五月二日、朝。

連休を控えたその朝もまた、本来なら普段と変わらず始まるはずであった。
制服を調え、学校へ出かける準備を整えてツンが部屋を出ようとしたその時のことだった。


不意に家のチャイムが鳴る。

ξ゚−゚)ξ「………………?」

この時間に来客というのも珍しい。
しかしほんの二月ほど前であれば、それはさして珍しくないことでもあった。

ξ゚听)ξ「……まさか、ね」

彼女はその考えを無理やりに押し込めた。
だが、現実というものはあくまで彼女の思惑と裏腹に動いていることを、数分後に思い知ることとなった。


ξ´ー`)ξ「あら、クーちゃんじゃないの!珍しいわねー」
川 ゚ -゚)「おはようございます」

ξ゚听)ξ(…え?)

思いもしない母親の言葉に、ツンは慌てて階段を駆け下りてきた。

ξ゚听)ξ「…クー」
川 ゚ -゚)「………」

ツンは何が起こったのか解らず、しばらく呆然と立ち尽くしてしまった。



<ξ゚听)ξがポップンでランカーを目指すようです 第二章>



通学路。

まだ時間も速い所為もあったが、人も疎らで、時折近所の年配の人が犬の散歩に出ていたり、
ジョギングに精を出している近所の青年やらにすれ違う程度。
そこを、ツンとクーのふたりは無言のまま、隣り合って歩いていた。

ほんの二ヶ月前までは、これが普通の光景であった。
ただ、その時との大きな違いは…ふたつ。
その時間がその時より十五分も早いこと。

ξ゚ -゚)ξ「………」
川 ゚ -゚)「………」

そして…ふたりの間には、まったくといっていいほど会話がないこと。


ツンはまるで、普段徒歩でも二十分しかかからないその通学時間が、まるで何十時間もかかっているような錯覚に陥った。
気まずさのようなものが、コールタールめいて彼女の体にまとわりついているかのようだった。

それは恐らく、クーもであろう。


どのくらい歩いた時だろうか。

川 ゚ -゚)「………なぁ、ツン」

先に口を開いたのは、クーのほうだった。

ツンは思わず立ち止まってしまう。
だが、言葉は返せなかった。
クーは少しだけツンの前で立ち止まる。


そして振り返らずに、


川 ゚ -゚)「…最近、楽しいか?」


といった。


ξ゚ -゚)ξ「………」

無言のツンの表情は普段とあまり変わらない。
ここ最近、クーに対して学校でとるのと同じ…仏頂面のままだったが…ツンはこの思わぬ問いに、内心戸惑っていた。

ツンからの返事がないまま、少しの時間を置いて、再びクーが口を開いた。


川 ゚ -゚)「…私は…」


川 ゚ -゚)「私は、どうしたら…もう一度お前の"友達"に戻ることができるんだ…?」
ξ゚听)ξ「…!」


お互いに表情は解らない。
だが、ツンにはまるで………


その瞳に映る幼馴染の姿は、まるで泣いているようで。


ξ゚听)ξ「…っ!」


ツンはまるで逃げるかのように、立ち尽くすクーを追い抜き、その場を走り去っていった。
クーのほうを、振り返ることなく。



この日は結局、朝以降クーと会話らしい会話をしていない。
まぁ普段からそうではあったが…クーはツンが教室に飛び込んで30分あまり後、朝礼の間際になって姿を現した。

その様子は普段とあまり変わらない。
しかしそれだけに、ツンはクーに何か…説明のしようもない嫌な感じ…ある種の不安を感じていた。
その感覚の正体は、その時の彼女にはまったく解らなかった。



放課後。
退屈な授業を終え、ツンは何時も通りしぃと簡単に予定を確認しあうと、そのまま教室を飛び出してきた。


まるでクーを避けるかのように。
いや…クーを見ていると感じる、その正体不明の感覚から逃れようとするかのように。


しぃとビロードは用事がある、ということで、先ずショボンとツンだけが店に入っていた。
早速腕鳴らし、とばかりに筐体に向かうツンを、

(´・ω・`)「なぁツン、ひとつ気になることがあるんだが…今いいか?」
ξ゚ -゚)ξ「………?」

珍しく…かどうかは解らないが、初めて会った日のように、ショボンは真剣な表情で引き止めた。

(´・ω・`)「クーのことだ。
     お前のクーに対する感情、その理由が知りたい」
ξ゚听)ξ「…!」

ツンの表情が途端に険しくなる。


それは、常日頃彼女がクーに抱いている、ある種の嫉妬心ややっかみからばかりでないようだ。
恐らくは、朝に抱いた不可思議な感情…それがえぐみとなって、彼女に多大な不快感を与えていたのだ。


だが、一月…ポップンのプレイ仲間としてつながりでしかないが…それでも、お互いに大切な「仲間」として、言葉に出さずとも意識し始めるのには、十分すぎる時間だった。

ショボンは、少しずつ肩の力が抜けて、自然体でこのゲームを楽しむようになったツンが…この日は何か、初めて出会ったあの日のような、そんな空気を纏っていることに気がついていた。
そして、その理由は…探りを入れるまでも無かった事を、彼はその表情の変化から察した。

それが…このゲームを心から楽しむ上で(・A・)イクナイ!!!ことであることを知ってもいたから。
彼にも、そういう経験があったから。

だが、必要以上に彼女の心へ土足で踏む込むべきでないことも…聡い彼は、よく知っていた。


(´・ω・`)「…話したくないなら、それでもいい。正直スマンカt」
ξ゚听)ξ「幼馴染なんだ、あたしとあいつは」

会話を打ち切ろうとしたショボンだったが、ツンは吐き捨てるようにその言葉を打ち切った。
そして…クレジットを入れようとする手を止めて、元の順番待ち席に戻ると…淡々と、語り始めた。

ξ゚听)ξ「ちっちゃい頃からずっと…あたしは周りから常にあいつと比べられた。
     運動も、幼稚園の遊戯会でも、そして学校に入れば、勉強でも…果ては絵を描いたり物を作ることだったり、あいつは…あたし以上だった。
     まるで…あたしに見せつけるみたいに」

ツンは、知り合って間もないこの年上の青年に、素直に己の胸中を語っていた。
ツン自身、どうしてそうしようとか…それが何故なのか解らなかった。

ツンは…見ず知らずの自分に、ゲームで楽しむことを思い出させてくれた大切な「仲間」へ…自分の事を聞いて欲しいと思ったのかも知れない。


(´・ω・`)「…」
ξ゚听)ξ「そのたびに…先生もクラスメートも…果ては父さんや母さんまで、あたしとクーを比較して…まるであたしの全てが、クーに否定されているようにさえ思えた。
     ううん…あいつが、あたしの全てを否定しているように…あたしが何しても、自分には絶対敵わないって言ってる気がして。
     あいつの姿が視界に入るたび、自分の居場所が奪われていくだけだった」

それを「子供っぽい嫉妬心(やっかみ)に過ぎない」と、彼女の言葉を否定することも簡単だった。
しかしショボンは…これまでの十数年、ツンが「そうして生かされてきた」ことを想い、心が痛んだ。


彼もそうだった。
同じように、幼馴染みの優等生がいて、同じように何をしても決して認められなかった。
彼はその聡い頭で、それでも「自分は自分だ」と己に言い聞かせ…腐ることなく、自分のベストだけを尽くした。
幸いにも彼は…その周囲の期待に押し潰され、落伍した「幼馴染」と同じ末路を辿ることなく…大学受験で首席合格という結果を見せつけ、ようやく周囲に認められることが出来た過去がある。

だが…そういう人生を生きていた彼だからこそ「クーが悪いわけではない」ことも理解していた。
会ったこともない、目の前の少女が語るだけの「クーという存在」に、彼は「人生からドロップアウトしてしまった幼馴染」の姿が重なった気がしていた。

恐らくはツンも、そのことくらいは理解しているだろう。
しかし理屈では説明できないこともある。
当人が味わった苦しみは、当人にしか理解し得ないものだから。


ショボンは一言も口を差し挟むことなく、真剣な表情のまま彼女の独白を聞いていた。

ξ゚听)ξ「…だから、これは…ポップンだけは譲れなかったんだ。
     けど、あの日…!」

ツンの表情が一層険しくなる。
恐らくは相当なショックを…そして、クーヘの嫌悪が憎悪に変わったであろうその出来事を…語り始めた。


きっかけはポップンをクー、ツン、しぃの三人でプレイするようになって一ヶ月が経とうとしていた頃。
クーが何時の間にか、ツンの最高クリアレベルよりもはるか上の曲を突破してしまったことに端を発する。

ξ;゚听)ξ「どうして…どうしてそんなのクリアできてるのよ…?
      始めてたった一ヶ月程度でクリアできるわけない、こんなの…!」
川; ゚ -゚)「いや…だから私だって、少しでもお前と同じところへ行きたいと思って…」
ξ#゚听)ξ「ウソよッ!
      あんた本当は、ずっと以前からやってたんでしょう!?
      こんなところまで私の上に立って面白い!?あたしの居場所を奪ってそんなに面白いの!!?」

しぃやクーもあとで知ったことらしいが、この前々日は中等部最後の学期末テストの結果が出た日であった。
たまたまそのことと、その結果を知ったらしいツンの母親が、

ξ´ー`)ξ「あなたも頑張ってるのにねー…でもなかなかクーちゃんには敵わないモンねぇ」

と軽口を言ってしまったのが原因で、凄まじい親子喧嘩を巻き起こしたのである。

ツンの母親もたまたまこの日何か良いことがあったようで、多少浮かれていた。
そのため、ツンがこうした発言に過剰反応することをすっかり失念していたのである。


あまり他人と比べるのはよくない…と、ツンの両親が気づくまで10年もの歳月が必要だった。

しかし時既に時間切れ。
その頃にはツンはやや精神的に不安定な面…いうなれば心の中に爆弾を抱えてしまうことになった。
ツンの両親に出来たことは、極力その爆弾に火を点けないよう、注意するだけ。
その起爆剤となる一言が、それだったのに。


その時の火種は、両親と一応の和解をみたこの時点でも、静かに燻っていたのだ。
そしてその熾火は、一瞬のうちに爆発炎上した。


川; ゚ -゚)「ちっ…違うっ!
     信じてくれツン、私がこれをクリアできたのは今のまったくの偶然なんだ!」
ξ#゚听)ξ「…それをどうやって証明するつもりよ…?」

(;*゚ー゚)「も…もうやめなよツン…クーだってずっと頑張ってたんだし…もしかしたら偶然でそういうことだって…」

しぃは何とかツンをなだめようとする。
しかし、それは日に油を注ぐ結果となった。

ξ#゚听)ξ「…これでも偶然っていえるの…?」
川; ゚ -゚)「!」
(;*゚ー゚)「え…?」

ツンが突きつけたのは…彼女の携帯に映しだされたあるデータ…それは、彼女が携帯にダウソしていたアプリ「ポップンパスポート」であった。



(第二章終わり