♪BGM 「A Piece of Courege」/伊藤賢治♪


裂帛の気合と共に、魔物は菫子を一撃で戦闘不能に追い込んだ鋭い蹴りの一閃を放つ。
その一撃は迫る翠里の右脇腹を正確に捉え…否、その身体を貫通して凄まじい風圧が、見護る魔理沙と菫子のところまで届く。

「むッ!?」

その違和感に魔物は、自身の蹴りの威力で僅かに体勢を崩してしまうが…驚愕しながら踏鞴を踏んで踏みとどまった刹那、風切音と共に飛来する矢がその頬を掠める。

「惜しかったっすね。
でも、当たらなければ何度でも試すまで。
ドラゴン=センセイのインストラクションにいわく!百発のスリケンで倒せないなら、スリケンを千発撃てっすよ!!

再び、彼女は高速で間合いと詰めようと、地面すれすれを滑るように突っ込んでいく。


確かに、翠里の速さは、常人の眼には捉えることすら困難なレベルにあった。
事実、恐怖に怯える菫子は勿論、それなりに場数を踏んでいる魔理沙ですら、その初速からトップスピードに至る彼女の姿を捉えきれていない。

だが、魔物は翠里の姿をはっきりと、その驚異的な動体視力で捉えている。
確かに速いが、あの日自分が手も足も出ずに圧倒された文に比べれば、数段落ちる。半ば刺し違える形でようやく一矢報いれたあの神速に比べれば、十二分に対応できる…はずだった。


魔物は先よりも鋭く、小さい振り幅の蹴りで、その猛進に合わせる。
其の爪先は正確に、その顔の中心を捉え…その姿が朧となってぶれる。

次の瞬間、魔物が驚愕するよりも早く…その頭上から鋭い氷柱の落ちるかのようにして数本の矢が、魔物の肩や首元の腱めがけて降り注いだではないか!

「ぬうううううううううッ!?」

そして、その想定外の攻撃は、完全な回避を許すことなく、魔物の左翼の付け根を捉える。

「まだまだッ!」

何時の間にか正面に現れた翠里は、今度は魔物のもっとも大きい標的である、正中線めがけて二本、三本と立て続けに射込む。
魔物は痛みよりも驚きに戸惑いながらも、それでも「小癪な!」と大喝してその全てを打ち払い、その鋭く怒りに染まる双眸をじっと見据えながら息を整える翠里へ向けて、今度は自ら仕掛けてくる。

「喰らうがいい…鳳凰、爪撃ッ!!

纏う鳳凰のオーラが、まるで斬馬刀を思わせるほど巨大なツメの一撃となって襲いかかるが…息を飲みながらも魔理沙は確かに見た。


翠里が、何時の間にかその狂猛なる一撃をすりぬけて、懐へと飛び込んでいたその姿を。


「もらいっ!!」

零距離で撃たれた十数本の矢が、強靭な魔獣の皮で張られた弦から一度に放たれ、強靭な胸筋と腹筋の護りがない魔物の鳩尾へ吸い込まれるように捉えた…が。

その一瞬。
一瞬であった。


間合いに釣り込まれたのは、魔物だけではない。
魔物は強烈な一撃を急所にもらいながら、渾身の蹴りを少女の身体へと叩きこむ…!!


「翠里いいいいいいいっ!!」

その絶叫は、魔理沙から放たれたものではなかった。
それまで恐怖に打ち震えていた筈の…その少女が、発したものだ。

その声が耳に届きながらも、彼女の視界は一瞬、もぎ取られるようにして暗転する。



「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第五十六夜 戦いに生きる空の王者




静葉「というわけで後半戦、翠里のスキルと推移がどうなったかに触れていくわ。
  前回の最後でちらと触れたけど、6回目で単独撃破に成功してるわね」
レティ「その時点でも十分正気の沙汰じゃないんだけどねえ、しつこいようだけど」
静葉「まあでも、運もそうだけど根気よ、根気。
  というわけでまず最初の装備とスキル振りね」




翠里 レンジャーレベル99(レベル99引退込)
フランクショット1 ブラインドアロー★ スリープアロー1 パライズアロー1 ドロップショット7
ダブルショット★ サジタリウスの矢★ 朧矢★ トリックステップ★ チェインダンス★ アザーズステップ★
弓マスタリー★ 素早さブースト★ 抑制攻撃ブースト★ エイミングフット★
HPブースト1 TPブースト1 野生の勘1

レティ「ぱっと見結構いらないスキルにも振られてる感が」
静葉「まあね、サジ矢は要らないし単独ならアザステも不要だからその分HPかTPにつぎ込んでおけばいいとは思ったわ。
  まあ他に何に振るかと言われると微妙なところだけど」
レティ「まあ使うかどうかは別としても…エフィシエントとか?
   前作の壊れパッシブだったのと違ってアクティブになった分、単体回復アイテムが列範囲化するとかいう、それはそれでイカレた効果があるんだけど
静葉「どうせ今回の攻略には無関係だけどね。
  見てもらえればわかると思うけど、基本的には全部回避して、火力の高い朧矢で射殺す作戦よ。
  戦術のパクリ元ではトリックステップと後の先に加えて、消費の重さを承知で軽業の旋律を併用してたわね」
レティ「トリック、後の先で軽業も併用して、回避率を徹底的に上げる方向性で行ったわけね。
   多段ヒットする旋風翔は、まあ全弾は無理と割り切って火竜のオーブでシャットアウトすると。当たらなければどうということはない、っていうのはアニメ界全体で見ても超有名な赤い人のセリフなんだけどさ」
静葉「アタッカーレンジャーのお約束である物理攻撃ブーストや先の先とかのない分は、何気に魔神速攻撃破などでも御馴染の装備ボーナスでカバーする方向なんでしょうね。
  あなたを含めてこんなところを見てる人には説明不要かもしれないけど…何気にこれまであまり詳しく触れてなかった要素で、今作は、グリモア個別にボーナス効果がついているものが手に入るじゃない?
  斬壊突と炎氷雷それぞれの攻撃力ボーナスと、戦闘後TPもしくはHP回復、希少種遭遇ボーナス、アイテム重複ボーナス、グリモアチャンス発生ボーナスの11種類に加え、NPCグリモアトレードに登場する伝説の冒険者に設定されている被弾時HP自動回復、HP回復効果アップ、スキル使用時TP回収、TP自動回復、装備グリモアレベル+3ボーナス、戦闘開始時フォースゲージ+30ボーナスの伝説ボーナス6種類」
レティ「軽くお浚いの心算で触れるけど、通常11種のボーナスには三段階あって、ボーナスのアイコンだけのレベル1、★一個付くレベル2、★二個つくレベル3の三段階あるわね。
   伝説以外は複数同じ効果を持ってると重複して、攻撃力ボーナスならレベル1で2%、2で4%、3で6%の補正がつく…だったわよね」
静葉「そうね。
  なお、仮に装備しているグリモア6つとも突レベル3ボーナスがついていれば、36%の威力補正が上乗せされる
  動画だと、装備した5つのグリモア…予防号令、軽業、トリック、素早さブースト、後の先に全て突レベル2つけてたから、30%アップね」
レティ「アクティブの4つはともかく、パッシブまで粘るっておま…」
静葉「その直前に幼子をレベル50の残影チェイスで狩ってたけど、正直その時のアタッカー三人のグリモア厳選ぶりは本気で狂っていたわよ。
  ここでは詳しく語らないから、ぜひとも動画を見て頂戴。
  人間本気で狂気に身を落とせばなんだってできるといういい証拠よ(キリッ」
レティ「はいはいガチマ乙ガチマ乙。
   まあ、ヘカトンの時にもアドバイス貰ってたし、狐野郎は最近ある目的で必要なグリモアを持ってるQRももらってきてやがったから、本当に足を向けて寝れないわね」
静葉「で、話は元に戻すけど、朧矢は「直前ターンに一度でも回避に成功する」事が起動条件で、★だけでも倍率は620%とかなり高いわ」
レティ「グリモア枠は決して足りないようには見えないけど、ひょっとしなくても軽業のみならず朧矢のグリモアも粘るの面倒くさくなったんでしょ。
   レベルは十分に高いし、グリモアボーナスが足りない分は物理攻撃ブーストでもカバーできてるし」
静葉「それに軽業はともかく、そもそも朧矢は起動条件が面倒だから、その辺は大目に見て頂戴。
  道具はアムリタ2、メディカ4、テリアカ二種とブレイバンドね。最初は眼光の攻撃力ダウンも解除しようと思ってたみたいだけど…すぐにそんな余裕ないと思い知らされたし、眼光が乗ってても朧矢で1500程度入るから無視することにしたみたいね」
レティ「適当…というのは簡単だけど、5回失敗したということは回避に失敗したというのもあるんだろうし。
   あとHP的に、最初のhageから気功脚を一発耐えることを考えてHPブースト重ねた上のジビエで挑んだのも解るわね」
静葉「むしろ問題は、これでもステータス不足で受け切れないということね。
  前回もちょっと触れたけど、乱数の関係なのか、このHPでも気功脚が直撃したら死ぬことがあるのよ」
レティ「散々言われた気がするんだけど、これでも足りないの?」
静葉「前回文もメモ経由で乱入してたけど、ピクニックでも70程度なら気功脚を3発受けると死ねる火力よ。
  レンジャーはレベル99でもHPは500を切るし、HPブーストを限界突破させてもおよそ630程度。ここに公国章とジビエを加えてようやく700強のHPになる程度よ。
  そもそも耐性がないなら、フォース抜きだとレベル99ペットも紅蓮旋風翔を3発以上喰らえば即死する。それをエキスパで受ける、あとは解るでしょ?」
レティ「おひ…」
静葉「そもそもエキスパにおけるテラーや麻痺の停止っぷりがいかに恐ろしいものかは、金竜で学習済みですもの。
  2回目4回目は初手テラーで死んだようなもんだし、それを踏まえて次の装備はこうなったわ」




静葉「まずテラーを高確率で止めるクラブショルダーと、LUC底上げのために武器をザミエルボウへ変更。
  霹靂神はフォース稼ぎもさることながら、弱点属性を突く意味もあったんだけど、そもそも朧矢に属性のらないからね。
  これでテラーはほぼ防いだようなもんだけど…どうしても回避ミスだけはどうにもならない」
レティ「まあそこは運だし仕方がない側面もあるんだろうけど」
静葉「ところがね、狐野郎はそこで軽業を粘る労力を惜しんで、ステータスを上げる方向でカバーすることを思いつきやがったのよ」
レティ「はい!?」
静葉「実は、回避率命中率は、いずれもAGIとLUCが絡んでるわ。
  同時に火力アップを図るならAGIなんでしょうけど、狐野郎はLUCを上げる方向を選んだ。
  クラブショルダーは完全にテラーを防いでくれるわけではないし、万が一のテラー事故をも防ぐ意味合いもあったのでしょうね。そして、残念ながらそれが功を奏してしまったというわけ」
レティ「何気にブラインドもマスターしてるってことは、ひょっとしなくても盲目も狙いに行ったと?」
静葉「そうね。
  実際最終局面、旋風翔三連打中に盲目をぶち込んでいるわ。
  けど次の構えで解除されちゃって、旋風翔もあまさず全弾喰らったから朧矢が使えない。結局狐野郎は、眼光で威力落ちてるの承知でダブルショットを連打して削りきったわ」
レティ「ホントようやるわって感じね」








翠里は半分意識を失いながらも、なおその場に踏みとどまっていた。
その構えを解かぬまま、魔物は深く嘆息し、厳かに語り始める。

「恐ろしい使い手になったな、翠里。
正直、今君が見せたわずかな隙を突く以外に、私に反撃の手がなかったことは確かだ。
…それに、今の一撃も決して軽くはない


その腹部には、周囲の筋肉の膨張で強引に抑えつけて居るとはいえ…完全に塞がりきっていない傷口からとめどなく血が湧き出し、その見事な腹筋を伝わって滴り落ちているのが見て取れた。
魔物自身が言うとおり、決して軽いダメージではないのだろう。

「得体の知れぬ君の技の正体がつかめぬ以上、私に出来ることはただ、己の全力を持って当たるのみだ。
…あの日…先の少女のように、怯えていた君の姿からは想像もつかないほど、君は強くなって戻ってきた。
これで終わって…私を失望させてくれるな、翠里ッ!

そう、強い語気で語るその魔物の姿からは…憎しみのようなものは全く感じ取れない。
恐怖で硬直したまま動かぬままの身体を魔理沙に支えられ、茫然とその行方を菫子も、漠然とだがそのことを理解し始めていた。


あの魔物は…きっと自分と同じなのだ。
自分を特別視することで誤魔化していた、「他者と違うチカラ」を持つが故に、あの鳥の魔物はただひたすらに強くなることでしか、自己を保ちえなかったのだということを。

そして、おそらくは。


「私は…私は。
きっとあなたのようにもなれない。
私はずっとずっと…自分の中に眠るこのチカラが怖かったっす。
人間とは違う、天狗の力が


顔を伏せたままの翠里の表情は伺い知れない。
だが、その声は、何処までも哀しげで。

「私のこのチカラは、きっとその全てを解放したら…みんなみんな、私のそばから離れていくような気がしてた。
一人ぼっちは、寂しいっすから」


そのとき、彼女は初めて背後へと振り向く。


菫子は確信した。
自分も、彼女と同じだということを。
そして自分が、本当は誰より「与えられる孤独」を恐れ…それ故に、自ら「孤独」を選んだフリをして…強がっていたことも。



「わかる…わかるよ…!」

その頬を再び、涙が伝う。

「だから…もういい。
もう、いいから」

震えるまま、その手をゆっくり彼女へと差し延ばす。
それは、制止の為だったのだろうか。

翠里は、ふっと笑うと再び、大地を踏みしめ魔物へと向き直る。

「折角、大見栄切って、ここまで来たんすよ。
今まで使ってきたのは、私の能力…「黒鴉」の一旦でしかない。
最後の最後」

その背に、翼として顕れる…漆黒に揺らめ陽炎。


「私の今使える全ての力をぶつける!!」


♪「妖怪の山 ~ Mysterious Mountain」(東方風神録)♪


裂帛の気合が、翠里を中心として暴風の如く荒れ狂い、それと共に彼女の栗色の髪が漆黒に、そのベージュの瞳は深紅に染まる。
その姿は、魔理沙にも見覚えがある、幻想郷最速の天狗を彷彿とさせるその姿。

魔物も、それを感じ取って一瞬歓喜の表情を浮かべ…そして。

「ならば、我が強敵よ!
我が血の滾りの全て!受け止めてくれ!!」


その構えが、防御を全て捨てた猛禽の…否、伝説の朱雀を思わせる紅蓮のオーラを纏った構えへ変貌する!
甲高い怪鳥の叫びと共に、全てのオーラを両拳へ収束した魔物は猛然と間合いを詰め…暴風の気を纏った若き天狗もそれに合わせて翔ぶ…!


「受けてみよ!
我が奥義・紅蓮旋風翔ッ…コ…ココココ…コケエエエエエエエエエエッ!!


揮われる拳が何倍も大きな、火柱の如き無数の大爪となって翠里へと襲いかかる。
彼女はその懐へ飛び込むべく、暴風と化し懐へと飛び込んでいく。


「鴉天狗奥義“無双風神”ッ!!」


暴風を纏う神速の拳が、その巨爪を粉砕したその瞬間。
嵐と化した拳打の乱舞が、その強靭な肉体を滅多に撃ち据え、渾身の蹴りの一撃がその巨体をはるか後方の巨木へと轟音と共に叩きつけた!







何かを感知したらしい透子、そして美結がその場へ駆けつけた時、全ては終わっていた。


ぼろぼろの無残な姿の菫子が、全ての力を使い果たした翠里を、大切なものを護るかのようにしっかり抱きしめ…傍らに立ち、手持無沙汰になった魔理沙がこちらと目が合うと、苦笑いをして、肩を竦める。

さらに遠くの方には、まだ気を失っているのであろうその鳥の魔物が、力なく樹に身体を預けて項垂れているのが見える。

「魔理沙、あんたか?」
「うんにゃ、あいつだ。
翠里一人で全部やっちまった

透子の問いに、魔理沙は翠里の方へ顎をしゃくって見せる。
状況が今ひとつつかめず、透子も美結も次の言葉を逡巡していると、それまでピクリとも動かないままだった鳥の魔物が、頭を振りながら…おぼつかない足取りでそれでもよろよろと立ちあがる。

僅かに透子、美結、魔理沙がそれぞれ武器に手をかけ…短い悲鳴を上げて顔面を蒼白にしながらも、菫子は翠里を庇うようにして魔物に背を向ける。
だが…魔物はふっと笑うと、構えかけた腕を所在なく卸した。

「見事…素晴らしい戦いだったぞ、強敵よ」

その口から発せられた賞賛の言葉に、菫子は恐る恐る振り返る。
そして、満身創痍のその身体のままゆっくり…彼女の…否、翠里の傍へと歩みよってくるではないか。

「なによ…まだ、まだやる気なの!?」

菫子はようやく…かなりのやせ我慢ではあったが…震える声で鳥の魔物へ訴える。
その時、それまで目を閉じていた翠里がうっすら目を開け、触れた手に振り返る菫子に頭を振ると、彼女に支えられるようにして上体をゆっくり起こし…そして、死闘を演じた好敵手と向き合いの格好になった。

魔物は、まるで礼を取るかのように膝を折り、そして、翠里へとなおも語りかける。

「互いに過去の悔しさを乗り越え、乗り越えた同士が共に拳と技を尽くして視線を越えた先にこそ、私の求める闘争はあった…。
そして、私は今日、それを垣間見た!」

厳かに話すその表情は、何処までも穏やかで…一片の悔いなく全てを出し尽した戦士の顔であった。
そして、菫子へ視線を移す。

「私は、まだまだ弱い。先に私に挑んだ君と同じ、弱者にすぎぬ。
しかし…私は超えるべき頂の存在を知っている。きっと、翠里もだ。
私はそれだけでも、次なる挑戦へ…新たなるなる闘争の世界へと踏み出せるのだ…!


その言葉は、諭すようでもあり…勇気づけてくれるようにすら響いてくる。
彼は、井の中の蛙であることすら弁えず、無様な姿を晒した菫子にすら、賞賛の言葉を送ってくれているのだ。

何か言葉を返そうにも、胸が詰まる思いがして、言葉を発せぬままの彼女へ…魔物は、それまで腕に巻いていた一歩のベルトを外すと、差しだして来た。




「さあ、これを受け取りたまえ。
何時から私に持たされたものかは知らぬが…はるか昔、自分が強敵と認めた者に渡せと、そう言われた気がする。
故に、これは強き者が持つに相応しい」
「でも、でも、わたしっ…」
「私の眼は節穴ではない。
君の叫びがなければ、翠里はおそらく、最後の一撃を繰り出す事は叶わなかっただろう。
…故に、君に受け取る権利があるはずだ。私は」

そして、彼女にそれを宛がうと、彼は己の背に刺さったままの矢を一本、引き抜いて示す。

「代わりに、これを頂いていくことにしよう。
この素晴らしき邂逅を忘れぬ為に。
強き者と戦い、ただひたすらに高みを目指す…それが、私の全てなのだから」

その翼は、傷つきながらも力強く羽ばたき…その身体はゆっくりと地面から離れていく…。


「さらばだ、強き少女たちよ。
再びまみえるときは、元の私ではない…さらなる修練を積み、必ず君らの居る頂へ足をかけて見せよう!!」



高らかに宣言し、その魔物は、天空へと飛び去って行った。
少女たちは、その姿をいつまでも眺め続けていた。





「あの…今まで、勝手な事ばかりして…迷惑かけてごめんなさい。
私、翠里がいなかったら、きっと」

ギルドハウスに戻ってきて、汚れきった衣服を取りかえ、身を清めて食事の席に着いた菫子は、共に街へ戻って来てからそれまで何も触れることなく接してくれた透子達に、深々と頭を下げた。

しばしの沈黙が場を支配し、菫子は頭を下げたまま、何処かから平手の一撃ぐらいは飛んでくるかもと覚悟し、悲痛な表情で唇をかみしめた。
しかし…肩に手を回され、引き寄せられた先にある透子の顔が、その額を空いた方の腕でつつきながら悪戯っぽく笑う。

「ったく、本当に儲けもんだよ、あんなのに喧嘩売って五体満足で戻ってきただけでも。
今でこそ、あたい達も熟練者面してほっつき歩けるようになったがな…これから行く場所ってのは、あんなのがわんさかいるんだからさ。
…だから、一人で無茶すんじゃない…今は、な
「透子…さん」

泣きそうな表情でそう呟く菫子の肩を解放し、うんうん、と鷹揚に頷く透子。
さめざめと涙を流す彼女を、美結がなだめながら席につかせてやると、話題を変えようとしたのか透子が口火を切る。

「ところで、翠里のアホは」
「あー、あいつフルパワー使い果たしたみたいで、自分の部屋で高いびきだよ。
一発もろに食らってたみたいだけど、翠里の能力ってのは全解放した時点で一回だけ全身の細胞が活性化して、死んでさえなきゃかなりの重傷でも一瞬で治っちまうんだって、文が言ってたぜ。
他にも特典みたいなのが色々あるらしいんだけど、兎に角あいつの能力、天狗族でもかなりレアらしくてなあ…まあ、その反動で力を使い果たすと、丸一日は目を覚まさねえらしいが

「便利なんだか難儀なんだかわからんな、それも。
まあ、ここはそういうトンチキな力の持ち主ばっか集まるとこだ、今更気にしてもしょうがないところだしな

その言葉は、暗に自分にだけ向けられたものではないのかもしれない。
そう思いながらも、菫子は自然に表情をほころばせていく自分がいるのを感じていた。

「てーさん達が戻ってくるの、明日なんだっけか。
こうやって古跡に通いながら、旅行気分でチンタラしてられるのも今日が最後ってことかいね?」
「私としては早く、上層に行ってドンパチやりたくて仕方ねえんだけどな」
「おーなんなら今からでも行ってくるか? ヒマなんだろう魔理沙君?」
「いや待てちょっとふざけろ剣士と術師と銃士の三人組だぞ正気の発想じゃねえ」
「えっ私普通に巻き込まれるんですかおかしいですよ!!><」

軽口をたたき合い、同じ卓を囲みながら談笑する少女たちを眺めながら…同じような表情で笑いながら、菫子は思った。


こんな「友達」と、これから一緒に過ごしていくのも悪くはない、と。











静葉「というお話だったのよ」
レティ「めうめうの時も思ったけど、なんでこんな特定クラスタに喧嘩を売りかねないネタをやるのかしらこの狐野郎。
   もっとも昨今の社畜めうめうとか、巷にあふれまくってるめうめう虐待の数々に比べりゃマシなのかもしれないけど
静葉「深秘録の菫子シナリオから比べると、どっちがマシなのかわかりにくいところだけどね。
  とりあえず何処かで三十夜の後日談めいた話はしたかったので、ストーリー編が終わってキリのいいこのタイミングでしましょうと。
  マスターバード単騎撃破がこんなあっさり終わるなんてのは流石に想定外だったけど
レティ「そりゃあなんだかんだでレベルもレベルだしねえ。
   因みに後学の為に聞いておきたいんだけど、レンジャー以外で現実的に単騎撃破出来そうなのって何がいるかしら。やっぱりペット?」
静葉「証明動画が上がってるわけでもないから何とも言えないけど、HPブーストと物理防御ガン振りしたベルトランの血の暴走の反撃だけで倒したみたいな話も聞くから、パラも可能だとは思うわ。
  なんにせよ、通常の物理技を受けるなり捌くなりして、紅蓮旋風翔をシャットアウト可能ならなんとかなる、というところかしら。
  属性特化ファーで速攻撃破する手もあるとは思うけどね。畏怖の眼光は物理攻撃力しか落ちないし、テラー無効のアクセ持たせて初手マインドシャット、パワーセルを盾に幻想曲かけてアクセラレートからの零距離、サンダーウェイヴ、アカシックノヴァで行けるんじゃない?」
レティ「あー、確かにファーのバ火力なら普通に行けなくもないわね。
   あれだけなんつーか、別ゲーだし…というか普通にファーいるとエキスパでもヌルゲーになるからその辺はもう」
静葉「レンジャー、パラ、ペットとファー以外の単独撃破に関してはまあ、チャレンジャーだけがやればいいでしょっていうことでね」


静葉「そして次回はいよいよ、こいしちゃんのこいしちゃんによるこいしちゃんのドキドキ大冒険再び!になるわね」
レティ「前作は普通に攻略途中で混ざってきたあのバカ話集、今回は普通に番外編の扱いなのね」
静葉「時系列そのものは、本編で上帝のところを目指している辺りから、クリア後に氷竜と戦う前ぐらいになるのかしら?
  以前はフラン達でやるとは言ったけど、今回のこいしちゃんのドキドキ大冒険の最中に氷の大王を殺るのに予定変更しているわ。
  氷竜回との整合性に関しては、まあその時に改めて説明するけど」
レティ「むしろ私としては、現在裏で進行してるある恐ろしい計画の方が色々胃の痛いところなんだけどさあ…アレマジやる気なの?」
静葉「恐ろしいことなんだけど、現時点で可能らしいのよね。
  一応、狐野郎はその下準備で、慈愛の襟巻のAGI依存攻撃スキルの威力補正調べてたんだけど…」
レティ「えっ、そんなことしてたの」
静葉「何処にも触れられてなかったしね、地味に。
  狐野郎が鹿相手に行った検証によると、襟巻の補正は★で140%。序曲★★と同等だそうよ。
  ついでに言えばこの補正も強化減算対象外で、火竜★序曲★★襟巻★全部載せた理論上の補正値(294%)しっかり出たそうよ」
レティ「うわあ…それマジなの」
静葉「大マジ。
  残念ながら襟巻はAGI攻撃だけにしか乗らないけど…99引退ボーナスも絡んでるし、総合的な与ダメは十分、目的を達する条件は満たしてるみたいね。あとは、グリモア厳選だけね
レティ「とうとう狐野郎も修羅道に堕ちるのね…ナムアミダブツ」
静葉「というわけで、今回はここまで」