♪BGM 「戦乱 紅炎は猛り白刃は舞う」(SQ4)♪


その異形の生物は、常に満たされぬことなき飢餓と、獲物への執着しか知らない。
かつて、何らかの目的でこの世界に呼び出されたのか、あるいは自らやってきたのか、そのことすら覚えておらず…ただ、己の与えられた目的に沿って活動を始めようとしていた。
結界が解かれたその偶機を、その破片を結界より離すことで、やがてそれが自壊すると本能的に悟った「猟犬」は、じっとその時を待っていた。


しかし、その目論見は、目の前に現れたその小さき者によって阻まれようとしている。


ルナサが暗黒の瘴気を解き放つ度に、精神は混濁し、腕脚の自由が利かなくなり、唯一自由の利く頭から触手を伸ばせばそれは全てリリカの盾に阻まれる。
こいしが嬉々として多段斬撃で滅多にその異形の皮膚を切り裂いて狂気的に嗤う一方、トランス状態になったミスティアの、しなる鞭のような剣舞がさらにその傷口を広げ、ダメージを加速される。

そして、底知れぬ恐怖に中った「猟犬」は、成す術なくルナサの下す非常な「命令」で己自身を傷つけた。
強大な神話生物といえど、「猟犬」は瞬く間に腐臭を放つ名状し難い色の体液を撒き散らし、その力を喪っていく。





「これで…とどめだあッ!!!」


ミスティアが飛翔する。
そして、魂すらも抉るような必殺の唐竹割り…ソウルリベレイトの一撃が、その脳天を叩き潰し、斬り伏せると…その異形の巨躯は雪原に体液を撒き散らしながら沈み、やがて霧の如くなってその姿を跡形もなく消滅させた。






戦闘中の狂気的な振る舞いはすっかり鳴りを潜め、こいしは残されたそのカケラを拾い上げる。
それは日差しに反射してキラキラと輝いていたが、形状から見ても先に見た「結界」の一部だという事は見て取れた。

「ねールナサさん、これを元の場所へ戻せばいいの?」
「そうよ。
あなただとうっかりなくしただのそういうこと言いそうだから、こっちに渡しなさい。私が持っていくわ」
「うー」

不満そうに頬を膨らませるこいしだったが、リリカに促されるままにそれをルナサへ手渡した。
踵を返そうとする一行だったが、その時、ミスティアが周囲に漂う違和感に気づく。

「ねえ、ルナサさん。
「猟犬」は倒したんだから、あとはこの結界を元に戻すだけ…なんだよね」

その言葉を訝るルナサ。
しかし、一瞬後に、彼女はその言葉の意味するところへ気づき…リリカもまた、それを指摘する。

このニオイ、あいつの死体がなくなったからなくなると思ったけど…なんで残ってるの?
完全に私達の鼻が慣れて意識が麻痺したから…とかじゃ、ないよ…ね?」

リリカは恐る恐る背後を振り返り、そして、絶句する。




♪BGM 「戦場 一重向こう側の死」(SQ4)♪

なんと、一行の背後に、先に倒したはずの「猟犬」の姿があるではないか!!


「うっそおおおおおおおおおおおおおん!!??」

絶叫するリリカとこいし、そして、その事態に気づいた一行が行動する前に、やや緩慢な動きながら猟犬がおぞましい唸り声を上げてじりじり距離を詰めてくる…!

「どどど、どうするの姉さんこんなの聞いてないわよ!?」
「お、落ちつきなさいみんな、ここは糸で…あっ

道具袋をあさるルナサの動きが止まり、ルナサの顔から血の気がさあっと引いていく…。

…………ごめん、糸忘れた
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!?
「とと、兎に角さっきの結界のところまで逃げるよみんな!!」

メルランの絶叫、そしてリリカの指示で一斉に5人が駆けだすと、猟犬もまた猛然とその後を追いはじめた。
そして、少女達とこの異形の猟犬による、命がけの鬼ごっこが氷樹海の一角で開始される…。



「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第七十三夜 プリズムリバー・ザ・ハードラック




魔理沙「まーさっきも言った通りなんだけど、結界のところへ帰りつくまでは糸もフロアジャンプも角鈴も猛進逃走も不可能だぜ」
烈「というかなんだよこの心臓に悪い展開。
 つか一撃でとんでもねーダメージ叩き出してんだけど」
魔理沙「それが今回のキモだからだよ。
   お前達のPTにいたニアとトア、本来はボス戦でこういう使い方するクラスだぜ。ニアが状態異常で動きを止めて、トアのトランス補正の乗った高火力で八つ裂きにする。ダクハンとカスメの相性は抜群なんだぜ
風雅「そういう…ものなのか?
  …そうか、大体どんな戦略なのかわかったぞ。ティンダロスは確か、耐性こそあってもかなり多くの状態異常が入るはずだったな
烈「そうだったっけ?
 なんかもう文章見てるだけで頭痛くなってきたし、とりあえず炎が弱点だってことしか覚えてねえぞ。
 オレがいれば攻撃面はどうにかなりそうな」
魔理沙「お前一人でこいつと戦う気かおい。
   まあ、でも風雅の指摘通りだぜ。ティンダロスにはかなり多くの状態異常が有効だ。しかもテラー、眠り、麻痺、混乱みたいに実質的に動きが止まる系統の異常に多くかかるし、頭は無理だが腕が封じれるからカオススラッシュなんかは発動を阻止できるんだ。
   それを踏まえてリリカ達のスキルを見てみるぜ」




リリカ パラディン
フロントガード8 バックガード1 ファイアガード1 フリーズガード1 ショックガード1
ヒールガード★ センチネルガード★ シールドスマイト★ 挑発★
盾マスタリー★ 先制挑発★ HPブースト★ TPブースト★ 物理防御ブースト★ 属性防御ブースト5 決死の覚悟★ パリング★




こいし ブシドー
逆袈裟1 月影★ 地走撃★ ツバメ返し★ 無双の構え★ 無双連撃★ 後の先1 阿吽の尾撃1
刀マスタリー★ 物理攻撃ブースト★ HPブースト★ TPブースト1 上段の構え★ 青眼の構え★ 居合いの構え★




ミスティア ダークハンター
ヒュプノバイト7 ショックバイト7 ミラージュバイト★ ソウルリベレイト★ ドレインバイト★
スコーピオン★ トラッピング★ スネークアイ★
剣マスタリー★ HPブースト★ TPブースト★ 物理攻撃ブースト★ 抑制攻撃ブースト★




ルナサ カースメーカー
力祓いの呪言1 軟身の呪言4 幻惑の呪言★ 病毒の呪言★ 睡眠の呪言★ 狂乱の呪言★ 罪咎の呪言★
封の呪言:頭首1 封の呪言:上肢1 封の呪言:下肢1 畏れよ、我を★ 命ず、自ら裁せよ★ 呪鎖の恩恵★
呪言マスタリー★ 抑制攻撃ブースト★ HPブースト★




メルラン バード
猛き戦いの舞曲★ 聖なる守護の舞曲3 軽業の旋律★ 慧眼の旋律3 火劇の序曲★ 氷劇の序曲1 雷劇の序曲1
蛮族の行進曲9 耐邪の鎮魂歌★ 活力の重奏3 韋駄天の重奏3 生命の重奏★ 音の反響★
歌マスタリー★ 素早さブースト★ HPブースト★ 癒しのリズム★


烈「(´Д`;)うわ…なんだこのグリモア、付加効果いいっぱいついてやがる…こんなの見たことねえぜ」
風雅「そういえばいつか氷海が何処かから持ってきたグリモアも、マスターレベルのものがいくつもあった気がしていたが…まさか出所は」
魔理沙「そこは私の関知するところじゃないぜ、どっかの紫もやしがお節介しにいったって話は聞いてたけどな。
   基本コンセプトは、ルナサで異常漬けにしてミスティアでぶん殴る、それだけだ。
   そしてなるべく長くテラーを持続させて、自ら裁せよでティンダロスの行動を妨害しまくる。まあ、あいつに何もさせないうちに殴り殺すのがコンセプトだ」
烈「つまりなんだ、格ゲーでいうとこのハメ殺しってやつか?
 あんまりそういう勝ち方、オレは好きじゃないなあ」
風雅「好きとか嫌いとかじゃなくてだなー…まあ、相手もトンチキな能力を持ってる以上、こっちもマトモな手段で対抗するのも難しそうだしな。
  実際、これだけスキル振りがされていても、使うスキルはそう多くはないんだろう?
  第一、構えスキルは対応する技がなければ構えが発動しない。それなのに上段だけ起動技があって、あとはそのいちばん火力の高い技だけにしか振っていない
魔理沙「お察しの通りだぜ。
   ツバメ返し、地走撃、月影の三種は、無双連撃の威力に絡んでくるんだ。
   それに構えスキルのレベルが高ければ、無双の構えの性能もアップする。こいしはただひたすら、フォースチャージで高速にフォースゲージを溜めて、ひたすら無双の構えをして無双連撃を撃つだけの役目しかないぜ。言うまでもなく、こいつがメイン火力じゃあないから居てもいなくてもそんな変わんねえ」
烈「うっそだろそこまでやっといてメイン火力じゃねえのかよ!?」
魔理沙「徹底的にやるなら、こいしの転職先もダクハンにした方が火力効率はいいぜ。
   余談ではあるけど、こいしのこの型も実はかなり有名な単独完成コンボ型、通称フォース連撃型だぜ。 
   フォースチャージは次のターンだけ攻撃の威力をアップさせるチャージ系スキルだが、フォースゲージも通常の倍ぐらいアップする。でもって、無双連撃はツバメ、月影、地走撃3つのスキルを一度に繰り出すんだけど、実はフォースの上昇は無双連撃そのもの、月影、ツバメ、地走撃の4回分カウントされる。つまり」
烈「通常の4倍フォースが溜まるってことか?
 それじゃ、これとフォースチャージを組み合わせれば、すぐに次のフォースブーストが使えるようになるよな」
魔理沙「そうだぜ。
   ブシドーのフォースは、刀スキルのTP半減と、構えが解除されない効果だから、フォースが切れた瞬間にフォースチャージから無双連撃するとすぐに八割ぐらいフォースが溜まる。
   そして適当に構えるスキル使って、次に無双の構えすればそれだけでフォースが満タンになってるという寸法だ」
烈「すげえな!
 というか乱麻も確か無双するタイプだろ、こういうの取り入れればいいじゃん」
風雅「まあ…一応乱麻の型それなんだけどな(目を逸らしている」
魔理沙「とはいえ、ここのこいしは戦略上必要かと言えば、そうじゃないんだけどな。マスコットみたいなもんだぜ。
   兎に角異常が絡んだ時のダクハンの火力は異常だぜ。低レベル攻略の三種の神器とされる所以だな」
風雅「その辺はよくわからないが…異常に関しては、効果のあるターンも不安定だろう、そのへんのケアはどうするんだ?」
魔理沙「前回のこいつらの回で触れたみたいだが、危険な花茶という料理の効果を使うぜ。
   この花茶の効果は、仕掛けた状態異常と封じが必ず3ターン持続することだ。
   トランスの効果があるターンは必ず異常がかかっている、と読み変えてもいいな」
風雅「成程、そういう戦い方もあるんだな。
  あとはバードの歌スキルで強化しつつ、相手の動きを止めながら戦うわけだな」
烈「でもよ、確かオレ誰かから聞いた気がするんだが、一度かかった状態異常とかって連続ではかかりづらいとかそういう話じゃなかったっけ?
 結構いろんな種類の状態異常を駆使するのだけは解ったんだけど」
風雅「お前にしちゃ珍しく、妙なところを覚えてるな」
烈「馬鹿にするんじゃねえよ、オレ達の当初の目的はそういうのを色々利用してなんかするとかそういうのだったじゃねえかよ」
魔理沙「おいいちばん肝心な目的の方が記憶うやむやでどうするんだよ…。
   まあいいや。異常は耐性累積ってのが隠しパラメーターで存在して、一度回復するとしばらくはそれに対する耐性がつくんだが…それはおよそ10ターンほど経過するとリセットされるんだ。
   つまり、最初にテラーを仕掛けたら、相手がテラーを回復して10ターン後にはテラー耐性が戦闘開始時に戻る」
風雅「それで、相手の耐性値が元に戻るころに、もう一度テラーを仕掛けると。
  花茶の効果でターン経過は計算しやすいから、あとは効く異常をローテーションで狙っていく…というわけだな」
魔理沙「そういう事だぜ。
   実際はまずテラーを仕掛け、3ターン後ぐらいにルナサが呪鎖でチャージ、4ターン目にテラーが残ってようがいまいがアザステからのスティグマで2点縛って次のターンにリミットレスエクスタシーを2回決めるぜ。
   その間にルナサはアブソーブでフォースを溜めつつ、3ターン目に呪鎖から混乱を仕掛けるぜ。その混乱が切れるころに、今度は盲目を狙う。盲目がかかっていようがいまいが、メルランが別口でトリックステップをかけて、とにかく相手の攻撃も回避できるだけ回避するのもポイントだな。
   盲目が切れるころにはテラー耐性値が元に戻ってるから、そこでもう一度フォースブーストから畏れよ、我ををかけて、今度はフォースブレイクで強引に延長したら4ターン目にミスティアのトランスリベレイトをぶちこんでフィニッシュだ。
   因みに、上の写真だとただ普通にリベレイト撃っただけだぜ。実は最終決戦の軍歌を掛け忘れてて」
風雅「…仮に軍歌が発動してれば、ダメージ量20000越えるのか…」
烈「確かにこれだけのダメージが出せるようじゃねえと、なかなか厳しい相手なのかもしれねえな…くそっ、オレも戦ってみたいぜ!」
魔理沙「因みにこいつのレアドロップは、脚封じ撃破だぜ。
   なんか全状態異常を付与する銃の素材になるみたいだが、まあ、アグネヤストラがあるといらないな」


魔理沙「さて、そんなこんなでティンダロスを倒しても、しつこいようだが終わりじゃないぜ。
   糸やその他帰還手段の使用できない中で、欠けた結界までその破片を持って戻らなきゃならねえ…その道中、フロアの袋小路という袋小路からティンダロスが出現して、そいつらの追跡から逃げながらだ。出現するティンダロスの行動パターンは等速追跡だからな。
   勿論一度も戦闘をせずに逃げ切ることは可能だが、通常エンカウントもおいそれとできねえから、獣避けの鈴も必須だぜ」
風雅「むしろそっちの方が難緯度が高い、というが、ルートはあるにはあるんだろう?」
魔理沙「あるけど大分ややこしいな。
   最初の部屋と次の部屋は1体しか出ないし、次の部屋は道なりに逃げれば簡単に逃げられるぜ。
   最初の部屋がちょっとややこしくて、引きつけるだけ引きつけたら氷床滑って逃げる」
烈「その次は?」
魔理沙「三部屋目は最初の袋小路のやつを、障害物を利用して回避しながら、扉前の袋小路から出てくる奴なんてどうせ特別な事をしなくても逃げ切れるからそのまま扉に入るだけだぜ。
   四部屋目は、マップ左側の氷床を滑って出現する二体を1マス前まで引きつけたら氷滑ってそのまま扉へ駆け込む。
   五部屋目、六部屋目は氷をうまく滑らないといけないんだけど」

五部屋目(1体出現)
E-2のe-4→E-3のe-4(ティンダロスが出現)→F-3のe-4→F-4のe-1→F-3のe-2→F-4のe-1→F-3のe-2→E-3のe-2→E-3のe-4→扉へ

六部屋目(2体出現)
F-5のe-4→F-6のe-1→E-6のf-5(ティンダロスAが出現)→E-5のe-5→F-5のb-2→F-6のb-3(ティンダロスBが出現)→F-6のc-3→F-6のc-1→F-5のc-2→E-5のe-4→E-5のe-5→F-5のb-2→F-6のb-3→扉へ


魔理沙「ルートはこんな感じだった気がするけど、うろ覚えだから間違ってるかもしれないぜ。
   一応、心配ならピクニックで一度クエストを受けて、確認してみるのをオススメするぜ。
   とにかく氷床を利用して、引きつけたティンダロスをやり過ごすのが基本だぜ」
風雅「相手は氷床を滑って移動する、というのはないのか?」
魔理沙「それがないのが救いだぜ。
   勿論、本当に余力があるんだったら全部狩っていくのも一つの手だぜ。ティンダロスは同じ袋小路から複数出現することはないからな」
風雅「いや…そりゃ無謀だろどう考えても」
烈「そうかなあ。面倒くさくなくていい気がするぜ」
魔理沙「流石の私もそれはどうかと思うんだけどなあ。
   まあとにかく、ティンダロスの追跡を振り切って結界を修復したら、あとは糸も使えるようになるから酒場に戻って、ライルと会話すればクエストクリアだぜ。
   因みに、ストーリーならそれっぽいことをフラヴィオが話すんだけど…実はこのライルって奴の正体は、前作SSQのストーリーキャラであるサイモンなんだ。ストーリーに触れてなくても、キャストクレジットにも何気にサイモン役である小野D(小野大輔)がクレジットされてるから、訓練されたボウケンシャーはそれで感づいたらしいな」
風雅「それもファンサービス…というのかな。
  何気に、コミカライズ「六花の少女」の登場人物らしきNPCがクエストで出てきたりと、そういう要素もあるようだし」
魔理沙「声優陣が何気に豪華だし、放置中のNPCの独り言にも結構遊び心が溢れているぜ。
   圧巻はストリーモードでのみ聞ける、酒場だな。アントニオ役の楠大典さんと、ベルトラン役「とーちゃんの中の人」こと藤原啓治さんのハードボイルドごっことかいう寸劇が展開されるが…内容はまあ、ストーリーでもやって聞いてみてくれ」



ルナサ「…終わった?」
魔理沙「なんだよ最後の最後だけのっそり出てきやがって。
   不貞腐れるのは解るけどもっとしゃきっとしろよお前」
ルナサ「解ってるわよ悪かったわよ。
   …とりあえず、お礼ぐらいはするわ。と言っても、精々そこのシャノワールぐらいしかないけど」
烈「えー別に気にすることはないぜ。
 オレとしても、面白い話は聞かせてもらったからな!」
魔理沙「そういう時は遠慮なく、もらえるもんはもらっとくべきだぜ…って言うかルナサ、まさか私達にちくわパフェとかそんな胡乱なもん食わせる気じゃないだろうな」
風雅「胡乱って…そう言えばそのちくわパフェも、最近は一般向けに味を改良したものを売りだしたと、そんな話を聞いたな。
  たまには、そういうのも悪くはない…」
烈「お前意外と甘党なんだな…まあいいや」
魔理沙「それじゃ今回はここまでだぜ。
   というか、もう次の戦いが最後になるんだな。つぐみ達と、最後の裏ボスである始原の幼子。
   このバトルが終われば、いよいよギルド「狐尾」のハイ・ラガードにおける冒険は閉幕だぜ
風雅「俺達はそんなに長く関わることはなかったが…「狐尾」はもう一年以上、あの樹海を探索してるんだったな。
  …烈のセリフじゃないが、敵うなら俺も、そんな冒険の日々に身を投じてみたいものだ」
烈「だろ?
 ま、でもオレ達は学校もあるからな」
魔理沙「そういう事だぜ。
   それじゃ今回はここまでだ」


静葉「…ったくあいつ結局サボってやがったわね」
ヤマメ「押しつけて逃げた私達が言えたところじゃない気がするけどな。
   実際、あの連中を使う案もあるらしいんだが、その辺もどうなるんだか」
静葉「机上の空論は机上の空論にして置いたままの方がいい気もするわね。
  ま、次回というか最後に関しても、解説は私たちじゃないわね。もうかごめ達も、いい加減隠れてるのやめるつもりみたいだし」
レティ「ってことは最後の最後はあの連中で締めるわけ?」
静葉「別にいるだけならいいと思うわよ? 何されるかの保障はできないけど」
ヤマメ「あまりそういう意味では関わり合いになりたくないなあ…」










執拗な「猟犬」の追撃を振りきり、ルナサ達は結界の元まで辿りつくと…欠片はひとりでにルナサの手を離れ、まるで生き物のように癒着してうごめくと自動的に結界は修復され、それと同時に「猟犬」の姿はあとかたもなく消えうせた。
彼女達はそのままにしておくべきかどうか悩んだが結局意見がまとまらず、ひとまずルナサのみライルの元へ訪れ、事の顛末を報告することにした。



「成程…報告ありがとう。
貴方達に事の次第を任せたのは正解だった…リッキィの言っていた通り、君達が冒険者としてもすぐれているという事も」
「私も少し解ったことがあるわ。
あの子が言っていたわね、ミズガルズ調査隊のリーダーは、ダンジョンでも本を片手に歩く男だと。
ライルというのは、偽名でしょう?


フードの青年はふっと笑う。

「その先は…まあ、詮索はご勘弁願いたいが、貴女の想像通りだとだけ言っておこう。
僕が正体を隠しているのも、先日の一件が少し関係しているんだが…まあそれも些細な事だし、僕がティンダロスの封印に関して調べるためこの街に来たのもまた事実だ。
貴女の報告の内容からも、文献の記述通りであることが分かったが、結界が何故破損したのかも含めて、調査しなければならないことはまだまだ多そうだ」
「あの結界は、どう処置すればいいのかしら?
実はまだ、何が起こるか解らないから妹達を交代で待機させているんだけど」

僅かに咎めるようなルナサの言葉に、これは失礼、とライルは一度目を伏せる。

「この国の調査隊や、腕利きの一部冒険者にもようやく協力を取り付けることができた。
結界はそうやすやすと破損するものでもないはずだが、すぐに彼らの派遣を要請しておこう…この国の按擦大臣殿は、貴女方「狐尾」とも懇意と聞く。貴女方が関わっているなら、快く応じてくれるはずだろう」

そうして、彼は席を立つ。

「今回は、本当に手数をかけた。
もし、今後もなにかあったら、また貴方達の手を借りたいところだ」
「…そう。
でも生憎だけど、私達のグループも今回の探索を最後に、樹海から手を引くつもりでいるわ…とりあえず、リッキィに会ったら、貴方は相変わらずのようだったって報告しておくわ」

ルナサの僅かに棘のある物言いに、その青年も苦笑を隠せずにいた。





青年が去って間もなく、ルナサの目の前に一人の女性…否、少女と言っても差支えない風体の兎耳が当たり前のように腰掛ける。
ルナサはそれをとがめる風もなく、調達してきたらしいボトルら手酌で酒をあおるてゐの姿を横目で一度見て、そして再び視線を戻す。

「…残るのは貴方達だけよ。
勝算はあるのかしら?」

普段通りの抑揚のない口調で、視線を合わせることなくルナサはてゐに問いかける。
てゐは一度溜息を吐くと、こちらもこれまでの出来事を確認するように淡々と語り始めた。

「元々…かごめの気まぐれでフランを送りこんだこの樹海探索だったが…一体あいつが何を思ってこの樹海に私達を放りこんだのか、今だ明らかにならないところだらけだ。
それなのに、気づけば謎のままだったファフニールの儀式だの、上帝の遺産だの、封じられた魔物だの…その全ての謎は解き明かされ、残るは世界樹最強最後の魔を討伐するのみになっちまった。
樹海のナゾはもう残すところあと一つなのに、私達に何が課せられたのか、いまだにその謎は解けやしない。どうなってんだかな」

呆れたような口調ではあるが…ルナサもうっすらと感じ取れていた。

「私にはそうは聞こえないわね。
多分もう既に、貴女の中で答えは出てる」
「そうかね」

てゐも、その言葉に何の疑問も抱いてはいなかった。

「流石に今度ばかりは、生きて帰れる自信があまりないんだ。
私に本当に、幸せを呼ぶ力があるなら…私がどんな最期を迎える羽目になったとしても、つぐみや美結、透子は…これからの未来を生きていく連中は、生きて帰らせてやりたい。
遠い昔に「神殺しの魔獣」になって、死ぬことも許されなかったはずの私が…誰よりもとっとと死んじまうことを望んでた筈なのに…今こんなに、死んじまうのが怖いなんて…!」

その声は震えている。
ルナサはわざと、その表情から目をそらしながら、ボトルの口を差し出している。

「…なんとなくだけどさ、私も最初は貴方のこと、そんな好きじゃなかったわ。
リリカが、貴女によく馬鹿にされたと言って口をとがらせたのを見ていたし」

てゐの答えを待つことなく、ルナサは「でも」と前置きして続ける。

「今なら、なんとなくわかる気がする。
貴方は神代の昔…私達が生まれるずっとずっと前から、そうやって悩み続けていたんじゃないかって。
自分で酷い目にあうのも解ってて…誰かのために命を掛けて殉じることが出来る、やさしい神様だってこと

てゐは、堪えた涙で歪んだ、泣き笑いのような表情をグラスの水面に映して自重気味に呟く。

「カミサマ、か。
そんな上等なもんに、なった覚え…ないんだけどな」

ルナサはもう一度彼女の姿を横目で見やり、そして微笑う。

「大丈夫よ。
因幡てゐの能力は「幸せをもたらす程度の能力」。
多分、他人だけじゃなくて、あなた自身にもだって…私は、そう思う


それからわずかな沈黙を挟み、グラスの中身を自分の涙ごと飲み干したてゐは、再び席を立つ。

「明日だ。
明日で、このハイ・ラガード樹海の探索を、全て終わらせる。
この樹海で、「狐尾」が成し遂げる最後の大仕事だ」

そう宣言する神代の素兎、その表情は、覇気に満ちていた。


「私達は、必ず帰ってくる。
だから、みんなで…みんなで大手を振って、幻想郷に帰ろう!」



二人の視線が、この時初めて交錯し。

「待ってるわ、貴方達の帰りを。
リリカ達もきっと、そう言うはずだと思うから」

その勝利を、微塵も疑う事はなく。