「新人冒険者の面倒を見ろだあ?」

女店主の唐突な提案に、かごめも思わず鎚を振るう手を止めて素っ頓狂な声で聞き返す。
ネイピアは悪びれもせず、したり顔のまま鷹揚に頷く。

「おう、本来こういう話は酒場を通すのが筋じゃが…あの店主はどうも虫が好かんでな。
それに任せる相手を紹介しようものならなにしでかすかわからん。
其奴、何しろ世間知らずというのも憚られる有様でな、世間様にああいう煮ても焼いても食えぬ害虫が居ることも知らぬ。
できるなら信用のおける常連様に直接頼みたいと思ってのう」
「あーまあ、あのジジイはあたしも確かに気に食わんな。
例えばうちの娘達を用事聞きでやるにしても、正直あんま近づけたくないのは本音だが…にしても姐さんが損得勘定抜きにして新人サンの世話を焼こうなんて、いったいどういう風の吹き回しだ?」

鎚を振るう作業に戻りながら淡々と告げるかごめに、ネイピアはわずかに気分を害したように鼻を鳴らす。

「言ってくれるのう…まあ否定はせんよ、これも先行投資のようなものじゃ。
わらわが多少の私財を投じ、前途のある海都(じもと)の冒険者を世話したとなれば、海都のザイフリート王にも多少の恩も売れよう?
態度と図体ばかりがでかい愚妹に任せきりでは、海都の本店も心配じゃからのう」
「成程な」
「案ずるな、無論、お主等にもきちんとした報酬は用意しておる。
ついでに別個で依頼とその報酬も出す故、その娘の件と一緒に回収してきてもらえればなお良いのう」
「はっ、水心あれば魚心たあいうが、その割にゃ魚の運動量が多いこった。
まあ、あんたその辺の勘定については信用できるし、探索の片手間で構わなんならいいよ」
「『狐尾(おぬしら)の片手間』は、他の有象無象の本気とやらとは比肩にならん、何の問題があろう?
取引成立じゃな」

ヒッヒッヒッ、とすっかり聞き慣れた含み笑いのネイピアに、かごめも苦笑し溜息を吐くしかなかった。



~新・狐尾幻想樹海紀行X~
その11 盾職はじめました




~翌々日、クワシルの酒場~

かごめ「というわけでさあつぐみぃ、病み上がりのところ悪いけどそいつの面倒見んの替わってくんない?(しろめ
つぐみ「何よ藪から棒に。
   ったく…ようやくさっき耳が聞こえるようになったばかりだっていうのに」

菫子「なんなのかしらあの回復力、鼓膜からなにから耳の中しっちゃかめっちゃかにされたって言ってたの昨日の話よね?」
翠里「あー…あの親子なんだかんだいって吸血鬼ですしねえ。
  流石に全身爆発四散は無理だけど、多少の怪我なら半日もすればだいたい治るとか言ってましたし」
菫子「人間だったら普通に死ねる怪我だった気がするんだけどあれは…(真顔」

つぐみ「だいたいにして最近おかーさん、自分で安請け合いしてきた案件ホイホイと投げ出しすぎじゃない?
   そもそもこっち来るきっかけになったのだって、やろうと思えば自分でできるぐらいのヒマたっぷりあったよね?
   なんなの私? おかーさん専属の掃除係じゃないよ?」
かごめ「ううっとうとう我が子にも反抗期が(´ω`)」
諏訪子「いやおまえのやることなすこと行き当たりばったりの考え無しだから言われんだろが。
   まあなんだ、確かにそいつの用件も別の意味で厄介なんだが…こいつがな」

つぐみは諏訪子から差し出された一枚の羊皮紙に目を通し、その目を丸くする。

つぐみ「これって」
諏訪子「あのクソウサギのやってるこった、ぶっちゃけどんな罠が張られてるかわかったモンじゃないが…垂水ノ樹海の先、あいつらは既に霊堂があること…そもそも、各エリアを繋ぐ回廊である霊堂の存在を既に知ってやがったことは間違いないだろうな。
   それと恐らくだが、かごめ達を散々邪魔してきた「呪言師」のことを知ってもいるような口ぶりだ。
   コイツの真相を早急に確かめなきゃならなくなってきたんだよ」
一舞「でも諏訪子さん、これをてゐさんが書いたっていう根拠はなんかあるの?
  その「呪言師」ってヤツが、あたし達を騙すために書いて寄越したとすれば?」
魔理沙「だいたい、静葉のヤツどっからそれを持ってきたんだ?」
諏訪子「なに、簡単な話。
   静葉が直接、幽寂ノ孤島のとある場所…次のエリアとの境の場所でレティに会ったからさ。
   それに、コイツは様々な方法で二重三重に結界によるロックがかけられてたが、そんな七面倒なことをこれ見よがしに盛ってくるとかいうのはてゐがわりとよく使う手だ。例えば呪言なりで操られてたりしたとしたら、こんなにまであいつのクセだらけの結界術なんて張れるワケがねえ。
   あいつは現状レムリアの敵対勢力についてはいるが、そちらでもあくまでアドバイザーとして重要な情報は吐いてないんだろう。
   その「重要案件」について、現状判明している分でも私達に直接伝えたい…そう言ってきてやがる」
かごめ「というわけだ。
   どんな妨害が入るかもわからんし、表向き「狐尾」全体が活動してないのもウマくないし…あたしたちが面倒請け負っちまったヤツがまた酷いポンコツなんでなあ(しろめ
つぐみ「いやもう今いるメンバーにも十分厄介者いるんだけど(しろめ
鈴花「(ののヮ顔)」
かごめ「まあ兎に角だ、会見の場にはあたしとケロ様、それと静姉の三人で行く。
   万が一のことが起きたら、行動指針の決定は紫に一任してあるから、あいつの意見に従って動いて欲しい」

しばし顔を見合わせたつぐみたちは、承諾の意をかごめに向けて告げる。
その翌日、かごめ達は未明にマギニアを出立し…つぐみたちはかごめの受けた依頼を果たすべく、垂水ノ樹海へと向かった…。










「そうだったのデスか…。
アタシ、あまりにも要領悪いから呆れられてしまったかと思ったデス」

垂水の樹海、その入り口でつぐみたちが出会った少女は、多少イントネーションのおかしい、場違いなまでに明るいトーンの声で溜息を吐く。

つぐみ「カリスさん、でいいんだよね。
   私達もまだそんなに経験豊富じゃないし、同じぐらいの実力のほうがいろいろ解ることもあるっていうから。
   えっと…見た感じだとパラディン…いやなんかちょっと違うな、タルシスのフォートレスっぽくも見えるんだけど」
鈴花「えっなんかちがうのそれ?(´ω`)」
翠里「微妙に違うんすよ。
  パラディンは防御だけでなくサポート戦闘もこなせますが、フォートレスだともうちょっと防御や反撃重視のタイプになるんす。
  あとは海都で独自の進化を遂げたファランクスというカテゴリーもあるんすけど」
カリス「ハイ!
   アタシ元々、そのファランクスを目指していたんデス!
   だけど、アタシはどうしてもパラディンになりたい理由があるのデス…!
翠里「美結さんの受け売り知識だけど、古代ギリシア重装歩兵による基本戦術の名を冠してるだけあって、ファランクスは槍を使った攻撃も得意。
  攻防共に優れるというよりも、防御より攻撃に比重を置くタイプっすね。
  樹海を一人で探索するなら、わりとオールラウンダーのファランクスのほうが都合が良いかと思うんすけど」
つぐみ「兎に角、どれだけのことが出来るのか見てみないと私達にはなにも言えないよ。
   ネイピアさんがここに棲むカエルの頬袋を欲しがってるみたいだし、手頃っていえば手頃で丁度いい相手だからまずはカエルの魔物を探してみよっか」
カリス「あ、その、えーと…アタシの勝手で済みませんが、アタシはこの樹海にいるというオオヤマネコという強力な魔物と戦ってみたいデス!
   なんでも名うてのボウケンシャーから「先生」と呼ばれ恐れられる魔物と聞いたデス!」
菫子「ヤマネコ…?」
鈴花「ネコ科のフレンズさん?」
つぐみ「あーいや…それ多分アンナさんのトラウマのひとつだね(真顔
   おあつらえ向きにここもそいつ出てきそうな樹海だし、進めばそのうち嫌でも出会えると思うけど」
カリス「よろしくお願いするデス!!><ノシ」







森林ガエルが粘着してきた!!

カリス「むむっ早速目当ての魔物デスね!!
   やるデス! 負けないデスよ!!」

カリスはやる気を見せている…のだが、彼女は盾職にもかかわらず背中に盾を背負ったままだった…(汗
おいィ?なんで盾職がデフォルトで盾装備してないんですかねえ?

菫子「
∑( ̄□ ̄;)ちょっとおおおおおおおおおおおお!!
  あんた盾も手に持たずなにしてんのよおおおおおおおおおおお!!!」
カリス「∑( ̄□ ̄;)!!??
   しし、しまったデス!!これではスキルが全く使えないデス!!」
つぐみ「ああんもうカリスさんちょっと下がって防御してて!><
   翠里はシールドアーツ、私結界張るから!!><」


~少女戦闘中~


カリス「うう…うっかりしてたデス。
   昨日の方達にも散々言われたデスのに…」
つぐみ「いやまあ街の中なら良いけど、戦闘の瞬間にさっと構えられるようでなきゃ盾は常に持ってなきゃダメだよカリスさん(しろめ」
カリス「気をつけるデス…これでもう実際安心デス!」




カリスは背負っていた盾を装備した!

菫子「え、ちょっと、こんなんで大丈夫なのマジで?」
翠里「うっかりは誰にでもあるし多少は…ええまあ、鈴花さんたまにあたしの剣と自分の剣を間違えて宿飛び出していくことあるからそういうもんだと思えば(しろめ」
鈴花「フヒヒwwwwサーセンwwwwww」










♪BGM 「イブの時代っ!」♪

一舞「
おーっすみんな、イブだよ!
  前回あたしがやったときからちょっと間が空いたけど、今回からはわりと続きで一気にやるからしばらくはこのイブ様が解説してあげるからね!
  しっかりついてくるしっ!!」
美結「うわあ完全にノリが放送局だ^^;
  もうこのペースだと何時まで経ってもゲームそのものが進みませんからね、いくつかの迷宮はセットで一気に解説していく方針です。
  幸いにもというか、第四迷宮と次の第五迷宮はある程度ごちゃ混ぜにしてもストーリー上問題が無いということで」
一舞「今までのシリーズに比べると単純に倍だからねー。
  普通に上げて、クリアまでにレベル90台にまでなるっていうRPGもそうそう無いからねー」
美結「イブさんそれ結構メタ発言です^^;
  確かに…ポケモンでもだいたい初回のリーグ制覇の時はレベル60前後、ドラクエだとFC版3でゾーマと戦うぐらいだと45前後、FFだとシリーズにも拠りますけど概ね50後半から60、というあたりが普通ではないでしょうか(注:狐野郎の場合)」
一舞「レベル99が最高のレベルっていうゲームが大半だと思うしね。
  そもそも世界樹だって、5までは普通に99が最上限だったじゃん。
  クロスはレベルキャップ開放で130だよ、なんかちょっと中途半端な気がするけどさー」
美結「あまり聞こえのいい話ではないですが、
兎に角こういう無駄に長いことも、実はクロスの不満点として上がってる中では多数ネタなんですけどね。
  ちなみに現時点でも、ストーリーとしてはまだ序盤です。
  どんどん巻いていかないと本当に何時まで経っても終わりませんし」
一舞「ほんとそれな。
  後今更だけど、あたしとみゆ、って組み合わせも珍しいって言うか、初めてだよね?
  なーんとなく妙に余所余所しい感じっていうの?」
美結「初めてなのは確かにそうですが…そもそもイブさん達、私やつぐみちゃんからすれば先輩ですし
一舞「めうがあんな感じだからねー、どうもその辺違和感が」
美結「あの子はまあ…なんかちょっとその辺特別というか特殊というか^^;
  それはさておき、第四迷宮垂水ノ樹海ですが、SQ3の第一迷宮ですね。
  何気に大密林のマップは最下層以外基本的にSSQの大密林をベースにしているようですが、ここと碧照ノ樹海は構成している背景素材こそ原作を踏襲してるものの、マップは完全に別物というか、完全新規っぽい感じですね」
一舞「そうなの?」
美結「あくまで狐野郎の感覚で、ですのでその辺は。
  ただし登場する魔物はほぼ一緒、SQ3ではその理不尽な攻撃力で開幕から多くのボウケンシャーを恐怖のズンドコに叩き落としたオオヤマネコを筆頭に、全体盲目を撒けるようになって地味にパワーアップしたお化けドリアン、そしてSSQでもジャンピングサイモンという謎ミームを生み出した森林ガエルがまずはお出迎えです。
  ヤマネコは初回探索時、B1F中央で最初通せんぼしている衛兵のいるフロアより先の区画から登場しますね」
一舞「なんかさっきつぐみも言ってたよね、アンナさんのトラウマのひとつだって」
美結「一番最初にヤマネコに遭遇した際アンナさんが盛大に炎の星術を外した挙句、後列にいたにもかかわらずピンポイントかつ一撃で落とされもすりゃ当たり前ですけども。
  ちなみにB1Fから、3で最初のhage案件となったカバこと、FOE怒れる暴君も衛兵のいる先の区画から早くも登場します」
一舞「めうから聞いたんだけどさー、3の頃まではFOEも見た目が今みたいなモンスターそのものの姿じゃなくて、色のついたもやもやで表現されてたとか?」
美結「その姿から某クイズ番組の小道具に似てると言うことで、そのまま「モヤットボール」とも呼ばれてましたね。
  ついでに、今みたいに当該FOEのモンスターレベルとPTのレベル差でオーラが変化することはなく、当時はそのFOEの単純な強さの指標として赤FOE、橙FOEと呼び分けられてました。
  暴君は赤FOEで、当時は適正で挑めるのが第二階層攻略中程度、とされていましたね」
一舞「赤は橙に比べて兎に角強いってことだね。
  たまに、レベル差でオーラが青になっても異常に強いヤツいるけど、そう言うのって昔の基準でいえば赤FOEなんかな」
美結「そう思ってもらっていいと思いますよ。
  ちなみにカバですが、やってくることは基本的にSQ5のキリンです。ジャイアントモアの強化版と思ってもらっていいと思います。
  全体壊が脚依存で、脚封じで防げる上に脚封じにも弱いので、セスタスやガンナーがいるなら積極的に脚を狙うといいでしょう」
一舞「あれが単純に強くなって出てくるって時点でロクなもんじゃなくない?(しろめ」
美結「まあFOEですから(キリッ
  で、探索を終えて一度街に帰ると、ネイピアさんに呼び止められるので、その後にネイピア商会に行くと、アーモロードから来た新人冒険者の面倒を見てくれという頼み事を引き受けることになります。
  その冒険者が、先程登場したカリスさんですね」
一舞「あたしもここでは一応盾職だけど、カリスはなんだか見た目がパラディンっぽく見えないね」
美結「勿論ゲーム上ではパラディンですが、これも翠里が言ってるように外見的は3の盾職ファランクスをイメージしてる感じですね。
  基本はパラディンと一緒で三色ガードやディバイドガードも完備していますが、槍を使った攻撃スキルが多いのも特徴的で、特によく使われたのは、突雷複合スキルのブリッツリッター。
  鍛冶で火力強化した準最強槍ロンゴミアントを持たせて、バフデバフを限界まで絡めたサブファラゾディアックの特異点圧縮ブリッツリッターで、裏ボスに当たる「昏き海淵の禍神」に5ケタ程度のダメージをたたき出せるそうですよ」
一舞「世界樹で5ケタって、あんまりそこまでダメージ出せる作品ってイメージはないんだけど…って本職じゃないしっ!?∑( ̄□ ̄;)」
美結「余談も余談なのでとりまここは気にしないでください^^;
  で、このカリスさんなんですが、初っ端のやり取りからみていただければのように相当アレでして、初戦闘前で装備を確認すると盾を持っていないという有様です。
  戦闘後にはきちんと盾を装備するんですけど」
一舞「うっかりさんというか…たまに寝ぼけてスカートはき忘れて学校行こうとするまりかみたいだね
美結「この場合はモロに命に関わるんですけど…ってまりかさんやっぱりそうなんですか。
  何時だったか手ぶらで迷宮に乗り込もうとしやがりましたねあのひと(しろめ
一舞「あーその…それはなんか本当ごめん(しろめ」








鈴花「あれーなんだろこれ、ドラゴンフルーツかなー?」

森をゆくつぐみたちは、道中でごつごつとした果物を見つけた
黄色くごつごつとした、武器のような形状の果物へ興味を覚えた鈴花が不用意に駆け寄ると…その「果物」が殺気と共に動き出す!

鈴花「うっそーん!?∑( ̄□ ̄;)」
つぐみ「ああもうちょっと目を離した隙にこれだからこの野郎!!><」

それはお化けドリアンの卑怯なアンブッシュだ!
つぐみたちは一瞬により包囲され相手にフーリンカザンを奪われてしまう!!実際危険だ!!

菫子「ちょっと数多いけど、どうするつぐみ?」
つぐみ「初めて見る魔物だけど、植物っぽいから炎が通りそうだね。
   私が炎のアームズをかける、鈴花のナチュラルエッジメインで速攻倒すよ!
   カリスさんはガード系のスキルで前衛を守って!」
カリス「はは、ハイデス!!∑( ̄□ ̄;)
   えーとえーと…この場合は挑発? 渾身ディフェンス?」




カリスは構えた盾の裏で目を閉じて考え込んでしまった…
おいィ?こういう時に臨機応変に動けないナイトとかマジで大丈夫ですかねえ…?

菫子「
∑( ̄□ ̄;)うおおおおおおおおおおおおおおい!!?
鈴花「いや待ってこの有様にはさすがの私でもびっくりですよ…どーすんですかつぐみさーん?(しろめ」
つぐみ「あーいい、とりあえずカリスさん
なにもしなくても問題ないから(しめやかに吐血」






カリス「ううっ…いざ魔物と出会うとなにしていいのかわかんないデス。
   アタシひとりでいると何時の間にか魔物達がいなくなっててワケわかんないデス…><」
翠里「そそ、それは逆におっそろしく剛運なのでは(震え声」
鈴花「そんなのとりあえず殴ってやっつけちゃえばいいんじゃない?」
菫子「そんなトンチキ盾職どこぞの痛々しいししょーだけでたくさんよ(真顔
  ああ、なんかかごめさん達が半分サジ投げた気持ちがわかる気が」
つぐみ「……ううん、そんなことないな。
   カリスさん…ううん、多分そんなに私達と変わらない感じだし、カリス。
   しばらく私が横について一緒に構えてあげる」
カリス「えっ?」
つぐみ「あなたは多分ガードの基礎は出来てる。
   足りないのは多分経験だけだと思うよ。
   大丈夫、私を信じてみて」

他の少女とカリスは顔を見合わせる…。





あ!
やせいの
しんりんガエルが とびだしてきた!!



菫子「ここ本当にカエル多いわねえ」
翠里「つぐみさーん、あたし達特に変わったことしなくていいんすよね?」
つぐみ「うん。鈴花はドライブで、翠里は凍砕斬で一匹潰して、菫さんは脈動。
   でも一匹はそのまま通して
翠里「了解っ」

つぐみは不安そうにきょろきょろしているカリスの手をそっと取り、盾を構えさせる…

つぐみ「盾職は特に、戦闘の状況をよく見なきゃならないんだ。
   ただ、攻撃から身を守るだけが盾職のあり方じゃない。
   基本は…常に冷静に、戦闘の場全体を見ること!

カリスは初めて気がついた。
盾を大きく構えながらも、鬼気迫るような視線で目の前の戦闘を見据える…自身と然程年の変わらぬであろう少女の姿を。


「来るよ!!
私の動きだけ見てて!!」



強烈な冷気の爆風を割って、飛び出してきた大ガエルの魔物が、全身の重量を活かした体当たりで突っ込んでくる。
思わず身を竦めるカリスは、一瞬後に力強く前に引き摺られるようにして盾が動く感触と、一拍置いて凄まじい衝撃が盾から伝わってくるのを感じる。
彼女は一瞬目をつぶるが、予想したようにふたり諸共に地面に叩き付けられることはない…つぐみが半歩下がった脚がわずかに…否。

視線をつぐみと同じ方向へ戻すと、さらに遮二無二突っ込んでくるカエルが見える。
そのたびに凄まじい衝撃が全身を襲うが、共に掴んだ盾がわずかに左右に揺れている…違う、これは故意にそうしていることに、カリスは気づいた。


そして…つぐみがそれを感じ取ると同時、カリスもそれを感じ取って振り返る。

「つぐみ、後ろッ!!」

菫子が叫ぶより前に、ふたりは全く同じ動きで…背後の茂みから飛び出してきた新たな魔物、虎ほどの巨躯をもつ四足の魔物が、飛びかかってきている。
戦闘のどさくさをついて奇襲してきたオオヤマネコの不意打ちを、ふたりは同時に見切り、強烈な一撃を大盾で受け止める!




つぐみは、攻撃を受け止められ無防備になったヤマネコの背に剣を振りかぶって迫る翠里、鈴花へ炎の補助魔法を投げながら、傍らのカリスを見やる。
彼女は受け止めたヤマネコをしっかり見据え、次の一挙動に対応しようと視線を外さない。
その姿につぐみはわずかに目を細め…そして、剣を背に突き立てられたオオヤマネコがゆっくりと樹海の大地に沈む…。








美結「初回から三回目までは防御以外選択できないという、初っ端からポンコツぶりを発揮しまくったカリスさんですが、四度めの戦闘を行うとスキルも選択できるようになります。
  といってもですが、何気にヒールウォールを最初からマスターしてくれているので、全く置物にはならないんですよね。
  HPも高めなので自然と彼女に攻撃が集中することもあり、防御してるだけでも最低限仕事してくれるのは、盾職ならではと言ったところでしょうか」
一舞「オート回復って強いよね、やっぱり。
  これで先制挑発まで持っててくれれば、流石に強すぎるっていうのかなNPCとしては」
美結「実際今作、一緒に戦ってくれる唯一のNPCがカリスさんなんですよね。
  最初はレベル18ですが、最終的にはレベル23程度になっています。次回解説しますけど、ボス戦でも攻防共に頼りになる優秀なNPCですよ。
  で、そのカリスさんは3度目の戦闘後にパーティから離脱しますが、日を改めてから迷宮に来ると今度は「オオヤマネコを撃破する」「B2Fへの階段を見つける」という条件を満たすまで、第四迷宮内限定でパーティに加わってくれます。
  単純に人数が増える事もあって、カバともかなり戦いやすくなるので、彼女が居るうちにカバを狩ってしまうのもひとつの手ですね。
  カバの素材は第四迷宮最強銃と、氷耐性を持つ優秀な小手の素材になりますので」




一舞「でもこのカバ、見た目から結構タフそうだけど」
美結「カリスさん込みでですがつぐみちゃん達がレベル24で狩ってますね。
  ただ…実際翠里というか、ヒーローの残影シールドアーツが強すぎてカリスさんいらなかった説すら^^;」
一舞「あたしもぶっちゃけパラディンかヒーローかで迷ったんだけどねー。
  盾とか重鎧とか、重っ苦しいのあんま好きじゃないし…でもさ、過去のログを見ると盾職のみんなものすごく活躍してるんだよね。
  そーゆーのはとってもかっこいいな、って思ったんだよねー」
美結「話はずれますけど、圧巻はSQ4裏ボス戦のレティさんですね。
  ガードマスタリと扇の舞と敏捷ブーストの合わせ技で、40%以上の攻撃を回避・無効化するというとんでもないサバイバビリティを発揮して「狐尾最強の盾」の名を不動にしてのけましたしね」




美結「さて、今回はここまでですね。
  次回は後半の階層の解説と、一気に垂水のボス攻略に移ります」
一舞「結構ここまで話長引いちゃったしね。
  けどこれ、まとまるのかなこんなんで」
美結「本当はギルドカードイベントとか拾いたいネタもう少しあったんですけどね。
  一応、上のカットも使おうと思ってたけど結局キャラがよくわからないんで紹介だけに留めると申しますか^^;」
一舞「メタい!!><
  確かにこの子、関連するところほぼないもんねあたし達。
  グロリアの人たちがマギニアに来て、初めて知り合ったみたいな感じだっていうのをかろうじて知ってる程度だし」
美結「グロリアに限定すると、最初の周回だと概ねカスティルさんかエルミーナさんのどっちかしか出てこなくて、挙句どっちもかごめさんやてーさんあたりがそれなりに深く関わるというか…まだ話として取り上げやすかったんですけどもね。
  お互いそれと解らずその時やり過ごしてたら後で向こうが気づいた、というのもちょっと考えてたようですが、今回は活かしどころなかったということでひとつ^^;
  それでは、次回まで」

ふたり「ゆっくりしていってね!!!(*´ω`*)」










強力なカバの魔物が徘徊する水辺を抜け、一行は下層へ続く階段際へと辿り着いた。
道中、オオヤマネコに鞄を奪われた冒険者の鞄を取り戻したり、少々のハプニングはあったものの、道のりは順調そのものだった。

カリスはというと、つぐみのサポートを受けながら数回の戦闘を通じ、身のこなしも見違えるようになっていた。





「皆さん、アタシとそんなに変わらないぐらいなのに、戦い方すごいデス…!
それに比べたら、アタシなんて」

彼女は少しさみしそうな顔をする。

「えーそうね、最初はとんだポンコツだと思ってたわ正直」
「菫さん容赦ないっすね…まあ、確かにあんまりなことはあんまりでしたが」

少々憤然とした風に、歯に衣着せぬ物言いの菫子に翠里も苦笑を隠せず、カリスは「皆さん意地悪デス」と大袈裟に悲しがってみせる。
でも、とつぐみのほうへ視線を移す菫子に、つぐみも頷く。

「誰だっていきなりは、そんな思い通りには動けないよ。
それに、あなたは十分に素養があると思うよ、カリス。
…お母さんが私達にあなたと一緒に行くように仕向けたのも、私達の方が相性良かったからじゃないかな

きょとんとする聖騎士の少女の手を取り、つぐみが笑いかける。
ありがとうございます、と寂しそうに笑うカリスは、その思いの端を告げる。

「アタシ、絶対に強くなりたい理由があるんデス。
…まだ、全然相手にしてもらえないんデス…けどね」
「相手?
ははーん、あなたの好きな人とかね!? そうでしょ!?」

その表情から何かを察したらしい鈴花がすかさず食いついてくるのを、菫子が呆れたように引きはがす。
とうのカリスは図星なのか、慌ててそれを否定するように「今日は本当にありがとうございました!」と早口に告げて駆け去って行った…。

鈴花を窘めつつ、一行はその姿を見送りながらも、その日は探索を切り上げるべくその場を後にする。







「お前達が狐尾…か?」

街へ戻ったつぐみ達は、雑踏の中で一人の青年に呼び止められる。
背丈はつぐみと然程変わらぬ位…この中で一番背の高い翠里よりも目線ひとつ下程度の小柄ではあったが、その視線は何処か有無を言わさぬ迫力を感じる。

「え、ええ。
あなたは…」
「話に聞くのとは随分違うな…まあいい。
お前達が有名な狐尾であるなら、聞きたいことがある。
冒険者が己の未熟さも弁えずに未知なる樹海の奥へと進み、命を落とす…それは、自業自得だと思うか?

何処か鬼気迫るような青年の問いに、息を呑むものが二人。


翠里も、菫子も、青年の言うところの「未熟なるが故の蛮勇」に任せ、命を失いかけたことがあった。
翠里は文が、そして菫子は翠里がいなければ、その時点で樹海の露と消えていた運命すら有り得ただろう。
青年の問いかけ、その意味するところも解らず首をひねるばかりの鈴花は論外としても、二人にはそれを是とするのが自然な流れであっただろう。

だが、二人はそう答えるべきではない何かを、感じ取っていた。
その理由は…同じように鬼気迫るような空気を纏う、つぐみの姿。


「そうとも言えるし、そうだとばかりとも言えません。
不条理極まる樹海を行く以上は、どれほどの熟練を積もうが、瓦解するのも一瞬…でも運に恵まれれば、経験が浅くても生き残ることはできる。
『本当の』冒険者であれば、その『理不尽』を何よりも知り尽くしている



その場の空気が凍り付くかのようだった。

ただの小娘風情、と、彼女らを侮る冒険者もかつてはいたにいた。
そのような者達をも一瞬で黙らせて来たのは、単純に彼女の母親がいかに恐ろしい存在であるかということが遍く知られることもあったろうが…それはあくまで正解の半分でしかないのではないのだろうか、と、翠里と菫子は思った。

当然、青年もそれに気圧される格好であったことは間違いないだろう。
しかしながら彼は、己の言葉に何らかの拠所たるものがあるのだろう、舌打ちをして吐き捨てる。

「…話にならないな。
何を言われているのかもわからないとは」
「言ってみろ、小僧。
回り諄い言い方しやがって、大の男ならはっきりと用件を言え」

この場全員の魂を鷲づかみにするような、鋭く殺気の籠もった声。
最早幾度聞いたか解らぬその声と、実の娘である自分には向けられたことはなくとも、もっとも慣れ親しんだ殺気。

つぐみが、その主である己の母親のほうへ振り返るより前に、青年はひとつ悪態をついて雑踏へと消えてゆく。

「ふん、喧嘩の売り方からまず学びなおして一昨日来いってんだ」
「まったくもー。
で…こうやってのこのこ帰ってきたっていうことは、てーさんとの話し合い、巧くいったの?」

呆れたような娘の言葉に、何時の間にかその殺気は鳴りを潜め、戯けたような仕草で親指で首を掻くかごめは、難しい表情のまま腕組みする。

「つぐみ。
ウサギ鍋とウサギのステーキ、食うならどっちにする?」
「ええ」

あからさまに嫌そうな表情をするつぐみへ、冗談だよ、とかごめはその肩に手を置いて告げる。

「とりあえずはご苦労さん、垂水の件はあたし達であとは引き受けるよ。
紫も、例の件はなから理解したとか言ってたし、つぐみは、明夜達とチームを組んで真南の霊堂へ向かって欲しい。
あとの三人は紫の指示に従って」
「どういうことなの?」
「あたしにもまだよくはわからんが、かなり厄介なことになってるみたいだ。
あたし達とてーさん達、両方の立ち回りをしくじれば…下手すれば、この世界樹世界全体を巻き込むだろう破滅を引き起こしかねん。
それを防ぐために今は一つでも多く、霊堂の磁軸を起動させなくちゃならない」

四人は顔を見合わせた。