藍は遺跡の中を走る。
「くそっ…よりにもよってあいつがそんなことを仕出かすなど!」
彼女がその異変に気付いたのは、監視用の式神がつぐみ達よりも先に…部屋に入ったからだ。
かごめの変わり果てた姿を目にした式神が、次の瞬間後片もなく砕け散る刹那の間に、藍は最悪の事態になったことを悟り、祈るような思いで駆けていく。
だが…果たして自分が行ってどうなるという?
ここでヤマメを止めたところで、何もしなければ、美結は程なくして日常生活を送ることすら困難な状態になる。
そして、大きな発作が起これば…てゐその他が見立てたその限度まで生きることなく、そのあまりにも短い人生の幕を下ろすのだろう。
その遺跡の道中…藍はそこで立ち止まってしまった。
「…そうだ…今更…今更私が行ってどうなるというんだ…っ!」
藍は…その場の壁に寄り添い、力なくへたり込んでしまう。
てゐの様子からも…彼女はほとんど、この先、生き続ける選択肢を捨て去っているだろう事が、藍にも解ってしまったのだ。
今思えば、リップやめうと言った天然そのものののような連中に合わせて、トンチンカンにも思える言動を繰り返してきたのも…きっと、この先がない事を悟っている彼女が、せめて今この瞬間自分がやりたいように、この「冒険」を心から楽しもうとしていたことの表れだったのなら。
「あの子は…あの子はただ、今この瞬間を全力で生きようとしていたんだ! ただ、それだけだったんだ!
何故だ! 神は何故、何故そういう者から優先的に理不尽な死を与える!!?
そこに本当に天道などがあるというのかあッ!!!」
その、向けるもの亡き怨嗟の叫びが、慟哭と共に遺跡内へ響く。
応えるものなきままに。
藍は…それでもひとつの決意を胸に、再びよろよろと立ちあがる。
何故、あの何の変哲もない…多少特異な生まれなだけのその少女に惹かれるのか…その理由もわからぬまま。
せめて、彼女がいかな結末を迎えるのか、それを見届けようと。
それが、今回彼女らを託された自分の責務であると…遺跡奥へと歩を進める。
「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第十二夜 舞いあがれ、結われし月の鳳凰
静葉「というわけでアラクネー戦です(キリッ」
諏訪子「これもうわっかんねえないろいろと(しろめ
まあいいや、実際はこれ、フラン達で挑んでるんだよなしつこいようだけど?」
静葉「あと恐らく、アラクネーはもとより蜘蛛どものレベルを見る限り、本来の攻略推奨レベルは29だと思うわ。
ギミックを利用する必要はあるけど、そのくらいでも実は攻略可能な難易度だとは思うの」
諏訪子「それを選択クラスに自由度が高いクラシックモードの、しかもレベル33にも34にもなって挑んだと」
静葉「狐野郎は今回本気で最初から心が折れまくってるから仕方ないわよ。
あと、引退絡んでるから実質36相当ね」
諏訪子「至極どうでもいい情報だなそれも。
まあいい、アラクネー戦の情報はよ」
静葉「アイ、アイ」
ギンヌンガB2Fボス アラクネー
モンスターレベル31 HP17000
炎弱点 即死・石化・毒・盲目無効/テラー、混乱、頭縛り耐性
毒の沼(頭) 3ターンの間、ターン終了時全体に無属性ダメージ。使用するたびに威力上昇する。
シルクスプレッド(頭) 全体遠隔突攻撃&全個所封じ付与
シルクスピット(頭) 近接突攻撃&全個所封じを高確率で付与
ポイズンバイト(頭) 一列にやや高威力の近接壊属性攻撃&毒付与。準備動作あり(「アラクネーは牙をとぎ始めた!」と表示された次のターン)
尾針(脚) 貫通突属性攻撃&スタン付与
※登場する大部屋の右隅にある蜘蛛糸の塊を焼き落とすと、地面にたたき落とされHP10000程度から戦闘開始できる。動かず向きも変えないのでバックアタックも可能。
ただし、自由に動ける状態の場合、視界に入ると3ターン動きの止められてしまう糸を吐きかける(アラクネーの視界前方の3×3マスに効果あり)。これに絡め取られた状態で戦闘に入ると、全個所に封じを受けた状態から戦闘開始する。
諏訪子「アラクネーだ。基本は蜘蛛だな。
そもそもアラクネーってアリアドネと同じ意味だろ確か」
静葉「実はアリアンナもです、閣下(サー)」
諏訪子「意味解んねえよ。
まあ、その辺でなんとなくわかる奴は解ると思うが…日本だと絡新婦(じょろうぐも)とかの類、要は蜘蛛女の魔物だな。
しかも毒攻撃を仕掛けてくるって、だからヤマメなのかよ」
静葉「東方知ってて毒蜘蛛で蜘蛛女って言ったら反射的にYAMAMEちゃんが該当する諸氏も多いし仕方ないという事で」
諏訪子「何がしかたねえんだよ意味解らんわ。
まあいいやそんなこと。一応アラクネーは初手毒の沼固定だ。
こいつは最初こそ大したダメージじゃないが、一回使うごとにおよそ10ダメージ前後加算される。しかもこいつ、おおよそ効果が切れる頃にまた使いやがるから、30ターン程度も経てばこれだけで十分死ねる火力になる。
その分、ポイズンバイト以外の攻撃の威力は大したことはない。ポイズンバイトも準備動作で溜めではないから、例によって轟音弾での阻止は不可能。だがその代わり、攻略本で触れられている頭封じの耐性は実はザルらしくて、抑制攻撃と併せれば高い確率で封じ入れられるそうだ。
ポイズンバイトが適正以上のレベル、ぶっちゃけ私達が挑んだ時点でも120前後のダメージを喰らう挙句の毒だから、この準備動作の時にダメ元で狙ってみてもいいな」
静葉「というかほとんどが頭依存の攻撃だから、封じてしまえば非常に残念なボスになるわね。
とはいえ、毒の沼の存在は無視できないことは確かだし、弱体化させてもかなりHPが高いわ。火力を集中させて短期決戦で臨みたいところね」
諏訪子「言うまでもなく封じでテンポ狂わせられるのが厄介ではあるがな。
メインに据えるスキルの依存部位は封じられないように対応するアクセで防御するか、都度速攻でテリアカαを使うか。
うちらはテリアカ大量持ち込みで挑んだが」
静葉「たまぁに後列へポイZUNバイトが飛んでくと天狗がきめぇ顔で回避してる横で金髪の子が可哀想なことになってたりもしたけど、最後は安心と信頼の霊攻大斬で真っ二つよ。
実はこの時点でてゐは巫剣スキルも取り行ってるから、マスタリ重複で普通に4ケタ近く出るのよね、霊攻大斬」
諏訪子「えっこれ適正以上ではあるけど一応エキスパだよな?」
静葉「そりゃあもう。
多分トライチャージが絡めば普通に4ケタ乗るわね。てゐは回復に攻撃にわりと大忙しよこのメンツだと。
逆に文なんて存在意義がほとんどないわね」
諏訪子「だからオイルの備蓄はしっかり確保しておけよと。
どうせ今回も文はただ普通に殴るだけの簡単なお仕事なんだろ?」
静葉「本当にオイル活用しろよと」
…
…
♪BGM 「憂愁 それぞれの想い」(SSQ)♪
目の前には血の海が広がっている。
その魔性の攻撃はあまりにも圧倒的で、かつ、致命的だった。
穿たれた猛毒のためか…発狂しそうな痛みを発している筈の、その先にあるべきものがない右の肩口からも、痛みを感じなくなっていた。
視界がぼやけ、思考にも霧がかかっていく。
(これが…死)
美結に恐怖はなかった。
迫りくる絶望すら、彼女は何の恐怖もなく受け入れようとしていた。
後悔がないわけではなかった。
決して、未練がなかったわけでもなかった。
だが…彼女はその生まれもった聡明さゆえに、その絶望を回避する術はない事を知っていた。
無様に足掻いても周りに迷惑をかけるだけと、生きる意思を放棄した。
(これで、よかったんだ。
わたしは…うまれてきてはいけなかったんだから)
けれども…そう言いきかせる心の奥底で、最後のひとかけら…彼女自身の「生きようとする意思」は儚くも抗い続ける。
閉ざされようとする瞳から流れ落ちる涙は、その意思が流させているものとも、きっと彼女には解っているのだろう。
(だから、もうやめて。
そんなに…そんなに、かなしまないで。
おねがい…!)
命の灯火が尽きようとするその刹那の時間に、彼女のうちにあるその意思は、押さえつける想いとは裏腹に大きくなっていく。
美結自身も、感情を抑えられなくなっていた。
限界だった。
抱え込んだ十字架は、あまりにも大きすぎて。
その重みで心が圧し潰されていくのを必死で耐え続けるには、彼女は余りにも弱すぎた。
「人は皆、いずれ死ぬ。
だけどな…お前はそれを受け入れちまうには、あんまりにも子供過ぎるんだ。
…お前自身、そうは思わなかったのか?」
聞き覚えのある声がして、はっと目を見開く美結を誰かが後ろから抱き締めている。
「もういい。
お前は十分、自分の心を殺し続けてきたんだ。
だから…もうこれ以上はいい。本当に自分を殺そうとまでしなくていいんだ。
思い出してくれ、美結。お前がつぐみと出会ったその日の事を…!」
そしてさらに視界は暗転する。
目の前に、小さな女の子が一人立っている。
それは不思議な空間で、ふわふわとした雲がいくつも青空の中に浮かぶその空間…少女も自分も、向かい合わせになって座っているその場所も、雲の上。
「そんなかなしいこと、いっちゃだめだよ」
ブロンドの少女が、寂しそうに笑って告げる。
「わたしのおかあさんも、おんなじことおもってる。
でも…そうしたら、わたしはかなしいよ」
「私には…私には悲しんでくれるひとなんていない…!
本当のお父さんもお母さんも…私にはいないんだから…だれも…!!」
あの日と同じセリフを、繰り返す。
「あなたは、わたしがうまれてきて、はじめてのともだちだから。
だから…あなたがそんなつまらない理由で死んでしまうなんて…私には耐えられないッ…!!」
自分の手を取って諭す少女の姿が大きくぶれる。
その姿は、成長した同じ少女の姿…泣きはらした目のまま訴えかけるのは、現在の姿のつぐみ。
「あなたは確かに、人間が決してやってはいけない方法で生まれてきたのかもしれない…でも、それがなんだっていうの。
ううん、そうじゃない…私が…私があなたに生きていて欲しいんだ…!
だから…生きることを簡単に諦めたりしないで、美結ちゃん!!」
どうしてだろう。
目の前の少女の視界も、自分の視界も…歪んではっきりと見えなくなっている。
生きたい。
この子と共に歩む未来を。
今共に旅する仲間と…この先出会う仲間達と、歩んでいく世界を。
何時の間にか二人の手の中には、可愛らしく包装された箱が収まっている。
美結にはそれに心当たりがあった。
「もし…あなたがしにたくないとおもったら…そのときに、あけてね」
あの日最後に、生まれたばかりの頃のつぐみが託してくれた贈り物。
きっと、これを開けてしまえば…自分は人間でなくなってしまうのかもしれない。
否、構うものか。そもそも自分は元からまっとうな生まれ方をした人間ではないのだから。
美結は躊躇うことなく、そのパンドラの箱を開け放つ。
…
せめてもの介錯をと、ヤマメが美結の傍らに立ち…かごめを一撃で沈黙させたその恐るべき猛毒の貫手をその首めがけて振り卸そうとする。
その時、一発の銃声にヤマメはゆっくりと振り返る。
「往生際の悪さは母親譲りか。
ようやく私を撃つ気になったみたいだが…狙いが甘いよ、つぐみ」
満身創痍のまま、硝煙をたなびかせる銃口をこちらへ向けているつぐみに…ヤマメは剣呑な視線を崩さず振り返る。
「こいつはハナから生きることを諦めてやがるんだ。
だったら、せめて五体満足なうちに、殺してやった方が慈悲ってもんだ。
私だって知ってる…こいつはもうじき、身体の重要な機能の大半を失って、生きてるんだか死んでるんだかわけわからない状態になるんだろ」
「でも…でもっ…まだ生きてるんだ…!
誰かが生きるか死ぬかの権利を、他の誰かがそんなに簡単に決めていい筈なんてないよッ…!」
ヤマメはゆっくりと、獰猛な笑みを浮かべながらつぐみとの距離を詰めていく。
「そうだな。
だがな、つぐみ…ひとついい事を教えてやろう。
往生際悪く足掻く人間の肉なんか食っても美味くねえが…こうやって死ぬ覚悟決めて、なんの抵抗もせず死んでいく人間(ヤツ)の肉は至上の美味なんだよ。
つーことだ、だから」
その表情は、つぐみも恐らくは初めて見るだろうヤマメの…「幻想郷に住まう獰猛な人食い」としての顔だっただろう。
今目の前にいる女性は、本当に、あの旅路を共にした黒谷ヤマメそのひとであるのか。
紫の式神として生まれながら、最後まで自分の意志を貫いて消えていったメリーを…その最期の瞬間まで優しく悲しい目で見送った妖怪とは違うのだろうか。
逡巡するつぐみの目の前に、大鎌のような巨大な爪を持つ異形の腕を振り上げたヤマメが、一瞬のうちにその致命的な間合いへ滑り込んでくる。
「…じゃあな。
あんた達はせいぜい天国へ逝きな。私は、多分地獄行きだ」
それが、今まさに少女の喉元に触れるかどうかの瞬間だった。
「…なん…だと!?」
その左手が、すんでのところでその異形の手をがっしりつかんで離さない。
驚愕の表情で振り向いた先には…片腕を失いながら、自身の血に塗れたぼろぼろの姿のまま…しっかりと己の足で立っている美結。
今燃え尽きようとしていた筈の命が、消え入りそうだった心臓の拍動が…再び燃え上がり鼓動を加速させていくのがその腕から伝わってくる…!
♪BGM 「戦乱 吹き荒ぶ熱風の果て」(SQ4)♪
「いやだッ…!」
ヤマメは腕を引こうとするも、死にかけた少女の力とは思えない握力で掴まれ引くことができない。
光彩を取り戻して紅く強い輝きを放ち始める瞳と、その立ち上るオーラに…幻想界最強の吸血鬼のイメージが重なったその瞬間。
「こんなところで、私は…私達は終わりなんかじゃないッ!!」
振りはらわれた左手に呼応するように、飛び散った血が炎となって、その切り裂かれたはずの右肩に右腕を再構成させていく。
その先には、深紅の刃を持つ三日月状の刃が鉤棍(トンファー)めいて姿を現し、逆手にしっかりと握られている。
「目覚めやがったみたいだな…怪物め」
ヤマメは忌々しげに吐き捨てる。
「だがな、今更遅ぇんだよ!
化けて出てきたというんであれば! もう一度墓穴にたたき込んでやるまでだッ!!」
その恐るべき破壊力を発する異形の左腕が振り卸されるのを、美結は真正面から受け止める。
ほんの数刻前、同じようにしたことで吹き飛ばされた筈の彼女の右腕は、その強烈な圧力を受け止めるどころか…次の瞬間あべこべに、大太刀のような鋭く重い指を斬り飛ばす!
「なんっ…!?」
「私は…私は確かに、生まれてはいけなかったのかもしれないけど…私がなんのために生み出されたのかなんて、そんなのどうだっていい。
今は…今はただ…私の大切な友達をこれ以上悲しませたくない! だから、私はこんなところで死ぬわけにはいかないんです!」
「…だったら、この私をお前の力で倒して見せろ!
遍く喰らい尽せ、鬼喰女郎!!」
解放されたヤマメの左腕が、斬り飛ばされたはずの大爪を再構成し…それどころか、その黒い外皮が全身を覆い、瞬く間に巨大な大蜘蛛の怪物へとその姿を変貌させていく。
本来、鞭と刀の中間的な武器として顕現する彼女の力が、最大限に解放されたときに立ち戻らせるという、地底最強レベルの怪物である土蜘蛛本来の姿に。
茫然と見守っていたつぐみを庇うように、美結もまた特殊な形状の刃を構える。
「…美結、ちゃん」
「ごめんね、つぐみちゃん。
私は、ずっとずっと、とんでもない思違いをしていたみたい。
奇跡なんて起こらないって…私は生きていてはいけない存在だなんて。
どっちも、違ったんだって、やっとわかったよ」
彼女は、後ろのつぐみに振り返り、普段見慣れたその表情とは違う顔で笑う。
「どんな経緯であっても、私はカミサマからこの命をもらって生まれてきたんだって。
そして…奇跡なんて待ってるだけで起こるものじゃないってことも。
今ここで私が人間でなくなったとしても、そもそも私はまっとうな生まれ方をした人間じゃないんだから…今更そんなこと躊躇するのもバカバカしくなってきちゃった」
つぐみはその表情が、誰かにとてもよく似てる気がした。
そして、零れ落ちる涙を拭い、泣き笑いのような表情で頷く。
向き直る美結へ、咆哮と共に土蜘蛛の恐るべき牙が迫る。
彼女はそれに臆することなく、逆手に刃を構える右腕を構えて、力を放つ。
「絡め裁て、龍紋鳳仙華!」
解き放たれた紅の刃が、昇龍のレリーフが刻まれた巨大な三日月状の武器へと変わる。
彼女はその両端の取っ手を両の手でしっかりとつかみ、咆哮と共に迫りくる土蜘蛛の頭めがけてギロチンめいた一撃を振り卸す!
…
轟音が遺跡内に響き、俄に強く振動させる。
奥に向かう藍は、その異様な妖気を感じ取り、再び駆けだそうとしていたその矢先だった。
その妖気は全く感じ取れずにいるかごめのものとも、猛烈な殺意と悲壮さすら漂わせるヤマメのものとも、戸惑い定まらずにいるつぐみのものとも異なる。
当然、天人(ホワイトランド人)のリップや人間のめうが放つようなシロモノではない。
藍はその可能性を否定せず、その真偽を確かめるべく奥へと駆けていく。
そして、彼女はその光景を目にして、目を見開いた。
♪BGM 「悠久を継ぎし者たち(ヒガナのテーマ)」/景山将太(ポケモンORAS)♪
「そうだ…それでいい」
流れ落ちる血よりも紅い刃をその身に受け、元の姿に戻ったその妖怪は満足したように微笑む。
「ヤマメさん…あなたは」
「あんたはずっと、死ぬことばかり考えていたんだろ?
でもさ…それはきっと、一番簡単な逃げ道だ。
何もかもを投げ捨てて、それでいいんだって自己満足して、それでも良ければそうしたっていい。
…けど、自分の心にまで嘘なんか吐いちゃあいけないんだ」
その腕がゆっくりと、茫然と見上げる薄桃色の髪を撫でる。
「ひょっとしたら、私があんたに強いてしまったのは、あんたを殺すよりももっともっと残酷で、取り返しのつかないことかもしれない。
でもね、私もたださ…あんたのためにこの先ずっとつぐみが泣いて生きていくんじゃねえかと思ったら、ね」
「でも…でも、あなたは…!」
「大丈夫さ。
確かにすごい一撃だったけど、土蜘蛛を舐めてもらっちゃ困る…この程度で死にゃしないさ。
…それに、あの連中もね」
つぐみはその時になって初めて、倒れたままのリップとめうの元へ駆け寄る。
二人の脈を取ってみると…その拍動がだんだん強くなっていくのを感じ取る。
「許してくれよ、二人とも。
連中に最初に叩き込んだのは、あくまで意識をぶっ飛ばす程度まで抑えた神経毒…体内で分解される頃には、何事もなかったかのように息を吹き返すはずさ」
「野郎…あたしにぶち込んだのは全く加減してなかったじゃねえか。
ハナからこのどさくさであたしを殺すつもりでいやがっただろテメェ。本当に天麩羅にして食っちまうぞ」
その声の先に目をやると、蜘蛛糸で雁字搦めにされミノムシのような状態でぶら下がったままのかごめが、渋い表情で口を尖らせていた。
ヤマメはゆっくりと、自分の体に食い込んだ刃を退かすと、けっ、と悪態を吐いて肩を竦める。
「私にふざけたことをぬかした代償としてはまだまだ安いんじゃないかと思うんだけどね…大体にして、今のあんたを止めようと思ったらそれでもむしろ弱いかと思ったくらいさ。
どうせ、毒なんてとっくに代謝されてて途中で目が覚めてたんだろ?
その割には大人しくミノムシのままだったみたいだが」
「やかましいわい。
事が済んだならとっとと下ろしやがれこの病原性鋏角亜門」
凄惨だったその目の前の光景が…少しずつ良く知る日常の光景に戻りつつあることに、藍は安堵した。
…
…
かごめ(ミノムシ)「というお話だったんじゃ(しろめ」
諏訪子「おいまだミノムシ状態なのかよ」
ヤマメ「ああ、なんだか気にいったらしいから今回の終わりまでこのままでいるんだとよ」
諏訪子「オメェも何事もなかったかのようにしれっと戻ってくるんじゃねえよ。
しかしまた余計な地雷を埋めに行ったのかとひやひやしてたぞ内心」
ヤマメ「あーいや、最初はそのつもりだったんだけどさあ」
かごめ「だんだん話書いてるうちに着地点見つからなくなって結局全部削った(しろめ」
諏訪子「そうしておけ(迫真
しかし面倒くさいの二人帰す事にしたんか、それはそれで平和にはなるな」
ヤマメ「いやあのだな諏訪子、実はだなあ」
かごめ「はーいそれじゃ今回はここまででーすおまけをどうぞー(CV:明坂聡美」
諏訪子「( ̄□ ̄;)うわこいつ何無理矢理打ち切ろうとしてんだ!!
っていうかアルセーヌみたいな声しやがって!!」
ヤマメ「そのツッコミになんか意味あんのかい」
…
…
〜氷樹海12F〜
「ありましたよ! 四つ目の氷の花!」
多頭の禍々しいオーラを放つ邪竜の脇をすり抜け、辿りついた袋小路の一角をフランが指差す。
そこには、月明かりを反射して儚く光る、氷の花びらを持つ花が確かに咲いていた。
周囲を探していた四人がそれを認めると、フランはそれを壊さぬよう慎重に、根元から手折ると大切に箱の中へ収める。
「これで…手に入れるべき材料はすべて揃ったのね」
「ああ、これでミッションは終了だ。
…公国宮に向かい、報告しよう」
喜びに包まれる一行の中にあっても、てゐはただ寂しそうに笑うだけだった。
「しかし、こんな花があるなんてな。しかも夜のうちしか咲かないなんて。
これと此間持って帰ってきたサラマンダーって奴の羽根と、どうやってどんな薬を作るッてんだ?」
「それを考えるのは私達の役目じゃないと思うわ。
さて…やるべきことを済ませた以上ここには用もないわね。帰りましょうか」
文はわざとからかうような口調で、道具袋…これはリリカ達がポケモンリーグを目指す時に使っていたバッグと同じで、境界操作で中の空間をいじくっているものである…から、アリアドネの糸を取りだす。
「しっかし、あのリスみてえな生き物なんだったんだろうな?
最初の森にもいた気がするけど、まさかいきなりバッグの中に忍び込もうとするなんてな。
この私の目の前で不届きにも過ぎると思うが…一体何を盗もうとしてたのか気になるぜ」
「まあ、この私達相手にスリを働こうなんて百年早いし…そもそもこんなスキマバッグ、下手に悪意を持って構ったら私達だって危ないわよ。
あの小動物には気の毒だけど、正直何処へすっとばされたかなんて私達の知ったことじゃないわね」
文が投げはなった糸玉が空中で解き放たれ…そして、その空間から一行の姿が消える。
〜ハイ・ラガード中央広場〜
その広場を行く一行は、公国宮へ向かう道中で良く見知った顔に出会った。
「よう、透子じゃねえか。
お前なんだってこんなところに?」
その青い髪の少女は、魔理沙に呼びとめられて「やあ」と、飄々とした態度で片手を小さく上げて返す。
「お知り合いですか?」
「んー…そう言えばフランはこの子に会うの初めてかも知れないわね。
彼女は蒼井透子、つぐみの学校の先輩に当たる子よ。混血の半氷精だけど、チルノをダース単位で集めてぶつけても多分この子の方が強いわね」
「おいおい冗談はやめてくれよ文さん、チルノなんて一人でも十分手を焼くのに。
あたいはかごめさんに呼ばれて来たのさ。先刻帰った連中と入れちがいでね」
「帰った? どういう事だ?」
訝る魔理沙を押しのけ、てゐは透子の両腕をつかんで誰何する。
「教えてくれ。
一体誰が帰った!? どんな様子だった!?」
それは誰もが初めて見るようなてゐの姿であっただろう。
真剣な表情で見つめるてゐに戸惑いながらも、透子は応える。
「どうって…リップもめうの野郎もいっつも通りだったしなあ。
なんかヤマメさんが相当ハッスルしただとかで、めうが言うにはリリーゼさんを理論値叩きだす方がよっぽど気が楽だったとかよくわからんことをほざいてたんだが」
「うわあ…やっぱりあのみょうちくりんな術師、中身あのサイドテールだったのかよ…で?」
「ん、ああ。
それで、かごめさんいわく最初は帰らせるつもりだったんだけど、美結とつぐみだけこっちに残してもう少し色々訓練するとか何とかで、リップが口を尖らせてたような。帰り際にみんなで揃ってギルドハウスで説明受けたとか言ってたから」
そこまで聞くと、てゐは透子を解放すると同時に、文字通り脱兎の如き勢いでギルドハウスの方へ駆けていく。
ワケが解らないという風に顔を見合わせていた透子と魔理沙、成り行きを見守っていた文たちもまた、一拍遅れてその後に続いていく。
♪BGM 「東方緋想天」♪
紅茶館の扉を勢いよく開け放ったてゐの目の前に、二人の少女が向かい合わせに腰かけているのが目に入る。
一人はつぐみ。そして…もうひとりは。
「お帰りなさい、です。
色々、気を遣っていただいて…ありがとうございました」
にっこりとほほ笑むその桃色髪の少女の姿に…こらえ切れなくなった感情が涙となって流れ落ちていく。
文達が辿りついた時に見たのは、自分と然程背の変わらない少女を抱きしめて、人目を憚らず泣きじゃくるてゐの姿だった。
事情の飲み込めていない魔理沙たちはただ、顔を見合わせる。
「一体全体どういうことなんだぜ?」
「そんなの、あたいが聞きたいよ。
そもそもあたい今日初めてここへ来たんだから、むしろあたいに何が起こったのか教えて欲しいんだけどね」
「色々あったんだよ。まあ、気にしないでやってくれ」
肩を竦める透子の背後から、唐突にかごめが顔を出す。
ぎょっとして振り返ると、そこにはかごめと…彼女が手にした紐の先でスマキにされて引きずられているヤマメの姿があった。
「気にしないでやってくれと言われてもなあ…それにそのヤマメ、一体何があったのぜ?」
「ああ、この馬鹿は多少良くない方面へハッスルしやがったから見せしめだ。
後で鬼瓦がわりにギルドハウスの軒先にでも吊っといてやる」
「うおおおおおおお妖怪虐待反対いいいいいいいい!!><
確かにやり過ぎたのは認めるけどそりゃあねえだろこんちくしょおおおおおお!!」
「昔の人はいっためう。過ぎたるは猶及ばざるがごとし、めう♪」
そんなわめき声をあげるヤマメのところに、もう一つ予想外の人物がしゃがみ込んで身動きが取れないその頬をつついている。
「うるせえよこのエロサイドテー…ってお前帰ったんじゃねえのかよ!?」
「帰ったららんらん先生がウソついてたって解ったお。
リップは本当にやることがあるからどうしようもなかったけど、めうは最後までみんなと一緒に冒険できることになったの。
だからもうちっとだけめう達の冒険はつづくめうっ!!><ノシ」
「何処のバトル漫画の引きだそれ…」
顔の端をひきつらせる魔理沙が呆れたように呟く。
かごめは頭を叩く代わりにその帽子を頭へ深く押し付けて告げる。
「状況の収拾がついたら、これからの方針も伝えるぞ。
正直、今回もこの世界でやることが山ほどあるようだからな」
…
…
静葉「一応この透子なんだけどプリンセスベースの術掌アルケミにしてみたわ」
諏訪子「お前今までどこに行ってたんだよ?
っていうかかごめの奴が次回の引きやっちまった後に唐突に戻ってきてなに解説入れてるわけ?」
静葉「いえなんか、引きのタイミングとして微妙な感じだったし(しれっ
取り合えずここで藍とリップの出番が終わるみたいよ」
諏訪子「とりあえず一方の代わりが凍子なのは解ったがあと一人誰が来るの? それとも補充なしという事でええんかいな?」
静葉「(スルー)氷の花とか第三階層の特徴とか諸々はまあ、次で解説するわね。
次回をお楽しみにー♪(CV:三森すずこ」
諏訪子「( ̄□ ̄;)オメエもそれやんのかよ!!!」