「……なあ、魔理沙。
一体どうしたんだ? 少しぐらい、なんか口を利いてくれてもいいじゃないか。
あたしゃ地底の覚じゃねえんだ、あんたの心を読んだりする芸当なんてできないよ」

今ではすっかり、藤野家の居候としてその一員となっている悪霊の女王が、そうやって何処か呆れた風に肩を竦める。


魔理沙は、あの日学園の入学式を終え…その際に色々な事件が起こっていた事を知る。
烈達「四天王」の持つ力の秘密と、それを狙っていた存在と、彼らとの戦い。
彼ら一部の者が身に宿す「操譜石」にまつわる因縁を、烈は風雅達と力を合わせ、そのバックに居た筈のかごめや幽々子と言った強力な支援者の助けを借りずに乗り越えて見せた。

そして、美結達の話。
迫りくる絶対の死の運命を乗り越えた美結が金竜を討ち、そして、ギンヌンガの闇の歴史に終止符を打ったという話を。


魔理沙は確かに、今回の樹海行に同行し、フラン達と力を合わせて天空城へとたどり着き、そして、上帝の暴走を止めた。
それ自体が非常に過酷な戦いであり、成し遂げることは並大抵のことではないだろう。


元々今回の旅は、魔理沙が行く予定のあったものではない…話を聞きつけた彼女が、同じようにして藤野の屋敷に乗り込み、かごめに対して再三頼み込んだ結果だ。
単なる興味本位などでは決してない。
日増しに大きくなる、霊夢への対抗心と劣等感が焦りとなり、それに突き動かされる形で、だ。

だが…旅の最中、それを億尾にも見せずひたすら我武者羅に突き進んできた彼女に残ったのは…「そこで自分が何を得る事が出来たのか」という疑念と、空虚だけだった。
タルシスで魔物狩りをしたときとも、それ以前に、多くの異変解決に乗り出した時と全く同じように、ただ我武者羅に力を振るい、目的に向けて突き進むだけ。まるで自分のことすら顧みずにそうしてきたのではないかという想いだけが、彼女の心の淀みを大きくする。


時間だけが無駄に過ぎていく。
魔理沙は、まとまらない感情のまま、口を開く。



「…い…言えるわけねえ。
いくら、師匠でも…こればかりは」
「あんたねえ…それじゃまるで話にならないじゃないか。
あんたはあたしに何か聞きたい事があったから、わざわざ幻想郷中を駆けずり回った挙句、ここに来たんだろ?
悠々自適に当てもなく方々を駆けずり回ってるこのあたしを運よく捕まえたんだ、それだけの理由があってそうしたんだろ?」
「わかって…わかってるよ。
師匠に相談してどうにかなるって、そういう問題じゃないって事も、あたしにも薄々わかってるんだ。
……これは、あたし自身の問題なんだから……!


彼女はそうして目を伏せる。
魅魔の表情は変わらないが…ただじっと、黙ってその言葉に耳を傾けている。

魔理沙は頭を振る


「……ううん、こんなの、あたし自身にもきっと、どうしようもないことなのかもしれない。
所詮、あたしは一介の道具屋の娘で…生まれ変わる前だって、ただの捨子の魔族だった。
最後の最後で越えられない一線が来ちまった…それだけの話かもしれないんだ……」

魔理沙は溢れそうになる涙をこらえて、顔を上げてさらに続ける。

「でも!
でもあたしは、自分が他の奴らに言っちまった言葉の落とし前をつけたくて…あたしの考えなしな言葉で、みんなを傷けてるだけなんじゃないかって…!
自分だけで考えててもどうにもなんなくて…居ても立ってもいられなくなって…気づいたら、師匠の事を探してたんだ…

再び言葉が途切れ、沈黙が場を支配する。
再び顔を伏せた魔理沙には、魅魔の表情は解らないが…やがて、魅魔が少し笑う。
魔理沙が再び顔を上げると、魅魔は何処か嬉しそうな顔で苦笑する。


「ああ…ごめんごめん。あんたは本当に真剣に悩んでるってのに、笑っちまったりなんかして。
…でもさ、なんか妙に嬉しくなっちまってね
「嬉しい…?」

ああ、と魅魔は頷く。
その表情は、ひょっとしたら魔理沙も今までほとんど見たことのない、師の表情であったかもしれない。


「あたしにゃ、正直今でもあんたの悩みなんて見当もつかないよ。
たださ、生まれ変わって三年、その前には百年以上、ただの洟垂れ娘だったお前をどやしまくってたのが…何時の間にかそんな次元に辿りついちまったのかと思ったら、なんか妙に嬉しいような寂しいような…そんな気分さ。
あたしは見ての通りの悪霊、まして生まれもそんな褒めらんたもんじゃねえが…もしあたしが普通の魔族や人間の女で、あんたみたいな子をもつ親だったとすれば、これがきっと、子供を送りだす親の気持ちなのかもしれないなって」
「……師匠?」
「魔理沙。
あんたは今まであたしが課してきた数多くの無理難題を、ひたすら真っ直ぐに突きぬけて、そしてあたしの教えられる限りの術を修めきって見せた。
まだまだ負けるつもりはないが、それでも、戦いになったらあんたの方がもしかしたら、あたしよりも上になるのかもわからない。
…「博麗の継承の儀」みたいな事をするとしたら、あたしはそれを通してでも、あんたを一人前として広く知らしめてやりたいくらいさ…!

魔理沙はそのとき、はっきりと顔色を変える。


霊夢があの日霊夜に挑んだ時のように、自分が魅魔と真剣勝負をする。

そんなことは考えても見なかった。
魔界神の相談役として、神綺も一目置くというこの、目の前の途方もない怪物と。
だが同時に、彼女はそれだけ、自分なんかの事を買ってくれている…魔理沙は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


魔理沙は顔を伏せたまますっと立ち上がり、そして、師へと背を向ける。


「…魔理沙?」
「ご…ごめん、師匠。
甘えたことをぬかしちまったりして…あたし、もう一度自分でなんとかしてみるよ…!」

そして庇を通り過ぎ、その場を立ち去ろうとする魔理沙に魅魔は「待ちな」と呼びとめる。

「そのままでいい、魔理沙。
あたしが、あんたの師として言える…最初で最後のアドバイスだ

魔理沙はその言葉を訝る。

魔理沙は知る由もないが、魅魔はそれ以前に彼女以外の弟子を取ったことはない。
自身の興味本位でつぐみにまとわりつき、彼女の他にも、例えば鈴花や風雅に何かしらちょっかいを出しているなんて言う話も聞くが…基本的には突き放しで、「教えないから盗め」を地で行くタイプだ。
だが…魔理沙は立ち止り、その言葉を待つ。


「あんたの最大のいいところは、その直向きで、我武者羅なところだ。
あんたにゃ確かに、戦いの申し子とも言える連中の血を引いたつぐみやアリスとも、才能の塊として生まれた霊夢とも違って、決して恵まれたものをもって生まれてきたわけじゃない。
けど…だからこそ、そういった連中を常に見上げて、誰よりも強く歯を食いしばって、脇目も振らずただひたすらまっすぐ努力を積み重ねて来たからこそ、今のあんたがいるんだ。
…そしてあんたは、あたしの想像をはるかに超えて、ずっとずっと強くなった


魔理沙は振り返らず、師の言葉を聞いている。
そして、魔理沙からは解らなかったが…魅魔はそれを承知の上で、真剣な表情だが…笑ってその言葉を投げ渡す。



「もっと自信を持て。
あんたは…このあたしの、自慢の弟子だ!!」




「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第四十一夜 古き傷痕の主




魔理沙ははっとして目を覚ました。

見上げれば、燃えるような緋一色に染まる木々…そこは、常緋の森。
樹海六階層の中で最も気温の高いその森は、先にその原因を突き止めたレミリア達のお陰で、探索に支障がない程度まで気温が下がってはいるが、それでも、今身につけている長袖ではかなりの暑気を感じるような場所だ。

魔理沙は店を飛び出した後、無我夢中のまま樹海を駆け、そして泣き疲れたのと肉体的な疲労が重なって、何時の間にかそのままここで夜を明かしていたのだった。
そこはかつてかごめ達もある目的で訪れた、上質の野苺(ベリー)の実る一角。成長の早い樹海の珍味が放つ甘い香りが、空腹を訴える彼女の食慾をくすぐってやまない。



「………こんな気分になってるのに、腹って減るんだな」

切なくなるような音を鳴らせてなおも訴える腹の虫に、彼女も苦笑するしかなかった。

気持ちが晴れたわけでは決してないが、魔理沙は深紫に実るそれをひとつもぎ取って、口の中に放りこむ。
食用に品種改良されたようなものとは違い、強烈な酸味を伴うものではあったが…その甘さは昂る精神を鎮め、酸味は意識をはっきりと覚醒させる。
彼女は周囲にあった実を手当たり次第に口へと放りこんでいく。

幸いにも周囲に魔物の気配もなく、着のまま飛び出してはきたものの、服装は普段よく着る白黒を基調としたエプロンドレスを銃士服にあつらえ直した普段通りの衣装に、ほんのひと月ほど前にライシュッツから譲られた魔銃アグネアが、十分な弾薬と共にホルダーに収まっている。そして、別のポケットには戦闘に耐えうるスキルを記録したグリモアも収まっていた。
突然の魔物の奇襲にあっても、常緋の森を塒にする程度のものであれば彼女単独でも十分撃退できるだろう。

やがて空腹を満たした彼女は、ゆっくりと立ち上がる。
気持ちの整理はつかないままだが…夢でも見た、あの日最後に聞いた魅魔の言葉が再度脳裏を過る。

(師匠…ありがとうだぜ。
 今のあたしなんかには、もったいねえ言葉だ。でも…)

魔理沙はまた、目を伏せる。
心に浮かぶ師の表情に、また何か言いかけたその時…その気配を感じ取った。


魔理沙がいる樹海六階…伝わってくるその熱気と戦いの気は、恐らくそのすぐ上から発している。


(なんだ…!?
 誰かが戦っている? それに、この熱気は)

刹那、凄まじい咆哮が響き渡り、一拍遅れて途轍もない殺気が森を走る…!
魔理沙はその凄まじい気に中てられ、よろめいて背後の樹にぶつかった。

(…なんだ…今のは…!?)

彼女は本能的に、今周囲に全く魔物の気配を感じない理由を悟った。
今の恐ろしい咆哮と、殺気の主…その恐るべき存在の降臨を察知した魔物たちは、皆安全な場所へ逃げてしまっていただろう事を。

身が竦み、反射的に逃げ出したくなるような自分自身を叱咤し、魔理沙は森を駆けだす。

(に、逃げちゃダメだ!
 こっから逃げちまったら、あたしは今度こそ本当にダメになっちまう気しかしねえ…確かめるんだ、この森で何が起きてるのかを!)

歯を食いしばり、彼女は身を走る恐怖を強引に押し込めて、駆けていく。
その恐るべき者が待ちうける決戦の地へ…。





同じ頃、レミリア達はさらに想定外の事態に出くわす。
魔理沙が居なくなって、棚上げにしていた剣と石板の話をするのも兼ね、ギルド長マリオンを訪ねてやってきたギルドの執務室に居たのは…思ってもみない存在だった。




「あっみなさんいらっしゃいませ…って!違います!><」
「いやあの…エクレアちゃんなんでこんなところに?」

いつもの店先での受け答えのクセでそう言ってしまったのに恥ずかしそうに頭を振るエクレアに、呆気にとられたフランが問いかける。

「いえ、あの、私、別にここでお店をしてるわけではなくてその…」
「いいから落ちつきなさいな。
私達だって正直ワケが解らないのは一緒よ…落ち着いて、何が起こったのか話しなさい」
「あ、は…ごっごめんなさいっ!
私…慌ててしまってその…えっと、私、マリオンさんから手入れを依頼されていた武具を、届けに来たんです。
そうしたらマリオンさん、丁度今から出かけるところだった、って。
でもなんか、雰囲気がいつもと違ったんです。兜のせいで表情はよくわからないけど、怖い声で…武具だけを受け取って、私、それでも何処へ行くのか聞いたら…その…森へ行くって。誰にも言わないで、代わりにここで留守番を頼む、って。私どうしたらいいのか分からなくなって…」
「エクレア、覚えていたらでいいわ。
マリオンは、剣と石板をもっていなかったかしら?」
「へ…?
あ、はい。
確か、武具を着替え終えて出ていく時に、いつもの剣とは違った剣をもってた気がします…気のせいかもしれないけど、鞘に収まってても解るぐらい、ぼおっと光ってる不思議な剣でしたよ。
あ、石板はどうかわからないけど…あっそうだ! 最後に「緋の樹海、紅き悪魔の寝所にて、過去の因縁を断つ」って、そう言ってました!

エクレアへの誰何を終えたレミリアが、傍らのパチュリーへ視線を向け…そして二人は頷きあう。

「これで、あらかたの事情ははっきりしたわ。
ったく…この面倒なタイミングであの白黒もいなくなってるわで」
「参ったわね。
魔理沙のことだって、放っておくわけにはいかないけど…マリオンの方も放置しておけないわ。どうしたものかしらね」
「魔理沙さん?
魔理沙さんが、一体どうかなさったんですか?」

怪訝な表情で問いかけてくるエクレアに、溜息をついてレミリアが応える。

「私達もあいつを探すついでにここに来たのよ。
あいつも色々あって、ギルドハウスから飛び出して行って帰ってこないのよ」
「え、ええっ!? それって一大事じゃないんですか!?」
「そりゃあ一大事よ」
「お姉様そんな落ちつき払ってる場合じゃないですよ本当にもう!
でもどうしよう、魔理沙だけじゃなくてマリオンさんまで行方不明なんて」
「マリオンの方は見当がつくわ。
仕方ない、エクレア、もしここにリリカ達かつぐみ達が来たら伝えて頂戴。
少なくとも古跡の樹海に魔理沙はいない、って。
丁度、まだ常緋の森には入ってない…リリカ達は立橋、美結達は氷樹海を探してるしね。最悪」
……赤竜との戦いも視野に入れておけ、ということでいいのね

確認するかのようなパチュリーに、レミリアは真剣な表情で頷く。
フランもまた、同じように。

レミリアは「邪魔したわね」と、エクレアに背を向けてその場を立ち去ろうとしたとき、エクレアに呼びとめられて立ち止まる。

「あの…まだ事情はよくわからない私が言うのもヘンだと思うけど…マリオンさんと魔理沙さんの事、探してあげてください。
こんなこと、初めてで…なんだかとっても怖いんです。
私…武器防具の事もよく見て知ってるつもりだし、それ以上に、お店に来てくれるお客さんのことだって、いつも見てるつもりです。
…私、天空の城へ行く前からずっと、魔理沙さんが時々、辛そうな顔をしてうつむいているのだって…
だから」
「解ってるわ。
あいつを探しに行かなきゃならない理由は、私にもある。
…ふたりは私が必ず連れ戻すわ…だから、あなたは待ってなさい。交易所にも伝えておくから」
「……ありがとうございます!」

レミリアはふっと笑うと、何時までも名残惜しそうに手を振るエクレアに背を向け、ギルドを後にする。









かごめ「いつもニコニコ現金払い、あっどうもかごめさんと」
文「毎度お馴染清く正しい射命丸です…って何よそのわけのわからない前置き」
かごめ「なんとなくだから気にしなくて良いぞ(キリッ」
文「……あっそ(呆
 ま相変わらず冒頭に相当キナ臭い話から入ってるけど、正直これ大分重大なインシデントじゃないかしら」
かごめ「もう気にしなくても別にいいんじゃないかと思えてきた(キリッ」
文「おいィ…私もうどうなっても知らないからね?(しろめ」




かごめ「てなわけでいよいよ最後のクエストに突入だ。
   まず、酒場でアントニオに事情を聞くと、前のクエストで衛士がやって来て、「おうその剣公女様が調べたいゆうとるから渡せや、それ禁忌の森で見つかったんじゃから文献を見ればまた何かワカるかもしれへんで」みたいな事をほざいてくるのでそれを渡しちまう事になる」
文「何よその去る金合戦に出てくる大先生の取り巻きみたいなセリフ回し…。
 大筋はその通りね、けど、そうやって渡された剣の研究どーよ?みたいな事をアントニオが聞きに行ったとき、ダンフォードのじいさんが「はてそんなことありましたかのう?」みたいな事を言ったらしいというのが今回の事件のあらましね。
 正直「あの爺さんとうとうボケたか」みたいな事を思ったボウケンシャーもいるんじゃないかしら
かごめ「おまえ本当にいいクチを利くようになったなあ。あたしもそれは思ったが。
   まあそんなこんなで、アントニオから「おまいらちょっとギルドに確認取るべきそうするべき」っていって押しつけてくるので、ギルドいったら「何故かエクレアがいた」な、なにをいってるのか以下略みたいな感じになってるわけだ」
文「エクレアは完全にワケも解らないままに巻き込まれた感が酷いわよねえ。
 それで、森へ行くことになるわけね」
かごめ「そういうこった」








魔理沙はその戦いの気に導かれ、深紅の壁を幾つも突き抜けていく。
目指す場に近づくにつれ、異常に上がっていく気温…そして、剣戟の音と、魂をも震え凍りつかせそうな咆哮を響かせるその地で、魔理沙は信じられないものを見ることとなる。




死闘を繰り広げる二つの影。
ひとつは、彼女と同じ人間のそれ…見慣れた全身鎧を身につけて、光を発する剣を縦横無尽に振り回すのはマリオン。
そしてもう一つは…恐ろしく巨大な姿をもつ紅き竜のそれではないか!

「ひッ…!!」

深紅に染め上げられた筋肉質の巨躯と、恐ろしく口を開ける顎に並ぶ鋭き牙、そして、見る者を射抜くおぞましき眼光…巨大な棘を無数に備えるスパイクめいた巨大な尾が、目の前で巨木を易々となぎ倒し、吐き出す炎が目の前のあらゆるものを紅蓮に包む。
その光景に、ついに恐怖の方が勝った魔理沙は、小さく悲鳴を上げてその場にへたって後ずさりしてしまう。
しかし、流れる汗すらも一瞬で蒸発していきそうな灼熱の戦闘空間で、マリオンはそれでも、鋭い身のこなしで手にした魔剣を振るい、果敢に竜へと斬りかかっていく!

あまりの恐怖のためか、気づかぬうちに彼女のスカートの下側は水を打ったようにぐっしょりと濡れてしまっていた。
だが、誰もそうなってしまった彼女を責めることは出来まい。大抵の者が、そうなってもおかしくない恐怖の根源が、その目の前で凄惨な戦闘空間を作り出しているのだ。

恐怖に支配され、スカートから下着まで無様に濡らしてしまいながらも、彼女は反射的にその場から逃げだそうともがくが、完全に抜けた腰と覚束ない脚では立つことすらままならず、ゆっくりと後ずさるしか出来ずにいた。
その彼女の視界の先で、マリオンの姿はついに、紅い竜の一撃を受けてはじきとばされる。
歯がみしながらなおも呪詛めいた悪態を突き、立ちあがろうとしたマリオンは初めて、背後の魔理沙に気づいて目を見開いた。

恐怖のままへたり込んだままの彼女との視線が交錯し、マリオンは戸惑いながらも、背後の竜を見やる。
竜は、轟音に似た恐怖の咆哮を上げるが…恐怖に竦む魔理沙は勿論、マリオンのことすら完全に舐め切っているのか、嘲るように唸るのみで襲いかかってくる気配はない。
このような小さき者のことなど、取るに足らん…そう言うかのように

(奴め、挑発しているのか…!
 だが)

マリオンは昂った感情を、背後の魔理沙の様子を見やりながら少しずつ自分の精神を冷静に引き戻していく。
マリオンは…力なく腰を抜かし、恐怖のあまり泣きべそをかいているその少女の姿に…まるであの日の自分自身を見ている気がしていた。

(…そうだ。
 私もあの時、この子と同じだった…動くことなど、出来なかった…!!

マリオンは何かを悟ったかのように、魔理沙の傍まで歩み寄り、ゆっくりと肩を抱く。
恐怖で口もきけず、ただぼろぼろと涙を流すその少女に、マリオンは諭すようにゆっくり告げる。

「安心しろ、奴は、仕掛けては来ない。
一度、体勢を立て直す。歩けるか、魔理沙?」

魔理沙は震える足元を見て…そして、自分が恐怖のあまりしてしまったことに恥ずかしく頬を染めながらも、ゆっくりと頭を振る。
マリオンは頷くと、一度だけ睨みつけるように紅き竜を見やり、そして魔理沙を抱きかかえるとその場を後にした。









かごめ「まーそれじゃ恒例となりました赤竜の解説をば(●REC
文「あんた何撮ってんのよ」
かごめ「まあ気にするな同志射命丸、ただの小遣い稼ぎなのぜ(キリッ」
文「もうなんか聞くのもアホらしくなって来たわ」




クエスト「紅き者、其の名は絶対の死」ボス 偉大なる赤竜
レベル90 HP72000 炎無効/氷弱点 即死、石化、呪い、混乱無効/眠り、テラー、頭封じ、脚封じ耐性
ファイアブレス(頭) 全体に遠隔炎属性極大ダメージ
ドラゴンクロー(腕) 一列に近接斬攻撃、腕縛り付与
火竜の激震(脚) 全体に近接壊属性攻撃、脚縛り付与
ドラゴンビート(脚) ランダム4~6回近接壊属性攻撃、スタンを付与 
とどろく咆哮(頭) 全体に混乱付与、3ターンの間物理・属性攻撃ダウンも同時に付与
火竜の猛攻(頭) 3ターンの間自分の物理・属性攻撃力アップ。ターン終了時、ターン内の行動は無関係に使用。
※HPが75%、40%、10%程度になると同列に「ドラゴンハート紅」(HP13000)が出現。
 ドラゴンハート紅が存在している場合、ターン終了時に本体の行動枠とは別に、使用するごとに威力がアップする全体炎攻撃「炎の共鳴」を使用。


文「うわあなにこのわけのわからないHP量」
かごめ「いずれ解説するつもりなんだが、SSQの赤竜がHP45000で今回の氷竜と一緒だな。
   ヘカトンよりちょっとHP低いぐらいだが、耐性の関係上赤竜の方がはるかにタフだ。おまえも解ってるだろうが、竜どもは弱点攻撃でもそんな倍率高いわけじゃないしな」
文「えーロリコン竜で学習済みですとも。
 けどアレね、わりと力押し力押し言われる印象あるけど、意外とというかどれも厄介な状態異常付与ついて回ってるような」
かごめ「勿論威力自体もハンパない。
   ドラゴンクローなんて防御の号令とパワーブレイクの上からでもレベル90のパラが350前後貰う破壊力だ。この上にフロントガードはってもブシドーやダクハンなら余裕で落とされるな。
   激震も近接壊だが後列への被害は決して無視できない。号令の上からこれも後列で200程度貰うからまあ、前衛はお察しと」
文「で、こいつの咆哮は混乱と」
かごめ「あと地味に火力ダウンが非常に苦しい。
   SQ4ログでも触れたが、バルドゥールのフリーズドライブの威力がおよそ1/4程度になるという凶悪な補正率だった。今回もさほど変わってないと思うから、号令なり舞曲なりでさっさと解除したいところだな。マグスがいれば巫術★★+レベル16以上の結界で確実に防ぎたいが」
文「が、なによ」
かごめ「実はパーティが6人以上いると5人までしか結界で守れないから、マリオンを参戦させて結界を使う場合最後のひとりだけは咆哮を防げない。
   これは結界の仕様のせいなんだが、6人で戦うときは予防の号令を2列に張って、攻撃力ダウンは別枠で対処したほうがいい気はするな。ウニコウルでも、ホワイトノーブルでもいいぞ」
文「…まー理由は聞かないわよ。
 パターンは他の竜と一緒なのかしら?」
かごめ「基本はな。
   金竜の鉄槌、氷竜の三連牙の代わりにドラゴンクローが、呪撃とクラッシュアームの代わりに火竜の激震が飛ぶ。
   赤竜で変わっている点は、言うまでもなく最強最悪のバフ・火竜の猛攻とドラゴンビートだ」
文「猛攻はHP50%を切る頃から使い始めるわね。
 効果が切れるタイミングでかけ直すみたいだけど、面倒なのはそのターンの行動枠とは別で猛攻を使う点
かごめ「おおよそHP30%程度になるくらいまで4ターンに1度、そこから赤ゲージまで3ターンに1度、赤ゲージになると1ターンおきに使うと、頻度がどんどん多くなる。
   重ねがけでヤバい事になるから、さっさと解除するのがいい。終盤は解除の頻度も上がるし、クリアランスがオススメだな」
文「で、ドラゴンビートは」
かごめ「ドラゴンハートが二回目に出現したのをトリガーにして、その次のターンからランダムで使用する。
   実はこの「ドラゴンハートが二回目に出現したら」という条件がミソでな、実はドラゴンハートが一回しか出現してないなら、赤竜は一切ドラゴンビートを使わない
文「えっそうなの」
かごめ「スタンも含めて、使われた時の被害がでかいからな。可能なら使わせないように立ちまわるといい。
   ついでに言えば、こいつ金竜氷竜と違って、ドラゴンハート出現直後ターンの行動決まってない。恐らくだが、ループパターンをそのまま引き継いでるんじゃないかと思う。
   あと猛攻だが、共鳴には乗らないっぽい。まあ別部位攻撃だから本体と強化枠別だしな」


かごめ「というわけで今回はここまでだ。
   いよいよ次が最後、金髪の子覚醒回となります(キリッ」
文「あえて聞くんだけどかごめ、さっき録画してたブルーレイ誰に売りつける気?」
かごめ「あえて聞くなら買い手の詮索しなくても解るだろ?
   何しろ前科があるから高値で買ってくれるんじゃないか?(マジキチスマイル
文「あーもうなんか予想通りの答えが返って来たわねー。
 チッ…いち早くあいつの後追っかけて私も撮りゃ良かった
かごめ「オメェも大概だなその辺り。
   というわけで次回に続くのぜ」