「と言うわけで改めて、皆さんの仲間に入れてもらえることになったっす!
どうかよろしくお願いするっす!!」
満面の笑顔でにっこりと笑いかける翠里に、美結とめうは何度も目の前の翠里の顔と、お互いの顔を見合わせる。
「…知り合い?」
「ううん。隣のクラスだったと思うお。
めうは一度メンバーと一緒にいたところを捕まっためう。
めう、実はバンドの話は学校ではしてなかったから、出来れば内緒にして欲しいって頼んだめう」
「あれ、そうなの?
めうめう達のバンドって、地元でも結構有名だったと思うけど…」
「いちおー、めう学校では髪型変えて伊達メガネつけて、普段と違う格好してるめう。
なぜなら普段正体知られてない方がミステリアスで格好いいからめう!!>ヮ<ノシ」
あーはいはいさいですか、と喉まで出かかった言葉を飲み込んで、渋い顔で顔を見合わせるつぐみと透子。
そして、つぐみの視線を受けた美結が、何処か呆れ半分に溜息を吐いて口を開く。
「白鳥翠里さん、凛女中等部新聞部部長。
兎に角ロクでもないゴシップ記事ばかり書いて…氷海会長にもしょっちゅう付きまとって、まあ散々色々書いてくれやがったこともあったっけ。
そのたびに私が水際で止めて突き返してやったんだけど」
何処か不満げに頬を膨らませる美結に、ちっちっと指を振る翠里。
「書記さん解ってないっす。
前会長に直接見せに行ったとき、私のイメージは堅過ぎるから、このくらい普段のことをアピールしてくれればイメージアップにもなるって誉めてくれたっす!」
「それはそれ、これはこれだよッ!!><
あなた海ねえさ…会長が留学した後も、しょっちゅう学校サボって楽奏まで潜りこんでたわよね!
正直会長になり変わって何時粛清してやろうかと」
「どうどう、美結ちゃん落ちついて><
あーもう…最近氷海さんの話しなくなったからそれでも鳴りひそめてたのにこれ」
「こういうのもなんだけど…かごめさんから見せてもらったボツ記事?
美結から強引に譲り受けたってデータ見せてもらったけど、まー確かに普段の氷海よく観察してるなって感心したよ。
美結のことだってさほどイメージと差異ねえし、何より文章面白くてあたいは好きだよああいうの」
「だからこの子いつもそうやって、書かでもなこと書くからいやなんですよ!!><」
「真実は何時も一つ、何時も清く正しい新聞部としては真実を余すことなくお伝えするのが義務っす」
何処か得意げにふんぞり返る翠里に、なおも噛みつこうとする美結をつぐみがなだめるその光景を、少し離れた席でかごめと諏訪子が伺っている。
「話聞けば聞くほど、廉価版射命丸文みたいな奴だなあいつ。
…にしても、かごめ。お前何時からあの子の情報を集め始めてたんだ?」
「今だから言うがな、実はあの夏の後からじきだ。
凛女学園、日向美高、天神学院、倉野川工専、さくら野高に倉野川の各小中校…面白そうな奴をリストアップしていた中で、今プレの学園都市で活動させてる蒼刻院弓弦ともうひとり目をつけてたのが、あの子だ」
「そんな前からなのか!?」
眼を丸くする諏訪子に、かごめはなおも続ける。
「両親を早くに亡くして、母方の親戚である白鳥の老夫婦を身請人としてるが、素性ははっきりしている。
…倉野川という土地は、知っての通り人間だけが住んでるわけじゃない。
ごく一部妖精国にすら居場所を失くした魔性達とその一族も、僅かながら人間として生活している。
あの子が幼い時死に別れた父親は、はたての野郎の遠い親戚で、恐らくは幻想界最後の天狗純血統だろう。
だから、あの子の本来の名前は白鳥翠里ではなく…姫海棠翠里と呼ぶべきなのかもな」
「天狗と人間のハーフ…あの子が…!?」
かごめは頷く。
「あの子自身は自分の来歴をほとんど知らなかったみたいでな。
あの老夫婦も、孫が実質あの子しかいないってんで大分可愛がってたから、出来ればそんなこと一生知らないでいて欲しいと思っていたようだが…いずれこんな時もあるかとも思ってたみたいで、色々教えてくれたよ。
…ああ、一応あの子もその時同席してたが、むしろ目をキラキラさせてやがった。
文のアホに惹かれるあたり、はたての血筋なんだろなこれ」
「そういうもんなのか?
…ってことは、私の予想通り、ただの人間じゃなかったってワケか。
私達の留守中にも色々面倒事を、しかも一人であらかた片づけてのけたってことから見ても資質は十分だとは思うが…」
「なにより文やはたてと組ませたら、おもろい新聞こさえてくれそうじゃね?」
「本当にそれだけの理由だったらぶっ飛ばしてやるところだがな」
呆れ顔で溜息を吐く諏訪子を余所に、かごめはガヤガヤと言い合いを続ける少女達を促して黙らせる。
「あんた達、とりあえずそこまでにしておきな。
先にも言った通り、美結達が金竜を討ったことで十分な準備が出来たと言っていい。
明日、ギンヌンガ最後の封印を解く」
「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第三十一夜 ギンヌンガの禍
その言葉の意味がいまいち飲み込めないのか、美結とめうと透子は顔を見合わせる。
訝るような表情でつぐみが問い返す。
「どういうこと?
ギンヌンガの封印って、確かもうほとんど力を失っているって」
「確かにあたしの見立てでは、「上帝」の完全覚醒と同時に、それに呼応する形でフォレスト・セルが覚醒するはずだった。
ところが…ひとつ誤算があった。リリカ達だ」
「リリカさん?
そういえばあのひとたち、ホウエンとかいう地方に行ってたって聞いたけど」
透子の言葉にかごめは頷く。
「ホウエンに限った話じゃないんだが、あっちの世界で超巨大隕石が接近しつつあり、その対策をしていたトクサネ宇宙センターで、隕石を別次元に飛ばす異次元転移装置を搭載したミサイルのもっとも重要な部品が、何者かに強奪される事件が起こった。
折しも、マグマ団がゲンシグラードンを覚醒させて、あわや世界滅亡、という事件になってた裏でひそかに起こった事件であったから、発生直後はあまり気にしてはいなかったが…どうもキナ臭いものを感じたんで元ギンガ団(うちの裏方)に調べさせたら、その次元転移装置がカロスの最終兵器の流用で、挙句転移先も何処だか解らないとかいうふざけた代物なのが解ってな。その事を責任者全員集めて締め上げ喰わせてやろうかと」
「あ、ごめんお母さん。その話長くなりそうなら要点だけお願いしたいんだけど」
「……おまえなあ。まあ確かに道中の話、そんな関係ないけどな。
まあなんやかんやあって、隕石を砕くために空神レックウザの力を借りようと色々事件を起こしていた流星の民から、力の継承をされるどころか、もはや寿命を迎えようとしたレックウザの力までまとめて、こともあろうにこいしの野郎がまるっと受け継いだらしいんだわ。
勿論、あの無意識単独でそんなデタラメな力が制御できるわきゃないんだが…リリカが自分のドラゴンハートと、こいしのドラゴンハートに空神のパワーを分けて受け継ぐことで解決した。
隕石は無事、連中によって破壊され…で、強大な空神の力を竜神の力に上乗せしたあの連中の所為っつーかお陰で、ギンヌンガの結界が一時的に力を取り戻しちまったらしいんだ。
元々、ギンヌンガはファフニールの戦闘訓練施設であると同時に…ファフニールの生命力をエサに、フォレスト・セルをその場から活動させないための揺り籠であり、それを「結界」と呼んだわけだが…何の因果か空神の力が邪魔して巧く世界を越えられなかったあいつらが、最初にギンヌンガに入ったことで影響を受けたらしくて」
「つまり、まだフォレスト・セルは眠ったままになっている、と」
「そういうことだ。
あいつらの力の残り香でも、十分過ぎる効果があったが…そう長く続くものじゃない。
セルが完全覚醒する前に、今のお前らなら十分倒し切れると踏んでのことだ。この地のセルは、まだそこまで強靭な生命力を有してはいない…それどころか、ファフニールの生命力が十分過ぎるほど優良な「エサ」となっていたお陰で、タルシスやエトリアのように何時暴走してもおかしくない状態にまではなりえなかったんだ。
だが…お前らも知ってると思うが、ある理由から「ファフニールの騎士」はもう、生み出されることはない」
四人は険しい表情で顔を見合わせる。
「あ、あのすいませんかごめさん、ひとつ質問いいっすか?」
ああ、とかごめは翠里の発言を促す。
「別につぐみさん達にさせなくても、かごめさん達で倒しに行くってことはできないんすか?
私でも…少しくらいは知ってるっす。かごめさん達が、強大な力をもった真祖だって」
「あたしの力や、他の真祖・貴種クラスの力をぶつけちまえば確かに倒せるだろうが…その妖気に呼応してセルが戦闘中に完全覚醒することは不可避、そうなれば戦闘の余波でハイ・ラガード周辺も焦土になっちまうだろう。
そうすると、上層の森に封印されてる厄介な魔物も外へ解き放つことになりかねん…あんた達がセルとやり合っている間、あたし達真祖・貴種級数人でギンヌンガ内部からの力の余波を遮断する結界を張り、一切の影響を遺跡外部に出さずに終える必要があるんだ。
まあ…ドラゴンハートの力を得たあんた達の力も、恐らくは個々でも貴種上位に匹敵するレベルにはなってるだろうがな」
いまいちよく飲み込めていないのか、はあ、と、小首をかしげる翠里。
そして、かごめは四人を再び見まわして告げる。
「藍を介して始めた、あんた達の実戦闘訓練も大方の目的を達成しつつある。
故にこれは、あんた達にあたしが課す最終試験だ。
ギンヌンガの禍を討ち…誰ひとり欠くことなく帰ってこい!」
…
…
ヤマメ「あ、ドーモ。ヤマメさんです」
さとり「そのどっちつかずな挨拶やめましょうよ。
忍殺するなら最後まできちんとアイサツしろとフジキドさんも言ってます」
ヤマメ「いってねえよ何処情報だそのデマ。
まあまた色々キナ臭い話がばら撒かれてるけどなんだ、いよいよストーリーモードでの最終戦フォレスト・セル戦だな。
ストーリー展開に準じているから、クラシックだとクリア後のクエストとして登場するんだが」
さとり「まあどう考えても金竜の後にやるクエではないことは確かそうですね。
というかどうでもいいことなんですけど、かごめさん何気にまだ宇宙開発公団の総元締めやってたんですね」
ヤマメ「結局尻切れトンボになりつつあるORの話でも、元ギンガ団の実働部隊を色々裏で動かしてたことになってるらしいからな。ある意味アカギよりタチ悪ぃっていうか、その気になればロケット団でも成しえなかった世界征服成し遂げちまうんじゃねえのかなかごめの奴。
まあ手段の良し悪しに関わらず、あの公団ポケモンの話するたびに着々と全世界に進出してるみたいだし。流石にあのステキファッション(笑)じゃねえみたいだけどよ」
さとり「考えようによっては恐ろしい話ですね本当に。
さて、脱線させたのは私ですが、とりあえず話を戻しましょうか。今回はギンヌンガ最下層のフロア攻略ですね」
ヤマメ「出来りゃ一本にまとめたいところだけど、まあ前置きが無駄に長いからな。
とりあえずさとりさんよ、翠里の件は触れとかなくていいのか?」
さとり「キリないんでやめときましょう、いいですね?(キリッ」
ヤマメ「アッハイ」
…
…
~ギンヌンガ 境の扉~
「それじゃあ皆さん、張り切ってまいりましょうか!!」
「いやちょっと待ってすごく待って。
なんであなたこんなところまでのこのこついてきてるのよ!?」
「はい?
ああ、言い忘れてましたけど、此処から「禍」の居る最深部までは、私が皆さんを案内していくことになってるっす。
この先結構滅茶苦茶なんで、案内無しではきついでしょうっていうことでして」
あっけらかんと言い放つ翠里に、それ以上言うべき言葉も見つからないのか、真っ赤な顔でただ口をパクパクさせるだけの美結。
その彼女を宥めながら、透子が前に出る。
「するってえと、あんたもう、先には行ったんだな?」
「あっはい。
皆さんが来る前に、大公宮のえらい人から直接、この遺跡の奥について調べてくれって依頼がありまして。
簡単にではありますが、行ける所までは行きました。ですが…」
翠里は僅かに険しい表情をする。
「…今の私には…解るんすよ。
あの扉の奥には、途轍もなくヤバいものがいるって。
ひょっとすると、そこにいるのは人間がおいそれと触れてはいけないようなものなんじゃないかって。
正直…皆さんがアレと戦わなきゃならないって、どう考えてもおかしいと思うっす」
「あたいも最初は、そう思ってたさ。
けどな…折角ここまで来たんだ。
使命なんて大それたもんじゃない。これはただの、あたい達の意地だよ」
「意地…っすか?」
ああ、と透子は頷く。
「そうめう。
もう此処までいっしょに来ちゃったから、隠す必要もないと思うけど…めう達にもそれぞれ、目的があってやってることめう。
みんなそれぞれ別の目的だけど、行く場所とやることがいっしょなだけ。それだけのことだお」
「そうだよね。
だから、この先に潜む「禍」を、私達の命と引き換えにどうこう、っていうんじゃないよ。
私達の目指す者の先にそれがたまたまいて…ジャマだから退かして通る、それだけだから!」
その時になって、ようやくというか…美結も溜息をついて続ける。
「そうね。
勿論、私達は死にに行くわけじゃない。
けど、余計な体力を使わないに越したことはないもの。
…あなたに案内、任せていいんでしょう? 安全かつ最短ルートで頼むわよ…翠里さん」
そう言って肩を叩く美結の手と、その顔を交互に見ていた翠里だったが…少女達の決意を受けて取ったのか、にっこり笑って答える。
「了解したっす!
道中の露払いも、私に任せておくっす!
それでは、参りましょう!!」
開け放たれた深淵への扉を開け放ち、翠里を先頭に少女達はその先へ進む。
倒すべき「禍」の潜む、最深部へ。
…
…
ヤマメ「あれ? ゆうかりんさんは?」
さとり「一応同行してますよ。
このシーンでは出てきてないだけですんで、いいですね?(二度目」
ヤマメ「アッハイ。
結局ギンヌンガっていうのはアレか、デミファフニールの回でも言ってたように、ファフニールの強靭な生命力をエサにして、フォレスト・セルの活動を抑制する施設ってのが本来の目的なんだよな?
百年に一度、という世代交代の理由がよく解らないんだけど」
さとり「丁度、役目を引き継いだファフニールの騎士が、総ての生命力を使い果たすのが百年だそうです。
世界滅亡から千年余りしか経ってない、という建前を考えると、実はそう何回もされてきた様な儀式ではない気もするんですが…どうなんでしょうねその辺。
ひょっとすると、世界が滅びたのは千年以上前の様な気がしなくもないんですけど…とりあえずどうでもいいというか、ここでは狐解釈として、この世界が滅びたのは数千年以上前という事になってますのでご了承ください」
ヤマメ「だよなあ。どう考えても滅びた文明の遺産がベースになっているとはいえ、そんな短期間で終末戦争から大地を蘇らせる、なんて芸当不可能だろうし。本当に千年と仮定するなら、ファフニールの儀式も多くて7、8回程度しか行われてないんじゃないかな」
さとり「それだけ行われてれば十分な気もしますけどね。
あと、ストーリーモードではデミファフニール戦後の宿屋イベントで、夜中ベルトランが訪ねてきて、彼がファフニールの騎士になった当時のことを少し話してくれるのですが…彼がファフニールになり損ねた背景には、やはりというか多分に政争的な背景が絡んでいるようです。
彼の家であるジェルヴェース家を含むカレドニア貴族は、代々持ち回りでファフニールの騎士を輩出していたようですが…彼が騎士になる少し前、彼の父親が急死を遂げたことで、ベルトランが家督を継いだのですが、本来選ばれるべき者がいた筈のこの時の騎士も「武名高いジェルヴェース家から」という事で急遽変更されたという背景があったそうです」
ヤマメ「ふぅん。
仮にこう呼ぶが…ベルトランの父親であるジェルヴェース卿もいなくて、家督を継いだばかりのベルトランを騎士に選んだ…ベルトランの様子から、ファフニールの騎士というのがどんな役割を持っていたのか、ベルトラン自身も知らなかったようだしな。
そうすると…他の貴族たちは、間接的にジェルヴェース家を潰そうと画策していたってことか?」
さとり「十中八九、そうでしょう。
ベルトランと、当時の印の娘であったヴィオレッタ、かなり親しい間柄…ひょっとしたら、恋仲だった可能性も高いです。
もしベルトランが次代のカレドニア公になる可能性があったら…そこまででなくても、ジェルヴェース家が公女を娶るような家柄になったら…他の貴族にとってみれば相当邪魔に見えたことでしょう。だから当主を暗殺し、後継者をファフニールに選んで実質的に抹殺し…残された継母と義理の妹まで始末してしまえば、ジェルヴェースの家をカドの立たないように葬り去ることができる、という目論見だったんでしょうね」
ヤマメ「成程ね。
あの時、黒の護り手に「権に狂った人間」と言わせてたのは、この見解を匂わせていたわけか」
さとり「そういうことです。
例の動画の話をあまり引き合いに出すのもアレですけど、狐野郎があの動画の私や藍さんを散々ネタにして蛇蠍相手のような散々な言い方するのも、そういう権力闘争みたいなクッソ汚いの嫌いだからですね。私も嫌いですが(キリッ」
ヤマメ「いちばん権謀術数の類がしっくりきそうなお前がそれを言うのもなあ。
まあいいや。話は相当脱線したが、デミファフニールから向こう随分遺跡の話もとんだよなあ、時期的に」
さとり「本来なら、そこで主人公が護り手になって総ての儀式が終わるはずだったんですしね。
ストーリーでは、もう一つの伝承…すなわち「ギンヌンガが終わりを告げるとき、オーバーロードを頼れ」という意味合いの言葉に従って、天空の城を目指す事になります。
そこで、オーバーロードと戦う事でその力を示し、彼の研究により強化された状態でフォレスト・セルの討伐に向かう…という展開になりますね。
天空の城にあるオーバーロードの音声記録や、彼の言葉にある「遺伝子研究に長けた者」は、初代黒の護り手である事が、おぼろげながらわかる描写になってますね」
ヤマメ「救いようのない絶対悪で、なおかつそのありえない弱さからネタにされることの多いバーローの数少ないフォローポイントだという話もあるけど、結局「バーローも護り手もどっちもあかんやろwwww」みたいな結論に向かっているのが何ともな。
そもそも敵方で遺伝子だの生体改造だのやらかしてる連中ロクなのいないよな、妖魔司教ザボエラ(ダイの大冒険)しかり大博士リー・ケフレン(超新星フラッシュマン)しかり」
さとり「否定できないところが哀しいですねえ。もっともケフレンに関してはある意味被害者の様な気もしますがまあ、どうでもいい事ですね」
…
…
遺跡内部を進む少女達。
不意に、ある区画に入ろうとしたところを翠里が制止し…めうはそれに気づいて指差す。
「なんかヘンなの飛んでるめう」
「なんじゃありゃ。
ウミウシにあんなのいたような気がしたが…どう見ても浮いてるよなアレ。
新手のスカイフイッシュかなんかか?」
「あいつすっごく面倒なんすよ。
再生能力がハンパなくて、やり過ごすのも面倒なんですが…ちょっと待っててくださいね、この先も安全に通れるようにしてきますんで!」
きょろきょろと様子を伺っていた翠里だったが、壁の一角に何かを見つけたのか、先陣切ってその青い正体不明の魔物へと近づこうとする。
美結は、彼女が見た壁の所に、ありえないものを見てあっと声を上げようとするが…。
「まだ動いちゃダメっす!」
その声と共に翠里は急加速し、その一瞬後を高速で何かが横切っていく。
動きの止まったそれは…おぞましくぬめる、イソギンチャクの様な形状の強靭な触手…そして、ずるずると戻って行くその壁際には…爛々と光る巨大な眼球。
「∑( ̄□ ̄;)にゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
「うわあ、なんだあの、SANチェックしてくれと言わんばかりの代物は…っていうか、翠里の奴これを見てから動いてたけど」
訝る透子はその理由をすぐに覚る。
翠里の挑発に乗ったらしいその青い謎生物が、その区画に入った瞬間…目玉が妖しくそれを捉え、次の瞬間その生物を己の触手で捕獲したではないか!
「∑( ̄□ ̄;)ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
「今っす!
あの「踊り手」に触手が夢中になってる今なら、安全に進めるっすよ!」
「そういうことか…なんて心臓に悪い仕掛けなんだ」
溜息をついて、今だそのショッキングな光景に放心状態のめうを促して透子は翠里の後に続いていく。
何故か茫然と突っ立っている美結に、つぐみは促そうと背を叩く。
「どうしたの、美結ちゃん?」
「さっき…翠里さんの背中…あ、ううん。なんでもない。
急ごう」
美結は気のせい、と頭を振るが…彼女の眼にはそれが映っていた。
翠里の背に一瞬広がった、漆黒のビロードめいた光沢を持つ、鴉天狗の翼が。
…
…
さとり「今回ダメージ系トラップも豊富にあるSSQ2ですが、此処にあるのも結構エグイですね、ビジュアル的に」
ヤマメ「SQ3の最下層で登場した目玉が攻撃を仕掛けてくるとかもうね。
とりあえずFOEを捕獲させて誤魔化しながら先を進むのか」
さとり「そうですね。
なお触手トラップは強制的進路変更、というか強制的に引っ張られた挙句、ダメージ受けた挙句3ターン強制停止。
目玉から4マス内に入った状態で、そのマスにいる状態で一歩進むとトラップ発動です。
その状態でこのマップに居る唯一のFOE・蒼翼の踊り手に捕まると全縛りからの戦闘開始です」
ヤマメ「蜘蛛どもの糸にダメージと引き寄せ効果がある、ということか」
さとり「簡単に言えばそうですね。
蒼翼の踊り手はスカイフイッシュとも、一部の遊泳性ウミウシとも言われてますが…実は巡回+強追尾型のこいつもこのトラップの有効範囲に誘導してやると、踊り手も捕まります。
なお、捕まった状態の踊り手に攻撃を仕掛けると、踊り手も全縛りになってますので狩るチャンスですね。まあレアドロもないし素材で出来る軽鎧の性能もさほどでもない、そもそも軽鎧ならファーもエロヴィオもクロエも専用装備解禁されるこの状況だと不要ですかね」
ヤマメ「何か色々酷いな」
さとり「その代わり、マトモに戦おうとするとこのUMA、2ターンに一度自分のHPを全回復しやがります。HPを全回復する癒しの舞は脚依存なので、縛って殺るかバフデバフ駆使して1ターンで沈めるかで片づけるといいですね。ランダム攻撃「乱れ舞」の命中ダウンがうざいですが」
ヤマメ「視覚的に、というなら、内部の通常敵も酷いよな。
ルーカサイトにレッドコーパスル、ヘルパピヨン…なんだこれ何処の無印六層だよ」
さとり「激おこぷんぷん蟹がいなかったり、メタルニードルが壊雷以外全く通らないとかいうふざけた耐性じゃない分、マシじゃないですかね。
その分あり合わせっぷりが酷いですけどね。ああ、基本的にやってくること変わらないですし、ヘルパピヨンのフリーズなんかはグリモア化しておくと結構便利ですよ。大氷嵐より燃費いいですし」
さとり「とりあえず詳しい解説は次回回しにしておいて、今回はセル戦のスキル紹介だけ…と言いたいところなんですが」
ヤマメ「が…なんだよ」
さとり「実は画像整理上の手違いで写真を紛失してしまいまして(しろめ」
ヤマメ「……………なんかアラクネーの時もそんなこと言ってなかったか?」
さとり「その時の違いはまあ、実際に戦ってるのは美結達ですし、あと2レベルほど上がってますが基本的には金竜戦とほぼ同じ構成です。
美結は相変わらず異常をぶち込む方面ではなく、火力重視の構成のままですが…次回解説するフォレスト・セルには盲目が入るので、めうのダブルショットと序曲が抑制攻撃ブーストと暴風の翼に、透子のショックガードも霊攻大斬になってますかね」
ヤマメ「ある程度は透子で殴っておくと?」
さとり「あと、スキルもめうは雷劇のばしてますね。
まあそのくらいでしょうかね。なお美結は条件を満たしただけでソウルリべレイトはまだ取ってないですね」
ヤマメ「ソウルリべレイトって使用感としてはどんなもんなの?
継続的な火力としては、トランスとも相性いい霊攻大斬みたいな雰囲気あるけど」
さとり「仕様の関係で前作はそこそこあったダクハンのTECですが、今作は全職最低値です。
巫剣はSTRとTEC両方参照するので、トランス込みでないと霊攻大斬のダメージもそこまで期待できないんですよ。
継続して大火力が出せないソウルリベレイトは使いどころ難しいですが、同条件で霊攻大斬の倍近い威力のふざけた一撃を叩き出せます。まあ、使い分けで両方持っていく方向性で」
ヤマメ「眠りとは圧倒的に相性いいからな。
じゃあ、いよいよ次回は」
さとり「あまりにも挑むのが遅すぎたフォレスト・セル戦に続きますよ。
今回はここまでですね」
…
…
美結達はついに、その地へ…ギンヌンガの最奥へとたどり着く。
紅い光の文様で鎖されたその扉の奥からは、静かだが、確かにそこにすさまじいものが潜んでいるというプレッシャーが伝わってくる。
その意思を確かめ合うように立ち止った美結達に、何時か聞いたその声が響いてくる。
-異界の子らよ。
よくぞ…十分な力をつけ、此処まで辿りつきました。
…あなた達になら託すことができます…あなた達は、このギンヌンガが何のために作られたか…その事も知っていますね?-
黒の護り手…そう名乗った存在の声が、柔らかいイメージの、憂いを帯びた女性の声に変わって響く。
美結達は無言で頷く。
-あなた達も知る、世界樹の生んだ闇…「喰らいし者」フォレスト・セル。
私達はその誕生を予見しながら、それに対抗する手段を作ることはできなかった。
遠くタルシスに生きた科学者たちも、エトリアで「ヒト」を捨てて対抗したヴィズル博士も…私「達」も、また。
私がそのシステムを作り、この地で行った封印も、決して「
「でも…あなたはそうやってベストを尽くして、私達のような存在が来ることを待ち望んでいたんじゃないかって…今なら解ります。
此処からは、託された私達の役割です」
美結は静かに剣を抜く。
「人間も妖怪もない…魂と意思をもって存在するモノは、その都度困難を乗り越えていける力があるって。
私も、この樹海に足を踏み入れて間もなくの頃は…今頃はもう、物言わぬ状態になって、間際に迫る死を待つだけの運命だったんです」
その言葉に、驚愕で目を見開いたのは事情を知らぬ翠里。
声を上げようとする彼女を、めうがそっと制して、頭を振る。
めうは、当初から美結に待ち受けていたその運命や来歴を知っていたわけではないが…勘の良い彼女は、美結が哀しい運命を背負っていたことに薄々感づいていた。
ヤマメとの戦いの際、もろにその猛毒を受け完全に意識を失っていたリップと違い、彼女はヤマメの猛毒貫手を受ける瞬間に自らに「刻印術」を施し、一時的に毒に強い体質となって、気を失ったフリをして反撃のチャンスを待っていたのだ。
しかし…ヤマメとつぐみとのやり取りで、美結に何か重大な…命に関わるような致命的なものを持っていることを確信しためうは、大人しくその成り行きを見守ることに決め…そして、事が済んで倉野川へ戻り、リップが去った後に藍を問い詰め、その事実を知った。
めうは藍がウソをついていたことも見抜いており…彼女は「美結の行く末を見護る権利は、美結やつぐみと同じように、藤野の血を引く自分にもある」と藍を説き伏せ、再びこの旅路に加わったのだ。
「私は…ううん、私だけじゃない。
此処にいるみんなが、不可能とも思えた総てを覆して、今ここに立っている。
だから…この地の禍は、私達が討つ!!」
「そうだな。
此処で止まってるようじゃ、あたいたちの未来なんか絵空事で終わっちまう」
「此処まで来て、引き返す理由は私達にない。
行こう、私達の…めう達の描いた未来へ突っ走るために!」
-ならば改めて…あなた達に託しましょう。
未来あるあなた達に立ちはだかるこの魔を、次代の禍として残さぬよう…それが最初の「護り手となった」私の最後の願い…!-
封印が開け放たれ、おぞましい魔のオーラが洪水のように5人をつつむ。
それに引かれるように、わらわらと「踊り手」と呼ばれる不可思議な魔物たちが集まってくる。
迎え撃とうとするつぐみを制し、後方の「踊り手」に対峙する翠里。
「聞きたいことも知りたいことも、山ほど出来てしまったっすけど…今は、聞きません。
…みんなは、あの扉の向こうへ。
私は…こいつらを一匹たりとも、この先には通さないっす!!」
そして、魔弓に矢を番え、背に漆黒の翼を広げる。
鴉天狗としての力の発露であるその翼に、一瞬驚く四人だったが…その翼を示す事が、彼女流の「信頼」を示す行為と覚り、頷きあう。
「わかった…終わったら、今までのこと、全部話すよ。
だから、必ず…必ず一緒に帰ろう、翠里!」
美結の言葉に、振り返らず親指を立てて返す翠里。
その後姿に背を向け…少女達は決戦の地へ飛び込んでいく。