさを十分熟知している。
「我がモリビトの一族が、遠く離れた地にも人知れず生きていることを…この刀は教えてくれた。
我の持つ「神の刀(カムイランケタム)」とこの刀、そしてこの娘の力を合わせれば、力を失いつつある我にも今一度呼び出す事もできるだろう。
我らモリビトの守護鳥、金色の翼持ち岩砕く者…イワォロペネレプを!」
シララが歌の様な呪言を唱え始めると、彼女が持つ刀がふわりと宙に浮き…そして、大地から湧きあがる無数の蛍火がぬえを包み込む。
「この先に進めば、きっとつぐみはかごめのために消えちゃおうとするって、カエルの神様が言ってた。
そんな事になれば、かごめがきっと悲しむ。
わたし…そんなの嫌だ。私は今度こそ自分の力で、本当に大好きになったひとの力になりたいんだ…!!」
「待て!
諏訪子殿は、かごめ殿につぐみの力の話をしたのではなかったのか!?
つぐみの新たな力を持ってすれば、そのようなことにもならぬのかも知れないんだぞ!!」
ぬえはふるふると首を振る。
「もう、手遅れなんだ。
「幻想郷だった場所」には帰る場所なんかなくなってるの、みんな知ってたんだ。
これ以上私…何も失いたくなんてないよ…!!」
その瞳から零れ落ちる涙が、金の光に溶けていく。
パルスィは吐き捨てるように、小さな声で悪態を吐く。
晴れていく光の中から、神々しい光を纏う怪鳥が姿を現す。
♪BGM 「戦場 朱にそまる」♪
「さあ、抗って見せよ!
この守護鳥を制する事が出来れば、貴様等の道は開けるだろう!!」
シララの宣言と共に、キバガミにも見覚えのあるその金色の鳥が、凄まじい雷光を放ち飛翔してくる!
「戦うしか…ないのか!」
「そのようね。
私が呪法をかける!あなた達は体勢を整えて!」
苦渋の表情のまま抜刀の体勢に入るキバガミに、紫の冷徹な檄が飛ぶ。
雷を纏う翼の一撃に、前へ躍り出る紫は懐から取り出した耐雷ミストを、同時に展開した四重結界で盾としてそれを受け止める…が、スペルを上乗せしたサンダーウイングの前ににわかに押され始めている…!
-このまま壊れてしまえッ!!-
怪鳥の叫びと共にその圧はだんだん威力を増し、受け止める紫の表情も険しくなってくる。
「迷ってるヒマなんてないんだ。
私も…私の可能性を引き出す為に…諏訪子さんだってきっと待ってる!」
つぐみの銃がその魔力によって姿を変える。
「つぐみ…それは!?」
「私の魔装の、新しい姿。
けど…諏訪子さんが言ってた。今私の思っている以上の力が、この魔装に秘められているって。
私が…それを引き出す事が…みんなが笑って元の世界に戻れる鍵になるなら!」
茫然とそれを見守るパルスィの背を、ヤマメは思い切りどやしつける。
「何ぼさっとしてやがる水の字!
紫の野郎だって十全じゃねえし、第一限度ってある!
つぐみが何かしでかそうってんなら、私らも時間稼ぎしてやるしかねえだろが!」
「ヤマメ…でも」
「ああ、確かに八雲紫の言葉なんて、信用する奴の方がまだまだ少数派だろ。
だがよ、かごめほどの奴が、心腹の友として認めてる奴なんだ。
…もっと単純に物事割り切ってやれよ…でなきゃ、あんたは一生、大手を振って堂々お天道様の下なんか歩けねえままだ!!」
解き放たれる呪歌の力が結界に絡む。
そして、冷気を巻き込んだキバガミの抜き斬りが、巨鳥の翼を強かに打つ。
「言葉で解らぬのなら、我らの力を持って応えるまで!
ここで歩みを止められぬ理由が我らにもあるのだッ!!」
-そんな事はさせない…!
あんたたちはここで終わりだ!-
キバガミの次の抜刀に反応し、急上昇してその視界から瞬時に消える怪鳥。
そして、猛然と急降下する、鎌のような爪がつぐみめがけて落ちてくる…!
「…アザステ寄越しなさい、紫!
私が止める!!」
その声と共に、境界移動から瞬時にその首元へ、鋭い蹴りを叩きこむパルスィ。
思ってもみない角度からの奇襲に、金色の鳥は空中で大きく体勢を崩した!
「こりゃあいい角度だ、よくあの一瞬で」
「いい加減、ここでの付き合いも長いわ。
彼女がどう考えてるかくらい…私にだって解る」
悪戯っぽく笑うヤマメに、紫も僅かに微笑んで、お互いに頷きあう。
「…つぐみの真の力を引き出せるかどうかは、今の魔装を最大解放できるか否かにかかっている。
私達のやれることは、恐らく思った以上にたくさんある筈よ」
「言われるまでもねえ。
キバガミ、あんたは左、私右から行くよ!」
「応ッ!
紫殿、援護は頼みますぞ!」
「任せて頂戴。
私が後ろを守っている限り、誰ひとりとして落伍者は出させないわ!」
体勢を立て直そうとしているその隙をつき、キバガミ達が一斉に追撃の体勢に入ろうとする。
それでも、一件無茶な体勢から放たれる、刃の様な翅の乱射で抵抗する金色の鳥。
つぐみは、その死闘の中でも動じることなく、静かに自分の魔力を集中し…そして、これまでの事を振りかえっていた。
異界の魔との戦いの時、自ら滅びを求めようとした母親を救う言葉すら持てなかった。
その事は、彼女の心に消えない痛みとなって残っている。
今は、きっとあのときとは違うだろう。
だが…このまま何も出来なければ、またしてもかごめは無茶な事をした末に、自分を顧みることなく消えてしまうのかもしれない。
そして、今目の前で、かごめを慕う一人の少女も。
(そんなこと…そんな事、絶対にダメだ!
この子を止めなきゃ…でも…私はこの子を倒したくない…!)
迷うつぐみは、引鉄を引けずにいるその手をそっと包み込む気配を感じ取る。
♪BGM 「Break up!」/宮崎歩(デジモンアドベンチャー02より)♪
-大丈夫、あなたを…私が信じるあなたを信じて。
つぐみさんの力は、きっと、全ての未来を切り開く力。
だから…迷わないで!-
その目の前で、確かにメリーが笑っているのを感じながら。
開かれた青の瞳に確かな意思が満ち、そして…空色の銃は光と共に変貌を始める。
「心解き放て、“蒼天籠女鳥”!!
私の想いと力、全てを込めて!!」
広がる翼が無数の光の羽となって空へ舞う。
そして引鉄を引くとともに、無数の光が解き放たれ、光の羽に反射するそれは無数の光の矢となって金色の鳥めがけて降り注いだ。
-うあああああああああああああっ!?
な、何この光…力が…抜けるッ…そんな!?-
降り注ぐ光が、金色の鳥の姿を光の粒子へと霧散させていく。
その恐るべき光の雨が収まったとき、元の姿となったその少女が無防備な体勢のまま落下を始める…!
「ヤマメ、頼むわよ!」
「あいよっ!」
言葉と同時に、パルスィが跳ぶ。
そして、ぬえを受け止め落ちてくるその姿を、ヤマメは放った糸で瞬時に網を張り、その姿を受け止めた。
「…今の力は」
「本体であるぬえを傷つけずに、その力だけを霧散させた。
本来の力を取り戻したならまだしも、今の私にそんな芸当はできない。
…あの魔装は、つぐみの「解放」の力を一番負担のない、扱いやすくした形なんだわ…これなら!」
紫は何かを確信したように頷く。
「ったく…無茶しやがる。
だが、こいつはこいつなりに必死だったんだな」
「…妬ましいことこの上ないわ。
素直なぬえなんて、物事に歯止めが利かない分なおのことタチが悪い…連れて帰ったら、つまらないこと仕出かさないようによく見張っていなきゃならないわ」
気を喪ったままのぬえに、パルスィはまるで、仕方のない子だ、というかのように呟く。
ほんの少し前なら、とてもこのような雰囲気になれないくらい険悪な関係だった筈のこの二人だが…ヤマメはにやにやと何処か悪戯っぽくその光景を眺めている。
「な、なににやついてるのよ。
私はただ、この馬鹿を野放しにしておけないって言っただけで」
「あーはいはい解ってます解ってますよー。
パルちゃんがつきっきりでこいつの面倒見るって事でいいんだろ?
いやぁ、面倒見のいいお姉さんはいうことが違うねえ…ちゃんとおんなじ部屋で面倒見てやらなきゃねえ?」
「なっ…なんでそういうことになるのよ!?」
その光景を、ほっとしたような表情で見ていたつぐみが、その場に力なく膝をつく。
それを慌てて介抱するキバガミ。
「…ごめん…少し、力を使い過ぎた、みたい…」
「よいのだ、無理はいかん。
…それより」
「ええ。
この勝負は、私達の勝ち…でいいのね?」
じっとこちらを眺めるシララは頷く。
「…これで、神を眠りに誘う道標は作られた。
貴様等を阻む者は他にない…先へ進むがいい…?」
「そうはいかねえんじゃないかなあ?」
♪BGM 「情景 赤と黒」♪
その背後に現れるひとつの影。
黒の地に赤と白のメッシュが入った髪と、角を持つその姿は、鬼を連想させる。
しかし、その放つオーラは…つぐみが知る鬼、すなわち伊吹萃香が星熊勇儀と言った連中とは似ても似つかない、邪悪さを醸し出している。
「どーっこ行ってもあんた達の姿が見えねえと思ったら…まさか全く別の世界に行ってるとは思いもしなかったさ。
どんな悪あがきを考えてるかは知らないけど、とっとと私達に降伏しなよ。
慈悲深い針妙丸サマは、今まで多くの妖怪たちを苦しめてきた自称大物の皆さまにも寛大なる処置を与えてくださるっていうんだぜ?」
心底こちらを見下した眼で、その妖怪は勝ち誇ったように宣告する。
「てめえ…どの面下げてノコノコ出てきやがった…!
…いや、応える必要なねえ!
ここでてめえをズタズタにして、下らねえ異変ごっこは終わりにしてやる!!」
「へえ、出来るのかい?
こんな奴は別に巻き添えくっても問題ねえってか?
そうじゃねえよな?」
剣を抜こうとしたヤマメに、その妖怪は手のうちのシララの首をつかみ、盾にするように突き出す。
「捲土重来って言葉もあるだろ?
かつて足利尊氏が、九州まで敗走してそこから撒き返して、南朝の連中が都を追われちまったって例もあるしなあ。
これから幻想郷の外まで支配を広げる大事業が待ってるんだから、出来るならあんた達に邪魔されたくないんだよね。
…つかこの世界まで、小槌の力は微妙に届いたり届かなかったりだな…まあいいや」
その邪悪な気に中てられ、苦悶の表情を見せるシララと共に、その妖怪は闇の中へ溶けていく。
そして、闇の中から、途轍もないプレッシャーを放つ魔獣のシルエットが浮かび上がってくる…!
「この世界の流儀に則って、あんた達はここで殺してやるよ」