かくしてツン、しぃ、ショボン、ビロードの四人が同じゲーセンに集まり、一緒になってポップンをプレイし始め…一ヶ月が過ぎようとしていた。
彼らは純粋に、性別も年齢も超えたプレイヤー仲間として交流を深め…小悪魔的なしぃがウブなビロードをからかうのをツンがたしなめ、それを「やれやれ」と言った風にショボンが呆れる…そんな日常が続いた。

そして徐々にツンの表情から、険が取れ始め…「ポップンミュージック14フィーバー」の稼動も約二週間後に控えたその日のこと。


(*゚ー゚)「ねぇツン、今日も行けそう?」
ξ゚听)ξ「うん。
    一応軍資金も手に入ったし、今日は少し長めに居座っても大丈夫そう」

彼女の言うところの軍資金…それは言うまでもなく小遣いである。
そこそこ裕福であった家に生まれた彼女は、資金力に関して言えば一般家庭よりもやや高水準にある。
一日に使うぶんをきちんと制御すれば、それこそ毎日ポップンにつぎ込んでも十分お釣りが来るほどの額である。

クーに色々比べられることも多いとはいえ、それなりに優等生として振舞っている彼女に対して、その両親もある程度の自由を許している証左であろう。
もっとも自立心の強いツンはそれを良しとせず、そのうちバイトを始めようか…どころかさっさと家を出て一人暮らしをしようと目論んではいるようだが…。


そして面白いことに、しぃもほぼ似たような立場にある。
だがツンは彼女がどうしてそれほどの潤沢な資金を持っているのか、詳しくは知らない。
彼女は学園の学生寮暮らしで、その実家のことについて話したがらないからだ…だが、どうやらかなりイイトコのお嬢様らしい、ということがうかがえる事件はいくつかあった。
とはいえツンも無理に事情を聞き出そうともせず、それゆえふたりの仲は友人というには十分な間柄でもあった。


(*゚ー゚)「じゃあ、決まりね。
   何時も通り17時に」
ξ゚听)ξ「…ん」

そのまま教室を飛び出していくしぃを見送り、ツンもまた荷物を一通り詰め込んだバッグを抱えて教室から出ようとした。

「ツン」

不意に呼び止められて、ツンはその動きを止めた。

振り返らずともその主は解る。
幼馴染でもあり、同じクラスの学級委員長である彼女の声は毎日聞いているから聞き間違うはずはない。


<ξ゚听)ξがポップンでランカーを目指すようです 第一章>


ξ゚听)ξ「クー…何か用?」
川 ゚ -゚)「ああ」

クーは少し口ごもっていたが、やがて意を決したように口を開く。

川 ゚ -゚)「お前…最近随分帰りが遅くなってるみたいだな」
ξ゚听)ξ「それが?」

少しむっとした表情で幼馴染を睨みつけるツン。


ツンは少なくとも中等部までは、いくら嫉妬心を抱いていたとはいえクーに突き放すような態度は見せなかった。
しかしポップンの一件があって以来、ツンは極力クーを避けようとしていたきらいがある。
それほどまでにツンの感情に、大きなしこりを作っていたということなのだろう…。


川 ゚ -゚)「昨日帰り道でおばさん(※ツンの母親)と会ってな。
    お前はしっかりしたヤツだから、あまり心配はしてないとは言っていたけど」
ξ゚听)ξ「………………」

ツンは無言だ。
しかしそれだけに言葉に出来ないある種の迫力を感じさせた。
その圧力に気圧されず、クーはなおも言葉を続ける。

川 ゚ -゚)「いくら高校生になったといっても、あまり親御さんに心配をかけるような…」
ξ゚听)ξ「あんたには関係のないことよ」
川;゚ -゚)「あ…おい、ツン!」

言葉を遮るように身を翻し、そのままつかつかと教室を出て行くツン。
クーはただ、それ以上の言葉を発することも出来ずに見送るだけだった。

川 ゚ -゚)「…ツン」

川 ゚ -゚)「………………」

無言でしばらく立ち尽くしていたクーだったが、やがて何かを決意したかのように、教室を後にした。



ゲームセンター『バーボンハウス』。

クオ学を擁するこの学園都市で、駅を中心とした繁華街から距離を置き、郊外の小さな商店街の一角にある小さなゲームセンターだ。
場所柄、営業時間は午前10時〜午後10時と、時に24時間営業することもある近隣のゲーセンと比べれば、営業時間はごくごく短い。
しかし店主は元々その業界の人間だったらしく、またジャズやクラシックを中心に広く音楽の造詣があるためか、店舗の規模に比べて非常に音楽ゲームのラインナップが充実しており、そして何より筐体のメンテが行き届いているため、有名なランカーもお忍びで訪れることもある、一部の通にはよく知られた店だった。

一方でその店主、穏やかな人柄で話し好きではあるがルールには非常に厳しく…しかも周辺地域の顔役にも広く顔が利くらしく、繁華街のランカー御用達であるゲーセンから着た流れ者のDQNランカーが、店主の逆鱗に触れて学校を退学になったのみならず、家族諸共地域から叩き出されてしまったという、恐るべき伝説があった。
その噂故か、繁華街のゲーセンでの常連共の諍いに疲弊し、此処を終の棲家としたと称するわずかな常連達も、基本的にはルールを遵守したり、周辺地域のボランティア活動に参加するようなリテラシー意識の高い者が多いことでも有名だった。

だからこそ、ツンやしぃといった少女達が安心して出入りできる環境が整えられているといえた。


(´・ω・`)「そういう意味では本当に通いやすい環境ではあるわな。
     めっけモンだよココ。
     有名なランカーがいるって聞いて、最初は駅前の一番でかいとこに行ったんだがまあ…ひどいモンでな」
( ><)「本当ですよ…僕の地元は田舎だったけど、今思えば比べものにならないぐらいよかったですね。
     あ、いやでも此処には敵いませんよ。別格ですよ本当」

プレイを終えて感慨深げに話すふたり。

(*゚ー゚)「穴場ですからね。
   その代わりアクセスは悪いんですけど」

因みにこのゲーセン、ゲームといっても定番の格闘ゲームやSTGなどは、商店街ゲーセンの定番NEO-GE○筐体が数台で…それ以外はポプとDDR、キーマニ、五鍵盤、弐寺とあらかた網羅している。
しかも決して広いといえない店内にポプ筐体が3台存在するという塩梅で、設定は100円3曲。当然ネット環境も完備。音ゲーマーには至れり尽くせりの環境だ。

(;´・ω・`)「…客は本当に選ぶねココ」
(*゚ー゚)「ええ。でも本当に好きな人が多く来るから、需要はあるんですよ。
   営業時間が短いのも、音に配慮してるからって言うのもありますし」
( ><)「というか僕、今更になってキーマニにはまっちゃいましたよ本当…こっち来て初めて現物見ましたよ」

ビロードの言葉に笑う三人。
ふと目をやると、三人の目の前では一心不乱に高レベル曲に突貫していくツンの姿があった。

彼女がこの日挑戦していたのは「カゲロウ」のハイパー譜面。
輪生(リンセイ)」という「ジャンル名」のほうが有名…というか、ポップンは基本的に曲名ではなくバラエティ豊かな「ジャンル名」で認識されるのが常だ。ビーマニコンポーザーの問題児(?)Des-ROW先生とその愉快な仲間達「Des-ROW・組スペシアルr」が手がけた、「ポップンミュージック11」のスタメン曲でボス格と目される、ノーマル、ハイパー、そしてHELL11の一角を担うエキストラと全譜面で難易度の高い曲だ。

ハイパー譜面はレベル37。
前半と後半に密集譜面、中盤に同時押しの縦連打が襲ってくる譜面構成で、レベル37の譜面としてはほぼ最強クラスの総合難譜面だ。
37の攻略に腐心するツンがプレイするには、無謀ともいえる難易度。


今までは、そうだった。
彼女が一人で、険しい表情で続けていたなら…生涯、攻略など敵わない。


ξ;゚听)ξ「………………」

ツンはこの一週間でかなり腕前を上げていた。
元々リズム感があり、さらに飲み込みの速い彼女は、プレイの際にビロードやショボンのアドバイスを良く実践した。

(´・ω・`) [同時押しは横一列で把握すること。どの譜面でもそうだけど、左手右手で視点分けても混乱するだけだから]
( ><) [ずれた譜面は面倒なら餡蜜で処理すると楽ですよ。けど、慣れたら少しずつずらして取るようにしてみてください。餡蜜は多用すると、クセがつきますから]

上から下へと流れる、高密度のポップ君を彼女は可能な限り捕らえる。

彼女はこの一ヶ月の間、それまでの難関曲であったミスティEX、メルトEXなどを陥落させ続け…残すはこの曲を含めた数曲と言うぐらいに、上達していた。
そうしてレベルアップしてきた彼女にとって、この輪生Hは最大にして最後の難関であり続けた。

ξ;゚听)ξ(よし…ココから…!)

最後の発狂、左右に振られるトリルを彼女は餡蜜を駆使してゲージを赤にキープし続ける。
いつもなら途中でタイミングを崩し、一気にゲージを失っていくはずであったが…。

(´・ω・`)[最後に一番大切なのは、技術も勿論だが…このゲームを、プレイする曲を、好きになることに尽きる。
     嫌いなことを無理にやり続けても、意味ないからな]

ショボンのインストラクションが、ツンの中に、このゲームに初めて触れたときの…初めて曲をクリアできたときの、楽しさと感動が蘇る。


ゲージはボーダーを越え、赤に2個残っていた。


グゥゥド!


ξ;゚听)ξ「…あ」

(;´・ω・`)「おぉ…」
(;*゚ー゚)「うそ…っ」

思わず息を呑むショボンとしぃ。
しかしそれはプレイしていたツンもまた同様だった。

ξ;゚听)ξ「クリア…できた」
(*^ワ^)「すごい…すごいよツン!やっと37の大台突破だよっ!」

その手を取って大げさにはしゃぐしぃ。

(;><)「す…凄いですよツンちゃん!まさかたった一ヶ月で輪生Hまで突破するなんて!」
(;´・ω・`)「驚いた…俺輪生H越えるまで初見から半年かかったぞ…」
ξ;゚听)ξ「あ…えっと…その…」

興奮したようにまくし立てるビロード。
呆然とした顔のショボン。
まだ事情が巧く把握し切れていないツン。

残念ながらチャレンジポイントが足りないためにエキストラステージまではこぎつけていないが、
曲リザルトでは確かにファイナルステージ・輪生Hのポイントがしっかり加算されていた。

ツンはようやくにして、喜びの感情が湧き出してきた。

ξ////)ξ「その…みんなの教え方が…巧かったから…」

自分の言葉に照れたのか、真っ赤になって俯いてしまうツン。
その様子がおかしかったのか、三人は思わず吹き出してしまう。

ξ//゚听)ξ「な、なによぅ!折角感謝してるってのに!」
(*^ー^)「まぁまぁ。
     でも良かったじゃない、これで目標までまた一歩近づいたんだから。
     あたしも早く30の壁突破したいなー」
( ><)「大丈夫ですよ、しぃちゃんも大分上達してますから。
     元々CSでプレイできた曲はかなり消化できてるし…あとはフレッシュEXを攻略すれば30制覇じゃないですか」
(;*゚ー゚)「うーん…何時までかかることやら…」

(´・ω・`)「よーし、俺もなんかやる気が出てきたぜ!
     次回作に備えて久々にオイ0EX突貫してみるかぁ!」
(;><)「ちょwwwwwwww正気ですかショボンさんwwwwwwwwwwww」


笑顔で喜び合う四人。
それを遠目から一つの影が眺めていた。


∬ ゚ -゚)「………………」

髪をポニーテールにして、やや雰囲気を変えていたがそれはまさしくクーであった。


クーもこのゲーセンに通っていた時期があった。
中等部での学校生活が終わろうという頃、しぃに誘われてツンと共に来て…その時のことを、クーは少し思い出していた。


∬ ゚ -゚)(………何時から………私はあの中から居なくなってしまったんだろう…)

∬ ゚ -゚)(……どうして……)

その答えも見出せぬまま。
まるで彼らの笑顔から逃げるように、誰にも気づかれることなく彼女はその場を後にした。



(第一章終わり)