「なんだい、そりゃ」

或る日の棘魚亭。
禁忌ノ森の存在が公表され、先行で捜索を続けていたかごめ達の他にも、実力あるギルドがちらほらと足を踏み入れるようになったその地での探索を終え、普段通りにカウンターに腰かけるかごめは、アントニオの物言いに眉をひそめる。


「だから言ってんだろう姐さん、あんた達が、天空の城から落ちてきた瓦礫やら何やらの被害の修繕のために、あのクッソ煩ぇギルド長から色々指示受けてなんかやってたろ?
あれ以来こっちだって迷惑してんだ、誰をやってもあのカタブツ「使えない」の一言で門前払いして追い返しやがって」
「それがなんであたし達の所為に帰結してんだよわけ解んねえ」
「どう考えたって姐さん達の所為だろああまったくもう!
げっ…とと、とにかく俺は少し仕込みがあるからちょっと席をはずすからな! ボトル置いとくから勝手に飲んでくれ!」

かごめは唐突な彼の行動を一瞬訝ったが、背後に迫る気配と、聞き慣れた具足の歩く音にその理由を悟り、振り返る。




「邪魔するぞ。
おお、やはりここにいたか…丁度いい、お前達に少し頼みたい事があってな。
…アントニオの奴め、どういうつもりかは知らんが何度私が頼んでも、一向にお前達を寄越さず、使いものにならぬ新人ばかり送り込んで来るのでな

かごめはその言葉でなから、状況を悟ったようで…苦笑しながらあいたグラスに酒を注ぎ、マリオンへと手渡そうとするが…。

「いや、結構だ。まだ仕事中だからな」
「堅いねえ…それにアントンだって、悪気があったわけじゃねえんだろ。
簡単に解決するからって、なんでもかんでもあたし達の所に持って来られたら、もしかしたら新顔の連中にもやり手がいてさ、そいつらの活躍のチャンスを潰しかねえと思ったからだろ?
新人教育って大事だと思うよ?」
「…それも一理あるがな。だが、時と場合にもよるだろう。
こいつはとびきりの面倒事でな、出来れば、なるべく大公宮の覚えが目出度い者にやってもらわなければならぬ
「ふむ…話、聞こうじゃないの」

その様子を物陰で伺うアントニオ。
そこに、何時の間にか立っていたつぐみが口を尖らせて言う。

「マスターさん。
そういう事ばかりするから、マリオンさんだって怒るんじゃないの?」
「そ、そういうなよ嬢ちゃん…あいつ昔っから、ああなんだよ。
俺もあんま詳しくは知らねえが、なんでもこの国に来る前は、今はなくなっちまったが結構有名な大国で、女だてらに近衛騎士団の副長を務めてたって話でよ…兎に角怒らせると手がつけられねえんだ。
以前、似たような依頼があった時に駆け出しの新人寄越してやってよ…ああまあ、そいつら滅茶苦茶素行悪かったし、アイツに性根を叩き直してもらえばいいと軽い気持ちでやったんだがな…それが大失敗でよ」
「確かに話してれば解るけど、マリオンさんものすごく真面目っていうか…ちょっと頑固なところ、あるかもだもんね」
「ちょっとどころじゃねえ!
一体どんな育てられ方したらあんなんなるんだ全く…嬢ちゃんはあんなんなるんじゃねえぞ、まあお前の母ちゃん見てれば余計な心配かもしれねえけどよ…」

うんざりした表情で溜息を吐くアントニオに、話は済んだのだろう、かごめもそこへやってきてマリオンに渡そうとしていたグラスをアントニオに渡す。
彼は一息に受け取ったグラスを飲み干した。

「お母さん、マリオンさんの依頼って?」
「なんのこっちゃない、だが、確かにあたしら向けのもんかもしれねえな。
今確かギルドハウスに因幡の姐御いるだろ、ちっと連れて来ちゃくれないか悪いけど」



「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第三十三夜 銃士の呼び声、飛竜の影




~翌日 棘魚亭~

「えっ、それじゃああの連中がいないのはそのせいなの?」
「ああ。
姐さん方はどっちを調教師役にするかもめてたけどな…結局、着ぐるみを着ていくことになったのはかごめ姐さんの方だ。
そっちも傑作だったが…いや、それ以上にマリオンの奴、動物が苦手だったとはな…!

見モノだったぜ、と全力で笑いをこらえるアントニオに、文は呆れたように溜息を吐く。

「じゃあ、あいつらしばらく帰ってこないのか」
「貴族サマ達の儀式は俺ら下々の者にゃ理解できねえくらい、複雑怪奇で長ぇからな。
動物とご両親以外にはなつかないワケ解んねえ御子様相手を、三日もやらにゃならんそうだ。
悪いがその間、何もしないで好きに過ごすもよし、別のメンバー募って探索出てもよしって言伝だぜ」
「退屈なのはごめんだな。
てゐがいねえってのはちょっと不安だが、気分を変えてたまには私達四人ってのはどうだ?
つぐみ達も四人でギンヌンガでドンパチやってたんだ、私達だって、先輩冒険者としてたまにそのくらいは、なあ?」

グラスのワインを無造作に煽りながら、魔理沙がそう提案を持ちかける。
文は何か言おうとしたが、無駄そうな気がしたというよりも…それも一興と思ったのか、仕方ない、とばかりに息を吐く。

「っても、俺の方でもさし急ぎ依頼事はねえな。
最近はやる気の多いギルドも多くってな。氷樹海の温泉近辺でまた、女ばかり襲う不埒なカエルのバケモノが出たってのも、此間なかなか見所のありそうなブシドーの兄ちゃんが勇んで受けていったし」
「他に厄介事はない…か。
丁度良い。ヌシらになら、我が依頼を託すのに丁度良いやもしれぬ




その声の先には…見覚えのある老銃士が立っていた。

思いもかけぬ突然の来訪者に文も魔理沙も驚いたような表情をするが…初めて樹海で遭遇した時のような、敵意のようなものは感じられない。
「久しぶりね」と文が表情を緩め、席を勧めると、ライシュッツは一礼してそこへと腰かける。

「あのような事を仕出かした我々が、此処にノコノコ姿を見せていい筈がないことは承知している。
だが…ヌシらが色々便宜を図ってくれたこと、何時かその礼は言わねばならぬと思っていた所だ。
その上で、ひとつ面倒を頼まれて欲しいというのは、虫の良い話やも知れぬが」
「そうカタイこと言うなよ、じいさん。
困った時はお互いさまっていうだろ?
それより…アーテリンデはどうしたんだ?」

魔理沙の言葉に、ライシュッツは僅かに表情を曇らせ…そして、その重い口を開く。

…頼みごととは他でもない、アーテリンデお嬢様の事だ。
あれから…我らはダンフォード大臣の元へ出頭し、全ての真実を話し裁きを受けた。
その際、ヌシらからも事情の説明があったという事で、決して罪としては軽くはないが…公宮に協力し、今だ探索の進まぬ危険地帯の探索に赴く衛士の護衛、あるいは、これより樹海に挑まんとする新しき冒険者のサポートを命じられ、日々を過ごしていた」
「それは何よりだわ。
あなた達ほどの実力者を失うよりは、その方がずっと公国の為になるものね」
「我らもそのつもりで、任務に従事していた。
だが…つい先日、アーテリンデお嬢様は何の前触れもなく姿を消してしまった

魔理沙と文は驚いて顔を見合わせる。

「ヌシらがスキュレーを討ったこと…仕方なきことと割り切っていても、一度は人の道を背いてでも、マルガレーテ様を護ると決意され…それが果たせなんだ事を、お嬢様ずっと苦悩しておられた。
ヌシらが、そんなお嬢様の想いを受けてめてくれたことも、知っている。だが…」
「待って。
あなたは…それならなぜアーテリンデを探しに行かないの?」
我の言葉では、アーテリンデ様には届かぬやも知れぬ。
直接剣を交えたヌシらの言葉であれば、もしや…そう思ったのだ


ライシュッツは、哀しそうな表情でそうつぶやく。
魔理沙と文は頷いた。

「…解ったぜ、じいさん。
これは確かに、私達にしかできない仕事だと思うぜ

ライシュッツは目を細め、かたじけない、と頭を下げる。
暫く黙って聞いていたアントニオは、腕組みをしたまま首をかしげる。

「…なんだか今ひとつ事情が呑み込めねえが…つまり、エスバットのお嬢が居なくなったから、探してきてくれってことでいいのか?」
「そういう事よ。
今持って来られた依頼を即座に受けた場合って、ルールとしてはどうなるの?」
「んーまあ…特にこれと言った罰則とか決まり事もねえんだけどよ。
何しろ、立橋の鳥野郎どもな、あいつらこのシステムの事を知ってからってものの、口頭じゃなくて店の軒先へ手紙放りこんで済ませやがるしな。
あの連中にくらべりゃ全然、形式としちゃ問題ねえわな」
「無論、報酬は用意してある。
…ヌシらであれば、これを使いこなす事も出来よう」

銃士が懐から取り出したその業物を見て…目を丸くしたのはアントニオだった。

「じいさん、こいつぁ…!!」
かつて、我が教え子が使った魔銃アグネア。
名のある鍛冶師に稀少な魔法銀をもって鍛えさせ、硝煙の煙すら残さぬと称された大業物よ。

…先の短い我が手にあるより、未来ある者の手に渡った方が良いだろう。
狐尾よ、お嬢様の事、何卒頼む」








諏訪子「おー、久しぶりに私達の出番かと思ったらまたかごめの野郎いないのか」
静葉「ええ、傑作だったわよ。
  あの子最初、てゐに着ぐるみを着せて済ませようとしてたみたいだけど、まー最初から乗り気じゃないっていうか、あからさまに嫌な顔してたてゐが「どうせ全身の着ぐるみだったらお前着ても変わらねえだろ」ってアヤをつけたのがきっかけでね。小一時間はじゃんけんしてたわよあの連中」
諏訪子「…ここでクエスト「頼もしく愛らしき伴侶達」が混ざってるんだが、このクエストはペットを連れてくるか、あるいは、酒場の客に居る仕立て屋の依頼に応えて、ノヅチとジュエルリザードのドロップ品をもってきて着ぐるみを作ってもらう事でクリアになる。
   一応この為に一時期ペットは連れてたんだけどな。まあ本来は忠義マスタリー量産のためだが」
静葉「一応このクエスト、クリア後の六層探索クエストにもつながってるのよね厄介な事に。
  何気に発生条件の根元がわけわからない所に繋がってるパターン、今回多いわね」
諏訪子「そだな、冷静に考えるとわりと複雑怪奇だなこの辺」


諏訪子「つーわけで今回のメインクエストは「銃士の呼び声」と「飛竜の影」だ。
   どちらもエスバット関係のクエストだな」
静葉「前者のクエストはクリア前で、なおかつエンディングにも関わってる気がするんだけどねこれ。
  あと少しでもかじってれば解る人も多いだろうけど」
諏訪子「皆まで言うな、ラヴクラフト御大の「クトゥルーの呼び声」と「インスマウスの影」をもじったんだろって言いたいんだろどうせ。
   これに限らずクエスト名は結構、小説のタイトルをもじったものが多い。SSQでアルルーナと戦うクエスト「華は無慈悲な森の女王」も、アーサー・C・チャールズの「月は無慈悲な夜の女王」っていうSF小説のタイトルをもじったものだ」
静葉「それどころか山行水行って種田山頭火の詩集のタイトルにもあったような」
諏訪子「アーテリンデの盲人独笑も太宰治の小説のタイトルだよそんなこと言ったら。
   世界樹にはわりとこういうの多い。スタッフというか小森の趣味なんだろうなこの辺。
   まあ本家クトゥルーと違って別にSAN値が削られるわけじゃねえ
静葉「その代わり地雷を踏まされてhageると
諏訪子「…ごめん結構似た様なことだった。
   とりあえず、まずクエストを受領するにあたって、あらかじめ封印された扉の向こうへ行くことが必要になる。
   随分と引っ張っちまったが、物欲を欺く者を倒しに行った時のクエストで、その隠しフロアの最奥部にある宝箱から入手できる「世界樹の鍵」、これが攻略に必須となってくる。
   何しろ、アーテリンデが向かったというのが、3階で傷ついた兵士を助けに行くミッションを受けた時に見た、封印されていた扉の先なんだからな」
静葉「鍵の話も随分引っ張ったわねえ。
  大体にしてマグス専用鎧の素材を落とすFOE、鍵の先に行けるフロアにしかいないじゃない」
諏訪子「第一層攻略時でも姿だけは確認できる赤いカエルだな。
   FOE飛躍する大蛙、こいつを呪い状態で倒すとドロップする呪われた蛙皮が、マグス専用鎧である呪印の兵装の素材になる。
   攻略wikiにカキコしてる奴らにとんだニワカが多いってか、ややもすれば荒らしが多いって証拠がな、このレアドロップが「呪い反射ダメージ撃破で取得できる」とかとんでもない出鱈目を複数人がしてるっていうマッポー的状態だ。やってみろ、こいつがどんだけまともに殴ってこない生き物であるか思い知る羽目になるから
静葉「狐野郎はこの時、ストーリークリア前に入手できる水溶液使い果たしてたし、しかも悪いことにこのガセ情報を鵜呑みにしてたからものっそい苦労して取ったみたいよ。
  エキスパだと向こうから受けるダメージがでかすぎる以前に呪いが本当に入りにくい、かといってピクニックだと被ダメが小さすぎて結局反射する呪いダメージも小さいと来たもんで。
  一応、呪いの反射で倒しても呪いの状態で倒したことになるから条件そのものは満たせるけど」
諏訪子「だいたいこいつ、HP減らすと毒の体液を連打しまくってなかなかこっちを殴ってこないと来たもんだ。
   あと、初手と5倍数ターンに使ってくる脱力ダイブが殺意を覚えるくらいうざい。3ターンHP最大値を半分にしてくるっていう嫌がらせなんだが、弱体が解けてもHPは減らされた上限のままだ。回避法はセルのカースオブルインとかと一緒なんだけどな」
静葉「何気にこいつの毒の体液の毒ダメがかなり笑えない威力だから、ダイブでHP減らして来たところに貰うと本当にきっついわね。
  こいつで苦行をしなきゃならないほど、一体何処で水溶液を浪費したわけ?」
諏訪子「2つともスキュレーに使ったんだよあの腐れ狐は。
   考えてみればスキュレーの方がはるかに楽だぞ、睡眠ぶち込んでお前かかごめがブレイクすれば、ピクニックなら5ケタ近いダメージ出るだろが」
静葉「あらら、なんてもったいない^^;」
諏訪子「水溶液は今回、六層FOEに大出世した三頭さんのレアドロが材料。
   毒ダメ撃破が条件で水溶液素材、というあたりが殿の赤ヒツジめいたものを感じるが、実はあのカボチャそんな強くないんだよな。
   物理無効属性全般弱点だけど、別に序曲なしでレヴァンテインみたいな攻撃属性つきの武器は勿論、巫剣でも普段通りのダメージが叩き出せるからHP削るの簡単だし、何より攻撃も初手のテラーペイン以外は単体攻撃とTPダメージしかしてこないから非常に弱い。挙句毒も良く通ると来たもんだ」
静葉「とりあえず六層で水溶液量産体制に入ってるというのだけは理解出来たわ。
  まあ、今はそんなに関係のない事だと思うけど」








~古跡の樹海 封印エリア~


魔理沙「最下層にこんな別フロアがあったなんて知らなかったぜ。
   しかも、見たことのねえ魔物まで居ると来たもんだ。あの爺さん、なんでこんなところ知ってんだろ?」
文「あんた本当に呑気ね…あの紅白とどっこいどっこいだわ。
 詳しいことはよく解らないけど、少なくともこの区画に立ち入れるギルドはごくわずかしか存在しなかった。エスバットとか、かつてのベオウルフの様な、ね」
みとり「それだけ強力な魔物が潜んでいるということか。
   確かに、さっき見たトカゲの魔物は槍や弓の攻撃も効きづらいみたいだ。此処に来るメンバーとしては、人選ミスなんじゃないのか?」
文「痛いところ突いてくるわねえ…あなたの言う通りではあるけど。
 兎に角、なるべく無駄な消耗を避ける意味でも余計な戦闘は避けて通りたいものね」

文は魔力を失ってくすんだ色の鈴を放り捨てると、新たな鈴を取り出して腰に括る。
鈴の音が周囲に響くと、魔物の気配が薄れていっているようだ…。

魔理沙「でもよ、ライシュッツのじいさんはどうして、此処にアーテリンデがいるかもしれないって知ってるんだ?
   言っても聞かないって解ってるなら強引に連れ戻せばいい話じゃねえか」
文「……解ってないわね本当に。
 多分、この場所には彼らの過去に関わる重要なものがある。
 失くし物か、かつて狩り損ねた魔物か…アーテリンデはそれを取り戻そうとしているのでしょう、恐らくは一人で」
魔理沙「失くしモノ、ねえ」

まだ何一つ状況を飲み込めていない感じの魔理沙がため息を吐く。
一方で、これまでどこか険しい表情で口をつぐんだままのフランに、視線を移す。

文やみとりも、彼女の様子を訝ったのか、立ち止まって振り返る。
同じようにして立ち止まるフランは、険しい表情のままぽつりとつぶやく。

フラン「…この森、少しおかしいよ。
   さっきから、ものすごいプレッシャーを感じるんだ。
   多分この道のずっと奥の方…息を潜めているけど、獲物をずっとそこで待ち続けているような」
魔理沙「そりゃあまあ、普段の一層では見たことねえ魔物もなんかいっぱいいるしなあ」
フラン「そんなどころじゃない…!
   ねえ魔理沙…みんなも、解らないの…!?
   こんな途轍もない殺意と重圧をもった奴が、街のすぐ近くに居るなんて…そんなのに皆気付かないなんて!!

真っ青な顔でその場にしゃがみ込むフラン。
困惑する魔理沙を余所に、その時になってようやく文も気が付いた。


彼女の持つ獣避けの鈴の音すら意に介さない…感情のない爬虫類の、ただ息をひそめ獲物を待ち続ける微かな殺意を。


みとりもそれを感じ取ったのか、文の袖を引き、振り向いた二人は頷く。

みとり「…一度引き返すべきか?
   あいつに頼り過ぎるのもどうかと思うが、少なくとも私達四人で対処できる相手なのかどうか」
文「行くだけ行ってみましょう。
 でも異変を感じたら、すぐに離脱できる体制とルートは確保しながらよ」

魔理沙だけは「まだよく解らない」というような表情のままだが、それでもなんとかフランを庇って立たせると、緊張した面持ちのままみとりと文に続いて森の奥へと進む。







どれほど歩いただろう。
体感的には、恐らく樹海の入口に近いだろう階層の別区画に差し掛かったとき…一行は、ようやく探し求めていた姿を発見する。

「あなた達は…狐尾の?
どうして君たちが此処に?」

彼女たちに気が付いたらしいアーテリンデは振り返り、訝しげに問いかける。
魔理沙が、自分たちがライシュッツの頼みを聞いて彼女を探しに来た事を伝えると、アーテリンデは申し訳なさそうな顔をしてうつむく。

振り返った時の表情からも、アーテリンデは氷樹海の壮絶な戦いの事も、フラン達がスキュレーを葬ったことについても完全に割り切れているわけではないのだろう。
だが、生来聡明な彼女は、それではいけないという事も解っている。

「…ごめん。少し、ここでやらなきゃならない事があってさ。
爺やには、心配しないでって伝えておいて」
「そうはいうけど…じいさんの話じゃ、もう何日も街には戻ってねえらしいじゃねえか。
私達の間には、そりゃあ色々あったけどよ…じいさんがああして、わざわざ私達なんかに頭を下げに来るなんて、よっぽどのことだと思うぜ。
…余計なことかもしれねえけど、一度街に戻って、話をしてやったほうがいいんじゃねえのか…?」

魔理沙は少し遠慮がちに…それでも、はっきりとその事を提案する。
アーテリンデはそれを汲んでくれたのだろう、しばらくの沈黙ののち、僅かに寂しそうに笑って応える。

「解ったわ。
あなたの言うとおり、一度街に戻って爺やと…ッ!?」


その時だった。
こちらを伺う刺すような視線と、すさまじい殺気が、アーテリンデの背にする扉の奥から叩きつけられてくる…!!


魔理沙もようやく、この時になって気が付いた。

否、彼女も最初から、その存在を薄々感じ取っており…努めて、気にしないようにしていただけだったのだ。
出来得るなら遭遇を避けたい相手だったという認識は、文やみとり、フランのそれと変わるものではない。


「しくった…ここがそいつのテリトリーだったんだ…!」

事態を重く見た魔理沙のつぶやきに、文も彼女がそれを感じ取っていただろう事を…なるべくなら、それに触れずに目的を達しようとしていたことを理解する。

「愚痴っても仕方ないわ。
…アーテリンデ、あえて聞くわ。
あなた…ひょっとしてこの先に居る奴のこと…知ってるわね?」

堅い表情のまま、文の問いに頷くアーテリンデ。
そして…重い口をゆっくりと開く。


「…奴の名はワイバーン。
かつて…氷樹海でお姉様を殺した魔物よ…!!」



告げられた事実と、アーテリンデの表情から…四人は彼女の目的を悟った。
そして、アーテリンデは踵を返し、背後の扉にゆっくりと手を掛ける。

その手頸を、矢のように飛び出してきたフランが、しっかりと掴んで制する。

「だめ…だめだよ…!
アーテリンデさん…あなた、死ぬ気…」
「そのつもりはない。
…フラン、あなたがお姉様…ううん、スキュレーを倒してくれたこと、まだはっきりお礼は言ってなかったわね。
でも、それとこれとは別。こいつは…あの翼の魔王は、私がこの手で倒してやらなきゃならないのよッ…!!」
「お前ひとりで倒せる相手か!
そうやってお前が追いかけていけば、マルガレーテは喜ぶのかよッ!!」

魔理沙の言葉に、はっとして目を見開くアーテリンデ。
魔理沙は、フランとアーテリンデの両方の手に、自分の手も重ねて告げる。

「…私もな…ずっと謝らなきゃならないと思ってたんだ…きっと、フランもな。
あんな形でしか…あんた達の事を助けてやれなかったこと、ずっと」
「……魔理沙?」

心配そうに振り返るフランに、魔理沙は頷く。

「一人じゃ、無茶だ。
ライシュッツのじいさんほど頼りになるか解らねえが…復讐結構、私達が力を貸すぜ。
嫌だとぬかしても…勝手に乱入させてもらうけどなっ!」

一瞬呆けた顔をして、勝気に笑うその少女を見つめるアーテリンデとフラン。

「それって私達まで巻き込まれろってことか?」
「今に始まったことじゃないでしょ、その金髪⑨の戯言なんて。
…どのみち、こんな浅い階層に放置しておいていいシロモノじゃなさそうなことは確かよ。
やるしかないようね」

呆れたように溜息を吐く文に、何処か観念したようなポーズをとりながらみとりも肩を竦める。
先に、表情を緩めたのはアーテリンデだった。

「袖振り合うも何かの縁…とは言うけど、形はどうあれ、命のやり取りをした仲で組むというのも一興なのかもしれないわね。
フラン、狐尾のみんな…手を貸して頂戴。
上帝を討ち、過去の因縁を断ち切ったあなた達の力を!」
「はい!」

フランもそれに応えるかのように、嬉しそうに頷く。


意を決した少女達が扉を開け放つと、そこには、姿を現した翼持つ魔が鎮座している。
かつてフランが戦ったアーモロードの竜とは異なるが、十二分に竜と解るその姿。

フランの視線を受けたアーテリンデが口を開く。

空の破壊王、翼竜ワイバーン。
こいつは…姉様を殺した後、それを仇として狙ってた私の仲間…爺やの弟子にあたる人も、その手にかけた。

樹海の空を我が物顔に飛びまわり、追い詰められた振りをしながら、自分のホームグラウンドであるこの地におびき寄せて。
私は…こいつだけはこのままにしてはおけなかった。上帝の生んだこの暴虐の主を」

そして、構える巫剣に強い怒りの魔力が籠り、光を放ちはじめる。
それに呼応するかのように、暴虐の翼竜は劈くような咆哮をとどろかせる。

奴の翼が起こす暴風に気をつけて! 脚を取られたら尾撃の餌食よ!!
「了解ッ!!」

放たれた強烈な熱閃と、反撃に打ち込まれた魔理沙の魔砲が大爆発を起こし、ワイバーンと少女達の戦いが幕を上げた。








諏訪子「おい、これ」
静葉「うんうん解る解るわ。
  ただ狐野郎はこの展開を何処かで使おうとは思ってたそうよ、アーテリンデとの共闘
諏訪子「私ぁまた魔理沙のアホも魔弾のじじいに置き換えるんじゃねえのかって予想もなくはなかったんだがな。
   つか「銃士の呼び声」だと目的も戦う奴も全ッ然違うよな」
静葉「あなたも知っての通り「銃士の呼び声」でその真の目的を達する場合、戦わなきゃならないイベントモンスターがいるわね。
  ラフレシアとクロウラーのパチモンであるヘールフラワーとクランパー、いずれも基本パターンはラフレシアとクロウラーに準じるけど、どっちもHPは5ケタ近くあるし攻撃力も相応して上がってるわ。雑魚には変わらないけど」
諏訪子「そもそもワイバーンだってクエスト受領してから姿を現すしな。
   呼び声の時はこのパチモンどもを倒した後、なんか恐ろしい気配がするので逃げよう、っていうナレーションが入ってクエスト終了になる。
   それで、クエスト達成。実際はアーテリンデと会話すればクエスト報告可能になるんだが…まあ、展開のネタばらしになるんでそれは次に回すけどな。パチモンどもを倒して追加イベントを達成すると追加報酬が出る、それだけの話だ。
   まあ今回はワイバーンのスペック紹介だけして終了ってことでいいんだろうな、いつもの如く」




クエスト「飛竜の影」ボス ワイバーン
レベル68 HP33000 氷弱点/炎耐性/雷無効 即死・石化無効/テラー・混乱・盲目・腕封じ・脚封じ耐性
閃光の烈線(頭) 単体に雷属性攻撃、速度補正あり
ウイングクロー(腕) 単体に近接斬属性極大ダメージ、速度補正あり
テイルストライク(脚) 近接拡散突属性攻撃、命中率が低い
シャープロア(頭) 貫通無属性攻撃、スタンと頭封じを付与
大翼の旋風(腕) 全体に脚封じ付与


諏訪子「ワイバーンだが実際の話、実はそんなに強いボスじゃない。
   行動パターンもある程度決まっていて、初手は必ず閃光の烈線、5倍数ターンに大翼の旋風、その直後にシャープロアが飛ぶ。
   一部記述に信用ができない攻略wikiを信じるなら、シャープロアの直後には高い確率でテイルストライクが飛んでくる。それ以外は基本的にランダムだな」
静葉「高い確率、という事は確定ではないということね」
諏訪子「そもそもランダム行動でもテイルストライク飛んでくるからな。
   あと、閃光の烈線も最初のターン以外は撃ってくるターンは決まってない。ダメージでかい上に速度補正かかってて、まあほぼ確実に一人持ってかれるだろうが所詮は単体攻撃だ。テイルストライクは命中率が低く、シャープロアの威力もそんな大したことはない。搦め手も脚封じぐらいしか致命的なのないし、ゾンビ戦法が非常に有効だな」
静葉「ゾンビ戦法、なんて単語が飛び出してくるあたり、兎に角何かしらの攻撃で一人持ってかれる頻度が高いと」
諏訪子「烈線もだが、何よりヤバいのはウイングクローだ。
   こいつにも速度補正かかっているが、威力が正直意味が解らん。レベル70越えてるにもかかわらず、みとりの野郎がスケープゴートと防御の上から一撃でもっていかれるという意味解らん破壊力、防御抜きだったら普通に4ケタまでダメージが行くという超威力だ。
   兎に角ワイバーンで最も恐ろしいのは、このデタラメな一発の破壊力だな」
静葉「一応呪いカウンターが入らないこともないようだし、狙ってみるのも悪くないのかしら?」
諏訪子「単発攻撃ばっかりだからあまり期待はできねえと思うよ?
   雷無効という事で金竜と何か被るが、弱点は炎じゃなくて氷。しかも炎の通りはクッソ悪いと来たもんだ。
   あと空飛んでる奴のお約束である突弱点もない。普通に通りはするが」


諏訪子「というわけでここで一旦区切りにしておいて、次回に続くよ。
   というか、次回からは展開的にボスラッシュっぽくなる感じだ。
   残るクエボスも少ないから、いよいよ今回のログも終わりに近づきつつある感じだな」
静葉「というか諏訪子、穣子がなんかみすちーどころか早苗まで引っ張り出そうとしてるんだけどその辺いいの?
  確かにヒーラーがいたほうが安定はするけど、ヘカトンだったら私だって知ってるわよ一応。
  下手すればイモ混じりの合挽肉になる未来しか見えないわ(しろめ」
諏訪子「…お前も何気に酷いこと言うな。
   まあ早苗はもう学校の方へ行く予定になってるし、いざとなればかごめがあの馬鹿をスイートポテトにしてでも止めるだろ」
静葉「あの子が素直に諦めるとは思えないんだけどねえ。
  どのみち、あの子が面倒をやる気満々なのに付き合わされることには変わらないんだけどさあ
諏訪子「おいおい、一応あんなのでもお前の妹だろが。
   大丈夫だよ、私やかごめが思ってるよりもずっと、あいつ頭使ってるみたいだし。
   まあ兎に角、今回はここまでだ。次回はクエストの結末と…次のクエストの導入編へ一気に進むぞ」