時間は僅かにさかのぼり…バトルリゾート・宇宙開発公団保養施設。

樹海の探索から手を引き、何らかのごたごたの気配を感じカロスの地を踏んだかごめ達一行であったが…かつて、この地で「世界浄化計画」を目論んでいたものの、かごめ達の手でその野望を頓挫させられた「フレア団」の残党たちとの悶着はあったものの、特別大事件という事もなかったため、既に二週間近くをこの保養施設で自堕落に浪費する日々を送っていた。
とは言え、現在はリハビリ中とはいえ力も少しずつ取り戻している紫を通じ、つぐみ達の探索も最終段階に入ったことは把握している。ハイ・ラガードやタルシスのある世界とは違う、同じような世界樹を持つ異世界の大陸「アルカディア」の迷宮を探索するメンバーの選定も行う事もあり、そろそろ幻想界へ戻ろうという話になった。



骨休め納めと言わんばかりに、連日同様自堕落な宴会を開くその一角で、諏訪子はかごめの言葉に眉をひそめる。

「ああ? 何言ってんだお前」
「言葉の通りだよ。
つぐみの持ってる魔装って、本当に銃が本来の姿なのかなって」

諏訪子はさらに眉根を寄せる。
目の前のかごめはしっかりと酩酊しているが、それ以上に自分が馬鹿にされているのではないかという考えが首をもたげる。

「お前なあ。
私は実際に見てんだぞ、エトリア樹海の枯レ森で。
魔装がこれまでと違うものに変化した例なら、そこまでにもうひとつ例を見てる。霊峰でキバガミの野郎と最初にやり合った時、ほむらがやらかしたのも私ぁ見てるんだからなこの目で」
「私もフランのが変わったのを見てるわね」

声を荒げるのを抑えながらも抗議する諏訪子に、成り行きを見守っていた文も加わってくる。
かごめは溜息を吐いた。

「連中は疑いようもねえよ。
ほむらは、別の並行世界では弓持ったり盾持ったりしてるし、必要に応じてそれと入れ替わったんだろうことは想像つく…というか、あいつの最大解放はそれに関連する能力だからな。
フランの場合はまあ…元々近接武器にも使えるギミックがあったみたいだから、特化した形を基礎にしたんだろ」
「つまりあなた、あの子達のも元々複数の形態があったとでも?」
「ああいう魔装は、過去にもいくつか例がある…あいつらの場合、変わり方があまりにも大きすぎて別モノになったような印象を受けるが…能力そのものはほとんど変わってない。
…だがな、つぐみのは明らかに異質なんだ
「異質というなら、魔理沙のなんかどうだよ。
あいつのなんていまだに正体不明じゃねえか」

かごめは諏訪子の物言いに首を振る。

「あいつのは本当に特殊なシロモノだが…そうだな、つぐみのはアレに近いのかもしれない。
なあケロ様、つぐみが魔装を展開した時、以前あいつが小太刀を振るっていた時と全く変わってない装飾品があったのを気づいてるか?
それは、あんたが枯レ森で見た時に、どういう変化をしたか…」

そう言われて諏訪子は、自分の記憶の糸を辿る。


元々つぐみの魔装は、空色の小太刀だった。
枯レ森では、解放されたオーラが、持っていた迅雷銃と結びつき、それを変化させ…そのオーラの大元はなんだった!?

諏訪子はその事を思い出す。


「まさか!」

目を見開く諏訪子に、かごめは徳利を傾けてかすかに笑う。

「あいつの振るっていた小太刀は、大元は小烏丸のひと振りなんだ。
あたしを育ててくれたじいちゃんが遺してくれたもので、それ自体が強い霊力を秘めてるシロモノでさ。
…エトリアから戻ってじきの頃、そこはもったいないことしたなってあいつに言ったらだな…あいつがそれを、出したんだよ。
だからそれを今も持ってるんだ、あの子。「自分の魔装の一部」として」
「じゃ、じゃあ、あの子の「籠目鳥」の本来の姿って…!」

ああ、とかごめは頷く。


「あいつが魔装を解放させた時にオプションとして出現させる利き手の手甲(ブレーサー)
魔理沙の八卦炉同様、自分の武器を魔装化させるという能力を持った、ブレーサーの魔装…それが「籠目鳥」の正体だろう」






解き放たれた殺意の奔流が不可避の光の刃となって空間を走った瞬間、全員が成す術なく吹き飛ばされた。
五体が千々に引き裂かれるような、確実な死の接近を緩慢に迎える時の中で、てゐは幻を見ているのかと思った。

その目の前に、一人の少女が立っている。
まるで、その光の奔流にただ一人で立ち向かい、自分達を護るかのように。

それがつぐみであることに気づいた瞬間、彼女は声を上げようとして、そして、それに気づいて言葉を喪う。



「やっぱり、これが私の本来の「魔装(ちから)」だったんだ」


その右腕には、肘から下に装着されたスマートな形状のブレーサーがある。
てゐにもすっかり見慣れたものだ…つぐみが「魔装」を発動させた時に、常にそこにある装具。

てゐはその違和感にすぐに気付いたが、それが答えになるまでにわずかなタイムラグがあった。
そうだ。あいつの銃はどうした…と。
このチカラの脈動の大元は…それに、この魔力は。



「あの異変で切り離された紫さんのチカラが、何処に行っちゃったのかずっと考えてた。
結局消えちゃったのか、まだ何処かにさまよってるのか。
それとも、誰かと一緒にいるのか。誰かと一緒なら、それは誰なのか」

つぐみは自分の胸に手を当てて、そして、はっきりとそう言った。


「紫さんのチカラの行き先は、私だったんだ。
今ならわかる。
このチカラを使って、「籠目鳥」で…私自身を魔装に変えることだって!!


力が、解き放たれる。
かつて全能に近き力と言われた、大賢者の魔力が。




「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第七十五夜 決戦・未来の行末(後編)




諏訪子「えーそういうこと言っちゃうわけ(しろめ」
紫「私の後継者が藍や橙だと、君は何時から錯覚していた?(キリッ
かごめ「いやまあ…大抵の人はそう思うんじゃないかと思うんですわ?お?(;^ω^)
   つーか本当に藍の立つ瀬がないなあこの話」
紫「そもそも今回の件で、つぐみに銃を持たせ続けることに限界を感じたからってこんな話を考える狐野郎が悪いんじゃないかしら。
 大体あの腐れ狐、銃描くのマンドクセとかそんなことほざいてやがるし」
かごめ「もう完全に「俺自身が斬魄刀となることだ(キリッ」みたいな展開だな。どうしてこうなった」
諏訪子「おい他人事かよそこ…いやまあ、それも十分主人公っぽい能力だと思うよ確かにね」
紫「ファンタジーを描いたら出てくるモンスターから魔王の居城の名前まで上等張ってる感じの某ヤンキー漫画作者の漫画の主人公もそんな感じだものね
諏訪子「魔城ガッデムの話はやめてさしあげろ(キリッ


かごめ「まあそんな毎度の狐クオリティ前回の前置きはさておいて、スキル構成とか戦略のお話だな。
   最終戦だがまあ先ずは一気に紹介だ、その方が戦略を説明する上でもやりやすいし」




つぐみ プリンセス
攻撃の号令★ 防御の号令★ 予防の号令★ 不屈の号令★ リンクオーダー★ リンクオーダー2★ フリーズサークル★
リセットウェポン1 エクスチェンジ1 ホーリークラウン1
号令マスタリー★ HPブースト★ TPブースト★ ロイヤルベール★ レイズモラル★




てゐ ドクトルマグス
巫術:再生★ 再生帯5 再生陣★ 鬼力化6 皮硬化★ 脈動★ 呼応★ 乱疫3 転移3 結界★ 反魂1
巫剣:霊攻衰斬1 霊防衰斬2 霊封頭斬1 霊封腕斬1 霊封脚斬1 霊攻大斬★
巫剣マスタリー★ 巫術マスタリー★ HPブースト★ TPブースト1




美結 ソードマン
チェイスファイア★ チェイスフリーズ★ チェイスショック★ ウォークライ3 トライチャージ★
ブーメランアクス1 スタンスマッシュ9 ヘッドバッシュ1 パワーゲイン1
斧マスタリー★ 物理攻撃ブースト★ フェンサー★ ダブルアタック★ HPブースト★ TPブースト★




透子 アルケミスト
炎撃の術掌1 氷撃の術掌★ 雷撃の術掌1 火の術式1 氷の術式1 雷の術式1
大爆炎の術式3 大氷嵐の術式★ 大雷光の術式3 圧縮錬金術1 核熱の術式★
術式マスタリー★ 術掌マスタリー★ HPブースト★ TPブースト★ 属性攻撃ブースト★ 属性防御ブースト★
加撃の術掌★ 拡散の術掌★ 伐採1




藍 ペット
かばう5 身代わり★ 傷舐め★ 自衛の本能★ 身代りの誓い5 ビーストロア★
忠義マスタリー★ オート傷舐め★ HPブースト★ TPブースト★ 物理防御ブースト★ 決死の覚悟★ 先制ビーストロア★
野生の勘6


かごめ「これが最終装備になるな。
   最初はアグネヤストラを持たせてずっとやってたから、つぐみの装備はこうなってた。スキルはほぼ一緒だ」




諏訪子「言うまでもなく、つぐみに銃を持たせるそれだけの目的でわざわざドラッグバレットを粘ったと」
かごめ「それでもレベル7だったっつーか、むしろ持たせても使わねえしな。
   重要なのは付加効果の氷ボーナスの方でさ」
紫「最初はつぐみ合わせで雷にする予定だったけど、魔神戦でなんやかんやしたこともあるし透子合わせで氷にしたと。
 どうでもいい話かもしれないけど、仮に美結合わせなら何になったのかしら?」
かごめ「あいつは本来属性は烈風なんだが…ただまあ、雷の女王の弱点も氷だったし」
諏訪子「ポケモンではアローだったから炎属性寄りというイメージではあるのかね」
かごめ「多分氷海にはいろんな意味でめっぽう強い(キリッ」
紫「そういうモノかしら…」
かごめ「まあどうでもいい話だしこの辺。話を戻そうかね。
   幼子戦はhage回数が5回、途中で諦めてリセットした分も合わせると8回だな
諏訪子「お、思ったより少ないな?」
紫「とはいうけど、最終パターンに辿りついたのは、撃破を含めてたったの3回よ。
 あとは全部、最初の萌芽召喚後のフェイズで滅ぼす風の連打が捌き切れなくて立て直しが利かなかったわ」
かごめ「プラスその時にパターンを読み間違えて、我の慈悲のターンと我に触れるなのターンを間違えてカウンター自爆したりな」
諏訪子「何してんだよそれ…どうせwiki見ながらやってたんだろその辺は」
かごめ「てへぺろ★(ののヮ顔」
諏訪子「オメェがそれやってもかわいくないからやめろ!!m9( ゚д゚ )」
紫「実際、さっきかごめが言ったように、一回目萌芽召喚後のフェイズが一番厳しかったわね。
 同じスキルは飛んでこないと言っても、実は2ターン目3ターン目は別枠だから滅ぼす風が連打されることも稀によくあって」
かごめ「それを三度連続でやられればもう稀とは言わないんじゃないかって気にもなってくるけどなあ。
   あと滅ぼす風もダメージの振れ幅が大きかったり、バイタルで腕縛りは成功するのに脚縛りは全く成功しなくて」
諏訪子「それで結局サクリファイスを導入したのか」
かごめ「なにしろてーさんの巫剣が思ったより使うタイミングがなくてな。
   フォースか異常抜きだと霊封脚斬も効果発揮しやがらねえし、結局最後に手の空いたターンでフォース大斬使うぐらいに留めざるを得なかった。
   結局このために粘った封じ成功率付加グリモアの無駄な事無駄な事」
紫「藍の装備にしても、最初はギルドへっぴり腰最後の戦いのG(グレイテスト)マングースの装備をそのまま採用してたのよ。
 これに自衛かミストを併用して慈悲を弾くという防御戦略だったんだけど」
かごめ「てーさんが氷冠を持ってるのもその名残だな。
   けど、流石に99だとたまにサクリファイスよりも先にネクタルが飛んだりするからあまり意味がなくて」
諏訪子「最後までへっぴり腰の戦法のパクリじゃねーか!!!ヽ( °Д °)ノ
   確かにありゃすごかったよ、どう考えたってレベル50で魔神に挑むなんざ正気の沙汰じゃねえし」
かごめ「まー結局あまりうまくいかないというか、アームシールドとビキニとオーブじゃ耐久が全ッ然足りなくてな。
   いくら即死級じゃないとはいえ、永久にのダメージがだいぶ痛いのもどうしたもんかと思って、結局ここまでレベル高ければ普通にビキニペットの耐久でも属性耐えきれると踏んでああなった。
   永久にのターンは、藍の防御を上げてセンチネルと呼応で耐えきる戦法に変えたんだ」
紫「センチネルも、適当に持たせるサクリファイスもグリモア処分してたから、またその為だけに一回グリモア厳選に行ったわね。
 つぐみのグリモアのうち、サクリファイスは9、レイズモラルとリンクオーダーは9が本来のレベルよ」
諏訪子「何気に伝説も忘れたころにくるからなあ。
   ここまで触れなかったけど、基本はチェイスなんだな」
かごめ「せやな。最大3回追撃しか出来ないが、兎に角毎回身代わり結界しないと悲惨な事になるし、これ以上攻撃力を上げられなかった。
   8回目に最後の永久に連打までこぎつけたけど、火力が常に足りなくて」
紫「4回目のhageが萌芽三回目、萌芽が2回召喚されることを忘れて直後の永久にで全員吹っ飛ばされたわね。
 ここで一度休息して、スキル構成は今の感じになったんだけど」
かごめ「大氷嵐とリンクオーダー2入れたら逆に萌芽へのダメージが過剰状態になったのには笑ったけどな。
   お陰で萌芽三回目は安定したから、あとは最後にどう火力を集中させるかが残った課題だった。
   耐久の8ターンではギリギリまで体力を削りにかかって」
紫「腹立つことに、あの尊ぶ直前の滅ぼす風のときだけ藍が受け切ったり避けたりでもっと空気読めと(キリッ
諏訪子「いや…それは藍を許してやるべきだろ…。
   そこでつぐみが特攻することで、尊ぶの受けは大分安定した感じか」
紫「そうね。遺憾ながらあのタイミングなら居てもいなくても然程戦略上支障ないのつぐみだったのがね」
かごめ「我が娘ながらまこと見事なカミカゼぶり(血涙」
諏訪子「何気にサクリファイスって自分も対象にできるしなあ。
   そう言えば、RTA動画でおハルに三点縛り決めるためだけにスティグマで自縛したハイランダーをサクリファイスする動画があったような」
かごめ「あれはあれで傑作だったな。
   因みに最終フェイズの尊ぶは流石に藍をブレイクさせて凌ぎきった。
   風直撃で藍に落ちられても苦しかったし、ブレイクを切るタイミングはあの時しかなかったからな」
紫「意外と自衛を積むターンもあったし、みがわりとヒールガードで風を耐えきったりは、流石に賞賛するところではあるしね。
 藍とてゐ、どちらが欠けても幼子の攻撃は受け切れなかったでしょう」
諏訪子「それは確かにな。
   地味に呼応の耐久補強、リンクオーダー2と全体術式の採用も良かったのかもしれないな。
   ところで美結のブレイクって
かごめ「ほっとんど使い道なかったな(キリッ
紫「所詮単体斬属性じゃあねえ(´ω`)
諏訪子「それになんか結構意味不明なスキルにも振られてるけどどの辺どうなんだ」
かごめ「かばうと身代りの誓いをブルチャージの取得に向けるべきだったかなあ、使わねえとは思うがどうせ」
紫「別にてゐのTPブーストを2にしててもいいとも思うしねえ、たかが知れてるけど。
 美結のスタンスマッシュにしたって、単に余ったから振ってみた感が凄いというか…そもそも、フリーズ以外の他のチェイスもいらないしね
かごめ「ついでにてーさんのブレイクもそんな使うタイミングなかったしな。
   ラストに藍の自衛を詰むターンを強引に捻出するために、属性の飛んでくるターンで使ったぐらいか」
紫「逆に使えたタイミングでは劇的に助かったのはつぐみね。
 萌芽三回目で透子が超核熱を撃つタイミングで一緒にぶっ放して、なおかつ最後もバフかけた後に即座にブレイクしてTP回復を考えなくてよくなったわけだし」
諏訪子「プリだと解き放つ光のバフ解除に対応できないけど、それがあるからなあ。
   あとレイズモラルがあれば、初っ端から飛ばしていっても、永久連打までにもう一度溜まっている可能性もあるしな」
かごめ「最後はその前にケッチャコつきましたがね。
   風を自衛みがわりヒールガードで受け切った裏で、透子の加撃が決まって」
紫「40ターンですものね、あなた達が神樹と戦った時と同じぐらいかしらね」
かごめ「それでも今回だってラグナロク以外の使える手段は遠慮なく全部使った感じがするわな。
   何にせよ、これでハイ・ラガードの樹海は完全踏破完了だ。
   実に一年以上、ハイ・ラガードの樹海をかけずり回っていた感じだなあ」
諏訪子「途中でポケモンに戻って3ヶ月ほど中断していた件は」
かごめ「アーアーキコエナーイ(∩゚д゚)」


諏訪子「さて、そんなこんなで私達「狐尾」の長い長いSSQ2の物語は終わりだな(血みどろの邪眼の鎚装備
紫「あなた本当に容赦ないわねその辺り(チラッ」
かごめ「(へんじがない…ただのしかばねのようだ)」
諏訪子「いいんだよどうせじき復活してくるだろうし。
   次回、SQ5の話とか今回の総まとめとか、その辺りも全部次、最終夜で触れるとするか。
   じゃあ今回は」
かごめ「ここまで(キリッ」
紫「∑( ̄□ ̄;)復活早っ!!!」











♪BGM 「TAKE ME HIGHER(Remix Version)」/V6♪


光の中で、その力が拍動する。

かつて、ギンヌンガの遺跡ではその力を持って人柱を作り、大いなる禍を封印する楔とした。
それは、権勢への欲望に憑かれた愚かな人間達によりその大部分が失われたが、それはなんの因果か異界から来た一人の少女へと受け継がれた。


だが、その少女が背負ったチカラと、それに付随するものは一つや二つではない。
ファフニールの力も、大賢の力も、黒き伝説の力も…彼女が両親から受け継ぎ、仲間達との絆と共に育て上げてきたその「心」の元で、ひとつになる



「つぐみ…!」

茫然と、てゐが呟く声に応え、つぐみは強い意志を秘めた瞳で頷く。

その瞳の色は…生来の蒼ではない。
妖しく輝く紫。
その姿は、生来の金髪も相俟って、ある一人の大妖怪を連想させてやまない。


再び幼子と向き合ったつぐみが、空間総てを震わせるようなすさまじい咆哮を放つ。
紫電を纏いながら、空気すら歪ませるようなオーラを纏い、ブレーサーの先に握られた空色の小太刀…否、それすらも彼女の腕にオーラとなって加わり、紫の光を纏った手刀の一撃が幼子を切り裂く!

幼子は一瞬怯んだものの、すぐにまた口元を歪め、背から伸びる触手に紫電を纏わせてつぐみへ向けて放った。
避けきれない。
そう思った瞬間に、そこには金色の影が割って入り、それを受け止める!

「藍さん!?」

腹部に強烈な一撃を受け止めながら、藍は叫ぶ。

「構うな!
攻撃の手を、緩めるんじゃあないッ!!」


つぐみは躊躇することなく、触手の間を縫って幼子に迫る。
それは…つぐみ一人ではない。並走するのは、これまた満身創痍の身体に鞭打って、両掌に莫大な氷雪魔力を抱える透子。

あたいたちは…一人で戦ってるわけじゃないんだ!
つぐみ、美結、行くよ!!」
「うん!!」

一歩先行する透子が、左手の氷の大剣を幼子の土手っ腹に打ち込む。
思わず苦悶に身をよじり、かがむ幼子の頭上に、紅く輝く刃を大上段に振りかぶる美結。

トンボに構えられた切っ先に、紅い凍気が極限まで高まる。

「チェストオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

かごめ顔負けの、裂帛の気合いを込めた咆哮と共に、がら空きになった肩口から袈裟掛けに斬り伏せられ、体勢を崩されたその懐につぐみが魔力を同期して飛び込む。
そして、解放された莫大な氷雪魔力が、幼子の鳩尾に致命的な凍傷を刻み。

「まだ…まだよッ!!」

己自身の攻撃の反動で、体中に負った傷から血を吹きながらも、美結は大地に踏みとどまり、そして、更に大地をけって幼子へ飛び込んでいく。
絶対零度に近い凍気を放つ紅い刃が、幼子の腹部を大きく抉り、それをきっかけに透子の与えた凍傷部分に残る魔力が誘爆する。
美結はそれに対しても、間髪いれずに追撃を敢行して更に幼子の身体を痛めつける。


(そうだ)

よろめく足を、ふらつく頭を叱咤し、てゐも再び立ち上がる。

(自分で言っただろう。
 この五人なら、必ず勝てる。
 誰ひとり欠くことなく、勝って帰ることが出来ると!)

それは、彼女が自分自身に言い聞かせてきた言葉。

彼女は「失う恐怖」を取り繕うかのように、それを自分に言い聞かせ続けた。
だがそれは、あまりに後ろ向きな「願望」に過ぎず。


(ちがう…違うッ!
 それは私の「誓い」だ!
 この子達と一緒に…私自身も未来を掴む「誓い」なんだッ!!!

脚の震えが止まり…混濁する意識が、覚醒する。
その手が素早く、正確に複雑な印を刻み、そして…。

「受け取れ…みんな!
これがこの私のできる、最後のアシストだ!!


白銀に光る魔法陣から、力が解き放たれる。


「兎符“開運大紋”極式ッ…“白兎神徳”!!!」


その意思が、彼女の内に眠る狂猛なる神のチカラの一端すらも飲み込み、そして、祝福を受けるべき四人に限界以上の力を与える。
深い傷も瞬時に治癒し、疲弊した精神をも癒し…その力を解き放った自らは、全ての力を使い果たしてその場に倒れ伏した。


幼子も既に満身創痍だ。
戦う為だけに生まれ落ち、戦うことしか知らぬこの悲しき人造生命は、それでも己のその生まれに関してなんの異存も挟むことなく、ただこの目の前の「強敵」との戦いに、純粋に向き合う事だけを考えていた。

美結は己の高まる気で幼子に触れ、そのことを感じ取る。
彼女は知っている。
同じようにして、戦いの中に自己を見いだし、ひたすらに高みを目指す事だけを存在意義としていた魔物の存在を。

幼子もきっと「彼」と同じなのだ。
だが、幼子のその力は、解き放たれればこの世界を終わらせてしまうほど、強大過ぎる。


-良いのだ-

不意に、その脳裏に声が響く。
少年のような、青年のような、だがその純粋な声のトーンからは、何の迷いも恨みも後悔も感じられない。

-我に最高の時を与えよ。
それが今出来るのは、汝らだけだ。
ここで汝らが敗れるならば…我は傷を癒し、さらなる強敵を求めて解き放たれるのみ!!-


幼子は咆哮する。
幼子もまた死力を尽くし、自分達に向き合おうとしているのだ。

美結にも、透子にも、つぐみにも…目の前のそれは最早、善悪の区別がつかない忌まわしき魔物などではなかった。
それは純粋な心を持った、一人の戦士なのだ。

咆哮共に解き放たれた、視界を埋め尽くす閃光の刃…そこへ、白兎の祝福を受け取った金毛九尾の空狐が割って入る!

-行け、お前達!
最後の一撃を決め、お前達の未来を掴んで見せろ!
私は、わたしは…その礎になることを、その時を護りきった己自身を誇りとしよう!!-


光の洪水の中で幼子と組み合い、渾身の力で受け止める藍の尾が、一本、また一本千切れ飛んでいく。
だが彼女は怯むことなく、その恐るべき圧を受け止め、歯を食い縛って耐えた。

三人にも、最早迷いはなかった。
真紅の暴風を纏う美結、白銀の吹雪を纏う透子、金色の雷光を纏うつぐみ。
飛翔する三つの影が混ざり合い、ひとつの鳳凰の姿となり、幼子に迫る。


「トライ・フェニックス!!」


藍との力比べに押し勝った幼子最後の一撃が、その鳳凰の嘴と激突する。
死力を尽くした両者のせめぎ合いも、やがて、全てが光の中へと溶けていく。