♪BGM 引き続き「眠らずの戦場」♪


その猛烈な戦いの波動は、そのちょうど真上で死闘を続けるキバガミ達の元にも届く。
咆哮するかのような燃え上がる闘気は、激しく鍔迫り合いをするキバガミとレン、それをサポートしようと呪言を唱えるツスクル、させじと迫るヤマメとパルスィ…そのすべての動きを中断させる程であった。

「これは…!」
「いったい…何が起きたというのだ!?
このすさまじい剣気は…!?」

一瞬遅れて、下から走る猛火の渦が一瞬のうちに天空へと駆け上がっていく。

「玉座で…戦っているのか?
いったい、誰と…何のために」
「…拙者達にも解らぬ。
だが…拙者はこれをよく知っている。これほどの気を振るわねばならぬ相手が、この底にいる

驚愕の表情でその底を見やるレンが戦いをやめた事を悟ったキバガミは、静かに剣を納める。

「私は…私はただ、大地を見守ることを選んだヴィズルが…安らかに眠り続けられるよう守りたかっただけだ…。
だのに、どうして」
「…拙者達の知っている限りであれば、それを話す事もできよう。
お主らにそれを聞く意思があれば…の話だが」

困惑の表情で目を泳がせるレンに、その傍らにしゃがみ込むツスクルが寂しそうな眼で頷く。
レンは…何処か観念した様子で、刀を鞘におさめた。

…ヴィズルは私の命の恩人であり…そして、私は彼の目的が果たされるまで、彼を危難から守ろうと誓った。
……だが……ヴィズルはある者達との死闘の末に敗れ…彼らに未来を託し、眠りについたんだ。

私は生きる目的を喪ってしまった…死人も同然だ」
「抜けがらってわけかい今のあんたは。
だったら、なんでこんなことをした?」

ヤマメの言葉に、寂しそうな表情でレンは続ける。

「…解らない。
私はせめて、彼を守れなかった代わりに、彼の眠るこの場所を無闇に穢されたくなかった…それだけだったんだと思う」
「それで、ここに踏み込む冒険者たちを追い払い続けていたというのか」

頷くレン。

「…だが、このようなことになった以上、私にはもう存在している理由は何処にもない。
君らが何を思ってここに来たのか…何故このようなことになってしまったのか…それを聞く理由ももはやない。
…………もう、疲れたよ」

彼女がそう言って懐から小刀を取りだすが…それを察したキバガミはそっと手で制し、首を振る。

「そう簡単に、生きることまで投げだそうとするでない。
お主は、ヴィズルが何を成そうとしていたのかを知っている筈だ。
そして…何をしたのかも。
ならば……お主が生きて、命ある限りその行く末を見守ることもまた、彼に殉ずることにはならぬか…?

悲しみにそまる二つの視線が交錯する。
手を握り締めるその感覚に振り向くと、ツスクルも訴えかけるような瞳で見ている。

「わたし…レンの望みなら…それでもいいと思ってた…。
でも…わたしは…レンに死んでほしくない…
「ツスクル…お前」

涙でにじむその瞳に…レンはすべての敗北を悟ったという表情で目を伏せ…そして、寂しそうに笑う。


「…聞かせてくれ、君らが何を求めてここに来たのかを。
君らが何を護り通そうとしているかを。
私達がどうするかは…またそれから考えることにするよ」





-新・狐尾幻想樹海紀行-
その23 「赦されざる者、赦されるべき者」




諏訪子「なんじゃいな最後は私に解説しろってか。
   まあ、ここでやることがあるとすれば精々スキル紹介くらいだな。なんか相方もいないっぽい気配だし、私一人だから一気にやるか」




キバガミ(ブシドー/60引退引き継ぎ)
刀マスタリー★ ATKブースト★ HPブースト4
踏み袈裟7 阿吽の尾撃★ 上段の構え1 青眼の構え1 居合の構え★ 無双の構え1
首討ち5 貫突5 息吹5
一閃ブースト1 採掘1
グリモアスキル
猛進連牙★ 上段の構え★ ツバメがえし8 卸し焔9 抜刀氷雪9 憤怒の力8 刀マスタリー★

諏訪子「先ずはキバガミか。
   メインは居合特化、グリモアで上段をカバーしてなおかつ普段は尾撃での追撃を中心に戦うっぽい感じだな。
   でも、どうせ居合は抜刀氷雪くらいにしか使わないんだから、尾撃はグリモアの上段から、なおかつ居合のぶんを一閃ブーストに振るべきなんだろうな。
   欲を言えば高レベルバルカンフォームが欲しいが、そうするとかごめとやること被るんだよな微妙に。もっともメインそっちじゃないんだが、個性を出すならさらなる大ダメージを期待してのウィークショット、もしくはダブルアタックかなあ。
   クリア後にリッキィに頑張ってもらうしかないんかなこの辺り」




つぐみ(ガンナー/60でメディックから転職)
銃マスタリー★ ATKブースト8 HPブースト1 
ドラッグバレット1 ヘッドスナイプ1 アームスナイプ1 レッグスナイプ1
フレイムショット4 アイスショット1 サンダーショット5 チャージサンダー5
チャージショット3 跳弾3 バルカンフォーム5 アクトブースト9
ウイークショット3 ペネトレイター3 リチャージ★ 採取1
グリモアスキル
サンダーウィング8 定量分析9 トライチャージ★ 銃マスタリー9 術式マスタリー8 TPブースト9 ハーベスト3

諏訪子「なんじゃいな前に「サンダーウィング?命中低いし使わんでしょ(プゲラ」とかほざいておいて結局高レベル取ったら使うんかい。
   まあそれをカバーするのにトライチャージ…っていったいどんなタイミングでFL取ったんだこんなの。トライ絡めば麻痺付与率も上がるし、1ターンかかるが普通に凶悪な組み合わせだなこれ。
   多分コンセプト的には三色型なんだろうが、その割にはどこもかしこも振り方がおかしいな。まあ、つぐみは雷属性って決めつけてたせいもあるんだろうが…ポケモンだってダースなのに定番のめざ氷もないしな。めざ炎でもねえが。
   王戦でも定量+アクトからのフレイムショット三連打が止めになったが、本来ならラス見越してチャージフレイムは持っておくべきだったよな。もっとも、術式マスタリーも乗るし定量絡めば4止めでも十分な破壊力が出るだろうが…」




紫(メディック/70引退引き継ぎ)
回復マスタリー★ TPブースト★ HPブースト5
キュア5 エリアキュア3 ヒーリング1 ディレイヒール1 リジェネレート3
バインドリカバリ9 リフレッシュ6 リザレクション1 ポイズンドラッグ★
博識3 精神集中5 伐採1
グリモアスキル
炎の渦★ アザーズステップ★ 森の結界8 エイミングフット7 アクトブースト8 術式マスタリー★ 安息の祈り5

諏訪子「ネタ抜きでよくよくみるとあまりにもそつがなくて面白みに欠けるなこいつ。
   メディックとしては基本形だろう、ドラッグ全振りしてあるが別にこの局面なら医術防御を優先するか搦め手を持たせるかは自由だと思う。バインドリカバリも9止めが多分TP的に一番効率がいいんじゃねえかな、リフレッシュより優先したのは恐らくはテンペストに対応する為だろう。
   欲を言えばグリモアに術式のマスターあるんだから、なんか削ってもうひとつくらいは三色技入れてもいい気はするな。抜くとすればアクトかエイミングか…定量入れて炎の渦一本でもいいっちゃいいんだろが」




パルスィ(ダークハンター/60引退引き継ぎ)
剣マスタリー★ ATKブースト★
ヒュプノバイト7 ショックバイト7 ミラージュバイト7 ソウルリベレイト★
ドレインバイト5 カタストロフ5 憤怒の力★
グリモアスキル
レイジングエッジ★ チェイスファイア7 チェイスフリーズ★ チェイスショック5 追撃の号令7 トライチャージ★ 憤怒の力6

諏訪子「( ̄□ ̄;)うわなんだこいつ歪みねえにも程があるな!
   もうこれ以上ないってくらいシンプルな剣ダクハンだなこれ。そしてこいつもトライ持ってる挙句なんか色々すっ飛んでるな。ここまでやったなら三色チェイス全部FL狙って取れって感じがするが。
   普段からやりたい事が結構いくつもあるから色々困る気はするが、追撃の号令を入れとくくらいなら全体攻撃技か、バルカンフォームが欲しい所だな。惜しむらくは剣マスタリーはグリモア重複しない所であるから、常時憤怒状態にしておければとんでもねえ殲滅力を発揮できる筈なんだが…緊急回避のドレインバイトもあるし、それと憤怒が微妙にかみ合わないのも微妙なところではあるが。
   先にメルランも触れたがこいつの憤怒状態は本気でシャレにならんからうまく生かしたいところだ。HPブースト振って発動機会を増やしてもいい気がするな」




ヤマメ(バード/70引退引き継ぎ)
歌マスタリー★ HPブースト3
猛き戦いの舞曲5 聖なる守護の舞曲5 韋駄天の舞曲1 慧眼の旋律1
火劇の序曲1 氷劇の序曲5 雷劇の序曲5 氷幕の幻想曲1 雷幕の幻想曲1
癒しの子守歌5 安らぎの子守歌5 山彦の輪唱曲3 沈静なる奇想曲5 禁忌の輪舞曲7
警戒歩行1 キャンプ処置1
ホーリーギフト★ 採取1
グリモアスキル
ヒュプノバイト7 ドレインバイト5 カタストロフ★ 捕縛の糸8 甘美な痺れ★ 剣マスタリー9 ATKブースト9

諏訪子「こいつは結局最後の最後まで前衛に立ったな。
   つか、本当にクリア間際近くになるまでバードが軽鎧装備できることに気がつかなくて、それで死に過ぎる死に過ぎるって言ってもなんかそれ本末転倒だろって感じがするんだがな。今更だけどな。大体私も気づいてなかったし。
   バードはミスティアもそうなんだが、意外と個性を出すのが難しい気がするな。こいつはそのうちグラフィックを変えて、このグラフィックを早苗で使うところまでは計画されてるらしい。っていうかここまで絡みなかったのにまた早苗引っ張ってくるのか。何やらせる気なんだ本当に? 穣子の馬鹿の止め役は私と、これから参入する予定のレミリアで十分じゃないのか?
   まあそれは置いといて、こいつは豊富に取ったバフを禁忌の輪舞曲でサポートする方向で行くようだな。輪舞曲はバグあるから9止め(※射命丸メモ:禁忌の輪舞曲は設定バグにより、レベル9では消費TP15で2ターン延長と説明に書いてありますが、実際は3ターン延長だそうです。マスターでは消費TP30に跳ね上がりますので9止めがおトクなのです。実は奇想曲も同様に9止め推奨だったり…)でグリモア化して他のスキル振れみたいなことが推奨されてるが、実際そんな振りたいスキルもそんなない。
   こいつもグリモア大幅に見直すんじゃないかな。カタストロフと剣マスタリー、ATKブーストは有用だろうが…」

諏訪子「駆け足で見てきたが、世界樹の王戦のスキルはこんな感じだったな。
   これでまあ、エンディング前の解説は以上になるだろう。
   まああとは何時も通りのエンディングトークもなく、異変の解決編とやらの話だ。それじゃあ、クリア後の世界でまたな」








戦闘が長引くにつれ、かごめの焦燥感はましていく。
正邪の言う「倒せば異変が解決する」というのは、当然ミスリードである事に気が付いている…というより、明らかに自分たちにこの魔物…ひいては、小槌の呪いを受けている針妙丸を殺させようとしているという狙いがあると、かごめはすぐに気付くこととなった。


なぜなら…その幹が傷つく度、焼かれる度に…同じようなダメージが、取り込まれている針妙丸にも現れていることを。


「どうしよう…これ以上攻撃したら、あの子…!」
「解っているわ。
でも、どうすればいいの…中の小人にダメージを通さずにアレを止めるなんて…!」

その禍々しい形状の根の嵐を耐えきりながら、ポエットは悲痛な表情でそれを見やる。

歯がゆい思いをしているのは文も同様だった。
恐らくこの魔物は…確かに強力な力を持っているが、自分たちが本来のパワーを持って一気呵成に攻めれば容易にねじ伏せることはできるだろう。だが、それでは「助ける」と宣言した筈の針妙丸を殺してしまう結果になる。


「もし…呪いの源の「小槌」を壊せば…どうなるの?」


その声はつぐみのものだった。
彼女は触手嵐の丁度視覚から、険しい表情である一点に向けて狙いを定めている。

「…文献によれば、それを試した者はいないわ。
そもそも、最初に「小槌」で「輝針城」を生んだ小人は、小槌を壊そうとしたけどそれが叶わなかったという。
…………力の源たる魔力が無くなれば、かなえられた願いの分呪いとなって裏返る。その根源が無くなれば…試す価値はあるでしょう」

紫はいつの間にかその傍らに立ち、迫り来る蔦触手を最低限度に焼き払い、威力の弱まったところを結界で起動を逸らす。

「けれど、アレは最早「神器」に近い呪器。
壊す手段などほとんどない…けれど」
「手段なら…あるッ!」

つぐみはブローチを銃に変化させ、構える。


「全てを解き放て、蒼天籠女鳥!!」


光の翼を広げるその銃口が、紫電を放ちながら魔力を集束していく。





〜グラズヘイム〜

強大な力を振るう天邪鬼と、迎え撃つ諏訪子たちの戦いのさなか、マイクはその事実をにとり達に告げる。

-かごめのプランにあったもうひとつの案、その実行を提案します。
天地の玉座の魔力は既につぐみが集め始めている…その発射と同期するタイミングで、グングニルも同時に起動し、ピンポイントで対象物を破壊…成功率20%にも満たない分の悪い賭けですが、このまま手をこまねいて見ているよりは建設的です-

「待ってよマイク!
今の充填率でも、十分着弾点周辺を…エトリアを破壊するくらいの威力が出せるんだよ!?
中心にいるかごめ達はどうなっちゃうんだよ!?」

-グングニルのエネルギーを限界まで集束し、針を通すような正確さで「小槌」のみを撃ち抜き…同時に強力な防御壁を展開すれば、確率計算まではできませんが生き残ることはできる…私はそう信じます-

「信じるって…そんな…!」

マイクは沈黙を挟み、そして告げる。

-私は…治療のさなかつぐみと紫、両名の精神にコンタクトを取りました。
その時…紫にのみ、その事を告げたのです。
「今のあなたであれば、そのような事態に陥った時対応できるだけの力はある」と-

「それは…でも、今の「式神」の紫は自分自身の魔力をコントロールできない…制御するだけで手一杯なんだよ!?」

-イエス。
ですが、あなただって知っている筈です。
「仮初のプログラム」とはいえ…それは「八雲紫本人」をより正確に再現したものであると。
彼女であれば、迷わずそれを選択する。
それに…にとり。あなたは私に教えてくれた筈です-


-確率など、所詮目安に過ぎない。
足りない分は…「勇気」で補えば良いと!-


にとりはずっとそれを黙って聞いていたが…意を決したように顔を上げ、懐から一枚のカードを取り出す。

「わかったよ。
私も…あんたを…あんたが信じるかごめ達を信じる!

コンソールを手早く操作し、そしてカードを振り上げる。


「目標「打ち出の小槌」…セーフティディバイス、リリーヴ!
「グングニル」起動ッ!!」



モニターのロックが一斉解除され、システムの中心に埋め込まれたGSライドが力を放つ…!


「…なんだ?
さっきから異様な力を感じるな…どんな悪あがきをする気かしらねえが…」

迎え撃つ者達をことごとく朱に染め、正邪は奥の扉へ向けてゆっくりと手をかざす。

「ここでふっ飛ばしちまえばどっちにしろ一緒だな。
ちょっと力を使い過ぎちまうかも知れんが…まあ、いいか」

純粋な破壊のエネルギーがその掌に集束する。
彼女が「小槌」の力によって、幻想郷中から奪い取れるだけ奪い取った技の一つ…霧雨魔理沙の代名詞とも言える大技、マスタースパーク。

「吹き飛べ!」

無慈悲な波動が放たれる。
しかし…それは発動した「グングニル」の荷電障壁にかき消される…!


「なんだと!?
これは…これはいったい…うおおおおおおおおおおおおおおおおお!?





その猛烈な波動は、ほどなくして遺都で戦うかごめ達のところへも届く。
それにいち早く気付いた紫もまた、来るべき時が来たことを悟る。

-今のあなたの状態は、例えるのであればマシンスペックに比べてあまりにもパフォーマンスの悪いOSがインストールされている状態。
…私が提示した作戦が実行に移されることがあれば…「式神紫(あなた)」は「グングニル」の射線を制御・威力を中和するだけの結界を展開した時点で負荷に耐えられず自壊するでしょう。
渡されたデータから、「グングニル」をそれ一点にぶつけられたとしても、「小槌」の破壊はあまりにも低い確率であることも解っている…挙句、それほどまでに小さな物体を狙い撃つことを考えれば…仮につぐみが同じようにして至近距離から同時に「玉座の魔力」を集束して放ったとしても、成功率は限りなくゼロに近い-

脳裏にマイクの言葉が過る。

-ですが…かごめであれば、迷わずそれを選び取るでしょう。
余りにクレイジー…ですが、手段がそれしかないのであれば、そうするしかない…迷わずにその分の悪い賭けを採るという彼女の信念は、時に「理」を覆すと、皆が口を揃えて言う。
…それを受け入れるかどうか、その選択肢はあなたが持っています-

そして、目を見開く。

「私の心は初めから決まっている。
心なき力が無力であるように、力無き心もまた無力。
………「式神紫(わたし)」の死に場所はここにある!

展開される結界。
そして、それは空から迫る光を受け入れるように、悪魔の蔦に絡まる手に握られる「小槌」へ狙いを定めていく。
その事に気付いたつぐみが叫ぼうとするより前に、紫は叱咤する。

「気を逸らさないで!
あの光と同時に、引鉄を引くのよ!!
「お前…何をする気だ!?」

かごめが気を取られた所に蔦が襲いかかるが、既に何かを悟っていたらしいポエットがすんでのところで受け止める。


視界を埋め尽くす光。
つぐみは引鉄を引き、そして。


「これで、私の役目は終わったわ」


最後にそんな声がして、つぐみは紫の名を叫ぶ。
何かが砕けた音がした。





光の洪水が収まった後、にとりが見たのは所々破損し…煙を上げる中枢端末だった。

「マイク!?」

-…「グングニル」…目標、捕捉。
着弾点付近に…生命反応…6つ確認。
……目標……完全破壊の確率、99.9%…ミッション、コンプリート…-


その言葉が終わりきらぬうちに、端末の一部がショートし、破裂音を響かせる。

「あんた…あんたどうして…!
「グングニル」を撃っても、あんた自身は平気だって言ってたじゃないか…!」

-…想定外の事態…作戦遂行中に「敵」の侵入を許したこと。
…ここにいたあなたを、その攻撃から守る必要が…あると…それを、最優先事項と…判断しました-

「そん…な」

紫電を走らせる端末を前に、にとりは力なくへたり込む。
マイクは恐らく、本来自分を保護するバリアーの展開を、総てにとりを護るためだけに使ったのだろう。

-わたしの…果たすべき役目は…これで、終わりました…。
ざんねん、ですが…ここまで、の…ようです…-

その音声にもノイズが多くなっていく。

「ダメだ…ダメだ!
すぐに破損個所を直す…いや…すぐにバックアップを取るから!」

-ここは…もうすぐ…くずれおちる…。
…はやく…にげて、ください…にとり-

「そんなことできるか!
あんたが壊れ…死んじまったら!
私はかごめやリッキィになんつって詫びればいいんだよ…いや!」

にとりは飛び散る破片で額を切っても怯むことなく、一心不乱にコンソールを操作し続けている。


「あんたは新しい存在意義を見つけたんだ!
生きていく目的が見つかったんだ!!
そんなあんたを見殺しにするくらいなら!私もここで一緒に死んだ方がマシだあああああああああああッ!!


にとりが最後のボタンを叩くと同時に、ひときわ大きな火柱が端末からにとりへ襲いかかる…!


「それ以上にとりに近づくことを「禁止」する!
“サブタレイニアン・セファリックシールド”!!」



しかし、それは彼女に届く事はなかった。
「通行止め」標識を模したバリアーが、端末が崩れる断末魔の火柱からにとりを護っていた。
振り返ると…小脇にノートパソコンを抱え、ぼろぼろになりながらも震える脚で立つみとりの姿があった。

その火柱が収まると共に、標識の盾も消え失せ…みとりがその場に膝をついた。
にとりはその身体を反射的に駆けよって支える。

「みとり…」
「無茶するよなお前…相変わらず。
…でも…その甲斐はあったみたいだ」

みとりはノートパソコンを開く。
そこにはメモパッドがひとつ開かれ…勝手に文字を打ちはじめた。


『本当に無茶な事をする。
 ですが、お陰で私は、リッキィを泣かせずに済みそうです。
 ありがとう、にとり』



「マイク…!」
「あいつのデータでこのパソコンの容量も限界だ。
…暫く窮屈かもしれないが…我慢してもらうしかないな」
「…うん!
幻想郷持って帰って…いいボディを作ってやらなきゃ…!」





「はあ…はあ…!」

その爆風に吹き飛ばされ、外に放り出された正邪は自分の状態に愕然とした。
衝撃により深いダメージを負った…その事実以上に、彼女はこれまでに得た力が全て失われていることに気付き、狼狽する。

その事が意味することはひとつ。

…「小槌」…「小槌」が…消滅したってのか…!?
そんな馬鹿な話があるか…絶対にぶっ壊れない筈の、呪われた神器がなんで…」

そしてずるずると這いずりながら、恐怖に歪む表情でその場を逃れようともがく。

「逃げねえと…存在し続ければ、またいずれ機会は巡る…!
こんなところでくたばるなんて冗談じゃねえ…ッ」

その目の前にひとつの影が立ちはだかり、正邪は息をのむ…。

傷つき、グラズヘイムの治療ポッドに眠っていた筈の少女は、険しい表情で正邪を見下ろしている。
その回復度も十全じゃないだろう事は、震えるその脚からも解ることだが…それでも恐らくは、今の自分など容易く殺れるであろうことも正邪は直感した。

「…よ…よく気がついたじゃないか…鵺」
「あんたのしつこさは地底にいた時から承知よ」
「ふ…ふん…だけど、一人で追ってくるなんて、あんたも随分身の程知らずだな…。
いくらあんたでも十分にダメージは癒えてないだろうし…私にも最後の策があるかも…
……そんなのはない。
それに…この時点でも、素の妖気であんたに負ける私じゃない」

ぬえの言葉に、正邪は内心冷や水を浴びせられた錯覚に陥る。

「あんたの性格も良く知ってるよ。
本来なら、負けをいち早く察知して、被害がでかくなる前に能力を使って雲隠れするよね。
…こうやって、まだ五体満足でもない私に見つかるなんて時点で…もう能力を使うだけの余力も残していない…ううん、あんたが奪ってきた力には、目くらましに使えるに十分なモノだっていくつもある筈…全部失ったってことでしょ、それ?
…だから…あの爆発であんたは、ここまで私以外の誰にも見つからないで逃げてこれたのが、最後の幸運だった

息をのむ正邪。

(くっ…くっそぉ〜ッ!
 こ、このぼっち野郎がぁ…くだらねえ知恵を回しやがってェェェ〜ッ!!

心の中で悪態を吐くものの、最早万策尽きた状態なのは間違いない。
しかし彼女はなんとかその場を生き延びようと…最後の賭けに打って出た。

ぬえが槍を構え、突きつける。
しばしの沈黙を挟んで、正邪は自嘲的に笑いながらぬえに語りかける。

「…鵺よ。
確かに…あんたの言う通りだ。もう私に何の策もない。
あたしのやらかしたことは、ここであんたに殺されても仕方ないことだ…でも、あたしだって怖かったんだ…あたしは地底の妖怪の中ではあまりにも非力…こうして、何かを利用してでも生き延びる以外に何も出来ねえ…。
それを思い知った今、恥を忍んであんたに頼むっ!」

涙さえ浮かべ、懇願するようにそう言い放つと、正邪は額を地にこすりつけた。

「この場は見逃してくれ!
今後は、あんた達には絶対に迷惑をかけないと…二度と世界を支配しようとするなんてバカなことはらねえ!
もはや…私はあんたにすがるしかないんだ…幻想郷ですらも居場所が無くなったこのあたしには……頼む!」

ぬえはじっと黙ってそれを見つめていたが…やがてゆっくり、槍を下ろして手を取ろうと伸ばしてくる。
正邪の表情が、ぬえに覚られぬ角度で邪笑に歪む。

(かかったな、アホが!
 あたしには最後の切り札がある…今残ってる全部の妖気を引き換えに…テメエの精神とあたしの精神を入れ替えるという大技が…!
 手を触れた瞬間にそれは発動する…あんたは地底でもつまはじき者のかまってちゃんだ、本心は自分が恃みにされてると解れば絶対に断れない底なしの御人好しだってことは昔っから知ってんだよ!!
 今の傷ついたあんたであれば十分能力が通用する…傷を癒したら、今度は鵺の強大な力を持って「革命」のやり直しだ!
 あばよ…テメエは「あたし」の代わりに他の連中に殺されるんだな!!

正邪が魔力を込めて伸ばした手が空を切る。
そこにあったはずのぬえの手はない…どころか、焼けるような痛みが背中を走り、一拍置いて喉から大量に血を吐いた。


ぬえの手は、槍を離していない。
それどころか…それは正邪の身体を完全に貫いていた。


「て…めぇ…なんで」
「………鬼人正邪。
あんたが地底からいなくなって…私はほどなくして地上へ出たんだ。
私はそれでも変わることなく、誰かに相手にして欲しくて…いつも心にもないことばかり言って…そんな私だけど、白蓮やかごめ…地上のみんなと出会って…それでもいろんなことを知ったんだ。
壊したくないモノも…失くしたくないモノも、いっぱいできた。
……あんたは、昔の私とそっくりだ。
でも…あんたはこの先もずっと…生きている限りこういうことを繰り返す…!


ぬえは苦痛に顔をゆがめながら、力を放つ。
そこに現れたのは…空間の歪みの様なもの。

「きっと、殺しても…死んで生まれ変わっても、きっと同じことをする…だから…閉じ込めるんだ。
あんたが…八雲紫にそうしたように!!
「まっ…待ってくれッ、鵺ッ…!!」

ぬえはそのまま持っていた槍ごと正邪の身体を空間の歪みの先…「北極眼」へと放りこんだ。


その歪みが閉じ…ぬえはその場にへたり込んだ。
それを支える一つの影。

「…さとり」
「あなたのした選択は…正しかったと思います。
この世界にはどうしても矯正されない「絶対の悪」というモノがある…それがまさに、彼女だった
「……私だって……そんなに変わらないよ。
わたしも…白蓮や、かごめに…ナズーに出会わなければ…きっと」

さとりはふるふると首を振る。


「あなたは…彼女とは違う。
あなたは…ちゃんと変わる事が出来たじゃないですか。
…帰りましょう、ぬえ。あなたの帰る場所は、私達と一緒なのだから


その言葉に…優しく見つめる瞳に…ぬえの瞳から涙が溢れてくる。


かつては、この目の前の存在が自分を呼ぶ時も、先の正邪がそうしたように「鵺」という微妙にニュアンスの異なる響きがあった。
それが、今は彼女個人を示す「ぬえ」というニュアンスをもって呼んでくれた。

-あなたが素直に心を開けば、もっともっと違う世界が見えてきますよ-

何時だったか、聖白蓮が諭してくれたその言葉が彼女の脳裏をよぎる。

(私は…このひとたちと一緒に…生きていてもいいんだ…!
 私の居場所は…ここに、ちゃんとあるんだ…!)


その心を覗くまでもなく…流れ落ちるその涙を拭ってやりながら、さとりはその身体をそっと抱き寄せて応える。
そして、二つの影は共に帰るべきその場所へと歩き出した。