~ギンヌンガ 地下二階~

目の前に広がるその光景に、フラヴィオは凍りついていた。
それは、この遺跡の事情を知るつぐみとは別口の事情であった。

訝るベルトランはつぐみに視線を送り、つぐみは神妙な顔でつぶやく。



「そんな…ここを根城にしていた魔物は、あの日…お母さんが全部斬ったはず。
ここで私達と戦った人が操っていた分も、全部」
「操る…?
つぐみ、変身できるだけじゃなくて、魔物を操れる人、知り合いにいるの?」

相変わらず、何を考えているのか読めない無表情の、抑揚のないクロエの言葉に、つぐみは頷く。


当初は、つぐみを「金髪の子」、フラヴィオを「弓の人」、アリアンナを「姫の人」などと呼び、名前を覚える素振りすら見せなかったクロエだが、アーテリンデとの戦いの後、突然フラヴィオを名前で呼び、ベルトランを驚かせた。
ベルトランいわくこの不思議な雰囲気の少女は、自分の興味のないことにはまったく覚えようとすらせず…それは自分の親類縁者の名前であっても例外ではなく、当然赤の他人ともなれば、という話だった。当人は「面倒くさい」といっていたが、その「面倒」をおして自分達の名前を覚えてくれたというのが、恐らくはクロエなりの信頼の示し方なのだろう。



「狐尾の中核チーム「森狼」の一人、黒谷ヤマメ。
通り名は「地底の明るい網」…ヤマメさんは、病気を操る能力を持った土蜘蛛っていう妖怪なんだ」
その名を言うなあ!!!

つぐみがその種族の名に触れた瞬間、それまで硬直していたフラヴィオはすごい剣幕で怒鳴り声を上げた。
あまりに突然だったため、つぐみもアリアンナも目を丸くする。

「フラヴィオ、うるさい。
クモくらい、どこにでもいる」
「だからその名を言うな!わざわざ!!><」

呆れ顔のクロエへヒステリックに食ってかかるフラヴィオに、ははあ、とベルトランが何処かシニカルな笑みを悪戯っぽく歪める。

「なんだ少年、クモが苦手なのかお前さんは。
おお、そう言えば毒吹きアゲハにも必要以上にぶち込んでたよなァ。
虫嫌いなのによくレンジャーが務まるなあ」
「う、う、うるせえよ!
俺は急にわっと出てくるああいう奴らが嫌いなだけだし!!
「あーまあ解らなくもないけど。
私のお母さんの友達にも、特にハチが大の苦手な虫嫌いの人いるし…あと、クモと虫一緒にするとヤマメさん文句も長くて」
「ですが、あそこにいるのは丸っこくてちょっとかわいいと思いますよ?」

この和やかな雰囲気に、アリアンナは屈託のない笑顔で天井の一角を指さす。
その指の先を見て、ベルトランとつぐみは表情を顰めた。

「おい…まあ、流石にこの巣のサイズなら、御本尊もそれなりのサイズではあるよなそうだよな…」
「お母さんは、森周辺に住み着く人食いの大蜘蛛だって言ってた。
…気をつけて、あいつらの糸、一本でもかなり強靭だけど…束ねられたのに巻かれると抜けだすのも一苦労だから」

つぐみはアリアンナを庇うように立ち、こちらの様子を伺いながらキチキチと音を立てる蜘蛛の魔物に照準を合わせて構える。
そのとき、つぐみは袖を軽く引かれるのに気付き、傍らに立つクロエへ視線を送ると、彼女は壁の一点を指差した。

「あのあたりの糸の塊、燃やしたらどうなるかな?
あそこから、天井全体に巣、広がってる

つぐみはクロエの言わんとしていることを即座に理解する。

彼女は炎の属性弾を取り出して装填すると、蜘蛛の魔から視線を外すことなく、なおかつ正確に糸の塊を撃ち抜いた。
すると、糸を伝った炎が天井一面まで燃え広がり、一瞬で火達磨になった蜘蛛の魔は、断末魔の金切り声をあげてフロアの吹き抜けの底へと落ちて行ってしまう…。




「い、いなくなった!クモが!
やったぞ、みんな!!」


それまで顔面蒼白で凍りついていた筈のフラヴィオが、一転してさも愉快そうに笑って、はしゃぐように蜘蛛の落ちていった吹き抜けの方を指差した。

「…現金だねえ」
「けど、あいつらといちいちまともにやり合っても面倒だから、簡単に追っ払える方法が見つかったのは助かるよ」

つぐみはアグネヤストラの弾層に仕込んであった実弾を、全て炎の属性弾に換装しながら苦笑する。
そして、険しい顔で行く手を見据える。

「ちょっと、いやな予感がするの。
アーテリンデさんとの戦いの後にも、何か新しい力を得た感覚がある。
条件が満たされたんだったら、遺跡にきた瞬間に「護り手」が何か話しかけてくれると思ってたのに
「するってえと、まだそれが聞こえてねえってか

つぐみは頷く。

「もし蜘蛛の親玉みたいなのが奥に陣取ってるとすれば…そいつとの戦いは避けられない気がする。
…フラヴィオ、怖いのはちょっと、我慢してくれると嬉しいな。
そいつを蹴散らしていかないと、儀式が進まないし」
「あーもう解ってるよ!
居るって解ってれば、別に平気だしッ!!

自棄になって叫ぶフラヴィオに「どうだかねえ」と小声で肩を竦めるベルトラン。
一抹の不安を胸に抱きながらも、一行は蜘蛛糸によって禍々しく飾り立てられたフロアの奥を目指す…。



「狐尾幻想樹海紀行 緋翼の小皇女」
第五十夜 デイ・オブ・スパイダー




文「なんなのこの、サンシタが泥酔してる挙句に寝ぼけて書いた様なエピ臭のするサブタイ」
静葉「ロブスター2はテンドンとかあったけど、話自体は科学者の執念というか哀愁めいたものとかそういうものが感じられて非常にポエットな作品だと思うんだけどねえ。
  3は知らないわ(キリッ」
文「とりあえずほんやくチームのトンチキどもが、時折ヘッズのニューロンを細断爆発四散させようと露骨に挿し込んでくるトンチキエピソードの話はいいわ。
 今回は先送りにしていたアラクネーの話ね」
静葉「ボウケンシャー諸氏の中では、その女子力というかヒロイン度の高さをアッピルするポイントとしてよくこの件が引き合いに出されるところね。
  因みにフラヴィオは「蜘蛛だけ」が嫌いなわけじゃないのよね」
文「えーその話今必要?」
静葉「ぶっちゃけると他に書くことなんてほとんどないじゃない、攻略関係は前のYAMAMEちゃん回で散々触れてるんだし」
文「いやまあそれもそうなんだけど」
静葉「スキル云々にしても、前々回に触れた炎の魔人直前のスキル構成とほぼ同じですもの。
  ああ、魔人戦で余ったフリーズオイルは換金して、スキュレー戦でも余りが出てたくらい買い込んだファイアオイルを買い込んで出かけたくらいかしらねここは」
文「火劇★あったんじゃなかったっけ、グリモア
静葉「アラクネーを放火爆発四散させてから気づいた(真顔
文「資金の無駄遣いにも程があるわね」




静葉「というわけでフラヴィオの弄られっぷりについてなんだけど」
文「……なんでそこに妙に拘るの静葉さん」
静葉「いいからいいから(真顔
  フラヴィオのいじられっぷりに関して実は、地味に公式が躍起になってるふしもあってね。
  なんていうのかしら、前作で言えばリッキィとアーサーを足して二で割った様な
文「もう散々に弄られまくられてるリッキィはそろそろ許して差し上げて(しろめ」
静葉「ちょっと先になるけど、18Fで樹液出るポイントのところが最たるものね。
  襲ってくるのも虫というかサソリの魔物、以降もそこの回復ポイントを使うたびにフラヴィオが「でも虫も来るんだよなー」って難色を示すとか、どうも初回の地の文=サンも地味にフラヴィオ目線な物言いをしたりとか…そこまでストレートに「虫」というのすらイヤか、ってツッコミ入れたくなるレベル」
文「(溜息)…姿揚げの時のフラヴィオも、すっごい拒絶反応するのよね。
 正直これの為だけにレシピリセットしても良かったぐらいなんだけど」
静葉「まあ実況動画のDIEジェストで知ってたしねこれ。
  まー兎に角、ここが皮切りになるフラヴィオの虫嫌いひとつとっても、フラヴィオの乙女度を高めてしまってるというのがよく訓練されたボウケンシャーの常識になってるわね」








辿りついた巨大なフロア…そこはかつて、つぐみにとっても因縁深い場所の一つだ。

不完全な研究から生み出された人造生命である美結が、ヤマメとの死闘の果てにその運命を覆したその地から、その当時よりもさらに強烈な殺気が伝わってくる。
その扉の前に立った時、それまで散々フラヴィオをからかっていたベルトランも、ムキになって返すフラヴィオも、それをなだめるアリアンナも…それぞれの表情から自然と笑みが消え、その先に何か恐ろしいものが待ち受けているという認識を抱いていた。

だが、つぐみだけは知っている。
この途轍もない妖気の持ち主の正体を。
あの時とは異なる理由で、立ちはだかる障壁として「彼女」が現れた、つぐみはそのことを確信する。



「クロエ、今のうちに教えとくよ。
もし、ヤマメさんが左の手首で糸を手繰るような仕草をしたら、問答無用で結界張って。
それが、あの人が能力を使う時のクセなんだ。なんのアクションも取らなければ、急性の熱病でみんな動けなくなっちゃうから」
「……わかった」

クロエは何の疑問も差しはさむことなく、ゆっくり頷く。

それは他の者も一緒で、おそらくつぐみの表情からも、その待ちうける者…黒谷ヤマメという妖怪の戦闘能力の高さを察しているのだろう。
その扉の向こうに待ち受ける者が、彼女の言うヤマメ本人であるという確信も。

つぐみはゆっくり、その扉に触れ…扉はひとりでに開いていく。
瞬間、走り抜ける瘴気と、クロエがとっさに張った結界が擦れ合うようにして火花を散らした。


♪BGM 「戦乱 そこにある死の影」♪


「へえ…完全に奇襲したつもりなんだけどなあ。
なかなかいい巫医連れてんじゃん、つぐみ」

何処か場違いなくらい、明るいトーンの女性の声が響く。

「そこっ!!」

一瞬でその姿を天井に捉えたフラヴィオが、ほとんど無拍子に近いスピードで番えた矢を放つ。
しかし、矢は影に届く直前に、一瞬過る網にからめ捕られ、そのまま慣性を失って落ちていく…。

目も慣れてきた頃、やがてそのシルエットが、天井へ逆さまに立つ、壺状に窄まった独特の形状のジャンパードレスを身につける、山吹色の髪の女性の姿を、一行は目にする。

「ヤマメさん…どうして」
「なに、かごめからの正式な指示でな。
あんたが順当に「力の継承」がされているかどうか、それを見極めろ、とさ。
…あと、今回その為に同行してる連中がいるなら、そいつらとちゃんとうまくやれてるかどうかもな…まあ、そっちに関しては心配いらんだろ。今の弓の坊主もそうだし、私の奇襲を一瞬でいなしやがったそこのちっこいのも…なかなかいいよ、あんた達。信頼関係もバッチリみたいだしな」

逆さまのまま、ヤマメはさも愉快そうに笑う。
表情こそ笑っているが、そこから放たれる凄まじい殺気と妖気は、かつて美結達と共に戦った時の比ではない。
かつて剣を交えたかごめ同様…明確な殺意を持って立ちはだかってきたはずのあの時すら、ヤマメもまた本気ではなかった…つぐみは、まるで初めて遭遇する恐ろしい怪物を見るかのような戦慄に襲われる。

「…お綺麗な方ですね。
妖怪、という存在は人間よりはるかにご長寿だと、つぐみ様から伺いましたが…あなたも、そうなのですか?」
「あんたが「印」の娘って奴か?
この状況でそんな世間話ができるなんざ、肝が据わってるのか天然なのか…まあいいや。
私もかれこれ千数百年は生きてるクチでね。
私のような蜘蛛の怪ってのぁ美人の妖怪が多いらしいんだけど、私自身はどうかよくわかんなくってねえ」
「私の目から見ても、ヤマメさんは美人の方だと思うよ。
けど、こっちも目的があるからね…顔だって容赦なく狙い撃ちにして、その面影が判別できなくなるくらいにまでしてでも…ここはまかり通らせてもらうよ!」

照準を自分に合わされた銃を迷いなく、険しい表情のまま構えるつぐみに「おーこわ」と肩を竦めおどけて見せるヤマメ。

「あんた本当に、最近言い回しがかごめじみてきやがったな。
エトリアの時はもっと可愛げのある奴だと思ってたんだがねえ…まあ、私個人としては今のあんたも面白くて好きなんだけどさ。
…だから」

先に解き放たれた瘴気…その数倍の密度の禍々しい気が、その周囲を渦巻いていく。
人間は勿論、強靭な肉体を持つ上級大妖ですら、マトモに吸いこんだら、昏倒しそのまま肺腑を腐らせ死に至るほどの病毒が充満するそのフロアで、防護の結界を展開するクロエもその圧に押され始めている。


「見せてみろ、あんたがこの地で得た「新しい力」って奴をな!!
遍く喰らい尽くせ、“鬼喰女郎(おにぐいいらつめ)”ッ!!」



爆発的に吹き荒れる瘴気の台風の中心、その姿は、上半身のみ元の姿を、腰から下を巨大な黒い瘴気を纏う大蜘蛛という禍々しい姿へと変貌していく!

咆哮と共に、天井から螺旋状に紡がれた蜘蛛糸の巨槍がスコールのように降り注ぐのをベルトランが渾身の力で受け止め、間髪いれずにつぐみのアグネヤストラが爆炎を吹き、素早く可燃性の樹液を纏わせた矢をフラヴィオが、同時に放つ。
それを皮切りとして、あの時とは何もかもが異なる、戦いの火蓋が切って落とされた。








文「実際パーティ構成もさることながら、装備も当時とは段違いの性能なわけなんだけど」
静葉「何気にアラクネーの糸なんだけど、いまだに一回も引っかからずに糸玉を燃やすところまで行ったことないのよね。
  でも、何がどうなったのか、実は今回一回引っかかっただけで、捕まることなく糸玉を燃やして叩き落としてやったわ」
文「おやまあ。
 でも何気に、アラクネーが糸を吐いてから実際動き出してくるまで少しタイムラグがあるのよね。
 うまく糸の範囲の大外で、なおかつ逃げ場があれば十分に補足範囲外へ逃れることは可能なんじゃないの?」
静葉「あなた鬼の首取ったようにそう言うけど、実際どうすればいいって説明はできるの?」
文「うぐっ…それはまあそうなんだけど」
静葉「私も説明はできないんだけどさ。
  まあ兎に角、以前地味に触れてはいないんだけど、地面に落ちた状態のアラクネーはスキュレーと違って完全無防備じゃないから、正面は勿論横から当たっても先制攻撃にはならないわよ。
  あとこちらも地味に触れてなかったんだけど、アラクネーの行動も一部はパターンになってるわ」
文「えっそうだったの?
 毒の沼を初手と以降の3ターン置きに使ってくるのしか知らないんだけど」
静葉「最初のループが毒の沼→通常攻撃→シルクスプレット&ターン終了時に攻撃準備→ポイズンバイト→毒の沼、という感じね。
  HPが減ってくると通常攻撃がシルクスピットに、赤ゲージに突入する頃から尾針が混ざって三つの技でループするわね。
  っても、適正域で尾針を使われる頃になると毒の沼のスリップダメージが即死級になるから、結果的に尾針はほぼ見ることはないでしょうね。使われたらほぼ確定でhageると思ってたらいいと思うわ」
文「こいつの毒の沼のクロックが本当に頭おかしいレベルですものね。
 恐らくは、ずっと先のネタばらしって事になるんだけど…幼子の我の領域の廉価版っていう時点でヤバい匂いしかしないと」
静葉「確かに段階的にこの辺りのボスでクロックを刻んでくるのもどうかと思うけど、プラスで状態異常付与率上げられるとか頭おかしいなんてもんじゃないわよ。
  ただでさえアラクネーは比較的状態異常が激しいっていうのに」
文「その代わりポイズンバイトの準備動作の分、攻撃そのものは激しくはないのよね。
 バイトのダメージがかなりえぐいんだけど」
静葉「しつこいようだけど、裏返せばヤバい攻撃はポイズンバイト位のものね。
  パラディンがいるなら、バイトのターンにセンチネルガードの使用も検討していいと思うわ。今回使ってないけど」
文「使ってないんかい^^;」
静葉「もっと言うと、今回10ターンで決着ついたもの。
  エクステンドは解禁されてるけど、最初の変身は3ターン目でフォースリセットして、8ターン目の再変身で零距離ファイアウェイヴ、9ターン目術掌、10ターン目に炎メテオスマッシュで叩き殺してやったわ」
文「というか術掌メテオするんだったら、案外バジリスクも雷術掌からのメテオで瞬殺できるんじゃ」
静葉「何故か術掌は炎しかなかったのよ。
  確か透子が氷と雷作った筈なんだけどね。術掌スキルは伝説の炎術掌と加撃、拡散しかなかったわ。トレードに出したり始末したり、まして誰かに装備させてはいない筈なんだけど…ミステリーね」
文「それ単純に気づかないで始末したパターンのような気がするんだけどねえ…


静葉「というわけで今回はこの辺で、残りはいつもの茶番…というか」
文「アラクネーを先に持ってきてたって時点で解るだろうけど、一気にデミファフニールまで進むのよね。
 この先のプロットだってまだまだ長引きそうな感じだけど」
静葉「うんにゃ、その後一気にセルまで飛ばすわよ
文「はい?」
静葉「ストーリー的に磐座目指す理由ないからねえ。
  なのでデミファフニールの話を少し長めに、その中で一気にバーローまでの戦いにも触れる感じにして、ストーリー編は終わる予定ね。
  その後はまたアレね、こいしの野郎が今度はプリズムリバー姉妹を巻き込んで馬鹿やる予定よ」
文「ま た こ い し か(真顔
静葉「別に古明地+プリバでも良かったんだけど、さとりの胃壁と馬鹿鴉が野放しになってる地霊殿の寿命がマッハということなので、ここで大暴れするヤマメがこいしに振り回される予定だわ。
  まあ…ヤマメもあの性格だからね、胃に穴が開く役目はむしろルナサかもしれないけど(ゲス顔
文「…あんた実はルナサのこと嫌いでしょ?(しろめ」
静葉「そんなことないわよ?
  世界樹だけじゃなくて、色々なゲームで私とかの名前つけてはわざとhageて爆笑してるような性悪騒霊なのがちょおおおっとばかりムカつくだけよ。代わりに私達の仕事も目いっぱい押しつけてやってるけど(にっこり
  じゃあ、今回はここまで」
文「(この秋神意外と性格悪っ…下手に逆らったら何されるか解んないわ)」








「なんだ、張り合いのない。
…まあ、場馴れしてる奴もそんないないだろうと思ってちったあ手加減してやったつもりなんだが」

ヤマメは、さもつまらなそうに溜息を吐く。

その眼下には、満身創痍のアリアンナを、同じぐらい限界まで傷ついているフラヴィオが治療するのを、身じろぎ一つすることなく盾を構えてガードの体背を取るベルトラン…その少し離れた位置では、気力を振り絞って結界を維持するクロエを庇い、つぐみはなおかつけん制の銃口を向けている。
対するヤマメはろくに手傷を負っておらず、それどころか…最初に陣取っていた位置からほとんど動いてなどいなかった。

それ一つ一つが、堅牢な城門を軽く吹き飛ばす破城鎚の一打に比肩するほどの威力を有する蜘蛛糸の槍による猛攻と、常にその周囲に展開される糸の障壁による完璧な防御。そこに、常に眼下を俯瞰する地の利を得た現在のヤマメを打ち崩す手段を見いだせず、つぐみ達は防戦を強いられている。
そればかりではなく、今現在クロエが結界で防いでいるヤマメの瘴気は、その戦闘を増すごとに徐々に強くなり、結界を維持するクロエへの負荷を大きくしているため、これ以上の長期戦も困難な状況になっていた。
実質、四人で戦っているようなもので、その上でクロエが倒れたら皆瘴気にやられ一瞬のうちに壊滅するであろう。

つぐみはさほど炎の術を得意とするわけではなく、なおかつ、糸の槍による素早く激しい攻撃は安易な攻撃の溜めを許してはくれない。
打つ手なしとも言える絶望的な状況に、つぐみは歯がみする。

「一応な、この姿が最大解放では七割程度のパワーなんだ。
もうちょっと頑張ってくれないと、張り合いがないよな。
なあつぐみ…お前が得た「ファフニールの力」だったら、この私くらいは軽く蹴散らせるって言ってたんだよ、かごめの野郎は」
「…確かに、以前美結ちゃん相手に見せた姿の方が、まだヤバそうに見えたよ」

つぐみはそれでもなお、母親譲りともいえる毒を吐いて、挑発的な表情をつくる。
自分でも、これが最大限の強がりだというのは解っていた。

ヤマメはもうひとつ溜息をついて肩を竦める。

「このヤマメさんはいい奴だからな、もう一ついい事を教えといてやる。
あんときのが、大体三割ちょいだ。
…私も少し美結を舐め過ぎてたとは思ったよ、もう1センチ深く切り込まれたらガチで死んでたかもな」

つぐみは内心で戦慄する。


強大な力の封印を「魔装」という形で成している者は、彼女の知る者にも多くいる。
共に金竜を討った風見幽香もその一人である。
つぐみも一度だけ幽香の「解放状態」を見たことがあるが、それは、常に険しい表情でありながらも美人である普段の彼女の姿からはとても想像のできない、禍々しい姿をした魔樹の怪物であった。


「幽香もそうらしいんだがな…この解放された力が純化されればされるほど、私達はより元の姿に近くなるそうだ。
普通にダダ漏れさせとくと怪物の姿になるような力を、人間と変わらない姿に「押し込める」わけだ。
つまり、力を集中させればさせるほど、小さく強くなる
…今私の半分が蜘蛛の形してるってことは、そういうことだよ」

大きく手を広げる、蜘蛛糸の槍を放つ体制をとるヤマメ。

しかし、今回はそれだけではない。
彼女よりもはるかに巨大な白い魔糸の槍が、その周囲の瘴気も巻き込んで禍々しいオーラを放ち始める…!

「殺しはしねえよ。
ここに撒いた毒にやられれば意識は数日飛ぶかもわからんが…まあ、しばらくはベッドの上で寝ててもらおうかね。
つまり、こいつで止めだ

無慈悲に振り卸される腕の動きに連動し…隕石の如く巨大な質量を持った瘴気の槍が、墜ちた。


「そうかい。
そいつを止められたら、なんとかなりそうだなッ!!」



それまでフラヴィオ達の前にいた筈のベルトランの声と共に、黒い影が飛び込んでくる。
しかし…それは、見慣れた聖騎士の男の姿などではなかった。





それは、燐光に燃える髪と、漆黒の外皮の様な皮膚を持つ、異形の姿。
その異形の存在が、渾身の力で地を踏みしめ、瘴気の大槍を完全に受け止めている!


「ベ…ル…?」

憔悴しきった顔で、それでも驚愕に目を見開くクロエが、戦慄くようにその存在へ呟く。

「なんっ!?
ファフニールの騎士がもう一人いるだと!? そんな話、聞いてねえぞ!!」

驚いたのは当然、ヤマメもだった。
その一瞬が勝負の分水嶺となる。


♪BGM 「血戦 身命を賭して」♪


「はあああああああああああああああああああッ!!」

その一瞬のチャンスを逃さず、つぐみは内なるファフニールの力を解放し、爆発的に闘気を高める。
舌打ちするヤマメが別の手を打とうとした瞬間、放たれた無数の弓が、今の攻撃で手薄になった糸の護りを打ち破り、うちの一本が左肩を深く貫き…そして、発火する!

「…声よ…届けッ!!」

間髪いれず、解き放たれたアリアンナの気が、さらにその炎を強く燃え上がらせ、ヤマメの左半身を派手に炎へ包み込んだ。
ファイアオイル程度の発火補助であればさしてダメージにならぬものの、リンクオーダーにより威力を増したとなれば、さしもの彼女とて無視できるものではなかった。

「ぐあああああああッ!?
くそっ、これしきの炎で!」

苦悶の表情で炎を振りはらい、刺さった矢を圧し折り巨槍の第二射の体勢をつくろうとするヤマメであったが、眩く光る気を放つつぐみの姿が、その網膜に焼きつけられる。

「流派東方不敗が最終奥義!
石破!」


ああ、これは無理だわ。
そう言わんばかりに、ヤマメはふっと笑って観念したように目を閉じた。


「天驚けええええええええええええええええええええん!!


轟音が閃光と共に、そのフロアへ走る。






「まいったまいった。
想定外じゃあったけど、かごめのアホもなんかそれっぽいこと言ってたんだよな。
あいつのセリフじゃねえけど私も想像力が足りてないんかねえ」

先程の殺気はすっかり鳴りを潜め、何処からか取りだされた布団でスマキにされているヤマメがさも愉快そうに笑いながら、フラヴィオの一撃を受けた左肩にクロエの治療を受けていた前で、何処かげんなりしたような表情でフラヴィオが呟く。

「なあつぐみ、お前達の世界の住人ってこんな人ばっかりなのか?
普通、殺し合いまでした相手に、その直後からこんなフレンドリーに話しかけられても反応に困るんだけど」
「うーん…知り合いのかれこれ千年以上お互いを殺し合ってる不死身の人たちも、なんか話を聞くたび一緒にゲームで遊んでるとか言う話もあるからねえ…何とも言えないところかな」
「怖ぇよそれ!!><
…なんかつぐみがどっか、時たまズレた感じする理由がようやくわかった気がする」
「こいつは母親も母親で特別製だからねえ。
普通に話してるぶんにはマトモそうだが、こいつも相手が死なないと解れば平然とドタマに鉛玉ぶち込んでくるような物騒なところあるから、あんた達も気をつけたほうがいいよ」
「あなた達がそうでもしなきゃ止まってくんないからでしょうが!!
一方的に私だけが物騒だみたいな風評被害撒くなら本当に一発ぶち込むからね!!><」
「…いやつぐみ、お前自分でそれ肯定しようとしてどうするんだよ」

ジト目で呟くフラヴィオにケタケタと笑うヤマメ。

ほんのつい直前まで殺し合いをしてたとは思えないほどの能天気さに、クロエも溜息をつき…そして、ベルトランの方を振り向く。
彼はすでにものとの姿を取り戻していたが、僅かに視線をずらし、難しそうな顔で中空を眺めている。

アリアンナは、何かを決意した表情でその傍へ歩み寄る。

「話して…いただけますか、ベルトラン様。
私の見間違いでなければ…あなたの腕にも」
「そうだぜ、おっさん。
あの姿は、まるで」

ベルトランは、フラヴィオの問いを遮るようにして左腕のミトンガントレッドを外し、指し示す。
その二の腕から先は、人間のそれではない…黒く硬質な外皮に覆われた、手の甲に印を持つ異形…!




「ああ、皆まで言うな。
大したカラクリじゃねえ…この俺、ベルトラン=デュ=ジェルヴェースも「ファフニールの騎士」だからだよ。
…ただし、先代の…百年前の「印の娘」、姫将軍ヴィオレッタ=カレドニアに選ばれた…な」



その衝撃の告白に、その場の全員が凍りつく。


つぐみは思い出していた。
かごめや、「黒の護り手」から聞いた、百年前の儀式の事を。

百年前の儀式のときは、騎士となるべき者が「儀式」の途中でいなくなり、その身がわりに近い形で当時の「印の娘」が「黒の護り手」となり…その為にギンヌンガの機能は大きく失われてしまった。
ならば、その「騎士」は一体どこへ消えたのか…その答えが、今、明かされようとしていた。


「話さなきゃならないな。
百年前に何が起きたか…この俺の知る限りのことを。
今、嬢ちゃんに何故、ファフニールの力が必要とされているのか…ギンヌンガ本来の役割に必要な「騎士」が、何故二人も雁首そろえてここにいるのか…その答えになるかどうかはわからねえがな…」