扉の向こう…巨大な竜が群れを成して屯していられるほどのその区画に、その魔はいた。

おぞましくうねる触手は、最早それ一個が凶暴な亜竜(ワーム)の如き強大で強靭。
視認できる竜の如き触手の奥に本体があり、まどろみの中にあったその醜悪な邪神の眼が、戦いの気配を感じ取って見開かれる。



「こいつが…フォレスト・セル」
「エトリアやタルシスで見たものとまるで違う…このセルはきっと、今まで喰らい続けた「ファフニール」の生命力で進化したんだ。
でも…今なら解る。今の私達で、戦えない相手じゃない…!」

銃をすっと構えるつぐみに、恐怖はないように見える。

だが、彼女の想いは真逆だ。
エトリアでの戦いは、かごめや文、紫、ポエットといった…頼れる古豪達が共に戦ってくれた。
竜を討ってその力を得たとはいえ、こんな怪物に勝てるのだろうか…その不安と恐怖が、彼女の指先を震わせるのを、ただ強気な言葉で無理矢理押さえつけようとしている。

「気負ってんじゃないよ。
…こいつがとんでもねえバケモンだってのは、見りゃわかる。
正直こんなのとやり合って生きて帰れるのかどうか」

透子は、険しいながらも口の端を釣り上げ、つぐみの背をどやしつける。

でも、生きて戻らなきゃならないんだ。
めう達の…帰りを待つ人たちの所へ」
「行こう、つぐみちゃん、めうちゃん、とーこ先輩。
私達の手で…ギンヌンガの歴史に真の終焉を!

そして…手に取る獲物と共に戦いの構えをとる少女達に呼応するかのごとく、世界樹の魔は名状しがたき咆哮を上げる。
互いの生き残りをかけた、その戦いの号砲がごとく。



「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第三十二夜 決戦 ~ 千尋の底、干戈の響き




さとり「あ、どうも前半から続いてます」
ヤマメ「お前他人のこと言えた義理ねえじゃねえか。
   そもそもその系統のネタって前半の終わりにやるもんだよな」
さとり「こまけぇことはいいんですよ。
   というわけでアレですね、ギンヌンガ最後のボス・フォレストなんちゃらさんです。
   サヴァイヴァー=ドージョーの大将とは関係ありません」
ヤマメ「…まー今季(2015年春)にニンジャスレイヤーもアニメ化したけどさあ」
さとり「アレはアニメ化ではなく「シヨン」というなにかです(真顔
   それはそうと兎に角手っ取り早く解説していきますよ。
   別に紙面足りないわけじゃないですけど(しれっ」




ギンヌンガ最終ボス フォレスト・セル
レベル62 HP25000 物理全般に弱め、属性全般弱点 即死、石化、呪い無効/毒と盲目と脚封じ以外全般的に耐性あり
ポイズンダスト 全体に毒付与、さらに3ターンの間HP回復量低下を付与
カラミティアイ 単体に全個所封じ付与、さらに3ターンの間物理・属性防御力ダウンを付与、同時に強化もすべて解除する
カースオブルイン 全体に呪い付与、さらに3ターンの間最大HPを半分(端数切り上げ)にする
パンデミック 1人を対象にし、その対象が受けている異常・封じ・弱体効果を全体に付与する
アイソレイト 低威力の拡散無属性攻撃
ハルマゲドン 全体に遠隔無属性攻撃。後述するセル・オディウムが存在すると、その残り数に応じて威力が増す。
セルチャージ 存在するセル・イーラもしくはセル・オディウム1体を対象に、その弱体を総て解除し、3ターンの間物理・属性攻撃力をアップさせる
セグメント セル・イーラ2体かセル・オディウム2体を再生する。詳細は解説。
フォレスト・セルの使用する攻撃総てに依存部位はない。
 セル・イーラとセル・オディウムどちらかが出現している場合、精神障壁(モンスター図鑑に記載される「セルメンブレン」に相当するパッシブと思われる)が発生し、解除されるまで一切のダメージ、封じ・異常付与、弱体付与を受けない。
 セルチャージでイーラ・オディウムが再生されると発動し、発動時にセル本体の封じ・異常と弱体も解除される。このパッシブは全ての触手のHPが0になった時点で解除され、以降普通に本体にダメージが通るようになる。

セル・イーラ(最初に出現する触手、2体出現する)
レベル62 HP2500 属性全般に弱め テラー、眠り、盲目、頭封じ、脚封じ無効
ランドスライス(腕) 近接一列斬攻撃
デモンズランス(腕) 近接貫通突攻撃
サイクロンルーツ(腕) 全体に近接壊攻撃(セル・イーラ2体での連携攻撃)

セル・オディウム
レベル62 HP4000 物理全般に弱め 呪い、眠り、混乱、麻痺、腕封じ、脚封じ無効
ギガフレイム(頭) ランダム2~3回炎属性攻撃。同じ対象には複数ヒットしない。
フリーズノヴァ(頭) ランダム2~3回氷属性攻撃。同じ対象には複数ヒットしない。
サンダーレイン(頭) ランダム2~3回雷属性攻撃。同じ対象には複数ヒットしない。
※初回はセル・イーラ2体撃破後に出現。こちらも2体まで出現する。


ヤマメ「あーまあなんとなくパターン解ってたけど、別部位の処理がいるのねこいつ」
さとり「そんな単純な話でもないですね。
   面倒なのは戦闘開始時から展開されているセルメンブレン。テキスト上は「精神障壁」になってますし、SSQのとは効果もかなり違ってますが…これが展開されている限り本体には全くダメージが入りません。
   その状態で本体「も」行動してきます」
ヤマメ「なんかどっかで似たような奴がいたような」
さとり「そうですね総ての触手が消えてようやく本体にダメージが叩きこめるという意味では、完全に神樹ですねこいつ。
   なお本体は非常に脆く、エキスパでレベル72にもなってるとはいえゆうかりんさんの序曲付与フェンサー斧の一発で1500程度入ります。
   当然二回攻撃なので、ゆうかりんさんの一撃でこいつのHPは8分の1程度吹っ飛ぶ計算です。適正域ではもう少し下がるでしょうが、それでも本体にダメージが入る頃には一発でむしろこちらがドン引きするようなダメージが出ますよ」
ヤマメ「その代わり触手さん達がハッスルしてやがる、と」
さとり「そうとも言いますね。
   まず最初の状態では、セル・イーラが同列に二体存在し、なおかつセルメンブレンが発動している状態でスタートです。
   セル・イーラの行動は完全ランダムで、身構えた次のターンに連携攻撃のサイクロンルーツを使います。セル・イーラ2体の連携攻撃なのでさっさと一体潰してしまうといいですが、セル・イーラとセル・オディウムは1体ずつやられた状態になると、次のターン本体が「セグメント」を使い、HP最大の状態で一体補充してきやがるので、可能なら対になった触手を同じターンで2本とも潰す必要があります」
ヤマメ「うへえ面倒だなそれ。
   大体最初に居る触手攻撃範囲広くね?」
さとり「ええ。勿論火力もわりと半端ないですよ。
   本体は基本何もしないですが、開始2ターン目以降は3ターン置きにポイズンダストを使ってきます。
   毒ダメージも90前後(エキスパート)と結構無視できない威力ですが、面倒なのはHP回復量減少デバフのおまけですね。
   一応HP関係の弱体なので、蛮族や脈動、ハイリジェネなどで打ち消しができますし、結界があれば結界で毒付着諸共シャットアウトできます。ここでは後出しのリフレッシュと蛮族で対処しました」
ヤマメ「前作は蛮族は取得条件も面倒だった上に取得するメリットも薄かったけど、今回はとにかく出番の多いスキルになった感じがするねえ」
さとり「HPに関わる弱体を浴びる機会が増えたからっていうのもあるんでしょうね。
   で、イーラを始末すると今度はオディウムが2体生えてきやがります。
   オディウムの行動は左右でワンテンポズレがあるものの、基本的に炎→雷→氷のループです。最初に召喚された時は左が炎、右が雷からスタートします」
ヤマメ「左右別々の属性技を撃ってくるってか。面倒くせえな」
さとり「片方倒すと本体が復活させてくるのはイーラと一緒ですが、わざと一体倒して復活させると、左右の属性攻撃のズレをなくして一色のガードだけで対応できるから楽…に思えますけど、何しろランダム攻撃だから貫通してうまくないこともあるので、結局ガード役を2りにした方が楽と言えば楽ですよ。本体は、基本的にイーラの時にやってたポイズンダストがカラミティアイに変わるだけですが…これがまあ相当にウザいですね。幸いオディウムの火力は大したことないので、実はかなり楽なパートだと思います。
   問題はセルメンブレンの最初の解除の時。カースオブルインで全体に呪いと最大HP半減の弱体を撒いてきて、そこからアイソレイトを連打してきます。こちらも対応はポイズンダストと同じですが、8ターン経過かHPを17500以下に減らした時に二回目の触手召喚が行われます。ここからが本番ですね」








♪BGM 「戦乱 千尋の底、干戈の響き」♪


巨大な長蛇の如き触手を掻い潜り、美結が振りかざした刃をその本体めがけて突き立てようとしたその時…切っ先に強い衝撃を感じて大きく空中へ弾きとばされる。
空中で無防備になる彼女めがけて、巨大な触手が槍の如き勢いで迫るのが、つぐみの放つ雷の砲撃で一体が吹き飛び、そして、その残骸を残す元から蹴りあがり、迫るもう片方の触手に一撃加えながら間合いの外へ離脱する。

片方の触手をやられたように思われたが、それはうぞうぞと傷口を蠢かせ、再生を始めているのが見て取れる。


「畜生、埒が明かねえ」
「…私、タルシスのセルを見た事がある。
あいつも一緒だった…あの触手があると、それが展開しているバリヤーで本体が守られるんだ
「うみゅ、それじゃアレをさっさとどーにかしないとこのままじゃジリー・プアーめう」
「幸いにもこっちの攻撃が効いてないわけじゃねえ。
つぐみ、アレを一度に潰したらどうなる?」
「暫く再生できなくなったはず。
触手さえどうにかできれば、本体は思ったより脆い…でも、長引かせるのは危険、かも」

顔をひきつらせるつぐみの目の前で、さらに二本…本体と同じような頭部を備えた新手が出現する。

「体の一部がそれぞれ別行動とかいい加減勘弁してもらいたいもんだな」
「けど、文句を言ってるヒマはないです。
一体ずつ相手して埒があかないなら、まとめて切り裂くのみ!

美結は果敢にも、再び触手の間合いへと飛び込んでいく。
そして、振りかざした剣捌きがあたかも蠍の両鋏と尾の如き軌道を描く独特の剣技で、一気に両サイドの細い触手を切り裂いてのける。

そこへ、シャワーの如く降りかかる雷の息と、灼熱の炎が顔触手から放たれてくる。

「ったく…無茶すんじゃねえっての!
そらよッ!!

透子が無造作に払う氷の腕から、巨大な真空波が生み出され…その刃が触手の顔を捉えると傷口は瞬時に凍って砕け、さらには無防備だった本体の顔面にも深い凍傷を刻む。
名状し難い絶叫を発するそのおぞましき生物に、さらにつぐみの放った雷の銃弾が、歌の陣の魔力も巻き込んで深々と穴を穿ち、貫く。

「やっためう!」
「ううん、まだっ!!」

本体に無視できないほどの大きなダメージを受けながら、世界樹の生んだおぞましき生命はなおも怒りの咆哮を上げる。
再び生えた巨大な槍触手がめうとつぐみめがけて高速で…否、さらに二人の背後へと飛ぶ。

「えっ!?」

つぐみ達がそれに気付いたのは、その一瞬後。
触手の貫いた先には、先に背後へと迫っていたあの「踊り手」が…突き刺さっている。

見れば、なおも2、3体の「踊り手」が、ゆっくりとこちらへ近づいている。
貫かれた「踊り手」は槍触手に吸収され始め、そして、セル本体の傷もふさがり始めている…!


透子もその事態を理解して歯がみし…そして、ある予感が脳裏をよぎる。


-私は…こいつらを一匹たりとも、この先には通さないっす!!-


少し前、その扉の前に残った少女の言葉。

単身、後続を断つために己の身を張った翠里は…どうなってしまったのか。
この「踊り手」達に飲まれてしまったのか?


その逡巡が、一瞬の明暗を分けた。


脇腹に凄まじい衝撃と…そして、一瞬後喉を駆け上がってくる熱と、鉄の匂い。
つぐみが、自分の名を絶叫するのが一瞬で遠くに聞こえる。









さとり「まー解ってると思いますけど、流石にあのスカイフイッシュめいた生き物はログインして来ませんので(しれっ
ヤマメ「それはもう勘弁してさしあげろ(しろめ
   けどまあ、トラップの性質的に捕食対象になってることは想像に難くないがなあ」
さとり「それはまあ、とりあえず関係ないんで。
   2回目の触手召喚ですが、イーラ・オディウム同時の合計4体召喚です。
   此処からはセル本体も積極的に行動し始め、セグメント発動後のターンにセルチャージ→カラミティアイ→異常が入ってればパンデミック、なければ何もしない→何もしないという感じに進み、この時はオディウムは攻撃対象になりません。
   そしてオディウムが活動をし始める5ターン経過でオディウムに攻撃可能になりますが、本体はまたセルチャージを使って火力を上げてきやがります。こうなると、さほどではなかった属性技もかなりの破壊力になってきます」
ヤマメ「最初の時はイーラの方に強化はいるんだろ?
   サイクロンルーツなんて嫌な予感以外しないけど、他の技の威力ってどんなん?」
さとり「ランドスライサーが強化なしでも150前後貰う威力です。
   まあ放置は危険ですね、何しろイーラは完全行動ランダムなので、ランドスライサーを2本いっぺんにぶっ放された日にはパラディンかペットでもない限り前衛が全員吹っ飛びますよ」
ヤマメ「ですよねー(しろめ」
さとり「そして2回目のカラミティアイ使用した次のターン予備動作が入り、その次にオディウムとの合わせ技でハルマゲドンを撃ってきます。
   例によって轟音弾での妨害は不可、なおかつオディウムの生存数に応じて威力が倍加しやがるので、実質3ターン以内にオディウムを2体とも潰さないとえらいことになりますね。というかその時点でhageますよ」
ヤマメ「倍加ってことは、別にオディウム倒したからってハルマゲドン失敗するわけじゃないのね」
さとり「そですね。
   まあパラかペットがいるならフォースブレイクさせてやり過ごす方法もありますね。
   なお本体だけで撃ってくる場合のダメージは100程度なので受けることは可能です。ですが…」
ヤマメ「ですが?」
さとり「ハルマゲドンを撃ったターン、オディウムがいるならまたカラミティアイ→予備動作→ハルマゲドンとなるところ、オディウムが居なくなってセルメンブレンをはぎ取ると、その時点から最終段階に入ります。
   カースオブルインを使って来て、以降はハルマゲドン連打の発狂モードに入ります。この時のハルマゲドンは、撃つたびに25%ずつ威力が上がっていくという恐ろしいシロモノ…ダメージが最初の一発の250%程度になると強化が打ち止めになるとも言われますが、そんなんまでなったら普通回復追い付かなくなって死にますね」
ヤマメ「とはいえダメージ全般弱点だから、17500程度削るのなんてわけないだろ?」
さとり「まあ、それも裏返せばカースオブルインをいかにさばくか、でしょうかね。
   来るのは解ってるので、御馴染後出しリフレッシュと蛮族で立て直しつつバフデバフで準備し、次のターンから一気呵成に叩きのめすまでです。
   レベルは適正よりだいぶ高いのもありますが…先にも触れたようにゆうかりんさん単独でも本体のHPを一発で8分の1持っていく火力を叩き出せます。
   相手の行動速度もそこまで高くなく、なおかつディレイヒールも握ってますからね。最終段階に突入して3ターン程度でけりがつきましたかね。流石に危なげなく勝ち切れたかと思います」
ヤマメ「いざとなればエリアキュアもあるしな。
   アレ、キュアと一緒で行動補正プラスかかるよね?」
さとり「ええまあ。
   つぐみのエリアキュアもこの時点でマスターしてましたし、めうの歌スキルの次くらいに発動しますよ。本当に今回ディレイヒールがまったく役に立ってないのなんの」
ヤマメ「SSQのディレイヒール1振りですらトンチキな回復量だったしなあ。まあサイモンが発動前にサイモォン!!してたら意味ないんだが








「何匹か…逃がしたっす。
はやく…倒さないと…!!」

満身創痍のよろめく足を叱咤し、翠里は討ち漏らした「踊り手」を追うべく扉の向こうへ向かおうとする。
だが…おぞましい色の体液と、その滑りに覚束ない脚を取られ、顔面からその汚液の中へ突っ伏してしまう。


彼女は…生まれて間もなく父を、物心つく前に母を病でなくした。
彼女を育ててくれた白鳥家の老夫婦は、一人娘である翠里の母親以外に子供はおらず、愛娘の忘れ形見となった孫の彼女を大切に育ててくれたが…彼女自身、父親から受け継いだ天狗の力に恐怖を抱き、その為に「本当に孤独になること」を恐れて生きてきた。

白鳥の老夫婦は、彼女の父親が人間ではないこと…すなわち、異界である幻想郷から外の世界に迷い込んできた天狗であることも知っており、人間とは比べ物にならないほど長寿であるはずの天狗といえど、人界の空気は猛毒のようなもので、それ故に彼が命を縮めることになった事に心を痛めていた。
素性のわからぬ人外の青年を…青年の朴訥でありながら誠実な人柄もあってのことだが…娘と同じように、本当の我が子のように愛していたからだ。

老夫婦は何時か、翠里に本当の事を話し、彼女の父がいた幻想郷の地を踏ませてやりたいと思う一方で…そうしたら、二度ともう、翠里は自分たちの所へ戻ってこなくなってしまうのではないかと…否、人間の血が混ざった彼女が、天狗の社会に入れるのかどうかを心配するあまり、その事を可能ならずっと秘して、翠里を人間として天寿を全うさせるべきなのではないか、と思うようになっていた。

翠里自身も、薄々そうした老夫婦の想いを受け取っていたのだろう。
彼女が中学に上がるかどうかの頃、幻想郷の存在が明らかとなり、天狗の社会について強く興味を引かれるようになったが…彼女は祖父母を悲しませぬよう、幻想郷へ惹かれる思いを封印した。
だが、自由な風を友とし、その想いのままに見聞したありのまま総てを新聞にする幻想郷最速の天狗・射命丸文への憧れを捨て切れなかった彼女は、せめて自分が許される可能な限り文のようになれたら、と、当時凛女生徒会の広報部門に過ぎなかった新聞部に押し掛けると、そこで持ち前のバイタリティーを発揮して、何時しか新聞部ではなくてはならない存在になっていた。


そして…彼女の「真実を見極める眼」は、倉野川には自分と同じように、普通の人間とは少し違うものが居る事を知った。


彼女はずっと「心を許しあえる友達」が欲しかった。
人間と少し違う事が解れば、自分はすぐに社会から淘汰されてしまうだろう。
でももし、自分と同じような存在と出会えて、その中に溶け込んで行けたなら。


「わたし…みんなのところに…こいつら、いかせないって…いったのに…!」

悔し涙なのか、哀しみの涙なのか…傷つき憔悴しきった頬を伝う涙が、床の汚液へ溶けていく。
そして、無慈悲にも現れる新手の「踊り手」が、動けぬ彼女をエサと定めたのか、ゆっくりと旋回して摂取口を広げて迫る…その刹那。


♪BGM 「Reaching out for our future」/いとうかなこ♪


「…あなた…これだけの数の魔物を、一人で倒したのね」

はっとして、視線を上げる彼女の見上げた先には…緑の髪を翻し、紅いチェックのベストとスカートを身につけ、巨大な斧を地面へ突き立てている女丈夫の姿がある。
彼女も記憶する、幻想郷に住まうという七大真祖のひとりと恐れられた、その女傑…風見幽香が。

「あとは、私に任せなさい。
大丈夫…あの子達は、どんな逆境にあっても決して負けない…必ず、皆で一緒に帰れるわ

幽香は傷ついた翠里を抱き上げると、その戦いを労い、讃えるかのようにしっかりと抱きよせる。
最早声を上げる気力すら残ってないが、彼女はただただ涙を流し続けていた。


そこへ…無粋な蒼い魔物どもが再び群れを成して押し寄せてくる。
幽香は殺気を全開にした視線でそれを睨めつける…!


「何よ、あんた達。
この先へ行こうというなら…残らず殺すわよ?」



そして、翠里はその一部始終を目撃することになる。
かつて「血塗られたケダモノ」と称された、最強最悪の「妖精」の姿…否、その狂気の力を「他人を護る力」へ昇華させた、幻想郷古豪の女傑の姿を。





透子は土手っ腹に深手を負いながらも、その気の接近を感じ取っていた。

誰もを寄せ付けぬ狂気を孕みながらも、何処か寂しそうなそんな気の持ち主は、彼女の知る限り一人しかいない。
その気に呼応するかのように、焼けるような激痛で吹き飛びそうになる意識を強引に引き戻し…そして、自らに穿たれたままの触手をがっしりと掴む。

「こんな、ところで…くたばってたまるか…!
翠里は…あたいたちのためにっ…たった一人で…!!」


鬼気迫る透子の姿に、つぐみも、めうも、美結も…誰も近づけずにいた。
彼女は自身の冷気で傷口を凍らせ…そして。


「舐めるな…このあたいを。あたい達を。
あんたがあたい達の往く手をあくまで阻むッてんなら…ここであんたを完全に滅ぼして突き進む!!


咆哮する彼女の右腕に、強大な氷の魔力が集中し巨大な剣と化すと、降り卸したそれが四本の触手を総て切り裂き、瞬時に凍らせ砕き散らす。
思いもよらぬ反撃の一撃を受け、しかも凍りついて回復しない触手に戸惑いを覚えるセルの困惑が、最大の致命傷となった。

全ての力を使いきった透子に構うことなく、めうが歌の陣にその全ての魔力を上乗せする。
何処か勇ましく響く舞曲の如き響き…「最終決戦の軍歌」と称される吟遊詩人(バード)の奥義が、美結とつぐみの魔力を限界以上に引き上げていく。

「チャンスだよ、これが最後の。
とーこ先輩とめうめうが…ううん、扉の向こうで戦う翠里も、皆が作ってくれた!
「解ってる、これで決めるよ、美結ちゃん!!」

頷きあい、そして、一歩先に出る美結が舞うかのようにその剣を最大解放させていく。
タイミングを同じくして、つぐみの構える銃もまた、銃身から純白の翼を広げる最大解放形態へと変貌する。


ひとつ(アインス)!!」

最大限に高められた魔力が銃口に収束し、放たれた純粋魔力の散弾が、同時に飛び散った無数の羽に乱反射してセルの全身を穿つ。

ふたつ(ツヴァイ)っ!!」

緋の閃光と化した美結の振るう巨大な紅い刃が外皮を大きく斬り裂き、禍の魔が絶叫する。

みっつ(ドライ)!!」

さらに間髪いれず、零距離から純粋魔力の砲撃を加えるつぐみ。
反動で、大きく距離をあけたつぐみと、その傍らに軽やかに降り立った美結…その背には、純白と深紅の翼を広げ。


「これで…決めろっ…!」

倒れ伏した透子も。

「私達の…未来を!」

全ての力を使い果たし、その場にくずれおちるめうも。

それだけではない。
彼女らの勝利を信じ、帰りを待つ者すべての想いを構えた刃に乗せ、比翼の鳥はすべてを終わらせるべく飛び立つ。


「ツイン・バード・ストライクッ!!」


十文字に切り裂かれたその巨体が、一拍置いて鮮血の如き樹液を噴火の如く吹き上げながら崩れていく。
それは、禍と呼ばれたギンヌンガ最大の魔が…ハイ・ラガード世界樹の災厄が、終わりを告げた瞬間だった。






♪BGM 「水月鏡花のコノテーション」/日向美ビタースイーツ♪ ♪


ギンヌンガにまつわる全ては、この日、終わりを告げた。


セルの魔力総てが散逸したことを確認したかごめ達は、すぐさま遺跡最深部に駆け込み、戦いを終えた少女達を迎えに行く。
かごめは、過酷な戦いをやり遂げたつぐみも美結も一緒にして強く抱きしめ、そして、深手を負った透子と翠里は、それぞれ諏訪子とてゐが応急処置にかかり、総ての魔力を使いきって眠るめうも、さとりが抱き上げている。
結界を張る役目を担っていた筈なのに、何時の間にか遺跡に入っていた幽香を静葉とレティが窘めるものの…「まあ、あなたなら仕方がないわね」と、静葉が呆れたように笑うと、ようやく幽香もその表情を緩める。

透子の受けた怪我はややもすれば命に関わるものだったが、それでも諏訪子の処置で一命を取り留め、彼女の応急処置が終わった時点でかごめは糸を発動し、そして…少女達はハイ・ラガードの街へと戻ってきた。


「これで…この地で私達のやるべきことは、全部終わっちゃったんだね」

遠く西の空に沈みゆく黄昏の風景を眺めながら、美結が何処か寂しそうにつぶやく。
そうだね、と相槌を打つつぐみも、同じような表情をしていた。


思い返せば、この旅路もエトリアの時に負けず劣らず、過酷な運命と出会い、苦闘の連続で…決して、楽な道のりではなかった。
藍や幽香のような、頼れる先達が共に歩んでくれたとはいえ、待ちうける強大な魔物や試練の前に、何時誰が樹海の露と消えるか…否、常に陰日向となり見守ってくれたかごめ達がいてくれたから、最悪命を落とす事無く済んだかもしれないが、それでも、心を折られた誰かがこの地を去って行っても不思議な話ではなかった。

だが、自分に課せられた過酷な宿命を受け入れ、新たな世界を歩んでいくことを選択した美結も。
失われた故郷を取り戻し、妖精の国で生きられなくなった者達のために戦う未来を歩もうとする透子も。
生まれ育った街を、今共に生きる大切な仲間達と笑って生きていける世界を、次代に引き継ぐための力を求める芽兎も。
みなその想いひとつを糧に、全ての苦難を乗り切って今ここに居る。



「私は…ただ、みんなと一緒に冒険するって、樹海を体験した経験者として、先導役としてだけのはずだったんだ。
でも…」
「そういえば、私もまだ聞いてなかったよ。
つぐみちゃんはどうして?」
「確かに私は最初、お母さんに言われて来ただけだった。
でも、美結ちゃんの運命を知って、ヤマメさんと本気で戦った時から…私も、あんな人たちみたいになれたらいいなって。
お母さんたちの辿ってきた道に少しでも近づければいいなって、そう思ってた。
…力を得たいと思ってたのはとーこさん達と変わらないかもしれないけど…私のは、きっとただの自己満足だよ」

バツが悪そうに、寂しそうに笑うつぐみを…何時の間にかその後ろにたっていたかごめが軽く頭を撫でる。
見上げる娘たちに、見慣れた笑顔で母親が告げる。

「自己満足だっていいじゃないか。
それが、紛れもなくあんたが命を張るだけの理由になっていたんだったら、誰にも文句を言われる筋合いなんてない。
あんたがここまで生き残った事が、その証明なんだからね」


笑い返す娘二人に、かごめはさらに告げる。

「あたしが課した「特別授業」は、「禍」の撃破を成したことで修了だ。
だが…今からもうほんの僅か程度の学園生活…しかも、まだ出来てもねえような場所で過ごすなんて味気ない事をするつもりがねえなら、まだ今しばらくこの樹海に居座っても、あたしとしては構わんよ。
透子の馬鹿も「早く怪我を治してもう少し樹海で力を磨きたい」とかぬかしてやがるし、めうや翠里も居残る気満々ときてやがるしな」

顔を見合わせるふたりは、一拍置いて同じように笑い合う。

「だってさ」
「私も聞いてたって。
行ってみようか、今度は私達だけで…それじゃあ」
「約束、したもんね。
翠里に、これまでのこと全部話してあげるって」

振り返ったかごめが頷くのを確認してから、ふたりはギルドハウスへ…これからも旅路を共にする仲間の待つ場所へと駆けていく。


「あの子達もいいチームになったな。
…おいかごめ、四方やあいつらに、禁忌の森のバケモノまで始末させるつもりとか言うまいな?」

何時の間にか傍らに立っていた諏訪子が、僅かに険しい顔をして問う。
かごめは溜息をついて頭を振る。

「さあてな。
あたし達はタルシスで十分ヤンチャしたが、どうするかはあとあと考えればいい。
あいつらが「幼子」を討つのであれば…それもまた一興じゃねえのかな」
「オメェ世話焼きなのか無責任なのか時々解らなくなるよな。
まあいいさ、私もそうだが、まだまだここで切り上げて帰る選択肢なんてねえんだろお前?
…聞くまでもなかろうよ!

沈む夕日を背に、身を翻す先は…いつものあの場所なのだろう。
肩を竦め溜息を吐く諏訪子も、仕方ないと言わんばかりに苦笑してその後に続く。


此処に今、古くからの因縁の歴史がまた一つ、終わりを告げた。








さとり「というお話だったのです」
ヤマメ「実際はそんな苦戦もしてなかったんだけどな、レベルがレベルだっただけに。
   因みにストーリーだとこれ、どうなるの?」
さとり「通常に撃破するとイベントが始まり、何故かセルが復活しやがるという展開になります。
   結局前作と同じく、人間の力ではセルは倒せない…というお約束が発覚して、それでもなお一人セルを止めようとするアリアンナを止めようとした主人公が、彼女から託された力で超絶強化された究極戦闘形態となり、その圧倒的な力を示すイベントバトルがあってエンディングです
ヤマメ「…………………さとりお前」
さとり「解ってます言いたいことは解ってます私も同じこと思いましたから。
   けど冗談でも何でもなくそれが実際のストーリー進行なんですから仕方ないじゃないですか!!><」
ヤマメ「なーんかここまでベタな王道で突っ走ってこられるあたり、つくづく世界樹に余計なシナリオっていらねえなって思うな」
さとり「っていうか最後の戦いの後に主人公がどっかに吹っ飛ばされていなくなるとか何処のダイ大なんですか本当に!!><(バンバン
ヤマメ「まー「ファフニール(竜)の騎士」って時点で、相当その辺意識してるのは間違いないだろうけどなあ。
   メガテン作ってる会社の開発スタッフが、王道RPGの金字塔とも言われる別会社のゲームを元にしたスピンオフコミックのネタをベースにしてるとか言ったら余りに穿ちすぎかもしれねえが…読み返せば読み返すほど、そんな感じにしか思えなくなってきてる辺り何ともな」

ヤマメ「とりあえず次回は何すんの?
   もうあと、クエスト上の大ネタもそんな残ってはないけどさ」
さとり「(手にはズタズタになった枕らしきもの)…はあはあ…そうですね、恐らくはフランさんというか、エスバットの話するんじゃないですかね。
   丁度置き換えが出来るメンバーがいるわけですし、あのメインメンバー」
ヤマメ「おーいまた何企んでやがるんだよあの狐野郎…」
さとり「一応ストーリーのシェイプアップ目的で、本来は別クエストである「銃士の呼び声」と「飛竜の影」をひとつにして語りますので、解説も一緒に行う事になるでしょう。
   次回はふたつのクエストの概要になるかと思います。あといつもの小噺で」
ヤマメ「アッ、ハイ」