~かごめ達がエトリアに向かって、二日後~
藍はその日、ちゃぶ台に突っ伏したまま、そのまま眠っていたことを理解した。
(…眠って、いたのか。
くそっ…私が…こういう時こそ私がきちんとしていなければ…いけないのに)
かごめが旅立って後も、極力普段と変わることなく過ごしていたつもりの藍であったが、蓄積された心因性の疲労が、本来睡眠を必要としないはずの彼女に休眠を取らせてしまうまで、極限まで蓄積されていたのだ。
彼女は心身共に、限界を迎えつつあった。
彼女は、もっとも自分が嫌うもの…あの「幻想世界」で目にしたもう一人の自分のことを思い返す。
それまで、「その世界の紫」が営々と築いた総てを、合理的精神から否定し…否、総てを合理的かつ機械的に管理していこうとするその姿に、一抹の狂気を感じるとともに…いっそ、そんな自分自身が少し羨ましく思えてすらいたことに、藍は内心戦慄する。
(こんな不安定な感情も、全部…全部ああやって、自分の望む形に押し込めてしまえれば…どれほど楽になったことか。
でも…でもそれは…紫様の…私の望んだ世界じゃない…!)
しかし…藍はそんな自分すらも、俯瞰的に眺めていられる自分自身が、時に狂おしいほど憎らしく思えている。
今までの彼女なら、自分自身が抱え込んだいくつもの矛盾に精神を病み、この時点でとうに壊れていたのかもしれない。
「…らん、さま」
不意に、襖が少し開いていて…そこから遠慮がちな橙の声が響く。
はっとした藍は、直接視線を合わせていないにもかかわらず、慌ててその場に正座し、答える。
「ああ、橙か。
済まない、少し眠ってしまっていたみたいで」
「…藍様。
藍様も…少し、おやすみになってください。
そうじゃないと…紫様だけじゃなくて、藍様、までっ…!」
藍は驚き、だが、それを悟られぬようにして、その襖をゆっくりと開ける。
泣き腫らした眼から、ぼろぼろと涙を流す猫叉の少女が、そこに立っているのを見て…藍は、思わずその身体を抱きしめていた。
「お前は…優しい子だ。
大丈夫、こんな程度でこの私が参ってたまるか」
強がりなのは分かっていた。
橙は優しく、見た目以上に賢い…今だ、自分の腕の中で嗚咽を上げ続ける彼女も、自分の言葉が強がりであることを見抜いているのだろう。
この、自分が長年目を掛けてきた妖獣の少女に胸の裡を全て打ち明けてしまえればどれほど楽になるだろう。
橙もずっと、そうして欲しいと願っているに違いない。
彼女の力では何の解決にならなくても、それでも、この辛く苦しい思いを共有するだけでも。
藍にそれを許させないでいたのは、彼女自身が最後の心の拠り所としていた、ほんのちっぽけな自尊心だったのかもしれない。
十年前のある嵐の夜、打ち捨てられ死にかけていた橙に何かを感じ取って、自分の式として命を救ってから…主人として振る舞い続けてきた橙に、自分の弱さを見せたくはない…紫が、自分に対してそうあったように。
-そうね。
ここであなたにまで倒れられてしまったら、私や橙はどうすればいいのかしらね-
藍はその声にハッとして振り返る。
眠っているはずの、紫の声だ。
一か月以上も死んだように眠り続け、傍に居ながらまるで感じられなかったその存在を、藍はそこへはっきりと認識する。
「ゆかり…さまっ…!」
茫然と問いかける彼女に、燐光を纏う紫の影が、ゆっくりと頷く。
それは、紫の精神が形を成したもの。
-藍。
私には魅魔が魔理沙に言ったような、気の利いた言葉はあなたに言えそうにない。
あなたはそれだけ優秀な子で、私にそういう事が言えるだけの心の余裕もなかった。
…本当にダメな「親」ね、私は…かつてあの子にしてしまったように、私に出来ることはこうやって突き放すことばかり-
紫は寂しそうに眼を伏せる。
-あなたやその子のように…私が何度顧みぬ態度をとっても、私の為に力を尽くそうとしている。
私はこの通りの性格だから、あなた達にどう、返せばいいのかわからない。
あなた達が苦しんでいるのを知っていて、なんの力にもなれない自分がもどかしくて仕方がなかった-
藍がこの時もう少し冷静であったなら、紫の言葉に僅かな違和感を感じ取れたのかもしれない。
だが今は、そんな余裕などどこにもなかった。
溜めこんだ想いが、声にならない嗚咽と共に、涙となって流れ落ちる。
-ごめんね、藍。
私はいつも自分のことばかりで手いっぱい。
その上に…また私の身勝手をあなたに押し付けようとしている-
「ゆかり…さまぁっ…!!」
-力を…貸して頂戴、藍。
あなたの身体を借りれば、私も戦える…!-
「紫様!
ダメです! そんなことをしたら、紫様だけじゃなくて、藍様まで!!」
それまで成り行きを見守っていた橙が、顔色を変えて諫止する。
橙は紫がどうしようとしているのかを瞬時に悟った。
そして藍であれば、なんの異論を差し挟むことなく、紫のために自分自身を投げだすのだろう。
-行かなければならないわ。
心服の友が…私の最初の…「娘」が、私の為に戦っている。
大丈夫よ、私は…「私達」は、必ず帰ってくるわ…!-
「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第六十四夜 「リブート、マイ ファンタジア -Part2-」
静葉「おばんでーす、静葉です。
ここからいよいよ後半戦、こちら側のスペック紹介になるわね」
レティ「この頃はスキルが色々ぶっ飛んでたり、グリモアの仕様も違ったりしたから、完全に別ゲーの解説みたいな感じになるのが何とも」
静葉「まあかごめばかりじゃなくて、アタッカーはほぼ全員悪魔のクチバシ入れてたりもしてるしねえ。
実際マスタリースキルや憤怒の力とかの一部パッシブは、重複させると片一方がレベル1でも高いレベルの方の二倍で補正される頭おかしい仕様もあったし」
レティ「憤怒の力は本当に狂ってたわね。あと血の暴走」
静葉「憤怒はフォースブーストとのバランス取りの為になくなった感が強いというか、どう見てもダクハンっぽいスキルじゃない気がするのよね。
むしろブシドーじゃないかと」
レティ「あー、解らなくもない。
けどトランスはトランスでまた頭のおかしい補正率なんだけど」
静葉「それを踏まえて、茶番でも挟みながらそれぞれ紹介していこうかしらね。
まずは登場順、かごめとヤマメ」
かごめ(?) ブシドー
上段の構え★ 居合いの構え★ 青眼の構え★ 無双の構え★ 踏み袈裟1 一寸の見切り3 雷燿突き1 ツバメ返し★
刀マスタリー★ HPブースト★ TPブースト9 ATKブースト★ 一閃ブースト★
ヤマメ(?) バード
猛き戦いの舞曲5 聖なる守護の舞曲5 韋駄天の舞曲3 慧眼の旋律1 蛮族の行進曲5 癒しの子守唄5 安らぎの子守唄5
火劇の序曲5 氷劇の序曲★ 雷劇の序曲5 火幕の幻想曲★ 山彦の輪唱曲3 沈静なる奇想曲7 禁忌の輪舞曲9
歌マスタリー★ HPブースト★ ホーリーギフト★ 採取1
静葉「というわけで」
レティ「待て待て待てなんで名前伏せてある!!><
なんで名前伏せてあるのよこれ!!!><」
静葉「そこは気にしてはいけないところよ(渋い顔
まあアレだわ、針妙丸みたいなものよ。ここにロクでもない名前がハマってたのはほぼ間違いないな、と思ってもらえれば」
レティ「まさかあんたじゃないでしょうね、このブシドー」
静葉「だったらどれだけよかったことか(しろめ&盛大な溜息
まーとにかくそれを差し引いても首の傾げたくなる点がいくつもあるわね」
レティ「まず雷燿を取ってるヒマがあるなら一寸の見切りかTPブースト振り切れと」
静葉「序曲も無駄に振ってるわね。
その分戦いの舞曲、奇想曲、蛮族辺り振れと。幻想曲も何故火幕を伸ばしたのか」
レティ「属性メインじゃないというか、これ見る限り無双してツバメ撃って輪舞曲で無双延長しまくるんでしょ?
それだったらバフは序曲、舞曲、奇想曲か蛮族でいいわよね。舞曲は咆哮で打ち消されるとしても」
静葉「それよそれ。
実際それしかしてないし」
レティ「マジで酷いわね。
というかそもそもこのバード側のグリモア本当どこから突っ込めばいいの? SSQは異常付与率はTECしか影響しないじゃない」
静葉「盾マスタリーとか軟身とかのデバフで十分よね。あとは緊急回避のリザレクションやリカバー、バインドリカバリとか。
ブシドーはアタッカーだからいいけどね、血の暴走やアクトファースト、オートガードは★が欲しかったところだけど」
レティ「むしろここまで揃ってるなら何故アクトブースト入れなかったのかと。
明らかに息吹要らないわよね、そんなヒマないし」
静葉「息吹はそれこそバード側に欲しいスキルよねえ。
一応殴りに行く余裕もあるにはあったけど、そんなに重要でなかったのは確かね」
…
…
~原初の大密林、ワイバーンの巣~
其処は元々、ワイバーンと呼ばれる小竜種の塒とされる地であった。
ワイバーンはハイ・ラガードにおいて上帝・オーバーロードによって作りだされた魔物のひとつであるが、その原種と呼べるものがエトリアの密林に営巣することが知られている。
多くの魔物がそうであるが、ワイバーンも世界の破滅以後に出現した強大な魔物の一つだ。
それまでこの星の何処かに人知れず存在したのか、世界の破滅から生き延びるために既存の生物から進化してこのようなモノが生まれたのか…それは誰も知らない。
そして、今目の前にいる強大な竜神も、また。
その身体は雲突くほど巨大で、燃え上がるような深紅の外皮に覆われている。
その吐息が周囲の大気を燃やし、震わせる。
まるで、その「偉大なる赤竜」の強さを誇示するかのように。
想像以上の威容と迫力、伝わってくる重圧に、翠里とリップは言葉なく立ち尽くしている。
リップはともかくとして、翠里はハイ・ラガードでつぐみ達が戦った金竜クランヴァリネの話も聞いている。
そして、魔理沙がかごめと戦う前に、フラン達と討ったのがこの深紅の竜に類する存在であることも。
百聞は一見に如かず…とはいうが、実物を目の前にして、自分が一体何に挑もうとしたのかを再認識させられ、戦慄する。
勝てるのか、この竜に。
「あんたは竜と戦うのは二度目だったか、かごめ。
こいつはどうなんだ、あんたの目から見て」
努めて軽く問いかけるヤマメだったが、その視線は竜を見たまま、表情も険しい。
「解らんな。
タルシスで戦った竜は、アレも本調子とは言い難い相手だったしな」
だが、と彼女は殺気を放ちはじめ、刀の鯉口を切る。
かごめと戦う者は、これを受けてまだ戦う意思の折れないものに限られるという、その凄まじい殺気が…赤竜へと向けられる。
赤竜もそれに呼応するかのように、唸りを上げて刺すような殺気を返してくる。
ともすれば昏倒しそうになるような殺気の渦の中で、翠里は恐る恐るリップの方を振り返る。
リップは気丈にも、震える手を叱咤して盾を構える。
「信じなきゃ、自分自身を。
私達にだって、出来るって…!」
リップは、この二日の間にかごめから叩きこまれたもっとも基本的な事を、言い聞かせるようにはっきりと呟く。
「…心を強く持て、あんた達。
今のあたし達で、決して相手に出来ないレベルじゃない。
必要な指示はあたしが出す! しっかりついてきな!!」
抜き放った刀を、大上段の横構えにするかごめが叱咤する。
その気に応えるかのように、翠里は顔を両手で挟むように己の頬を打ち、気合を入れ直して弓を番える。
(そうだ…!
私も…私もあの背に追いつくために!)
その視界の先には、幻想郷最速の翼。
彼女がその目標とする、最速の天狗の背がある。
「行くぞ!!」
挨拶がわりとも言える紅蓮のブレスが、リップの展開する防御魔法に完璧に弾かれると同時に、かごめの最初の一撃が赤竜の喉元を捉える。
そこへ、ヤマメの氷の歌を纏った翠里の矢が無数に放たれ…四人の戦乙女と偉大なる赤竜の死闘の幕が切って落とされる。
…
…
翠里 レンジャー
パワーショット5 エイミングフット3 ダブルショット★ サジタリウスの矢1
シュアヒット2 チェインダンス5 アザーズステップ★
弓マスタリー★ HPブースト★ TPブースト5 AGIブースト★ エフィシエント★ エンドルフィン★
リップ パラディン
挑発5 パリング★ 渾身ディフェンス6 フロントガード1 バックガード1 パワーディバイド★
ファイアガード★ フリーズガード1 ショックガード1 シールドスマイト1
盾マスタリー★ HPブースト★ TPブースト★ DEFブースト★ 決死の覚悟★ オートガード★
レティ「ねえ…このリップのグリモアスキル構成これ一体何なの(しろめ」
静葉「いやまあ…意外と馬鹿にしたものじゃなくてね。
天羽々斬はHP・TP共に大きく補正されるし、これで青眼するとかなりの防御力が確保できるのよ。
いざとなれば挑発で引っ張って一寸の見切りとかできるし、実際ドラゴンビートを吸い取って大分活躍してたのよこれ」
レティ「だったら青眼★と見切り★粘りなさいよ…。
というかそれなら渾身もいらないわよね、普通に挑発全振りしなさいよって」
静葉「まあその辺は。
只この子バフのかける順番間違えると悲惨なんだけどね。SSQは結界みたいに異常を予防できるようなスキルもないから、毒手でまとめて対策に行ったりして」
レティ「一方の翠里だけど、ダブルアタックの発動率を加味した序曲通常攻撃とダブルショット、威力の期待値としてはどっちが上なのかしら」
静葉「煉獄や電磁砲を素撃ちするようなものね」
レティ「お察しレベルじゃない、それ。
それだったら素直に序曲は強化と割り切って、アクトブーストからダブルショットでいいじゃない」
静葉「アクトブーストから通常攻撃すればそれなりに期待値も上がるんだけどねえ。
因みにエンドルフィン、意外と発動はしてたかしらね。回復量は微々たるものだけど」
…
…
一瞬の閃光の如き間の中で、かごめは確かにその姿を捉えていた。
致命の間合いだった。
防護の結界を貫通し、にわかに精神に錯乱を来たしたリップのフォローに動いたかごめに、その一瞬の隙を逃さぬ竜王の巨大なツメが…神に逆らう愚者に振い落とされる鉄槌の如く、その視界を上から押しつぶす。
かごめは蛇に睨まれた蛙の如く、ただ見上げるばかりの視界に…幾条もの紫の光が奔る。
四重結界。
この技の使い手は、彼女の知る限り二人しかいない。
一人は、当代の博麗巫女にして、歴代最強の資質と天性を有する博麗霊夢。
しかし、霊夢の四重結界は、むしろ攻撃補助として対象の退路をふさぐことに真価を発揮する…これほどまでの完璧な防御力を、瞬時に生み出せるような芸当が、少なくとも「現在の」霊夢に出来得るはずがない…!
かごめは、その「もっともありえない可能性」を確かめるかのように…背後を振り返る。
「その子も、もう大丈夫よ。
じきに正気を取り戻す」
「そんな…お前、なんで…!!」
戦慄くように呟くかごめ。
その驚愕で言葉にならないのは、ヤマメも一緒だった。
「藍の身体を借りたわ。
戦闘に耐えうる時間は十五分程度…けど、あなたなら…それでこの怪物を制するに十分の筈よ」
「そんなことを聞いてるんじゃない!!
なんでだ!あんたは起きてこんなところに出てこれる状態じゃない筈だ!!
…藍ッ!あんたも聞こえてるんだろう!!なんで、なんでっ…!!」
死闘の場であることも忘れ、激昂するかごめを…手で制したのは意外にもリップだった。
かごめは剣呑な…否、困惑と怒りが綯交ぜになったような瞳でリップを睨むが…リップは、怯むことなく言い放つ。
「まだ…わかんないの…!?
かごめさんは、このひとの親友なんでしょ!?
だったら…だったらそんなこと…言わなくたって!!」
「その子の言う通りよ。
かごめ…そしてヤマメ。
あなた達にばかり戦わせるわけにはいかない」
立ち上る妖気が、その紫と藍のオッドアイに妖しく、そして強い意志を秘めた輝きに連動して、爆発的に渦を巻く…!
「これは他でもない、私自身の戦いでもある!
その場に、戦うべき私自身がいないなど、そんな無法もないわよ!!」
解き放たれた魔力の脈動が、結界に阻まれたままの赤竜の身体を僅かに仰け反らせる。
紅き竜王が体勢を整えるより前に、氷の魔力を孕んだ矢の暴風が飛来し、突き刺さって押しのけようとする!
「言われてみりゃ至極当然だ!
何時までも呆けてんじゃねえ、さっさと次の指示を出しやがれこのかりちゅま大王ッ!!」
さらに、解けかかった結界の魔力まで巻き込んで、彼女本来の属性である雷を纏う強靭な土蜘蛛の糸で、赤竜の次の一手を封じにかかるヤマメが、大喝し叱咤する。
かごめはわなわなと震えていたが…その、怒りなのか困惑なのか…それに起因するだろう震えが止まる。
「…話は、あとだよな」
「ええ。
だから、今は共に」
頷き、再び顔を上げたかごめが、その本領発揮とばかりに獰猛な笑みを浮かべる。
「翠里!
あんたまだ、隠してる力があるだろ!
…あたしに隠し事出来ると思うな、そいつも使え!」
翠里ははっとして、顔色を変える。
「黒鴉」。
翠里が生まれつき秘める、天狗としての自分の特性。
「飛翔」「剛力」「念動」「読心」「隠行」「透視(千里眼)」「水歩」「風刃」「霊波」「幻視」という、天狗の業「狗法」は、それぞれの天狗によっても得意領域が異なり…おおよそ多くの天狗は、そのうちの二つ、多くても三つのカテゴリの適正しか持ちえないとされる。
例えばかごめと共にすることが多く、天狗族でも屈指の実力を持つ射命丸文は「飛翔」「風刃」「隠行」「水歩」の四項目の資質を有している。四つでも滅多に開眼できるようなものではなく、それ以外もできないことはないが、例えば「透視」に関しては山最強のテレグノシスである犬走椛はもとより、ライバルと認める姫海棠はたてにも遠く及ばない。
しかし、翠里は違う。
普段は休眠状態にある「天狗としての翠里」を呼び起こすことで、「狗法」総ての資質を100%引き出せる。
発動後にその時間に応じた強制的な休眠を強いられるなど制約は大きいものの、天狗族でも千年に一人生まれるかどうかという天性である。
翠里は、隠していたはずの自分の秘密を知られていたことに驚くのは勿論だが…それを行使するのを躊躇っていた。
人間として生まれ育った彼女にとっては、力を発動した後のリスクよりも、「力を発動すること」で、今の自分ではなくなってしまうのではないかと恐怖していた。
彼女自身、その力を完全にコントロールできているわけではないのだ。
「大丈夫だ。
あいつを、信じろ。
…私も可能な限りフォローする…だから、恐れるな!」
その背を、勇気づけるようにヤマメが張る。
翠里は深く息を吸い、覚悟を決める…そして。
咆哮と共に、その亜麻色の髪は漆黒に、ベージュの瞳が深紅に染まる…!
…
…
紫 メディック
キュア★ エリアキュア9 リジェネレート3 ヒーリング1 ディレイヒール1
バインドリカバリ★ リフレッシュ★ リザレクション5 医術防御★ ポイズンドラッグ★
回復マスタリー★ HPブースト5 TPブースト★ 博識8 精神集中8
レティ「正直ポイズンドラッグ、要る?」
静葉「要らないわね、その分精神集中とディレイヒールに振るべきだったわねこれ。
医術防御2を取る選択肢もあったような気もするけど」
レティ「当時は要らないかと思ったけど、よく見てみるとそれ、不屈の号令のプロトタイプみたいなスキルですものね。
実は結構強力なスキルだったんじゃないかしら」
静葉「というかまんま、食いしばり効果のバフを与えるスキルよ。弱いわけがないわね。
あと意外にグリモアに関するツッコミがないようですが白岩殿」
レティ「アイスブレスじゃねえのかよ!とか言っても今更感酷いし。
この頃のフリーズはSSQ2と違って追加効果が回避ダウン、ツバメ返しも何気に10でも外れるからね。これはこれで便利なスキルですもの」
静葉「実際に赤竜にトドメを刺したの、紫のアクトフリーズ3連打よ。
ただどの道弓を装備させてても弓スキル使うわけじゃないし、オートガードとか便利なスキルをもっと粘っても良かったわね。
けど森の結界は腐らないわね。これは本当に★粘っても良かったわ」
レティ「アクトブースト込みなら最低でも6ターン持続するし、消費も軽いしね。
そう言えば回復マスタリーって剣と一緒で重複しないのよね、何故か」
静葉「不思議よねえ確かに」
静葉「赤竜戦はとにかくひたすら、無双や各種バフを禁忌で延長しながらひたすらツバメで殴るだけ。
咆哮や各種縛りは奇想曲で弾く。それだけのシンプルな話よ。
奇想曲のレベルは7だけど、これでも十分混乱防いでくれたし、あとは紫が後攻からリフレッシュすれば万全だったわね。
保険として翠里やヤマメがテリアカを握ると」
レティ「SSQのメディックはLUCもそんな低くはなかったしね。
それに、かごめ?が混乱しなかっただけでも十分奇想曲が強力だった、ということなんじゃないかしら」
静葉「何よその意味深な「?」は」
レティ「ぶぇ~つぅ~にぃ~。
それにここまでレベル上げて、羽々斬ならこれだけでも十分な打撃力はあったんでしょ?」
静葉「おおよそ舞曲+序曲で4000程度ね。
翠里も殴りに行くから大体5000程度は持ってける勘定かしら。あとはフリーズで命中率を補うと」
レティ「これだったらかごめ?にもアクトブースト何故持たさなかったのかと」
静葉「しつこいわねあんたも。
まあ確かに、TP回復はエフィシエント持ちの翠里もいるから、アクト★からツバメ三連打すれば1ターンで5ケタ近く持ってけるから、もっと早くけりがついた可能性もあるけど。
因みに防御面だけど、医術防御込みでドラゴンクロー、ドラゴンビート等々がおよそ250切る程度ね。挑発を絡めればドラゴンビートを3発位までリップが受けてくれる」
レティ「そこはやはりペットみたいにはいかないわねー」
静葉「アレはタンク役としては頭おかしい性能だから。
レベルのせいもあったろうけど、さして苦戦もしないどころか一発でsageて終わったわ。ハイラガの赤竜もだけど、3や4の金竜を考えるとやっぱり最後に戦う竜はなんていうかさほどでもないって感じがもうね」
レティ「レベルも上がってるし、やり方はもう解ってるからその辺は言ってもしょうがない気もするわ。
で、今回はここまでになるのかしら?」
静葉「そうね。
いよいよ次回から、止まってた時が動き出す。
ハイ・ラガードの狐尾の戦いも、いよいよ最後の局面になっていくわ…あ、例の計画だけど、あと必要なグリモアはリミットレス3個よ。
これが揃えばいよいよ⑨とアホ幽香が魔じ…おっとこれ以上は危ない危ない危ない(キリッ」
レティ「本気でやるのそれ…そんなのに巻き込まれるルーミアとポエットが哀れでならないわね。
ルナサも色々問題あるけど、あの幽香も本当、どうにかならないものかしらね」
静葉「コーディはいいんですかレティさん」
レティ「いいのよ。なんかあの子も最近だんだんチルノと同類なんじゃないかって気がしてるし」
静葉「というわけで、番外編はここまで。
次は…まあ、まずはこいしね」
レティ「まただよ(呆」
…
…
「そして…藍さんの身体を借りた紫さんと…私達は赤竜に立ち向かった。
悪夢としか思えない灼熱の波をリップさんが止めて、最後は紫さんの放った渾身の氷の奥義…それが、赤竜の全身を完全に凍結させて決着でした」
長い長い、翠里の語りを聞く面々。
「それで、紫はどうなっちまったんだ?
あいつは、赤竜の力を得たとすれば…元通りとは行かなくても」
「そこからは私が話そう」
魔理沙の問いに、思ってもみない声が背後から響き、四人はその方向へ振り返る。
店の戸口の方から、歩いてくるのは藍…見慣れた道士服ではなく、ノースリーブの青シャツと、タイトなジーンズというラフな格好…動きやすくはあるだろうが、身に付けたしっかりとしたブーツ以外は、とても樹海の探索に赴く装備には見えなかった。
「藍さん」
「久しぶりだな、美結。
私もようやく、紫様の面倒見から解放され、こうしてまたお前達と冒険することができるようになった。
もっとも…紫様に竜珠が馴染むまで、まだしばらく無理もできないだろうが」
「どういう事だ?」
藍は少し寂しそうに笑う。
「赤竜との戦いの中で、紫様の力はほぼ限界だったんだ。
私に出来ることは…これまで「式神」として預かっていた総ての力を、紫様にお返しすることだった。
…それは、私と紫様が「式としての主従関係で無くなる」ということに等しかった」
「じゃあ…あなたは、もう」
恐る恐る問いかける美結に、その言葉の意図を察した藍が「そうじゃない」と首を振る。
「私が「八雲紫の式」でなくなったとしても…私と、紫様はとうに「八雲の名を持つ家族」としての絆で繋がっていたんだって…その時になってやっと、わかったんだ。
私だけじゃない…橙も…そして多分、ヤマメも。
紫様の面倒は、「私の頼れる娘」が見てくれている。私は、思う存分お前達に世話を焼ける…ということさ」
その表情に、煩悶はない。
翠里も、この時になってようやく気付いたのだ。
その戦いを通じて、藍もまた、ひとつの大きな壁を乗り越えることができたのだと。
「橙もこちらに来たがっていたが、今回は私が、この樹海での探索行を締めるわがままを通させてもらうことにした。
そして…かごめが残した最後の懸念材料「始原の幼子」を討つのは私と美結、透子…そしてお前達でいいんだな、つぐみ、てゐ」
「そういうこった。
一応今は境界操作のお陰で誰も疑問に思う奴はないだろうが、傍から見たら絶対妙な事になってると思うぞ」
その背後から、てゐとつぐみも姿を見せる。
「ただいま、みんな。
とにかくそういう事だし、よろしくね」
「っても、私達には早速別件もあるんだがな。
つーわけで美結、透子、早速仕事だ。常緋の森へ行くよ」
「ちょちょ、まてそこの兎詐欺勝手に決めてんじゃねえよ!?
っていうか私達とかどうするんだよ!?」
慌てる魔理沙に、ああ、と何処か気の抜けたような返事を返すてゐ。
「フランがじきに、リップのアホを連れて戻ってくる。翠里と菫子、あんた達もあいつらと組め。
「天ノ磐座」…上帝の玉座に隠された「上帝最後の遺産」。
その後始末を魔理沙、あんたが中心になってやり遂げろ。ハードなのは承知の上だが、かごめ直々の指名だ」
顔を見合わせる魔理沙、翠里、菫子の三人。
てゐは覇気に満ちた表情で宣言する。
「リリカ達も既に、自分の目的に向かって動き出してる。
終わらせるぞ…ハイ・ラガード世界樹にまつわる全ての謎解きを、この私達の手で!」