フラン達がアーテリンデを探しに樹海に行っている頃、フロースの宿。

つい昨日まで、共に氷樹海の「氷王の墓所」の調査を行っていた美結達も、かごめを理事とする学園都市「日向美学園都市」の入学式を間際に控え、その為に暫くは帰ってこないという事を知らされたのはつい昨日のことだった。
幽香は内心の寂しさを紛らわせるかのように、単身氷樹海へと潜り、時に襲いかかる魔物を容赦なく斬り伏せながらその調査を進めていた。



「おや、お帰り。
今日の探索はどうだった? 公宮直々のお達しなんだろ、ひとりじゃ大変じゃないのかい?」

宿に帰りついた幽香を出迎え、いつもと変わることなく出迎えてくれるハンナに、幽香は溜息をついて応える。

「どうという事はないわ。
ひとりでいる時の方が、かえって気楽な時もあるもの」
「そうかい? まあ、あんたが強いのは知ってるけど、あまり無理したらダメだよ。
あの子達だって、そのうち戻ってはくるんだろ?
だから、あまり根詰めすぎないことも大事じゃないかと思うわよ?」

年配の女性にありがちな…否、この女将の世話焼きぶりは近所でも有名なほどであるが、今ではすっかりこの街に馴染んだとはいえ、元々は余所者である自分たちに対してもこうして甲斐甲斐しく親身になって世話を焼いてくれることは、実際有り難くもあった。

「そうね、女将の言うとおりだわ。
無理はし過ぎない事にする…あなただけじゃなく、あの子にまで心配をかけたくないですものね

苦笑する幽香の視線を、物陰から伺っているのはクオナ。
それを受けて、恐る恐るという風に歩み寄ってくると、はにかみながら「おかえりなさい」と笑いかける。

その時、ハンナはそれに気付く。

「おや、幽香さん。珍しい花を持ってるじゃないの」
「ええ。
今日行った場所に、ちょっとね。
氷樹海に山百合(アウラツム)なんて珍しいと思って、ね

「四季のフラワーマスター」という二つ名でも知られる幽香の知識でも、ユリと言えば夏の花。
彼女は、氷王の墓所とされる場所に、まるで何かを待ち続けるかのようなその一輪を、珍しくも衝動的に手折り、持ち帰っていた。

瑞々しく、気高く白い輝きを放つその一輪を、クオナはじっと見つめている。
幽香は、それをそっと、その小さな手に握らせる。

「…たまには、あなたにお土産もしておかなきゃね。
百合の花は、根が残っていればまた同じように咲くものだし」
「え…いい、の?」

ええ、と幽香が笑いかけると、クオナは心の底から嬉しそうに笑う。
そして、何かを思い出したように、彼女は言葉を続ける。

「あのね…お花で思い出したの。
お姉さんに、ずっと前、わたしがあげたお花の飾り…」

幽香もそれを思い出し、少し寂しそうな顔をする。

彼女も忘れてはいない。
初めてこの少女と出会い、共に氷樹海で過ごした後に渡されたツメクサの飾りを。
しかし…手折られた花は、何もしなければやがて枯れてしまうものだ。幽香は折角の飾りに編まれたものを解くに忍びなく、そのまま持ち歩き…そして、金竜との戦いを終え間もなく、枯れてしまったそれを樹海に埋めてきていた。

幽香はこれ以上隠し立てをしても仕方ない事を悟り、その事を告げる。
クオナも解っていたのだろう、寂しそうな顔をしたが、「しかたないよね」と頭を振る。

「だったら、そのヤマユリはそう簡単に枯らせるわけにはいかないねえ。
待っといで、花瓶持ってくるわね」

奥へとそそくさと歩いていくハンナを見送り、幽香もクオナの頭を軽く撫で、その場を後にしようとした。




「えっと…あの花は前に行ったところに…。
ちゃんと準備すれば、いいよね」


微かに、背後の少女がそう呟いた気がしていた。


気のせいだと思っていた。
まさか、独りで氷樹海などに…そう思っていた。



そして、翌朝……クオナは宿から姿を消した。



「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第三十五夜 凍土に眠る永劫の残酷






慌てて駆けこんできたてゐ、文、みとりと、事情もよく飲み込めないまま3人を追ってきた勇儀の姿に、ハンナは一瞬驚いたものの、すぐにいつもの笑顔で一同を出迎える。

「おや、あんた達。
なんだいなんだい、そんなに慌てて…って、また新しい人が合流したのかい?」
「いや女将それどころじゃねえだろ!
酒場の親父から聞いた、幽香のアホが一人でクオナを探しに行っただって!?

あまりにも普段通りの女将に面喰らいながら、てゐはハンナに問う。
ハンナは溜息をついて返す。

「…まったく…みんな大げさだねえ!
まあでも、クオナが昨日から姿を消して、探しに行った幽香さんも戻っちゃいない…そりゃあ、胸が潰れるくらい心配さ!
…でもね、慌てたって二人がすぐ戻ってくるわけじゃないし、いまいち頼りにはならないが衛士連中も総出で探してくれてて、なおかつ幽香さんの様な豪傑まで探しに出てくれてんだ。
こんな時にあたしが出来ることと言ったら、普段通り腰をどっかりと据えて、知らせを待つくらいさ!

そうやって強がってはいるが、ハンナも内心はそうではないのだ。
しかし…多くの荒くれ冒険者を捌くこの肝っ玉女将は、こんな時だからこそ慌てふためくわけにはいかない…その信念をしっかり持っていることは、てゐ達も知っている。
てゐ達はどう返していいか解らず逡巡しているところ、ハンナは不意に寂しそうな顔をする。

「…でも、あんた達は知らせを聞いて、うちの娘の事を心配して飛んできてくれたんだろ?
いや、幽香さんの、大切な仲間の事も心配で、だよね。
そのついででも、あたしゃうれしいよ」
「まあ…探しに行ったのが幽香の野郎じゃなきゃ、なんだけどな」

てゐもそれに合わせて肩を竦めるが、ハンナは頭を振る。

「幽香さんもね…あの子達が元の世界?に帰って、大分寂しそうにしてたんだよ。
クオナも随分気にしていてね…あの子きっと、幽香さんを元気づけようとして、それで出かけていったんじゃないかと思ったんだよ
「ああ見えて、あの花妖怪かなりナイーブな所あるものね。
ねえ女将、クオナがいなくなる直前、何か変わったことはなかった?」

メモ片手に問いかける文に、少し考えて「そうだよ!」と手を打つハンナ。

「そういえば幽香さん、ヤマユリの花を持って帰ってきたんだよ。
なんでも、氷樹海で見つけて来たって言って…うちの子にって」
「ヤマユリだあ!?
あの年がら年中雪と氷で鎖された場所にんなもん咲くわきゃねえだろ」
「ん…いや、ちょっと待って。
確か此間、大公宮で聞いたわ。今幽香の奴が調べてる氷王、そのシンボルが純白のアウラツム(ヤマユリ)だって話。
かつて氷王は、一本のアウラツムから生み出されたという氷の鞭を振るい、氷河の支配者である三つ頭の巨竜を従えたという伝承があって…氷王の死後、墓所にはその鞭が一本のアウラツムと化して今でも咲いているとかなんとか
「伝承はあくまで伝承だろ、そんなモノぁ。鬼のあたしでもヤマユリが夏の花な事ぐれぇ知ってんぞ。
現物があるならぜひ拝みてぇもんだ」

勇儀は渋い顔で腕組みをしながら呆れたように吐き捨てる。

「それなんだがねえ。
クオナが居なくなったそのとき、その花もなんでか一緒に持って出ちまったんだよ。
その花瓶に挿してあったんだけど…不思議な事にね、水を換えようと思って中見たら、中の水が凍っちまってたんだよ

ハンナの証言に顔を見合わせる一同。

「じゃあ、まさか」
「幽香のヤツ、その伝承にあった代物を持って来ちゃったの…?
でも、それは直接関係があるのかどうか」
「花と言えばそうだねえ…幽香さん達があの子を氷樹海に連れてってくれた時に、あの子、お礼にって言って花飾りを作って渡してたんだよそう言えば。
仕方ないっちゃ仕方ないんだけど、その花飾りが枯れちゃったって話をしてたけど…まさか!」

その時初めて、ハンナははっきり顔色を変える。
そして、てゐと文も得心が言ったという風に頷く。

「女将、その花何処に咲いてた!
幽香の野郎が持ってきたのじゃねえ、クオナが幽香に渡した花飾りの方!」
「あ、あたしも詳しくは知らない…以前、あの子に世話やいてくれてた衛士が、あの子に作り方を教えてたみたいだから…確か、あの子にいい空気を吸わせる場所っていうのが氷樹海の奥地っていつも決まってる…あの子、独りでそんなところへ!?」
「決まりだな。
みとり、悪いが女将を頼めるか?
文、それと姐さん来てもらったばかりで悪いが」
「着て早々厄介事というのも、らしくていいじゃないか。
あたしゃ構わんよ」
「確かに女将をこのままにしてはおけないからな。
解った。こっちは私に任せておいてくれ」
「仕様がないわね。
けど、事は一刻を争うわ。あの子、身体そんなに丈夫じゃないんでしょ?」
「そういう事だ!」

戦慄くハンナの介抱をみとりに託し、三人は宿を慌ただしく飛び出していく。








レティ「あら何よ、かごめは帰ってこないわ幽香も何か馬鹿やってるわで、その解説を私にしろって事?」
静葉「別にいいじゃない、ヒマなんでしょうあなた。
  特別何か活躍するでもなく暦だけはもうとっくに冬も終わっちゃってるけど
レティ「何が言いたいのかしらこの枯葉神。
   まあいいわ、ヒマなのは確かだし、こういう所にでも出てこないと本当に存在忘れられそうだしねえ

レティ「今回はアレね、氷竜に関わるいくつかのクエストと、氷竜戦ね。
   しつこくこの話も何度かしてるけど、話には書かずに終わったものの、一応SSQでも氷竜までは倒してるのよね
静葉「ポケモンとブッキングしたせいもあって、氷竜金竜共にスタンダードで倒してそのまま尻切れトンボになっちゃったものね。
  金竜の件にしても、もしXYとブッキングしなかったら今回みたいなhageの山を築いてやってたのかしら」
レティ「今思えば何気に構成よく似てるのよね、その時のPTと今回の金竜討伐のメンツ。
   さとりが剣ダクハンじゃなくて鞭ダクハン、バードがいなかった代わりにレンジャーベースのハイランダーがいて」
静葉「アレもアレで十二分にひどいメンツだったわねえ。
  氷竜戦はそれなりにバランスは取れてた気がするけど、どうだったかしら」
レティ「もうどんなメンツだったか覚えてもないわ。
   まあ…今回のはもう、正攻法というなら本当に滅茶苦茶過ぎるとしか」
静葉「まあ今からぶっちゃけると、かなりロクでもない戦法を使ってるわね。
  これを見ちゃうと、普通に竜狩りの正攻法を考えるのがバカバカしくなるレベルというか、もう誰連れてってもいいよねっていう」
レティ「本当よね、馬鹿真面目にガードでブレスを止めに行くのがアホらしくなってくるわよこれ。
   もっとも、味をしめた狐野郎がこの戦略を赤竜に使えないか考えてたらしいけど…」
静葉「その話も後で一緒に触れる事にしましょう。
  まずは、前提クエストの説明からね。
  実は氷竜絡みのクエスト、クオナ関連のクエストの延長線上よ。だいぶ初期にも触れた気がするけど」
レティ「宿屋の娘とのハートフルな交流の先に三竜が待ち構えてるとか、誰が想像するのかしら。
   あ、いや、可憐なお姫様が強大な魔王にさらわれてそれを助けに行くという王道のもじりと考えれば」
静葉「それを一歩間違えるとスーパーマリオブラザーズになります(キリッ
レティ「間違ってはいない間違ってはいないわ主人公がヒゲのおっさんであること以外は(しろめ」
静葉「まあ馬鹿な話はここまでにしておいて。
  クエスト「差し伸べる手、尊き命」が微妙にフラグっていえばフラグといえなくもないわね。
  これが第五階層に入った後に受領できる、クオナの病気に効く薬の材料を取りに行くクエスト「小さき命を支える物」に続き、それがさらに「氷王の眠り居る場所」という一見関係のないクエストへと繋がっていくんだけど…このクエストで行けるようになる14Fの隠しエリアの奥にある氷王の墓所、そこで入手した「アウラツムの花」をクオナに渡すミニイベントがある。これが直接のフラグね
レティ「というか公式攻略本に書いてあるわね、氷竜討伐クエの発生条件。
   「氷王の眠り居る場所」攻略後にフロースの宿に入る、って。勿論ゴーレムは撃破しておく必要もあるんだけど」
静葉「つまりはそういう事。
  因みにアウラツムは文中でも幽香が言ってるけど、正確にはヤマユリの種小名「リリウム・アウラツム」のことを指してるんじゃないかしら。
  幽香が言っている通り、ヤマユリに限らずユリの多くは夏に咲くわ。まかりまちがっても雪の中に咲くような花じゃないけど、ヤマユリを種から育てる場合、ある程度の成長段階で人為的に冷温状態を経験させることが必要になるらしいわね。
  冬を越さないとユリは花をつけない、そう解釈してもいいのかしら」
レティ「とりあえず園芸の解説をする場じゃないわよね此処は。
   この氷王の墓所がまた、入口のある14Fの上り階段側の紋章のところをスタートして、ひたすら14Fと15Fの隠しフロアを行ったり来たりするという嫌がらせの様な道のりが」
静葉「しかも一面氷床だから探索にも鬼のような時間がかかるという。
  新しく登場する敵はアイスドレイク、金竜のところ行く途中に出てくるサンダードレイクの氷版ね。通常ドロップは弓の材料、混乱させて倒す事によりハイランダー専用兜の竜兜、アルケミスト専用小手のアタノールオリジンの素材「乱れた氷剣骨」をドロップするわ。
  耐性があるらしくて混乱はかなり入れづらいけど、厄介な全体催眠付与氷攻撃も防げるから積極的に狙いたいわね」
レティ「異常状態撃破のレアドロも、たまに入りにくいものが条件だったりするからその辺がコンチクショウよねこのゲーム。
   ところで氷王の咆哮、グリモア化しての使い勝手はどんなものなの?」
静葉「あなたのっけからこれグリモア化できる前提で話してるわよね。その通りなんだけど。
  残念ながら使った人がほとんどいないみたいだから詳しいことは解らないけど、個人的には燃費のいいフリーズの方がおすすめかしら。
  そもそもこっちからの敵スキル異常付与は本当におまけにすらならない成功率だから、アテにはならないわね
レティ「電磁波は勿論として、呪縛の円舞ところか天下のディノゲイターさんのじゃれるの成功率すら本当にさほどでもない有様ですもんね」








~氷樹海~




幽香がクオナを見つけたのは…実は、クオナが宿から姿を消して半日も経っていない時間だった。

幽香はすぐに、彼女が呟いていた事を思い出し、氷樹海へと入ると虱潰しにムベンガのコロニーを潰して回り、彼女がムベンガに連れ去られていないことを確認した上で、かつて、美結達と共にクオナを連れてきたその場所へとたどり着いていた。
とばっちりを受けたムベンガ達が災難にも思えそうだが、上帝の「失敗作」であるこの醜悪な魔物を駆逐しても困るモノは誰もおるまい。この事が、のちに氷樹海温泉に多くの観光客が訪れやすくなることにもつながったのは別の話であるが…ともかく幽香は、周囲の魔物の気配もどこ吹く風で一心不乱にツメクサを探し歩くその少女の姿を見つけ、胸をなでおろす。


しかし…悲劇はその時起きた。
幽香がクオナに声をかけようとしたその刹那、不意に陽を遮る巨大な影が、極低温のオーラと共に天空より舞い降りる…!


彼女が記憶しているのは、そこまでだった。






「気が付いた、幽香さん?」

彼女が気が付いた時、そこは岩室の中だった。

彼女は知る由もないが…此処は以前、ある恐ろしい効果を持つ魔笛が人知れず眠っていた場所。
その盗賊があるギルドと悶着を起こし、崩落して入り口部分しかないその場所で、幽香を介抱していたらしいメルランが笑いかける。

幽香はゆっくりと起きあがると、まだ混濁する意識を整理し始める。
焚き木の火の中に、その恐るべき爪にさらわれたクオナの最後の表情がフラッシュバックし、幽香は立ちあがろうとするが…まだ全身に残る痛みに顔をしかめ、その場に再び崩れ落ちるのをメルランが抱きとめて制する。

「まだダメよ、動いちゃ。
幽香さん、冗談でも何でもなく、ほんのついさっきまで半分凍ってたんだよ
「…関係ないわ。
はやく…早く、あの子を助けないと…あの竜種から…!」
「幽香さん一人で勝てる相手じゃないよ。
あいつは…多分、エトリアで私達が戦った金竜(ヤツ)より強い

はっきりとそう告げられ、幽香は睨みつけるようにメルランの顔を見上げる。
彼女もおそらく、あの竜を見ていたのだろう事が、その口ぶりからもうかがえた。

メルランは怯んだ様子も見せず、幽香を抱き寄せて諭すように告げる。

「私は、リリカやこいし達と一緒にエトリアで竜と戦ったわ。
まだ不安定だった私達の「存在」をこの世界に止める力を得るため…でも、ただの力試し気分で挑んでいい相手じゃないことはすぐ、解ったわ。
さとりが「あいつの力を過小評価し過ぎていた」って言ってたくらいだもの…正直、生きてあいつを倒して帰ってこれたのが今でも不思議なくらい」
「舐めた事を言っているなら、張り倒してやるわよ…!
私だって、この土地の…竜を!」
「それは幽香さん一人の力で倒せた相手なの?」

僅かに険しい表情でそう言い切るメルランに、幽香は言葉を失う。

「幽香さんが途轍もなく強い事くらい、私だって知ってる。
でも…氷竜(あれ)も…あなた「達」が倒した金竜(クランヴァリネ)も…あなた一人で勝負になる相手じゃないことは、知ってるわ

幽香の脳裏を過る、四人の少女の顔。
あの戦いは…その四人の誰を欠いても、制することなど出来なかったことは…幽香自身が一番分かっていた。

メルランは再びその身体をしっかり抱きよせる。

「だから…ここで応援を待ちましょう。
あなた一人は勿論、私がいたって勝ち目があるわけじゃない…でも…!」
「そうだな。
その為に私たちみたいなのがいるってわけだ」

その声に振り返ると、そこには何処か得意げな笑みを張りつけている兎の妖怪がいる。


「この因幡のてゐさん一世一代の大奇策、持って来てやったよ。
氷王が何故あの「氷嵐の支配者」を制する事が出来たのか…この私達で再現してやろうじゃないの!」






てゐの回復巫術を受けながら、メルランは彼女からあてがわれたその物体…というか、伸縮性の高そうな素材で出来た水着めいたものを引っ張って吟味している。

「ねえてーさん、これって水着だよね?
いくらなんでもこんなんでこの氷樹海ほっつき歩いてたら、御本尊の所へ到達する前に凍死しちゃうんじゃないの?」
「種明かしは終わった後にしてやるさ。
別に普通に服の下に着込んだっていいぞ、ただ、防御効果が薄れるからなるべくその上から重装備しないように頼むよ

てゐはただにやにや笑いでそう返す。
そこへ、文と勇儀の二人も合流する。

「こっちの方も準備は出来たわ。
というか、これの方はなんとなく理由解るんだけど…ねえ」
「あたしゃ別に防具なんていらねえんだがな。
だがまあ、かごめの話を聞くまでもなく、天下の風見幽香が手も足も出ずに氷漬けにされたブレス相手となると、流石に舐めてかかるわけにもいかないね」

そう言って、同じような水着姿の二人が、同じように腕につけている手甲の様なものと、三つのグリモアをそこへ並べていく。
グリモアは、聖騎士の盾の技能を封じたものだというのがすぐ解るが…メルランの目を引いたのは、その不可思議な手甲。

水晶の如き結晶で創られたそれは、大きさに相応した重量を持っているようだが…まるでそれは、巨大な氷の魔物の腕を、そのまま引き抜いたかのような無造作な形をしていながら、その冷たい輝きと透明度が、それがただの手甲とは異なる存在感を放っている。

「やっと出来たみてえだな、人数分。
この為にわざわざ、桜ノ立橋で猛吹雪を起こしやがった元凶をズタズタにしてやった甲斐があったってもんさ」
「どういう事なの?
あの氷の魔物が、一体どうやって氷竜の攻略に結び付くわけ?」
「つまりは、こういう事だからだよ」

言うが早いか、てゐも見慣れた医術師服から、着こんでいたその水着めいた衣装になると、盾のグリモアと共に氷腕を身につける。

「これが、氷王があの氷の竜を制した秘密だからさ。
古くからこの樹海に住み着き、温泉地帯を探し歩く魔物ジェントルトードの伸した皮。
もう一つ、氷王が従えたという「氷の大王」の腕から作られた氷の盾。

これで…あとは単純な爪と牙だけの勝負に持ち込めるって寸法だ…!」

まだよく意図が飲み込めてない四人を余所に、てゐは洞窟の入口に立って宣言する。

「行くよ!
不届き千番なあのロリコン竜を八つ裂きにして、さらわれたお姫様を助けに行かなきゃな!」





レティ「何これ、まず氷竜戦で使った裏技の方を解説しろって?」
静葉「まあその前に氷竜のスペック解説からよね、純粋に。
  というわけでフリップどーん(しれっ」


クエスト「凍土に眠る永久の残酷」ボス 氷嵐の支配者(氷竜)
レベル80 HP45000 氷無効/雷弱点 即死、石化、眠り無効/毒に弱い/残り脚縛り以外すべてに耐性
アイスブレス(頭) 全体に遠隔氷属性極大ダメージ
三連牙(頭) ランダム3回近接斬攻撃
クラッシュアーム(腕) 全体に近接壊属性攻撃、頭縛り付与
氷河の再生(頭) 3ターンの間、ターン終了時にHP回復(1600程度回復する
劈く叫び(頭) 全体に睡眠付与、物理・属性防御ダウンも同時に付与
ミラーシールド ターン終了時まで自分と、後述する「ドラゴンハート蒼」に対する攻撃を総て無効化。
        攻撃を無効化した場合、ターン終了時全体に無属性極大ダメージ(攻撃を無効化した分だけ威力上昇する)。
ミラーシールドには依存部位はない。なお、速度補正はあるようだが最速発動ではない(?)
※HPが75%、40%、10%程度になると同列に「ドラゴンハート蒼」(HP7500)が出現。
 ドラゴンハート蒼が存在している場合、ターン終了時に本体の行動枠とは別に、使用するごとに威力がアップする全体氷攻撃「氷の共鳴」を使用。


レティ「…2体目の竜でもうドラゴンハートのHPが2.5倍とか頭おかしいんじゃない?(しろめ」
静葉「まーこんなの毎回毎回出るたびに潰してたらとてもじゃないけど間に合わないわね。
  そして嫌がらせとしか思えない事に、ドラゴンハートの出現した次のターンは確定でミラーシールドを使うわ。
  これも金竜の時と同じで、ミラーシールドの使用ターンが劈く叫びの使用ターンとブッキングしていた場合、優先度は叫びとブレスの方になる。
  というわけでその場合、劈く叫び→アイスブレス→ミラーシールドまで行動が確定するわ」
レティ「基本行動は金竜とほぼ一緒なのね
静葉「そうね。
  初手はブレス、そしてブレスの4ターン後に劈く叫び、叫びの後にアイスブレス。
  そしてHPが減って、ドラゴンハートが出現する辺りに到達するたびにブレスの間隔がまちまちになっていくのも一緒。
  ブレスとか以外のパターンも、金竜が竜の鉄槌を使う代わりに三連牙、古竜の呪撃を使う代わりにクラッシュアームを使うと考えておけばほぼ間違いないと思う。
  面倒なのは、3でも4でもこいつを地味に面倒くさい竜に仕立て上げていた氷河の再生ね。HPが3割を切る程度の辺りからランダム行動に割り込み始めて、wiki情報ではこの頃からランダム行動にミラーシールドが混ざりはじめるというわね」
レティ「えっ!?
   じゃあこいつ、終盤なんて実質ブレスのターンしか安全に攻撃できないってこと!?」
静葉「一応最速じゃないらしいから、アザステで追い越すことは可能よ。
  ミラーシールド発動前の攻撃は無効化対象にならないから、そこは覚えておくといいわ。アザステ係と攻撃係を決めて、あとはバフデバフ撒きと回復をメインに役割分担するのも有効ね。時間はかかるけどそれが一番堅実」
レティ「でもあれでしょ?
   ドラゴンハートだってさっさと潰してしまわないと、共鳴のダメージだってかさんでくるじゃない。
   ブレスと同時に飛んで来るのを防ぐとなると、ガード持ちが二人必要よね?」
静葉「実は金竜以降の二竜、今からもう赤竜分もネタばらしするけど、はっきり言ってドラゴンハートを出るたび潰してたらジリー・プアー(徐々に不利)とかそんなレベルじゃなくなるわ。
  だからぶっちゃけると、ガード持ちを二人にして、ドラゴンハート放置戦略をとるのがはっきり言って楽よ。
  ドラゴンハートはスキュレーのとこのジャムクリーパーと違って、本体を倒せば図鑑にちゃんと登録されるしね」
レティ「そりゃそうよね、弱点を突いて80までレベルを上げてても、ほんの数ターンで相手の猛攻をしのぎながら7500ダメージを余分に叩きだすなんて流石にねえ」
静葉「その場合注意が必要なのは、複数人が同時にガードを発動した時の仕様ね。
  レベル4以下の軽減と、レベル9までの無効は同時に使用されてもしっかり効果は発動するわ。
  ところが、それが軽減か無効かに関わらず、レベル10以上で吸収効果をもったガードと、レベル9以下の軽減・無効を同時に発動させると、PTの先頭(左上)側のキャラが発動した一回分しか発動しないという酷いバグがあるわ」
レティ「えっなにそれ」
静葉「例えば氷竜戦で同じパーティに私とあなたがいて、ドラゴンハート出現後のブレスに対して、左上にいる私がレベル4のフリーズガード、その隣に居るあなたがレベル10のフリーズガードを使用するとする。
  この場合、最初に飛んでくるアイスブレスはちゃんと軽減されるけど、次に飛んでくる氷の共鳴は素通しされるわよ」
レティ「…それマジで言ってんの?」
静葉「SSQ2も初回で多くのバグがあって、結構致命的なものもあったけど、今では追加配信パッチのお陰で一部修正はされてるわ。
  でも、ガードのバグは現在(Ver1.2)でも未修整のまま。恐らく仕様なのかもしれないわ」
レティ「聞けば初回のSQ2でもかなりいろんな所にバグがいっぱいあったらしいわね。
   レンジャーのフォースが回避率を上昇させるどころか、こっちの命中率を下げるとか」
静葉「もうSQ2なんてベスト盤ですら入手困難だから許してあげて(しろめ
  あああと、兎に角しんどいのが劈く叫び。ブレスの前に盾役が眠らされた挙句、属性防御力もがっつり下げられた所に飛んでくる催眠補正アイスブレスの破壊力がいかほどのものか、説明の必要はないでしょうけど」
レティ「それよ、それ。
   タルシスの時はマジで大変だったわ。まだあそこのはブレスの威力自体がさほどでもないのが救いではあるけど」
静葉「一応SSQではデバフバフ総動員でなんとか耐えられなくもなかったブレスだけど、今回もやり方次第では耐えられないこともないわね。
  まあでも催眠補正がかかる挙句耐久強化系のバフも叫びで打ち消されるからね、劈く叫びをまともに受けて盾眠ってたらアウト。その前提で攻略を組み立てるべきね。
  盾役に眠祓の鏡を装備させるか、予防の号令もしくは巫術★★かつレベル16以上の結界で防ぐのがいいわね。
  ただし2回目のコア召喚くらいか、コア放置でいった場合HPが半分ぐらいを切ると使い始めるクラッシュアーム、こいつの頭封じも同時に防ぐ必要があるわ。盾が生きてても、回復役が頭縛られてたらhage待ったなしですもの」
レティ「クラッシュアームが飛び始める頃に、毎回結界でも張るとか?」
静葉「それも一つの手だけど、回復役をさらに増やさないといけないわね。
  確かにマグスメインなら、運は絡むけど結界で頭封じと睡眠を防いで、面倒な再生も呼応で打ち消したり出来るから有効よ。そもそも、抑制防御ブーストと元々の高めなLUCのお陰で異常付与を免れていることも多いし、メイン回復役はマグスだと安定すると思うわ。
  ……とまあ此処まで正攻法での攻略をつらつらと書き記してきたけど、狐野郎は端からそれを無視する方向性で行った、という話を次でしていくことになるわ」
レティ「いやもう私もオチ知ってるから先に言わせて頂戴。
   本当に真面目に盾役やってるのが馬鹿馬鹿しくなってくるわこの攻略法><」
静葉「まあまあ抑えて抑えて。
  というわけで次回、種明かしと解決編に続くわね」