♪BGM 「戦場 朱にそまる」(SSQ)♪
戦いが激化していくその中で、翠里もまたその感覚を共有していた。
レミリアに飛ばす補助魔力の羽、そして、恐るべき「王」の技をそらす妨害の羽を駆使し、攻防両面の補助の要となっていた翠里も、同じように巫術を駆使して戦闘をサポートする菫子も、最初は困惑することだらけで、この戦闘が始まって以降もしばらくは、ただ無我夢中で魔理沙の飛ばす指示に動いているだけ…そのはずだった。
翠里の脳裏に、いくつもの映像がよぎる。
中には、思わず目を背けたくなるようなおぞましき光景…かつてオーバーロードが行った狂気の業の数々も、その彼が残した深い苦悩もあった。
それは、そのUNIXの記録…否、七王の依代となった「付喪神」達の、声にならない叫びだった。
次の瞬間、頬を伝う熱い物に気づき、その透明さに驚いた。
何らかのタイミングで額に受けた傷から流れた傷だと思っていたそれは、彼女の涙だ。
困惑する彼女が、少し離れた位置にいる菫子を見やる。
彼女も、泣いていた。
きっと…彼女も同じモノを見ているのだろう。
だが、彼女は気丈にも涙をぬぐい、精神を鈍らせる恐るべき魔力を孕む吐息を防ぐべく、素早く正確な印を組み、生じた結界でレミリアを、仲間達を守る。
(そうだったんだ)
翠里もまた、空いた腕で乱暴に涙をぬぐい、番えた矢を無拍子に近い速度で放ち、適切な間合いを得るべく跳ぶ。
(「彼ら」の願いを。
「上帝」の真の願いを)
吐息を防ぐレミリアへ飛ぶ尾の螺旋を阻むかの如く、彼女は凛とした怒号と共に矢を放ち、その体勢を崩させる。
(私達が、未来へ繋ぐんだ。
そうだよね、翠里!みんな!)
菫子、魔理沙、フラン三者の視線が交錯し、頷くのは一瞬の出来事。
魔理沙の放つ雷火に、同期した菫子の魔力が飛んで、その体勢を更に崩したところへ、二人分の炎熱魔力に自身の炎熱魔力を上乗せしたフランの穂先が、ねじ込まれる。
-見事ッ!
我が全身全霊、敗れたり!!-
歓喜とも取れるその断末魔を上げ、海の王は爆発四散する。
そして。
-星の意思を継ぐものよ。
我らの託す想いを、受け止めよ!!-
5つ目のUNIXが、金色の光を放つ。
雷を纏う翼、イワォロペネレプ。
「上等だ、かかってきやがれ!!」
魔理沙の大喝に応えるかのように、雷雲その物の如き姿で鳥の王が飛翔する!
「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第七十一夜 箱に封ぜしは全ての贈り物(後編)
レティ「七王は本当に長かったわね。
実はさらりと流したけど、結構Take数はかさんでたわね何気に」
静葉「まー本当にイワォが強敵だったからもうね。
グリモア厳選が終わったらあっさり行くかと思ってたらそんなことはなかったわね」
ヤマメ「本当だよ一体それにどんだけの時間かかったと思ってんだマジで」
静葉「一応魔理沙と菫子だけは最初からフルスロットルだったのがまだ救いだったんだけどね。
それじゃあサクッと各自のステータスとかの解説しましょ。5人まとめていくわよ」
魔理沙 ガンナー
フレイムショット5 アイスショット5 サンダーショット5 チャージフレイム★ チャージアイス★ チャージサンダー★
ヘッドスナイプ1 アームスナイプ1 レッグスナイプ1 チャージショット1 バーストショット★ 跳弾1
ドラッグバレット1 零距離射撃★
銃マスタリー★ 物理攻撃ブースト★ HPブースト8 TPブースト★ ペネトレイター1 ダブルアクション★
フランドール ハイランダー
ロングスラスト★ ブレインレンド1 レギオンスラスト1 シングルスラスト5 シングルバースト★
ディレイチャージ1 スピアインボルブ★ リミットレス★
槍マスタリー★ 物理攻撃ブースト★ 物理防御ブースト1 HPブースト★ TPブースト★ 防衛本能★ ハーベスト5 血の暴走★
レミリア パラディン
ファイアガード★ フリーズガード★ ショックガード★ ヒールガード★ センチネルガード★
フロントガード1 バックガード1 シールドスマイト1 猛進逃走1
盾マスタリー★ HPブースト★ TPブースト★ 物理防御ブースト★ 属性防御ブースト★ 決死の覚悟★ パリング★
翠里 レンジャー
フランクショット★ ブラインドアロー★ スリープアロー1 パライズアロー1 ドロップショット1
ダブルショット★ トリックステップ★ スケープゴート★ アザーズステップ★
弓マスタリー★ 抑制攻撃ブースト★ 素早さブースト3 HPブースト★ TPブースト★ エイミングフット★
菫子 ドクトルマグス
巫術:再生★ 再生帯5 再生陣★ 鬼力化★ 皮硬化7 脈動★ 呼応★ 結界★ 乱疫3 転移3 反魂★
巫術マスタリー★ HPブースト★ TPブースト★
ヤマメ「いや、そのだな、これ」
レティ「まずよくもまあここまでやったわね、グリモア厳選」
静葉「最初の数回は魔理沙がダブルアクションではく伝説のバーストショット、フランがTP回復のアブソーブを持ってたわね。
伝説のアブソーブは厳選中に流れてきたものだけど、お陰でフランがフォースブーストを発動する機会も増えて耐久の足しになったのは確かよこれ」
レティ「えっ一応意味あったの」
静葉「魔理沙にもなんか持たせようと思ったけど余裕があまりなくてね。
あと最初は魔理沙もバースト一本で行こうと思ってたけど、バーストを重ねても威力がさほどでもなくて、なおかつインターバルが足かせになってあまり殴りに行けなかったのが非常に大きなネックだったわ。
だから98に上げる際に一挙に休養させて、そのときからスキル変えてないわ。
菫子も同様で、最初は霊防衰斬持たせてたけど結局撃つヒマないので99に上げる前に休養させて全て巫術に振り直したわ。まあ、結局呼応、結界、再生、再生陣しか使わなかったけど」
レティ「流石に巫術特化にすると文面が物凄くシンプルねえ。
というか、呼応や結界もわざわざ粘ったのかしらこのグリモア」
静葉「勿論よ。
幸いにもというか、魔理沙はもう最初の時点で全て必要なグリモアが揃ってた。必要だったのがレミリアの自衛の本能、菫子のバイタル・マインドシャット、翠里の暴風の翼ね。
欲を言えばスケープゴート、トリックステップ、みがわりもTP回復3が欲しかったんだけど」
ヤマメ「あー、連戦になるから戦闘終了時にちゃんと回復効果発生するのか」
レティ「これでアムリタの消費を節約するわけね。
これだけ菫子が積んでて、なおかつTPの多いアルケミからの転職ならTPなんてほとんど減ってなかったんじゃない?」
静葉「まあね、レミリアが落ちるのもそうだけど、菫子のTPが尽きたた時点でほぼ積むもの。
TPが戦闘終了後に200ぐらい回復するから、大体菫子だけがTP満タンからスタートしてる状態だったわね。あとは潤沢なTPを武器にひたすら結界、呼応などを使い分けていくだけよ」
レティ「てことは、アタッカーは自分で自分にアムリタ使うわけね。他にやることもないから」
静葉「そうよ。
あとレミリアも、レベル98に上げて以降はラグナロク使ってるし、こちらも自衛のTP回復ボーナスと食事効果だけで常にTPは満タンだったわ。
食事はTP補充を重く見て樹海パエリアを用いているわ。とにかく、いかにTP回復を考えずに行くかを重視したんだけど…正直、アムリタ2の所持数もっと減らしてメディカ4をその分持たせてもよかったわね」
ヤマメ「というかここまでやっても99にするまで勝てなかったって、結局何が一番ヤバかったんだ? しつこいようだけどやっぱイワォなのか?」
静葉「実は99でも結構苦戦したわよイワォ。
間違いなく、あいつがガンね。サンダーウィングが基本いつ飛んでくるか解らないし、基本的にはみがわりスケゴ結界でサンダーウィング込みで全部受ける方針で行かないときつかったわ。
ウィンドプレスが飛んでくる以降は自衛の本能を貼ってるヒマもなかったもの、決死の覚悟がピンポイントで発動してなきゃhageてたわね」
レティ「ここまでイワォの話ばかりという事考えると、まさかアルルーナってそんな苦戦してないとか言わない?」
静葉「してないわね。
レミリア実は一回落ちてんだけど、直後に立て直したのよ。
反魂で立たせたところにノータイムでミスト撒いて、追い討ちにメディカ4投げたところに丁度フロストスマイルが飛んできた。その次にセンチネルからフランと魔理沙の二人ががりでメディカ投げて、翠里がソーマプライム、菫子があるるんに呼応撃って、呪粉のターンから反撃開始。
自衛が一度でも乗れば、あとはみがわりスケゴだけで全部キャッチできる。菫子まで普通にリンクオーダー撃ちに行ってたぐらいだから、決着14ターン目かしら。最後はレミリア完全防御から至高の魔弾突っ込んで戦闘終了」
レティ「…メモを見る限り、直前にスパイダーリリィ飛んできて翠里に直撃してた奴をわざわざ反魂で起こしてすらいるみたいね。
ってことは、相当余裕があったってことよねこれ」
静葉「地味にコロトラングルも最初の方で苦戦してたから、耐氷ミストの導入も早い段階で決めてたわね。
あとはラウダナムね、クイーンアントの攻撃力あげられる方はともかく、防御力を上げられるのが本当に厄介で」
ヤマメ「コロトラングルも水のヴェールが厄介だしな」
レティ「ケルヌンノスはハリケーンパンチ以外の攻撃が甘いし、ヒーラーボールさえどうにかしてしまえばあとはバイタルシャットでバフをはぎ取るだけですもんね。
簡単にまとめるとまず狼は速攻で親玉だけを潰し、ケルヌンはヒーラーボールを片づけるところからやったわけだけど」
ヤマメ「フランのスキル見直しでシングルバースト取得したはいいけど、結局近接突だからロングスラストだけでよかったと」
静葉「クロスカウンターのターンに使えないのも痛かったし、ヒーラーボールのキュアの回復力も2600前後と高いから焼け石に水だもの。
ヒーラーボールが自分を回復させないのがせめてもの救いね」
レティ「それマジでどうやって倒すのよ。
クイーンアントも地味に支配の眼光と土けむりが厄介だけど、それさえ結界でなんとかできればあとはトリックステップでわりとどうにかなるから、こっちも基本的にはスノードリフト同様、親玉狙いだったわね」
ヤマメ「地味に取り巻きのアリンコも図鑑登録されるから、ピクニックで挑んだ時に狩ってなかったハイキラーアントも巻き添えで倒してたよな。
そこはチャージアイスでいいんだけど」
静葉「コロトラングルまでは事故もなくて順調だったんだけど、まあこれまでの例があるからイワォは本当に大変だったわ。
時々攻撃の手を休めて魔理沙とフランふたりがかりでレミリアを回復させつつ、厄介な状態異常も結界ではじかなきゃならない。サンダーウィングの不使用ターンが過ぎた後は、ショックガードをすべきかスケープゴートを使うべきか迷う局面もあったわ」
レティ「回復と攻撃を同時進行させる意味でもフランのフォースブーストが輝いていたわね。
苦労したぶん、全員生存してマンティコアまでこぎつけた時点でなんかもう九割がた勝った気分になってたわよね」
ヤマメ「実際本当にマンティコア大したことないもんな。
攻撃力も大したことないし、前作みたいなオートガードもないから結界張って異常をシャットアウトしたらあとはちまちま削るだけと」
レティ「あとはアルルーナも結局三色使い分けしないでそのまま全部みがわりスケゴで全部受け切ったわね。
わりとテンタクルビートが飛んできてたけど、そのときはセンチネル使って全員で受け切る感じで」
静葉「実際センチネルあんまり意味ない気はしてるんだけどね。ラグナロクの補正もあるしみがわりスケゴでわりと十分で。
とにかくこれまでと違って、6nターン以外は菫子が自由に動けたから実はイワォやコロトラングルよりもずっと楽な相手だったわ。
最後はスパイダーリリィの直撃で翠里が落ちる一幕があったけど、その次のターンわざわざ反魂で起こしつつ完全防御握ってからの至高の魔弾で6000弱のダメージ叩き込んで終了よ。
まー兎に角クイーンアントとイワォのお陰でだいぶ苦労させてもらったわ本当に」
ヤマメ「ってもラグナロク込みでギリギリとかもうね」
レティ「イワォのお陰でレベルを上げざるを得なかったどこぞの低レベル攻略もあったから、まあこんなところかしらね」
静葉「因みに七連戦終了後、UNIXっぽいなにかを破壊するかそのままにしておくか選択できるけど、どっちを選択しても特に報酬が変わるわけでもなく、依頼報告の時のアントニオのセリフが変わるだけよ。
勿論、DLCだから結末に関わらず、一度報告した後も何事もなく受けることはできるわよ」
レティ「解剖用水溶液3個は確かに入手の面倒さから考えても、欲しいと言えば欲しいけど」
ヤマメ「それだったら雷の女帝を倒しまくってアムリタ集めするよなあ」
静葉「これにて最終三部作の一角が無事終了、あとは茶番を挟みつつティンダロスの攻略に移るわよ。
軽く触れるけど、ティンダロスは本尊もさることながらその後がむしろ大変だから、地味に準備も必要で」
レティ「意外と「その後の攻略」を取り上げた動画がなかったから、調べたのよねこのログ書きながら。
ピクニックでなら簡単に処理できるとはいえ、強引に行くのはなんか違うし」
静葉「そこはまあ、ルナサ達の腕の見せ所ね。
というわけで、次回の解説は私たち一旦お休みして、当事者にしてもらう予定よ。
丁度引き上げてきたルナサもそこで死んでるし」
ルナサ「かゆ…うま…( ゚д゚ )」
ヤマメ「うわ何時の間に」
レティ「流石に私もそろそろ限界だしシャノワールにでも逃げようかしら、エアコン効いてるし。
っていうか私たち全員居なくなってこいつの相方誰がするの?」
静葉「大丈夫助っ人呼んでるから(キリッ
というわけで、今回はここまで。ルナサ何時まで死んでんの、あとは頼んだからね」
ルナサ「……鬼かおまいら_(:3」∠)_」
…
…
狼王の率いる群狼の牙、獣王が振るう恐るべき剛腕、女王とその軍勢の結束、海王の放つ酷寒の凍気、鳥王の岩をも砕く雷鳴の翼、毒王の纏う恐るべき瘴気…魔理沙達は、終わることなき死闘の末にその全てを下し、残るは目の前に妖しく咲き乱れる華王アルルーナのみ。
華王の魂を凍らせるかのような氷の視線も、天地を裂くかのような雷鳴も、その嵐の如き根の鞭の嵐も、その全てをレミリアははじき返し、逸らし、いなしていく。
そして、それを狗法と巫術でサポートする翠里と菫子のバックアップを受け、猛然と槍を振るい、肉薄した位置で雷火を放つ魔理沙とフラン。
強大な華王の無尽蔵な生命力も、少女達の果敢な攻撃に晒され続け…長い長い夜にもやがて明けが来るかのごとく、その戦いは最終局面を迎えつつあった。
その中で、魔理沙は奇妙な感覚を味わっている。
現実にはきっと、ほんのコンマ数秒の出来事だったのかもしれない。その存在と彼女の心が深く結びついたのは、ほんの一瞬の出来事なのだから。
-私は-
その存在は言った。
-私はただ、もう一度蘇らせたかった。
我々人類が犯した過ちにより、我々が一度は殺しつくしたこの世界を。
長い年月の果てに、我らは「世界樹」の力でそれを成し遂げた。だが-
魔理沙にも聞き覚えのあるその声。
だが、その声は魔理沙の記憶にあったそれとは違い…深い後悔と悲しみに満ちたていた。
-教えてくれ、異界の少女よ。
私のやってきたことが、決して許されざることなのは解っていた。
だが…それは総てが無意味なことだったのだろうか?
ただ徒に、この世界の嘆きと悲しみの傷痕を広げることにしかならなかったのだろうか?
だとすれば…私のやってきたこととは一体…なんだったと…!!-
魔理沙はじっと、その言葉に耳を傾け…そして、応える。
「そんなの、私にだってわかんないぜ。
けどさ…ひとつだけ言えることはある。
あんたが、それに自分の全てを賭けて、ずっと一人でそれを背負って歩み続けていたってことだ。
私は…そのこと自体は、尊いことだって思う」
魔理沙は笑っていた。
それは、初めてその存在と対峙した頃の彼女からは、想像もできないほど穏やかな表情だった。
「あんたも信じてたんだろ、自分が命を賭けて、自分の全てを賭けて成して来た事が正しいと。
言ってたよな、あんた。
自分を信じてついて来てくれた者を護るって。
他の奴がなんと言おうと……あんたも自分の正義を貫いたんだ。ちょっとばかし、間違ってたのかもしれないけどな」
-…君も、己の信じる道を…己の全てを、信じるか?-
「勿論だぜ!
でも、私一人じゃきっと、その事に気付けなかった。
自分のことをまず自分が信じてやれなきゃ、もう他に誰も味方についてくれても、そいつらへ心が開けなくなっちまう。
だから…せめて私だけは信じてやる。あんたのその想いは、純粋で尊いものだったって」
そして一度目を伏せ、目の前のその存在へ力強く語りかける。
「後始末は私達がしておいてやるよ。
「上帝」の遺産が、これ以上の悲しみの源にならないように。
上帝(あんた)のその想いが、間違いではなかったというその証明のために!!」
魔理沙は再び銃口を構える。
不意に、その意識が現実へと引きもどされるが、彼女は戸惑うことなくその魔力の全てを解き放つ。
♪BGM 「星の器 ~ Casket of Star」(うにアレンジ/東方緋想天)♪
「劈き奔れ、“天破八輝星”!!」
それまでホルスターに差されていたもうひとつの魔銃・アグネヤストラを空いた左手に構え、胸の前で二丁拳銃を交差させる独特の構えで力を解き放つと、その二挺魔銃の銃口が、今まさに必殺のブレスを吐かんとする竜の顎の如く変貌する。
これまで幾度となく彼女が垣間見せた、彼女の持つ「八卦炉の魔装」そのその真の姿だ。
この魔装は、既に「存在そのもの」が魔装となっている彼女の八卦炉が、彼女の手にした道具…この場合は、銃であるが…に融合することで、その「武器としての効果」を極大化させるという能力を有している。
最大解放としては最もシンプルなシロモノであるが、それ故に術者にとって最も制御が容易く、なおかつ術者の熟練度、創意工夫によりいくらでも発揮できる能力が増えていくのだ。
かごめをして「実に魔理沙らしい魔装」と言わしめる、無限の可能性を秘めた魔装最大解放といえよう。
そして、この魔装を解放するという事は…魔理沙のもうひとつの切り札である暗黒武道「ピストルカラテ」の発動も意味する。
「イヤアアアアアアアアーッ!!」
これまで、後方からの遠距離攻撃に徹していた彼女が、爆発性の高い自身の魔力の空砲を放つマズル音と、裂帛の気合を込めたシャウトと共に一瞬のうちにアルルーナの懐へと飛び込む。
そのまま踏み込みの勢いを殺すことなく、後ろ手で構えたアグネヤストラの空砲とコンマ数秒のズレもなく、アグネアからの莫大な炎熱魔力を接射し、生じた爆風がアルルーナの身体の一部を吹き飛ばしながらその巨体を後方へ押しのける。
カラテシャウトとマズル音が空間を走るとともに、魔理沙は反動で加速力を増した己の五体でアルルーナの放つ強靭な触手嵐を跳ねのけつつ、その肉体へ拳を、重い蹴りを炎の魔力と共に打ちこみ、華王の身体に重篤な火傷を刻んでいく。
「これは…!」
その光景に目を見張るレミリア。
彼女は、あの夜のことを直接は知らない。
その後のフランの口ぶりから、魔理沙とかごめが戦ったことだけは知っている。しかし、魔理沙がかごめのお株を奪うような超近接戦闘でかごめを追い詰めた、という話は、にわかに信じがたいものであり…妹の見たこととはいえ、半信半疑で胸に留め置くに過ぎなかった。
その凄まじい武技を揮う魔理沙の姿に圧倒される翠里、菫子と、まるで何かを感じ取ったかのようなフランと共に遠巻きに眺めていたレミリアだったが、やがて僅かに口の端を釣り上げると、その後を追うようにして走る。
「お姉様!」
「フラン、あなたの見たものが正しかったと、今やっとわかったわ。
けど、あればっかりはどうにもならないでしょう!!」
レミリアが駆けていく先、そこには空間を走る凄まじい電荷の渦がある。
アルルーナは自分諸共、呼んだ雷鳴の渦で魔理沙を倒そうとしているのだと理解したが、それにいち早く気づいたレミリアは魔術の印を組みながらその渦の中へ飛び込んでいく。
そして、電荷の渦が数百万ボルトの高電圧の嵐となって周囲に放たれたその刹那。
「レッド・マジック・クレイドル!!」
大地を踏みしめ、魔理沙や自分は勿論、遠巻きの位置でその戦いを見守る三人をも守る、紅い格子の結界が展開されてその電荷を受け止めている!
「魔理沙、これで決めなさい!
これ以上は、私も続かないわよッ!!」
「解ってるって!!」
大地を踏みしめ、残りすべての魔力を防御結界の展開へ回すレミリアの檄に応え、こちらも残りすべての魔力を雷鳴と転化した魔理沙が華王との間合いを限界まで詰める。
こちらも渾身の力を振り絞って放つ、死の香りを纏う黒百合のオーラも粉砕し、アグネアに込められた魔砲の光と、アグネヤストラの銃口に輝く天の雷が、魔理沙を中心に溶け合い、まばゆい光の洪水が、視界を埋め尽くす。
「これで、終わりだッ!
アークライト・マスタードライヴ!!!」
天を劈く轟音と共に、「空船」から夜空を切り裂く閃光が走る。
その長い長い戦いを締めくくる、その号砲が如く。
-ありがとう。
君らの進む道に、希望のあらんことを-
それは幻聴であったのかもしれない。
しかし、魔理沙は何の疑いも抱いてはいなかった。
その光の洪水の中で、アルルーナだったその存在がかすかに笑ったような、そんな気が魔理沙にはしていた。
「さよならだ、
魔理沙もまた、その偉大なる先駆者へ、哀悼と敬意を込めて返した。
…
「は?
おいすまん、もう一度言ってもらえんか? 俺の聞き間違えかもしれないが…調査を命じられたそれを、潰した、って言ったか?」
その死闘の翌日。
事の顛末を報告すべく、棘魚亭を訪れた魔理沙であったが…その報告に、アントニオならずとも眉をひそめたくなるのは無理のないことであった。
「いやおっちゃん、これは不可抗力なんだって。
本当に危なかったんだぜ、いろんなところに飛ばされて、んでもってヤバい魔物がその先に一杯いてだな。
そいつらと無我夢中で戦ってたら、終わった後にそいつがぶっ壊れたみたいで」
「おいおい…他の冒険者でもあれをぶっ壊そうとしたのもいたらしいが、ちょっとやそっとじゃビクともしなかった、とか言ってたんだぜ。
そいつらにも言ったんだけどよ…お前ら、「調査」って言葉のイミ知ってっか?
お前らの仕事はあくまで、その箱らしきモノがなんであるか調べることで、そいつをどうするかは大公宮のお偉いさん方が決める事だぜ?」
「だーかーらー壊れちまったもんはしょうがねえって言ってんじゃんよー」
呆れ顔のアントニオに、魔理沙も同じようなしかめ面で反論を繰り返す。
実際にあのUNIXは経年劣化により既に限界寸前であり、その後すぐに呼ばれてきたフレドリカの見立てでも「直前まで稼働していたことが信じられない」という事であった。
内部のデータも、恐らくは魔理沙達が発見した時点で既に破損しており、何故それが起動したのか「少なくとも機械的には」不明とのことだった。
当初、その内容そのまま報告しようとも思ったが、UNIXなどというものが当然解らないであろうアントニオは勿論、大公宮のダンフォード老その他にも説明するのが面倒と判断した魔理沙は結局「調査中になんか壊れた」ということを報告するにとどめたのだ。
だが、魔理沙は知っていた。
きっとそこには…かつて自分が戦った「狂気の上帝」その彼の「良心とも言うべきナニカ」が宿っていたのではないかという事を。
彼が…きっと、自分の想いを受け止めてくれる者が来ることを、待ち続けていたのかもしれないという事を。
「まあ、いいさ。
じいさんもそうだが、俺もお前らの言い分だったら基本的に信じてやることにしてるからよ。
…お前らが危険だ、と判断したなら、それぁ本当に他の誰にも触れられようない、危険なシロモノだったってことだろ?」
何度目かの溜息の後に、アントニオももう呆れ飽きたと見えて、ふっと笑いながら魔理沙へジョッキを差し出す。
「いじくってるうちに壊れちまったとか、うまく説明しといてやるよ。
ナゾなもんは、ある程度はナゾなままにしとくというのも、いいことなのかもわからんしな」
「…私が言えた義理じゃねえが、調査依頼仲介してる人間の言うことじゃないぜそれ」
同じように呆れ笑いをする魔理沙は受け取ったジョッキの、度数の強い酒を煽りながら…やがて、自分の気持ちに一つの区切りをつけることになる。
最初は、自分のきまぐれで始めたのかもしれないこの冒険は…いくつもの過酷な体験と、そして、自分の中にあった一つの大きな壁を乗り越えたことで、彼女の生涯に大きな意味を残すものとなった。
そして、上帝の遺産であるその尊い「想い」を受け取った今この時点こそ、その締めくくりとするに相応しい時期なのだと。
♪BGM 「さあ冒険を始めたまえ!」♪
「なあ、おっちゃん。
私はさ、少なくとももうこの樹海に想い残すことはなくなっちまった。
他の連中はしばらくまだこの街にいるかもしれないけど…私は、じきにこの街を出て行こうと思う」
真剣な眼差しの魔理沙に、アントニオは僅かに驚き、そして…僅かに寂しそうに目を細める。
しばらく沈黙が支配していたが、彼はボトルの口を差し出し、そして穏やかな口調で告げる。
「…姐さんも戻ってこなくて久しいが…まあ、あんたらのことだ。
この街もあんたらにとっては、手狭になっちまったってことなんだろうな。
付き合ってまだ一年経つか経たねえかってのに、もう何十年もあんたらが馬鹿やってんのを眺めた気になってたが」
そして、自分のジョッキにもボトルの中身を注いでいく。
「ここの世界樹にまつわる謎もほとんどが明るみになった今も、それでも、樹海の富を求めて新しい冒険者たちがやってくる。
中にはエスバットのように別の生き方を選んだ奴もいれば、ベオウルフのように二度と樹海から戻ってこなかった奴もいて…んでもって、どこぞの姫様やあんた達のように、また別の冒険を求めて街を離れていく奴もいる。
…特にこの一年は、いろんな奴をこのカウンターから眺めていたが…やはり馴染みになった顔が居なくなるというのは、寂しいもんだな」
「……私達の場合はまた、事情が違うからさ。
たまには、ここに飲みに来るよ。
私の元いた
魔理沙もまた、いつもより少し寂しそうではあったが、それでも精いっぱいの笑顔で返す。
人が疎らになった棘魚の店内は、その夜が深く更けても明かりは消えることもなく…それは、まるで魔理沙が何時までもこの街の、この樹海の冒険の日々を名残惜しむかのようだった。
彼女が、元の世界へ戻り、倉野川での学生生活へと戻っていくのは、その数日後のことであった。